インバウンド・マーケティング-ハンターからハーヴェスターへ

「ad:tech tokyo 2012」@東京国際フォーラム
において行なわれた講演、

「インバウンドマーケティング~
 従来型デジタルマーケティング脳を切り替えるためのレッスン」
(株式会社スケダチ 代表取締役 高広伯彦氏)

を聴いてきました。

今回は、高広氏の講演内容に、私の考えも踏まえ、
インバウンドマーケティングとは何かについて
まとめました。(したがって、内容に対する文責は
すべて私にあります)

----------------

「インバウンドマーケティング」の主な特徴は、
私の理解では以下の3点になります。


----------

1 対象顧客を探し出し、「ターゲティング」するのではなく、
  消費者にとって有益なコンテンツを公開し、見つけてもらい
  やすい工夫をして、関心のある消費者に見つけてもらう(get found)

2 近々購買したい人に今すぐの購買を促すだけでなく、
  ちょっと関心がある、情報を集めているだけの人も含め、
  見込み客(lead)との関係性を確立し、育成していく。

3 上記の目的達成のために、ブログ、動画、ソーシャルメディア、
  e-newsletter(メルマガ)、SEM/SEOなど、様々なメディア、ツール
  を整合性、一貫性のある形で統合的に活用する。

----------

高広氏も強調していましたが、
インバウンドマーケティングは、

「全く新しい方法」

というわけではありません。

インバウンドマーケティングの核にあるのは、

「ユーザー視点」

です。

そのルーツ(原点)は、
1999年発刊されベストセラーとなった、
セス・ゴーディンの

「パーミションマーケティング」

に遡ることができると高広氏は指摘します。

同書の中で、セス・ゴーディンは、
マスメディア広告は、
消費者(オーディエンス)の生活に
勝手に割り込んでくる

一方的なコミュニケーション

だから嫌われ、アテンション(注目)を
得られにくいと主張し、まず消費者の

「許可(パーミション)」

を得ることから始めるべきだと説いたのでした。


その後、検索エンジンが普及する中、
Googleのリスティング広告、

「AdWords」

では、サイト閲覧者のクリック率に応じて
表示順位が決定される仕組みが採用されましたが、
これは、消費者の当該広告に対する関心の強さ、
すなわち

「支持率」

によって広告の露出度合いが決定されるものであり、
広告が「企業視点」から「ユーザー視点」へと
移行しつつあることを表すものでした。


また、ブログやソーシャルメディアを通じて、
消費者自らが積極的に情報発信し、
消費者同士のつながりを通じて情報共有が
頻繁に行なわれるようになったことから、
マス広告の影響力は弱まっています。

消費者はもはや、
マス広告にあまり依存することなく、
検索エンジンを活用し能動的に情報収集する
と同時に、ソーシャルメディアでつながっている
友人・知人の情報を頼りに、

購買意思決定

を行なうようになっていますね。


このような歴史的背景を踏まえ、
消費者の購買意思決定の変化に対応する
解決策として提唱されたのが
インバウンドマーケティングです。

企業は、ターゲットオーディエンスに対し
マス広告を通じて一方的にメッセージを送る

「アウトバウンドマーケティング」

だけでなく、

「消費者に役に立つ、喜ばれる情報」

をその道のプロとしての企業が、
様々なメディア・ツール活用して公開し、
またその情報を見つかりやすくしておく。

そうすることで、消費者が、
その情報を必要としたときに

「見つけてもらう」

ようにすることが重要なのです。

このため、インバウンドマーケティングで
最も重視されるツールは、

「ブログ」

なのだそうです。

ブログは更新が容易なため、
最新の情報を手軽にアップできることに
加えて、検索エンジンに引っかかりやすく、
また、ソーシャルメディアなどでの共有も
しやすいというメリットがあるからです。

高広氏は、

「ブログなくしてインバウンドマーケティングなし」

と言い切っていました。


さて、インバウンドマーケティングの場合、
適切なコンテンツを提供する目的が

目先の販売(売上)

にだけ向いているのではないことに、
留意する必要があります。

近年のマーケティング、
特にネットマーケティングでは

ターゲットの絞込み(ターゲティング)

が技術的に容易になったため、
すぐに購入しそうな

「熱い見込み客」(hot prospect)

にばかり注力する傾向が強まっています。

一方で、ある製品・サービスに
ちょっと関心を持っただけ、あるいは
情報収集をしているだけの

「ぬるい見込み客」(warm prospect)

を実質的に切り捨てています。

というか、むしろ、

「ぬるい見込み客」

にまで強引に、
今すぐの購入を勧めてしまう
コミュニケーションをやってしまい、
そっぽを向かれることも起きています。


インバウンドマーケティングでは、
ぬるい見込み客も含め、検索エンジンでの検索結果や、
フェイスブック・ツイッターなどで目に留まった
他者の投稿を通じて、まず自社が提供する

「お役に立てるコンテンツ」

に触れてもらうことを目指します。

そして、さらに価値の高い

「プレミアムコンテンツ」

を提供することで、

見込み客のコンタクト情報(メールアドレス等)

を収集する。

その後は、e-newsletter(メルマガ)などを
活用しながら、見込み客との良好な関係を形成
していきます。

また、既存客をリピーター、ロイヤル顧客へと
育成していくのです。


実は、こうした見込み客からロイヤル顧客への
育成を目的とするアプローチは、

「CRM」(Customer Relationship Management)

と考え方が同じ。

この意味でも、インバウンドマーケティングが
全く新しい方法ではないことがおわかりでしょう。

インバウンドマーケティングは、
私に言わせると、

「検索エンジン、ソーシャルメディア時代のCRM」

とも言い換えることができるのではないかと
思っています。


なお、インバウンドマーケティングは、

「コンテンツマーケティング」

ともアプローチが似ていますね。

しかし、コンテンツマーケティングでは、
必ずしも、見込み客を育成することが目的には
なっていません。

この点が、決定的な違いだと言えます。


高広氏は2012年9月、

株式会社マーケティングエンジン

を設立、インバウンドマーケティングに
関するワンストップサービスの提供を開始しており、
その実行環境として、

「Hubspot」

というツールを取り扱っています。

Hubspotは、

・SEO
・ブログ、ソーシャルメディア
・eメールオートメーション
・マーケティング統合分析

など、インバウンドマーケティングを
統合的に実行できる機能を備えています。

消費者に役に立つ有益なコンテンツを提供し、
そのコンテンツを見つけられやすくする。

また、見込み客を育成するプロセスを
効果的・効率的に実行するためには、
多様なメディア・ツールの活用と施策検証の
ためのデータ分析を含む

PDCA(Plan-Do-Check-Action)

