刑務所発ブランドに注目!

実刑判決を受けた刑事被告人が、
刑務所で従事するのが「刑務作業」です。

刑務作業では、家具、革靴をはじめ様々な
製品が作られています。

しかし、昨今の不景気やグローバル化等
により、刑務所発の製品である

「刑務作業品」

の売れ行きが低迷。

こうした状況を打破すべく、
人気キャラクターを採用したり、
ブランディングに取り組む刑務所が
登場しています。

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長野刑務所に収監されている堀江貴文氏も、
彼のメルマガを読むと、刑務作業にがんばって
いることがわかります。

刑務作業では、さまざまな製品づくりに携わって
いますが、例えば「手さげ紙袋」を作っているようです。

刑務作業に対する報酬は、熟練度によって
上がっていきますが、非常に安いものです。

刑務作業を始めたばかりの2011年7月の
ホリエモンの作業報酬は618円でした。

(同年9月は901円に増額してます!)

刑務作業は、職業訓練を通じ、
出所後の社会復帰の可能性を高めることが
目的ですので報酬が少ないのは仕方ないところです。


さて、このように人件費が極めて低いことから、
刑務所発の製品は、国内メーカーのブランド品よりも
半分程度の価格で販売可能。

デザイン的にはいまひとつで、
どうしてもネガティブなイメージがつきまとうものの、
品質、安全面では大手メーカーの製品と遜色ないため
一定の人気があったようです。

ところが、刑務作業の主要な発注先である、
民間の中小企業が長引く不況により倒産したり、
刑務所よりも人件費の安い東南アジアに発注を移す
などしたことから、刑務作業が激減。

このままでは、受刑者に技術を習得させる機会が
なくなってしまうと、新たな取り組みを始めた刑務所が
現れているようです。

日経ビジネス(2012.12.10)の記事によれば、
栃木県・黒羽刑務所では、

「ハローキティ」のダルマ

の製作に乗り出しています。

黒羽刑務所では、元々「黒羽だるま」を
製作していたそうですが、サンリオのライセンス
許可を得て

「はろうきてぃだるま」

の製作に着手。なかなかの人気のようです。

こちらに写真が掲載されていますが、
とてもかわいいですね。

http://gotochikitty.com/goods/promotion/kurobanedaruma/index.html

黒羽刑務所では、人気キャラクターを
採用することで製品の魅力を高めることに
成功したというわけです。


一方、オリジナルブランドを開発して、
爆発的な売上を記録しているのが、
函館少年刑務所の

「マル獄シリーズ」

です。

チョイ不良(ワル)風」の布製品。
刑務作業品としては初めて

「登録商標」

を行なっています。

「マル獄シリーズ」が購入できる
ネットショップがありました!

http://www.e-capic.com/SHOP/44106/44225/list.html

マル獄シリーズは毎年ラインアップを拡大、
現在は55品目に上っています。

さて、「マル獄シリーズ」成功のヒミツは、
刑務作業を担当する刑務官が、
従来の刑務作業品の概念を打ち砕いたことに
あったようです。

それは、刑務作業品のネガティブなイメージを
逆手にとったこと。

また、民間のデザイナーのアドバイスを受け、
時代のニーズを取り込んでいること。

若年層を意識することで、ネットでのクチコミも
生んでいること、などです。


前述したように、従来、刑務所は、
近辺の中小企業から仕事をもらっていたのです。
要するに、「下請け」の仕事をやっていた。

しかし、函館少年刑務所では、
仕事をもらうのではなく、自らオリジナルな
製品を開発し、

「マル獄シリーズ」

というブランドを育てることに取り組んだことで
新たな活路を見出したわけです。


今、多くの企業が製品の差別化に苦労し、
売上確保に汲々としていますが、刑務作業品に
おいてもブランド化が可能であるという事実は、
おおいに参考にすべきではないでしょうか。


*上記内容は、

 日経ビジネス(2012.12.10)

 の記事を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 11:16 | コメント (0) | トラックバック

眞露(ジンロ)のブランド拡張

昨日は、富士フイルムの技術力をテコとした、
ヘルスケアカテゴリーへのブランド拡張を
取り上げました。

富士フイルムの場合は、
ブランド拡張という側面だけでなく、
多分野における新規事業立ち上げという
側面もありますが。


さて、今日は、別の興味深いブランド拡張事例です。

昨年(2010年)急に市場に出回るようになり、
注目を浴びたお酒が、韓国のお酒「マッコリ」ですね。

見た目はカルピスみたいな感じ。

甘くて、軽い酸味のあるマッコリは、
ヨーグルトドリンクのようでとても飲みやすい。

従来は店頭でほとんどみかけることがなく、
韓国料理店でしか飲めませんでしたよね。

今は手軽に買えるようになりましたので、
私も時々楽しんでいます。


日経ビジネス(2011.1.3)の記事によれば、
マッコリの市場規模はこれまで73万ケース
(1ケース=8.4リットル)だったそうです。

ところが、2009年12月に眞露ジャパンが、
新規に参入したことから、一気に市場規模は
2倍に膨らむ見込みです。

眞露(以下、「ジンロ」)と言えば、
韓国のお酒メーカーで「焼酎」が思い浮かびますね。

今回、マッコリ市場に「新規参入」したと聞いて逆に、

「ジンロではマッコリを取り扱ってなかったの?」

と驚いた人も多いんじゃないでしょうか?

実際、ジンロは本国韓国でも、
マッコリを製造・販売したことはなかったのです。

その理由は、韓国では、多くの中小メーカーが
マッコリを作っており、競合を避けていたからとのこと。


ところが、日本で「マッコリ」についての
消費者のイメージ調査をやってみたら、
なぜだか、「ジンロ」の名前が挙がった
のだそうです。

一般消費者は、それほど韓国のお酒や、
メーカーについて詳しい知識がありません。

ですから、[ジンロ→韓国→マッコリ]といった
イメージ連鎖から、ジンロとマッコリの擬似的な
結びつきが形成されていたのでしょう。

ジンロ社としては、このイメージを活かして、
これまで製造、販売したことのないマッコリを
日本で展開することにしたというわけです。

日本のマッコリ市場がまだ小さく、
有力なライバルが存在しないということも
考慮されたんでしょうね。


ジンロ社はお酒メーカーですから、
同じお酒のマッコリへのブランド拡張は、
同一カテゴリーの中での横展開です。

ですから、元来、成功しやすい取り組みでは
あるのですが、消費者が持っていた

「架空のブランドイメージ」

をうまく活用したという点が、
大変興味深いというか、珍しい事例だと
思います。

なお、マッコリは、韓国では男性労働者のお酒という
イメージが強いのだそうです。

しかし、日本におけるマッコリのイメージは、
管区のお酒ということ以外、ほぼ白紙。

そこでジンロでは、乳酸菌が入っていて健康的なイメージ、
口当たりもよく、カロリーも低い、アルコール度数も
6%程度という特徴が、女性に向いていることから、
女性ターゲットのコミュニケーションを展開しています。

このコミュニケーション戦略も、
マッコリ市場急拡大のポイントだったと言えそうです。


ジンロWebサイト
http://www.jinro.co.jp/index.html

投稿者 松尾 順 : 10:02 | コメント (0) | トラックバック

富士フイルムのブランド拡張

既存の企業、あるいは製品・サービスの持つブランド力を
「テコ」として活用し、同一カテゴリーのバリエーションを
増やしたり、隣接カテゴリー、あるいはほとんど関係のない
カテゴリーに進出する。


上記の企業活動は、いわゆる「ブランド拡張」と呼ばれます。

ブランド拡張の難度は当然ながら、
ほとんど関係のない分野に進出する場合に高くなりますね。

既存のブランドの強みが、進出先のカテゴリーでは
活かせなかったり、あるいは、既存のブランドの持つ
イメージが新カテゴリーのあるべき特徴とは違和感を
感じるリスクがあるからです。


過去の事例では、例えば1980年代に、
ハーレー・ダビッドソンが「タバコ」や「ワインクーラー」
などのカテゴリーにハーレーブランドの製品を展開しましたが、
あっけない失敗に終わっています。

タバコは、ハーレーのイメージと多少重なるところが
あるように思いますが、ワインクーラーになると、
かなり違和感を感じますよね。


さて、日本における近年のブランド拡張例として
興味深いのは、富士フイルムの化粧品「アスタリフト」や
サプリメントの「メタバリア」「オキシバリア」など、
「ヘルスケア」カテゴリーへの展開です。

これらの製品は、製品独自のブランド名だけでなく、
企業ブランドである「富士フイルム」も同時に強調した
コミュニケーションを展開していますね。


富士フイルムは、その社名通り、
「カメラ」や「フイルム」カテゴリーのトップブランドと
してのイメージが定着しています。

したがって、「富士フイルム」という企業ブランドを
「ヘルスケア」カテゴリーにおいて前面に出すのは、
ブランディングの定石からは外れています。


しかし、同社では「富士フイルムだからできること」
というWebサイトのページでも説明されているように、
同社の写真研究の歴史の中で培われた、コラーゲンや
活性酸素をコントロールする

「ナノテクノロジー技術」

が同社の強みだと伝えることで、
ヘルスケア製品の効果や信頼性・安全性に
「お墨付き」を与えることを狙ったようです。

広告展開もなかなか巧みだと思いますが、
直接肌に触れる化粧品や、体内に入れるサプリメント
だからこそ、「信頼できる」「安全できる」と
消費者に感じてもらう必要がある、そのためには
「富士フイルム」という企業ブランドを強調することが
得策と判断されたのでしょう。

結果として、この戦略は成功を収めつつあるようです。
(同社のブランドイメージ調査などの結果を見ていないので
 一消費者としての実感に過ぎませんが)


これはちょっと後付け的解釈ですが、
デジカメの急速な浸透により、一般の消費者における、
カメラやフイルムカテゴリー自体の存在感が急速に
薄れつつあります。

そして、こうしたカテゴリーの存在感の低下に伴い、
富士フイルムのブランドイメージもある種、希薄化
しつつあった。


だからこそ、カメラやフイルムとはほとんど関連のない
「ヘルスケア」カテゴリーでも、同社は、以前ほどの
違和感を与えることなく、スムーズに新たなブランド
イメージを再形成できているのかもしれません。

とはいえ、社名に‘フイルム’が入っているのは
やはりちょっとひっかかるものがあります。

「富士フイルム」という社名が、現在塗り替えられ
つつある新たなブランドイメージに合致したものに
変更される日も近いかもしれません。

投稿者 松尾 順 : 12:04 | コメント (0) | トラックバック

シャープの環境広告

昨年末、アサツー・ディケイの
シニア・クリエイティブディレクター、安井仁志氏
の講演を聴く機会がありました。

安井氏は、シャープ、ロッテ、ゆうちょ銀行などを
担当されていますが、お話の中で特に印象に残ったのが、
シャープの「環境広告」でした。


シャープが「環境広告」を開始したのは2003年。
「環境先進企業になりたい」が目的でした。

企業のイメージについての2003年当時の調査結果では、
「環境先進企業」のイメージを持つのは、トヨタが
ダントツの一番。

ハイブリッドカーの「プリウス」のおかげです。

次いで2位はホンダ、3位はイオングループといった
順位だったそうですが、家電業界の企業は10位にも
入っていない状況でした。

2003年はまだまだ「エコ」は特別なもので、
ようやくゴミの分別収集が始まったくらい。

よほど意識の高い人でないと関心をあまり持たないし、
生活の中で実践する人も多くはなかったのです。


そんな時期にいち早く「環境先進企業」という
企業イメージを確立しようと考えたシャープは、
さすがに「目のつけどころがシャープ」であったわけです。

さて、シャープでは、モノを売るための広告ではないので、
3年-4年かけてじっくりとそんなブランドイメージを
形成していくという基本姿勢を持っていました。

ですから、広告を担当した安井氏も、
イメージ(トーン&マナー)の一貫性を維持するため、
監督やナレーター(吉岡秀穂)は変えない、また
各種広告にはタレントではなく、猫のミーヤと
犬のジョージを起用し続けました。

「ネコです」

というイントロで始まるシャープのコマーシャル、
覚えてますか?


結局、この環境広告は4年間にわたって継続されたのですが、
4年後にどうなったかというと、「環境先進企業」という
イメージを持つ企業として、シャープは、トヨタ、ホンダ、
イオンに続く、第4位にエントリーするに至ったそうです。

家電業界だけで見ると、ダントツの1位になりました。


近年、広告も「売りにつながらなきゃしょうがない」
みたいな風潮が強くなってますけど、シャープのように、
ブランドイメージ向上のために「投資」的発想で広告に
取り組んでいる企業があることを忘れてはいけないですね。
(トヨタ、ホンダ初め、他の多くの大手企業もそうですよ)

投稿者 松尾 順 : 09:16 | コメント (0) | トラックバック

年越しそば vs 年明けうどん

大晦日に、「年越しそば」は食べましたか?

手作りであれ、カップめんであれ、
食べた人多いんじゃないでしょうか?


私が生まれ育った福岡・筑後地方には、
どういうわけだかラーメン屋とうどん屋しかありません。
(とういうのはウソですが実感として)

そばを食べるのは年1回、大晦日の夜だけでした。

実家で作っていたのは丼に入った温かいそばです。

ですので、18歳で上京して初めて、
「ざるそば」というものがあることを知りました。
(というのもウソですが実感として)

実際、上京するまで「そば屋」というものに
入った記憶がないのです。


では、「年明けうどん」は食べましたか?

聴いたことはあっても、
実際に食べる人はまだそれほど多くでしょう。

でも、年明けうどんは、
少しずつ定着しつつあるようです。


年明けうどんは、
「さぬきうどん新興協議会」が2008年に、

「新年に太くて長いうどんを食べて長寿を祈る」

と提唱したもの。

白いうどんに、梅干し、エビなどの赤い具材を乗せて、
紅白に彩ることでめでたさを演出します。


新聞記事や「年明けうどん」Webサイトの報道資料を
見ると、「年明けうどん」の商標登録使用申請は、
2010年11月25日時点で45都道府県、491業者。

前年度より200業者ほど増加したそうです。

また、スーパーやコンビニでもお正月セールの目玉と
して売るところが増えていますね。

おかげで消費者の認知も高まってきたというわけ。


それにしても、2008年からわずか3年でここまで
認知が高まったケースは珍しいほうでしょう。

ただ、これは単に「運が良かった」わけではないと
思います。「年明けうどん」のWebサイトを見ると
わかりますが、関係者の方が熱心に、また地道に
「年明けうどん」の浸透のための各種施策を続けて
きたことがわかります。


うどんはおいしいですよね。
でも、ただおいしいだけでは駄目なのです。

そのおいしさをさまざまな工夫をして演出し、
人々に効果的に伝えていくことが必要。

「富士宮やきそば」をB級グルメの頂点にまで
育て上げた、富士宮やきそば会長、渡辺英彦氏が
取り組んだこともまさに同じ。

「富士宮やきそば」のおいしさを人々に知らしめるために、
積極的にPRし、とりわけマスコミを巻き込むことに
努力したからこそ今の成功がある。

「年明けうどん」も、ひょっとして優れた
ブランドコンサルタントがフォローしているんでしょうか、
マスコミ対策がバツグンにうまい。

大晦日は「年越しそば」、年明けは「年明けうどん」、
が日本家庭の当たり前の風景になるのも、
そう遠くないかもしれません。

あ、年明けうどんは1月15日までに食べる決まり
だそうなので、まだ間に合いますよ。

私自身は筋金入りのうどんLOVERで、
そもそも週2-3回くらい食べてますので
あんまり関係ないですけど。


★年明けうどんWebサイト
http://www.toshiakeudon.jp/

★富士宮やきそば学会
http://www.umya-yakisoba.com/

投稿者 松尾 順 : 07:46 | コメント (0) | トラックバック

ハローキティ vs ミッキーマウス

世界で最も人気の高いキャラクターといえば、
昔から「ミッキーマウス」で決まりですよね。

ただ、ひょっとしたら現時点では、
ハローキティはミッキーマウスと互角の人気
にまで達しているかもしれません。

日本でもライセンス契約の下、
さまざまな商品がキティブランドとして
発売されていますが、世界中の様々な企業も、
次々とキティちゃんを採用しているのです。

調べてみたら、日本の化粧品メーカーも
いろいろとキティ化粧品を出してるんですが、
フランス最大の化粧品メーカー、セフォラでも、
キティちゃんの新化粧品ラインアップを近々、
発売予定です。

画像見つけました。


かわいいですね。

そういえば、日本語の「かわいい」の語感を
適切に表現できる英語がないため、外国人も、
「Kawaii」とそのまま使っています。

かわいさの度合いという意味の
「Kawaiiness」なんて名詞形もあるくらい。


さて、セフォラの担当者によれば、
キティちゃんは、「幅広い年代」に人気がある点を
評価しています。

ちゃんと調べてないので仮説になっちゃいますが、
ミッキーは基本子ども向けであり、大人になれば
卒業するキャラクターです。
(もちろん例外ありますが)

一方、ハローキティは何歳になっても、
愛し続ける人が多いようです。


昨日、このテーマについて、
ブランドコンサルタントの小出正三さんと
ツイッターで話したところ、小出さんによれば、

・ミッキーは、絶対にカタチを崩さないブランド

・キティは、何にでもあわせるブランド

であり、また、

・ミッキーを買うには、
 ミッキーの世界を受け入れなければならない

・キティは、「私世界」にキティを組み込める
ということだそうです。


なるほど。

だから、ミッキーの場合、成長するにつれ、
ミッキーの世界に居づらくなるけれど、
キティの場合は、自分の成長に伴って変化する
自分の世界に合うようにキティを自由にアレンジ
できるから卒業することがない。

キティが幅広い年代に受ける理由は
どうやらこの点にありそうです。


海外での稼ぎ頭として、
キティちゃんには世界でますます活躍して
欲しいですね。

*小出正三さんの会社:Brand Logistics Co.Ltd.
http://www.brand-ing.jp/

投稿者 松尾 順 : 10:15 | コメント (2) | トラックバック

ブランド本100選(No.4):ほんもの

今日ご紹介するのは以下の本。

『ほんもの』
(J.H.ギルモア、B.J.パイン著、林正翻訳、東洋経済新報社)


近々、紹介したいと思っている良書、

『marketing 3.0』(Philip Kotler他著、未翻訳)

では、消費者はますます企業を信頼しなくなっており、
一方で、オンラインネットワークで相互につながりあい、
情報を簡単に共有できるようになった他の消費者を
ますます信頼するようになってきていると主張しています。

この背景には、顧客第一主義を唱えながらも、
現実には、売上・利益拡大を重視しすぎたために、
たいして特徴のない製品、低品質の製品をオオゲサに
吹聴し、いわば騙すようにして売る企業が多かったこと
があります。


ですから、『ほんもの』では、
次のように直截な言葉が冒頭に出てくるのでしょう。

「消費者は、企業が提供するものについて、
 ますますほんものであるかどうかを重視するようになった。
 正直な人からほんものを買うことを望んでおり、
 いかさま師からにせものを買うことが望んでいない」


さて、本書の狙いは、

「消費者が持つほんもの、あるいはにせものの感覚を、
 企業がいかにうまくマネジメントできるか」

という点を説明することにあります。


では、消費者が製品やサービスを

「ほんもの」

とみなす場合のキーワードは何だかわかりますか?

それらは、

一貫性、正直、誠実、透明性、信頼

といったものです。


実は、こうしたキーワードは、

「優れたブランドづくり」

においても必須のキーワードです。

『ほんもの』をブランド関連本のひとつとして
紹介する理由がここにあります。

もっと言えば、本書は、
これからのブランディングにおいて、
最も重要なコンセプトを提示していると、
私は考えています。


本書では「消費者の感性の変遷」、
具体的には、どのような基準でモノを買うのかに
ついての変化を以下の4段階で説明しています。

1.入手可能性→確実な供給にもとづく購入

2.コスト→手ごろな価格で入手できることにもとづく購入

3.品質→製品の卓越した性能にもとづく購入

4.ほんもの→自分像に合致することにもとづく購入

この4段階をざっくり言うと、
最初はとにかく手に入りさえすれば、
どんな製品でも良かった。

そのうち、多種多様な製品があふれ、
競争が激しくなってくると、
より安いものが選ばれるようになった。

さらに成熟してくると、
安かろう悪かろうではなく、
優れた品質を持つ製品が選ばれることが
増えてくる。

最後の段階では、価格、品質ではなく、
自分の理想とする生き方、価値観に
ぴったりの製品であるかどうかが、
購買意思決定における重要な判断基準
になってきたというわけです。


一方、企業は、消費者に対してどんな経済価値
(通貨で交換される価値の意味)を提供してきたか、
また、これからどんな経済価値を提供すべきか
については、以下の5段階で説明されています。

1.コモディティ

2.製 品

3.サービス

4.経 験

5.変 革

この5段階の経済価値の進展において、
着目すべきはもちろん、5番目の「変革」です。

これは、消費者の「私を変えて」という願いに
応えるということです。


本書ではあまり触れられていませんが、
私が思うに、「変革」という経済価値を現在、
最も多く提供できているのは「アップル」だと
言えるでしょう。


iPhone発表時のプレゼンで、
スティーブ・ジョブスが述べていましたが、
古くは、Macintoshがパーソナルコンピュータ
の世界を大きく変えました。

近年は、iPodが人々の音楽ライフを変革。

iPhoneは、携帯電話の有り様を変えてしまい、
今また、iPadが消費者の生活に新たな革命を
もたらしつつあります。


変革をもたらすことができる企業こそが
これからの時代で繁栄するのだと本書の著者は
強調していますが、まさにアップルはそれに
該当する企業ですね。


本書ではさらに、スターバックス、
ディズニーなどの具体事例を出しながら、
どのようにして「ほんもの」を作っていくか
の手順を詳細に解説しています。


約400ページのボリュームがあり、
内容もそれなりに高度であるため、
じっくりと腰を据えてお読みください。

マーケター(および経営トップ)の
必読書中の必読書であることは間違いありません。


『ほんもの』
(J.H.ギルモア、B.J.パイン著、林正翻訳、東洋経済新報社)

投稿者 松尾 順 : 06:57 | コメント (0) | トラックバック

ブランド本100選(No.3):顧客が部族化する時代のブランディング

今日ご紹介するのは以下の本。

『顧客が部族化する時代のブランディング』
(原田保、片岡裕司著、芙蓉書房出版)

個人的な見解ですが、近年、

「ブランドとはコミュニティである」

という考え方が、
主流になりつつあるように思われます。


これは、端的に言えば、
製品やサービスを支えてくれている

「顧客の集合体」=「顧客コミュニティ」

との関係づくりこそが、

「ブランド構築(ブランディング)」

であるというものです。


mixi、gree、facebookといったSNSや、
ツイッターなどでお互いにつながりあい、
様々な情報を共有しあうことが簡単に
なったおかげで、消費者たちが、

ブランドイメージやブランド評価の形成

に大きな力を持つようになってきた今日、
ブランドづくりの主役は「消費者」に移っています。


従来のように、企業側が

マーコム(マーケティングコミュニケーション)

を通じて狙い通りのブランドづくりを
行うのは不可能です。

したがって、顧客コミュニティとの
良好な関係づくりに注力するしかない、
のだとも言えるでしょうね。


本書もまた、

「ブランドとはコミュニティである」

という考え方を基軸にして、
社会学において研究されてきた

「都市部族(トライブ)」

という概念、枠組みを元に、

ブランドコミュニティづくり

の4つのパターンを読み解く内容と
なっています。


なお、

「都市部族」

とは、

都市のサブカルチャーにおける小集団

を意味します。

すなわち、特定の趣味やライフスタイルに
基づいて、小さな集団、共同性を形成している
人々のことです。

例えば、mixiやgreeの中で数多く作られ、
運営されている

「コミュ」(コミュニティ)

もこの都市部族(ネット上の)と言えるでしょう。


さて、本書では

「部族性(部族的な特徴を示すもの)」

の形成に影響を与える要素を
以下の3つに絞っています。

・舞台装置
・演出
・行為


すなわち、

どのような舞台で、
どのような行為を
どんな演出で行うか

という切り口で、
ブランドコミュニティのパターンを
説明しているのです。

具体的には、
上記3つ要素の関係性のあり方から

・公共参画型
・都市没入型
・感覚共鳴型
・経験共同型

4つのパターンを提示しています。


それぞれのパターンがどのようなものか
についての理論的な説明はかなり複雑であるため、
本書を読んでいただくとして、
各パターンに該当するブランドには
どんなものがあるのか、以下に示しておきます。

