イノベーションの達人:発想する会社をつくる10の人材

今週からしばらくの間、普段とちょっと趣向を変えまして、
6月に出版されたばかりの本、

『イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材』
トム・ケリー&ジョナサン・リットマン著、早川書房

の内容をじっくり紹介していきたいと思います。
(なお、単なる内容紹介ではなく、私の考えが適宜挟み込まれて
いますので、文責はすべて私にあります。)


著者のトム・ケリー(以下、トム)は、
世界最高のデザインファームと賞賛される‘IDEO’社の
ゼネラル・マネージャー。

前著の「発想する会社!」もとても刺激的で楽しい内容でした
ので、この本もぜひ読みたいと思っていたところ、

「起-動線」さんのプレゼント企画
「1万円分の本選び」に当選していただくことができました。

自分が読みたい本をプレゼンとしてくれるなんて、
すばらしい企画ですよね。
ありがとう、起・動線主宰者の堀内さん!


さて、この本は、一言でいうと、

イノベーションあふれる会社(組織)に必要な

10の人材(キャラクター)

について解説したものです。

原題は、

‘THE TEN FACES OF INNOVATION’

ですから、文字通りタイトルが内容を体現しています。


経済、社会、技術が複雑、高度化した現在、
イノベーションは、とても一人だけでは成し遂げることは
できませんよね。

様々な異なる強みをもった人材が力を合わせてこそ、
イノベーションは実現できる、トムはそう考えています。


ところで「イノベーション」とは何でしょうね。

改革?革新?

気軽に使われる言葉ですが、
本質をうまく説明するのは、なかなか難しいものです。

本書では、イノベーションとは、

「新しいアイディアを発想し、実験し、鼓舞し、確立していくこと」

です。

重要な点は、ただ発想するだけでなく「実践」すること。

どんなにすばらしいアイディアが生まれたとしても、
それを育み、具現化しなければなんの意味もない。

イノベーションというと、発想力のある「アイディアマン」
の存在が不可欠だよなあ、とあなたも考えるんじゃないかと
思いますが、しばしばアイディアマンには実現するための
執念や実行力が欠けています。(笑)

そこで、人材が集まったチームとしてイノベーションに
取り組むことが必要になってくるわけです。


では、イノベーションを通じて新たな価値を生み出す10の人材
(キャラクター)とは?

トムは、10の人材を大きく次の3つのカテゴリーに
分けています。

●情報収集をするキャラクター
●土台をつくるキャラクター
●実現するキャラクター


彼らのそれぞれの役割について簡単に説明しましょう。

●情報収集をするキャラクター

彼らの役割は、文字通りイノベーションの元ネタを
「情報収集」すること。

現状に決して満足せず、
チームの目が内側に向きすぎないように、また、
自分の「知識」におぼれすぎていないかどうかを
組織に思い出させます。


●土台をつくるキャラクター

生まれたアイディアを育てるための土台を作る役割です。
大きな価値を生み出すアイディアも最初は海のものとも
山のものともわからないもの。

しばしば組織論理につぶされてしまうことがあります。
彼らは、手練手管を尽くして、アイディアの実現に
向かって人々を巻き込んでいく手腕を発揮するのです。


●実現するキャラクター

彼らは、情報収集をする役割から得られた発見を適用し、
土台をつくる役割から委託された権限を利用して、
イノベーションを実現します。


そして、この3つのカテゴリーそれぞれに入る10の人材
(キャラクター)は次の通りです。


●情報収集をするキャラクター
1 人類学者:観察する人
2 実験者:プロトタイプを作成し改善点を見つける人
3 花粉の運び手:異なる分野の要素を導入する人

●土台をつくるキャラクター
4 ハードル選手:障害物を乗り越える人
5 コラボレーター:横断的な解決策を生み出す人
6 監督:人材を集め、調整する人

●実現するキャラクター
7 経験デザイナー:説得力のある顧客体験を提供する人
8 舞台装置家:最高の環境を整える人
9 介護人:理想的なサービスを提供する人
10 語り部:ブランドを培う人


明日から、10人のキャラクターを一人づつ紹介していきます。

この人材の考え方って、「キャリア・デザイン」にも
役に立つと思うんですよね。

あなたは、どのキャラクターになりたいですか?
また適性があると思いますか?

そんな視点も頭に置いてもらって、
しばらくお付き合いくださるとうれしいです。

投稿者 松尾 順 : 09:30 | コメント (0) | トラックバック

2種類の感想・・・ペプシ・チャレンジの教訓

マーケターの方であれば、「ニューコーク」の失敗事例は
よくご存知ですよね。


1985年4月、コカ・コーラ社は、
従来よりも甘い味付けをしたニューコークを市場に投入。

しかし、発売直後から旧コーラに愛着を感じていた消費者の
大反発を受け、わずか3ヵ月後の7月には、
従来製品を「コカ・コーラクラシック」として復活せざるを
得なくなりました。

ニューコークは、翌86年の春に生産を打ち切られています。


この失敗の理由はさまざま言われていますが、今回は、
ニューコーク開発の引き金を引くことになった

「ペプシ・チャレンジ」

のキャンペーンについて触れてみたいと思います。


「ペプシ・チャレンジ」は、一言でいえば「公開比較調査」です。

消費者に、二つのグラスにいれた飲み物を飲み比べてもらう
会場調査を全米各地で行いました。

この二つのグラスの片方にはコーク(コカ・コーラ)、
もう一方にはペプシ・コーラが入っていましたが、
もちろん、どちらがどちらなのかは事前に教えません。

そして、試飲した消費者にどちらが美味しいかを聞いたところ、
半数以上が「ペプシ」を選んだのです。


このキャンペーンは全米の話題をさらい、ペプシのシェア拡大に
貢献しました。
(ただし、コーク愛飲者の、ペプシへのブランドスイッチではなく、
コーラ飲料の非飲用者、つま新規カテゴリーユーザーの取り込みに
成功したのがシェア拡大の要因のようです。)

コカ・コーラ社が、ペプシ・チャレンジの結果に慌てたのは
言うまでもありません。

自社で行った試飲調査でも、やはりペプシの味が好きだという
消費者の数がコークのそれを上回りました。

そこで、「ニューコーク」の開発に着手したというわけです。


しかし、実は、この「ペプシ・チャレンジ」には、
昨日指摘した、会場での試飲調査の限界がありました。


ペプシの新製品開発部門に長年勤めていたキャロル・ダラードは、

「試飲では甘みの強い製品が好まれる傾向がある。
 でも、一本飲み切ると、甘すぎて飽きてしまう」

と言っています。


ペプシは、コークよりも甘みが強い。
ですから、少量しか飲まない試飲では、コークよりも
ペプシが有利だったわけです。

また、コークにはレーズンとバニラの風味があるのに対して、
ペプシは柑橘系の風味が広がります。さわやかな風味ですね。

この点も、試飲調査でペプシが好まれる理由だったそうです。
しかし、この風味は1本飲む間に消えてしまいます。

したがって、もし自宅で継続的飲んでもらう

「ホームユーステスト」

を実施していたなら、ペプシ・コーラとコークの評価が
異なっていた可能性があります。やはり、消費者は同じ製品に
対して「2種類の感想」を持っていたかも知れないわけです。


当時、コカ・コーラ社では、
この試飲調査の限界をあまり認識していなかったようですね。

それが「ニューコーク」の盛大な失敗、
しかしまあ、彼らにとっては大きな教訓ともなった失敗に
つながったのです。


以上は、『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』
(マルコム・グラッドウェル著、光文社)

の内容を元にしました。

この本は、マーケター必読です!

投稿者 松尾 順 : 11:50 | コメント (0) | トラックバック

2種類の感想・・・プライムタイム

アサヒのプレミアムビール、

「プライムタイム」

に最近はまってます。(^-^)


最初飲んだ時の印象は、

「ちょっとユルすぎ、刺激が弱くてパッとしない」

だったんですが・・・


まとめて何本か買っていたのでしばらく飲み続けていたら、
プライムタイムのマイルドさがなんとも心地よくなってきました。

他のビールではまず味わえない「甘み」を感じます。
女性や、ビールの苦味に弱い方にも受け入れられそうです。


プライムタイムは、「ゆとりの時間」を演出するビールと
して開発されたものですが、
きめ細かな泡の上質感や、「高貴さ」を感じさせる藍色の
パッケージデザインが秀逸です。

今後、エビスビールと並んで、プレミアムビールの
トップブランドになる可能性があるように思います。


さて、味の話に戻ります。

特に、飲料のような味覚系商品の場合に多いのですが、
最初にちょこっと飲んだ時の感想(第一印象)と、
大量に飲んだ後では、感想が違ってくることがあります。

つまり、同じ商品なのに2種類の感想があるわけです。


したがって、商品開発においても、企業の開発担当者は、
2種類の試飲をやります。

まず、「官能試飲」と呼ばれるもので、
様々な味に調整したものを100ccずつくらいじっくりと
チェックして飲み比べをします。

次に、ユーザーと同じ状況、
お酒であれば夕方の時間に、つまみを食べながら大量試飲。

こうして、第一印象とたくさん飲んだ後での評価の変化を
見ながら最適な味を決めているんですね。


また、消費者が2種類の感想を持つという点は、
新商品テストのための「会場調査」の限界を示しています。

調査会場における少量の試飲だけで新商品の評価を
してもらうのでは、第一印象しかわからないからです。

したがって、例えば家庭での普段の生活の中で、
1週間ほど飲んでもらった後の評価も得る必要があります。

ユーザーの評価は時と共に変ることもある、
ということ、ぜひ覚えておきたいです。


ところで、この2種類の感想については、あの大失敗事例として
有名な「ニューコーク」の開発に関わる話がありますが、
それは明日のお楽しみということで!