を統合的に行なわなければなりません。

Hubspotは、そうしたインバウンドマーケター
のニーズに応えることができる優れたツールと
いうことで、高広氏は日本市場への導入を
推進しているようです。

私自身、Hubspotはぜひとも使ってみたい
と感じました。


高広氏は、講演の最後に、

「ハンターからハーヴェスターへ」
(from Hunter to Harvester)

という言葉を示しました。

これは、従来のように、
顧客を「狩る」ために狙い撃ちする
(ターゲッティング)のではなく、
有益なコンテンツという土壌を整備し、
そこに見込み客の種をまき、
時間をかけて丹念に育てるアプローチへと
切り替えるべきということです。


私もこの主張には完全に同意します。

狩猟型、短期志向のマーケティングは
もう通用しない時代だからです。

多くの企業が今後、

インバウンドマーケティング

へと舵を切ることは間違いないでしょうし、
私もそうなることを望んでいます。


*株式会社マーケティングエンジン
 http://mktgengine.jp/


(参考文献)

『インバウンド・マーケティング』
(ブライアン・ハリガン、ダーメッシュ・シャア著、すばる舎)

『パーミション・マーケティング』
(セス・ゴーディン著、阪本啓一訳)

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投稿者 松尾 順 : 10:13 | コメント (2) | トラックバック

地道なコミュニケーションがCRMの本質

お客さまとの信頼関係は、
楽に手っ取り早く形成することはできません。

たとえすぐに結果が出なくても、
地道に手間をかけ、お客さまとの丁寧な
コミュニケーションを継続することで、
揺るがぬ信頼関係とそれを土台とする
安定収益が得られるのです。

これがCRMの本質でもあります。

-------------

私はいつも新しいお店に行ってみたいほうなので、
最近の10年で、ずっと通っている飲食店は広尾に
ある1軒(以下「広尾店」)だけです。

広尾店は、高級店ではありません。
そこそこ手頃な値段でおいしい料理が楽しめます。

店内の雰囲気、また接客サービスも心地よく、
接待にも利用しています。

ただ、そうしたことだけで、
私は広尾店のリピーターになっているわけ
ではないんですね。

結局、毎年、年に2-3回届く

「ハガキDM」

の効果なんだろうと思います。

手書きで書かれた宛名。

そして、裏面には、素朴な印象を与える印刷で
その時々の季節の新メニューの案内が紹介されており、
また行きたいという気持ちを高めてくれます。

広尾店は、看板も目立たなくしてあり、
しかも「何屋」かわからないので、
一見さんが入ることはまずありません。

したがって、新規客は、既存客に連れてこられた
友人知人、あるいは紹介を通じて獲得。

そして、ハガキDMが、
リピート客育成の最大の武器となっています。

おそらくDMは毎回数千通出していて、
宛名書きが大変だと思います。

しかし、そのおかげで宣伝することもなく、
固定客に支えられて安定した売上を確保している
ようです。

さて、大阪府泉佐野市の老舗和食店

「割烹 松屋」

では、やはり「ハガキDM」を地道に出し続ける
ことで、バブル経済崩壊後の落ち込みから回復し、
安定した業績を維持しています。

同店では、保有している顧客6,000人分の情報を

・1年以内の来店客
・2年以内の来店客
・その他

の3つのカテゴリーに分類。

1-2年以内の来店客を中心に、
毎月少なくとも1,000枚から、多いときには
3,000枚のハガキを送っているとのこと。

宛名やコメントはすべて手書きなので、
スタッフ全員で手分けしています。

同店の取り組みとして面白いのは、
誕生日や記念日向けの特別コースの案内や、
年4回の商品紹介以外のDMでは、
前回の来店のお礼や時候の挨拶しか書かないこと。

なぜなら、ハガキの役割を

「お客さまとの信頼関係を築き、保つため」

と割り切っているからです。

顧客情報は、
来店時のアンケートから得ていますが、

・誕生日
・記念日
・好きな飲み物・食べ物
・苦手な食材(アレルギー含む)

といった情報に基づいた、
お客さま一人ひとりにカスタマイズされた
コメントを盛り込んでいます。

また、記念日向けなどの「特別コース」に
ついては、そのお客さまの苦手な食材を
除いたものを提案するところまで踏み込んで
いるそうです。

こうしたハガキDM始めるのは簡単ですが、
続けるのが難しいのが現実ですね。

即効性のある販促策ではないからです。

実際、松屋の2代目店主、浜田憲司氏は、

「最もつらかったのは、結果が出ないときに
 アンケートを取り、はがきを書き続けること
 だった」

と述べています。

しかし、うまく回り始めると、
松屋も、また私が通ってる広尾店もそうですが、
広告・販促に依存しすぎる必要がなくなります。

また、固定客率が高いため、あらかじめ毎月の売上
が読めるくらい、安定した業績を実現できるのです。


松屋も広尾店もどちらも、いわゆる

「CRM(Customer Relationship Mamagement」

を実践し、成功していると言えます。

一方、CRMに失敗するケースは、

・顧客情報を統合しデータベース化すること
・どうやってコミュニケーションするか
 (主にメディアやツールを重視)

に意識が行きすぎ、

・お客さまの「信頼」、また「好意」を獲得するために
 何を伝えるべきか(すなわちコンテンツ自体を重視
 すること)

というCRMの本質を忘れているからです。

私たちは、広尾店や松屋、またこれまでも
何度か紹介した

「でんかのヤマグチ」

の顧客コミュニケーションの方法に、
おおいに学びたいものです。


*松屋については、日経MJ(2012/10/24)の記事を
 参考にしました。

*高値売りの「でんかのヤマグチ」

投稿者 松尾 順 : 11:07 | コメント (0) | トラックバック

商品は「夢」を与えなければならない

人は、商品が実現してくれるかもしれない

「理想」(to be)

を夢見て購入するのであり、

「現実」(as is)