------------------------

・公共参画型

-ザ・ボディショップ
-パタゴニア

・都市没入型

-ハーレー・ダビットソン・ジャパン
-アップル

・感覚共鳴型

-IKEA
-オバマ政権

・経験共同型

-アマゾン
-金沢21世紀美術館

-------------------------

それぞれのパターンに分類されたブランドを
みるだけで、おおよそパターンがどんな部族性
を持つかがおおよそ推測できるかと思います。


前述したように、
部族性の説明はやや複雑であり、
理解するのが大変ではあるのですが、
ユニークな視点でブランドを読み解いた
本書も、ぜひ一読をオススメします。


『顧客が部族化する時代のブランディング』
(原田保、片岡裕司著、芙蓉書房出版)

投稿者 松尾 順 : 07:53 | コメント (0) | トラックバック

ブランド本100選(No.2):日本ブランドが世界を巡る

今日ご紹介するのは以下の本↓

『日本ブランドが世界を巡る』
(渡部千春著、日経BP社)

定期購読している月刊専門誌

『日経デザイン』

の連載の中で、
私が一番楽しみにしているのが、

「日本ブランドが世界を巡る」

です。


これは、主にスーパーなどで買える、

日本メーカーの日用品や食料品のパッケージ(外装)

について、国内で買える商品と、海外各国で買える商品の
デザインの「共通点」「相違点」を比較しているもの。


この連載は、私たちにもなじみのある
各種商品のデザイン画像が掲載されていて、
視覚的にとても楽しいです。

それに加えて、海外進出先における

「社会的・文化的環境」

に配慮した、
日本メーカーのグローバルな

「ブランド・デザイン戦略」

を知ることができる、
有益な情報を提供してくれていいます。


さて、この連載と同じ書名を冠した

『日本ブランドが世界を巡る』

は、過去21回分の連載を単行本に
まとめたものです。


同書で紹介されているブランド名を
いくつか示しましょう。

[食品編]

・日清食品:出前一丁
・エスビー食品:チューブ入りわさび
・サントリー:伊右衛門
・カルビー・かっぱえびせん
・大正製薬:リポビタンシリーズ

[日用品]

・花王:アタック
・久光製薬:サロンパス
・小林製薬:使い捨てカイロ
・大日本除虫菊:金鳥の蚊取り線香

チューブ入りわさびや、サロンパス、
使い捨てカイロは、海外でも人気あるんだ!
とちょっと驚きますよね。


それで、日本と海外での同一商品パッケージの

「共通点」

についてですが、商品名が日本語(漢字など)で
表記されている場合、特に東南アジアでは、


「日本語表記」

をそのまま残すケースが多いことがわかります。

これは、中国、香港、台湾などでは、
漢字の意味がわかるからというものありますが、
たとえ読めない国でも、

日本語→日本→高品質&クール(かっこいい)

といった好意的なブランド連想に、
つながるからなんですね。


相違点については、例えば、日本ではOKだけど、
進出先ではネガティブなイメージにつながる色を
使っていた場合、プラスイメージの色にデザインを
変えるといったことが行われます。


また「相違点」が際立っているケースとしては
金鳥の「蚊取り線香」が大変興味深いです。

日本で買える商品のデザインは、
「菊」と「金鳥」があしらってある、
伝統を感じさせる、落ち着いたデザインです。
(蚊は登場してません)

一方、タイで販売されている商品は、
どぎつい赤の下地に、例のコイル状の蚊取り線香
(緑色ですね)が大きく描かれ、さらに線香の煙で
落ちてきた数匹の蚊がリアルに配されているのです。

赤地に緑の蚊取り線香という「補色」を
活かしたデザインは、実に毒々しい感じです。


なぜ、これほどに派手でかつリアルなんでしょうか?

それは、まだまだ衛生状態がそれほど良くないタイでは、
蚊は、デング熱やマラリアを媒介するにっくき敵だから。

ですから、金鳥の蚊取り線香は効き目抜群ということを
訴求するためには、派手でリアルであったほうがいいのです。


同書ではこうした現地の社会・文化的背景なども
踏まえてわかりやすい解説があります。

ブランディングに興味のある方は、
ぜひ手にとってみてください。


『日本ブランドが世界を巡る』
(渡部千春著、日経BP社)

投稿者 松尾 順 : 17:07 | コメント (0) | トラックバック

ブランド本100選(No.1):エコブランディング

今日ご紹介するのは以下の本。

『エコブランディング』(中野博著、東洋経済新報社)

2010年7月1日発行の新刊です。


端的に言えば、

「エコブランド」

とはビジネスを通じて、
様々な地球環境問題の解決に取り組むことで、
人々の信頼を築き上げているブランドです。


いわゆる「エコビジネス」に対する日本の意識は、
欧米に比較するとまだまだ低いようですが、
エコビジネスを牽引する

「環境・エネルギー革命」

は、「IT革命」を凌ぐインパクトを持っています。


なぜなら、IT革命の恩恵を直接受ける人は、
先進国・新興国の一部にまだまだ限定されています。

しかし、地球環境問題は、
世界のあらゆる人々に関わりのある事項です。


ですから、著者の中野氏は、

“エコビジネスとは、この地球上に住む全員が
 お客様であるということです”

と述べています。

それだけ、ビジネスとしても
魅力的であるということですね。

ただし、単なる「金儲けの機会」と
考えるべきではありません。

「環境マーケティング」

という言葉があります。これは、

エコビジネスにおけるマーケティング

のことです。


環境マーケティングの基本視点は、

「生活者の満足やニーズを満たしつつ、
 企業のビジネスを成立させ、なおかつ
 環境保全をも実現する」

という高度なものであり、

「買い手よし、売り手よし、社会よし」

という近江商人の「三方よし」の精神とも
言えると中野氏は指摘しています。


環境マーケティングは、
これからの企業が顧客に受け入れられ、
社会の一員として存続していくために、
不可欠な取り組みなのです。


そして、エコブランディングとは、

「エコ」(=地球環境問題の解決)

を軸とする経営戦略を練り、

持続的なブランド力
築き上げることです。


本書では、エコブランディングを
創業当初から実践しているアウトドア用品
&アパレルメーカーの

「パタゴニア」

をはじめとする、様々な企業・製品の成功事例
の紹介と共に、エコブランド作りの現状分析、
およびブランド作りの実践方法が具体的に解説
されています。


「エコ」をメインテーマとするブランド本と
しては実質初めての本です。一読の価値があります。

投稿者 松尾 順 : 12:25 | コメント (0) | トラックバック

コカ・コーラのブランドマーケティング(3) 3日間の調査でヒットを確信した「爽健美茶」

私は80年代後半、市場調査会社で、
様々な消費財の小売店での販売動向を
調べる仕事をしていました。


調査対象には、

「清涼飲料市場」

も含まれていましたが、当時は、
炭酸の入っていない飲料、すなわち

「非炭酸飲料」

が急激に拡大し始めていた時期でした。


「缶コーヒー」もそのひとつですが、
低カロリーで健康的な

「茶系飲料」

の人気も高まっていました。


とりわけ、現在もトップブランドを
維持するサントリーを始め、伊藤園など
の飲料メーカーが注力した

「ウーロン茶」

が爆発的に伸びていたのです。

この勢いは90年代以降、
現在に至るまで続いていますね。


さて、ウーロン茶市場において、
当時の日本コカ・コーラ社は大きく
出遅れていました。


強力な自販機販売力のおかげで、
同社の

「茶流彩彩・烏龍茶」

もそれなりに売れていました。

しかし、ブランド力では、
サントリーと大きな差がついていたのです。
(今でも同じですけど)


フルラインメーカーとしては、
ウーロン茶でも強力なブランドを
確立したいところ。

しかし、既に当時

「ウーロン茶と言えば、サントリー」

と言われるほどのブランド力を保持していた
サントリーとガチンコ勝負をするのは得策ではないと、
94年に日本コカ・コーラに入社した魚谷雅彦氏は
考えたのです。


そんな時、魚谷氏は、
福岡で試験的に販売していた、
ブレンド系のお茶がいい動きを
しているという情報を入手します。


なんの宣伝もしないで、
ただ自販機に入れていただけなのに、

「茶流彩彩・烏龍茶」

と同じ水準で売れていたこのお茶こそ、

「爽健美茶」

だったのです。


商品名に

「美」

を入れたのは、登録商標の問題による、
偶然の産物だったそうですが、
当時としては、斬新なネーミングでした。

またパッケージもお茶らしくないデザイン
がほどこされていたのです。


しかし、そもそもなぜ売れているのか、
東京本社では詳しい購買動向がわかりません。


そこで、魚谷氏は、
若手社員2名を3日間、福岡に出張を命じ、
次のような現地調査を命じます。

“自動販売機の横に立ち、「爽健美茶」を
 買ったお客様に 次の2つの質問をしなさい。

 
 1.なぜ買うのか
 2.どのくらいの頻度で買っているのか”


彼ら2人は、出張先の福岡で、
自動販売機の横に立つだけでなく、
グループインタビューも実施して
帰ってきました。


調査結果によれば、

・購買者のほとんどが女性
・1日3回飲む女性、これしか飲まないと
 宣言した女性もいた
・購入理由は「キレイになれそうだから」

といったことが判明。

ネーミングとパッケージだけで、
若い女性の心に刺さる力を持っている、
大きな可能性を秘めた新商品であることが
確信できたのです。


調査結果を見た魚谷氏は、

爽健美茶の全国展開

を決断します。


当初、全国展開の提案は、
ボトラー各社の幹部会議では
反対されたそうです。

「福岡で売れているからといって、
 全国で売れるとは限らない、それより
 ウーロン茶をなんとかしてほしい」

というのが、販売の前線にいる
ボトラー社の願いだったのです。


しかし、魚谷氏はあきらめませんでした。

爽健美茶を軸に、
茶系市場でのシェア拡大を図る
マーケティングプランを練り、
消費者だけでなく、ボトラー社の
共感も得られるような広告づくりに
取り組んだのです。


そして、最終的に、
消費者やボトラー社の心を動かすこと
のできる

「EXtrinsic Value」(感性、情緒的価値)

として固まったコンセプトは、

「女性の美の究極であるミロのビーナス」

です。

これは、

「男性がうれしいことは何だ?」

という問いを行ったジョージアと同様、

「女性が最もうれしいことは何か?」

という究極の問いに対する答えでした。


あなたは、
爽健美茶の最初のコマーシャルを
覚えていますか?


健康的な美しさがあふれる
裸身の女性(こずえさん)が、

「はと麦、玄米、月見草、爽健美茶」

とアカペラで唄うやつです。

この広告は、ボトラー社はもちろん、
ターゲットの若い女性の心を捉え、
爽健美茶は発売当初から、
爆発的な売上げを記録したヒット商品と
なりました。


面白いのは、当初コンビニでは、

「こんな漢方薬みたいなお茶は売れない」

と言われて、
店頭での販売を断られたことです。

ウーロン茶がガンガン売れているのに、
よくわからない新商品を置くスペースはない
ということだったようです。


しかし、CMオンエアー後、
自販機では飛ぶように売れていきます。

そして、お客さんから、
コンビニにはなぜ置いてないのかという
問合せが増えたため、全国発売2カ月後に、
コンビニ側から同商品納入の依頼が来たの
だそうです。


さて、女性ターゲットで始まった
爽健美茶ですが、現在、利用者の半分は
男性だそうです。

男性も、健康的であること、
また外見の美しさに気を配る人が
増えたからでしょうね。


実際、現在の商品のバリエーション、
およびコマーシャルも、男性向け、女性向け
それぞれのバージョンが展開されていますよね。


『こころを動かすマーケティング
 コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられる』
(魚谷雅彦著、ダイヤモンド社)

*関連記事『広告の役割再考「広告リレーション理論」』

投稿者 松尾 順 : 14:26 | コメント (0) | トラックバック

コカ・コーラのブランドマーケティング(2)90'sのジョージア復活

日本で消費される缶コーヒーは年間100億本。
金額ベースでは8,000億円に達します。


清涼飲料メーカーの間では、

“缶コーヒー市場を制するものが、清涼飲料市場を制する”

と言われるほど重要なカテゴリーです。


このため、

コカ・コーラ(ジョージア)
サントリー(BOSS)
キリン(FIRE)
アサヒ飲料(WONDA)

といったトップメーカーの新製品開発や、
広告・販促施策における競争は熾烈なものが
ありますよね。


さて、現日本コカ・コーラ会長の魚谷雅彦氏が
1994年に同社に入社した時、まず早急な建て直しを
求められたのが、

「ジョージア」

でした。


ジョージアは当時、
矢沢永吉さんをコマーシャルに起用した

サントリー「BOSS」

の人気に押されて、
じりじりと売上げを落としていたのです。


当時のジョージアの市場シェアは43%。
トップブランドの地位は保っていました。

また、ジョージアの

「認知率(助成認知率)」

は90%以上。

実質、日本人なら誰でも知っている
ブランドと言えますね。


ところが、

「缶コーヒーと言えば、どのブランド?」

という質問で確認する

「非助成認知率」

では、一位がBOSS、
ジョージアは二位だったのです。

当時のBOSSのシェアは
10%以下だったにも関わらず、
ブランド力では、BOSSに負けていた
というわけです。


当時、消費者の購買行動が
変わり始めていました。

缶飲料は、従来ほとんど自販機で
買われていました。

現在でも自販機の約半数はコカ・コーラが
展開していますが、自販機を通じた強力な
販売力が同社の強みの一つです。

ジョージアがトップブランドになれたのも、
同社製品しか買えない自販機のおかげ。


しかし、コンビニが普及したため、
缶飲料が自販機ではなく店舗で買われる
機会が増えてきたのです。

様々なブランドが並ぶコンビニの場合、
ブランド力が強いほうが勝ちます。

要するに、コンビニなどの小売店では、
ジョージアではなく、BOSSを選ぶ人が
増加した。

結果的に、ジョージアの全体的な売上げの低下に
つながっていたのが90年代中ごろの状況でした。


では、なぜブランド力が、
低下していたのでしょうか?

魚谷氏とジョージアのチームが
その原因を検討した結果、

広告に問題あり

という結論になったそうです。


当時、ジョージアの広告は、
アトランタ本社が主導していました。

アメリカでは、「ジョージア」は、
ブルーカラー(肉体労働者)の飲み物と
認識されていました。

このため、当時の広告では、

マッチョな体つきの港湾労働者が
汗だくになって働いた後にジョージアを
おいしそうに飲む

といったストーリーが展開されていたのです。
(ジョージアは日本発の飲料ですが、
やはり本国の意向に大きく左右されるんですね)


もちろん、日本でも、
ガテン系の労働者の缶コーヒーの消費量は
多いのは確かです。

しかし、たとえ工場などで働いていたとしても、
多くの日本人は、ブルーカラーとかホワイトカラーと
いった区別はほとんどしませんし、むしろ皆、
企業に勤める「サラリーマン」という意識が強い。

アメリカ的ブルーカラーに向けたマッチョな広告では、
日本のサラリーマンの共感をあまり得られなかった
のも当然かもしれません。


そこで、魚谷氏とジョージアチームは、
新しい広告施策のコンセプト作りに着手します。


1994年は、バブル崩壊後で企業のリストラも
本格化し始めた頃。サラリーマンは厳しい
現実に直面していました。

このような状況では、

「頑張れ、サラリーマン」

と鼓舞するのは空虚であり、むしろ、

「ちょっと一息ついて休みましょう」

というメッセージを発信するのが、
時代の空気に合っていると考えられました。


実際、缶コーヒーの利用実態調査でも、

「リラックスするために飲む」

という項目が、
缶コーヒーを飲用する目的の
第1位になっていました。


ただし、当初は、男性向けの商品だから、
男性目線で展開するクリエイティブを予定した
ところ、予期せぬトラブルによって練り直しを
余儀なくされた中から出てきたのが、

「女性が、男性に優しく“お疲れさま”と語りかける」

という切り口だったのです。

この語りかける女性役として、
20代、30代、40代のそれぞれの年代に
受ける女性タレントが3人選ばれましたが、
20代向けとして選ばれたのが、
当時はまだそれほど知名度のなかった

飯島直子さん

だったというわけです。


2004年、

「ジョージア 男のやすらぎキャンペーン」

と題して始まったキャンペーンは
大きな反響を呼び、特に飯島直子さんの
ポスターはすぐに剥がされてなくなってしまう
ほどの人気を集めます。

そして、翌年から始まった、
缶に張られたシールを集めて応募すれば、
パーカーなどがもらえるプレゼントキャンペーン
には、

初年度3,400万通
翌年は4,400万通

という驚異的な応募数を記録したのです。


以前書きましたが、
ちょうどこの最盛期のジョージアキャンペーン
の某プロジェクトに関わっていたので、
当事者に近い立場で、現場の熱気を感じることが
できたのはとてもいい経験だったなと思います。


さて、このキャンペーンの成功のおかげで、
ジョージアのシェアは3年後に53%と、
10%の伸長を果たします。

非助成想起率でも、BOSSを抜いて
1位に返り咲くことができたのです。


時代の空気を的確に読み、
ターゲットの心に刺さる、また共感させること
のできる広告・販促施策がどれほどの効果が
あるのか、このジョージアの90年代の復活劇は
とても参考になると思います。

なお、ジョージアはその後、
再び低迷期を迎えますが、
2000年から始まった

「明日があるさキャンペーン」

で再び勢いを取り戻したのは、
皆さんの記憶にも新しいでしょう。


実は、現在のジョージアの市場シェアは
30%強に落ち込んでおり、またまた厳しい
状況にあります。


90年代よりも現在は、
さらにコンビニの存在感が増していますし、
冒頭に述べたように、サントリー以外の
飲料メーカーもかなり力をつけてきて、

WONDA「金の微糖」

といったユニークな商品開発や、
広告展開に成功しているからでしょう。


ジョージアの3たびの復活はあるのか?

缶コーヒー市場を巡るトップメーカーの攻防は、
目が離せない感じですね。

『こころを動かすマーケティング
 コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられる』
(魚谷雅彦著、ダイヤモンド社)

*関連記事『広告の役割再考「広告リレーション理論」』

投稿者 松尾 順 : 15:09 | コメント (2) | トラックバック

コカ・コーラのブランドマーケティング(1)共感を得る広告

「コカ・コーラ」

という商品名を知らないという日本人は、
赤ん坊を除いてはまずいないですよね。

世界規模でみても、
コカ・コーラの「認知率」は実質100%でしょう。


それにも関わらず、
毎年莫大なコストをかけて広告を展開しています。

なぜなんでしょうか?


もちろん、この理由を端的に言えば、
商品はただ知られている(認知)だけで
売れるわけではないから・・・ですね。

商品の特徴を理解してもらい、
好ましいイメージを形成し、好意を高め、
購買意欲を刺激し続ける努力を続けないと、
すぐに飽きられ、競合商品にシェアを
奪われてしまうからです。


ただし、コカ・コーラについては、
名前だけでなく、どんな色や味をしているのか、
などについて誰でもよく知ってます。

つまり、商品の特徴も
十分に理解されているロングセラー。


ですから単に

「こんな製品ですから、もっと買って!」

という「理解」や「説得」を目的とする

「プロモーション広告」
(「広告リレーション理論」に基づけば)

は、もはやあまり機能しません。


むしろ、時代のトレンドや
その時々の消費者の気分を的確に読み取り、

「共感」

を得られる広告、すなわち

「コミュニケーション広告」

を展開することが有効です。


実際、コカ・コーラでは、
上記のような

「コミュニケーション広告」

を主体としたマーケティング活動が
行われてきています。

そして、コカ・コーラの
マーケティングの基軸となる考え方が、

『こころを動かすマーケティング
 コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられる』
(魚谷雅彦著、ダイヤモンド社)

で解説されています。


魚谷氏によれば、
ブランドの価値は次の2つに分けられます。

----------------------------

(1)intrinsic value

基本的な価値。
機能やスペックの価値のこと

(2)extrinsic value

1に付帯的に加わる価値。
エモーション、情緒や感性の価値

----------------------------

そして、魚谷氏は、

マーケティングにはこの両方が必要

だと考えています。

理屈だけではなかなか共感は生まれない。

「心に届くコミュニケーションをしなければ!」

という意識がきわめて強いのが、
コカ・コーラなのだそうです。


コカ・コーラは、

「intrinsic value」(基本的価値)

については100年以上変わっていません。

しかし、

「extrinsic value」(付帯的情緒的価値)

は時代に合わせて大きく変えてきたのです。


魚谷氏は次のように書いています。

“ココア・コーラは、その時代時代に応じて
 メッセージを変え、常に共感を獲得してきました。”

“自分自身の気持ちと呼応し、自分自身に訴えかけてくれる、
 自分をサポートしてくれていると思えるような関連性を、
 数年おきに、時代のあり方に合わせて変えてきたのです。”


ロングセラーを生み出す秘訣、
それは、商品自体を変えることではなく、
ターゲットに届ける

「メッセージ」

を時代に合わせて変えていくことなんですね。


*関連記事
『広告の役割再考「広告リレーション理論」』


『こころを動かすマーケティング
 コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられる』
(魚谷雅彦著、ダイヤモンド社)

投稿者 松尾 順 : 09:39 | コメント (0) | トラックバック

コカ・コーラのブランドマーケティング(0)

今年読んだマーケティング本のうち、
一番面白く、かつたくさんの学びが得られたもの、
それは、

『こころを動かすマーケティング
 コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられる』

(魚谷雅彦著、ダイヤモンド社)

です。


著者の魚谷氏については、
ご存知の方も多いと思いますが、
ライオン、クラフトジャパンを経て
日本コカ・コーラ(株)に入社。

当時はまだそれほどの人気ではなかった
タレントの飯島直子を起用して、
社会現象となるほどの人気を集めた
ジョージアの

「男のやすらぎキャンペーン」

などを主導したのが魚谷氏です。

2001年には、日本人としては26年振りとなる
同社代表取締役社長に就任しています。
(現在は、同社会長)


さて、冒頭の本では、
魚谷氏がコカ・コーラで手がけた、
様々なマーケティングコミュニケーション
の現場の様子が生々しく描かれています。

しかも、単なるケーススタディではなく、
コカ・コーラのマーケティングの基軸と
なっているブランドの考え方や基本方針に
ついても詳しく説明されています。

ですから、マーケティングの教科書と
しても大変役に立ちますよ。


実は、私は広告会社時代、
ジョージアのキャンペーンに関わった
時期があります。

本書を読んで、コカ・コーラ社内部で当時、
担当の方々がどのような考えでキャンペーンを
発想・企画し、業務を遂行していったのかを
知ることができ、感慨深いものがありました。


とういうわけで、しばらくは
この本の内容から興味を引いた話を
拾いながら記事を書いていきたいと思います。


本日は前フリということで・・・!


『こころを動かすマーケティング
 コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられる』
(魚谷雅彦著、ダイヤモンド社)

投稿者 松尾 順 : 12:59 | コメント (0) | トラックバック

「ロイヤル顧客(ファン顧客)」を増やす2つのポイント

CRM(Customer Relationship Management)とは、
端的には、


「非顧客(潜在顧客)」

から

「ロイヤル顧客」

へと変換していくプロセス(獲得⇒育成⇒維持)を
適切にコントロールすることだと言えます。


さて、CRMの直接かつ最大の目的は、

「ロイヤル顧客」

をいかに増やすかです。
(究極の目的はもちろん「収益確保」ですね)


この「ロイヤル顧客」とは、
継続的に繰り返し商品を購入してくれる

「優良顧客」

であるというだけでなく、

自社商品(あるいは店舗等)に対して、

「これじゃなきゃいやだ」

と強い思い入れを持ってくれ、また

「いい製品・サービスをありがとう」

と感謝の気持ちさえ持ってくれている
ようなお客さんのこと。

したがって、「ロイヤル顧客」とは、
好意的なブランドイメージを持っている
優良顧客であるという定義が可能でしょう。


こうしたお客さんは、
原材料の高騰等によるやむをえない値上げや、
トラブルや不祥事発生時にも、誠意を尽くして
説明・対応すれば、喜んで受け入れてくれ、
簡単に離れていくことはありません。

しかも、しばしば口コミで良質なお客さんを増やす、
優秀な営業パーソンの役割まで果たしてくれます。


ですから、CRMの直接かつ最大の目的が、
こうした「ロイヤル顧客」をいかに増やすか
ということになるというわけです。


では、実際どうやって
ロイヤル顧客を増やしたらいいのでしょうか?