そうそう、ついでながら試飲で思い出したのが、

金森マーケティング事務所の金森氏のブログに書かれていた

「軽んじられているエクスペリエンス」(July 15, 2006)

です。

近所のスーパーに行ったら手渡された、
新発売のビールのサンプル。

ブログの写真を見ていただくとわかりますが、
小さなカップの底の方にほんの少しだけ。
おそらく10ccくらいでしょうか・・・ほんとにケチ。

金森氏は、

“こんな分量で「試飲」の効果があると思っているのだろうか”

と憤慨していますが、ごもっとも!

こんなキャンペーンやるだけ無駄です。

投稿者 松尾 順 : 11:55 | コメント (2) | トラックバック

オンライン・ローボール・テクニック

Skype、使ってます?

(知らない方のためにちょっとだけ)
Skypeは、無料の通話ソフトです。いわゆるインターネット電話。
SkypeがインストールされているPC同士なら、
世界中の誰とでも無料で何時間でも話せます。


Skyepは音質がクリアですし、使いやすいこともあって
あっという間にユーザーが拡大しましたよね。

私もたまに使っています。


さて、Skypeのビジネスモデル。

Skype同士の通話は無料とすることで登録ユーザーを増やし、
次に、登録ユーザーが、Skypeから普通の電話にかける場合の
通話料を有料にすることで収益を得ています。

このSkypeから普通の電話にかけることのできるサービスは、

「Skype Out」

といいますが、この利用が進まないことには、
Skypeは儲からない・・・


とうわけで、日本では先月(6月)に

Skype Outのトライアル(お試し)キャンペーン

をやっていましたね。
言うまでもなく、キャンペーンの目的は「新規ユーザーの獲得」。


Skypeユーザーの方は、次のような件名のキャンペーン告知メールが
届いたのを覚えてませんか。

「60分間無料通話クレジットを今すぐゲット!」

本文のキャッチコピーは、

“普通の電話へ1時間タダでかけられる”

となっていて、続く本文の説明は次のようなものでした。

------------------------------------------------------------

普通の電話への通話ができるクレジット、なんと1時間分を差し上げます。
Skypeから普通の電話への通話発信はSkypeOutと言います。

何の裏も難しいこともありません。2006年6月30日までにSkypeから
普通の電話・携帯電話へ1回以上通話を発信するだけで、
その後電話をかけるときに使える1時間分のSkypeクレジットが自動的に
無料でアカウントへ追加されます。

------------------------------------------------------------

「おっ、これはいいじゃん、早速ゲットしなきゃもったいない!」

なんて喜びいさんでSkypeを立ち上げた方がどの程度いらっしゃるか
わかりませんが、その人たちは結構がっかりしたんじゃないでしょうか。


Skype Outをともかく6月中に1回利用すればいいんだね!
と思って、Skypeの画面をクリックしていくと、

「skypeクレジットの購入画面」

につきあたります。

どうやら、通話料金を前払いしなければならないようです。
最低料金は10ユーロ(日本円で1500円程度)です。

つまり、キャンペーンの無料通話1時間分をゲットするためには、
1500円分の支払いがこちらに発生するということになります。


「なあんだ・・・(ガッカリ)
 やっぱり‘裏’があるじゃないか!!」


もちろん、Skype Outをフルに活用するのであればいいのでが、
Skypeクレジットには有効期限がありますので、
こちらが払った1500円分と無料通話分を使い切るだけの時間分
とても利用しそうにないなと感じた方が多いんじゃないでしょうか。
(1分当たりの通話料金が安いだけに、使いでがありそうですし)


さて、このキャンペーンで問題なのは、

無料通話1時間分をゲットするためには、
ユーザー側に10ユーロの支払いが発生することを
明記していなかったことです。

キャンペーンメールにも、Skypeの手続き画面にも
そうした説明は一切ありませんでした。

このため、期待を持って手続きしようとしたユーザーを
ある意味、「あざむく」ようなコミュニケーションになっています。


このような、最初に魅力的な条件だけを提示して相手をその気に
させた後で、相手にとってあまりうれしくない条件をおもむろに
提示する説得技法を

「ローボール・テクニック」

と呼びますが、

Skypeの今回のキャンペーンは、
意識的にこのテクニックを使ったのかどうかはともかく、

「ローボール・テクニック」的コミュニケーション

になっていますね。


ローボール・テクニックは、
営業マンのリアルなコミュニケーションでよく利用されて
きました。

ローボール・テクニックは、上述したように
相手の裏をかくようなところがあり、
冷静に考えてみるとおかしいことがわかるはずなんですが、
言葉だけのコミュニケーションの場合には、
結構営業マンのペースにはまってしまいがちです。


しかし、オンラインの場合、文字情報ベースですので、
読み手がじっくり検討する時間がある。

このため、そうそう簡単には裏をかけないわけです。

また、裏をかけないどころか、怒りや落胆といったネガティブな
感情を与えてしまいますので、ブランドイメージ低下につながる
可能性を持っています。

どうやら、

「オンライン・ローボール・テクニック」

はあまり通用しないと考えたほうがよさそうです。


糸井重里氏ではないですが、

「正直が最大の戦略」

だと思います。


なお、上記のSkypeのキャンペーンは
あまり成果を上げなかったのかわかりませんが、

今月は、

「普通の電話への通話10分を無料プレゼント」

のキャンペーン・メールが来ました。

でも、どうやって手続きすればいいのかよくわかりませんでした。
説明が不十分でした。


余計なお世話ですが、Skypeのマーケティング、大丈夫?

投稿者 松尾 順 : 12:43 | コメント (0) | トラックバック

下すぼまり形状

資生堂のヘアケア製品のメガブランド「TSUBAKI」の
パッケージ(容器)・デザイン
、思い出せますか?


とても印象的な色と形ですから、
たいていの方がイメージできるんじゃないでしょうか。

「椿」の花を連想させる赤い色、そして
肩が張り出した柔らかなボディライン。

コンセプトは「グラマラス」だそうで、
あの形状は、明らかに女体を模していますよね。


容器のデザインは、従来は「安定性」を重視したものが
多かったことを考えると、「TUBAKI」のデザインはその逆。

容器の上部から下部に向けて大きさが細くなる
「下すぼまり形状」。


この「下すぼまり形状」ですが、

・視覚的に持ちやすいという印象を与えること
・そして人のボディラインを感じさせる、
 つまり「擬人的」な感覚を呼び起こすこと

といった理由で、人が無意識に選択してしまうデザインだと
言えます。


日経デザイン(July 2006)の「台所用洗剤への好感度」調査
の結果によると、

「下すぼまり形状」

が、やはり最も好まれるデザインであり、
また「買いたい」と思わせる力があることが検証されていますね。


同調査では、以下の5種類の台所洗剤が調査対象でした。
ただし、調査時には、ラベルをはがしてメーカー名や商品名が
わからないようにしてあります。


A:花王「ファミリーキュキュット」
(調査対象は中央)

B:ライオン「チャーミーマイルド」
(調査対象は左側)

C:P&G「しつこい油汚れにオレンジピール成分入りジョイ」
(調査対象は上側)

D:花王「ファミリーピュア アロエ in」
(調査対象は左側)

E:ライオン「チャーミーリブ」
(調査対象は左側)


そして、調査協力者には、
上記5製品の「見た目」だけに基づいて、

・どの形が好きか
・どれを店頭で手にとって見たいか
・どれを購入したいか

といった質問に答えてもらっています。(有効回答数200人)


調査結果によると、最も形が好まれていたのは、Cのジョイ。
(全体の39%が、Cを「好き」と回答)

URLでリンク先を見ていただくとわかりますが、
肩がちょっと張り出した、最も「人体」的形状ですね。

2番目に「好き」の回答が多かったのは、Aのキュキュット。
(同22.0%)

円筒形ですが、やはり下すぼまり。


逆に、最も人気がなかったのがBのチャーミーマイルド。
好きと答えた人は10人に一人もいない。(同9.5%)

チャーミーマイルドは、ジョイやキュキュットとは
対照的に「下ひろがり」の形をしています。

見た目の安定感とはうらはらに、デザインとしては
「下ひろがり形状」はあまり好まれないんですね。

また、Eのチャーミリブの中腹が膨らんでいる
「でっぷりした形状」が好きな人も少ない。(同12.5%)