を提示されてもワクワクできないものです。

-------------

このところ、積極的に広告展開している、
サントリーの健康食品、

「セサミンEX」

は、男女2人の後姿のヌードが目を引きますね。

アテンション(注目)効果はバッチリです。

ただ、この男女の引き締まった若々しい
からだつきから見て、おそらく30代前半くらいでしょう。

ひょっとしたら20代かもしれません。

セサミンのメインターゲットは

40代以上

ですから、メインターゲットからは、
10歳以上も若いモデルを登場させている
ということになりますね。


過去のセサミンの広告(テレビCM、新聞広告)は
公式Webサイトで閲覧することができます。

昨年(2011年)は当時45歳の前田典子さんでした。

それ以前は、

・登山家の三浦雄一郎さん(当時78歳)
・女優の浜美枝さん(当時67歳)

など、メインターゲットと同世代の著名人が
登場していました。

ところが、昨年は40代の前田さん、
そして今年はおそらく30代と、広告に起用する
モデルを大きく若返らせています。


健康食品は、体の衰えを感じ始める中高年が、
強い関心を持つ商品カテゴリーであり、

「若くありたい」
「元気でいたい」

といった欲求を充たしてくれそうという

「期待感」

で購入するものですね。

その時、頭の中にイメージしているのは、

「今の自分」(as is)

ではなく、若者のような、
引き締まった体や、ハリのある肌を取り戻している

「理想の自分」(to be)

なのです。

したがって、広告においては、

「理想」=「夢」

を提示してあげたほうが、
より強く購入意欲をそそることができる。

セサミンの近年の広告の背景には
そんな判断があるのでしょう。


ちなみに、衣服の展示用に用いられる

マネキン(人形)

の大手、吉忠マネキン(株)では過去に、

60代シニア

の体型を忠実に再現したマネキンを
製作したことがあったそうです。

これは、おなかがせり出し、全体に小太りな
典型的なシニア体型にも似合うファッションを
展示する上で、最適なマネキンのはずです。

ところが、このマネキンは、
消費者にはそっぽを向かれてしまい、
失敗に終わりました。

ありのままの

「現実の自分」

を提示されたくはないということだったのでしょう。


人間心理はこのように複雑なものです。
現実の自分と理想の自分との間で揺れ動いている。

したがって、ターゲット顧客の心を動かす
クリエイティブ、あるいはメッセージ開発に当たっては、
人間心理を深く洞察しなければならないのです。


★サントリーセサミンEX
(サントリーウェルネスオンライン)

投稿者 松尾 順 : 09:20 | コメント (0) | トラックバック

「たった1人」を確実に振り向かせると、100万人に届く。

気鋭のマーケティング・コンサルタント、
阪本啓一氏の最新著作、

『「たった1人」を確実に振り向かせると、100万人に届く。』

では、現在のビジネス環境は非連続に変化しており、
それは、「革命」とも呼べるほどの大きな変化である
ことから、マーケティングで成果を出すためには、

「新しいアプローチ」

が必要だと提唱しています。

---------------

本書で展開されている「新しいアプローチ」、
すなわち「新しいマーケティング」において、
最も重要な点は、

「顧客のこころとの感情的絆づくり」

です。


今、私たちは、
生活者・顧客がパワーを持つ

「第4の革命」

のまっただなかにいます。

一方、企業が生活者・顧客に対して
発信する情報量はあまりに多過ぎるため、

「うるさすぎて、届かない、伝わらない」

という状況。

「アテンション(注目)」は、
もはや希少資源なのです。


したがって、マス広告主体の伝統的な
マーケティングを通じて、

「アテンション(注目)」

をばくち的に得ようとするのではなく、
ゆっくり、じっくり、顧客との関係性を育む

「顧客エンゲージメント」

に取り組むしかないというのが
阪本氏の基本的な考えです。


そこで、まず集中しなければならないのは、
顧客セグメントでも、架空の人物に過ぎない
「ペルソナ」でもなく、今、目の前にいる人、
あるいは、PCやスマートフォンの画面の向こう側
にいる生身の人間、すなわち、

「たった1人」

の興味関心、すなわち

「インタレスト」

です。

マーケターは、たった1人のインタレストを
満たすことをまず考えなければならない。

なぜなら、顧客は、製品・サービス自体を
購入しているのではなく、自分の

インタレスト(興味・関心)

を満たしてくれる、

アイデア(製品やサービスがしてくれること)

にお金を支払っているからです。

そして、その人は自分が持つインタレストが
何らかの製品・サービスで満たされると、
思わず誰かに伝え、シェアしたくなるもの。

私たちはそれぞれ複数の様々なインタレストを
持っていますが、同じインタレストを持つ人々と

「コミュニティ」

を形成しています。

したがって、

「たった1人」

のインタレストを満たせる優れた製品・サービスを
開発し、‘情熱と手間をかけた’対話を行なうことで、
自社製品はクチコミを通じてコミュニティに拡がって
いくのです。


阪本氏は、

「コミュニティは最強のマーケティング・メディア」

であり、新しいマーケティングとは、
自社製品・サービスの独自の価値を形成する

「コア・アイデア」

を顧客から顧客へと感染させることが
核になると主張しています。


また、このためには、
製品・サービスを

「ブランド」

としてつくることも、
阪本氏は重視しています。

ブランドとは、他社にはない価値(とんがり)を
提供することであり、「らしさ」を感じさせること。

ブランドをつくることで、
「売る」のではなく、

「顧客に選ばれる」

という状況を生み出すことができるのです。


阪本氏は、新しいマーケティングの目的について、
シンプルに以下の3つにまとめています。

・「伝えたい」=提供価値(コア・アイデア)を伝えられるのか?
・「また来てほしい」=リピート客になってくれるのか?
・「広めたい」=感染(うつ)すことに役立つか?

自社のマーケティングのあり方、今後の展開について
この3つの目的に照らしてその妥当性を検証してみること
が有益かもしれません。


生活者・顧客とどのように関わっていくべきか、
悩んでいる方、また顧客エンゲージメントに
取り組みたい方には、本書の熟読をオススメします。


『「たった1人」を確実に振り向かせると、100万人に届く。』
(阪本啓一著、日本実業出版社)

投稿者 松尾 順 : 09:54 | コメント (0) | トラックバック

アマゾンがライバル?の「F&B良品」

佐賀県武雄市が2011年11月に開始した、
自治体通販、

「F&B良品」

が注目すべき成果を収めており、
今後、全国の自治体にも拡がる勢いです。

-------------

佐賀県武雄市と言えば、
日本で初めて市の公式Webサイトを
フェイスブックぺージに完全移行したこと
で知られていますね。

同市フェイスブックページは現在、

・いいね数:約2万人
・月間アクセス数:約380万

と人口5万人の市としては、
桁外れの人気を集めています。


さて、このサイト集客力を活かそうと
2011年11月7日、同市は、

「F&B良品」
https://www.facebook.com/FunBuytakeo#!/FunBuytakeo

と称する通販サイトをオープンしています。

フェイスブックを通じて商品閲覧・購入が
可能なサイトであり。いわゆる

「ソーシャルコマース」

と呼ばれる形態。

「F&B良品」は、自治体が運営する
ソーシャルコマースとしても日本初と
なっていますね。

ちなみに、F&Bは、

楽しく(Fun)& 買う(Buy)