「丸の内ブランドフォーラム」代表の片平秀貴氏
によれば、次の2つのポイントがあります。

1.驚き
2.アイコンタクト


以下それぞれについて詳述します。

------------------------

1.驚き

定番は押えつつも、ちょっとした

「驚き」

を継続的に提供することが
ロイヤル顧客増加に効果があります。


「驚き」は、他社がやっていないような
仕掛けや新しいことを行うことで生み出します。


例えば、ペプシコーラが時々発売する

「変な味のペプシ」
(「しそ味」や「あずき味」など)

は、始めから「キワモノ」で
終わることを前提で開発しています。


ですから、変り種コーラは、

「ペプシがまた新しいことを仕掛けてきたな!」

という

「驚き」

の創出だけが目的であり、

「短期的な収益」

にはマイナスながら、
長期的にはロイヤル顧客の増加に一役買っている
ブランディング施策として位置づけられるでしょう。


また、繁盛している飲食店では、
しばしば適切な減価率を無視した

「驚きのメニュー」

を提供して、
ロイヤル顧客を増やすことに
成功していることが多いですね。


例えば、札幌市の居酒屋「はちきょう」では、
自家製のイクラのしょうゆ漬けを丼から
あふれそうなくらい山盛りにした

「つっこ飯」

が大人気だそうです。


このメニューを客が注文すると、

「『つっこ飯』まいります!」

とスタッフが大声で宣言。

客の目の前で、
イクラを丼にどんどん盛っていく。

盛られるイクラの量は300グラム。
原価率は60%を超えるようです。

山盛りイクラの迫力に客は驚き、
周囲のお客さんも次々と注文して
しまうとのこと。


-----------------------------

2.アイコンタクト


アイコンタクトの核となるのは、

「おもてなしの心」

です。


まず大事なのは、
お客さんを「個」として認識すること。

常連さんなら、
ちゃんと名前で呼びかける。

「松尾さん、いつもありがとうございます!」

たったこれだけの言葉が、
客にとってどんなにうれしいか!
(逆だとガッカリ)


不思議なことに、常連でなくても

「いつもありがとうございます」

と言われると、

(いつもじゃないけど・・・)

と内心思いつつも、なぜか心地よいのです。


そして、もちろん実際の会話においては、
目線をきちんと合わせて、お客さんの話を
聴くことを大切にする。

これは当たり前のことのようですが、
現実には、決まり文句をロボットのように
繰り返すだけのスタッフ、目線を合わせず、
客の言葉をなにげに聞き流す無礼千万な
スタッフがあちこちのお店にいますよね。


この「アイコンタクト」の考え方は、
リアルな顧客接点においてのみの話では
ありません。

顔が見えない、電話でのやりとりを行う
コールセンターや、非同期のコミュニケーション
であるWebサイトやダイレクトメール(eメール)
においても重要です。

Webサイトやメールを通じても、
この企業には、おもてなしの心が感じられ、
個客(の違い)を識別しており、
カスタマイズされた適切なやりとりができる
という感覚をお客さんに与える必要があるのです。

--------------------------

片平氏によれば、

「驚き」と「アイコンタクト」

によって、

「ちょっとうれしい」

という感情がお客さんに湧きあがる。

その結果、当該製品・サービスに対する
好意的なブランドイメージが形成されます。

そして、この好意的な
ブランドイメージを持つことにより、

「優良顧客」

「ロイヤル顧客」

へと進化するというわけです。


なお、片平氏は、
「ロイヤル顧客」と同じ意味で

「ファン顧客」

という表現を用いています。


ブランドの視点を加味するなら、

「ファン顧客」

という表現のほうが、
わかりやすいかもしれませんね。


*片平氏の話は以下の基調講演を元にしています。

 SPSS DIRECTIONS Japan 209

『巨大顧客データベースと絆づくり:顧客の心を読み、
 ブランドの心を伝える』

 丸の内ブランドフォーラム代表 片平秀貴氏


*札幌市の居酒屋「はちきょう」の事例は、
 日経MJの記事(2009/10/23)が出所です。

投稿者 松尾 順 : 15:27 | コメント (0) | トラックバック

パーソナルブランドの価値構造


今回は、「@IT自分戦略研究所」に連載している

『エンジニアも知っておきたいキャリア理論入門』

の最新記事である第14回

「選ばれるエンジニアになるためのブランド力を養う」

のポイントをご紹介します。
(エンジニア対象の記事ではありますが、
 すべてのビジネスパーソンにとって大事な内容ですよ)


当記事で取り上げた理論は、
マーケティングにおける「ブランド論」の視点から、
「キャリアづくり」を説いたもの。

博報堂出身、現在は独立され、
マーケティング、人材育成関連サービスを
展開されている山本直人氏の持論です。


さて、山本氏が定義する「ブランド論」とは、

「他者からどのように認知されるべきか」

を考えることです。

ここで、「認知される」というのは、

・どの程度、名前が広く知られているか、
・どの程度、どんな特徴があるか理解されているか
・どんなイメージが連想されるか
・どの程度、好意を持って受け入れられているか

といったことを含みます。

ですから、ブランド論は、
商品や企業、地域などだけでなく、

「人」

に対しても適用可能なのです。


そして、
ブランドを作り上げていく、
すなわち、

「ブランド化のプロセス」

をコントロールすることを

「ブランドマネジメント」

と呼びます。


ここで「ブランド化」とは、
自社(自分)にとって望ましい

「ブランド認知」

を形成することと言えるでしょう。


このブランド化に当たって
ぜひとも押えておきたい切り口が、

「ブランドの価値構造」
(ブランドが利用者などに提供する価値の構成)

です。

山本氏は以下の3つの階層で説明しています。

・属性
・機能的価値
・情緒的価値


これを人に当てはめる、すなわち

「パーソナルブランド」

について考えてみると次のようになります。

-----------------------------

・「人」の属性

 性、年齢、学歴、保有資格など
 (客観的な特徴)


・「人」の機能的価値

 企画力、コミュニケーション力など、
 仕事を遂行するために求められる能力
 (実務遂行能力)


・「人」の情緒的価値

 その人と一緒にやる仕事は、安心できる、
 楽しい、勉強になる、成長感が得られるといった、
 相手に好ましい感情を湧き起こさせる資質
 (端的には「人間性」や「人間力」と言えるでしょう)
 
--------------------------------

そして、ブランド化とは、
基本的にはこの価値構造の視点から、
それぞれの価値を高めていく取り組みだといえます。

もちろん、すべての価値を同じように
高めるのではなく、自分の強み・弱みを考慮して、
メリハリをつける必要がありますが。


上記の人のブランド価値構造を踏まえると、
さまざまな示唆が得られますね。

例えば、

・高い学歴や資格など、
 どんなに優れた属性を持っていても、
 機能的価値、すなわち実務遂行能力が
 伴わなければブランド化は難しい

・どんなに優れた実務遂行能力を発揮できる人でも、
 極端な自己チューや高慢な態度によって周囲の人に
 ネガティブな感情を与えてしまうようであれば、
 情緒的価値を提供できていないことになり、
 仕事が回ってこなくなる可能性がある。

といったことです。


近年は、機能的価値=実務遂行能力を
提供できるのは当然であり、むしろ、

情緒的価値=人間性、人間力

を求める傾向が強くなってきています。

この背景には、
あらゆる分野が高度化、複雑化、専門化した一方、
もはや1人でできる仕事はほとんどなくなり、
実際の業務では、様々な専門家がチームを組んで、
共に取り組む必要性が出てきたことがあります。

チームとしての成果につながるためには、
メンバーから総スカンされるような、
情緒的価値のない人間は、個人としてどんなに
優秀でも「使えない」ということになってしまうわけです。


近年、米国のビジネス界でも、

“Personality matters”(人格が大事)

という言葉がささやかれるようになっています。

他人を押しのけてでも個人の成功を追求することを
良しとしてきた米国でさえ、もはや、仕事力だけでなく、
高い人間性によって人を魅了しなければならないという
認識が高まってきているのです。


山本氏の説くパーソナルブランド論の詳細については、
下記参照記事、および参考書籍をぜひご覧になってください。


*参照記事

『エンジニアも知っておきたいキャリア理論入門』
第14回 選ばれるエンジニアになるためのブランド力を養う


*参考書籍

『グッド キャリア』
(山本直人著、東洋経済新報社)

投稿者 松尾 順 : 09:06 | コメント (0) | トラックバック

「筑後うどん」ブランド化への挑戦中!

福岡県・久留米市は、

「とんこつラーメンの発祥地」

だということをご存知ですか?

ラーメンマニアの間で、
このことは周知の事実ですが。


ただ、ラーメンブランドとしては、

「博多ラーメン」

が圧倒的に有名ですね・・・


さて、近年、とんこつラーメンに続く、

「新たな久留米発ブランド」

としてその地位を確立しつつあるのが、

「B級グルメ」としての「焼き鳥」

でしょう。


「B級グルメ」は、一言でいうなら、

「安くて旨くて地元の人に愛されている
 地域の名物料理や郷土料理」

です。

このこところ毎年、
全国のB級グルメがそのおいしさを競う

「B-1グランプリ」

が行われているのはご存知でしょうか。

昨年(2008年)は、
久留米市が開催地となっています。


従来、焼き鳥といえば、

北海道室蘭市、埼玉県東松山市、愛媛県今治市

の3市が、

「日本3大焼き鳥のまち」

として知られてきました。


つまり、上記3市が焼き鳥の

「3大ブランド」

だったわけですね。

とはいえ、“3大”と言えるほど
ブランドとして十分認知されていたわけ
ではありませんが。


ある時、久留米市のタウン情報誌、

『くるめすたいる』

の編集部が、全国の人口1万人当たりの
焼き鳥店舗数を数えたところ、

「日本3大焼き鳥のまち」

よりも久留米市の店舗数が多いことを発見。

そこで『くるめすたいる』では、
2003年1月号において勝手ながら、

「焼き鳥日本一宣言!」

を行って焼き鳥店を特集。


これをきっかけとして当地では、

「焼き鳥日本一フェスタin久留米」

が毎年開催されるようになりました。


また、「久留米やきとり学会」も発足。

こうして、様々な形で、
久留米焼き鳥振興のための積極的な活動、
情報発信を続けてきています。


その結果、「日本一宣言」から
まだわずか6年ほどではありますが、

“「やきとり」と言えば、久留米だよねぇ”

というブランド連想が既に、
かなり強化されたのではないでしょうか。
(これは、私の偏見<ひいき>も含まれた仮説であり、
 アンケート調査等による検証が必要ですが・・・)


この久留米の焼き鳥のケースは、
やりかた次第では、比較的短期間で、
相応のブランドが確立できることを
教えてくれています。


さて実は、今回の記事において

「焼き鳥」

は前座に過ぎません・・・


真打ちとして登場させたいのは、

「筑後うどん」

です。

筑後とは、
福岡県南部のエリアを注します。

久留米市が中核都市。

その他には、柳川市、筑後市、八女市、
そして私のふるさとである八女郡など
が含まれている地方です。


筑後地方にはもちろん、
とんこつラーメン店があちこちあります。

しかし、ラーメン店と匹敵する
店舗数を誇るのが

「うどん屋」

なんですね。


ちなみに、純粋な「そば屋」は、
当地にはほとんど存在しません。

うどん屋に‘そば’も置いてあります。

でも、筑後にいて「そば」を
注文するのは、はっきりいって野暮です!

私自身、筑後に住んでいた10代の頃、
そばを食べるのは大晦日だけ。
つまり年1回でした。
(東京に住む現在は、そばもしょっちゅう
 食べてますけど)


話を戻しましょう。


平成16年(2004年)、
地元のうどん屋22店が中心となり、

「筑後うどん振興会」

が結成されました。

同振興会の目的は、
独自のうどん文化を持つ

「筑後うどん」

を盛り立て、

・讃岐うどん
・稲庭うどん

と並ぶ「3大うどん」として
称されるくらいのブランドに育てること。


同振興会では、「久留米の焼き鳥」と
同様のアプローチを取り

「筑後うどん祭」

を毎年開催してきています。


公式ブログも開設。

ただ、ネットなどを通じた情報発信は
傍目から見ると、まだまだ物足りない感じです。


9月19-20日に、秋田県横手市で開催される

B-1グランプリ in YOKOTTE

にも出展しないようですし。
(久留米やきとりは出展)


小さい頃から筑後うどんに
慣れ親しんできた私としては、
筑後うどんが

「全国区ブランド」

に化けてくれるよう、
東京から応援したいと思います。


最後に、筑後うどんの特徴を
紹介しておきましょう。


讃岐うどんと比べて最も大きな違いは、

「麺」

でしょう。

太く、断面が四角い讃岐うどんと異なり、
細めで丸い形状をしています。

そして、全く腰がありません。
ぶよぶよ、ぷにゅぷにゅという食感。

私は勝手に、

「柔腰(やわごし)めん」

などと呼んでいます。
(これは筑後地方に限らず、
 福岡県全般に共通している特徴ですが)


なぜ腰のない「ぶよぶよめん」なのか?

ひとつには、主食として食べられてきた香川県
と違い、むしろ、主食に添えられる

「麺入りのスープ」(汁物)

的な役割を果たしているからという説が
あります。(ですから、基本「ぶっかけ」
ではあまり食べません。)

また、漁師たちが、漁の合間に、
短時間でざざっとかき込むのに楽な、
「腰のない細めん」が好まれたから、
という話も聞いたことがあります。


トッピングとしては、

・丸天(直径10センチほどの円形のさつま揚げ)
・ごぼう天
・春菊天

などが、他地域ではなかなか食べられない
独自のものでしょう!


つゆは、透き通った色。

さっぱりと癖のない味であり、
この点では、讃岐うどんとほぼ同じです。


あなたも、久留米、八女など筑後地方を
訪ねることがあったら、とんこつラーメン
だけじゃなくて、

「筑後うどん」

もぜひ楽しんでみてくださいね!


*筑後うどん概要
 全国B級グルメスタジアム(富士山静岡空港開港記念)より

*筑後うどん振興会公式ブログ
 http://blogs.yahoo.co.jp/chikugoudonshinkoukai

*B級ご当地グルメの祭典 B-1グランプリ Blog
http://blog.livedoor.jp/b1grandprix/

*B-グランプリ in YOKOTE
 http://b-1gp.cande.biz/


(参考文献)
『「B級グルメ:の地域ブランド戦略』

投稿者 松尾 順 : 15:25 | コメント (4) | トラックバック

ブランディング成功事例・・・ライオンの『キレイキレイ』

新型インフルエンザで大騒ぎした今年の冬。

現在はいったん収まってますが、
秋以降、再び感染が広がる可能性があるため、
予断を許しません。


さて、家庭でできる、
インフルエンザ感染予防策のひとつが

「正しい手洗いの励行」

ですね。

おかげで石鹸やハンドソープなどの売上が
伸びたようですが、ハンドソープの

No.1ブランド

はなんだかご存知ですか。


それは、ライオンの

『キレイキレイ』

です。


『キレイキレイ』は、1997年に登場。

わずか3年後の2000年にトップシェア
(金額ベースでの市場シェアは、現在40%超)
を獲得し、以降も王座を堅持しています

売上高は、2007年に100億円を突破しています。
(ライオンのアニュアルレポート2007、2008より)


キレイキレイが登場するまでのハンドソープ
といえば、「薬用ミューズ」の独壇場でした。

ところが、キレイキレイがわずか数年で、
ハンドソープのトップシェアを奪い、
その地位を磐石なものにした背景には

・絶妙なネーミング
・物語(ストーリー)性

の2点があると言えそうです。


<絶妙なネーミング>

「キレイキレイ」というネーミングは、
帰宅後、お母さんが小さい子どもに、

「おてて、キレイキレイにしましょ!」

と話しかけるところから取ったもの。

ハンドソープのメインターゲットが、
小さい子どもを持つ主婦層であることを考えると、
実にわかりやすく、かつ親しみやすさを感じさせる
ネーミングでした。

なにしろ、しょっちゅう「キレイキレイ」と
自分で口にしている言葉ですからね。


<物語(ストーリー)性>

同製品は、発売当初から、
イラストレーター上田三根子氏が描く、

「キレイキレイファミリー」

すなわち

・キレイママ
・よしおくん
・よしこちゃん

の3人のキャラクターを軸とした、
パッケージデザインやコミュニケーション施策
が展開され、独自の世界観を生み出していました。


また、子どもたちが
自主的に手を洗ってくれるように、

「キレイキレイの絵本」
「キレイキレイ手洗いの歌」

などの啓蒙的なコンテンツを作成。

購入者である母親の好意や購入意欲を
高めることに成功したんですね。


ちなみに、パッケージデザインには
細かい工夫が凝らされているそうです。

(日経デザイン、July 2009)

同製品のハンドソープには、
液状タイプと泡タイプとの2種類があります。

汚れ落ちの強い液状タイプは、
外遊びの手洗いに向いているため、
ボトルに描かれたよしおくんは
野球のユニフォームを着ています。

一方、軽い汚れに向く泡タイプでは、
よしおくんはスリッパを履いており、
室内にいることを示しています。

また妹のよしこちゃんには、
ぬいぐるみを持たせていますが、
これは、ぬいぐるみで遊んだ後も、
手洗いが必要なことをさりげなく
伝えているのだそうです。


キレイキレイは、近年、

情緒価値(エモーショナルバリュー)

の付加にも力を入れています。


例えば、2008年には、

・マスカット
・チューリップ

の香りのハンドソープを限定販売。

また、2009年3、4月には、
泡タイプのハンドソープに、

「かわいい泡がつくれるキャップ」

を組み合わせた販売をスタートしています。


このキャップ、
ライオンの包装技術研究所が約10ヶ月を
かけた力作で、

・くまさん
・お花

の2種類の形状をした泡が出せるように
なっています。


香りをつけようが、
かわいらしい形をつけようが、
キレイキレイが本来持つ

殺菌、消毒

といったハンドソープの基本的価値には
変わりがありませんよね。

しかし、「楽しさ」「心地よさ」といった

情緒的価値

を付加することにより、
理屈を超えたところでの、新たな購入理由を
消費者に与えることができるため、競合対策上、
極めて有効な施策だと言えます。


こうしてパワーブランドに成長したキレイキレイは、
そのパワーを活かしてブランド拡張を図っていますね。

最新の製品ラインアップを眺めてみると、
「石鹸」や「ボディソープ」「消毒液」「うがい薬」
といった関連性の強いアイテムだけでなく、

・除菌&漂白(漂白剤)
・除菌スプレー
・生ゴミ消臭スプレー

などキッチンまわりの製品が増えていて驚きました。

家庭用品は、言うまでもなく

主婦

がターゲットですから、このブランド拡張も
大きな成果をもたらしているようです。


*参考文献・資料など

『日経デザイン(July 2009)』
特集:家族回帰が生む新市場をデザインで先取り!
Part 1 家族に届くコミュニケーション

・ライオン アニュアルレポート

*『キレイキレイ』ブランドサイト
http://kireikirei.lion.co.jp/

投稿者 松尾 順 : 13:50 | コメント (0) | トラックバック

ブランドとは「事前期待」である!

「ブランドとは何か?」

という問いに対する回答は様々ですね。
唯一絶対の正解というものはおそらくありません。

例えば、

“ブランドとは「約束(プロミス)」である”

というよく知られたフレーズは、
シンプルながら、とてもツボを押えた回答だと思います。


さて、上記のフレーズは「企業側」に立ったものですが、
「顧客(見込客)側」に立った場合の表現は、

“ブランドとは「事前期待」である”

と言えるのでは・・・?


「事前期待」とは、簡単に言えば、
購入対象となっている特定の製品・サービスに対して

「購入したら、どんなことが自分に起こるのか」

といった顧客の予感というか、予測のことです。


この事前期待には、

ポジティブなもの、ネガティブなもの

の両方があります。

そして当然ながら、ネガティブな事前期待を
与えてしまっている製品・サービスが選択されることは
まずありません。


ですから、ブランド構築の目的は、

ターゲット顧客に対して
ポジティブな事前期待を持ってもらうこと

になります。

このことは、

新規顧客の獲得

においてとりわけ重視すべき点です。

というのも、まだ利用したことのない製品・サービスを
思い切って購入する決断を下せるのは

「良さそうに感じられた、思えた」

というポジティブな事前期待があればこそだからです。


経営コンサルタントの石原明氏は、
実際に製品・サービスが優れているだけでは売れない。
見込客にとって、その製品・サービスが

「良さそうに見えること、思えること」

が大事であると常々強調されています。

また、飲食店コンサルタントの
佐野裕二氏によれば、繁盛する飲食店とは、

「美味しい店」

ではなく、

「美味しそうな店」

なのだそうです。


さて、ポジティブな事前期待は、

見た目(パッケージや店舗の外観、デザイン等)や
様々な媒体、手段を通じたコミュニケーション

によって形成することが可能ですが、
繰り返し購入してくれるリピート客を増やすためには、
実際に購入した製品・サービスの利用体験が

「事前期待」

を裏切らないことが重要ですね。


事前期待以下の利用体験だった場合、
高い顧客満足が得られないため、

「ガッカリしたよ、次は買わない」

ということになるからです。


「顧客満足」は、

「事前期待」と「実際の体験」

の差で決まります。


それほど優れた製品・サービスでなくとも、
事前期待があまり高くなければ、
それなりの顧客満足は得られます。

逆に、どんなに優れた製品・サービスで
あったとしても、事前期待が高すぎると、
高い顧客満足は得られないのです。


ですから、ブランド構築においては、

「事前期待を高めすぎない」

という点を留意しなければなりません。

良さそうに見せなければならないが、
過剰な宣伝、誇大広告はするなということです。


あくまで、実際に提供可能な製品・サービスの
質やベネフィットの水準を踏まえて、期待感を
ちょっとだけ高めて購買意欲を刺激する。


ブランドマネジメントはいわば、

事前期待のマネジメント

であり、微妙なさじ加減が要求される仕事なのです。


*「事前期待」については、
  以下の本の内容にインスピレーションを受けました。


『顧客はサービスを買っている』
(北城恪太郎監修、諏訪良武著、ダイヤモンド社)

投稿者 松尾 順 : 16:03 | コメント (0) | トラックバック

「小さく作って、高く売る」・・・花畑牧場のブランディング

「生キャラメル」って食べたことありますか?

タレントとしても活躍されている田中義剛氏が経営する

「花畑牧場」

の人気商品のひとつですね。


「生キャラメル」は、2007年4月の発売。
口に入れた瞬間に溶け出すような食感が特徴です。

当初は、販売場所を新千歳空港だけに限定して
プレミア感を創出。

月商4億円を記録する大ヒット商品となりました。


さて、1994年に花畑牧場を開設した田中氏は、
当初から

「ブランディング」

を意識した酪農をするという経営理念・方針を掲げていたそうです。

すなわち、作ったものをそのまま売るのではなく、
農産物を商品化し、その商品に価値を付加して販売すること
にこだわっていました。

そこで、大量生産・大量流通という一般的な方法を避け、
生産量や販売チャネルを限定することにしたのです。

こうして商品のブランド力を高めれば、
高価格での販売が可能になると田中氏は考えました。

これは、

「小さく作って高く売る」

を基本とするヨーロッパ流の酪農経営だそうです。


最初の10年、花畑牧場の経営は赤字続き。

田中氏のブランディングが最初に実を結んだのが、

「カチョカヴァロ」

というチーズです。

スーパーなどへは卸さず、
全国の物産展などで売り続けた結果、
現在は1日に800個を売り上げる人気商品に
なっています。

こうして花畑牧場の取り組みを学ぶと、
田中氏のブランディングの考え方の素晴らしさに
感嘆すると同時に、ブランドを確立するためには
長い時間が必要であり、経営者には我慢と粘りが
必要であることがわかりますよね。


さて、田中氏の優れた経営感覚がうかがえる、
その他の取り組みとしては、
複数の異なる製品カテゴリーを

「ブランドポジション」

を意識しながら展開することで
リスクを分散していることがあります。


花畑牧場の現在の主力商品は、

・生キャラメル
・チーズ
・ホエー豚(養豚)

養豚は今年4月からの新規事業です。

ホエー豚を使った「ホエー豚丼」は、
新千歳空港の直営飲食店では

1日600-1,000食

が出る人気だそうです。


田中氏は、

“芸能プロダクションになぞらえれば、
 生キャラメルがアイドル。ホエー豚丼は演歌歌手で、
 チーズは万人受けするマルチタレント”

と言っています。

3つのブランドの性格の違いをうまく活かすことで、
安定した売上げを確保することに成功しているのです。


近年、農畜産業は、
燃料や肥料・飼料高等によるコスト上昇と、
大手流通業の圧力による売価の低下によって
赤字経営を余儀なくされているところが多いですよね。


農畜産業における経営改革を進めるのは
そう簡単ではないのはわかりますが、
花畑牧場のブランディングには学ぶところが
多いのではないでしょうか?