さて、形状に対する好みは

・どれを店頭で手にとって見たいか、
・どれを購入したいか

の回答との相関も高く、
上記どちらの回答も、Cのジョイの圧勝となっています。
2番目も、やはりAのファミリーキュキュット。


製品の売れ行きはデザインだけで決まるわけではありませんが、
デザインの違いが、商品の魅力にこれほどの差を生むのは
驚きですよね。


最近の脳科学の研究によると、
人は考える前に、すでに行動を始めていることが多いそうです。
(この意味、ちょっとわかりにくいですよね)

このケースに即して具体的に言うと、
店頭で、ある商品に手を伸ばす行動は、それを手に取ろうと
考える前に、無意識に行ってしまっているものです。

端的に言えば、人の普段の行動の多くが、
無意識の自動化された行動だとも言えるのだそうです。

そして、この無意識の自動化された行動を引き起こす
最大の要因のひとつが「デザイン」です。


ですから、マーケターはもっともっと「デザイン」に対して
着目する必要があるでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 12:00 | コメント (2) | トラックバック

円滑すぎる請求書発行

先週21日(金)、事務所の郵便物を取り出してみると、
A社からの請求書が届いていました。

「変だな・・・A社のログ分析ソフトは1年前に購入したけど、
 保守費用とか発生しないはずだし、心当たりがないなあ!」


請求書というものは、おおむね心臓によくありませんよね・・・
遅かれ早かれ払わなければいけないとわかってはいても、
気分が滅入るものです。(笑)


さて、ここでいったん話を2日前の19日(水)に巻き戻します。


19日、A社からメールで案内が届きました。

新しいASPサービスの紹介です。
ブログの仕組みを使ってホームページの立ち上げや運用が
簡単にできるというもの。

仕事柄、こうした情報は逃すわけにはいきませんので
早速、詳細説明のWebサイトにアクセス。


サービス内容をざっと眺めると、なかなか良く出来たASPです。
ビジネスユースにも耐えるデザインや品質に仕上がっている
という印象を受けました。

料金設定もビジネスユースであれば妥当な水準であり、
悪くありません。


「もう一つ自分のサイトを立ち上げるかな・・・まあそれは
時間がなくて無理かもしれないけれど、今後、クライアント
のWebサイト立ち上げの選択肢とて使えそうだ」

と考え、まずは自分でちょっと試してみることにしました。
幸い、登録から最初の14日間は「無料お試し期間」となっています。


それで、ともあれユーザー登録だけ済ませました。
サイトの詳細設定は結構手間がかかりそうなので、
週末以降にぼちぼちやろうかなと思ってたんですね。


そう、そして中一日後の21日金曜日、
A社から届いた請求書は、このASPサービスのものだったのです。

請求書やWebサイトを改めてよく見ると、
請求書記載の金額を払えば、
無料お試し期間終了後も継続利用できるし、
もし、継続利用する気がないなら払わなくてよい、
ということらしいです。


なるほどそれはそうかもしれませんが・・・
請求書発行のタイミングがあまりに早すぎると思いませんか?


まだ、当サービスに「興味・関心」を持ったばかりで、
ろくに「理解」も「確信」もしていない時点で、
早々と請求書を送ってしまうことが、
見込み客の心理にどんな影響を与えるか、
当サービスの担当者は想像できなかったんでしょうか?


請求書を受け取るということは、支払いが先のことであれ、
すぐにでも「購入の決断」を迫られているような気分に
嫌がおうにもさせられます。


今回、ユーザー登録からわずか2日後に
請求書が届くというのは、実に円滑なワークフローですよね!

しかし、

「えーなにー、まだろくに試してもいないのに、
 いきなり請求書送りつけやがって・・・」

という気持ちを与えてしまったら「アウト」じゃないでしょうかね。

コミュニケーションのプロセス設計がまったくなされていない
と考えざるを得ません。


定石的には、

・ユーザー登録後3日目くらいに、使用感についてたずね、
 またわからないことがあれば問いあわせしてほしい旨の
 eメールを送る。

・7日目あたりで、試用期間があと1週間であること、および
 紙の請求書が2-3日以内に届くことを事前に知らせるeメールを
 送る。

くらいのことをやるべきではないでしょうか。


円滑な業務遂行は本来歓迎されるべきことですが、
今回の場合は、お試し登録ユーザーの歩留まり率を
大きく低下させることにつながっているんじゃないでしょうか。


A社のこのサービス、なかなか優れものであるだけに、
大変残念に思いました。

投稿者 松尾 順 : 10:45 | コメント (0) | トラックバック

個人によるグローバリゼーション(続き)

国境を越え、かつ企業の組織の枠を越えて、
個人同士がつながりあう。

目的に応じてヴァーチャルなドリームチームを作れば
大きな仕事だってこなせてしまう。

個人によるグローバリゼーションの時代はすでに
社会や企業の仕組みを根本から変えつつありますよね。
(日本はまだまだ守られているので実感薄いですけど・・・)

こうした大変革は、ある人にとっては「機会」(チャンス)
であり、逆に、ある人にとっては「脅威」です。


そして、今最大の「脅威」を感じているのは、
実は以外にもその道の「専門家」です。

専門家は専門領域の「スキル」をばら売りしているわけです。


「スキル」とは、端的に言えば、普通の人よりも、
専門業務をこなすことに慣れている、早い、間違いがないという
「業務の卓越性」のことです。

しかし、たいていの場合、
その「スキル」は、他の誰かと代替可能です。
(極めて才能があって、
 成果物が「芸術」の域に達している人を除いて)


例えば、会計処理のスキルは、スキルだけを取り出すなら、
どの会計士に頼んでもほとんど同じ。
成果としての「決算書」は同じです。

システム開発のプログラミングだって、
もちろん精査すれば優劣があるのでしょうけど、
一定以上の品質に達していれば、
プログラマーが誰かは、あまり問題ではない。


だったら、利用する側としては、
できるだけ安い方がいいですよね。

費用対効果を考えたら、結論はこうなります。


要するに、

「業務の卓越性」(オペレーショナル・エクセレンス)

だけで勝負していると、同じ技量を持つ別の安くやれる人、
そして、今は他国の安い人に仕事を取られてしまう可能性が
高くなっているのです。
(他国の安い人、というのは経済格差上そうなっている
という意味で、差別的意味合いはありません。)


すると、スキルを売っている専門家の人たち
(実際は、一般のビジネスパーソンもその道の専門家と
 呼べますので、ほとんどの社会人が該当すると思います)
に残された戦略は、次の2つになります。


★顧客親密性(カスタマーインティマシー)

 いわゆる「CRM」(Customer Relationship Management)。
 個々の顧客との関係を深め、感情的絆を結ぶ。


★製品(サービス)リーダーシップ

 斬新なアイディア、明確なポジショニングに基づく製品開発。


では、上記戦略を実現するための具体的な方策は?

企業レベルでは複雑な仕組み・仕掛けにならざるを得ないので
個人レベルで言うなら、


★顧客親密性のためには、顧客の心を読む力を高めること

 我田引水、「マインドリーディング」を学びましょう。(^-^)
 より詳しく言うなら、「人」に関心を持ち、世の中の様々な
 事象の背景にある人の「心」と「行動」のつながりを理解
 することに努めましょう。


★製品リーダーシップのためには、発想力を高めること

 異質な情報を貪欲に仕入れ、自由自在に組み合わせる方法を
 学びましょう。ひとつの選択としては、「編集学校」があります。


最後はいきなりベタな結論に持っていってしまいましたが、(⌒o⌒;
個人によるグローバリゼーションの時代には、
もはや、企業が社員を守ってくれることはありません。

企業もまた、優秀でかつ労働コストの安い人を求めています。
そうしないとグローバルな競争に生き残れないからです。


ですから、一人ひとりが自律的にキャリア戦略を立案し、
実行しないと、自分の知らない遠くの国の誰かに仕事を
奪われてしまうかもしれませんよ・・・
(自戒をこめて)

投稿者 松尾 順 : 10:42 | コメント (0) | トラックバック

個人によるグローバリゼーション

最近話題のビジネス書、

「フラット化する世界」(上・下)
(トーマスフリードマン著、日本経済新聞社)
>上巻
>下巻

はお読みになりましたか。

この本は昨年、欧米のエグゼクティブたちに最も読まれた本の
ひとつだそうです。

私も早速買いましたが、まだ積読状態です・・・(⌒o⌒;