の意味。

ただし、このネーミングについては、

「S&B食品と無印良品が絶句した・・・」
(武雄市長、樋渡啓祐氏談)

とのこと。

当初、わずか2アイテムの販売から始まったF&B良品は、
現在70品目まで増え、今年の年商は1千万円を突破する
見込みだそうです。

今後の事業展開について、

「アマゾンがライバルだと思っています」
(武雄市長、樋渡啓祐氏談)

と、樋渡氏の鼻息も荒い!(笑)


「F&B良品」は、民間の

ネットショッピングモール

と異なり、出店者は、
売上に応じた手数料を支払うだけ。

売れなくても払わなければならない

固定の出店料

がゼロのため、地元の中小企業にとっては
大変ありがたい仕組みです。

「民業圧迫」という声もあるようですが、
F&B良品は、ネット上の

「道の駅」「特産品販売所」

のようなものです。

大手ショッピングモールに出店するだけの
資金力のない中小企業の受け皿として、
F&B良品は、民間との共存を目指しています。


樋渡市長によれば、F&B開設の目的として、

・地域の所得向上(=税収アップ)
・地域ブランドの創出

が挙げられています。

ただ、上記だけでなく、地元の人々が
丹精込めて作った農産品や特産品が、
全国の消費者に購入されることを通じて
得られる、

・他者とのつながり
・感謝や評価

といった

親和欲求や承認欲求

が充足されるというメリットも大きいようです。


現在、樋渡市長は、
全国の自治体にF&B良品を展開することに
熱心に取り組んでいます。

現時点で、武雄市を含め、
既に以下のサイトが開設済み。

・佐賀県武雄市
・鹿児島県薩摩川内市
・岩手県陸前高田市
・福岡県太刀洗町
・新潟県燕・三条市
・栃木県那須市

年内にはさらに2自治体が参加予定。

F&B良品に参加している自治体のページを
まとめて紹介する、

F&B良品のポータルサイト

もまもなく開設されるとのこと。


まだ、ソーシャルコマース自体の
成功事例もほとんどない中、
自治体が運営する

「F&B良品」

の今後の展開は、
地域振興に与えるインパクトも含め、
目が離せないですね。


武雄市役所フェイスブックページ

投稿者 松尾 順 : 11:35 | コメント (0) | トラックバック

「原理」を学べ!

先日、

高橋俊介氏
(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授)

のお話を夕学五十講@丸ビルにて、
久しぶりにお聴きしました。

高橋氏は、

「人材・キャリア論」

の第一人者として有名ですね。

私が高橋氏の話を聞くのは、
今回で通算10数回目といったところ。

社会・経済・雇用環境の変化に応じて、
常に最先端の研究に取り組む高橋氏のお話は、
毎回刺激的な内容です。


さて、今回のお話のうち最も心に残ったのは、

・普遍性の高い学びをしよう!

という指摘です。


現代は、想定外の変化が次々と起こっています。
がんばって身につけたスキルがすぐに陳腐化してしまう。

もちろん、今の仕事環境に適応するために、
そうした表面的なスキルも必要です。

しかし、そのスキルが必要とされなくなる事態に
直面したとしても、新たな仕事を見つけキャリアを
継続できるためには、

「普遍的な学び」

を普段から行なっておくべきだと
高橋氏は主張しているのです。


では、「普遍的な学び」とはどういうものでしょうか?

それは、ものごと・現象の「原理」、すなわち

「基礎理論」や「歴史的背景」

を学ぶことです。

具体的には、例えば物理学、生物学といった

「自然科学系」

の学問分野に取り組むこと。

また、社会学、経済学、政治学などの

「社会科学系」

の場合は、自然科学のような、
数式で明確に定義できる理論が少ないため、
その各分野が、どんな理論から出発して、
どのような変遷を遂げてきたかという

「歴史的背景」

を含めて学ぶことです。


そもそも、「○○学」と呼ばれるものは、
ものごと・現象の構成要素や関係性、法則性を

「理論」

として体系化したもの。

つまり、表面的ではない、

原理・基礎理論

を知ることができるものです。

そして、単なるスキルと異なるのは、
状況が異なっても応用が利くことです。

すなわち、普遍性の高い学びができるということ。

だから、状況が変わり、今のスキルが用無しに
なってもなんとか適応できるというわけです。


ただ、日常の仕事現場では、
今のスキルを使って仕事をまわすのに
精一杯でしょう。

したがって、仕事そのものの背景や意味を
考えるような普遍性の高い学びはなかなか
できません。

だからこそ、仕事の時間以外を使って、
積極的に普遍性の高い学びを行なう必要が
あります。

私たち日本人は、どちらかというと、

「実践・経験」

を重視する一方で、原理・基礎理論を

「机上の空論」

と考えて、軽視する傾向が強いように
思います。


まあ、20世紀までは、実践に基づく

「経験則」

でもなんとか通用したかもしれません。


しかし、現在はあらゆる分野が、
より複雑化し専門分化しているため、

「やればなんとかできるだろう」

という精神論では、
グローバルな競争にはなかなか勝てない。

実際、原理・基礎理論をしっかり学び、
高い専門性を備えた、グローバル企業で
働くエキスパートたちの仕事力には驚嘆すべき
ものがあるのです。

ですから、想定外の環境変化においても
サバイバルできる、キャリアづくりの基礎が

「普遍性の高い学び」

にあることを日本のビジネスパーソンにも、
ぜひ認識してもらいたいと思います。


(参考文献)

『21世紀のキャリア論-想定外変化と専門性細分化深化の時代のキャリア』
(高橋俊介著、東洋経済新報社)

『プロフェショナルの働き方』
(高橋俊介著、PHPビジネス新書)

投稿者 松尾 順 : 08:59 | コメント (0) | トラックバック

手間をかけたい欲求

LPレコードが復活のきざし!

