消えてしまったものを探せ!

以前もご紹介しましたが、田坂広志さんが最近説かれている
「ヘーゲルの弁証法」によって未来を読む方法は、やはり
有効ですね。


田坂さんによれば、
「ヘーゲルの弁証法」において最も役立つ法則が、

「螺旋的発展」の法則

というものなんですが、これは

「物事は、発展するとき、直線的ではなく螺旋的に発展する」

という意味です。


具体例を挙げると、昔市場で対面で行われていた「競り」が、
現代の大量生産・大量流通システムの中で消えかかっていた
ところに、IT、インターネットの力を借りて、パワフルな
仕組みを備えた「オンラインオークション」として復活して
きたことがそうです。

つまり、昔盛んだったけれど、いったん表舞台から消えていた
懐かしい何かが、新たな付加価値を伴って再登場することです。

これを田坂さんは、「螺旋的発展」では、

「進歩・発展」と「復活・復古」

が同時に起こるのだと指摘されているわけなんですが、
この螺旋的発展をリアルタイムで目の当たりにしているのが
米国証券業界でしょう。


数日前の日経産業新聞のコラム記事によると、

圧倒的な低価格を武器に登場したネット証券は、
数年前には市場取引シェアの半数以上を占めるほどの
隆盛を誇ったそうです。

ところが、ここ数年間の既存証券会社の逆襲で、
ネット証券会社のシェアは15%程度に低下してしまった。

このシェア低下の理由は「競争条件の変化」。

既存の証券会社が手数料をネット証券並みに引き下げた結果、
ネット証券の優位性は失われた。一方で、既存の証券会社は
「情報」を軸にしたサービスを提供するようになった。

しかし、この「情報」を付加価値として顧客に提供する
サービス競争にネット証券はついていけない。

なぜなら、ネット証券は、極限までコストを引き下げるため
にあらゆる余分なものをそぎ落としてしまっており、もはや
付加価値「情報」を提供する能力を持っていないからなんですね。

手数料が同じなら、顧客は当然ながら
サービスのよい既存証券会社が良いに決まってます。

揺り戻しというか、既存の証券会社が螺旋的発展によって
新しい形態の証券会社として生まれ変わってきたというところ
でしょうか。


さて、この事例からもおわかりかと思いますが、
弁証法を未来を読むために活用するに当たってのポイントは、
昔はあったけれど、今は

「消えてしまったものは何か」

を探すことです。

証券業界の場合は、コストダウンの過程で消えていた
「付加価値情報提供機能」がそれに当たります。

この機能を復活・復古させるところに螺旋的発展があった。


田坂さんは、

未来を「予測」することができないが、
「予見」することはできる。

と言われてますが、確かに、いったん消えたものがわかれば、
未来の展開がかなり高い確率で予見できるでしょうね。


ところで、日本の証券業界について、
私はかなり無知なんですが、米国のようなことが起こりつつある
んでしょうか。

ご存知の方、ぜひ教えてください!

投稿者 松尾 順 : 13:17 | コメント (2) | トラックバック

「いい人」の適職

先週のNHK プロフェッショナル仕事の流儀は、
キリン飲料の商品企画部長、佐藤章さんでした。

ご覧になりましたか?

NHKですから、メーカー名をおおっぴらに出さないのですが、
取材中のミーティングテーブルには「生茶」がずらりと
並んでましたね。

ヒットする新飲料は1000に3つとも言われる厳しい業界の
商品開発の舞台裏が見れてなかなか面白かったです。


さて、佐藤部長が言った言葉の中で一番引っかかったのが、

“売れる商品は、「いい人」にしか作れないんですよ”

というもの。

「いい人」の意味は、周りの人に対する気配りや思いやりを
持っている人ということらしいです。

ははん、なるほど、と私はひざを打ちました。

つまり、相手の気持ちを知ろうとする努力や
相手を喜ばせようとする気持ちがあればこそ、
消費者に「これが欲しかった」と言わせる商品コンセプトが
生み出せるとういことでしょう。

我田引水(笑)ですが、

「いい人」とはマインドリーディング力がある人

ということじゃないでしょうか。

ただ、「いい人」でも、「野心」がある人とない人が
いますよね。なにかを成し遂げたいという強い気持ち。


慮る力を持つ「いい人であるだけじゃなくて、「野心」を
伴っている人こそが、売れる商品づくりができるんじゃないかと
思います。

「いい人」だと自認する方、商品開発はきっと「適職」ですよ。


ところで、将棋名人の谷川浩司さんも
次のようなことを言ってますね。

文脈は違いますが、上記のことと通じるものがあります。

“将棋界でもこの人に勝ってほしいと思わせる棋士が
 活躍し続けている。・・・
 羽生善治さん、森内俊之さん、佐藤康光さんだ。
 以前からこの三人は勝ち続けると思っていたが、
 それは将棋の強さだけではない。いつでも、周りの人の
 ことも考えられる人が本当に強い人だと思うからだ。”

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

慇懃無礼vsフレンドリー

東急ストア、京王ストアなど、
電鉄系スーパーなどが加盟する共同仕入れ会社、「八社会」では、
共同でレジ販売員(チェッカー)の接客技能向上に取り組んで
います。

そして、各社共通のチェッカーに必要な作業基準を作成するに
当たり、8社の教育担当者が2005年夏から会合を重ね、
次のような合計15項目を策定したそうです。

・金銭を受け取るときアイコンタクトする
・手は前で組む
・体は顧客の方を向いている

などなど。


月間アイ・エム・プレスの有坂記者は、
2006-5月号の「Theふぉーかす」で上記内容を紹介しつつ、

“お金を渡すときにアイコンタクトなんかされては、
 ゾッとすると感じるのは私だけだろうか。”

と率直な気持ちを書いています。


いや、有坂さんだけじゃないと思いますよ。
私も想像するだけでゾッとします。


今のスーパーのレジ係は、いわば「生身のロボット」化
させられていますよね。

並んでいるお客様を待たせないため、レジ作業を最大効率化
しなければならない。そのためには、ムダ口を叩かず、
「感情」を殺して黙々とスキャナーを動かさなければいけない。

ですから、ある意味、意図的に「視線を合わせない」
のが現実だと思います。


そんな現状のまま、「接客動作プログラム」だけ変えられて、
形式的にアイコンタクトされてもねぇ・・・

レジ係の人の「目」に「心」が感じられず、きっと気持ち悪いこと
でしょう。


今回のチェッカーの作業基準策定の詳細な情報がないので、
推測で言っていることをあらかじめお断りしておきたいのですが、
こうした作業基準の背景には、相変わらず

「日本的な接客思想」

が流れているように思います。


それは、「お客さまを敬い、礼儀を重んじる」という思想。

要するに

「お客さまは神様です」

と考えて行動すること。


もちろんこの思想は間違いではないと思いますが、問題は、
しばしば、

「過度に慇懃無礼なサービス」

になりがちなことじゃないでしょうか。


礼儀を重んじるがあまり、まさに「神様扱い」して奉り、
お客さまとの距離をあえて遠ざけてしまう。このため、
人と人とのふれあいが生じにくくなってしまうわけです。


スーパーのレジ係も基本は「慇懃無礼」ですよね。

丁寧で迅速なレジ処理はしてくれるものの、
心のこもらないロボット的対応をしている。
(そう強いられている)

したがって、接客思想を変えないまま、
心のふれあいを示す「アイコンタクト」をやるのは、
むしろ逆効果になる可能性があります。

もし、アイコンタクトを実践するのなら、
接客思想を変え、お客さまとの距離をつめ、
よりフレンドリーな交流を許す環境を
レジ係に提供してあげるべきでしょう。


日本のサービス業全般に見られる「慇懃無礼さ」については、
青山のレストラン、「カシータ」のオーナー、高橋滋さんが
指摘されていたことを思い出しました。

高橋さんが、夜遅く某ホテルにチェックインした。
フロントの係の人が、丁寧に、しかしごく事務的に手続きを
進める。仕事としては申し分ない。

しかし、例えば、なぜ一言、

「今までお仕事ですか。遅くまでお疲れさまでした!
 ごゆっくりなさってくださいね」

とフレンドリーな笑顔で言えないのか。

お客さまの状況や気持ちを的確に「読む」必要があるとは言え、
こうした「心」の感じられるコミュニケーションが、
相手を心地よいものにし、満足度を高め、ロイヤル顧客育成に
プラスになるはずですよね。