しかし、この本のキモは、私が先日参加した夕学五十講の講演の中で、
一橋大学教授の一條和生先生が解説してくれましたので
ご紹介したいと思います。


この本では、「グローバリゼーション」を
次の3つの段階でとらえているそうです。

・国によるグローバリゼーション
・企業によるグローバリゼーション
・個人によるグローバリゼーション


国によるグローバリゼーションは、
コロンブスの新大陸(米国)発見の年、
つまり1492年から1800年くらいまでの時代。

スペイン、オランダ、ポルトガルといった国々が
世界に乗り出し、植民地化を進めた。まさに、
国による世界進出ですね。


企業によるグローバリゼーションは、
1800年~2000年までの時代。

イギリスの産業革命による工業化以来、
資本主義下の企業が台頭。

新市場、あるいは生産拠点を求めて世界に乗り出した
企業による世界進出です。


そして、個人によるグローバリゼーションは、
2000年に始まっています。

2000年は、「Google」が表舞台に登場し、
インターネットが社会やビジネスのあり方を
根本的に変えてしまう可能性を予感させた年です。


Googleのリスティング広告、また各種アフィリエイト広告
の仕組みは、貧困に苦しむ発展途上国の一個人が
世界を相手に稼ぐことのできる機会を提供しています。
(アフィリエイトで彼らが手にする、わずか数セント、数ドル
のお金が、彼らの国ではどれだけの価値を持つか、容易に想像
できますよね)


また、米国人の所得税の申請書作成業務は、
相対的にコストの安いインドに流れています。

ITシステム開発に関わるエンジニアたちの仕事も同様に、
インド在住のエンジニアが奪いつつある。

モノの生産拠点としては、低コストの膨大な労働力を抱える
中国がダントツ。


インターネットの浸透によって、時空を超えて業務プロセス
(研究開発→生産→販売・マーケティング→物流と流れる
 バリューチェーン)が成立するようになったわけです。


ただ、日本では、この大きなパラダイムチェンジの脅威を
十分に実感していないようです。

言語や文化の壁が、「有効」に機能しているのでしょう。

私が独立前、プロジェクトマネージャーとして働いていた
システム開発のベンチャー企業では、ロシアに開発拠点を
置いていました。

確かに、英語ベースのソフトウェアについては、
ロシア人の優秀なエンジニアによって低コストで開発が
できました。

しかし、そのソフトの販売先は日本です。

日本語化(ローカリゼーション)のためのコストが別途
必要となり、結果的にロシアの開発拠点の高生産性が
あまり活かせていませんでした。


しかし、遅かれ早かれ、日本もまた、
「個人によるグローバリゼーション」の波に
丸ごと飲み込まれてしまうのは間違いありません。


このような状況で、欧米や日本の企業、あるいは個人は
どこに競争力の源泉を求めるべきなのでしょうか?

これについては明日に回します。(^-^)

投稿者 松尾 順 : 09:52 | コメント (0) | トラックバック

人間臭いネット証券

ネット証券の最大のウリは手数料の安さでしたよね・・・

オンライン上でのヴァーチャルな展開を図ることで、
店舗運営費や人件費といいった固定費を削減、同時にギリギリ
まで利益を削ることで、手数料を大幅に引き下げる。

こうして、既存のリアル証券会社に「価格競争」を
仕掛けていった。つまり、「価格の安さ」という、
見える次元の中でも、最もわかりやすい購入の判断軸で
一気にリアル証券の顧客を奪い取りました。


しかし、やはり限界が見えてきています。
価格も下がるところまで下がった。
これ以上下げても、顧客にとっては瑣末な差異に過ぎない。

もっと別の新たなニーズを求め始める段階に入っています。


では、新たなニーズとはどんなものでしょうか?


ネット証券の雄、松井証券社長、松井道夫氏によれば、

「安定性」

そして、

「人間らしさ」

と言っていますね。(日経ビジネス2006年7月10日号)


「安定性」については、1分1秒の売買タイミングのズレが
大きな利益、あるいは損失につながる世界であれば、
現実には、常に重要とされてきていたはずのことです。

ただ、インターネット自体がベストエフォートの性質を
持っていましたから、「安定性」については、
「ある程度ご容赦ください」的甘えがあったのかも
知れません。

ですが、ともあれ「安定性」は、
二重化するなどのシステム強化で対応できる「見える次元」
の話です。


しかし、「人間らしさ」は、
要するに、人間臭い(人間味のある)アナログ的サービスを
付加することですよね。

これは「見えない次元」での競争に踏み込むことであり、
優れた人材の確保、あるいは教育が最重要課題になってきます。


実は、こうした人材面、サービス面は、
既存のリアル証券会社が強みとしてきたところ。

すでに、ネットの世界で先行した米国証券業界では、
既存のリアル証券会社に新興ネット証券会社が逆襲を
受けて苦しんでいるということを4月に書いています。

「消えてしまったものを探せ」


日本の証券業界でもやはり、
見えないところでの競争、言い換えると

あいまいで微妙な領域での差異化

が始まったわけです。


なお、松井証券の場合、
「人間臭いネット証券」を目指すための具体施策として、
札幌のコールセンターを今秋、300人体制に拡充する計画を
持っています。

投稿者 松尾 順 : 07:00 | コメント (0) | トラックバック

時計業界における「見える次元」と「見えない次元」の競争

最近、腕時計してますか?

私は、事務所にいる時は壁時計があるし、
腕に付けているとわずらわしく感じるので普段は外しています。

しかし最近は、出かけるときでさえ、
腕時計を事務所に置いたままにすることが多くなりました。

時間の確認ならケータイで十分だからです。


どうやら、私と同じように考える人が多くなっているようです。

腕時計を単に時間を知るためと割り切っている人には、
もはや「不要」なのかもしれません。

実際、ケータイの普及が最大の原因とは断言できませんが、
世界のウオッチ(腕時計など、携帯を目的とする時計)の
生産数量は、2005年には減少(前年比7%減)してるんですね。

さらに、機種別でみると面白いことがわかります。

「クオーツ」(水晶振動式)のデジタル時計の減少度合いが、
前年比19%減と大きいのです。

次いで、クオーツアナログ時計もわずかながら減少。
(前年比5%減)

一方、精度の高いクオーツに一時期駆逐されかけた「機械式」
が、前年比11%増と巻き返し傾向にあります。


さて、日本は、名だたる時計の生産国ですよね。

日本製の時計の世界シェアは、数量ベースでは約6割を
おさえています。ところが、
販売金額ベースのシェアは1割台に過ぎません。


これは、日本の時計メーカーが、
大量生産によるコストダウンが可能で、
販売価格の安いクオーツ時計に強みを発揮してきたこと、

逆に、

日本の時計メーカーは、職人芸的でデザイン性が高く、
高額な「高級時計」には、弱いことを意味しているわけです。
(もちろん、高級時計で強いのはスイス。
 販売金額ベースで7割のシェアを持っています。)


そして今、正確無比で安い時計の市場は縮小し、
ファッション性の高い高級腕時計の市場が拡大しつつある。

要するに、時計の分野では、
「見える次元」での競争は限界に到達してしまったわけです。

「精度」(実時間との誤差の発生度合い)といった、
時計の「良し悪し」がわかりやすい性能の軸では、
電波時計のように、誤差=0の時計が登場してますから。


このため、現代の消費者は、

デザイン性やファッション性、ブランドイメージ

をより重視して腕時計を選ぶようになってきました。

しかも、ケータイのおかげで、極論、精度はあまり高くなくても
良くなった。


日本のメーカーが得意な「見える次元」での競争はもはや終結し、
デザイン性などの、良し悪しを一概に決めることのできない
「見えない次元」への競争へと戦場が移ってしまったんですね。


さて、時計業界のこの象徴的的な現象は、他の様々な産業分野でも
起こりつつあるわけですが、では、企業がこうした環境変化に
生き残っていくために重要なことはなんでしょうか?

コンセプト的に言い切ればこうなります。


「プロダクティビティ」(生産性)

から

「クリエイティビティ」(創造性)

へと舵を切れ!

投稿者 松尾 順 : 12:04 | コメント (0) | トラックバック

顧客志向への発想転換

「お客様を差別する気か。百貨店の売り場はすべてのお客様に
 対応するものだ」


大丸の現会長、奥田務氏は、
1980年当時、大阪・梅田店の企画課長に任命されました。
同店開設に当たって、「売り場作り」を担当することに
なったのです。

奥田氏は、70年代に米国留学し、米国の大手百貨店、
ブルーミングデールでの実習経験もありましたので、
当時、米国では当たり前だった売場作りを大丸にも導入しようと
したそうです。

それは、

「世代別」「ライフスタイル別」

の品揃えでした。

すなわち、従来の商品の分類による売場ではない、
顧客の属性に基づいたマーケットセグメンテーションです。

どうやら、こうしたマーケットセグメンテーションを
百貨店に導入したのは、日本では大丸梅田店が初めてのこと
だったようですね。

冒頭の「お客様を差別する気か・・・」

という言葉は、奥田氏が取締役会にこの新たな売場作りを
提案した際に投げつけられた言葉です。

そして、当初はなんと!この提案は却下されたそうです。


しかし、奥田氏はなんとか粘り腰で上層部を説得し、
ほぼ構想どおりの売場を実現、開設2年目から成長軌道に
乗せることに成功します。


80年代前半といえば、松田聖子、河合奈保子、あるいは
3年B組金八先生から田原俊彦、近藤正彦などがデビューして
アイドルブームが巻き起こった時代。

そんなに遠い昔でもないのに、日本では、

「マーケットセグメンテーション」

の考え方は、まだまだ受け入れられる土壌には
なかったんですね。


なお、

「顧客は平等ではない」
(Customers are not created equal)