今年(2012年)11月以降、
ビートルズをはじめ、往年のロックバンドの
名盤がLPレコードとして再発売される予定で、
反応も上々のようです。

LPレコードが再び人気を集めている背景には、
あえて手間をかけたい欲求があるのではない
でしょうか?

-------------

日経産業新聞(2012/10/12)の記事によれば、
ビートルズの全アルバム12作品と関連作品3作品
が全世界でレコードとして再発売される予定。

高音質なリマスター音源を用い、
アナログならではの特性を引き出すため、
細部までこだわった

「音作り」

が売りのようです。

また、12月には、

・ザ・ローリングストーンズ
・ザ・フー
・レインボー
・エイジア

など70~80年代のロック名盤を中心とする
LPレコードも発売されるとのこと。

こうした往年のロックバンドをリアルタイムで
楽しんでいた年代(私もそうです)にとっては、
思わずワクワクしてしまうんじゃないでしょうか。


日本レコード協会によると、
アナログレコードの国内生産額は2010年に
底を打ち、2011年には前年比2倍の3億3600万円、
生産枚数も21万枚と倍増しています。

DJにとってレコードは、

「スクラッチ音」

を出すための必需品ですが、
DJの市場は限定的ですね。

むしろ、ゲームやアニメファン向けの

「コレクターアイテム」

として発売されているレコードが
若者の心を捉えているようです。

LPレコードの大判ジャケットは、

「芸術作品」

として手に取って楽しめますが、
ジャケットレスの音楽配信に慣れた若者
にとって新鮮に映るのでしょう。

また、これは若者に限りませんが、
自宅でゆったりと好きな音楽を楽しみたいとき、
ジャケットからレコードを取り出して、
ターンテーブルに乗せるという

「手間」

がワクワク感を高めてくれる

「価値ある行為」

になっているのではないかと思います。


「人の欲求(ニーズ)」の分類には
様々なものがありますが、
以下の2種類に分ける考え方があります。

・機能ニーズ
・快楽ニーズ


「機能ニーズ」というのは、端的には

生活上の不便・不満・不平を解消してほしい

という欲求です。

ひとことで言えば

「問題解決」

であり、製品・サービスに求めるのは主に

機能性と効率性

です。

要するに、あまり手間をかけずに
すばやく問題を解決してくれる
製品やサービスを歓迎します。


一方、「快楽ニーズ」は、

快楽や楽しさ、達成感

を得たいという欲求。

エンタテイメント商品、すなわち

「映画」「演劇」「小説」「スポーツ」

や、達成感や成長を実感できる

「学び」

が快楽欲求を充たす商品です。


さて、このニーズの2分類の枠組みで考えると、
ネットでの音楽配信や携帯音楽プレーヤーは、
すばやく、手軽に音楽を聴きたいという

「機能ニーズ」

に対応するものだと言えますね。

そして、

「快楽ニーズ」

に対応するのが、

LPレコード
でしょう。

聴くまでのひと手間がかかり、
手入れも必要だからこそ、

楽しみの時間

が長くなる。

そうなんですよ、快楽ニーズでは、
できるだけ楽しみの時間を引き延ばしたい
のです!

とても面白い小説を読んでいるとき、
いつまでも終わって欲しくないという気持ちが
湧き起こるのは快楽を引き伸ばしたいから。

つまり、快楽ニーズでは

「手間をかけること」

言い換えると、

「わざわざ時間をかけること」

が大事だということです。


山崎正和氏は、

『柔らかい個人主義の誕生-消費社会の美学』

において以下のように述べています。

-------------------------

「人間の消費行動はおよそ効率主義の対極にある
 行動であり、目的の実現よりは実現の過程に
 関心を持つ行動」

「いわば、消費とはものの消耗と再生をその仮りの
 目的としながら、じつは、充実した時間の消耗
 こそを真の目的とする行動だ」

--------------------------

実際には、手間をかけたくない、つまり効率性を
追求するニーズも存在しているわけですが、

手間や無駄

をあえて追求するニーズも並行して存在していることを
私たちマーケターは忘れてはいけません。


(参考文献)

『柔らかい個人主義の誕生-消費社会の美学』
(山崎正和著、中央公論社)

投稿者 松尾 順 : 09:36 | コメント (0) | トラックバック

関係維持戦略としての「ロマンティックな愛情」

男女の付き合いにおいてお互い、
自分が別の魅力的な異性に出会っても、
今の相手に

「コミット」

し続けるためには

「ロマンティックな愛情」

を感じた経験が有効のようです。

--------------------

男女(厳密には愛し合う2人!)が、
お互いに相手をパートナーとして選択し続ける、
すなわち「コミット」してくれるかどうかは
とても重要な問題ですね。

結婚前の男女であれば、
お互いに、相手に対して

「今後もずっと自分にコミットしてくれる」

という確信が持てなければ

「結婚」

に踏み切ることは難しいでしょう。


経済学者のフランクは、

「愛情」

という感情によって結び付いている男女
(打算的な関係ではないという意味です)
において、彼らの関係が維持されるかどうかを

「コミットメント問題」

と呼んでいます。


そして、この「コミットメント問題」を
解決してくれる可能性が高いのが、

「ロマンティックな愛情」
(romantic love)

を感じた経験の有無であることが、
心理学の実験を通じてわかっています。

実験の詳細は省略して、
結論だけをご紹介しましょう。

実験結果によれば、
ステディな相手のいる人に、
その相手に対して

「ロマンティックな愛情」

を感じた場面を思い出してもらうと、
魅力的な他の異性になびきにくくなること
がわかった。

すなわち、ロマンティックな愛情は、
魅力的な他の異性の存在を頭から
追い出してしまうと考えられるわけです。

さて、

「ロマンティックな愛情」

とはどんなものでしょうね?

もちろん人それぞれでしょうけど、
例えば、

・(偶然がもたらしてくれた)「運命的な出会い」
・(演出された)浜辺でのプロポーズ
・ 旅行先で2人で眺めた幻想的なオーロラ

といったことでしょうかw

今、あなたがお付き合いしている相手と
これからも良い関係を保ちたければ、

「ロマンティックな愛情」を感じる機会

を積極的に創出することが有効と言えるでしょう。


ついでながら、日本人男性(私を含め)は、

ロマンティックな演出

は気恥ずかしくて、苦手な方が多いのでは
ないでしょうか?

しかし、だから突然振られるのです(笑)

がんばりましょう、
このメルマガを読んでいる男子諸君!