まあ、日本人の気質や受けてきた教育ではなかなか自然に
フレンドリーな対応をするのは難しいでしょうけど。


そういえば、仕事の関係で宮崎のシーガイアリゾート
たまに行く機会があるのですが、宮崎の人たちは、
おおむねなぜかフレンドリーです。

タクシーのおじさん、ベルボーイのお兄さん、フロントマン、
バーのバーテンさんなどなど、すべての人とは言いませんが、
相手に対する「心」(思いやり、慮る気持ち)が感じられる
んですよね。

おおらかな南国人気質なんでしょうかね。

投稿者 松尾 順 : 08:56 | コメント (2) | トラックバック

オンライン店舗生き残りの鍵は独自の商品開発力

「無印良品」のネットストアは、昨年度「35億円」の売上げを
記録しているんですね。(日経情報ストラテジー JUNE 2006)

ネットストアをひとつの店舗とみなすと、売上げのトップの
有楽町店に続くナンバー2の売上げを誇る巨大店舗に成長した
ことになるそうです。

今年度は、47億円の売上げを見込んでおり、2000年9月の開店
から約6年で、有楽町店も抜いてナンバーワンになる見通し。

ネットストアは実店舗より経費が少ないので利益率が高く、
しかも、客単価は12000円と、リアル店舗の6倍。

商圏、品揃えに制限のないバーチャル店舗ですから、
これからも、どこまで成長するのか計り知れないですね。


さて、ご存知のように「無印良品」はオリジナルブランド。
同社以外の店では購入することはできません。

ですから、「無印良品」の商品を買いたいと思ったら、
同社のネットストア、またはリアル店舗に行くしかありません。

つまり、同社は「製造小売業」です。

生産そのものは外部委託するとしても、移ろいゆく消費者ニーズ
を捉える商品企画・開発力と、マーケティング・販売能力の
どちらも強化していかなければなりません。

様々なメーカーが製造した商品を仕入れて売るだけの「小売業」
とは違って、格段に経営が難しい。

しかし、このハードルを越えることのできた「無印良品」の
良品計画は、ネットエコノミーの中でさらに存在感を増していく
ように思います。


なぜなら、どこでも手に入るような商品なら、
どのお店で買っても同じだから。

リアル店舗の場合は、まだ近くに住んでいるとか、
物理的な制約条件が大きいですが、ネットの場合はそれがない。


既に私たちは、Yahoo、Googleなどで商品名をダイレクトに検索し、
検索結果に並んだ複数の店舗の中から、総合的な評価を行って
購入先を決めるという購買行動を取るようになってきてますよね。

極端に言えば、欲しい「商品」さえ手に入れば、
購入先はどこでもよいのがネットエコノミーの消費者です。

もちろん、アフターサービスが重要な商品ジャンルは、
店舗の選定も重要です。

また、オンライン店舗側としても、
様々なCRM施策によって購入客のストアロイヤルティを
高めていくというアプローチは依然として有効です。


ただ、明確なのは従来型の仕入れて売るというだけの小売手法を
ネットに持ち込んだだけでは、アマゾンのような巨大資本や
SEO対策に長けた企業は勝てない。

消費者の店舗への流入経路が、検索エンジンや比較サイトに
絞られつつある今、どの店舗もそこその売上げで仲良く「共存」
ということが起きず、勝ち負けがはっきり出てしまう。

そんな厳しい環境で、オンライン店舗が生き残る鍵は、
良品計画のような、独自性の高い商品の企画・開発力を
磨くことになっていかざるを得ないでしょうね。


そういえば、「ユニクロ」のファーストリーテイリングも
製造小売型ですが、オンライン店舗のショーバイは
上手くいってるんでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 10:50 | コメント (2) | トラックバック

ホントは差がないんです

現在、「シナプス・マーケティング・カレッジ」の講師として
開講している科目に「マーケティング・リサーチ」があります。

マーケティング・リサーチの初心者(一般ビジネスパーソン)の方
を対象に、主にアンケート調査の企画、設計や分析方法を
できるだけわかりやすくお伝えしています。(つもりです・・・)


最近は、ネットリサーチシステムがずいぶん浸透してきたので、
基本的な知識があれば自前でやれてしまう環境が整ってきたので、
こうした講座にも結構なニーズがあります。

ネットリサーチ以前、私が調査会社にいた当時は、
一般ビジネスパーソン対象のマーケティングリサーチ講義は
ほとんどなく、調査会社社員向けのものしかなかったんです
けどね。


さて、マーケティング・リサーチを自前でやるためには、
ある程度の「統計知識」がないと、データの解釈を間違える
ことがあります。

ただ、統計知識は理系の話ですから、なかなか説明が難しい。
そこで、わかりやすい具体例として、
よくテレビの視聴率調査を取り上げます。


マーケティングの業界の方はご存知の方が多いと思いますが、
例えば、関東地区の調査家庭数(サンプル数)は[600]です。

関東地区の総世帯数は1,600万世帯弱ですが、
これをわずか[600]世帯の調査で代表しています。

*代表しているというのは、簡単に言えば、
 600世帯の視聴率は、総世帯でもほぼ同じ数字だと推定できる
 という意味です。

もちろん、上記に「ほぼ同じ数字」と書いたように、
サンプル世帯の視聴率と、実際の総世帯数の視聴率には
誤差があります。


そして、その誤差を考えると、
1%刻みの視聴率競争は、統計的には、
あまり意味がないということを受講生の方に説明するわけです。


それで、たまたま、先週の日経夕刊のラテ欄のコラムで、
「春の新ドラマ初回視聴率」について、
講義に使える格好のネタが掲載されていました。(^-^)


例えば、初回視聴率1位だった「トップキャスター」
の視聴率23.1%、一方、「クロサギ」は18.8%。

単純計算では、4.3%の差がありますから、
「クロサギ」より「トップキャスター」の人気が高かった、
と言いたくなるところです。

しかし、統計学的な検証(有意差の検定)をやると、
実はこの両者の視聴率は誤差の範囲がかぶっているので
実際には差がない可能性が高いと考えられるんですね。

実は「トップキャスター」と「クロサギ」を
見ている人の数は、ほぼ同じであった可能性だってある。

つまり、この視聴率の差では、番組の「勝ち・負け」は本来
判定できないのです。


なお、「アテンションプリーズ」は17.7%で、
「トップキャスター」とは、5.4%の差がありました。

この場合は、統計的にも、「トップキャスター」の方が
「アテンションプリーズ」よりも、視聴者が多かったという
ことができます。


シナプスの講義は初心者対象ですから、統計的な話に深く
立ち入ることはしませんが、経験則的には、
視聴率調査の結果と同様、2つの差が5%以上ないと、
実際に「差」があるとは言えないことが多いということは
お話しています。


週明け早々、ちょっと難しい話になりましたね・・・

投稿者 松尾 順 : 11:41 | コメント (2) | トラックバック

居酒屋の全体最適化

取引先の会社の移転のご案内が届きました。
新しいオフィスは麹町です。

麹町というと、私は学生時代にアルバイトでどっぷりと
浸かっていた「居酒屋とんちゃん」を必ず思い出します。

ノスタルジックな感情とともに。(⌒o⌒;


「とんちゃん」は汚い、いや庶民的な店。
おやじさん、おかみさんも味のある人たちで、
お客さんにとても慕われていました。

やたらとツマミの量が多い・大きいのが特徴で、
おにぎりは、確か砲丸投げのボールくらいありました。
片手では重過ぎて持てません。

近くの国会図書館、麹町警察署、ダイヤモンドホテルの方々など、
固定客が多く、ほぼ毎日満員御礼で大変忙しかったです。

私は当時、毎日開店から閉店までいたので、
‘ミスターとんちゃん’と呼ぶお客さんがいました。(^-^)


さて、若い人や警察のガタイのいい方々は、
飲むのも食べるのが早く、すぐにツマミがなくなります。
でどんどん追加注文が入る。

でもそうなると厨房がおっつかなくなるんですよね。

当時は、注文はメモへの手書きのみ。
壁に突き出た釘に、
そのメモをどんどん突き刺していくんですが、
メモ用紙が10枚とか超えると、何を何個作ればいいのか
混沌としてきます。


そこで、ミスターとんちゃんの出番です。

新しい注文を手に厨房に入り、すべての注文を整理し直して
まとめて作れる同じ料理が何個あるかを伝えます。


また、テーブルを見回り、ツマミの皿が空になっていて
食べるものがなく、

「お兄ちゃん、さっき注文した焼きうどんまだ?」

などと言われそうな注文の優先順位を上げて、
先に作るようお願いします。

こうした「注文捌き」の技は経験を通じて学んだわけですが、
今振り返ってみると、来店客全員が一定以上の満足を感じて
帰ってもらえるような「全体最適化」を図っていたことになる
んですね。


上記のようなことは、先日ご紹介した「愛されるサービス」

の本にも書いてありました。
なるほど、当たり前だけどどこの店でもやってるんだと
思った次第です。

<ブログはこちらです>

顧客満足を考える時、1人(1組)ひとりの個別最適化ではなく、
顧客全体の最適化という視点が必要になってくる業種・業態が
あるというわけです。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (2) | トラックバック

どんな家が欲しいのか、依頼者にはわからない

脳科学者、茂木健一郎さんが司会を務めるNHK
「プロフェッショナル仕事の流儀」は、毎回いろんな業界の
「職人」が登場してなかなか良いのですが、ご覧になってますか?