という考え方、これは

CRM(Customer Relationship Management)


の根本思想とも言えるものですが、
この考え方が日本に紹介されたのは、さらに10年以上後の
90年代半ばでした。


近年、百貨店業界では、

「売り場」

ではなく、

「買い場」

という言い方をするところもあります。

「商品を売る場」ではなく、お客様が「買っていただく場」と
いう発想の転換を促すためです。


大丸の例などを見ると、
商品(生産者・販売者)志向から顧客志向への発想の転換は
意外にも、つい最近のことであったことが改めてわかります。

もちろん、いまだ顧客志向に転換できていな企業も多数
存在していますけど・・・

投稿者 松尾 順 : 11:12 | コメント (0) | トラックバック

4本のマフラーの教訓

ホンダ・ドリームCB750FOUR(1969年発売)

60年代、2輪レースで華々しい成績を収めたホンダが、
レースで培った技術を元に開発した750ccの4気筒エンジン搭載
のバイクです。

「ナナハン」の原点と言える上記車種は、
当時はその大半が輸出され、米国では大ベストセラーとなりました。


さて、米国市場での競争が激化してきたことを見たホンダは、
「CB750FOUR」の商品力向上のためモデルチェンジを計画します。

改良のポイントは、さらなる「走りの魅力」を引き出すための
エンジン出力の向上と車体の軽量化でした。

その実現のために提案されたアイディアは、
初代車種では各気筒ごとに独立して取り付けられていた
「クロムメッキされた4つの排気管」と
それに続くマフラーを1本化してしまうことでした。

これは、出力の向上も軽量化も可能という一石二鳥の案。

しかも、当時のバイクレース場では、「一本マフラー」が
流行っていると言う調査結果が報告されていました。

生産現場からは、手間やコスト削減になるからでしょうか、
クロムメッキされた部品を減らして欲しいという要望が
上がってきており、
一本マフラー化は、一石二鳥どころか、一石三鳥の
改良だったわけです。


こうしてホンダが自信を持って改良した「CB750FOUR-2」は
1975年に発売されます。

ところが、期待に反して
売上げが大きく低下してしまったのです。

ホンダとしては、なぜ売れないのかまったく理解できません。
そこで米国の販売店に調査員を派遣しました。

調査員が店を訪れると、いきなり店主に胸ぐらをつかまれて
怒鳴られたそうです。

「こんなバイクを作ったのはお前たちか」

「お客は何がよくてこのバイクを買ってくれるのか
 わかっているのか」

「お客はなあ、あのピカピカ光ってシンメトリー(対称形)
 に並んでいる4本のマフラーのムードにしびれてんだ」

「それをこともあろうに全部取り外して、その上、
 お客の大嫌いなあの油だらけのチェーンをむき出しにする
 とは一体どういうつまりだッ」


そして、この事実を知ったホンダでは、
恥を忍びつつ、とりあえず元の4本マフラーに戻した
モデルを発売することになります。


このエピソードは、ホンダの3代目社長久米是志氏の本、

『「ひらめきの設計図』(小学館)

から引用したものですが、久米氏はこの事件を

「買う人の思いと作る人の思いが分離してしまった実例」

として紹介しています。


作り手は、なぜ買う人の気持ちがわからないのか。
また、買う人の立場にはなかなか立てないないのか。


「マインドリーディング」のブログやメルマガは、
こんな問題意識から出発し、
その解決策を模索するために提供しているのですが、
CB750のようなケースは、今でも至るところで発生していますよね。

あらためて、顧客の心を的確に読むことの重要性、
また、そうしたニーズは高そうだというのを再認識しました。


なお、CB750の最新機種はこちらで見ることができます。


ふむふむ、4本のマフラーという伝統をしっかり受け継いだ
デザインです。確かに美しい。

投稿者 松尾 順 : 11:26 | コメント (2) | トラックバック

資生堂のメガブランド戦略:ブランドではなく意味を多様化せよ

マキアージュの初年度の年間マーケティング予算はおよそ40億円。
また、ツバキのそれは50億円だと言われています。

さすが、メガブランドにふさわしい超大型予算。
ただ、そのかなりの部分がタレント契約料に費やされてますよね。


ご存知かとは思いますが、いちおう、
2つのブランドの起用タレントを並べてみましょう。

<マキアージュ(メーキャップ化粧品)>
伊東美咲、蛯原友里、栗山千明、篠原涼子

<ツバキ(ヘアケア分野)>
仲間由紀恵、田中麗奈、上原多香子、広末涼子、観月ありさ、
竹内結子

一つのブランドの顔として、これだけの大物タレントを同時期に
起用するのは他に類を見ません!


ちなみに、ターゲットが性別、幅広い年代にわたる場合、
例えば、通信教育の「ユーキャン」のように、
あらゆる性別・年代をカバーする各種講座を提供している
企業では、いくつかの主要ターゲット・セグメントを意識した
複数タレントを起用していますね。
(現在は、織田裕二、小西真奈美、野際陽子の3人)


しかし、マキアージュやツバキのメインターゲットは
「20-30代の女性」というかなり限定的なセグメント。

多人数のタレントを同時起用する意義はなんでしょうか?


マキアージュの場合、上記ターゲットセグメントに属する
1760万人ユーザーの60%、すなわち、約1千万人をカバーすること
を目標にしています。

限定的な市場セグメントとはいえ、巨大なマス市場。
その過半数をおさえてしまおうとしているわけです。

リーダー企業としてふさわしい王者の戦略ですね。


ただ、やはり資生堂として気がかりだったのは

「消費者ニーズ・嗜好の多様化」

への対応でしょう。

多数のブランドを統廃合して、
いくつかのメガブランドに絞り込んだ場合、

・もしそのブランドが最初からこけたら?
・導入はうまくいっても、そのブランドの陳腐化が進んだら?

というリスクもまた大きくなりますね。


そもそも、以前の「多ブランド化戦略」は、
様々な消費者ニーズに基づく市場細分化を行い、
それぞれに適合していると考えられたブランドを投入することで、
失敗するリスクを低減する狙いがあったはずです。

ただ、前日に書いたように、そもそも予算が分散化したために
各ブランドを十分に育てることができないというジレンマに
陥ってしまい、ことごとく失敗したわけですが。


一方、メガブランド戦略は、
競馬で言えば本命の馬だけに全部のお金をつぎこむようなもの。
当たれば大きいが、外せば損失も莫大。


そこで、資生堂が考えたのが、ブランドの意味(解釈)を
多様化させることだったんだろうと考えています。

ブランディングの定石では、
特定のタレント(普通は1人、せいぜい2人まで)を起用して、
ブランド連想を強化しようとします。

花王のアジエンスがそうでした。

「アジアン・ビューティ」のコンセプトをひっさげて登場した
チャン・ ツィイーの一連の広告の印象は強烈でしたよね。

しかし、資生堂のマーケティング担当の方も指摘されてましたが、
チャン・ ツィイーのイメージがあまりに強かったために、
最近はそろそろ旬を過ぎた感があります。陳腐化が始まりつつある。

そこで、おそらく資生堂では、
マキアージュ、ツバキ、そして52人のお笑いタレントを起用した
ウーノ(男性化粧品)でも、

あえてたくさんのタレントとの連想を同時多発的に形成することによって、
「意味の多様化」を図ったと言えるんじゃないでしょうか。


20-30代の女性というターゲットセグメント。こんなデモグラフィックな
属性で本来は人くくりにはできません。

例えば、同じ28歳の女性でも、ライフスタイルも価値観も様々なはず。
共感するタレントもずいぶん違う。

そんな多様性を持つ現代女性に対しては、異なるタレントを同時に起用して


どうぞお好きなタレントをお選びください!
あなたの好きな解釈で、ブランドを意味づけてください!