*参考資料

・日経4946file キーパーソン(2008 OCTOBER)
・日経MJ記事(2008/12/08)

投稿者 松尾 順 : 09:11 | コメント (2) | トラックバック

ブランド価値の違い・・・ルイ・ヴィトンvsサマンサタバサ

先日、

「ブランドデータバンク」

のアンケート調査に基づいた、

「三越な人」(三越が好きな人)

「伊勢丹な人」(伊勢丹が好きな人)

のそれぞれが保有しているブランド品や好きなブランド品、
好きな有名人、信頼するメディア、消費に関わる価値観
などの「違い」についてご紹介しました。


とはいえ、三越も伊勢丹も同じ

「百貨店」

と呼ばれる業態に分類される店です。

2つの百貨店の強みやイメージはかなり異なるものの、
三越が好きな人は、伊勢丹も結構好きと答えていますし、
逆も同様で、伊勢丹が好きな人は、三越もそこそこ好き
なのです。

つまり、百貨店好きという点で共通点が多く、
三越な人も伊勢丹な人もかなり似通った消費行動を
取っています。

どちらも中高年層の比率が高いですしね。

例えば、好きなバッグブランドの
上位御三家は、順位がちょっと入れ替わりますが、
三越な人、伊勢丹な人のどちらも、

・ルイヴィトン
・コーチ
・グッチ

です。


ところが、20代前半の女性だけで見ると、
突然上位に浮上するバックのブランドがあります。

「サマンサタバサ」(以下「サマンサ」)

です。

日経MJ(2008/04/30)の消費分析の記事では、
都内女子大生500人対象のアンケート調査の分析が
掲載されていましたが、以下の3つの質問に対して、
グッチやコーチを抑え、いずれもルイ・ヴィトン
(以下、「ヴィトン」)に次いで2位の座を
獲得していたのが「サマンサ」でした。

・どのブランドにステータスを感じるか
・ファッション雑誌から受けるブランドの印象の強さ
・どのブランドが流行を引っ張っているか

同記事を読んだ方はお気づきだと思いますが、
上記の回答に挙がっていたブランドは、
サマンサを除いてすべて海外ブランド。

国産ブランドの中で、ほぼ唯一サマンサだけが、
短期間でこれだけの高い地位に上りつめた理由に
ついては、私はファッション動向にあまり詳しく
ないので、ぜひどなたかに教えてもらいたいのですが、
ブランディングの成功事例として
とても興味があります。

さて、日経MJの同記事では、
女子大生対象のアンケート結果を「多変量解析」
のひとつである、

「共分散構造分析」

を用いて深い分析を行った結果が
併せて紹介されていました。


共分散構造分析とはどんなものか、
わかりやすさを優先して説明すれば、
回答結果の背景(奥底)にある

「潜在心理」(専門的には「構成概念」と呼ぶ)

の構造を把握しようとするものです。


前述の調査について言えば、
ヴィトンとサマンサの2つのブランドについて、
それぞれを評価している理由を聞いた回答結果を
共分散構造分析にかけて、両者のブランド価値の
違いを比較しています。


どちらのブランドも、潜在心理としては

・流行意識
・価格を含めた品質意識

が高い「ブランド価値」につながっているのですが、
「流行意識」については、ヴィトンがサマンサよりも
強いことがわかりました。

特に、

「流行意識」

と関連の強いアンケート項目である

・持っていると友達に自慢できる

という回答で、ヴィトンは
サマンサを大きく上回っていたのです。


一方、サマンサは、

「価格を含めた品質意識」


と関連性の高い

「使いやすい」

という項目でヴィトンを上回っていました。


この結果だけで、サマンサのブランド力の源泉が
何かを語るのは難しいですが、長い歴史と伝統を誇る
海外ブランドに対抗するために、新興の国産ブランドは、
どのような強みの軸を伸ばせばいいのかというヒントに
なりますよね。

投稿者 松尾 順 : 18:05 | コメント (0) | トラックバック

『人間失格』と「日本酒」の復活

今年の夏ごろのことです。

長女(中2)が、

「太宰治の『人間失格』の本を買って買って!」

とせがんできました。


田舎にある古い日本文学全集の中に、
『人間失格』も入ってたから送ってもらおうか?

と私が答えたら、娘は、

「集英社文庫のものが欲しい」

と言うのです。

聞くと装丁が新しいらしい。

ただ単に外側のパッケージが変わっただけで、
あの純文学小説を買いたいのかと苦笑したものです。


実際娘に買ってあげた集英社文庫の本を見てみると、
表紙はもろマンガなんですよね。

「デスノート」の小畑健氏作。
中身は純文学だけど、見た目は「ライトノベル」。

そして、新装丁版『人間失格』は、
13万部を超えるベストセラーになりました。

このパッケージリニューアルの成功を見ると、
古いイメージを持つ商品のデザインを大胆に変えることで
イメージを刷新し、新たな購買層の関心を呼び起こすことが可能だ
ということがわかりますね。

もちろん、「中身が優れていること」が大前提ですが。


さて、同様の試みが求められているのが、

「日本酒」

でしょう。

日本酒の低迷はずいぶん以前からですが、
今や日本酒のシェアは酒類全出荷量の9%に過ぎない
厳しい状況です。
(ちなみに、ビール類は35%、焼酎18%)


また、全国の酒蔵の数は、
50年前は4000蔵以上ありましたが、
現在は約2000蔵と半減してしまっています。


実は、世界に目を転じてみると、
爆発的な和食ブームに伴い、「日本酒」に対する評価も
どんどん高まっています。

しかし、足元の国内では、

古臭い、オヤジっぽい、悪酔いしそう

といったネガティブなイメージがありますよね。


こんなイメージが払拭できないのは、
結局のところ、若年層があまり飲まないからです。

そして、若年層があまり飲まないのは、
若年層に対して魅力を感じさせることができていないからです。

特に、コンビニに置いてある「カップ酒」は、
もろ「オヤジのための酒」というイメージを与えますよね。


日本酒党の私も、コンビニでよくカップ酒を買います。

しかし、コップ酒を飲んでいる自分を引いて眺めてみると、
自分が既に「オヤジ」であることを再認識させられるため、
ちょっとしたわびしさを感じざるを得ません・・・


そんな今、日本酒の新商品が、
ファミリーマートのオリジナル商品として発売されています。

*「粋ボトル」シリーズ


上記商品の開発の模様は、
先日の「ガイアの夜明け」でも放映されましたし、
実際ファミマで購入した方もいらっしゃると思います。


現在4ブランド(日本盛、白鶴、月桂冠、松竹梅)が
店頭に並んでいる「粋」シリーズの特徴は、

「広口アルミボトル」

のパッケージを採用したこと。
一部の缶コーヒーにも見られるボトルですね。

デザインも、従来の日本酒のイメージを覆す派手な色合いです。

要するに、まったく「日本酒」らしくないわけです。


この「粋ボトル」、昔から日本酒を飲んできた中高年の方には
受けがあまりよくないかも知れません。

タイアップした清酒メーカー内部の意見としても、

「コーヒーに間違えそう」「毒々しい」「人工的」

といった意見が上がっていました。


しかし、若年層の日本酒に対するイメージを変え、
まず手に取ってもらうためには「粋ボトル」のような
大胆なパッケージが必要だと、開発担当者は考えていました。


私も早速、粋ボトルを飲んでみました。

従来のカップ酒のように、
フタを開けるときにこぼれそうにならないし、
リキャップが可能なので安心。

広口は飲みやすいし、なにより「気分がいい」です。
カップ酒のときのようなわびしさが漂いません・・・


同シリーズは、多少値段設定が高めではありますが、
若年層開拓の先陣として成長する可能性大だと感じました。

投稿者 松尾 順 : 12:29 | コメント (2) | トラックバック

吉兆ブランドの再生なるか?・・・お詫びの力

高級料亭「吉兆」のブランドイメージも
ずいぶん墜ちてしまいましたねぇ・・・


吉兆といえば、九代目林家正蔵氏(前林家こぶ平さん)
に似て親しみやすい雰囲気を持つ徳岡邦夫氏が有名です。

今年7月に徳岡氏の話を聞く機会がありましたが、
とても深い話をされてました。

*徳岡氏の講演レポートがこちらにあります。
→夕学五十講 受講生レポート
→夕学五十講 トップページ


さて、ご存知かと思いますが、
吉兆には次の5の料亭(法人)があります。

・本吉兆
・船場吉兆
・神戸吉兆
・京都吉兆
・東京吉兆


上記の店は、グループ会社とはいえ、
それぞれ独立経営です。

したがって、同じブランド名を共有しつつも、
お互いの経営内容についてそうそう口をはさめません。

ところが、不正が発覚した「船場吉兆」のおかげで
他の吉兆まで多大な悪影響(とばっちり)を
受けるという結果になってますよね。


徳岡氏は、京都吉兆の総料理長。
やはり今回は相当苦慮されているようです。

彼のブログでは、船場吉兆問題発覚後、
繰り返し3回もお詫びの文章を掲載しています。

*京都吉兆 三代目徳岡邦夫のブログ
http://kyotokitcho.seesaa.net/


徳岡氏の真摯な文章を読むと、
同じ吉兆でも、「京都吉兆」は、また他の吉兆は、

「船場吉兆」

とは違うと信じたいところです。


まあ、お互いに資本的な影響力はほとんどない別会社
だったわけですから、他の吉兆の不正がこれ以上暴露
されない限りは、吉兆ブランドの再生は大丈夫じゃないかと
思います。


しかし、万が一、他の吉兆のどこかで不正が
行われていたなら、第三者から暴露される前に、
いさぎよく自ら告白し、心からお詫びすべきでしょう。


というのも、日本では特に、

「心からのお詫び」

つまり誠意を感じさせるお詫びには、
相手の赦しを得る魔術的な力があるからです。


古典的名著、

『「甘え」の構造』(土居健郎著、弘文堂)

によれば、

日本人の場合、自分が属している社会・集団の中での
信頼関係を裏切るのが最も大きな罪悪感を感じること

だと説明されています。


だからこそ、逆説的ですが、

「内輪の中での信頼の裏切りが重大な罪である」

ということを自覚していることが伝わる

「心からのお詫び」

が効果的です。


私たちが最も嫌う、
信頼の裏切りという罪を犯したことを自覚し、
心からすまないと思っているのなら、
もういいだろう、赦してあげようか・・・

と聞き手は寛容になれるわけです。


上記の本の中には、こんなことが書かれています。

日本人に罪の赦しを説くべくやってきたキリスト教の宣教師が、
日本人の間では心から詫びれば容易に和解が成立するということ
を知って感心している。


ですから、逆に、不祥事発生時に言い逃ればかりして

「心からのお詫び」

を示すことのできなかった企業・個人のブランドは
失墜したままであり、信頼回復は極めて難しいものになります。


「心からのお詫び」を感じさせた石屋製菓は、
「白い恋人」の製造再開(11/22から)を果たし、
信頼回復の道を歩み始めましたね。


しかし、現状では「赤福餅」のブランド再生は無理です。
「船場吉兆」も不可能でしょう。

投稿者 松尾 順 : 11:39 | コメント (0) | トラックバック

[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(5)まとめ

今回はまとめです。


「消費者」と「ブランド」との間の

「感情的なつながり」

を測定(評価)するのが

「BRQ」(Brand Relationship Quality)

でした。


「感情的なつながり」とは、要するに、
消費者がブランドに対してどんな感情を持っているか
ということです。

そしてこの「感情」の種類として、

・愛情
・愛着
・親密さ
・相互依存

などがあるのでした。

上記の4種類はそれぞれ似たような感情ではありますが、

愛情は、シンプルに「好き」という気持ち、
愛着は、懐かしさを伴う気持ち(「くされ縁」的なもの)
親密さは、お互いに分かり合えているという気持ち
相互依存は、無くてはならない存在という気持ち

と多少異なっています。


例えば、恋人・夫婦関係でも付き合いが長くなってくると、
もはや「愛情」は感じない。

でも、ずっと人生を共にしてきたからということで「愛着」
はある、だから離れられない、ということがありますよね。

これを一般には、「くされ縁」と呼ぶわけです。(+_+)

消費者とブランドの関係も、
最終的にはリピート購入、つまり長いお付き合いに
つながることが目的です。

したがって、自社ブランドについて、
BRQのどの軸を高めるのが、上記目的に効果があるかを
考えてコミュニケーション施策を立案・展開するというわけです。


ところで、

ブランドの強みや特徴を測定(評価)する視点

にはさまざまなものがありますが、
自社のマーケティング施策を改善するために、すなわち、

「PDCA(Plan-Do-Check-Action)」

を回すために最低限実施したい視点としては
次の3つがあります。

・ブランドの認知度(どのくらい知られているか)
・ブランドの好意度(どの程度好かれているか)
・ブランド連想(どんなイメージを持たれているか)


BRQは、これらのうち

「ブランドの好意度」

をより詳細に測定するものです。

そうすることで、より具体的に

顧客とのコミュニケーションの方法やコンテンツ

を考えることができるようになります。


まあ、BRQを本格的に実施するとなると、
結構複雑ですし、お金もかかります。


しかし、マーケティング施策を考える際に、
BRQ的な視点をちょっとでも加えることによって、

顧客との良好な関係作りのためには
どんなコミュニケーションが適切か

という、まさに

「CRMの基本命題」

を考えることに役立ちますよ。

投稿者 松尾 順 : 09:37 | コメント (0) | トラックバック

[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(4)BRQ低下をもたらすもの

「BRQ」(Brand Relationship Quality)

における「消費者」と「ブランド」との間の

「感情的なつながり」

は次の7つの軸でした。

1 親密さ(Intimacy)
2 こだわり(Commitment)
3 パートナー品質(Partner Quality)
4 今の自分とのつながり(Self-connection)
5 愛着(nostalgic feeling)
6 相互依存(Interdependence)
7 愛情(Love/Passion)


これら7つの軸のそれぞれの評価方法は、
以前ご説明したように、基本的には、
消費者対象のアンケート調査を自社ブランド、
および競合ブランドについて実施することで数値的に把握します。


その結果、たとえば、1の「親密さ」の軸の数値が、

自社:4.3、競合:3.1

だったとします。

これは、消費者(顧客)がそれぞれのブランドに対して抱く
「親密さ」については、自社ブランドのほうが強い
ということを意味しています。

ところが、7の「愛情」の軸の数値は、

自社:2.2、競合:4.5

だったとします。

これは、競合ブランドについては、
そのブランドを愛する熱狂的なファンが多いと考えられること、
逆に自社ブランドに対しては、消費者は愛情をあまり
持っていないことがうかがえる結果です。

ちなみに、「愛情」の数値が低い結果になるのは、
他ブランドと変わり映えしないのでどれを選んでもいいのだけど、
たまたま近くの店に置いてあるから買っているだけとか、
他に選択肢がないから、仕方なしに買っているようなブランドに
多く見られます。


ともあれ、自社としては、この結果を踏まえて、
どうしたら消費者が自社ブランドに対する

「愛情」

を高めてもらえるのかという「改善施策」を考え、
実行に移すのが次のステップになります。


さて、今回は、BRQの7つの軸を低下(悪化)させる原因になる
企業行動にはどんなものがあるかを解説しておきましょう。


------------------------------------

・勝手な製品仕様の変更

「ニューコーク」の失敗が典型事例ですね。

慣れ親しんだ味やパッケージデザインをいきなり大胆に
変えてしまうと、ユーザーの怒りを買い、「愛情」「愛着」が
低下します。

ですから、多くの企業では、製品仕様は、
消費者の嗜好の変化に合わせて、ごくわずかずつ、
気づかれないように変化させています。

------------------------------------

・在庫切れ

「相互依存」が低下します。

消費者とブランドの間に「なければ困る」という
関係性ができている場合、「在庫切れ」が消費者にとって
最大の悪夢となります。

ちなみに、若者にとって「相互依存」が高いのは、

「コンビニ」

ですね。店として考えた場合、
24時間365日、いつでも開いてるという安心感が
あることが、「相互依存」を高めることに寄与しています。

------------------------------------

・見当外れなメール

先日新車を買ったばかりのディーラーから、
別の車のダイレクトメールが届いたら、

「自分の状況をまるで理解していないな」

と感じますよね。自分を理解していないことがわかる
コミュニケーションは、「親密さ」を低下させます。

------------------------------------

・品質の低下・問題

最近、頻繁に明るみになることの多い、
賞味期限切れ食品の販売や食品表示偽装などが典型例ですが、
「パートナー品質」や、「こだわり」「愛情」を低下させるのが、
品質の低下や問題です。

------------------------------------

・信頼の裏切り

上述した食品表示の偽装などは、
単なる品質上の問題だけでなく、

「信頼の裏切り」

でもあります。

しかも、事件発覚後に自己保身からごまかすためについた
「うそ」がばれることによって二重の裏切りを犯してしまう
企業が多いですね。

これもまた、

“このブランドなら安心だ”

という「パートナー品質」や、

“このブランドでなければ・・・”

という「こだわり」を低下させます。

地に墜ちた「雪印」ブランドが代表的なケースと言えます。

------------------------------------


次回は最終回。まとめです。

投稿者 松尾 順 : 11:15 | コメント (3) | トラックバック

[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(3)効果と具体施策

「BRQ」(Brand Relationship Quality)

によってわかる、消費者とブランドとの間の

「感情的なつながり」

は次の7つの軸でした。


1 親密さ(Intimacy)
2 こだわり(Commitment)
3 パートナー品質(Partner Quality)
4 今の自分とのつながり(Self-connection)
5 愛着(nostalgic feeling)
6 相互依存(Interdependence)
7 愛情(Love/Passion)


そして、これら7つの軸について、
競合ブランドよりも劣る軸を改善(向上)させるための施策を
立案・実施することが必要です。


ここで、まずいくつかの軸について、
こうした感情のつながりが、消費者(ユーザー)に
どんな行動を取らせるのかを説明します。


・「パートナー品質」、「愛情」が強いブランドは、
 周囲の人への推奨が起きやすくなります。
 “いい製品だから”あるいは“私が大好きな製品だから”
 という理由からです。

・「愛情」、「こだわり」が強いブランドは、
 そのブランドの製品ならなんでも欲しいという気持ちに
 つながります。上から下まで○○ブランドで固めたい、
 というわけです。そのブランドに夢中だからですね。

・「こだわり」、「愛着」が強いブランドは、
 他のブランドへの切り替えができなくなります。
 “このブランドでなけりゃ”という「こだわり」、
 そして、長年利用するうちに強くなる「愛着」は、
 他のブランドを購入することに対する心理的抵抗を
 高めるのです。小さい頃から使ってきたハミガキの
 ブランドを別のものに変える気がしないのは「愛着」が
 効いているからですね。

・「愛着」、「相互依存」が強いブランドは、
 「プレミア価格」でも買われるパワーを持つブランドです。
 たとえば、タバコなどの嗜好性の高いブランドは、
 もともと習慣性があり「相互依存」が強いので、
 割高だから買うのをやめようとはならないわけです。


では、次にどんな施策がどの軸の向上に効果があるか
についていくつかご紹介しましょう。


・「相互依存」の強化には「会員制度」(ポイントシステム)の
 導入が効きます。せっかくためてるポイントを途中で放棄
 するのはもったいないですから。

・「愛着」の強化には「キャラクターの採用」です。
 例えば、最強のキャラクターのひとつは「ミッキーマウス」。
 小さい頃から慣れ親しんだキャラクターに対する愛着って、
 強いものがありますよね。

・「親密さ」は、個人のニーズに合わせてカスタマイズされた
 製品が効きます。「親密さ」は、自分のことをよくわかって
 くれている、自分にぴったりの製品だ、という気持ちが
 高まることによって強化されます。

・「今の自分とのつながり」にはイメージ広告です。
 自分の価値観やライフスタイルに照らした時、
 あるブランドがしっくりくるかどうかは、そのブランドが、
 特定の明確なブランドイメージを確立できてこその話だからです。
 
・「愛情」の強化には、「製品の差別化」です。
 他のブランドにない特徴を持つことは熱狂的なファンを
 生みます。アップル・コンピュータの一連の製品を
 思い浮かべてもらえばおわかりいただけるでしょう。

投稿者 松尾 順 : 07:52 | コメント (0) | トラックバック

[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(2)活用の具体手順

「BRQ」(Brand Relationship Quality)

は、ブランド(商品・サービス)を「人」に見立てて、
消費者(顧客)が、そのブランドに対して持っている

「感情的なつながり」

をアンケート調査などを通じて測定するものです。


そしてこの「感情的なつながり」は、
具体的には次の7つの軸で測定します。

1 親密さ(Intimacy)
2 こだわり(Commitment)
3 パートナー品質(Partner Quality)
4 今の自分とのつながり(Self-connection)
5 愛着(nostalgic feeling)
6 相互依存(Interdependence)
7 愛情(Love/Passion)


従来良く行われてきた

「ブランドイメージ調査」

では、消費者がブランドに対して持っているブランドの

「性格」(パーソナリティ)

を主に次のようなキーワードを選択させること
によって測定します。

・先進的
・都会的
・野暮ったい
・暖かい


したがって、「BRQ」は、
従来のブランドイメージ調査とは全く異なる視点で、
ブランドを評価するものということがおわかりかと思います。


では、BRQは実際にはどのように実施・活用するか、
ということを簡単に説明します。

基本的には以下の手順になります。

-----------------------------------------

1.BRQの測定対象とする競合ブランドを決定

2.競合ブランドと自社ブランドについて、
  所定のBRQ調査票を利用してアンケート調査実施

3.調査結果から、上記7つの軸それぞれについて
  各ブランドのスコア(評点)を比較分析し、
  自社ブランドの強い軸、弱い軸を把握

4.特に弱い軸について、スコアを向上させるための
  具体施策を立案、実施

5.定期的にBRQを実施して、各軸の改善度合いをチェック

------------------------------------------

たとえば、調査の結果、
自社ブランドが競合ブランドより劣っている軸は、

・親密さ

であることがわかったとします。


これが、仮に「ショップブランド」の場合だとすると、
「親密さ」が低いというのは、顧客と店・店員との

「心理的な距離感」

が、競合より遠いことが問題となっています。


ですから、いままで印刷で済ませていた

「お誕生日カード」

を手書きのものに変えてみるとか、
従来は、「気取りすぎ」の接客を
多少フレンドリーなスタイルに変更する
といったことが、改善案として考えられます。


私が「BRQ」をとても面白いと思ったのは、
このように、調査結果に基づいて、
具体的な企業の行動施策に落とし込める点でした。


以前、テスト的に小サンプルでBRQの考え方を
踏襲したアンケートをやったことがあります。

調査対象ブランドは、

「ドトール」と「スターバックス」

でした。


どちらも、頻繁に利用するので、
生活の一部になりやすいですよね。このため、

・相互依存性

の軸はほぼ同じでした。


しかし、スターバックスがドトールを上回った軸が
ありました。

・今の自分とのつながり
・愛情

の2つです。


これらは、やはりシアトル系カフェと呼ばれる
スターバックスのブランド力の反映でしょう。


スタバ(特に郊外の店)で、本でも読みながら
ゆったりと過ごすライフスタイルを好む人がいます。

また、スタバには熱烈なファンがいるのも周知の通り。


残念ながら、駅近辺にあって便利、
安いからという理由で選択されることの多いドトールでは、
スタバのような

「感情的なつながり」

は弱いですよね。


では、ドトールとしては、
どう対抗すべきかということです。

もちろん「ドトール」ブランドでは勝負にならないので、

「エクセルシオール・カフェ」

という新ブランドを立ち上げていますが。

まあ、スタバと戦うのはなかなか大変でしょうね。


あなたの会社のブランドも、BRQに基づいて
自社ブランドの強み・弱みを把握した上で、
弱い軸の強化に効果のある

マーケティング施策、サービス施策

を立てたらどうでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 11:45 | コメント (0) | トラックバック

[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(1)感情的なつながり

「BRQ」(Brand Relationship Quality)

を一言で説明するなら、

“消費者が、ブランドに対して持っている「感情的なつながり」”

を評価(測定)するものです。

これは、いわば「ブランド」を「人」に見立てることです。

そして、

“そのブランドが、「人」だとしたら、
 あなたは、その人に対してどんな気持ちを抱いていますか?”