先週は、建築家、中村好文さんでした。

暖かい人柄を感じさせる方で、
仕事を楽しんでる様子がほのぼのと伝わってきました。


さて、中村さんは、「人の生活が好き」だから、
という理由で個人向け住宅設計しか手がけないそうです。

中村さんが設計を引き受けたら、
まず施主のご家族と打ち合わせをするんですが、

「どんな家が欲しいですか?」

とは決して聞かないんですね。


「ご主人は、朝何時に起きるんですか?」

「で、朝食はご家族で?」

などと、家族の行動をざっくばらんに聞いていきます。

中村さんは、そんな雑談のような会話の中から、
この家族が心地良いと感じる家は、
具体的にはどのようなものなのかを探っていくわけです。


番組の中で、中村さんに設計を依頼した家族の8歳の男の子が、
カメラを向けられて「どんな家が欲しい」とNHKの人に
聞かれていたんですが、この子はこう応えたんですよ。

「家族が安心して・・・楽しく暮らせる家」

ふーむ、実に優等生的回答です。(^-^)

しかし、彼の回答は本質を突いています。

つまり、人にとって、「家」というモノから、
どんなベネフィット(この子の場合、安心、楽しさ)が
得られるかが大事だということです。


しかし、自分の求めているベネフィットを享受するために、
具体的にどんな家の造りが適しているかは、
素人なので実はよくわからないのです。

たとえ自分はわかっているつもりでも、
それは単に表面的な知識や流行に左右されていただけで、
実際に建ててみたら、住み心地が悪くて後悔することが
ありますしね。

だからこそ、家の構造や機能、性能に詳しいプロの助けが
必要なわけです。


つまり、中村さんは、

「どんな家が欲しいのか、依頼者にはわからない」

ということを踏まえて、

家を建てようとする家族が求めているベネフィットを
彼らの行動や意識から「洞察」し、
建築のプロとしての知識と経験を活かして、
具体的な設計に落とし込んでいるんですね。


このアプローチ、建築だけの話じゃないですよ。

前も書いたような気がしますが、
ターゲットユーザーに、「どんな商品が欲しいですか」
なんてアホな質問をしてはいけません。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

人は無意識にウソをつく

R25、面白いですよね。

メディアの空白地帯だった、25-35歳の男性が
メインターゲットです。
(「日経アソシエ」もほぼ同じターゲットでがんばってますね)


発行部数60万部という巨大メディアですが、
発行されるとあっという間になくなりますよね。

事務所近くの文房具店前にR25のラックが置いてあるんですが、
ちょっと気を抜いているとすでに空になっていて、
読めない週も度々あります。
わざわざ別のラックまで探しに行くことはさすがにしない。(笑)


さて、昨日の日経夕刊(2006.04.18)では、
R25の編集長、藤井大輔さんのインタビュー記事が掲載
されていましたが、マーケティング的に示唆に富む内容でした。

R25の企画段階、
まずグループインタビューで200人以上のビジネスパーソンに
話を聞いたそうです。

ただ、藤井編集長さんが違和感を感じたのが、誰に聞いても、

「新聞をちゃんと読んでいる」

と答え、しかも、例外なく「日経新聞」だったこと。

また、好きなテレビ番組は「ニュース番組」だと、
優等生的な答えばかり。


こうした回答に納得できない藤井編集長は、

「なりたい自分像」を念頭に少し見栄を張っているのでは?

という仮説を立てました。


まあ、仮説というか、
調査業界では、このような回答が見られることは、
調査データの信頼性を左右する問題として認識されてきたことです。

真実の自分の行動や気持ちをさらすのは恥ずかしい、
情けないという気持ちから、
「理想の自分」の立場でウソの答えを無意識(悪気なく)に
してしまうんですよね。

女性が、年齢を聞く設問にサバを読んだ回答をするのも同じ。

特に、対面での調査において、
こうした無意識のウソをつく可能性が高くなります。


藤井編集長が偉かったのは、上記の仮説を検証したこと。

事前調査で「新聞を読んでいない」と答えた人だけ集めて、
同じことを聞いたら、

「新聞?もちろん読んでいます!」

と答えた。やっぱりウソをついていたのだ!(笑)


というわけで、R25は、

「なりたい自分像」になれる手助けをする雑誌

を作ろうという方向で企画をつめていったそうです。


藤井編集長は次のようなことを言っています。


“言葉にしても数字にしても、裏側の事情や心理をあれこれ
 想像して、自分なりに仮説を立てることが大事だと思います。
 いわば、言葉にならない皆の気持ちを浮き彫りにする作業。
 マーケティングとはそういうことではないでしょうか”


そうそう、そういうことですよね、マーケティングとは。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (4) | トラックバック

CM飛ばしの対抗策

昨年、ある懸賞企画で入選し副賞としてもらったパイオニアの
「HDD/DVDプレーヤー」(DVR)は便利で重宝してます。

VHSテープの出し入れや保管の面倒がなく、
気軽に録画して、気軽に再生できるんですよね。

当然、テレビCMはスキップです・・・
(仕事柄、新製品のやつとかは意識的に見ますけど!)


さて、見たいテレビ番組を録画して、
自分の都合の良い時に見ることを

「タイムシフト視聴」

と言いますが、
視聴者の立場ではなく、企業の立場で悩ましいのは、
CMを飛ばされてしまうことですね。


昨年発表された野村総研の調査では、
録画済み番組のCMスキップ率は60%を超えており、
視聴されないことによる推定損失額は540億円だそうです。
(この損失額については、前提の置き方や、
 計算方法に問題があるんじゃないかという反論が出ました)


企業側としては、視聴者に「スキップは止めなさい」と
命令できるわけではないので、
いかにしてCMをスキップさせないか、
知恵の絞りどころですね。


宣伝会議最新号(2006.4.15)のマディソン・アベニュー便りでは
米国での面白い最新事例が紹介されてます。

フライドチキンの「KFC」は、今年2月23日~3月3日まで、

「シークレットコード」

と呼ばれるテレビCMを放映しました。

これは、DVRやVHSで録画して「スロー再生」すると、
隠れたメッセージ「シークレットコード」が浮かび上がる
もの。

そのコードをWebサイトで入力するとチキンサンドウイッチの
クーポンをゲットできるというプロモーションです。

この仕掛けの面白いところは、通常の放映では、
シークレットコードが見えない点。

むしろ、録画をして別の時間に見ているタイムシフト視聴者たち
をメインターゲットに置いて、
CMスキップを止めたくなる工夫をしているわけです。

さて、このプロモーションの成果を見ると、
クーポン券は先着75000枚のところ、103,000件もの応募を達成。
Webのアクセス数は40%増加ということで、
なかなかの成功を収めたようです。


また、ホームセンターの「ホーム・ディーポ」は、
3種類のCMを制作し、ホームページに掲載、
消費者の人気投票で一番好きなコマーシャルを選んでもらいました。

投票数は45万票に達し、うち17万票を獲得した‘Indecision’が
現在放映中だそうです。

消費者自身が「投票行動」という形で関わったCMです。
スキップしないで見たいという気持ちになる可能性が高いです。


テレビCMは、これまでも、なんだかんだと
問題が指摘されてきていますが、

到達率(リーチ)の大きさや費用対効果(主に認知度向上)