という「意味の多様化」がベストのアプローチになるんだと思います。


余談ですが、「ツバキ」のポジショニングについて。

ユニリーバの「ラックス」は、ハリウッド女優を起用することで
「輝くブロンドの髪」を打ち出していますね。

これに対して、花王の「アジエンス」は、
アジア女性の「つややかな黒髪」の魅力を強調することによって、
ラックスのもつブロンドのイメージを「負債化」することに
成功しました。

さらに、「ツバキ」は、日本人女性の髪の美しさ」を強調する
ことで、ポジションをずらしています。

特に大きな違いは、アジエンスにおける「アジアンビューティ」では、
黒髪は黒髪でもストレートヘア。しかし、「ツバキ」の場合は、
ウェーブのかかったボリューム感のあるヘアをイメージさせています。
(これは、日本の女性は、ストレートよりもちょっとウェーブの
 かかったヘアスタイルをより好むという調査結果から導かれた
 ポジショニングのようです)


さて、「ツバキ」では、アイススケート金メダリスト
荒川静香さんを含む6人の女性タレントを新たに起用して
第3弾のブランディングを展開中。

ブランドは絞り込んで、意味(解釈)を多様化する
ブランディング手法はこれからも続けられるようです。

投稿者 松尾 順 : 14:03 | コメント (4) | トラックバック

資生堂のメガブランド戦略:悪魔のスパイラルからの脱却

「新しい玉(商品)がないと売れない」
「新しいブランド(商品)が欲しい、早く作ってくれ!」

企業の商品開発担当者は、
いつもこんな販売の現場の突き上げをくらっています。


ライバル企業から、新商品が次々と登場してくるのを
目の当たりにしている販売の前線では、
自社でも、同じように新しいブランドを投入し続けないと
競争に負けてしまうという意識をもたざるを得ないのでしょう。

そして、数十年前から言われ続けてきて食傷気味ですが、
「消費の多様化への対応」という錦の御旗にも後押しされて、
多くの企業が多種多様なブランドを1社の中に抱えています。

「多ブランド化戦略」です。


資生堂もまた同様の状況に苦しんできました。

多ブランド化で、マーケットシェアが上がるならば結構なこと
でしたが、同社の場合、じりじりとシェアが下がり続けて
きていたんですよね。

結果から見れば、

「多ブランド化戦略」

は成功しなかったわけです。


なぜうまくいかなかったのでしょうか。

それは、ブランドを「生むこと」にばかり目がいき、
ちゃんと「育てること」ができない

「悪魔のサイクル」

に陥ったからです。


1 売れる商品がない。

2 現場の求めに応じて次々と新商品を開発、市場に投入する。

3 ところが、マーケティング予算の枠には制約がある。
  このため、1ブランド当たりにかけられるマーケティング投資は
  どうしても小粒なものになる。
  実は販売の現場でも同様で、売るべきブランドがあまりに
  多すぎてどれを売ったらいいか途方にくれる。
  マーケティング投資も、そして販売パワーも多数のブランドに
  分散し、希薄化した。

4 このため、基幹になるような「強いブランド」が喪失。

5 売れない商品はあまり置けないと小売店の店頭スペースが減少。

6 売上げ低迷

7 1に戻る


資生堂のようなリーダー企業は、ニッチ企業と違って、
出来るだけ大きな市場カバーしようとする「全方位戦略」を
取らざるをえません。

したがって、ある程度の「多ブランド化」は避けられないのですが、
一つ一つのブランドが発育不良のままで終わっていては意味が
ありませんよね。

そこで、資生堂は戦略の一大転換を図りました。

「メガブランド戦略」の採用です。


資生堂のメガブランドとしては、5本くらいあるようですが、
その中でも特に目立っているのは、

・マキアージュ(メーキャップ化粧品)
・ツバキ(ヘアケア)
・ウーノ(男性用化粧品)

の3ブランドでしょう。
どれも超有名なタレントを多数起用して世間を驚かせましたよね。

メガブランド戦略の基本方向は、
「太く強いブランド」を育成することを目指して、
様々な顧客接点でのブランド露出を高めることです。

これには巨額のマーケティング予算を集中的に投下することが
必要になります。ブランドを生むことではなく、手塩をかけて
ちゃんと育てることに力を入れるということを意味しますね。


結果は大成功でした。

昨年夏に投入された「マキアージュ」は、わずか半年で
認知率80%を達成。

この「80%」という数字は、
マキアージュに統合された旧ブランド「ピエヌ」「プラウディア」
の場合、5年かけてようやっとたどりついた水準だったそうです。

いかに、集中投資が高い効果を生むかわかりますよね。

販売量でも、マキアージュは既にカテゴリートップブランドに
なっています。


また、今年3月末に発売開始された
ヘアケアブランドの「ツバキ」は垂直立ち上げを果たし、
たちまち市場シェア12%を獲得。

ラックス、パンテーン、アジエンスといった強力他社ブランドを
追い抜いて、やはりシェアトップを獲得しています。


今回の内容は、資生堂の担当者の方のお話を元に書いていますが、
資生堂内部では、今回のメガブランド戦略が成功するかどうか、
あまり自信はなかったようです。

特にヘアケアカテゴリーでは、以前一世を風靡した
「スーパーマイルド」が低迷を続けており、
以降、新たに投入したブランドも失敗続きでした。

その失敗の原因は前述したとおり、
マーケティング予算の分散・希薄化にあったわけですが、
その真逆の戦略、すなわち「メガブランド戦略」の正しさが
今回、劇的な成果によって証明されたことになりますね。

ところで、多額な予算を特定ブランドに集中させることは、
「なるほどな」とうなずけるのですが、

なぜマキアージュも、ツバキもウーノも、
あんなにたくさんのタレントを一度に起用するんでしょうかね。

もちろん、「話題性」第一なんでしょうけど、
もっと深い意味がありそうです。

この点については明日書きます。

投稿者 松尾 順 : 13:55 | コメント (2) | トラックバック

ちょっとシモ系の話で失礼・・・


今日は、ちょっと配信時間を遅らせてシモ系の話を・・・
といってもエッチな話ではありません。(笑)


さて、皆さんのご自宅でもっとも水を使うのは

「トイレ」

だってご存知でしたか。


結構、「お風呂」や「洗濯」で使う水量の方が多いと
思い込んでるんじゃないでしょうか。

実際、INAXの調査によると、
一般消費者の「節水対策」で最も多かったのは、
お風呂(71%)、次いで洗濯、炊事の順だそうです。

トイレは4番目にようやく登場。
回答者のうち、トイレの節水対策を心がけているのは37%に
すぎません。

このことは、逆にいえば、トイレの水使用量はたいしたことないと
考えているからでしょう。


ところが、東京都水道局によると、一般家庭の使用量は
トイレが28%を占めて最も多く、次いで、
風呂、炊事、洗濯が続くそうです。

まあ、確かに見た目の水量が多い風呂や洗濯の方が、
トイレより多くの水を使っているように感じますよね。

しかし現実は違う。

なんとなくの感覚的な判断が、
しばしば間違っていることがあるという事例です。


場面変わって公衆トイレ。

トイレの節水サービスを手がける「木村技研」では、
女性用の個室トイレの利用実態を調べるための調査を
実施しました。(日経ビジネス、2006年6月26日号)


延べ100万人分ものデータから分かったことは、

・利用者が平均で1.5回水を流していること

・「大」「小」の洗浄ハンドルを使い分けられるトイレでも、
 多くの利用者が「大」しか使っていないこと

・利用者の9割は、実際は「小」の利用で6リットルの水を流せば
 十分なのに、大(20リットル)を利用していたこと

などです。


この記事を見てふと思い出したのが、身内の恥をちょっと
さらすようですが、うちのカミサンのこと。

我が家のトイレは「大」「小」が使い分けられるタイプなのに、
うちのカミサンは、住みはじめてから最初の2年間ほどは、
「大」「小」が使い分けられるというのを気づかなかったのです。

私は、当時、このことを聞いてあぜんとしました。

それで、このことは「個人的な資質」(笑)の問題だろうと
いままで思っていたのですが、木村技研の調査結果を見て、
ひょっとしたら、


「大」側にハンドルを回す人が多いのは、
「大」「小」の使い分けが可能なハンドルだということが
わかりにくいデザインだからではないだろうか?

という「仮説」を持つに至りました。(ちょっとオオゲサ?)


確かに洗浄ハンドルは横向きについている製品が多く、
表示も見えづらい。

このため、うちのカミサン同様、使い分けが可能で
あることを知らない、また気づいていない人が多数存在する
可能性が考えられます。


たかがトイレ、されどトイレ。

洗浄トイレを前向きにつけるなど、
ちょっとしたデザインの変更で水量が減少すれば、
公衆トイレなら数百万円の水道料金節約にまでつながるかも
しれません。


どんなこともきちんと調査をやると、
いろいろと見えてくるものがあるなと思うのです。

なお、私の仮説が違う場合、ぜひご指摘ください。
なにぶん、女性トイレのことは良くわかりませんもので。


月曜日からシモ系の話ですいませんでした・・・
明日は一転して、「資生堂のメガブランド戦略」を取り上げます。

投稿者 松尾 順 : 14:53 | コメント (0) | トラックバック

「箇条書き」にはご注意!