(参考文献)

『進化と感情から解き明かす社会心理学』
(北村英哉、大坪傭介著、夕斐閣アルマ)

投稿者 松尾 順 : 09:02 | コメント (0) | トラックバック

高値売りの「でんかのヤマグチ」

「返報性の原理」を徹底することにより、
粗利率39%を達成している街の電器屋さん、

「でんかのヤマグチ」

は、顧客管理も徹底して行なっているんですね。

------------------

マスメディアでも頻繁に取り上げられている、
町田市のパナソニック専売店、

「でんかのヤマグチ」

は、既存客にとことん奉仕することで、

「高値」
(大型家電だと量販店・ネット通販より10万円高いこともある!)

でも購入してもらえる親密な関係を
形成・維持しています。

日経MJの最新記事(2012/10/05)によれば、
営業担当社員12名がそれぞれ400-500世帯を担当して
いるということなので、現顧客数は6千人前後なの
でしょうか・・・

顧客管理を開始した10数年前は3万4千人、
2011年時点では1万2千人ということでしたから、
上記6千人というのは、全顧客リスト1万2千人のうち、
営業担当者が親密な関係を保っているお客さんの数
なのかもしれません。

ヤマグチの営業担当は、自分の担当家庭にある家電品の状況
をきっちり把握しているだけでなく、お客さん外出時の留守番、
旅行中の水遣り、飼い犬の散歩などを月数回引き受けており、
まるで

「何でも屋さん」

のようなサービスを無料で行なっています。

これは、電球の取り付けなど、
家電品購入に伴う本来のサービスとは
異なるものですから、

「裏サービス」

と呼ばれているようです。

これはまさに

「返報性の原理」
(相手の喜ぶことをまず提供することによって、
 相手に「借りを返さなきゃ」と感じさせること)

の活用であり、結果的に

「遠くの親戚より、近くのヤマグチ。買い物だけの
 付き合いじゃないからこそ買い物する」

とまでお客さんに言わせることができるわけです。


さて、ヤマグチの顧客管理も徹底したものです。

まず、クレームが多い客、極端な値引きを求める
お客さんはリストから除外します。

そして、各顧客の

・累計購入金額
・最終購入時期

をそれぞれ3段階にセグメントして

9つのマトリックス

をつくり、
各マトリックスへのアプローチ方法を
最適化しています。

ちなみに、累計購入金額は以下の3段階に
セグメント。

・100万円以上
・30万円~100万円
・30万円未満

最終購入時期のセグメントは以下の3段階です。

・1年未満
・1年以上3年未満
・3年以上5年未満

なお、最終購入日が5年以上前のお客さんは、
どんなに馴染みでも顧客リストから外すことで、
可能な限り、顧客リストをアクティブな状態に
維持しているようですね。


ヤマグチでは、
9つのマトリックスのうち、

「最上客」

とでも呼べる

「1年以内に購入し、累計購入金額100万円以上」

のお客さんについては、
重点的に訪問営業やDM配布を行なっています。


このように、顧客リストをできるだけ絞込み、
優良顧客に重点的にアプローチする一方で、
新規開拓はクチコミ、紹介だけ。

それでも、毎月60-70世帯が新規客として
増加しているとのこと。

既存顧客を大切にすることで、

「お客さんがお客さんを連れてくる」

という理想的な状態になっていますね。


でんかのヤマグチは、中小企業だからこそ
実行可能なCRM戦略の典型的な成功例であり、
見習うべき点が実に多いと思います。


*上記内容は、日経MJ(2012/10/05)の記事を
 参考にしました。

*「カチッ・サー理論」で、でんかのヤマグチを読み解く

投稿者 松尾 順 : 10:50 | コメント (0) | トラックバック

サブカテゴリー創造によるオンリーワン戦略

東洋アルミエコープロダクツ(株)の

「石焼きいも黒ホイル」

は2009年の発売から累計販売本数が

100万本

を超えるヒット商品です。

石焼きいも専用というサブカテゴリーを
創造したことで同製品のオンリーワン化を達成し、
製品価値を高めることに成功しています。

----------------

石焼きいもが美味しい季節になってきましたね。

さて、アルミ箔の片面を特殊印刷で黒くしてある

「石焼きいも黒ホイル」(以下、黒ホイル)

は熱吸収が良いため、
食材にすばやく火が通ります。

したがって、通常のアルミホイルに比べて
焼きいもが短時間で出来ます。

また、さつまいもの麦芽糖が増えて、
やはり通常のアルミホイルを使用した場合
よりも甘みが増すのだそうです。

黒ホイルを使えば、すばやく
おいしい焼いもができることから、
主婦層に受け、通常のアルミホイルの
約8倍も高い店頭価格でありながら、
好調に売れているのです。


東洋アルミの最初の黒ホイル製品は
07年に発売されています。

その製品名は

「ホイルブラック」

でした。

しかし、あまり売れませんでした。

同製品の価値(強み)として、

・「熱吸収が良い」(機能価値)
・「短時間で調理ができる」(便益価値)

といったことは訴求していたようですが、
消費者にはピンと来なかったからでしょう。

実際、ありふれた日用品、すなわち

「コモディティ」

とみなされているアルミホイル製品で、

・機能価値
・便益価値

を訴求されても心には響かないものです。

「どうせ、既存製品とたいして変わらないだろう」

という固定観念が先に立つでしょうし、
わざわざ割高な製品に手を伸ばす気にはならない。


しかし、09年に用途を

「石焼きいも」

に絞って明確化した製品を発売したところ、
一転、ヒットにつながったのです。


さて、マーケティング戦略的に見ると、

「石焼きいも黒ホイル」

というネーミングは、
汎用的な用途に使われる既存の

「アルミホイルカテゴリー」

において、新たに

「石焼きいも(専用)」

というサブ(下位)カテゴリーを
創造したことを意味します。

既存のアルミホイルカテゴリーは、
コモディティ化が進んでおり、
競合が多いため価格競争に陥っています。

しかし、製品名称を通じて

「石焼きいも用ホイル」

と呼べるサブカテゴリーを生み出すことで、
実質的に競争のない

「オンリーワン」

な存在を確立。

このサブカテゴリーにおいては、
同製品の代替品がない、すなわちコモディティ
ではないため、高価格でも売れるというわけです。


サブカテゴリー創造はわかりやすく言い換えると

「土俵を別のところにつくる戦略」

です。

・熱効率が良い(機能価値)
・短時間で調理ができる(便益価値)