においてとても優れた媒体です。

消費者のCMスキップ行動をどうやって能動的に止めさせるか、
いろいろ対抗策をひねり出す必要がありますよね。


ちなみに、ネットテレビの「Gyao」では
いつでも自分の好きな時に見られるオンデマンド型放送なので、
録画とかタイムシフト視聴という概念は存在しませんし、
CMのスキップはシステム的にできない仕組みになっていますね。

これは、広告主が「Gyao」を評価する最大の理由のひとつです。

人間はお手洗いタイムで、画面を見ているのは愛猫だけかも
しれない。

けれども、少なくとも「飛ばされてはいない」わけですから。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (2) | トラックバック

張り手のアサヒ、揉み手のキリン

2006年1-3月期、ビール系飲料トータルでの市場シェア1位の座を
キリンがついにアサヒから奪い返しました。

実に6年ぶり。

この久しぶりの逆転劇の立役者は、キリンの「のどごし生」。
癖のない味、シズル感のあるエモーショナルな
パッケージデザイン、そして現場営業のがんばり、など
総合力の勝利ということらしいです。

のどごし生は、第三のビールと呼ばれるジャンルの
トップブランドに育ちました。
発泡酒ジャンルのキリン「円熟」も売れていますね。


一方、アサヒは、第三のビールの「新生3」が不振。
数ヶ月前に売り上げ挽回のためネーミングやパッケージデザイン
をリニューアルしたばかりですが、あいかわらずパッとしません。

私も一度だけ「新生3」を試してみましたが、
なんてことのない味ですし、デザインも硬質的で魅力を感じない
ので、結局、二度と飲んでいないです。


私個人の感覚的な評価になってしまうのですが、
アサヒさんは、スーパードライのヒット以来、
技術志向に走りすぎのようです。技術過信です。

「うちの技術はすごいだろう!飲んでみなよ!」

みたいな雰囲気が感じられるんですよね。

これは、まるで消費者を「張り手」で圧倒しようとしてる
ようなものです。

「どうだ、どうだ、どうだ・・・」

受けて立つ消費者としては、すごいのはわかったけど、
疲れちゃった、と土俵をおりてしまった。

それで今、アサヒさんは一人相撲を続けてるわけです。


一方のキリンさん、スーパードライにはまだまったく
歯が立たないので、発泡酒や第三のビール市場に
活路を求めるしかない。

大げさですが、見栄もプライドも捨て、

「ぜひうちの商品を飲んでください。お願いします!」

と頭を下げ、「揉み手」をしながら消費者にすり寄っています。
消費者としては、悪い気はしないですね。

「なかなか殊勝じゃねぇか、そこまで頭を下げられちゃあ、
 飲まないわけにはいかないなあ」

と意気に応えている。(笑)

ぐっさんが、キリンの営業マンに扮し、
店頭での試飲風景をそのまま再現したコマーシャルは
こうしたキリンさんの低姿勢を象徴するものでした。

「張り手のアサヒ」、対する「揉み手のキリン」

しばらくは、ハードアプローチよりソフトアプローチの
キリンさんの勢いが続くでしょう。


ただ、アサヒの新商品「ぐび生」は、ネーミングからして
これまでのアプローチを変えてきた気配がありますけどね。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

追いかけてくる広告

オンライン広告の中で最も注目率が高く、また実際のアクション
(オンライン広告のクリック率や資料請求、購入など)
につながりやすいと期待され、このところ注目されているのが、

「行動分析型ターゲット広告」

と呼ばれるものです。


この広告は、
Webサイト上でのターゲットユーザーの行動履歴から、

そのユーザーがどんな製品やサービスに興味・関心があるか、

また、

どの程度購入意欲が高いのか、

などを分析した上で、
そのユーザーの琴線に触れる可能性の高い広告を配信します。

つまり、「行動」を分析して、ターゲットユーザーの「心理状態」
を推測し、その心理状態を操作(言葉がいやらしいですが)
することのできる仕組みというわけです。


この仕組みのポイントは顧客のニーズ、心理状態をリアルタイム
で追うことができる点。

今の、熱々のニーズを捉えて、
ユーザーがまさに望んでいたメッセージを送れる確率が
高くなるので、反応率も向上するんですね。


さて、行動分析型ターゲット広告の注目の新サービスが、
アイメディアドライブ(2006年4月10日に設立された新会社)の

「パーソナルアド」

です。

この広告では、
例えばユーザーが、化粧品の専門サイトを閲覧した後、
別のサイトに行くと、そちらのサイト上で化粧品のバナー広告を
表示させることができます。

つまり、ユーザーのニーズが明確な専門サイト上での
行動履歴を収集・分析し、ユーザーの今の心理状態、
ニーズを踏まえた最適なメッセージを他のサイト上から送れる
仕組みです。

これはなかなか面白いですよね。


ユーザーから見れば、自分に関心のある広告が全然別の
サイトで表示されるので、不思議に思うことでしょう。

いや、たぶんあまり気づかないまま、無意識にその広告を
クリックすることの方が多いかも知れません。


この仕組みのウリは、ページビューが少ない専門サイトでも、
そこに来るユーザーの行動情報を提供することで、
ページビューの多い他のWebサイトが得る広告収入の分け前に
預かれること。

パーソナルアドはこれからサービス開始ということで、
当初は40サイト、1年後には200サイトの専門サイトの加盟
を目指しています。


裏の仕組みを知ってしまうと、

「これって、広告が追いかけてくるようなものだね」

という感じでちょっと抵抗を感じますが、
おそらく広告効果の高い仕組みとして成功する可能性が
高いんじゃないでしょうか。

皆さんはどう思います?

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

市場の声を聞く姿勢

3年ほど前、トイレ、バス、キッチンなど水回りを得意とする
住宅機器メーカー、TOTOさんをライターの仕事で取材した
ことがあります。

テキストマイニングの取り組み事例の紹介が目的でした。
その記事は、今でもこちらで閲覧することができます。

さて、当時テキストマイニング担当の小代氏の話の中で
特に印象に残った点は、テキストマイニングの2つの目的に
ついてでした。
(上記記事内でも小代氏の生の言葉を引用してあります)


ひとつは、テキストデータの中の「大きな声」を拾うこと。

つまり、多くの人が共通して言うことを全体的な傾向として
把握することです。


もうひとつは、「かぼそい声」を拾うこと。

これは、少数意見だけれども、新たな商品開発のヒントと
なるような重要な声を見逃さないということです。


マーケティングリサーチの基本的な分析目的は、
全体的な傾向の把握であり、そのための様々な分析手法が
「統計的処理」なんですが、
そういうアプローチをずっとやっていると、
少数意見は、単なる「誤差」にしか過ぎないものとして、
ろくに考えもなくさっさと除外してしまいがちです。

ですから、小代氏が、少数派の意見の方が、実は、多数派の
ものより高い価値があると指摘された時、
「なるほどそうだな」と感じたものです。

多数派の意見は、ぶっちゃけわざわざ調査・分析しなくても
わかることです。とすれば、競合他社にも簡単にわかること。

そんな意見を元にした新商品には、すぐに類似品が登場します。
競合優位性のない商品開発になってしまうというわけです。


さて、上記のような少数派意見を活かすために
まず必要なのは、市場の声を確実に収集することです。


岡崎太郎さんのメルマガ「売れるためのマーケ心得537」
(2006.04.12配信)では、TOTOさんのさすがの対応が
報告されています。

欧米の公衆トイレの中には、壁付けの便器がありますよね。
壁からニョキッと出っ張っているやつで、
床から浮いているので掃除がしやすいのです。

岡崎さんが調べたところ、日本には住宅用の壁付け便器が
販売されていないことがわかったので、
なぜなのか疑問に思い、
日本の2大メーカー(TOTO、INAX)に
電話してみたそうです。

TOTOさんには2コールでつながり、
対応したオペレーターは、日本に住宅用壁付け便器が
出回っていない理由を的確に説明してくれた上に、
技術部門にも照会を取り、翌日にはFAXで丁寧な回答が
届いたそうです。


岡崎さんは、

“こんな突拍子もない戯言に、ここまで親切に丁寧に
 対応してくれるとは東陶機器株式会社グレイト!”

と大褒め。

ここまで消費者ときちんと対話する体制ができていれば、
商品開発に役立つ有益な声もたくさん集まるに違いありません。


一方、INAXさんは、4回コールしていずれも

「大変込み合っているのでおかけ直しください」

と一方的に切断する仕組みだったそうです。


残念ながら、企業のマーケティングマインドの差が
如実に現れていますね。

私のふるさと、福岡オリジンのTOTOさんは
やっぱりグレイト!