昨日書いた「合脳的プレゼンテーション」では、
内容の展開を「接続詞」でつないでいけば、

・プレゼンを物語化することができること

これによって、

・プレゼンの内容が、聴いている人の脳にすっと入っていくこと

を説明しましたが、
究極の合脳的プレゼンテーションは、物語そのもの、
具体的には「劇」として組み立てられたものでしょう。


例えば、統計解析ツールを開発・販売しているSPSS社が、
昨年からイベントで行っている「寸劇形式」のプレゼンテーション
が該当します。

*以前このことについて書きました>寸劇プレゼン


寸劇形式のプレゼンは、シナリオ作成から始まって、
演出、配役、リハーサルなど、準備が半端じゃなく大変ですが、
それに見合う効果(面白さ、わかりやすさ、記憶の残りやすさ)
があると思います。

つい先日、このプレゼンのストリーミング映像が
公開されましたので、関心のある方はぜひごらんください。
(寸劇裏話やイベントレポートのURLも併せて掲載します)

------------------------------------------------------------
*SPSS Data Mining Day 2006で披露された、
SPSS社員が演じる寸劇形式のプレゼンテーション「SPSS Solution」

▼ストリーミング映像(登録制/所要時間37分)

▼SPSS社員の紹介 & 寸劇裏話

▼@ITイベントレポート(各講演のダイジェスト)
------------------------------------------------------------


さて、最近増えてきた「導入事例記事」も、
物語化された効果的なコミュニケーションのひとつです。

導入企業への取材を元に、背景や、導入のきっかけ、
導入成果などをストーリー性をもたせることで、読者の関心を
引き、わかりやすく製品の特徴やメリットを訴求できます。


実は、私もしばしば、事例記事の取材・ライティングの仕事を
やる機会があるのですが、数年前、某ソフトウェアの導入事例記事
を書いた時、次のようなことがありました。

初稿を提出した後、クライアントから戻ってきた修正指示を
見ると、大幅に「箇条書き」を増やすようになっていたのです。

もし、指示通りに修正するとストーリー性がまったく失われて
しまうため、私は頭を抱えました。

とはいえ、なんとかクライアントの要求に最大限こたえつつ、
ストーリー性を失わないように注意して修正してその仕事は
納めたのですが・・・

今でも、ちょっと違うなあという思いが残っています。


いわゆる「ビジネス文書」では、

「箇条書き」

が過度に強調されている嫌いがありますよね。

出張報告とか提出したら、上司から、「箇条書きに直せ」
なって言われて突っ返された経験ありません?


確かに、「箇条書き」は、
ポイントだけをわかりやすく抜き出して提示することができます。
したがって、多くのビジネス文書では有効な文体だと思います。

しかし、箇条書きは、内容を把握する必要に迫られた人には
読んでもらえますが、そうでない人、すなわち、
まだ内容に関心を持たない人には、あまり読んでもらえません。

なぜなら、箇条書きは
キーワード、キーセンテンスの羅列に過ぎないため、

・表現が平板なため読んでいて面白くない

また、まさに「接続詞」がないので、

・読み手が文脈を想像しなければならず、
 読み進めるのが大変

だからです。


ですので、関心のない人を振り向かせたい
マーケティング・コミュニケーションでは、
「箇条書き」の使いどころを間違えてはいけません。

「箇条書き」が適しているのは、主に製品スペックのような
そもそもストーリー性を要求しない部分や、並列的な情報が
多数あって、箇条書きでないと混乱する場合です。


「図解コミュニケーション」で知られる久恒啓一氏
(宮城大学教授)は、

「箇条書きは思考を停止させる」


とおっしゃってますが、確かに「箇条書き」は、

分かった気になっただけで、実はぜんぜんわかっていない
(わかってもらえていない)

というコミュニケーションになってしまう危険性を
秘めていると思います。


「箇条書き」にはご注意!

投稿者 松尾 順 : 11:48 | コメント (2) | トラックバック

合脳的プレゼンテーション

先週の「プロフェショナル 仕事の流儀」(NHK)では、
これまで登場された方の「仕事術」を特集してたんですが、
ご覧になったかたもいらっしゃいますよね。

いろいろと紹介された仕事術の中で特に面白いと思ったのは、
「生茶」などをヒットさせたキリンビバレッジの商品企画部長、
佐藤章さんの「プレゼン術」です。


まず、佐藤流プレゼン資料の作り方。

佐藤さんは、パワーポイントのスライド1枚の説明時間を

「約1分」

として枚数を決めるそうです。

例えば、プレゼン時間が20分だとすると資料は20枚になります。

こうする理由は、だいたい1分間に一つのテーマを話すのが
相手にとって理解しやすいから。

私としては、これが普遍的に良い方法とは思えませんが、
毎年、相当数の新商品を開発しなければいけない清涼飲料メーカー
だけに、簡潔でスピーディな説明が求められるんでしょうね。


次に、佐藤流プレゼンテーションのコツ。

それは、「接続詞」に気をつけることだそうです。

「だからこそ、この商品の・・・」

「ですから、消費者の・・・」

などと、話のつなぎや場面転換に、

だから、ですから、したがって、つまり

など、接続詞をきちんと意識して流れを作っていく。


プレゼンに慣れない人に多いのは、

「えーと、この商品は・・」
「えーと、ネーミングについては・・・」

と間投詞「えーと」を連発することですが、
これだと話がつながっていかない。

聞いてるほうは、いらいらします。(笑)


でも、接続詞を意識して話をしていくと、まるで
「物語」(ストーリー)を語っているかのようなものに
なりますね。

これは脳科学者の茂木健一郎氏によると、
物語として語ると、脳のシステムにすっーと入ってくる。
理解・記憶しやすいものとして受け取ることができる。

こういう脳にとって受け取りやすいコミュニケーションのことを

「合脳的」(脳に合っている)

と言うそうです。


昨今、コミュニケーションにおいて「物語」が注目されて
いますが、
佐藤さんは、実践の中でプレゼンの物語化の必要性を実感し、
「接続詞に気をつける」という具体的なテクニックを
編み出されたんでしょう。さすが!


ところで、ご参考までに番組の中で説明のあった
20分のプレゼンテーション資料の枠組みをご紹介しておきます。
(新しい清涼飲料開発の場合のようです)

Page [タイトル]
1  市場動向
2  社会動向
3  ターゲット
4  開発案件
5  テーマ
6  商品コンセプト
7  ユーザーベネフィット
8  マーケティング上の意義
9  プロダクト・プロファイル
10  ネーミング
11  パッケージ
12  味
13  広告
14  調査結果
15  市場導入戦略
16  商品戦略
17  営業戦略
18  セールスプロモーション
19  広告戦略
20  採算計画

紹介されたのはタイトルだけなので、
内容は推測するしかないんですけど、飲料メーカーらしい
構成ですよね。

投稿者 松尾 順 : 12:23 | コメント (5) | トラックバック

「病児保育」のビジネスモデル

昨日とはうってかわって、社会的意義の高いお話ですよ!


さて、新しい商品開発のヒントは

「不」

の付く言葉にある、とよく言われます。

つまり、不平、不満、不便など、意識的、あるいは無意識的に
消費者が感じている問題を発見し、その解決策を考えることが
商品開発のネタになるというわけです。


ただ、非常に大きな「不」があるにも関わらず、
まずもって「採算が取れそうもない」という理由で、
ほとんど誰も解決策を考えようとしないで、
放置されてきた問題が相当あるようです。


たとえば、「病児保育」。

体調が悪くなった幼児を預かってくれる「病児保育」サービスは、
非常に少ない数しか存在していません。(全国で数百箇所)
そのほとんどが公的な支援を受けないとやっていけない
赤字運営だそうです。

補助金などの支援を受けても赤字では、
とても民営事業としては取り組めないですよね。


しかし、「病児保育」のニーズは極めて高いのです。

働く女性が増加し、夫婦共働きがごく一般的になってきた現代、
働きながら子育てをすることの難しさが「少子化」を促進
しています。

この「子育てを難しくしていること」のひとつが、
保育所不足であることはご存知だと思います。

でも、保育所の不足が解消されただけでは不十分なんですよね。
なぜなら、病気の幼児は、
通常の保育所では預かってくれないからです。

子供の具合が悪ければ、会社を休まなければなりません。
また、保育所に預けていた子供が急に熱を出した。
この場合も、親がすぐに引き取りにいかなければなりません。

たいていは母親が会社を早退することになるわけですが、
この結果、同僚に迷惑をかけたり、仕事が滞るといったことに
つながるため、仕事を続けていられなくなる。

ですから、病気の子供を預かってくれ、安心して仕事に
打ち込めるサービスを、特に働く母親は切実に求めています。


今、このニーズの存在を知ったある青年が、
社会起業家として、新たなビジネスモデルに基づく
「病児保育」サービスに取り組んでいます。

幼児保育のNPO法人、「フローレンス」代表の
駒崎弘樹さんです。
(日経アソシエにも登場されてましたね)

>>駒崎さんのブログ

さて、病児保育のサービスを立ち上げるに当たっての問題は、
「小児科医のいる保育施設の運営」を前提とすると、
採算が厳しくなる点です。

既存の病児保育サービスが赤字なのも、ここに原因があります。

しかし、駒崎さんは助成金に頼らず、事業収入で運営費を
きちんとカバーできるビジネスモデルを考え出したのです。


それは、まず「非施設型」のサービスとすること。

このため、地域の子育ての経験のある中高年の主婦を
「レスキュー隊」として組織化しました。

病気の子供を預かって欲しいお母さんから連絡を受けると、
都合のつくレスキュー隊のおばさんに連絡し、子供を
迎えに行きます。

そして、かかりつけの小児科医の診察を受けて、預かるのは
問題なしと判断された場合のみ、母親の仕事が終わるまで
「自宅」で面倒を見るという仕組みです。

預かっている間に幼児の病状に異変が起きたような場合には
待機している医療スタッフにすぐ連絡できる体制も築いて
います。


レスキュー隊のおばさんにとって、病気の幼児を預かるのは、
とても気を遣う大変な仕事ですが、自分の経験も活かせるし
それだけにやりがいもある。

私の勝手な推測ですが、自分の子育てが終わってぽっかりと
空いてしまった心のすきまを満たしてくれる、
とても魅力的な仕事じゃないかと思います。

しかも、都合の良い時だけ働けるアルバイトとして
相応の収入が得られるということで、
レスキュー隊のなり手には事欠かないようです。


一方、当サービスは、

入会金2万円、月額4千円の会員制のサービス


となっています。
(この基本料金で、月1回は無料で預かってもらえます)