といった価値を打ち出すことは、
競合他社と同じ土俵での「規格競争」を
しているにすぎません。

黒ホイルの場合、

「石焼きいも」

という用途に絞ることによって、
既存製品とは別の土俵に競争の場をつくった。

そして、少なくとも現時点では

競争しないで勝つ状況

を創造することに成功したというわけです。


多くのカテゴリーにおいてコモディティ化が進む現在、
競争のいない土俵を新たに生み出す

「サブカテゴリー創造によるオンリーワン戦略」

はひとつの打開策として有効であることは
間違いないですね。

投稿者 松尾 順 : 11:38 | コメント (0) | トラックバック

ちぐはぐ販促

相応のコストをかけて、
販促テクニックを活用した販促施策を
展開する場合、見込み客の視点に立って、
実際に購買意欲が喚起されるかどうか、
しっかり考えないと残念なことになります。

--------------------

私は昨年から、マーケティング会社、

株式会社ジェネシス・コミュニケーション

に「エグゼクティブ・フェロー」というタイトルで
参画していまして、現在、麹町の同社事務所には
半常駐しているような状況です。

先日、その事務所に新しくできたばかりの

事務所向け宅配弁当サービス

の売り込みがあったらしく、
無料サンプル(試供品)のお弁当数個と
チラシが届いていました。

私も1つ頂いて食べて、
まあ味は悪くないとは思いましたが、
当宅配弁当サービスの販促施策には、

「突っ込みどころ」

がたくさんありました。


まず「チラシ」には、

・通常1,000円のところ600円。
・今なら限定150名様には、ずっと600円で提供

といったコピーが大きく配置されていました。

都心とはいえ、
毎日事務所で食べるお弁当として、

[1,000円]

の価格設定自体、
そもそも割高だと思うのですがどうでしょう?

チラシに掲載されている弁当の写真からは
感覚的には600円~800円程度にしか見えません。

値段相応なのでお得感がないのです。

おそらく、

・通常1,000円のところ600円

という表記は、いわゆる

「アンカリング効果」
(先に提示された情報が基準となって
 後の情報が評価されること)

を狙って、割安さを感じさせようとした
ものでしょう。

ところが、肝心の商品自体のクオリティが
十分でなければ無意味です。

今の消費者は、

こうした小手先のテクニック

は簡単に見破ってしまうからです。


さらに残念だったのはサンプルのお弁当です。

写真がなくて言葉だけの説明ですいませんが、
お弁当の中身は、

・さばの塩焼き2切れ
・卵焼き
・ひじき煮
・漬物
・ごはん

というもの。

味はまずまずながら、
街中のお弁当屋さんでは300円-400円で
買える程度のお弁当。

これで、定価1,000円は高いなあと思ったら、
実は、あくまで見本なので中身は簡素化して
あるとのこと。

確かに、チラシの弁当の写真と見比べて
みれば全然違うものでした。

しかし、これでサンプル=試供品の役割を
果たしているでしょうか?

実際に配達される弁当を試してこそ、

1,000円のところ600円

という値段相応あるいはそれ以上の価値が
あるかどうかを評価できるのではないでしょうか?


ヘアケア製品や化粧品であれば、

「効果・効能」

を実感してもらえればよいため、

小袋パッケージ(サンプル用)

の配布でも問題がありません。

しかし、お弁当は商品本体を試さないと
評価が難しいはずです。

ひょっとして味だけを試してもらいたかった?
それなら、よほど飛びぬけた味でないと
ダメですよね。

どうせなら無料ではなく、

特別お試し料金300円

といった価格で通常配達する弁当を
試してもらったほうがよほど効果がある
でしょう。


そして、さらに「空回り」してるなと思ったのが、
事前に頼んであった個数よりも多めにお弁当を
置いていったことです。

つまり、食べる人数よりも弁当が多く、
余ってしまう状況。

そのほうが喜んでもらえると
思ったのかもしれません。

しかし、生ものです。
当日中に食べる必要があるし、
いくら無料とは言え、廃棄するのは
なんとももったいない!

なんとか、家に持ち帰ってもらうなどして
さばいたのですが、

「なんだかなあ・・・」

というところ。

つまり、彼らが多めに弁当を配布したことで、
見込み客たる私たちは喜ぶどころか、

「いい迷惑」

とネガティブな感情を抱く結果となった。


いやあ、これほどチグハグな販促施策を
体験したのは初めてです。

見込み客がどんな気持ちになるか、
ほとんど考えていないのではないかと
思わせるものですよね。

しばしば、販促企画では、

売ること

にばかり意識が集中してしまい、

対象見込み客の心理(の変化)

を考えることがおそろかになりがちです。

この宅配弁当サービスの販促施策が、
顧客獲得にどの程度の効果を発揮できたのか、
気になるところですが、ともあれ

反面教師

として学ばせていただきます。


*ジェネシスコミュニケーション
http://www.genesiscom.jp/

投稿者 松尾 順 : 09:50 | コメント (0) | トラックバック

「モノ」にも同情するから捨てられない?