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (2) | トラックバック

きみの、そのボディ、わしづかみにしたい

この思わせぶりなタイトルについては、
いったん脇においてください。(笑)


サントリーの「伊右衛門」、
あいかわらず売れ行き好調のようです。

伊右衛門は、販売を開始した2004年から、いきなり3420万ケース
の大ヒットで、清涼飲料の発売初年度の販売記録を樹立、
昨年の2005年も5250万ケースへと販売数をさらに拡大しています。


本木雅弘と宮沢りえが、伊右衛門とその妻役で登場する
TVコマーシャルも、渋みと甘みがミックスした心地よい内容
ですよね。

ちなみに、ブランディングの核となるイメージコンセプトは、
「大人の哺乳瓶」だそうです。


さて、伊右衛門の開発秘話はあちこちで紹介されてきてますが、
マーケティング調査のやり方にも一工夫したことは
あまりご存知ないでしょう?


伊右衛門の開発責任者は、消費者調査を実施するにあたって、

「グループインタビューも、1対1のディープインタビューも、
 相手の顔が見えると本音が出にくい日本人には、
 本当は向かないのではないか」

「むしろ、顔を合わさないインターネット上でのウェブ調査の方が
 逆に本当の声が聞け、日本人向けではないか」

と考えたのです。


商品開発のアイディア発想に当たって、グルインや1対1の
インタビューはいわば定石。

ただ、対面式の調査は、調査協力者が、

「こんなこと言って変に思われないだろうか、
 笑われないだろうか」

という感情を持ちやすいため、結局、本音をオブラートで包んだ
もっともらしいことしか言わないという「回答バイアス」が
発生します。

特に、プライバシーに関わること、つまり
あからさまに本当のことを言うのが恥ずかしい質問に対して、
上記の回答バイアスがかかりやすいわけですが。

しかも、奥ゆかしい日本人の場合、
相手と同調することで、いい関係を保ちたいという心理も強い。

このため、聞き手が期待している答えをわざわざ深読みして
本音とは違う答えを返す人もいます。

したがって、プライバシーに関わること以外の事項であっても、
実はあまり消費者の本音を引き出せていない可能性が
確かにあるでしょうね。


そこで伊右衛門の担当者はWeb調査を実施し、かつ
潜在意識をあぶりだすような質問に知恵を絞りました。

「急須で入れたお茶はどんな存在か、
 人・モノ・動物に喩えると?」

「外国人にお茶の味を誉めるとしたら?」

「1年間、お茶を禁止する法案が可決しそうになったら
 どう反論するか」


一般のアンケートではまず見られない、
とても答えにくい質問です。

しかし、答えにくい質問だけに、
調査回答者は、日ごろ漠然と飲んでいる「お茶」に
真剣に向き合い、一生懸命考えた結果、
飾りのない「本音」を書いてくれた可能性があります。


そして、この調査から得られた知見
(コンシューマー・インサイト)は次のようなものでした。

「情報化、国際化が進んでも、お茶を飲む、見る、かぐ、想う時、
 ふと日本古来の生活文化に触れ、心が和み、安心する。
 DNAに刻まれた記憶から生まれる安心感です。」

「ペットボトルのお茶にもそんな安心感を提供したい。
 緑茶飲料に日本の生活文化の味わいを持たせたい。」


伊右衛門はこの知見をベースに、老舗製茶メーカーの福寿園と
提携、100億円の新規投資が必要な新製法を導入して
「百年品質、上質緑茶」の味を実現したんですね。


ところで、伊右衛門は製法にこだわった味の良さもさること
ながら、2つの点で消費者の心を捉える要素を持っていたと
思います。


一つは「伊右衛門」というネーミング。

いままでの緑茶が、「○○茶」といった「お茶カテゴリー」
から出ないものであったのと違い、福寿園の創業者の名前を
持ってきた点が革新的でした。

つまり「擬人化」を図ったことで、より親しみを覚えさせること
ができると同時に、「伊右衛門」という昔の名前が喚起する
深い物語性が、私たち消費者の心を捉えたのでしょう。


そしてもう一つ、あの竹を模した「くびれたボディ」です。

そう、あのボディは、思わずわしづかみにしたくなりませんか。

コンビニの冷蔵ショーケースに並ぶ緑茶飲料の中から、
無意識に選んでしまうのは、あの形のせいでしょう。


心理学の一分野で「アフォーダンス理論」というものがあります。
簡単に説明すると、環境にある様々なモノの形状は、
ある特定の行為を喚起する(アフォード)という考え方です。

たとえば、丸いドアノブは「回す」という行為を
教わらなくてもやってしまう。あるいは、高さ50センチほどの
平らな形状のものは、「座る」という行為をアフォードします。

同じように、「伊右衛門」のあのくびれたボディは、おもわず
手でつかみたくなる欲求を無意識に喚起しているわけです。

心の奥底の欲求をあえて言葉にするなら、

「きみの、そのボディ、わしづかみにしたい」

となるでしょう。ちょっとオオゲサですが(笑)


そうそう、あの竹筒タイプは一部の自販機では扱えないので、
一般的な寸胴タイプの伊右衛門も並行して売られていますよね。

しかし、両方を比べてみると一目瞭然です。
どちらをわしづかみにしたいかなんて考える必要もありません。


*伊右衛門のマーケティング調査については、
 Works(Apr-May 2006)の「野中郁次郎の成功の本質」の記事を
 元にしました。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

販売代理店ブログ

正社員・契約社員としてフルタイムで、あるいはパートとして働く
主婦が増加し、専業主婦が減るというライフスタイルの変化。

これによって、一般家庭への訪問販売を主力としてきた企業
は苦しい状況に追い込まれていますよね。

日中、あるいは夜間でさえ在宅率が低下していて、
ピンポン押しても不在ばかり・・・。

昔のように足を棒にして根性で回る、
しらみつぶし型飛び込み営業は効率が悪すぎます。

また、いったん顧客になってくれても、やはり会う時間は
以前ほど取れず、関係性を深めることができない。
結果的にブランドスイッチを招いてしまう、ということが
起きています。


そこで訪問化粧品大手のノエビアさんが考えたのが、
販売代理店ごとのブログ立ち上げを支援すること。

昨年9月頃に開始して、当時どうなるかなと思ってましたが、
最新のニュースによるとなかなかうまくいってるようです。


開始したサービスは「ノエビアスタイル」。

ネット通販の便利さと、
販売員のコミュニケーション力を融合した点がポイントです。

ノエビアスタイルでは、顧客はオンラインで手軽に注文ができ、
ダイレクトに商品が届きますから、「利便性」が高まりました。

一方、コミュニケーション力については、
販売員(いわゆる訪問販売員の‘お姉さま’です)がブログを
自分で管理・運用できるか、つまりITの壁を越えられるかが、
最大のKFS(Key Factors for Success)でしたが、
ノエビアの各支店に技術インストラクターを配置して
十分なサポート体制を構築。

その結果、現在稼動しているブログは1500に達したそうです。

内容も、各販売員がそれぞれ工夫して、化粧品情報だけでなく、
子育てや地域情報など充実させています。

こうして、同社販売員のお姉さま方は、
ブログを活用して、従来の訪問型、つまりプッシュ型だけで
なく、オンライン広告などを活用したプル型の新規顧客獲得を
行えるようになりました。

また、既存顧客とのコミュニケーションもブログを通じて
行えるようになったことで、限定された直接の接客機会を
補っています。

おそらく、以前よりも関係性が深まり、
顧客離反率の低下につながっているんじゃないでしょうか。


ノエビアさんとは業種が違いますし、訪問販売型でも
ないのですが、類似の手法に先行して取り組んでいるのが、
日本旅行です。

日本旅行では、2003年秋から、支店の社員、法人営業員など
を中心に「個人ホームページ」を立ち上げ、
各自の裁量で旅行商品を紹介しています。

各担当者は、「自分のお客さん」を増やしていけますし、
もちろん、自分のホームぺージを介して予約を取れば、
自分の販売実績にプラスされます。

同社の個人ホームページは既に1000人を超え、
総アクセス数は、2005年で前年比6割増しの11万件だそうです。


昔の成功体験から脱却できず、
昔ながらのどぶ板営業をやっている会社がまだまだ存在しますが、
もはや、ITツールをマーケティング、セールスに組み込めない
会社は生き残っていけない時代でしょうね。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

動かないことが最高のサービス

発想のヒントになりそうなネタって、
いろんなところで見つかるものですね。


5年も前から日経夕刊で連載されているコラム、
「世界途中下車」は、世界各地の鉄道の旅を伝えてくれる
楽しい記事です。読んでる方、いらっしゃいますか?