ということをアンケート調査等によって聞く。

これが、「BRQ」によるブランド評価の方法です。


なお、以上も含め、BRQについての私の説明は、
フォルニエ先生の話・資料を元にした私なりの解釈であることを
あらかじめお断りしておきます。(なるべくわかりやすく
お伝えしたいので、正確に伝えることを多少犠牲にしています。)


では、具体的にどんな種類の

「感情的なつながり」

を聞くのかということですが、大きくは次の7つの軸です。


1 親密さ(Intimacy)
2 こだわり(Commitment)
3 パートナー品質(Partner Quality)
4 今の自分とのつながり(Self-connection)
5 愛着(nostalgic feeling)
6 相互依存(Interdependence)
7 愛情(Love/Passion)


それぞれについて、実際のアンケート調査では
どのような設問が並ぶのか、例として各2設問ずつ
ご紹介しましょう。

ちなみに、アンケート調査票全体としては100項目程度に
なるようですが、調査自体の詳細は私も教えてもらって
いません。


*この調査対象は、高級ブランドショップ等の

「店舗ブランド」

だと想定してくただい。

-------------------------------------------------

1 親密さ(Intimacy)

・このお店に関する情報に敏感である。
・改善に役立つなら、私の利用習慣を教えてもいい。


2 こだわり(Commitment)

・このお店を利用することにこだわりを持っている。
・遠くてもこの店を選びたい。


3 パートナー品質(Partner Quality)

・このお店は、私を上客の気分にさせてくれる。
・このお店は、客の意見を良く聞いてくれる。


4 今の自分とのつながり(Self-connection)

・このお店は私がなりたい自分を表現している。
・この店は、今の私のライフステージにふさわしい。


5 愛着(nostalgic feeling)

・このお店には、なんらかの思い出がある。
・このお店だととても心が落ち着く。


6 相互依存(Interdependence)

・このお店の存在は不可欠だと感じている。
・しばらく行かないと何かが欠けているように感じる。


7 愛情(Love/Passion)

・このお店が好きだ。
・とてもいいお店なので他の人にも勧めたい。

-------------------------------------------------

上記のような設問それぞれについて、
調査に協力してくれる消費者が、

「どの程度当てはまるか」

を回答してもらうことによって、
ブランドと消費者(顧客)の「感情的なつながり」を
評価することができるというわけです。

投稿者 松尾 順 : 10:48 | コメント (0) | トラックバック

[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(0)イントロダクション

えー、またまた

「ちょっと難しいテーマだよん!」

シリーズを開始したいと思います。(笑)


「BRQ」とは、

“Brand Relationship Quality”

の略です。文字通り訳せば、

“ブランド関係性の質”

となります。


この「BRQ」の研究を行っているのは、
現ボストン大学のビジネススクール准教授、

スーザン・フォルニエ(Susan Fournier)氏

です。


フォルニエ氏の専門は、ブランド論。

教職に就かれる前は、米国の大手広告会社、
ヤング&ルビカム社に在籍されていたこともあります。

これまで長年にわたって、
さまざまな製品・サービスのブランドについての
コンサルティングを行ってきている方です。


実は、この「BRQ」については、
以前、フォルニエ氏から直接概要を教えてもらう機会が
ありました。


今から約10年ほど前のことです。

私が外資系広告会社に所属していた時、
某企業向けの大規模な企画作成の準備のため、
ニューヨーク本社に出張したんですね。

NY出張の目的は、米国の先進事例や、
新しいマーケティング理論を収集することでしたが、
その一環として、フォルニエ氏の話も聞くことに
なったのです。


当時、フォルニエ氏は、
ハーバード・ビジネススクールの准教授でした。

そこで、NYから飛行機で約1時間のボストンに飛び、
ハーバードビジネススクールの美しいキャンパスを訪ねて、
共に出張した仲間と一緒に、フォルニエ氏の特別講義を
ありがたく頂戴しました。


「BRQ」の研究は、他にあまり類のない斬新なものです。
10年後の今でも類似の研究はみかけません。

ところが、日本ではこれまでほとんど紹介されたことがなく、
知っている方も少ないようです。


そこで、当時、Webから自由にダウンロードできた
フォルニエ氏の学会等での発表資料などを基に、

「BRQ」

の概要をご紹介しておこうと思います。


次回から本格的に内容に入っていきますので
お楽しみに!


蛇足ながら、
ハーバードビジネススクールへの訪問には
後日談があります。

フォルニエ氏から、
たっぷり2時間ほども懇切丁寧な説明を
してもらった私たちは、彼女に別れを告げてから、

「親切な先生でしたね。
 日本からおみやげのひとつでも
 もっていけば良かったですねぇ・・・」

と話していたのです。


ところが、出張から帰ってしばらくして、
フォルニエ氏から私宛に

「2,000ドル」!

の請求書が届いたのでした。


そうなんです、やっぱり無料ではなかったんです。

最初からそういう話だったらしいのですが、
手配してくれた人が、うっかりお金のことを
伝えるのを忘れていたようです。


もちろん、ちゃんとお支払いしましたよ。

しかし、いい値段ですよね・・・

最初に請求書の金額を見たときは、
目玉が飛び出ました。(笑)

投稿者 松尾 順 : 10:09 | コメント (2) | トラックバック

ブランディングの感性工学的アプローチ

今日は、主に製品デザインに活用されている

「感性工学的方法」

「ブランディング」

にも応用してみたという事例です。


この取り組みをやっているのは、セイコーエプソン(株)。
SPSSの「Data Mining Day」(2007年7月12日開催)における、
同社担当者の講演から、ポイントをご紹介します。


さて、そもそも製品開発に活用される「感性工学的方法」
ですが、セイコーエプソンでは、次の3層構造を
基本の枠組みとしています。

・態度(最上層)
・イメージ(中位層)
・認知部位(最下層)


「態度」とは、消費者が製品を見た時の「評価」のこと。

「かっこいい」「買いたい」といったポジティブな気持ち、
あるいは、「ダサイ」「買いたくない」といったネガティブな
気持ちです。


「イメージ」とは、製品から消費者が受ける「印象」のこと。

「斬新」「スタイリッシュ」「上品な」「柔らかい」

などといった形容詞で表現されることが多いでしょうね。


「認知部位」とは、製品の「形」や「色」のこと。

セイコーエプソンの基幹商品であるプリンターで言えば、
プリンター全体の形、色(の組み合わせ)、液晶画面の形、
操作ボタンの形状などのことです。


そして、この3つの関係を説明すると、
「認知部位」、すなわち「製品の形状や色」を見た消費者は、
それに対してなんらかのイメージを抱く。さらに、
そのイメージが、最終的にその製品に対する評価である
「態度」の形成に影響を与えるということになります。

要するに、消費者心理の変化は、
最下層から最上位へと移ります。つまり、

認知部位→イメージ→態度

となるわけです。


感性工学的アプローチでは、

「認知部位」と「イメージ」の因果関係

「イメージ」と「態度」の因果関係

をアンケート調査などに基づいて分析します。


そして、たとえば同社のターゲットユーザーが

「買いたい」

と思わせるプリンターを開発するには、

・彼らがどんな「イメージ」を製品から受けるべきなのか
・そして、そんなイメージを彼らに与えるためには、
 プリンターの「形状や色」はどんなものが望ましいのか

を探り、製品デザインに活かすというものです。


さて、この感性工学的アプローチの研究に
取り組んでいた同社担当者は、

「ブランディング」(コーポレートブランドの確立)

にも応用できるのではないかと考えました。


感性工学的アプローチに基づくブランディングの
基本的枠組みは次の3つの要素からなります。

・態度(最上層)
・ブランドイメージ(中位層)
・アクセスポイント(最下層)

「態度」は、企業に対する「好き」「嫌い」といった評価。

「ブランドイメージ」は、
「先進的」「伝統的」といった企業に対する印象ですね。

そして、「アクセスポイント」とは、
企業が、広報・広告などを通じて行う

「マーケティング・コミュニケーション」

や、店舗等において発生する消費者と店員との

「リアルなコミュニケーション」

などを含む、マーケティング活動全体を意味します。


つまり、この応用例では、

・消費者に好ましいブランド評価をしてもらうためには、
 どんなブランドイメージを与えるべきか

そして、

・そうしたブランドイメージを与えるためには
 どんなマーケティング活動が望ましいか

を科学的に分析していこうというわけです。


セイコーエプソン担当者の方の先日の発表によれば、
まだまだ研究途上ということでしたが、このアプローチ、
なかなか面白いと思います。


*上記講演のレポートが下記サイトで閲覧できます。


@IT Special PR:
SPSS Data Mining Day 2007 イベントレポート後編

ついでながら、上記イベントレポート前編では、
基調講演に立たれた石井淳蔵氏(神戸大学大学院教授)の
お話が特に面白いです。講演タイトルは

「経験価値思考マーケティングとデータマイニング」

でした。

@IT Special PR:
SPSS Data Mining Day 2007 イベントレポート前編

投稿者 松尾 順 : 10:42 | コメント (0) | トラックバック

「キリン・ザ・ゴールド」の不発

17年ぶりの大型定番ビールとして投入された、

「キリン・ザ・ゴールド」

は、07年3月の初出荷こそ160万ケースだったものの、
6月末までの実績は319万ケースにとどまり、
ビール最盛期の5月以降の伸びがぱっとしません。

このままでは目標達成は厳しいかもという状況ですね。
(初年度の出荷目標は800万ケースでした)


以前私が書いた記事では、

同製品のパッケージデザインの「インパクトの弱さ」

を指摘したんですが、残念ながら
ターゲットとして狙った「二十代」の支持を
得られなかったようです。


そもそも、このパッケージデザインは、

「ビールらしさをいかに払拭するか」

というリスキーな試みに挑戦したもの。


すなわち、

「店頭での目立ち具合よりもむしろ、
 手に取り部屋に置かれた時の雰囲気にマッチするかを
 重視したこと」

でした。

500もの案の中から選ばれたデザインでしたが、
味自体はそう簡単に変えるわけにはいきませんから、
まずは、デザインの刷新を検討すべきかなと思います。


*「キリン・ザ・ゴールド」は定番化するか?

*(続編)「キリン・ザ・ゴールド」は定番化するか?

投稿者 松尾 順 : 06:29 | コメント (10) | トラックバック

「とんがり」を作るということ

「とんがり」

とは、難しくいえば

「製品差別化(差異化)」

のことです。


他社製品と同じポジションにいると、
どちらか一方しか勝てないという状況になってしまいますよね。

ですから、自社商品はできるだけ
他社と異なるポジションを目指すのが賢明です。


島田紳助は、お笑い芸人を目指す若者たちから、

「紳助さんみたいになりたいんです☆」

とよく言われるそうですが、紳助は、

「わしはもうおるで!」

と返すそうです。

同じポジションを目指すな、と釘を刺しているわけです。

彼自身も、他の芸人やタレントと自分のキャラが
かぶらないことを常に意識してきたのでしたね。


さて、ブランド構築のためには、

“製品差別化を行う”

と難しく言うより、

“「とんがり」を作り上げる”

と説明する方が私は好きです。


その理由は、単にわかりやすいだけでなく、

「とんがり」

という言葉が、

「実行上のポイント」

を端的に教えてくれるからです。


ものを“とんがらせる”ためには、
余計なものをそぎ落としていかなければなりません。

あれもこれも・・・と、機能を欲張って増やしすぎたり、
広告コピーなどでも、特徴をずらずらと並べすぎると、
何がその製品の強みなのかが不明瞭になります。


むしろ、当社製品の強みは「XXXです」と
ひとつに絞ってバーンと打ち出す。

それ以外のことはそぎ落としてしまう。
そうしないと「とんがらない」。


つまり、とんがらせるためには、強みや訴求点を
思い切って絞り込むことが必要だということです。

先がとんがっていればいるほど、
ターゲットの心に刺さりやすいですしね。


そう、「とんがり」を作りあげる目的は、
ターゲットの心により刺さりやすくするためです。

すなわち、ターゲットの興味・関心を惹き、
欲望を刺激するため。

先の丸いナマクラ製品では刺さりません。


しかしながら、「とんがり」を作るのは
時間と手間のかかる工程です。

口で言うのは簡単だけど、
なかなか難しいと皆さんおっしゃいます。


それは、とんがりを作りあげる「努力」
をしていないことを誤魔化すための言い訳じゃないですよね?


実際のところ、難しいのは、

どこをとんがらせ、どこをそぎ落とすべきか

の見極めでしょう。

ひとつに絞って残りを大胆にそぎ落とすのは、
勇気がいる決断でもあります。

しかし、とんがりを作り上げることができなければ
その他大勢に埋没してしまうだけです。


なお、ベストセラー本を連発している幻冬舎の社長、
見城徹氏によれば、売れるコンテンツは、次の4つ要素を
備えていると考えているそうです。

1. オリジナリティがあること
2. 明解であること
3. 極端であること
4. 癒着があること

この必要条件を満たすものは必ずヒットするのだそうです。


「とんがり」と共通性がありますよね。

(注)
 4の「癒着があること」というのは、すでにファンがいる
 有名人や作家のように、売れるベースがあることを意味して
 います。これは出版業界特有の条件と言えるでしょう。
 (スーパーモデル監修の水着開発等も該当しますけど)


(参考文献)
『編集者という病』
(見城徹著、太田出版)

投稿者 松尾 順 : 10:43 | コメント (0) | トラックバック

天才マーケター島田紳助 - 紳竜の研究 -

猛烈な漫才ブームが起きた時期のこと、覚えてますか。
1980年代前半でしたよね。

あの頃、ブームの中心にいた人気漫才コンビのうち、
もっとも異彩を放っていたのが、

「紳助・竜介」

でした。


このコンビは、1985年に解散。

島田紳助は、
現在もマルチタレントとして活躍してることは説明不要ですね。

一方、松本竜介は、
2006年4月に若くしてこの世を去っています。


さて今回は、「紳助・竜介」が売れた秘密をお教えしましょう。

それは、紳助の優れた

「マーケティング的発想」

によるものです。


もちろん、彼がマーケティング理論を
わざわざ勉強したわけじゃないと思います。

紳助は、ビジネスの本質を見抜く力を持った

「天性のマーケター」

だったのです。


紳助の基本戦略、それは

「負けるけんかはしない」

ことです。


これは、言い換えると

「(同じ土俵で)戦わない」

こと。


当時、紳助は、漫才では、
オール阪神・巨人の才能には勝てないと
気づいていました。

また、芸人として生まれつきの才能を持つ
明石家さんまにも、やはり逆立ちしても勝てない。


だから自分たちは

「ヒール」(悪役)

というポジションで勝負しようと考えたのです。


つまり、他の漫才師と異なる

「ブランドポジショニング」

を明確に設定したのですね。


だから、舞台の上ではスーツを着るのが常識だったにも
関わらず、「紳助・竜介」はあえて「つなぎ」を着て
ヤンキー漫才を繰り広げた。

先輩や劇場支配人から、

「なんやその格好は!」

と怒鳴られても、つなぎを脱がなかったのは、
ダテではなく、上記のような明確な戦略に基づくもの
だったからです。


また、漫才は

「子供からお年寄りまで万人を楽しませるもの」


という考えも、紳助は捨てました。


「自分たちが笑かす相手は、20-35歳の男性」

と、ターゲットセグメントも明確にしていたのです。
同年代の男性を笑わせるのが一番やりやすかったからです。
(結果的には幅広い人気を集めましたが)


彼らも段々売れるようになってくると、
劇場には若い女性のファンが増えてきました。

しかし、自分たちのターゲットではない
「若い女性」に迎合することは決してしませんでした。

そうすると、本来のターゲットが離れていくことが
わかっていたからです。


さて、紳助独自の「マーケティング理論」の圧巻は、

「XとYの法則」

です。


Xとは、自分たちのお笑いのスタイル、個性、強みのこと。
Yとは、お笑いのトレンドです。


紳助は、お笑いの世界で「売れる」ためには、
まず、自分たちのスタイル(強み)を理解すると同時に、

・今受けているお笑いのスタイルはどんなものか、
・また、今後受けるだろう新しいスタイルはどんなものか

を把握する必要があると考えていたのです。


お笑いのトレンドとは、その時々で大衆が求める

「お笑いニーズ」

と言い換えることができると思いますが、
要するに「XとYの法則」は、

「(変化する)ニーズと供給のマッチング」

というビジネスの基本原則のことです。


紳助は、

“XもYもわかっていない芸人が多い”

と言っていますが、これはお笑いの世界だけでなく、
一般企業、個人にも該当する言葉ですね。


一発屋は、偶然にXとYがうまく合致して売れた人です。
そして、すぐに没落してしまうのは、本人がXとYを
理解していないから。

Yが変わってしまうと、ついていけずに
大衆から見捨てられる。それが、一発屋なのです。


しかし、賞味期限の長い芸人は、
変わり続けるY(お笑いニーズ)をしっかり分析し、
X(自分の強み)をうまく調整しているのです。


紳助は、実業の世界でも成功を収めていますが、
彼の天才マーケターとしての才能は、
どの世界でも通用することを見事に証明していますね。


正直、紳助には脱帽です。参りました。降参。


参考資料:紳竜の研究(DVD)

投稿者 松尾 順 : 10:38 | コメント (5) | トラックバック

いなかマーケティング

昨日、「村ぶろ」の記事を書いている時、
ふと、数年前、北海道の某自治体職員の方を対象として

「いなかマーケティング」

の講義をやらせてもらったことを思い出しました。


当講義では、ごく基本的な内容をお話したんですが、
当メルマガ&ブログで、講義内容のポイントを
ご紹介しておきたいと思います。


さて私は、「いなかマーケティング」の副題を

-いなかを元気にするマーケティング-

としていました。


そこで、まずは

「いなかを元気にする」

という意味を説明します。


「元気である」という状態とは、要するに

「活動が活発」

だということですよね。


そして、いなか(地元)を元気にするために重要な活動は、

ヒト、モノ、カネ、情報の「地元」と「地元外」との交流

のことだと私は考えています。


「地元内」だけの交流活動も、もちろん大切です。
しかし、閉じた世界であるために、
活動が不活発な状態に陥っているのが「いなか」の現状です。

したがって、地元と地元外との交流を通じて
地元に新しい風を吹き込む必要があるわけです。


ここで、ヒト、モノ、カネ、情報のうち、
とりわけ注力すべきなのが「情報の交流」です。


なぜなら、

“おもしろい観光スポットがある”

といった情報が流れることによって、「ヒト」が動く。
(端的には、観光旅行)

“このお菓子はおいしい”

といった情報によって、「モノ」が動く。
(端的には購買行動)

「ヒト」や「カネ」が動けば、当然ながら「カネ」の動きも
発生する。

というわけで、「情報」こそが、
ヒト、モノ、カネを起動するきっかけになっているからです。


したがって、

「いなかを元気にする」

ためには、情報のやりとり、すなわち

「コミュニケーション」

を上手に行うことが鍵になってきます。


そして、このコミュニケーションを上手に行うことこそ、

「マーケティングの本分」

ですよね。

だから、自治体の皆さんにもマーケティング・マインドが
必要なんですよ、という論理展開をしたのでした。


次に、いなかのブランディングのポイントについてです。

いなかのブランディングにおいて最も重要なことは、

「とんがりを作ること」

です。


すなわち、「オンリーワン」、かつ「ストーリー性」のある
その地元ならではの「強み」を磨き上げてとんがらせる。

そして

「XXXXと言えば、XXXX村(町)だよね」

とシンプルなブランド連想を強化する。

まずは欲張らずに一点突破型でコミュニケーションを行う。


たとえば、和歌山県北山村の場合は、かんきつ類の

「じゃばら」

をとんがらせてきてますね。


いなかの人はしばしば、

“このあたりはなんも面白いものはないからなあ・・・”

などと自嘲気味におっしゃいますが、それは思考停止してます。


どんな地域にも、その地域ならではの独自の強みがあるはず。

・気候
・風土
・文化
・歴史
・人
・イベント(祭り、儀式)
・偉人、有名人

等々

掘り起こしてみれば、「原石」が眠っているでしょう。
原石を見つけたら、資源を集中して磨き上げるのです。

よしんば、地元には本当に原石が見つからなかったとしても、
外から持ってくることだって可能です。


たとえば、札幌で毎年開催されている

「よさこいソーラン祭り」

は、16年前に始まった新しいイベントです。

1991年に高知のよさこい祭りを目にした一人の学生が、
地元北海道のソーラン節とミックスして始めた祭りでした。


この第1回の参加チームは10チーム、
観客動員数は20万人に過ぎませんでした。

ところが、先日終了したばかりの第16回では、
参加チームは341チーム、観客動員数は216万超までに
拡大しています。


さて、「とんがり」が作れたら、力を入れるべきこと。
それは冒頭に述べたコミュニケーションです。

地元外の人々に向けて、「とんがり」を
上手に伝えることが必要です。

もちろん、このためにインターネットを
活用しない手はありません。

コミュニケーションにおいては、
一方的な情報発信だけでなく、相手からの情報の受信も
オープンに受け止める双方向性が双方の理解を深めるために
有効です。

インターネットなら、いまさら言うまでもなく
双方向コミュニケーションも比較的容易にできますから。


結局のところ、いなかマーケティングにおいて、
成否の鍵を握るのは、

「インターネットの活用」

だと私は思っています。

投稿者 松尾 順 : 10:56 | コメント (0) | トラックバック

フォロワー狙いのペネトレーション戦略:DoCoMo2.0

ここ数年、多数の人気タレントを同時起用した
ブランドコミュニケーションが目立ちますね。


その中でも、
最も成功したのは、資生堂の「TSUBAKI」でしょう。

初年度の予算は50億円だったといわれていますが、
とてもその予算内に収まっているとは思えない露出量でした。


さて、多数タレント同時起用の狙いは、
大きくは2つ挙げられます。ひとつは、

「インパクト効果を高めるため」

です。

1人よりは2人、2人よりは3人、と華のあるタレントが
多く登場すればするほど、消費者の関心(アテンション)を
より多く引くことができますから。


そして、もうひとつの狙いは、

「ターゲットを広げるため(絞込みすぎない)」

ためです。


資生堂の「TSUBAKI」の場合、ブランドを統廃合して、
特定少数のブランドにマーケティング資源を集中する

「メガブランド戦略」

の一環として立ち上げた新ブランドですが、
メガブランドは、マーケットリーダーとなることが必須。

つまり、市場シェアの最大化を目指さなければなりません。

ということは、細分化されたターゲットを狙った従来の
ブランドと異なり、いわゆる「大衆」(マス)を狙って
いかなければなりません。


ただ、現代の大衆は、
価値観やライフスタイルが多様化しています。
(そもそも、もはや「大衆」とは呼べない)

したがって、一人のタレントだけでは、
大衆の一部の心しかつかめないわけです。

そこで、多数のタレントを同時起用して、
できるだけ広範囲の大衆をカバーしようとしている。


このあたりは、以前次の記事でも書かせてもらった
ことでした。

資生堂のメガブランド戦略:
◎ブランドではなく、意味を多様化せよ

そして、今、「DoCoMo2.0」でも、
8人もの人気タレントを起用した大々的な
ブランド・コミュニケーションが展開されていますね。

現在54%のシェアを持つマーケットリーダーのDoCoMoの
至上命題は、シェアの死守・拡大。

チャレンジャーのau、ソフトバンクモバイルほど、
尖がりすぎるわけにはいかないのです。

目立つことはやりたいけれど、
マスにそっぽを向かれるわけにはいかないということが、
多数タレント同時起用につながったんじゃないかと思います。


また、DoCoMo2.0のようなアプローチが行われる背景には、
携帯電話はもはや成熟商品であり、これ以上、
機能・性能的おいて劇的な差別化はなしえず、
またベネフィット(便益)における優位性の確立も難しいこと
があります。


シンプルマーケティングの森行生さんの

「プロダクトコーン理論」

によれば、商品の次の3つの切り口

・規格(機能・性能)
・ベネフィット(規格がもたらす便益、価値)
・エッセンス(端的にはブランドイメージ)

において、基本的な訴求の順番は、

規格→ベネフィット→エッセンス

と進んでいくべきとされています。


携帯電話においても、これまでまず規格、次にベネフィットが
アピールされてきたわけです。

しかし、ソフトバンクモバイルのカラーバリエーションが
売れたように、もはや、規格やベネフィットではなく、
デザインやブランドイメージのような、

「エッセンス」

を強くアピールすべき段階に、
携帯電話市場は来ているということです。


このひとつの回答が、「DoCoMo2.0」だと言えるのでしょう。


識者の間では、
「DoCoMo2.0」といいながら規格面での違いは生み出せていないから、
消費者の期待をそぐことになるのでは・・・

といった批判をする人もいます。

しかし、上記の考え方に照らせば、
この批判は的外れのように思います。


DoCoMo2.0は、その圧倒的な資金力で物量作戦を行うことで、

「業界標準は、DoComoだよね」
「DoCoMoなら間違いない」

と、理屈抜きで思い込ませようとしているということです。

もちろん、製品自体も高い品質を維持することは必須ですが、
他社との違いをことさら打ち出すことは、もはやあまり重要
ではありません。


そして、こうした理屈抜き、
「エッセンス」訴求主体のコミュニケーションに
ノックアウトされてしまうのは、フォロワーな人たち。

すなわち、最も人口比の多い、
いわゆる一般大衆であることは言うまでもありません。


DoCoMo2.0は、フォロワー狙いのペネトレーション戦略。
お金持ちの業界トップだけが実施できる戦略です。


なお、大前研一氏は、

“Docomo2.0は、大きな過失
 絶対にやってはならないマーケティング戦略だ”

と厳しく断定しています。
(大前研一『ニュースの視点』2007/05/18)


その理由は、

“『そろそろ反撃してもいいですか?』というキャッチコピー
 を見て分かるように、この戦略は、完全に同業他社に反発し、
 それを打ち負かすことだけを考えたものだから”

だそうです。

“こういった考え方を、経営学では「コンピティティブ・
 リタリエーション(競合反発)」と呼び、経営者が選んでは
 いけない戦略の一つになっている”

とのこと。

“なぜなら、この考え方は、業界収益をなくし、
 自分も相手も血だらけになるだけという結果をもたらすから”

というのも、

“「反撃しても、いいですか?」などという挑戦的な
キャッチコピーを見れば、消費者は「値下げするのかな?」
 と思います。

結果、消費者の買い控えを引き起こす可能性があります。

つまり、大々的な広告は打ったが、買う人はいなかったという
最悪の結果につながる危険性が高いと私は思います。”


ということなのだそうです。


はて、そうでしょうか?