子供が病気になった時しか預からない「病児保育」ですから、
預かった時だけお金をいただく料金制度では、
運営をまかなえるだけの収入が得られないためです。
(ただ、十分にリーズナブルな価格ですよね。
 一般社会人の方が無理なく支払える水準でしょう)


さて、こうして後付けでビジネスモデルを書いてしまうと、

「なんだ誰でも思いつけるアイディアじゃないか」

と思われる方もいるかも知れません。


でも、事業は、発想・企画することの10倍、いや100倍以上、
実行し継続的に運営できる仕組みを作り上げるのが大変
なのです。

フローレンスの場合は、
これだけの仕組みを作り上げるのに3年かかっています。
年内には黒字運営への転換がほぼ確実だそうです。


以上は、金子郁容先生(慶應義塾大学大学院教授)の
ご講演内容からご紹介しました。

駒崎さんとは面識はありませんが、
この仕組みが全国にも広がっていくよう、
彼にはがんばって欲しいものですね。

投稿者 松尾 順 : 11:08 | コメント (2) | トラックバック

エロ本と同じくらい買うのが恥ずかしかったもの

ここで私のちょっとした秘密を明らかにします。
(「秘密」というほどたいしたことはなくて、
 実は、書くのが恥ずかしいだけなんですけど・・・)


私は甘いものが好きで、
毎日のように「シュークリーム」や「大福」、「アイスクリーム」
などを近くのコンビニ(サンクス)で買っています。

また、別のコンビニ(AM/PM)では、しばしば
ソフトクリームをレジで頼んで買います。
「コーン」を指定して。

これだから、ダイエットも続けなきゃいかんのですが・・・(笑)


さて、私と同じ年頃の甘いもの好きの貴方(男)、

そんな貴方なら身に覚えがあると思いますが、レジに並んでいる時、

「このシュークリームや大福は、子供に買ってきてと
 頼まれたものなんですよ・・・」

と無意味な弁解を心の中でしていませんか。してますよね。

いい年をしたオヤジがシュークリーム食べんのかよ、

なんて若い店員に思われるのが恥ずかしい。

ですから、いかにも「これは私が食べるのではありません」
という顔つきをしたいわけですよね。

私はそうです。もちろんこの弁解は大ウソで、
事務所で一人密かに楽しんでいるんですが。


甘いもの系のお菓子は、固定観念として「女子供の食べ物」
というイメージを大方の男性(特に中高年)は持っています。

でも、やはり大人になっても好きなものは好き。
食べたいものは食べたい。
ですから、多少の恥ずかしさは我慢できます。

しかし、さすがにパッケージに幼児の絵が描かれた「ビスコ」
は買えません。心の中の弁解も通用しないんですね。


さて、こんな男性の隠されたニーズを掴んだのが、
「オフィスグリコ」でした。

これまでも何度か取り上げてきてますが、
「オフィスグリコ」は、富山の置き薬方式の職域お菓子販売です。

手で抱えられるくらいの小さめのプラスチックボックスに
お菓子が入れてあります。お菓子が欲しい人は、
100円玉をカエルの貯金箱のようなものに自分で投入し、
好きなお菓子を取り出す仕組みです。

このビジネスモデルでは、
お菓子の補充や代金の回収はすべて人手でやっていいます。
大変な労働集約型業務ですので事業開始時は採算性が疑問視
されましたが、やはり

「規模の経済」

の考え方が通用したようです。


現在、事務所に置かれているボックス総数は、
69000台(2006年3月松)です。年商約20億円。

ここまで台数が出ると、

1ボックスあたり1日100円(お菓子1個分)の売上げ

で採算が合うそうです。

グリコの「置き薬」ならぬ「置き菓子」は
なんとも原始的な販売方法ですが、
結構すごいですよね。


実は、このオフィスグリコ、当初のターゲットは

「OL」

でした。

グリコでは、

「男性より女性の方が、お菓子が好きなはず」

という常識(実は検証されていない「仮説」に過ぎない)
をベースにビジネスモデルを考え、事業展開したわけです。


ところがいざフタを開けてみると、購入者の70%が
男性。しかもそのコア層は30-40歳だったそうです。

彼らは、いままでコンビニではエロ本を買うくらい
お菓子を買うのは恥ずかしかったのです。

一方、事務所では空腹を我慢しながら
残業を続けていることが多い。

そこに、「オフィスグリコ」は救世主のように登場した。
(オオゲサですが)

これなら、大好きな「ビスコ」だって、こっそり買える!
家で食べたら、カミサンや子供に笑われてしまうけど、
自分のデスクならそんな心配もない。ちょっと空腹を
満たすという正当な理由がある。


要するに、「オフィスグリコ」は、
残業続きの男性社員の心を掴んだのです。

グリコさん側としては意図せざる結果でしたが。


よく、

「恥ずかしい系商品」

の典型として、エロ本などのセックス関連商品や
「ズラ」などが取り上げられますよね。

でも、ユーザーの属性や状況によっては、

「お菓子」

でさえ恥ずかしいものになりうるという点は、
マーケティングのヒントになりそうじゃありませんか?


*今回の内容は、I.M Press 2006-7の記事を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 11:04 | コメント (2) | トラックバック

「au」のブランド拡張が気づかせてくれること

今日のお話は、

「コミュニケーションターゲット」

の役回りを勘違いすると困ったことになるという事例です。
(日経ビジネス、2006.7.3、特別編集版)


「au」をサービスブランドに据えたKDDIのブランド戦略は、
大成功したと言えますね。

おかげで、王者ドコモに続く2番手の地位を磐石のものと
しましたから。

この成功の最大の牽引力となったのは、
著名デザイナーを採用した「au design project」が
ヒット機種を次々と生み出したことにあるでしょう。


ところが、ちょっと首をかしげてしまうんですが、
KDDIの法人向けの携帯電話サービスには、「au」のブランド名を
昨年(2005年)9月まで冠していなかったそうです。


「KDDIモバイルソリューション」

これが、以前の法人向けサービスの名称。
大変失礼ながら、実に平板で面白みのないネーミングですね。


なぜ、法人向けサービスに「au」を採用しなかったのでしょうか。

それは、個人向け携帯サービスのブランドとして打ち出した「au」
の中心顧客が「若年層」であるのに対し、
法人向けの採用の意思決定者(決裁者)は「中高年層」。

つまり、ターゲットが異なるからという理由でした。


ただ、上記サービスに対する法人客の反応はぱっとしませんでした。

ある顧客からは、

「KDDIさんは、
 法人向けの携帯電話には力を入れていないようですね」

とまで言われてしまいます。


頭を抱えたKDDIは、「au」を使わないという方針を転換、

「Business au!」

というサービスブランドを考案し、展開を図りました。


結果は劇的です。

専用ホームページへのアクセス件数は6倍以上に伸び、
2006年3月期の企業向け携帯電話の新規契約件数は、
前期の1.6倍になっています。

高い認知度と、「先進的」「カッコいい」といった
好意的なイメージを持つ「au」ブランドですが、
他のサービスにこの名称を拡張しただけで、
これほどの効果があるというのは驚きですよね。


さて、昨年まで「au」ブランドの採用を拒んでいた
KDDIさんの勘違いは、

「サービス決裁者=サービス選定者」

と考えていたことにあると思います。


確かに、法人向けサービス導入のハンコを押すのは
中高年の管理職でしょう。

でも、どの企業のサービスを使いたいかという選定は、
現場のヒラ社員(若年層)に任せるんじゃないでしょうか。

たぶん、

「どこのサービスがいいか、検討して稟議書回してくれ」

でしょう。


これ、自家用車を購入する時の契約者(決裁者)は
通常ダンナですが、車種選定権は、
奥さんや子供(影響者)が握っていることが多い
というのと似た構図です。


BtoBの場合、BtoC以上に、
このターゲットユーザーの役回り(決裁者と影響者)や
相互の力関係がわかりにくく、

・コミュニケーションターゲットを誰にするか
・どんな訴求内容とすべきか

といったマーケティング・プランニングで頭を悩ますところです。


「au」の事例も、
BtoBマーケティングの難しさを再認識させられますね。

投稿者 松尾 順 : 15:40 | コメント (2) | トラックバック