さて、先日読んで「へーぇ!」と思ったのが、
英国の豪華寝台列車「ロイヤルスコッツマン」の話です。

「ロイヤルスコッツマン」は、
スコットランドを走る寝台列車で、7泊8日の旅。


しかし、スコットランドは端から端まで500kmに満たない
北海道より小さい地域です。
昼夜走り続けるはずの寝台列車で7泊8日もかかるのは
不思議ですよね。


でもちゃんと理由がありました。

「ロイヤルスコッツマン」は、始発駅、スコットランドの首都
エディンバラのウェーバリー駅を13:30に発車し、
一路ハイランドへ向かいます。

15時には英国らしくアフタヌーンティーのおもてなし。
そして、ディナーが始まる19時ころ、列車はスピーン橋駅に
停車したまま動かなくなります。

エディンバラからは、まだ250kmしか離れていない地点です。

乗務員に次の発車時間を聞くと、翌朝8時とのこと。
つまり、夜から朝にかけて13時間も同駅に停泊するわけです。

乗務員はこう付け加えました。

「夕食から就寝時間帯に走らないのは‘サービス’なのです」

確かに、動かず止まっていれば、列車の揺れでワインが
こぼれることもなく、またゆっくり安眠できますね。


いやあ、びっくりです。

「寝台列車とは、ベッドが備え付けられた列車であり、
 寝ている間に目的地に移動するもの」

といった一般的な定義でサービスを捉えてしまうと、
なかなかその言葉・定義の呪縛から逃れられないものです。

列車なのに、夜は動かさず、
「高級ホテル」そのものにしてしまう大胆な発想は
なかなか出てこないですよね。


「ロイヤルスコッツマン」の企画を担当した人は、
スコットランドのような小さい地域で、どうやって寝台列車の
サービスを成立させるか、相当頭を絞ったんでしょう。

意識的になんらかの発想法のテクニックを使ったとは思えませんが、
思考プロセスとしては、以前もご紹介した「意味の拡張」

を行ったんだと思います。

つまり、「寝台列車とは何か?」という問いの答えを
自由に、連想と言い換えを駆使して拡げていく発想法です。

・移動手段
・ホテル
・食事するところ
・寝るところ
・おしゃべりするところ
・景色を楽しむ
・出会いの場
・親交を深める場
・ポーカーを楽しむ場
・移動中はとらわれの身となる場

などなど。

その上で、こうした寝台列車の意味の拡張の結果、
出てきたそれぞれの言葉について吟味したんでしょうね。

そして、うちの列車を「高級ホテル」として考えるなら、
快適な食事と宿泊環境をゲストに提供するために、
「移動しない」のが最高のサービスだ、
という結論になったんじゃないでしょうか。


とにかく、固定的な定義、常識にとらわれないこと、
そして言葉の意味を拡張していくこと、
それが新たな発想につながるんだと思います。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

仕事のやりがいは探すものじゃなくて見出すもの

今日は休日なので、マインドリーディングとは関係のない話題。
でも、考え方を切り替えるという点では心理学的にも
意味のある話ですが。(知恵市場にも同じ内容を投稿してます)

福岡生まれの私にとって、プロ野球の旧ライオンズ
(西武ライオンズとなって埼玉に移る前)は特別の思い入れがあります。
小さい頃から毎年1-2回は、福岡の平和台球場にライオンズの
試合を見に行っていたからです。

当時は、すでに弱小チームとなっており、まともに勝ったゲームを
見た覚えがないのですが(⌒o⌒;

それでも、球場で食べるおいしい「丸天うどん」が楽しみでした。
(丸天うどんは、どんぶりが隠れるくらいの大きさの丸いさつま揚げを
乗せたうどんです)


さて、私が知らない黄金時代のライオンズで、「神様、仏様、稲尾様」と
呼ばれた鉄腕ピッチャー、稲尾和久さんは、最初から大きな注目を浴びて
プロ野球界に入ったわけではないことは、私くらいの年代ならだいたい
ご存知かと思います。
(確か、数年前に日経新聞の「私の履歴書」に登場されましたよね)

稲尾さんの西鉄ライオンズ入団時の契約金は50万円、月給は3万5千円。
当時の大卒の初任給が8000円くらいだったそうですから、すごい高給ですね。
猟師をしていた実家は貧乏でしたので、契約金をみたお母さんは失神したそうです。

ところが、甲子園で活躍し、鳴り物入りで入団した同期の畑隆幸投手の契約金は
800万円だったそうですから、稲尾さんに対する期待度はそれほどでなかったことが
わかります。


そんな稲尾さんが入団してからやらされたことは、来る日も来る日も打撃投手。
打撃練習のためにひたすらボールを投げ続ける仕事です。

先輩からは、「おい、手動式練習機!」と呼ばれる始末。
(当時は、そもそも機械式の打撃マシンはなかったんですが)

打撃投手は、バッターの練習のために投げますから、自分の練習にはならない。
そう最初は思っていたので全然面白くない。やりがいを感じるはずもない。


でも稲尾さんは、この状況からなんとか這い上がることを考えました。
そして、稲尾さんはあることに気づいたのです。

打撃投手が2球連続でボールを投げると怒られます。
でも、ストライクばかりを投げてもやはり怒られる。
なぜなら、ストライクばかりだと、打ち続けなければならず、疲れてしまうから。
たまにボールが来てくれた方が、バッターも適度に休めるのです。

だから、一番バッターに喜ばれるのが、3球ストライク、1球ボールのパターン。

そこで、稲尾さんは、こう考えたそうです。

「4球に1球、自分の練習ができる」

それから、3球は、バッターが打ちやすいど真ん中のストライク。
残り1球は、外角低めギリギリ、内角高め、とコントロールを
磨く練習にしたのです。

打撃投手は、毎日480球も投げるそうですから、4球に1球としても、
120球は、自分の練習になる。
これでも、ほぼ1試合分の投球数に匹敵する数です。

おかげで、高校時代はノーコンだったのに、
プロのピッチャーとしては、

「針の穴をも通すコントロールの持ち主」

と呼ばれる制球力を身につけ、
以降ライオンズの黄金時代の最大の立役者となっていくのです。


次に、稲尾さんと比べたらちっぽけな私の体験に話を飛ばします。(笑)
私が旅行会社を辞めてしばらくフリーター(そんな言葉はまだなかった頃)
をした後、あるマーケティングリサーチ会社に入りました。

最初の仕事は、現場の調査員でした。
毎日毎日、関東の様々な小売店の在庫調査を行いました。

例えば、ダイエーのようなお店に、パートの調査員たち含め10名ほどで
訪問し、各担当の売り場に散らばり、棚にある商品が何個あるかを数えて、
手元の調査票に記入します。

調査対象の品目は決まっているのですが、シャンプー、リンスなどの
ヘアケア商品などは、ほぼ全品目が調査対象。

したがって、棚の右から左まで、上から下まですべてを一品ずつ数えます。
大規模な店舗だと、一人で数百品目の在庫数を数えることを繰り返すわけです。

いわゆる「たな卸し」を毎日やっているようなものですね。
傍目から見れば、極めて単純な作業です。

人によっては、つまらない、「やりがいのない仕事」と考える人も
いたかもしれません。

私もそんな気持ちを感じなかったわけではないことを正直に告白します。

ただ、楽観主義で実はあまり深く考えないのが私の性格。
とりあえず職を得てがんばるしかないので、まじめにやりました。

しかし、途中から稲尾さんと同様気づいたのは、
確かに作業は単純だが、

・一般消費財の幅広い商品知識やトレンドを得ることができる
・小売店の売り場の構成や運営、販売促進施策を肌で知ることができる

というメリットでした。
これは、私の強い「好奇心」を満たしてくれる仕事であり、
実に「やりがいのある仕事」だったわけです。

当時私が調査に関わった消費財分野は、日用品・雑貨、食品、飲料、
化粧品、タバコ、酒といった多岐にわたるもので、残念ながら、家電や
自動車といった耐久消費財は調査する機会がありませんでした。

それでも、後に転職したシンクタンク、広告会社において、上記のような
分野の知識は私の強みとして大いに活用できたのでした。


稲尾さんのお話、また私の体験を元に私が伝えたいメッセージは
次のようなことです。


「やりがいのある仕事」を探そうとするのは結構ですが、
必ずしも最初から「やりがい」を感じられる仕事をやれるとは限らないのが現実。

どんな仕事であれ、稲尾さんのように視点を変えれば、自分を磨く機会になりうる
ことを考えれば、「やりがい」は、仕事の中から自分で見出すものです。

傍目からは、きつい仕事、単純な仕事、つまらない仕事に見えるけれども、
どんな仕事だって、極めようと思えばいくらでも工夫しがいが
あるんじゃないでしょうか。

いつでもどこでも、いくらでも自分を高める機会はあると思います。

*稲尾さんの話は、日経アソシエ(2006.04.04)の記事を元にしました。

投稿者 松尾 順 : 16:12 | コメント (0) | トラックバック

マイスペースの入り込むスペースはあるかなあ?