一消費者の実感としては、「DoCoMo2.0」から受け取る
メッセージは「値下げ期待」ではありませんし、
買い控えをしてしまうことにはならないように感じるのですが。


あなたはどう思いますか、DoCoMo2.0は成功するでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 14:16 | コメント (6) | トラックバック

良さそうに見えなきゃ売れないョー

以前も何度か書きましたが、
売れる商品の「基本原則」はつぎの2つです。


・見た目が良さそうに見えること(端的には「デザイン」)
・中味も実際良いこと(端的には「機能・性能・品質」)

つまり、外見と中味が一致していることが大事。


見た目はいいのに、中味がひどい商品、
これはほとんどサギ。顧客は2度と買ってくれないでしょう。


逆に、中味はすばらしいのに、外見がしょぼい。

これだと、潜在顧客はそもそも手にも取らない・・・
素通りされてしまう商品になります。


昨日書いた小林製薬の場合、
同社商品が持つ優れた機能・性能・品質という「中味」を
インパクト重視のネーミングとパッケージデザインで
的確に「見せる」ことで成功を収めています。

つまり、外見と中味のバランスの重要性を十分に理解している
会社と言えるわけですね。


しかし、上記の2つの基本原則を認識していない会社の方が
よほど多いように思います。


たとえば、青森の大手豆腐メーカー、太子食品工業。

同社は最近、新しい豆腐の開発に成功しました。
(「ガイアの夜明け」から)


この豆腐は、中国原産の緑大豆を使用。

爽やかな印象を与える淡い緑色をしていて、
白い豆腐に見慣れた私たちにはとても新鮮に写ります。

また、緑黄色野菜に含まれるベータカロテンが
含まれているため、野菜のような豆腐だと言えます。


革新の少ない豆腐商品において、この「緑豆腐」は
とても魅力的です。

ヒットする可能性大の有望商品だと思います。


しかし、肝心の「見た目」に失敗してるんですね。


まず、パッケージを半透明にしたため、
この豆腐の最大の魅力である「緑色」が見えなくなっています。

この問題は、製品を見たスーパーのバイヤーから指摘されて
いましたが、同社の関係者は、なぜもっと早く気づかなかった
のでしょうか?


また、パッケージのデザインには、
江戸時代の火消しを描いた浮世絵を採用。

ネーミングは、「伊達くらべ」としています。


うーん、よくわかりません。

なぜ、浮世絵?、なぜ「伊達くらべ」?


中味と外見がまったく整合していないですね。

結果的に、付加価値をつけて価格競争を回避しようとした
新商品であったにもかかわらず、

「味はいいけど、パッケージがこれじゃあね。
 特売しないと売れないよ」

と、スーパーのバイヤーからは一刀両断。


大変残念なことです。


さて、こうやって後からいろいろケチをつけるのは
ずいぶん身勝手だとは思いつつも、あえて太子食品さんに
アドバイスさせていただきます。


開発途中で、バイヤーやエンドユーザーの意見を聞き、
反応を確認しながら進めたらどうでしょうか。
(たぶん、今回はやってませんよね)

いわゆる、「マーケティング・リサーチ」を
やりましょうということですが、必ずしも、
大金を投じる必要はありません。


営業の方が試作品をバイヤーのところに持参したり、
開発担当の方が、自宅に持ち帰って、
自分の奥さん、だんなさんに食べてもらう。

それだけでも、商品改良に役立つ貴重な意見が得られたはずです。


なお、ネーミングやパッケージの改善についても、
私なりにちょっと考えてみました。


「森の精霊豆腐」

なんていかがでしょう。


パッケージデザインには、スタジオジブリと交渉して、
もののけ姫に登場した森の精霊「コダマ」を採用します。

森=緑という連想に加えて、緑豆腐が持つ上品さ、清らかさを
「コダマ」なら伝えてくれるように思います。

投稿者 松尾 順 : 10:59 | コメント (0) | トラックバック

インパクトか上品か

最近、私がトライアルしている小林製薬の「ナイシトール」。

内臓脂肪、とくにおなか周りに効く薬ということですが、
まだ1週間目なので実感ないですね。

まあ、当然ですが・・・


さて、「ナイシトール」は、爆発的な売れ行きを示していますが、
その正体は別に新薬でもなんでもありません。

昔からある漢方薬、

「防風痛聖散」

です。


しかし、「小林式ネーミング」と呼ばれる、
その機能や効能が一瞬にしてわかる商品名にしたおかげで
この大ヒット。


「ナイシトール」の例を出すまでもないかと思いますが、
小林製薬のマーケティングの真髄は

「わかりやすさ」

なんですよね。


そしてこの「わかりやすさ」を具現化するのが、
大阪発らしいベタな、こてこてのネーミング。

最近の新製品の名称もこの点は一貫してますね。

・あら熱とーる(弁当のあら熱を取る冷却ジェル)
・コリホグス(肩こりなどに、飲んだその場ですばやく効く)
・ムズメン(股間・内股のかゆみ、かぶれなどに)


先日の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)には、
小林製薬代表取締役社長、小林豊氏が登場されてましたが、
こうしたストレートなネーミングは、

「インパクト」

を重視しているとおっしゃってました。


ネーミング、またパッケージデザインも同じことが
言えますが、「インパクト」の反対の極には、
「上品さ」、あるいは「洗練さ」があります。


小林製薬の場合、一般の小売店で売られる消費財ですから、
まずは、消費者に商品名を覚えてもらえること、
店頭で手に取ってもらえることが重要。


気取った名前を付けたり、きれいなパッケージにするより、
インパクト優先、ストレートなネーミングとパッケージで
勝負!ということなんですね。


なお、小林社長が注意を促していましたが、

インパクトか上品か

どちらを重視するにせよ、
どっちつかずの中途半端はよくありません。

コミュニケーションの基本方針(たとえば「わかりやすさ」)
をきちっと決めて、とことんやりぬくことが大切でしょう。


ついでながら、最近、「カロリーゼロ」のコーラが、
コカコーラ、ペプシコーラの両社から出揃いました。

・コカ・コーラ ゼロ(ZERO)
・ペプシ  ネックス(NEX)


「わかりやすさ」ではコカコーラに軍配が上がりますね。
さて、どちらが勝つでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 10:56 | コメント (8) | トラックバック

じぶんユビキタス化

私は、ブランディング、すなわち

「ブランドを構築すること」

はどういうことかを説明する場合、次の3点をお話します。


・そのブランドを知っている人を増やす
 →ブランド認知向上

・そのブランドに固有のイメージを結びつける
 →固有のブランド連想形成

・そのブランドに対する信頼・好意を高める
 →ブランド信頼、ブランド好意向上


要するに、あるブランドが、多くの人に知られていて、
そのブランドの名称やロゴなどが特定のイメージを喚起し、
さらに、ブランドに対して人が信頼や好意持っている場合、
そのブランドはブランド構築に成功している状態だと言えます。


ただ、商品によってはすべての人に知られる必要はなく、
その商品を買ってくれそうなターゲットユーザーに知られて
いるかどうかがポイントですね。


まいどベタな例ですが、

「吉野家」

はブランド構築に成功していますよね。

ターゲットユーザーの男性なら誰でも知っている名称であり、
吉野家といえば、「牛丼」という固有のイメージを喚起し、
品質に対する信頼や好意度は非常に高い。

米国産牛肉が手に入らない時期、あえて固有のイメージで
あった「牛丼」の販売を中止したのは、ブランドに対する
信頼、好意を失わないためだったことはご存知でしょう。


さて、このブランディング、基本的に

「広告・広報」

といったマーケティング・コミュニケーションによって実施
されてきたわけですが、近年はインターネットの活用が
ますます重要になってきていることは、いまさら言うまでも
ないことですよね。


特に新興企業が、新たにブランドを構築しようと思ったら、
ネットの活用が不可欠です。

以前、

「検索されないものは存在しない」*

というテーマで拙文を書いたことがありますが、
ユーザーのほとんどが「検索」によって情報を見つけ出す時代、
ネットでの存在(プレゼンス)が低いのは致命的です。

*検索結果集合

ですから、ネット上に自社に関連したさまざまな情報をアップ
しておくことによって、できるだけユーザーの目に見える機会を
増加させる努力が必要になってきます。

まあ、一番効果的なのは

「毎日ブログ書きましょう」

ということなんですが・・・


こうすることで、自社の認知度を向上させていくことができます。

特に、ネットの場合、一度アップされた情報は半永久的に
露出され続けること。これは、一瞬目の前を通過するだけで、
ほぼ2度と見られることのない従来のマスメディア広告と決定的に
違うメリットです。


また、自社に対して固有のイメージを結びつけることも、
ネットでは比較的容易です。

有効なのは、いろいろ検索してみてまだ手垢のついていない
独自の言葉を探し出して、それを自社のイメージの核
(コンセプト)に据える方法。

要するに、他社があまり使っていない言葉を自社でガンガン
使っていけば、最小の努力で、固有のブランド連想が強化
できるというわけです。


私が、メルマガ&ブログのコンセプトとして

「マインドリーディング」

という言葉を選んだのも上記の理由からです。
(まだまだブランド構築途上ですけど・・・)

ちなみに、ベストセラー「ウェブ進化論」という名称を採用したのは、
著者の梅田望夫さんによれば、当時検索で何も引っかかって
こない言葉だったからなんですよね。


そして、ネット上に自社や商品に関わる情報がたくさんあれば
あるほど、「量」が「質」に転化して信頼が形成される。

そうなんです。情報そのものの信頼性以上に、
情報量が多ければ多いほど、信頼は自然に高まるんですよ。

さらに、頻繁に情報が更新されれば、親近効果によって
「好意」も深まります。


ですから、繰り返しますが、今、ブランディングに
取り組むなら、あらゆるところでネットで検索されるように
さまざまな機会をとらえて情報をばらまくことが必須だと
思います。


私の場合、法人化してはいるものの、実質個人事業ですので
この方法を

「じぶんユビキタス化」

と呼んでおります。(笑)


先の梅田さんは、同じことを

「分身の術」

とたとえてらっしゃいますが。


そうそう、梅田さんが指摘されていることで、さすが鋭いと
思うのが次の点。

自分(自社・商品)の情報をネットにあふれさせることによって、
検索結果の上位は、ほとんど自分が書いた情報で占められること
になる。

すると、他社が書いた自分(自社・商品)に対する非難や中傷
など、ブランドにとってネガティブなイメージとなる情報を
排除できるのです!

なぜなら、検索結果の2ページ目以降はあまり見ないですからね。


まあ、それなりに価値のある情報を大量に生み出し、
ネットにアップし続けることは、決して楽なことじゃありません。

でも、最小の費用でブランド構築に成功したかったら、

「じぶんユビキタス化」

に取り組むことをオススメします。

投稿者 松尾 順 : 11:20 | コメント (2) | トラックバック

不二家の「思い出の小箱」をどうする?

「ブランド」とは、消費者の頭の中にある

「思い出の小箱」

である。


私が一番好きなブランドの定義です。

端的には、この小箱の蓋には、そのブランド名称が
貼り付けられていると考えてください。

つまり、商品名称やロゴマーク、パッケージデザインなど、
他の商品と違うものとして識別できる、その商品の「特徴」と
結びついたさまざまな「思い出」が詰まった小箱がブランドです。

大事なのは、小箱の中の「思い出」なんです。

この「思い出」、言い換えると「記憶」は、
その商品を実際に使った時の手触りや、生じた気持ちといった
実体験に基づくものもありますし、新聞・雑誌広告、
TVコマーシャル、あるいは人から聞いた話など、さまざまな
出会いを通じて作られたものです。


人気ブランドの場合、その思い出の小箱には、
たくさんのすばらしい記憶が詰まっています。


一方、人気のないブランドの小箱は、
ほとんど中身が空っぽか、あるいは、
最悪の記憶でいっぱいである場合のどちらかです。


中身が空っぽなのは、まだほとんど知られていないか、
記憶に残らない程度の価値しか持っていないと消費者に
思われて無視されてしまっているからです。

でも、空っぽの場合は、これからどうやって
「すばらしい記憶」を埋めていくべきかを考える余地が
ありますから、まだ救いがありますね。


しかし、最悪の記憶がいっぱい詰まっているブランドは、
いったんそれらの記憶を小箱から出して、すばらしい
記憶と入れ替えなければならないので大変です。

「雪印」乳業も、小箱の記憶の入れ替えに
いまだ苦しんでいますよね。


今回の不二家の事件でも、
すばらしい記憶で一杯だった「不二家」の思い出の小箱は、
わずか1ヶ月ほどの間に、「最悪の記憶」であふれかえって
しまいました。


「ペコちゃん」に罪はありませんから、
ペコちゃんを見ると思い出す子供のころの楽しい記憶や、
パラソルチョコレートのおいしい記憶など、
すばらしい思い出はまだ小箱の片隅にしぶとく残っています。

でも、ますます増殖する「最悪の記憶」に覆い隠されて
ほとんど見えなくなりつつあります・・・


不二家の「思い出の小箱」、どうしましょ?

投稿者 松尾 順 : 02:54 | コメント (0) | トラックバック

ブランド・プレミアム

「ブランド」が確立されていると、
そうでない他の商品よりも優先的に選択され、
また多少高くても、そのブランドを選んでしまう。

このブランドが持つ価値のことを

「ブランド・プレミアム」

と言いますね。


日経デザイン最新号(2007年2月号)では、
これを「ブランド代」(ブランド貢献度)と呼んで
消費者調査を通じて数値化する試みをやっています。


今回の調査対象商品のうち、
このブランド貢献度がもっとも高かったのが、
男前豆腐店の豆腐でした。

豆腐の標準的な相場価格(基準価格)を120円とした時、
いくらまでなら高くても男前豆腐を買いますかという質問の回答
によれば、平均価格は「143円」となっています。

これは、基準価格(120円)の19.2%増し。

この比率が「ブランド貢献度」、すなわち
「ブランドプレミアム」と呼べる数字です。


ちなみに、1位から5位までは次の通り。

1位 男前豆腐店「男前豆腐」
2位 シーキューブ「チョッコラータドーロ」
3位 メルセデスベンツ「Sクラス」
4位 プラスマイナスゼロ「加湿器」
5位 セイコーエプソン「カラリオ」


なお、男前豆腐については、

「内容量と価格が同じだった場合、
一般的なメーカーの豆腐と男前豆腐のどちらを買いますか」

という設問(ブランド支持率)に対して、

回答者の80.3%が

「男前豆腐を買う」

と回答しており、男前豆腐のブランドパワーの強さを
感じさせる数字となっていますね。


さて、私がこの調査で最も興味深いと思ったのは、
シャープの「アクオス」です。


シャープは、2000年に当時の社長が

「5年後に液晶テレビに置き換える」

という目標を掲げ、
以来、一貫したブランディングを継続してきました。


その結果がどうなったかというと・・・


「基本機能、性能、価格が同じだった場合、
 一般的なメーカーの製品と「アクオス」のどちらを
 買いますか」

というブランド支持率を測定する質問に対して調査対象者は、

「88.7%がアクオスを買う」

と答えています。このブランド支持率は今回の最高値。

10人のうち9人が、
条件が同じなら「アクオス」を選好するというのは
すごいですね。


ブランド貢献度については、40万円の基準価格に対して、
平均41万6748円、つまり「基準価格の4.2%増し」です。

つまり、アクオスなら、他の商品より4.2%割高でも
買いたいと思うということですね。

ただし、基準価格が40万円と絶対額が高いですから、
100円そこそこの豆腐などと単純に比率で比較することに
ついては注意が必要ですが。


また、

「ソニーの液晶テレビ「ブラビア」と比較して、
基本機能、性能、価格が同じだったらどちらを買いますか」

という設問に対しては、なんと84.7%の人が、

「アクオスを買う」

と答えています。


世界的なトップブランド「ソニー」も、
液晶テレビ分野では、「アクオス」に完璧に
負けているわけです。


地道で継続的なブランドづくりの有効性が実感できる調査結果
じゃないかと思います。


うろ覚えですが、2000年当時は、液晶テレビの将来性はまだ
不透明で、当時の社長いわく、

「液晶テレビに注力する」という決断には相当勇気が必要だった

というのをどこかで読んだ覚えがあります。


ブランディングは息の長い企業活動だけに、
トップのコミットメントがきわめて重要です。

投稿者 松尾 順 : 10:09 | コメント (0) | トラックバック

「ネガティブ・エクイティ」を受け入れ活かす

ブランディングは、端的に言えば、
ターゲットユーザーの頭の中に、自社の商品に対して理想とする
イメージを形成すること。

つまり、「ポジティブなイメージ」を植えつけて、
ユーザーの期待感を高めることです。

赤福で言う「先味」。

経営コンサルタントの石原明氏は、
実際の商品自体が優れていることは大前提として、まず

「良さそうに思える」

ことが大事だと言っています。

これは、商品のよさをまだ知らない新規ユーザーにとって
特に重要な点です。

「良さそうに思えない」と、
そもそも試してみる気にならないからですね。


だから、ネーミングやパッケージデザインなどが
ブランディングで重要な要素になるわけです。


しかし、どんなに「ポジティブなイメージ」を植えつけたいと
思っていても、そもそも商品が持つネガティブな特性(欠点)を
隠すことは困難です。

最近は、ネットを通じて詳細情報の入手が容易になりましたし、
欠点をわざと隠して美点だけを訴求しても、
消費者には簡単に見透かされてしまいます。


きれいごとを言えば言うほど、

「自分たちに都合のいいことしか言わない会社」

というネガティブなイメージが強化されていく時代です。


そこで、逆転の発想。

商品の持つネガティブな特性(「ネガティブ・エクイティ」)を
理解し、受け入れることから活路を見出す手もあります。
(PRESIDENT、 ハーバード式 仕事の道具箱、2007.2.12)


例えば、米国で販売しているリプトンのインスタントスープ、

「カップ・ア・スープ」

は、これまで優しさに溢れる早親と笑顔の子どもの広告を
通じたブランドイメージを一貫して形成してきました。

しかし、このイメージが通用したのは70年代まで。


今日では、

まともな親なら、多くの科学調味料を使用し、
栄養分の少ない食べ物を家庭での夕食の一品として
出すことはない

というネガティブな事実を担当者が素直に受け入れ、
当該製品のポジションを変更。(リ・ポジショニング)


「カップ・ア・スープ」をオフィスでの軽食として、
午後遅く一息入れるときのスニッカーズやコークに代わるもの
として売り込むことにしました。

こうして、同商品のネガティブな特性が問題とならない
新しい文脈を見つけたことで、20%の価格引き上げを
行ったにもかかわらず累積売り上げで60%増を記録したそうです。


もはや、企業側が一方的な情報操作ができない今、
ネガティブな側面を見ない振りをしたり、隠そうとせず、
それを直視し、どうやったらマイナスをプラスに転じるかに
知恵を絞るべきなんでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 10:23 | コメント (0) | トラックバック

河ふぐ

年末に「ラ・フランス」をいただきました。
西洋梨が大好きな私は狂喜乱舞!(笑)

食べごろになるまで1週間以上かかったので、
つい数日前に初めて食べたばかりですが、やはり最高でした!


さて、以前、このメルマガ&ブログでも書きましたが、
「ラ・フランス」は、以前は「みだぐなす」と呼ばれてました。

・みだぐなすの話

「みだぐだなす」は、

「みっともない梨」

という意味の方言だそうですが、その意味にふさわしく、
なんともさえない名称です。

しかし、「ラ・フランス」に名称を変えたことが、
贈答品としても使える高級フルーツとして扱われるように
なった要因だと言われています。

これは、「フランス」という言葉が持つ、

高級感やおしゃれなイメージを

うまく借用している典型例でしょう。


最近、同様のネーミングの妙の例を知りました。

それが、

「河ふぐ」

です。


「河ふぐ」って何のことだかご存知ですか?