人が痛がったり悲しんでいる様子を見ると、
私たちの頭の中にある

「同情ニューロン」

と呼ばれる神経回路が反応して、
その人と同じような気持ちになります。

実は、「モノ」が壊されたりするのを見ても
やはり「同情回路」が活性化するようです。

--------------

コマーシャルで、
タレントがビールジョッキを傾けて
ごくごくと飲み、

「プファー・・・うまい!」

とおいしそうに味わっているのを見ると、
自分もビールが飲みたくなるもの。

このとき、飲んでいる本人の脳と、
それを見ている私たちの脳は同じ部位が
興奮しているのだそうです。

つまり、他人の行動や感情の動きを見ると、
あたかも自分が同じことをしているかのように
脳は感じているわけです。

こうした働きをする神経細胞のことは

「ミラーニューロン」

と呼ばれています。

まるで

「鏡」

のように相手と同じ部位が反応することから
このような名称が与えられています。

このミラーニューロンのおかげで、
人は相手の気持ちに「共感」することができ、
また、「模倣」を通じた学習が可能になっている
と言われています。


さて、ミラーニューロンと同じような働きをする

「同情ニューロン」

の存在も近年確認されています。

ロンドン大学のシンガー博士らの研究によると、
罪のない人が「冤罪」で罰せられているのを見ると、

「島皮質(とうひしつ)」や「帯状皮質」

などの、「不安」や「痛み」に関係する大脳皮質が
強く反応することがわかったのです。

ここが、

「同情ニューロン」

と呼ばれる神経細胞があると
考えられている部位です。

ただし、どんな状況でも、
相手に同情するわけではありません。

実際に悪いことをした人が、
相応の罰を受けているのを見た場合には、
私たちはおそらく、

「自業自得だね」

と考えるからでしょうか、
同情ニューロンの反応は当然弱くなります。

興味深いのは、上記の場合に、
女性では同情反応が40%ほど減るだけなのに対し、
男性の場合ほとんど完全に消失することです。

そして同時に男性は、快感をもたらす部位である、

「側座核」

が活性化します。

つまり、男性は、悪人が罰を受けているのを見て
同情をしないだけでなく、「喜び」を感じているのです。

男性は、数百万年にわたって狩りをしたり、
他部族などと戦ってきました。

獲物や敵に同情を感じていては、
狩りや戦いに失敗します。

したがって、「同情ニューロン」の働きが弱まり、
一方で「側座核」が活性化するように進化してきた
のかもしれません。


余談が過ぎました・・・本題に入りましょう。

池谷裕二氏(東京大学大学院准教授)が
ある研究者から個人的に聞いた話によれば、

「同情回路」

は、人がタンスの角にぶつけて痛がっているような
写真を見るときだけでなく、携帯電話やテレビが
ハンマーで破壊されているシーンを見るときにも
活性化するのだそうです。


私たちは、「動物」や「植物」などの、
生命を持つものたちだけではなく、
単なる「モノ」に対しても、

「同情」

してしまうのです。

池谷氏は、こうしたモノに向けられた同情こそが

「もったいない」

という感情の源になっているのではないかと
述べています。

モノをいわば「擬人化」して、
彼らが感じているであろう「痛み」に対して
同情心を抱いてしまうと想定される。

だからこそ、もはや不要になってしまった
持ち物が、なかなか捨てられないのでしょうね。

近年、

「断捨離」

をはじめとして、
不要なものを思い切って処分するテクニックが
ブームになっていますね。

モノに対してさえ抱いてしまう「同情」を乗り越え、
所有物を処分するのは本当に大変だからこそ起きている

整理整頓ブーム

と言えるでしょう。


そういえば、同情ニューロンについての男女差を考慮すると、
男性よりも、女性の方がモノをなかなか捨てることができず、

「溜め込みやすい」

という仮説が立てられますが、実際どうでしょうね?


*同情ニューロンについては、
 
『脳には妙なクセがある』(池谷裕二著、扶桑社)

を参考にしました。


『脳には妙なクセがある』(池谷裕二著、扶桑社)

投稿者 松尾 順 : 09:29 | コメント (0) | トラックバック

みんな成長したい!

新たな製品・サービスのヒントを得る上で、
消費者の「成長欲求」に着目してみてはどうでしょうか?

----------------

先日、人の基本的欲求として最も有名な、

「マズローの欲求階層説」

をご紹介しました。

このマズロー説は人の欲求を理解する上では
非常に有益だと思います。

しかし、ビジネスに役立つ知見を引き出すという点
から見ると、もうひとつ

「ピンとこない」

ところがあると私は感じています。
(おそらく、「承認の欲求」といった固めの表現のために、
 製品やサービスのアイディアと結び付けにくいのかも
 しれません)

まあ、そもそもビジネス向けに考えられた理論
ではないので、仕方のないことですが。


さて、マズローよりも単純ながら、
新たな製品・サービスの開発に取り組む際に、
よりピンとくる理論があります。

心理学者、アルダファーの

「ERG理論」

です。

これは、人の欲求を以下の3つに大きく分類したもの。

-------------------

1 生存の欲求 Exsistence

  文字通り、食欲、性欲など、生命を維持する、
  子孫を残すための欲求

2 関係欲求 Relatedness

  言い換えると「集団欲」です。
  人とつながっていたい、認められたいとった欲求。

3.成長欲求 Growth

  文字通り、成長したいという欲求。
  詳細は後述します。

---------------------

まず、「生存欲求」とは、
とにかく生きるために必須のものを求める
ことであり解説は省略します。

「関係欲求」は、群れをつくり集団で行動することが
本能となっている社会的動物である人間にとって、
やはり極めて重要な欲求です。

人は、孤独でもなんとか生きることはできますが、
生きる「意味」を見出す上で、他者との関係性を
つくり維持することが心身の健康の上で必要だからです。

ソーシャルメディアは、関係欲求を充足する上で、
大きな役割を果たしていますね。

現代文明の進展は人間関係の希薄化や分断化を
招く結果となっているので、

「関係欲求」

を充足してくれる製品・サービスに対する
需要はますます高まるでしょう。


そして3つめの「成長欲求」は、

「身体」や「頭脳(思考と感情)」

をより強く、より賢くしたいという
欲求だと言えます。


ではそもそも、

「成長」

とはなんでしょうか?

端的に言えば、私たちは

成長することで「生き残り」に有利になる

ということです。

ここで、生き残りとは、

「環境適応」

と言い換えてもいいです。

例えば、子供のうちは体が小さく、
病気などに対する抵抗力が弱いものです。

しかし、体が大きくなる、つまり身体が
成長するにつれ、病気に対する抵抗力も高まり、
長生きできる率が高まる。

また、様々な智恵、知識を学ぶことは、

「頭脳の成長」

です。

「食べてはいいもの・いけないもの」
「やっていいこと・やるべきでないこと」

などを学んでおけば、
危険を避けたり、機会を逃さずつかむ上で
役に立つ。


成長というと、あくまで子供が大人になるまでの
間のこと、といった思い込みがあるかもしれませんが、
成長とは本来、

生き残りのための心身(状態)の向上」

なのです。

したがって基本的に、

人は生涯を通じて(継続的に)成長したい

という欲求を持っているといえます。

成長は、環境が複雑化したり、
また変化が激しい場合において、
より強く求められると考えられます。

そして今後、私たちの社会は
ますます複雑化していき、また
環境変化のスピードも加速していくでしょう。

したがって、私たちはますます強い

「成長欲求」

に駆り立てられているのです。

・ジョギングブーム
・脳トレブーム(もはやブームではないですが)

これらのブームの背景には

「成長欲求」
があるのです。

あなたの事業領域の中で、

成長欲求を充足できる商品・サービス

にはどんなものがあるだろうかと、
考えてみてはいかがでしょうか?

同時に「関係欲求」も満たせるとベターかも?

投稿者 松尾 順 : 12:11 | コメント (0) | トラックバック