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の米国最大手、

「マイスペース」

がついに日本に進出しますね。
(日本経済産業新聞、2006/04/06)


会員数は6000万人超!
日本の最大手mixiの会員数が「345万人」ですから、
マイスペースの規模はケタが違う!

ソフトの日本語化などのローカリゼーションはこれからなので、
サービスリリースは今年末を予定。
まあ、ソフト開発の納期は後ろにずれるのが常識ですので、
実際には来年早々サービス開始ってところでしょうか。


しかし、日本では、mixi、greeの独立系大手以外に、
Yahoo、楽天もSNS市場に参入済みです。

もうすでに役者は出揃ってしまってるという感じがします。
ちょっともう遅いんじゃない?という印象です。


果たしてマイスペースが日本のSNS市場に入り込む
「スペース」は残されているでしょうかねぇ・・・

マイスペースの進出のニュースを聞いて、
数年前、当初の下馬評通り見事に日本市場進出に失敗した、
オンラインオークションの「eBay」を思い出してしまいました。

グローバルなネットの世界とはいえ、日本は日本語の壁で
外界からほぼ閉じたネットワークです。

英語、あるいは他の外国語でも同じですが、
あちらで開発されたサービスが自然に日本にまで波及して、
かつ、自己増殖してくれることはめったにありません。

日本市場の特殊性をことさら強調すべきではないと思いますが、
世界最大規模であっても、日本市場で成功するのは簡単ではない。


人が人を呼んで、倍倍ゲームで規模が拡大し自己増殖を始める
「ネットワーク効果」が発動する大きさを「クリティカルマス」
と呼びますが、既に厳しい競争が始まっているSNS市場で、
意識的に仕掛けていってクリティカルマスまで到達するには、
莫大な金と時間が必要です。


「eBay」もそのあたりの読みが非常に甘かったようです。

「マイスペース」も同じ轍を踏みそうな気がしますね。


実は、昨年12月には、韓国最大手のSNS「サイワールド」が
日本でのサービスを開始しています。

しかし、ほとんど話題にも上りません・・・
まだなにもマーケティングやってないでしょうかね。

仮に大規模な利用者増加キャンペーンをやったとしても、
費用対効果は低いでしょう。

SNSのユーザーの一人として考えても、
もうこれ以上新しいSNSへの参加は止めとこうと思いますし。

友人・知人の動向はやはり気になるので、
毎日のように主なSNSにはアクセスしますが、
あちこちのSNSを渡り歩くほど暇じゃないですから。
(というか、はまると大変!!)

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

目に見えないほどの差異で勝負してどうする?

テレビを買い換える時、「画質」は重視されますか?


私は、あまり「画質」は重視しないんですよね。
結構鈍感なので(⌒o⌒;、‘そこそこ’でいいと思っています。

実際、映画とか、美術館めぐりのようなドキュメンタリー
を見る場合なら、画質の良さが実感できるのかも知れません。

でも、例えば、お笑いタレントが出演するバラエティ番組や
普通のドラマを見るのならまあ、画質はどうでもいいですよね。


さて、これからのテレビ市場の主役になる(らしい)のは

「フルスペックハイビジョンテレビ」

だそうです。


そうなんですよ、すでに普及している「ハイビジョン」よりも
さらに画質の高い上位規格があったんですね。

従来のものは「標準ハイビジョン」。
実は、デジタルハイビジョン放送の信号を5割程度に間引いて
表示しています。

一方「フルスペックハイビジョン」は、
デジタルハイビジョン放送を100%表示できます。
したがって、標準ハイビジョンよりもさらに‘微細な部分’
の表現力が高い。


もちろん、価格も若干高い。

画面サイズが同じものだと、標準ハイビジョンよりも
5-10万円ほど高くなっています。

これでも、以前よりもずいぶん安い価格設定で
販売できるようになったそうです。

そもそも、標準ハイビジョンを最初に市場に出したのは、
当時のフルスペックでは、高すぎて売れそうもなかったから
なんですね。


さて、この5-10万の価格差、消費者が納得できるだけの
画質の違いがあるのか、といったらそうでもないんです。

例えば、シャープさんでは、画質の細かさの違いを
確認してもらうために「虫メガネ」を販促ツールとして
量販店に配布しています。

つまり、もはや裸眼では違いがわからないところまで
行き着いた品質で競争しているわけです。


目に見える製品、つまり「有形財」を製造しているメーカーの
場合、どうしても、機能、性能、価格(コスト削減の反映)
といった、「目に見える次元」での技術競争に邁進し、
本当にそれが消費者のベネフィットにつながっているかどうか
考えない傾向がありますよね。

「フルスペックハイビジョンテレビ」

もその典型的なケースですね。

「目に見える次元」での競争でありながら、
もはや目に見えないほどの差異で勝負してどうするんでしょう?

メーカーのひとり相撲というところでしょうか。


ところで、最近の類似のケースとしては、
デジタルカメラ市場で、「超薄型」でヒットしたカシオの
エクシリムに対抗し、それを上回る薄さを実現したソニーの
「サイバーショット」があまり売れなかったというのがあります。

また、カメラと言えば、
富士写真フィルムの「写るんです」の高機能版が5月に
登場しますね。シャッタースピードを二百分の一秒に高速化
したものです。

レンズ付フィルム市場では世界最速。


しかし、私たちは、お手軽・便利で使ってた「レンズ付フィルム」
にそんなもの求めてるかなあ?

投稿者 松尾 順 : 00:00 | コメント (2) | トラックバック

願いははっきり伝えるのだ

“新しい会社案内できましたよ”


お取引先の社長さんが、そう言いながら渡してくれた
会社案内をまずはパラパラとめくってみました。

以前の安っぽいつくりのもの(失礼)と比べると、
上質なコート紙を使ってあるし、レイアウトも洗練されています。

また、内容も、サービス紹介や会社概要だけでなく、
ユーザー企業の声(テスティモニアル)も掲載されました。

誰もが知っている超一流企業社長のインタビューを交えた
ケーススタディです。この企業もユーザーなのか、と思わず
引きつけられてしまうでしょう。

“これなら、御社のブランドイメージがぐっとあがりますね。
 充実した内容なのでおもわず「保存」したくなると思います”

と正直な感想を伝えたんですが、内心ひとつだけ、
思ったことがありました。


“表紙に「保存版」と明記したらもっと良かったのでは?”