飛騨高山河合町で養殖している

「飛騨清流なまず」

のことです。
(アメリカ原産で、正式名称は
 「アメリカンチャネル・キャット・フィッシュ」)

なまずにはひげがあるので、
キャットフィッシュと英語では言うんでしたよね。


なまずは、西洋梨と同様、見た目はあまり良くありませんが、
味や食感は、ふぐそっくりだそうです。

以前は、そのままストレートに

「なまず料理」

と呼ばれていたそうですが、平成4年に当時の岐阜県知事が、

「高級河ふぐ料理」

と命名されて以来、「河ふぐ」という名称が使われるように
なりました。

平成7年には、下関のトラフグと味の勝負を行ったそうです。


「なまず料理」と言われると、
ちょっと食欲減退しちゃいますが、
「河ふぐ料理」と言われると、いかにも高級そうですし、
食欲そそりますよね。

これも、「ふぐ」の言葉がもつ好意的なイメージを
うまく借用したケースです。


そういえば、サントリーの「銀座カクテル」も、
「銀座」という言葉の持つ高級イメージをうまく
ネーミングに活かしてます。

ただし、単なる名称だけでなく、
銀座千疋屋とのコラボレーションですので、
ちゃんと意味があります。

銀座千疋屋が選んだフルーツの果汁をぜいたくに
使ったカクテル。「プレミアム・カクテル」と
呼ぶにふさわしいネーミングですね。

ターゲットは女性(F1層:20-35歳)かな。

私は試しに一度飲んでみましたが、甘ったるすぎて
ちょっと苦手でした・・・


ネーミングは、いざ自分が考える立場になると、
とても難しいものです。

安易ではありますが、すでに好意的なイメージが
ぶらさがっている言葉を借用するのは、
ある程度効果が見えるだけに採用しやすい手ですね。

投稿者 松尾 順 : 10:23 | コメント (0) | トラックバック

香りのブランディング

以前、

「匂いのマーケティング」

で書きましたが、

鼻、つまり嗅覚器は、目や耳など他の感覚器と違って、
脳と直接つながっています。

このため、「香り」「匂い」は、
感情を引き起こす脳(大脳辺縁系)を刺激し、
理性的に考えることのない行動を喚起しやすいのです。


この効果は、以前から商売人はわかってました。
うなぎ屋さんや焼鳥屋さんは、店先でたれの焼けるいい匂いを
流して、通行人の食欲を刺激してましたよね。


最近は本格的に「香り」をビジネスに取り入れようという動きが
目立ちます。(日経MJ、2006/11/03)

たとえば、アウトドアブランドの「ザ・ノース・フェイス」では、
ヒノキの香りを流して、都会のオアシスの雰囲気を
醸し出しています。

2年前に改装した際に、エッセンシャルオイルを流す芳香器を
導入したそうですが、改装初年度で売り上げが前年比50%アップ。
現在も2桁増で推移。

香りのおかげで売り上げが伸びたかどうかを測定することは
難しいでしょうけど、店内の快適さの要因になっていることは
間違いないでしょうね。


また、銀座にある高級腕時計ブランド「フランク・ミューラー」
では、かなりきつめの、ツンとするオリジナルの香りを
流しています。

フランク・ミューラーは、創立14年の新興ブランド。

老舗の購入腕時計とのブランド差別化のため、
あえて、好き嫌いのはっきりする「香り」を店内に漂わせる。


「たる型のフォルムなど、前衛的なブランドイメージを
 来店客に伝える」

ワールド通商フランク・ミューラーブティック営業部、
奥野倫也氏は、このように説明しています。

「香り」がブランド構築の重要な一要素として
扱われているわけです。


さて、香りのマーケティング効果は、以前から経験的には
わかっていたものの、あまりビジネスには採用されてこなかった
ですよね。

日経MJによると、

「香りを構成する物質がどのように人間に作用するかの
 生理的・化学的メカニズムはほとんど未解明」
 (近畿大宮沢三雄教授)

という点が問題でした。因果関係がよくわからなくて、
効果測定もしにくいからということでしょう。


ただ、この問題も

「ニューロマーケティング」

の浸透によって、

どんな香りを流すと、脳のどの部位が反応するのか

といったことを詳細に把握できるようになれば、
大きな発展が望めそうな分野ですよね。

投稿者 松尾 順 : 10:26 | コメント (0) | トラックバック

安すぎるから買わないよ!

米国では、2006年度の自動車部門サービス顧客満足度調査で
第1位を獲得、英国では同調査で6年連続1位と、
海外で大成功している、トヨタの高級車ブランド「レクサス」。


「レクサス」が日本に逆輸入され、本格展開を始めてほぼ1年が
経過しました。メインのターゲットは、もちろん「富裕層」です。

2005年の販売台数は、目標の半分の1万台にとどまったそうです。
(日経産業新聞、2006/08/30)


初年度は基盤づくりの時期であり、目標台数も元々大きめだった
と言われていましたが、営業の現場では、従来の「待ちの営業」
の方針を修正。

リッツカールトンホテルなどの優れたサービスに学んだ、
丁重なおもてなしを基盤とする店舗での顧客対応に加えて、
外回りの営業にもチカラを入れています。


さて過去1年、あとひとつレクサスがふるわなかった最大の理由は、
輸入高級車からの乗り換えがあまり進まなかったからです。

ベンツやBMWなど強敵輸入車の強みは、なんといっても
「ブランドイメージ」ですよね。

海外ではすでに互角に近いところで戦えているとは言え、
日本ではまだこれからのレクサスとしては、
「ブランドイメージ」の向上を最優先課題とすべきです。

ですが現実にはそうしなかった(できなかった?)のが
販売の足を引っ張ったようです。


レクサスの「ブランドイメージ」向上には、
まず、高いブランドイメージを形成するパワーを持つ強力な
基幹商品を投入すべきですよね。

ところが、お値段700-1000万円の基幹車種「LS」の投入は、
ついこの間、今年の7月でした。
(「LS」の出足は好調のようです。)


しかし、最初に投入した「IS」(旧アルテッツア)は、
最もレクサスらしいデザインではあったものの、
値段が安すぎました。

安すぎたといっても300万円台、私には手がでませんが(笑)、
それでも、この価格帯は「(富裕層向けの)高級車」
とみなすことはできないですよね。


マーケターの方ならほぼ常識のことだと思いますが、
高級ブランドは値段が高ければ高いほど、ある意味
ありがたがられますよね。

数千万の高級車を買う、乗り回すということは、
それだけの経済力がある、社会的成功を収めたということを
回りに暗示する「シグナル効果」を持つからです。

つまり、高級車では、性能が良い、燃費が良い、安いといった
「実用価値」ではなく、「象徴的価値」が重視されるわけです。


ところが、「IS」の場合、若年層も視野に入れるため、
価格をあえて300万円台に抑えた。つい色気を出してしまい、
ブランドづくりだけに注力せず、ターゲット層を拡大して
販売台数増加を狙ったことが問題でした。

結果を見る限りでは、この色気が逆効果になってしまった
ようです。本来のターゲットであった富裕層が、
「IS」に対して「象徴的価値」を認めなかったからです。

おそらく、

「300万円じゃ、安すぎるから買わないよ!」
 (成功者の自分にふさわしくないからね)

と判断されてしまったんでしょうね。


しかし、ようやく「象徴的価値」を認めることのできる「LS」を
手にしたレクサスブランドの2年目の展開が楽しみです。

投稿者 松尾 順 : 13:47 | コメント (0) | トラックバック

独りよがりなブランド拡張・・・カシオ「エクシリム」

先日、某法人向けサービス新市場の認知度調査を実施したところ、
やはり、革新的なサービスを先駆者として立ち上げた新興企業が
圧倒的に認知度が高く、ブランドイメージも際立って良いという
結果になりました。

この新市場は、老舗のブランド力のある企業が次々と参入して
激しい競争状態になっていますが、

新サービス=上記新興企業

というブランドイメージは強固で、
なかなか崩せないものだということがわかりました。


さて、こうした強いブランドを確立した企業は、
そのブランド力を有効活用したいと考え、さまざまな
商品カテゴリーにブランドを拡張していくものです。

もちろん、成功することも失敗することもありますが、
まず間違いなく失敗するのは、企業側が自分たちの都合だけ
しか考えない場合ですね。


つまり、失敗するのは、

「独りよがりなブランド拡張」

をやってしまった時です。


過去にブランド拡張の失敗事例は山ほどあるのですが、
直近では、カシオのデジカメ「エクシリム」が挙げられます。
(日経ビジネス、2006年8月7日・14日号)


「エクシリム」は、2002年に
名刺サイズの薄型・軽量のデジカメとして
華々しく登場しましたよね。

特に、胸ポケットに入る「究極の薄さ」(11.3mm)は、
他社と明確に異なる強烈なブランドイメージを
構築することに成功しました。

実は、私もエクシリムの後継機を愛用しています。
常に持ち歩いて負担にならない大きさ、薄さ、軽さは最高です。
(最近は、さすがに他社製品も遜色ないですけど・・・)


カシオは、このエクシリムブランドの拡張戦略の第一弾
として、2003年から新シリーズ「エクシリムズーム」を発売。

ズーム機能を加えて画素数を引き上げた同シリーズは、
この高性能化のために本体の厚さは従来2倍(23mm)に
なってしまいました。


このブランド拡張戦略の場合、どうやら
製品の高性能化が先にあったようです。

「エクシリム」のブランドを冠したいけれども、
同シリーズはこれまでの「薄さ」が強調できない。

そこで、エクシリムのブランドイメージの柱であった
「究極の薄さ」を弱め、

「薄型でコンパクト、スタイリッシュ」

と再定義してつじつまを合わせてしまいました。

既に、企業の「独りよがりさ」が顔を出しつつありますね・・・

幸い、同シリーズはヒットしました。
他社同等製品よりはまだ薄かったからです。


カシオでは、
さらにエクシリムブランドを中・上級者向け製品に
拡張することを狙いました。

2004年に投入した

「エクシリムプロ」

です。


「エクシリムプロ」は確かに優れた性能を持っていましたが、
従来のカメラを思わせる、一回り大きくて無骨なデザインを
しています。

エクシリムのブランドイメージを構成していた「薄さ」
だけでなく、「小ささ」「軽さ」「スタイリッシュ」さなど、
すべてを捨ててしまいました。

そこで、カシオでは、エクシリムの定義を

「エクシリムとはカシオによる製品差異化そのものを指す」

と、今度は完全なる「独りよがり」コンセプトに変えます。

ブランドをどのように(再)構築するかは企業の戦略マター
(自由裁量)かもしれませんが、上記のような意味不明の
コンセプトでは、ユーザーに伝えることはできないですよね。


「エクシリムプロ」は売り上げ苦戦のまま生産を終了。
現在は、再び従来のブランドイメージ「薄さ」のコンセプトに
立ち戻ったシリーズを展開しています。


おそらく、カシオ社内では、

「エクシリム」のブランドさえあればなんだって売れる

といった強引な意見に引っ張られたんでしょうね。
特定のブランドが大成功した時に必ずみられる「おごり」
現象です。


ブランド拡張を行う場合には、
ユーザーが製品に対して持っている「ブランドイメージ」
との乖離を無視してはいけない。


ユーザー不在の独りよがりなブランド拡張は厳禁です。

投稿者 松尾 順 : 18:43 | コメント (2) | トラックバック

「au」のブランド拡張が気づかせてくれること

今日のお話は、

「コミュニケーションターゲット」

の役回りを勘違いすると困ったことになるという事例です。
(日経ビジネス、2006.7.3、特別編集版)


「au」をサービスブランドに据えたKDDIのブランド戦略は、
大成功したと言えますね。

おかげで、王者ドコモに続く2番手の地位を磐石のものと
しましたから。

この成功の最大の牽引力となったのは、
著名デザイナーを採用した「au design project」が
ヒット機種を次々と生み出したことにあるでしょう。


ところが、ちょっと首をかしげてしまうんですが、
KDDIの法人向けの携帯電話サービスには、「au」のブランド名を
昨年(2005年)9月まで冠していなかったそうです。


「KDDIモバイルソリューション」

これが、以前の法人向けサービスの名称。
大変失礼ながら、実に平板で面白みのないネーミングですね。


なぜ、法人向けサービスに「au」を採用しなかったのでしょうか。

それは、個人向け携帯サービスのブランドとして打ち出した「au」
の中心顧客が「若年層」であるのに対し、
法人向けの採用の意思決定者(決裁者)は「中高年層」。

つまり、ターゲットが異なるからという理由でした。


ただ、上記サービスに対する法人客の反応はぱっとしませんでした。

ある顧客からは、

「KDDIさんは、
 法人向けの携帯電話には力を入れていないようですね」

とまで言われてしまいます。


頭を抱えたKDDIは、「au」を使わないという方針を転換、

「Business au!」

というサービスブランドを考案し、展開を図りました。


結果は劇的です。

専用ホームページへのアクセス件数は6倍以上に伸び、
2006年3月期の企業向け携帯電話の新規契約件数は、
前期の1.6倍になっています。

高い認知度と、「先進的」「カッコいい」といった
好意的なイメージを持つ「au」ブランドですが、
他のサービスにこの名称を拡張しただけで、
これほどの効果があるというのは驚きですよね。


さて、昨年まで「au」ブランドの採用を拒んでいた
KDDIさんの勘違いは、

「サービス決裁者=サービス選定者」

と考えていたことにあると思います。


確かに、法人向けサービス導入のハンコを押すのは
中高年の管理職でしょう。

でも、どの企業のサービスを使いたいかという選定は、
現場のヒラ社員(若年層)に任せるんじゃないでしょうか。

たぶん、

「どこのサービスがいいか、検討して稟議書回してくれ」

でしょう。


これ、自家用車を購入する時の契約者(決裁者)は
通常ダンナですが、車種選定権は、
奥さんや子供(影響者)が握っていることが多い
というのと似た構図です。


BtoBの場合、BtoC以上に、
このターゲットユーザーの役回り(決裁者と影響者)や
相互の力関係がわかりにくく、

・コミュニケーションターゲットを誰にするか
・どんな訴求内容とすべきか

といったマーケティング・プランニングで頭を悩ますところです。


「au」の事例も、
BtoBマーケティングの難しさを再認識させられますね。

投稿者 松尾 順 : 15:40 | コメント (2) | トラックバック

風で織るタオル・風で動くはてな

「風で織るタオル」

なぜか優しく暖かい響きですよね。

「風で織るってどういうこと?」

という好奇心も喚起される秀逸なネーミングだと思います。


「風で織るタオル」は、
タオルの名産地、愛媛県今治市の地場企業、
池内タオル(株)のコンセプトです。

池内タオルは、日本で最初の小電力契約企業で、
使用電力を100%、「風力発電」でまかなっています。

だから、同社のタオルは「風」で織られているというわけです。

原糸にはオーガニックコットンを使用した高品質の製品も
揃え、それらは、バスタオル1本で3-4千円します。

しかし、「風で織るタオル」のコンセプトのおかげで
際立ったブランドを確立しており、売れ行き好調。

生産コストでは、中国を初めとするアジア製には勝てず、
危機に瀕している今治のタオル産業にあって、
池内タオルは、独自の「コンセプト」を打ち出して成功した稀有
な企業といえます。


さて、風で織るタオルにヒントを得たのかどうか知りませんが、
変な会社の(株)はてなが、

「風で動くはてな」

というコンセプトを打ち出しましたね。

池内タオルと同様、同社のサーバの消費電力を風力発電で
まかなうことにしたんです。

すなわち、「はてなサーバーのグリーン電力化」です。


「はてな」さんは、ここでひとひねりを加えました。

「風車」をモチーフにしたオリジナルTシャツを販売して、
代金2500円/着のうち、1000円分をグリーン電力化に充当
するそうです。


同社では、

「ユーザーと皆さんと共に動かす風車」

を目指しているということですが、私の勘違いでなければ、
これは同社が支払う電力費用をユーザーに
肩代わりしてもらうということですよね・・・?


さすがです。

ユーザーが育てている会社というイメージのある
「風」変わりな「はてな」ならではの取り組みでしょう!

投稿者 松尾 順 : 09:58 | コメント (0) | トラックバック

文字のないキーボード

事務所のパソコンにつないでるキーボードの文字が、
あちこち消えかかってます・・・

買い換えて1年足らずですが、やはり安物だからですかね。

いちおうタッチタイピングができるので
多少文字が消えても使用には差し支えないのですが、
もし全部の文字が消えちゃったら、さすがに使いこなせないです。


しかし、プロのプログラマーは違いますよね。
キーボードが商売道具そのものですから。

「キーボード一本、さらしに巻いて・・・」(ふ、古い・・・?)

当然ながらすべてのキーを空で覚えています。


こうしたプロ開発者に人気なのが、

キーボードに文字の表示(刻印)が一切ない、

「ハッピー・ハッキング・キーボード 無刻印モデル」
(写真はホワイト、ブラックもあります)

です。

結構以前から知られたモデルですが、ご存知でしたか?


文字がないので、実にすっきりした顔つきしてますね。
でも、素人を寄せ付けない威圧感があります。(笑)

プロじゃなきゃとても手が出せない。

値段も1本、約2万5千円。
プロ仕様にふさわしい値段です。

しかし、過去7年間で10万台も売れています。


さて、「文字のないキーボード」なんて発想、
どこから生まれたんでしょう?

開発した(株)PFUの松本部長によると、

ピアノの練習をしている娘さんが、
ピアノのキーボードに「ド」、「レ」、「ミ」などと音階を
書いて貼り付けていたのを見たのがきっかけでした。

そして、松本さんは、

「コンピュータ用キーボードの文字をなくしてしまったら
 どうだろう?」

という逆転の発想をしたわけです。


ピアニストは、音階の書いてあるピアノは使いませんよね。
プロのIT開発者なら、文字がなくたって支障はないはずと
考えたんでしょう。

ただ、売れている最大の理由は、文字がないキーボードは、
そのユーザーがプロであることを示す「シグナル」の
機能を持っていることです。

つまり、文字のないキーボードは、

「私のユーザーはプロなんですよ」

という信号を発信している。

その信号を受け取った人は、

「さすがですね!」

と感心してくれ、
プロフェッショナルの自尊心が大いにくすぐられると
いうわけです。


ハッピー・ハッキング・キーボードの事例は、
やみくもに製品を便利にしようとする思想は、
ユーザーセグメントによっては逆転してもいいこと、
また、製品が発信する無言のメッセージ(=シグナル)を
意識する必要性を認識させてくれるものでしょう。

投稿者 松尾 順 : 14:43 | コメント (4) | トラックバック

ガキが着るものはイヤ

子供服ブランドで急成長してきたナルミヤ・インターナショナル。
ご存知でしょうか。

同社社長、成宮雄三氏の本、

「チャンスは6時の方向にある-小が大に勝つ逆張りビジネス論」

を読むと、成宮さんは、前例にとらわれない大胆なアイディアで
逆境をチャンスに変えてきた人であることがわかります。


さて、事業に100%の成功はなく、時に失敗することも
覚悟しなければなりませんが、
ナルミヤインターナショナルさんも最近、

「ブランド拡張戦略」

に失敗しちゃいました。
(日経MJ、2006.05.26の記事より)


同社の主力ブランドは、小学校高学年~中学生のジュニア向けの
「エンジェルブルー」です。
ジュニア服としては異例の1万円を超える値段のものでも
飛ぶように売れているというので、注目されていたわけなんですが。

ナルミヤさんはここで欲を出しすぎたか、エンジェルブルーの
支持層を広げるべく派生ブランド、

「エンジェルブルーキッズ」

を04年8月、発売します。小学校低学年層向けです。

子供服という同じカテゴリーながら、新たなターゲット市場を
狙った「ブランド拡張戦略」を採用したんですね。


ところが、しばらくして既存ユーザーだった小学校高学年~
中学生女児が同ブランドを購入しなくなり、
ナルミヤの百貨店などでの売上げは、04年11月から前年割れを
始めるようになります。

結果として、直近年度の2006年1月期の決算は、1995年以来、
初めての減収減益に陥りました。


エンジェルブルーのような、既に確立されたブランドをテコと
して新市場に展開するのは、新たなブランド構築のための投資が
最小限で済むので大変効率的ですが、
同時にブランド拡張の「リスク」にも注意を払う必要が
ありますよね。

ブランド拡張のリスクの一つは、あまりにも広範囲にブランドが
拡散してしまうことによる「希少価値の減少」です。

もう一つは、新たに加わったネガティブなブランドイメージが
もたらす「ブランド価値の破壊」です。


「エンジェルブルーキッズ」の場合、後者のケースです。

キッズという言葉が付いてはいるものの、

エンジェルブルーは低学年のガキが着る服というイメージ

が広がりました。
このため、従来の小学校高学年~中学生のユーザーにとっては、
「ガキが着るものはイヤ」だということで、
ネガティブなブランドイメージが付加されることになったんですね。


一般論として、ユーザーのライフスタイルを表現するような
高級ブランドの場合、それが格下の層(下層階級や低年齢層)に
広がった時点で、従来のユーザーはそのブランドから離れて
いきます。自らのライフスタイルとのイメージのズレが発生
するからです。

このような従来のユーザーが購入をやめてしまうような
新たなユーザーのことを、オピニオンリーダーの逆の意味で、
「ディスオピニオンリーダー」と呼びます。

エンジェルブルーの場合、低学年が
「ディスオピニオンリーダー」の役割を果たし、
従来のユーザー離れが起きたということになりますね。


まあ、おじさんの私から見れば、小学生~中学生はみんな
ひとくくりで「ガキ」にしか見えないんですけど。

とこんなことを言ったら、
中一の娘に怒られてしまいそうです。(笑)

投稿者 松尾 順 : 11:02 | コメント (5) | トラックバック

張り手のアサヒ、揉み手のキリン

2006年1-3月期、ビール系飲料トータルでの市場シェア1位の座を
キリンがついにアサヒから奪い返しました。

実に6年ぶり。

この久しぶりの逆転劇の立役者は、キリンの「のどごし生」。
癖のない味、シズル感のあるエモーショナルな
パッケージデザイン、そして現場営業のがんばり、など
総合力の勝利ということらしいです。

のどごし生は、第三のビールと呼ばれるジャンルの
トップブランドに育ちました。
発泡酒ジャンルのキリン「円熟」も売れていますね。


一方、アサヒは、第三のビールの「新生3」が不振。
数ヶ月前に売り上げ挽回のためネーミングやパッケージデザイン
をリニューアルしたばかりですが、あいかわらずパッとしません。

私も一度だけ「新生3」を試してみましたが、
なんてことのない味ですし、デザインも硬質的で魅力を感じない
ので、結局、二度と飲んでいないです。


私個人の感覚的な評価になってしまうのですが、
アサヒさんは、スーパードライのヒット以来、
技術志向に走りすぎのようです。技術過信です。

「うちの技術はすごいだろう!飲んでみなよ!」

みたいな雰囲気が感じられるんですよね。

これは、まるで消費者を「張り手」で圧倒しようとしてる
ようなものです。

「どうだ、どうだ、どうだ・・・」

受けて立つ消費者としては、すごいのはわかったけど、
疲れちゃった、と土俵をおりてしまった。

それで今、アサヒさんは一人相撲を続けてるわけです。


一方のキリンさん、スーパードライにはまだまったく
歯が立たないので、発泡酒や第三のビール市場に
活路を求めるしかない。

大げさですが、見栄もプライドも捨て、

「ぜひうちの商品を飲んでください。お願いします!」

と頭を下げ、「揉み手」をしながら消費者にすり寄っています。
消費者としては、悪い気はしないですね。

「なかなか殊勝じゃねぇか、そこまで頭を下げられちゃあ、
 飲まないわけにはいかないなあ」

と意気に応えている。(笑)

ぐっさんが、キリンの営業マンに扮し、
店頭での試飲風景をそのまま再現したコマーシャルは
こうしたキリンさんの低姿勢を象徴するものでした。

「張り手のアサヒ」、対する「揉み手のキリン」

しばらくは、ハードアプローチよりソフトアプローチの
キリンさんの勢いが続くでしょう。


ただ、アサヒの新商品「ぐび生」は、ネーミングからして
これまでのアプローチを変えてきた気配がありますけどね。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

顧客の平均年齢71歳

私の持つ、たくさんの暗い過去のひとつに、

「旅行会社の社員で悩み多き日々を過ごした」

という経験があります。(^-^)

新卒で入った中堅の旅行会社でしたが、
いろいろと挫折や悲哀を味わいました。
(会社自体はいいところでしたよ)

今もあいかわらず不器用ですが、
当時はもっと生き方が不器用だったせいです。


私のことはともかく、(⌒o⌒;

旅行会社は、以前は「旅行代理店」とも呼ばれていたように、
鉄道、バス、航空券などの交通機関や、ホテル、旅館などの
宿泊施設、そして、名所・旧跡などの観光地・施設の手配の
「代行」によって手数料を得ます。

手数料率は、ざっくり丸めていうと、高くても20%前後、
低いものは3%程度です。
これが=「粗利益率」ですから、
人手のかかる商売にしては利益率が著しく低い。

手配代行だけやっていては儲からない商売です。

この構造は、広告業界と非常に似ています。
ただ、広告業界は単価も高く、一社当たりの取扱額が
数億~数十億になることもありますから、
手元に残る「粗利益額」は莫大です。
このあたりは商社に近いものがありますね。


さて、旅行会社に話を戻すと、
単なる代理業に止まっていては儲からないし面白くないわけです。

やはり、企画料やサービス料といった形での付加価値を提供して、
より大きな収益を上げる知恵と工夫が必要になります。


その意味で、マーケティング専門誌「アイ・エム・プレス」
最新号(2006.4)の巻頭インタビューに登場した

「ニッコウトラベル」

さんの取り組みは注目に値するものでしょう。

ニッコウトラベルさんのツアー参加者の平均年齢は71歳!
私の勝手な想像ですが、ほぼ全員総入れ歯でしょうし、
歩くのだってもうそんなにすばやく動けない。

しかも、長い人生を過ごしてきて、旅行歴は20-30回は
当たり前。ありきたりの企画では満足してもらえません。


そんなわけで、若い人向けのツアーと違って、
企画内容や食事、時間配分に特別の配慮が必要になります。

ただ、逆に言えば、
うまくノウハウを確立できれば儲けは大きい。


ニッコウトラベルの場合、
ツアー申込書の職業欄には、参加者全員が「無職」と
書くそうですが、元上場企業の役員だった人とか、
いわゆる「資産持ち」の富裕層です。

いったん気に入ってもらえば、リピートしてくれるし、
顧客単価も高い。記事によれば、パッケージツアー1本
当たり55万円だそうです。

記事では、ニッコウトラベル社長の久野木和宏氏が取材に
応じているのですが、他の旅行会社との差別化の
ポイントについて、次のようなコメントをしています。


“旅行会社には「旅行を販売するだけの会社」と
「旅行を作るだけの会社」、そして添乗などを含めた
「旅行を運営する会社」の3つがあると思っています。”

“当社は、このうち「旅行を運営する会社」に当たり
ますが、これは中でも一番大変なことだと考えています”


「旅行」というサービス商品の場合、その運営プロセス
において特に、「人」に依存した深い知識、ノウハウ、
経験が必要です。

久野木社長は、この部分にこそ、他社が簡単に真似できない
差別化ポイントがあると考えているんですね。


ついでながら、ニッコウトラベルさんと同様、
旅行の運営に強みを持ち、差別化に成功している旅行会社には、

「オーロラを見ながら星野道夫を語る会」といった冒険的企画が
面白い「地球探検隊」さんや、
車椅子の方などの障害者の旅行に特化した「ベルテンポ」さん

などもありますね。


一見儲かりそうにない、面倒で手間のかかるところに、
実は、「儲けの種」があるように思います。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (3) | トラックバック

立体キャラ

マーケティングの出発点は、まず企業や商品・サービスの
名前を浸透させることですよね。

つまり、

「認知率を高める」

ことなのは、このメルマガ(ブログ)の読者の方には
改めて言うまでもない点だと思います。


ただ、認知率を高めるといっても、それは
とりあえず1回知らせればOKというものではなくて、
顧客の脳に深く刻み込まれ、最優先で思い出してくれる状態を
目指すべきでしょう。

すなわち、お客様の「覚えめでたい存在」になりたいわけです。
これこそ、「ブランド構築」に成功したと言える状態なんですが。


では、「覚えめでたい存在」になるためにどうしたら
いいんでしょうか?