まあ、表紙に「保存版」と入れるのはデザイン的には野暮になる
こともあるし、いまさら手遅れですので、あえて社長さんには
伝えなかったんですけど・・・


さて、皆さん、他社からもらった会社案内、
ちゃんと保存してますか。

しばらくなんとなくそのあたりに置いておくとしても、
たいていは、すぐゴミ箱行きですよね。


会社案内は通常、ありきたりのことしか書いてないし、
読み手にとって保存して読み直すだけの価値はまずありません。

そんな会社案内なら作るだけムダです。

Webサイトを充実させて、営業にはWebサイトのプリントアウトを
持参した方がベターじゃないでしょうか。


ただ、会社の信頼や格を上げるために、
相応のお金を投じて会社案内を作った方がいいとお考えなら、
‘保存したくなるような’内容にすべきでしょう。

つまり、こちらの伝えたい情報だけでなく、
読み手(潜在顧客)が喜ぶ、役に立つ情報を盛り込むのです。


そしてもう一つ、あつかましい、ずうずうしいと思われるかなと
考えず、「保存版」、あるいは「ぜひ保存してください」と
表紙に明記したらどうでしょうね。


日経ビジネスなどのの別刷り特集号には、たまに「保存版」と
書いてあることがあります。

内容を見ると‘保存’するほどの価値はないこともある。
でも、「保存版」と書いてあると、不思議に捨てにくい。

相手の勝手な押し付けにも関わらずです。
人間心理はそんなところがあるんですよね。


会社案内ではありませんが、「名刺」で同様の試みをして実際に
成果を上げたケースが昨日の日経産業新聞(2006.04.04)に
紹介されてました。

オフィス用品通販を手がけるベンチャー企業、
カスタネットの植木力社長の名刺(2種類あるうちのひとつ)
には、図々しくも(笑)

「名刺入れに入れておいてください」

の一文が書いてあるそうです。


名刺フォルダーにしまいこまれず、名刺入れに入れたままに
なっていれば、

「何かの機会にオフィス用品の注文をもらえる可能性がある」

と期待してのことです。

さて、植木さんは、本当にこの一文が効果があるかどうか
効果検証をしてみたそうです。

ある忘年会でこの名刺を配り、年末年始を過ぎた頃に
確認したところ、ほとんどの方が名刺入れに残していて
くれたそうです。

年末年始は何かと名刺交換の機会がありますから、
他人の名刺はどんどん増えたはず。

したがって、植木さんのものが名刺入れに残っていたのは、
たまたまそのままにしておいたわけではないでしょう。

やはり、植木さんの「願い」をみんな素直に聞き入れていた
わけです。


マーケティング・コミュニケーション、
特にダイレクトマーケティングでは、

「Call to Action」

という原則があります。

コミュニケーションを行う際には、
相手にして欲しい行動を明確に伝える必要があるということ。

例えば、ダイレクトメールの目的が「資料請求」なら、

「資料請求お待ちしてます」

とはっきり伝えなさいということです。

当然のことのようですが、
意外に、相手に何を求めているかが明確でない広告文が
多いんですよ!


会社案内の「保存版」も、

名刺の「名刺入れに入れておいてください」

も、「Call to Action」ですよね。


自分の願いというものは、はっきり伝えなきゃいけません。
(もちろん、相手が「断ることのできる権利」は
 残しておくんですけどね)

投稿者 松尾 順 : 10:59 | コメント (0) | トラックバック

ソーシャルマーケティング

宣伝会議最新号(2006.4.1)の特集タイトルは、

「広告で信頼はつくれるか」

です。

今、一通り読んだばかりですが、
宣伝会議の基本的な論点は、信頼をつくる広告のあり方として

「ソーシャルマーケティング」
(および、ソーシャル・コミュニケーション)

が必要であるということです。


「ソーシャルマーケティング」とは、早い話が、

「社会における企業の存在意義や貢献を伝えるコミュニケーション」

です。

もっと具体的に言うと、

「自社は、社会のお役に立つ事業を展開してますし、
それだけじゃなくて、地球環境保護などの社会的問題に対しても
積極的な貢献をしていますよ」

と対外的にアピールすることですね。


確かに、こうしたコミュニケーションは今後極めて重要でしょう。

今の消費者は、「商品」の良し悪しだけじゃなくて、より一層
その商品を製造・販売している「企業」の良し悪しを見極める
ようになってきてますから。

また、良い情報も悪い情報もあっという間に広がる時代、
へたなごまかし、言い訳は通用しないですし。


ですから、

「ソーシャルマーケティング」

は、今後大々的なブームになっていくでしょうね。


‘わが社でも「ソーシャルマーケティング」に
 取り組まねば、競合に負けてしまうぞ!’

と経営者は焦り、猫も杓子もソーシャルマーケティング。


ただ、そうなると、10数年前に流行った「メセナ」や
「フィランソロピー」と同様、
結局のところ、利益を上げるための「経費」としか考えない、
社会貢献活動やソーシャルマーケティングが増殖しそうですよね。

見せかけだけの「ソーシャルマーケティング」です。

こういうものは、業績が悪化すると真っ先にコスト削減対象なる。

‘利益確保が最優先。「ソーシャルマーケティング」なんて後回し’

と経営者が言い出すでしょう。


しかし、これでは、信頼をつくろうとして始めたことが
あだになり、かえって信頼をなくすことになりますよね。

信頼をつくるために大事なことは「一貫性」ですから。

会社の都合でさっさとソーシャルマーケティングを止めたら、
まさに「ご都合主義」です。一貫性ゼロです。

メセナやフィランソロピーの時は、ほとんどの企業が
「ご都合主義」を採用しました。
しかし、当時は、あまり問題にならなかった。
消費者にあまり気づかれずに済んだということが大きい。


でも、今は企業活動の可視化が大きく進んでます。

企業に関する情報は以前よりはるかにオープンになり、
各企業が、どんなことをやり、どんなことをやっていないのか、
大半のことが白日のもとに晒されます。

「ソーシャルマーケティング」に限らず、
企業活動には、明確な理念や社会倫理に基づく「一貫性」
がないとダメな時代なんです。


お題目だけの「社会志向」、でも本音は「利益志向」の企業姿勢は
すぐに見破られてしまうことを肝に銘じておく必要がありますね。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

ロールバック? ハァ?

お花見の帰り、「西友」に立ち寄りました。
久しぶりです。

自宅から車で10分ほどなので、たまに行ってたんですが、
最近はちょっと足が遠のいていました。


しばらくぶりの店内はあちこち改装され、ずいぶん雰囲気が
変わっていたのですが、いまだに変わってなかったのが、
エレベーターの脇などに貼ってあるチラシでした。

「ロールバック」

と西友のキャッチフレーズが「誇らしげ」に書いてあります。


「ロールバック」

って聞いてなんのことだかわかりますか?

この言葉、3年前位から店内のあちこちで見かけてたんですが、
いまだにピンときません。
(西友ユーザーの方、いかがですか?)

「ロールバック? ハァ? わけわからん!」

って感じじゃないですか。


さて、この言葉の意味は、

「特定商品を長期的に割り引いて販売すること」

らしい。
世界最大のスーパー、米ウォルマートの販売手法です。

ウォルマートは、2003年、業績不振の西友に出資し、
事実上傘下におさめて、経営の建て直しに乗り出したことは
ご存知ですよね。

それで、鳴り物入りで導入した販売手法のひとつが

「ロールバック」

でした。

ですが、大方の予想どおり「失敗」しました。
西友は相変わらず経営不振にあえいでいます。


まあ、西友がふるわない理由はいろいろあるでしょうけど、
日本の消費者にまるで意味不明で、‘メッセージが伝わらない’

「ロールバック」

をいまだに使い続けていることから、
根本的な問題ははっきりしています。

それは、米国流のやり方を日本にそのまま押し付けていること。
外資企業の典型的なやり方。
つまり、外資系企業の失敗の歴史を繰り返していわけですが、
なぜ、ウォルマートの関係者はいまだに気づかないのか?

不思議ですよね。


一方、西友サイドの人たちは、
きっと忸怩たる思いをしてるでしょう。

「ロールバック」

なんて横文字じゃなくて、

「安売り目玉商品」

でいいじゃないですか?

と心の中では思ってるんじゃないかと思います。


そういえば、やはり米ウォルマートと同様、以前は西友に
「グリーター」という役割の人も導入していました。

この人の仕事は、入り口でお客様を迎えること。

会社の受付のようなもの。お店の「顔」となる方で、
にこやかに挨拶しながら来店客を出迎えて、
お店に対する親近感を持ってもらうのが狙いです。


しかし、出入り口が何箇所もある西友のようなGMS(量販店)
じゃ人員配置に無理があります。
挨拶するだけの人を出入り口の数だけ何人も置くのは
コスト高ですから。

以前、グリーターの人が店内放送で、

「グリーターの○○です。何か御用がありましたら、
 お申し付けください」

などと流しているのを聞いて、「なんかかわいそうだなあ」
と感じた覚えがあります。

ひょっとして、いまだに「グリーターさん」はいるのかも
知れませんが。


さてさて、そろそろ、店舗運営の主導権を日本サイドに返して、
日本の消費者の購買行動に合致した店舗オペレーションに
変えていくべきだと思いますが、

どうなんですか、ウォルマートさん?

投稿者 松尾 順 : 15:23 | コメント (2) | トラックバック