小難しいブランド構築の考え方はいろいろありますが、
基本的な視点として覚えておいてもらいたいのは、

「キャラを立たせる」

ということです。


“なるほど、それは当然だね!”と思いかもしれませんが、
キャラを立たせるためには、ただ

「目立てばいい」

というものではありません。

キャラを‘立たせる’わけですから、文字通り
平面的で薄っぺらい伝え方だとバタンと倒れてしまう。

ですから、キャラに‘ふくらみ’を持たせ座りをよくし、
倒れないようにする必要があります。


このために考慮すべき第一のポイントは五感に訴えること。

企業や商品・サービスの名称について、
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、肌感覚(嗅覚)のそれぞれの感覚
をできるだけ活用して様々な連想が立ち上がるようにすること。


もう一つのポイントは、企業や商品・サービスに関わるイメージを
深く、多様なものにすること。

できれば、オキシモロン的な矛盾したイメージを
同時に持たせることです。

キャラの立っている人の特徴を思い浮かべてもらうとわかりますが、

「明るさと暗さ」

あるいは

「厳しさと優しさ」

「生真面目さと破天荒さ」

など、時と場所、状況によって相反するような
多様な個性を見せる人は、人間性の深さを感じさせるため
大いに魅力を感じるものなのです。


人でも企業、商品・サービスでもなんでも、

「立体キャラ」

を目指しましょう!

投稿者 松尾 順 : 05:27 | コメント (0) | トラックバック

差別化の決め手は・・・

作家、冷泉彰彦氏は、JMM(Japan Mail Media)の記事の中で、
GM、フォードの業績不振に触れ、

“ついにクルマ作り」は
 アメリカ社会の不得意科目になってしまいました。”

と述べています。

米自動車メーカーは、米国アメリカで負けてしまったのです。
今後は、トヨタが米国自動車産業の最大の雇用主になると
言われています。


冷泉氏は、米自動車メーカー、いわゆるビッグスリーの
衰退の理由について次のように説明します。

“恐らく、アメリカ文化の中に「目に見えるもの」、
 「感覚に訴えるもの」を軽視する特質があり、
 それがこの自動車の開発というビジネスを停滞させている
 のではないでしょうか。”

製品の持つ機能価値だけでなく、情緒価値が重視される今、
逆に見れば、繊細な感受性を尊ぶ文化を持つ日本が
モノづくりにおける強みを発揮しているのです。


車だけではありません・・・

世界中で日本食のブームが起きています。
日本食に感じられる、きめ細やかな心配りや微妙な味が
喜ばれているのです。


文化は、数千年の歴史の中で、各地域、民族で引き継がれてきた
もの。表面的には真似することはできますが、本質的な部分で
まったく同じことはできません。

とすれば、これからのモノづくりにおいて差別化の決め手は
「文化」です。


グローバリゼーションの浸透で機能面での標準化は進みました。
しかし、T型モデルのような画一的な製品を人は求めていません。
感性に響くプラスアルファが欲しい。

そのプラスアルファを生み出すものは人の感性であり、
人の感性を育むのはその人が育った文化です。


これまで、マーケティングの文脈で「文化」が語られることは
ほとんどありませんでしたが、これからは要注目ですよ。

投稿者 松尾 順 : 10:58 | コメント (0) | トラックバック

逆ブランド力

実は私はちょっとだけ旅行会社にいたんですが・・・
添乗員でハワイ、西海岸、中国などに行きました。

(以下日経MJ、2006.02.10より)

それはさておき、旅行業界最大手のJTBさんは、
学生向け海外パック旅行商品の販売は弱かったんです。

それは、他社と比較して価格が高かったから。
やっぱ、学生の場合、安さ最優先ですから、
格安ツアーに目が行きます。

だからといって、

学生があまり必要としないサービスをなくしたり、
ホテルのグレードを下げたりしてコストを切りつめ、
価格を安くすれば解決、

ではないんですよね。


ナンバーワンのブランド力をもつ「JTB」という記号は、
学生にとっては「高い」というネガティブイメージを
連想させるものになっているという点が問題だったわけです。

これはJTBの担当者に言わせると、

「学生にはJTBが『逆ブランド力』になっていた」
(JTBワールドバケーションズ、常盤省吾企画推進部長)

ということだったわけです。


そこで、新たに打ち出した商品ブランドが「ガクタビ」では、

「価格の安さをどう分かりやすく伝えるか」

というコミュニケーションを工夫しました。

パンフレットには、すべて「学生応援価格」と記載。
紙面もあえて、カラーではなくモノクロにして安っぽく。

紙面づくりも学生の感覚をまだ失っていない入社まもない
社員を選抜してあたらせました。

結果、集客人員は目標の1万四千人を
1割以上上回る見込みです。


この記事を見て再認識したのは、ブランド力というのは
プラスにもマイナスにも働くという事実です。

あるブランドから連想されるイメージ(活動的、先進的・・・)
というのはある人によっては好ましいものですが、
別の人にとっては好ましくないものになる。

とすると、ブランド構築もターゲット顧客明確化しておくことが
必要だということです。

投稿者 松尾 順 : 11:17 | コメント (0) | トラックバック

ドコモダケ

「ドコモだけ、ドコモダケ、みたいな・・・」

なかなかいい企画が出てこない中で、

ドコモの担当者がつぶやいたこの一言が、

ドコモさんのオリジナルキャラクター

「ドコモダケ」

が生まれたきっかけだそうです。

新たな発想が生まれる瞬間って、
結構こんなくだらないことなんですよね。(笑)


私はこれまで、
様々な業界のマーケティングをお手伝いする機会がありましたが、

「その企業だけ、その製品・サービスならではの売り」

を打ち出すのが難しいのが、いわゆる形がない、かつ
人があまり介在しないサービスです。

たとえば、電話のような通信・インフラ系サービスや、
銀行・クレジットカードなどの金融系サービスです。

目に見えず、人があまり介在しないサービスは、
モノ以上に、競合製品の機能や品質レベルの差異が
感じにくいですよね。

したがって、ぶっちゃけ、

どの電話会社でも、どの銀行でもあまりこだわらない。
たまたま、近くにお店があったとか、そんなきっかけで
利用しているだけに過ぎない。

こんな方が多いんじゃないでしょうか。


ただ、携帯電話の場合、ドコモ、au、ボーダフォンの各社
独自の「携帯端末」というモノが付随しますので、
auさんの場合、近年は「デザイン性」を追求することで、
競合他社と明確な差異を打ち出すのに成功しましたね。

一方、ドコモさんの場合は、文字通りドコモだけ(唯一)の
擬人化されたキャラクター「ドコモダケ」によって、
情緒価値を高める戦略を採用したわけです。


サービスという無形のないものに、キャラクターという
有形のイメージをダブらせる。
サービス自体に愛着を感じることは難しいけれど、
愛らしいキャラクターなら、人は愛着や愛情を感じる対象に
しやすいものです。

「ドコモダケ」の人気は、まだそれほど盛り上がってませんが、
今後上手に育てれば、既存客のブランドスイッチを防止し、
新規客を獲得するために大活躍してくれることになるでしょうね。


そういえば、クレジットカード業界でも、
DCカードさんが、10年以上前から一貫して「カッパ・たぬき」
のキャラクターを使ってきていて、根強いファンがいます。

また、サービスではなく、モノですが、ダイキンのエアコンの
売上げを爆発的に伸ばした原動力が、「ぴちょんくん」

であることを考えると、

今後、

「オリジナル・キャラクター投入」

はますます検討する価値のある戦略のように思います。


*ドコモダケのWebサイト
http://docomodake.net/top.html

*カッパ・たぬきホームページ
http://kappatanuki.com/

*ぴちょんくん情報
http://www.daikin.co.jp/pichon/

投稿者 松尾 順 : 10:39 | コメント (3) | トラックバック

きっと勝つ 受験生がんばれ!

そろそろ受験シーズン。

事務所の最寄駅「本郷三丁目」では、
かなり大規模なプロモーションが進められています。

最近、受験生の間で、ネスレの「キットカット」が人気なのは
ご存知ですよね。

キットカットの語感が「きっと勝つ」に近いので、
要するに「ゲン担ぎ」で買っているわけです。

もともとは、博多弁の「きっと勝つと!」に掛けたのが始まり
とのこと。


でまあ、受験といえば「東大」。
TVドラマにもなった漫画「ドラゴン桜」で東大受験が注目を
集めました。

そこで、東大赤門のある本郷三丁目駅周辺がキットカットの
プロモーションの展開エリアとして選ばれたようです。


本郷三丁目駅は、東京ドームが近いためか天井はドーム風の
スタイルなんですが、そのドームが桜のデザインに。


tenjo.jpeg


そして、キットカットのロゴマークとこんなキャッチコピー。


up.jpg

きっと、サクラサクよ。
がんばれ、受験生。 本郷三丁目駅員一同


自動発券機の上や案内地図の上なども桜で埋め尽くされていて、
なかなかに鮮やかです。自動改札機にもやはりご丁寧に桜。


kaisatsu.jpg


さらに、駅から本郷通りに通じる細い路地のアスファルトには
桜の道が敷かれました。


sakuraroad.jpg


これから試験が行われる時期には、キャンペーンガールが
登場する、キットカットのワゴン即売セールとかも予定されている
かも知れませんね。


さて、キットカットのような、お守り的効用を持つお菓子を
「縁起菓子」と呼びますが、他の縁起菓子の代表例としては
明治の「カール」がありますね。

カールを食べると、‘受’(う)カールというわけです。


受験生だってわかってることでしょうけど、
100%絶対に合格なんてありえない。

どんなに努力しても、勝負は時の運。
試験の結果は、ふたを開けてみないとわかりません。

人事を尽くして天命を待つ。
やるだけやったら、神に祈るしかない。
つまり縁起を担ぐことしかできることはないのです。

くだらないダジャレだとどこかアタマの隅で感じていたとしても、
受験前の不安を解消したい、そして「心の平安」を得たい。

しかし、受験生全員がキットカットを食べるとしたら、
いったい、誰が勝つんでしょうね?


そういえば、節分に、その年の恵方に向かって
無言で太巻きを食べると無病息災で過ごせると言われる
「恵方巻き」も年を経るごとに盛り上がってきましたね。

これだけ情報化が進んだ文明社会の日本で、
こうした‘非合理的’‘非科学的’な縁起物が盛り上がる理由に
ついて深く洞察する必要がありそうです。

投稿者 松尾 順 : 10:13 | コメント (2) | トラックバック

本のタイトルあれこれ

今年は、ここ数年で一番たくさん本を購入してしまいました。

「マインドリーディング」を体系化していくための研究用
としての心理学や社会学関連の本もろもろ、

そして、

ISIS編集学校の上級コースと言える「離」を受講したら、
自分の知識不足が次々と露呈したので、それを補うために
とにかく次々と青天井に近い予算を本代に投入しました。

私にとって、本は、斬新な発想、企画を生み出すための
「原材料」です。
したがって、純粋な娯楽本を除いては必要経費なのですが。

せいぜい数千円以内で買える本には、
有益な情報や知識、知恵が詰まっていますよね。
そのことを思えば、本は安い買い物ものです。
しかし、さすがに大量に買うと請求金額も膨大になります。

実は、今年下期には会社の資金繰りに影響が出てしまい、
あわてて財布の紐を締めました。(^^;;

ここまでくると、自分でも狂ってると思います・・・


さて、仕事柄、ビジネス系のベストセラーの本は
一通り読むようにしていますが、ここ数年は明らかに、

・キャッチーなタイトル(書名)
・巧妙なマーケティング

のおかげで、
それほど内容的には新味のない本でも、
バカスカ売れてしまうという現象が目立ちますね。

マーケターとしてこのことを否定する気はありません。
出版業界も本格的にブランディング、マーケティングに
取り組んできたということです。

ですから、読み手側もタイトルやマーケティングに
ただ乗せられるのではなく、内容の良し悪しをきちんと
見分けられる眼を磨くべきでしょうね。


ところで、本のタイトルについていえば、
最近、惜しいなあと感じている本があります。

「人は見た目が9割」(竹内一郎著、新潮新書)

です。

内容は非言語コミュニケーションについての入門書。
マンガの手法などを取り上げながら、
わかりやすく説明してある良い本だと思います。

しかし、このタイトルは、なんとなく不快感を与えますよね。

確かに目を引くし、思わず購入させてしまう力がある。
実際、かなり売れているようです。

でも、このタイトルは、「そこまで言い切らなくてもねぇ・・・」
というものだし、内容はどちらかと言えばまじめな書き方なので
タイトルと内容がマッチしてないんですよ。

アマゾンの書評を見るとかなり低くなってますが、
こうした不快感が反映されているように感じます。

いくら売るためとはいえ、奇をてらいすぎだなあ・・・


また、「これは考えすぎですね・・・」というタイトルの本も
ありました。

この2冊の本です。

「ハッピー社員」(金井壽宏著、PRESIDENT BOOKS)
「部長のハート」(河合薫著、PRESIDENT BOOKS)

どちらもキャリアや社内のコミュニケーションについて
書かれた素晴らしい内容の本なんです。

でも、このタイトル、はっきり言ってよくわからんですよね。

編集者の方は相当なこだわりを持って、このタイトルを決定
されたそうですが、伝える力が弱いように感じます。


まあ、こうやって偉そうに評論家ぶってますが、
実際、商品のネーミングは難しい。

当事者になると、様々なタイトル案を見比べながら
頭を抱えてしまうものなんですよね。夜も眠れなくなるほど。

やはり、もっともっと「言語感覚」を磨きたいです。

投稿者 松尾 順 : 11:26 | コメント (0) | トラックバック

ちゃんと名前を付けるころから始めましょう

いきなり質問です。

「バツイチ」

の意味は?

もう誰でもわかると思いますが、

離婚(1回目)を経験した方

のことですね。

では、

「ボツイチ」

の意味は?

この言葉は最近よく耳にするようになった新語のようですが、
初めて聞いた方でも推測つくんじゃないでしょうか。

そう、「配偶者に先立たれた方」です。
アンケートの回答だと「死別」というところにチェックを入れる
方になりますね。

さて、これまでは明確な呼び名がなく、説明的な言葉
(離婚経験者とか)しかなかったものごとに対して、
「バツイチ」や「ボツイチ」とかのちゃんとした名前をつけると、
俄然使いやすくなるのを感じませんか。

通常、呼び名は抽象的で短い表現になることが多いのですが、
逆に抽象的で短い言葉であるからこそ、
新しい意味を加える可能性が広がります。

実際、バツイチ、ボツイチという呼び名は、やや揶揄的な言葉
ながら、離婚や死別の暗さが払拭されますね。
そのおかげで、そうした方々のための結婚相談所など、
新たなビジネスも展開しやすくなりました。

さて、こんな名前(呼び名)も最近生まれてます。
(企業によって意図的に作られたというのが正しいですが)

「ママリッジ」

ママ+マリッジ、つまり、「できちゃった婚」という、
恥ずかしい響きのある呼び名を
ちゃんとした言葉に言い替えたものです。(^o^)

日経MJ記事の「ネーミングナウ」によると、
今の花嫁の3人に1人はおなかの中に赤ちゃんがいるそうです。
20歳の花嫁さんだけ見るとなんと80%が妊娠中。

例外的な意味合いのあった「できちゃった婚」は、
もはや時代にそぐわなくなっていたわけです。(笑)

そこで「ママリッジ」。

妊娠した新婦のためのウエディングドレスやハネムーンなどが
このネーミングなら楽に展開できる。

まずは「ちゃんとした名前」をつけてあげるところから、
何事もスタートすることが肝要なんですね。

投稿者 松尾 順 : 12:06 | コメント (0) | トラックバック

初恋ダイエットスリッパ

このネーミングははっきりいってすごい。

ご存知の方も多いと思いますが、

「かかとのないスリッパ」

のことです。

このスリッパは、はいているだけで腰痛が治ったり、
体重が減るそうです。

ネーミングの何がすごいか、解剖してみましょう。

まず、この名称が、

「初恋」+「ダイエット」+「スリッパ」

の3つの単語の組み合わせであること。

この3つは普通一緒に使う言葉じゃないですよね。
だから、この名称を聞いたり、見たりすると、

「変な名前だなあ」

と注意が向き、

「いったい、何なんだ?」

と関心を高めさせるパワーを持っています。

しかし、なぜ「初恋」なんですかね・・・?

ネーミングの由来を調べてもよくわからなかったのですが、
なんにせよ、「初恋」と聞くとほとんどの人が、
コドモ時代の思い出が浮かんできて、甘酸っぱい感傷的な
気分になるはずです。

物事を記憶しやすいのは、感情が伴う時であるということが
心理学の実験でわかってますが、

「初恋ダイエットスリッパ」

は1回聞いただけで覚えてしまうはそのせい。

つまり、この名称が脳に深く刻まれた記憶になってしまうのは、
奇妙な名前であることに加えて、心が動かされるからでしょう。

さらに、ダイエットという明確なベネフィットが
名称からわかる。

つまり、この製品の多面的な価値を的確に伝えているんですね。
具体的には、次のように説明できるでしょう。

スリッパ=機能価値・・・屋内で足を保護する機能の明示
ダイエット=便益価値・・・やせるというベネフィットの明示
初恋=情緒価値・・・若き日の思い出(=細かった頃)の喚起

さて、このネーミング、模倣品がたくさん出てきたので、
6年前に改称したものらしいです。

当製品の発明者は、中澤信子さんという主婦の方ですが、
ネーミングも中澤さんご自身でやられたんでしょうか。

もし、インスピレーションでこの名前を思いついたとしたら、
ほんと、人間心理の機微を理解されている天才だと思いますね。

投稿者 松尾 順 : 06:03 | コメント (0) | トラックバック

ブランド危機管理が難しくなってきた

ワコールオンラインショップの顧客データ約5千人分が盗まれました。
クレジットカードの情報が含まれていた顧客データも
2千人近くあったので不正利用されたお客さんもいます。

使った覚えのないカード請求がきたのでデータ盗難が発覚したようです。
単に盗まれただけでなく、顧客側に実害が発生したのでワコールさんと
してはブランドイメージの低下に確実につながる痛い事件ですね。

しかし、問題の原因はECサイトの制作を委託していた会社に、
セキュリティ対策の漏れがあったんですよね。

もちろん、ワコールさんに管理・監督責任があり、
制作会社の失態ということで言い逃れはできません。

ですが、自社ではできない、すべきでない専門的な分野だから
外部に委託していたわけで、完全なチェックは不可能。
相手を信頼して任せるしかないわけです。

ワコールさんに限らず、サイトの制作は普通外部の制作会社に
任せている会社がほとんどでしょう。あるいは、製品のお届けは、
運送会社に委託しているでしょう。

事業運営は、基本、自社の強み(コアコンピタンス)の領域に集中して
他の部分は外部に任せるというのが理想とされてるわけですけど、
そうしてどんなに分業化を進めても、お客さんから見えるブランドは
ひとつだけ。

今回で言えば、ワコールのブランドの下で、
たくさんの外部の会社が関わっているというのが実情なわけで、
大きい会社ほど、ブランド危機管理がますます難しくなってきたということを
改めて認識させられましたね。

投稿者 松尾 順 : 10:33 | コメント (0) | トラックバック

みだぐなす

「みだぐなす」

と呼ばれていたフルーツがあります。何だかおわかりですか。

フルーツのブランド化の例として結構有名なケースなんですが、
「西洋梨」のことです。ブランド(品種)名は「ラ・フランス」。
フランス生まれの山形育ち。

今が旬のようですね。
我が家でも、生協を通じて今週届いた「ラ・フランス」を
食後のデザートにいただいていますが、
柔らかい果肉の食感としつこくない自然な甘さが最高ですよね。

さて、「みだぐなす」というのは、「見栄えのよくない梨」
という意味の方言です。

真実かどうか調べ切れなかったのですが、
味はおいしいけれど、見栄えがよくないこのフルーツの名前を

「ラ・フランス」

という名前にしたことでブランド化し、人気のフルーツに
なったと言われています。

最近、農産物や海産物のブランド化が盛んになってきましたが、

「みだぐなす→ラ・フランス」

の例はそのはしりといえるでしょう。

この「ブランド化」は、シンプルに言うと「ブランド認知」
「ブランド連想」「ブランド好意」の3つの視点で見ること
ができます。

「ブランド認知」は、その名前を聞いたことがある・知っている
ということ。

「ブランド連想」は、その名前を聞いた時に思い浮かぶ
様々なイメージ。

「ブランド好意」は、その名前を聞いた時に、
良い、好き、食べたい、とかの好意的な感情の度合い。

したがって、ブランド化に成功するために、
ネーミングがとても重要なことはおわかりでしょう。

そして、ブランド化の視点でのネーミングのチェックポイントは
次の通りです。

・覚えやすいネーミングか?
・名前が良いイメージを喚起するか?
・名前が好意的な感情を喚起するか?

このチェックポイントで、「みだぐなす」と「ラ・フランス」
を比較するとどちらが優れているか、すぐわかりますね。

重要なのは、「みだぐなす」は、この方言の意味がわからない人
にとっても、日本語の語感的に、なんとなくさえないイメージや
不快な感情を喚起してしまう名前だといういうことです。

ブランド化を狙って商品名をつける際には、
言葉の持つ「意味」以前に、音として聞いた時に、
人にどんなイメージや感情をわきあがらせるのか、
という点に注意が必要なんです。

話が飛びますが、ゴジラ、ガメラとか、怪獣の名前には
不思議なことにガ行、つまりガ・ギ・グ・ゲ・ゴが多いですね。

ガ行がつくといかにも怪獣らしい語感になるからです。
このことをテーマにした本も出ていますね。

投稿者 松尾 順 : 05:58 | コメント (0) | トラックバック