これから何が起こるのか(2) 「web1.0革命」から「Web2.0革命」へ


情報革命による「情報主権」の移行プロセスを
田坂氏は、次のように振り返ります。


移行プロセスの始点は、95年の「インターネット革命」です。

これは「Web1.0革命」とも呼ぶべき革命でしたが、
この革命によって、世の中に次の3つの革命が始まりました。

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・情報バリアフリー革命

 これまで世の中に存在した様々な「情報のバリア」が壊され、
 誰でも手軽に、欲しい情報を入手できるようになっていく

・草の根メディア革命

 世の中に「草の根メディア」とでも呼ぶべきものが数多く生まれ、
 誰でも手軽に、自分のメッセージを発信できるようになっていく

・ナレッジ共有革命

 単なる「データ」のレベルの情報だけでなく、高度な「ナレッジ」
 (知識)のレベルの情報が、多くの人々の間で共有できるように
 なっていく

---------------------------------------------

ただ、上記3つの革命は、
当初「革命」と呼ぶには中途半端でした。
なぜなら、それぞれの革命に大きな壁が存在していたからです。

しかし、日本では2000年ごろに始まった

「ブロードバンド革命」

がこれら三つの壁を打ち破り、

「Web2.0革命」

への道を切り拓きました。

田坂氏は、この意味で「ブロードバンド革命」は、

「Web1.5革命」

と呼ぶべきものだと述べています。


さて、「ブロードバンド革命」が打ち破った3つの壁とは、

・通信料金の壁
・機器操作の壁
・文字情報の壁

です。

ブロードバンド革命は、常時接続・定額料金を浸透させ、
情報の「コストバリア」を打ち壊しました。

また、ブロードバンドと同時期に普及した携帯電話やPDAは、
その使い易さのおかげで、パソコンの操作方法や
インターネットの技術を知らなくとも、
誰もがインターネットの世界に入れるようにしました。

さらに、ブロードバンドのおかげで、
ナローバンド時代と異なり、文字情報だけでなく、
データの重い音声、動画も自由に共有できるように
なってきました。


こうして、3つの壁が「ブロードバンド革命」に
よって打ち破られたことで、先ほどの3つの革命は
次のような進化を遂げます。

これが、トム・オライリーが命名した「Web2.0革命」です。

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・「情報バリアフリー」革命は、「衆知創発」に進化

 誰でも、多くの人々の智恵を集め、新たな智恵の創発を
 促すことができるようになる革命。
 「情報バリアフリー革命」との違いは、「すでに存在する
 情報」だけでなく、「まだ存在しない情報」(衆知による
 新たな智恵の創造)が入手できるようになる点です。


・「草の根メディア革命」は、「主客融合の革命」に進化

 情報の発信者、受信者、あるいいは生産者、消費者といった
 これまで別々のもの、すなわち「主」と「客」が一体化し、
 融合し、区別がなくなっていく革命。
 「草の根メディア」の使われ方は、
 「情報発信」(コミュニケーション) から
 「協働作業」(コラボレーション)へと深まっていきます。


・「ナレッジ共有革命」は、「感性共有革命」に進化

 人々が、「ナレッジ」(知識)だけでなく、
 感情や感動、感覚、感性を共有できるようになる革命。

 文字情報の壁がなくなり、写真、映像、映画など、
 感覚や感性に直接的に働きかける情報をネットに乗せる
 ことができるようになったことから、
「言葉では表せない智恵」、「言葉を超えた感情や感動、
 感覚や感性」が誰とでも簡単に共有できるようになって
 きました。

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これらの「Web2.0革命」が、
どんなサービスとして具現化しているのか、
あなたは容易に思い浮かべることができますよね。
(はてな、You tube・・・などなど)


具体例や、革命の詳細説明については、
ぜひ本書を読んでください。

「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 12:20 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(1)「情報革命」の本質

私たちが生きている今の時代の変化は速すぎますね。
あまりにも目まぐるしくて、わけがわからなくなります。

だから、変化を追いかけることに疲れ、
その意味を読む気力を失ってしまうのかもしれません。


ただ、こうなってしまうのは、物事の表面的な変化にしか
着目せず、その深層にある大きな「潮流」を見ようとしないから
だと思います。


比較的ゆったりと流れている潮流が見えていれば、
その潮流から派生している細かな激しい流れの方向性を
読むのは楽です。

ですから、目に見える現象そのものではなく、
その現象をもたらしている本質的な変化を把握することが、
激しい環境変化に余裕をもって適応する上で有効じゃないで
しょうか。


この本質的な変化を把握する上で役立つ情報のひとつが、
田坂広志さんのお話しや本だと思います。

田坂さんの近刊

「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

では、まさに、これからの社会がどう動いていくのかの
「根本原理」がわかりやすく語られています。


個人的には、すべての社会人に読むことをお勧めしたいと
思いますが、とりわけ、消費者ニーズを的確に読む必要のある
マーケターにとって有益な知見がたくさん発見できますよ!


というわけで、しばらくこの本の紹介をしたいと思います。

自分で言うのもなんですが、
私のブックレビューはかなりしつこいです。(笑)

昨年後半に取り上げた「シンプルマーケティング」は、
全20回にもなってしまいました。

さすがに今回の本はそこまで長くならないと思いますが、
どうかお付き合いのほどを!


さて、「これから何が起こるのか」の基本的な問いは、

“「情報革命」で世の中はどう変わっていくのか”

ということです。


この問いからわかるように、

「情報革命」

とは、これからの社会のあり方に対して極めて大きな影響力を
持つ「大きな潮流」であるということです。


ただ、田坂さんは、

「情報革命」とは、「効率化」「合理化」「コスト削減」の革命

だと考えるのは誤解だと喝破しています。


革命とは、ただ「新しいことが起こる」ことではありません。
革命の定義、それは昔から一つしかないのだそうです。

それは、

「権力の移行」

です。


そして、情報革命で起こっているのは、

「情報主権の移行」

です。

すなわち、これまで「情報の主導権」を持たなかった
「情報弱者」が、その主導権を手にするということです。

具体的に言えば、

「企業」においては「経営幹部」から「一般社員」へ、
「市場」においては「企業」から「消費者」へ、
「社会」においては「官庁」から「生活者」へと

移ろうとしている。

これが、情報革命がもたらす根源的・本質的変化です。


では、この「情報主権の移行」から派生する細かい変化とは
どんなことなのか。

同書では、75の変化にまとめてあります。


次回以降は、これらの変化の中から、
特にマーケターの方に役立つと思ったところを
かいつまんでご紹介しますね。

乞うご期待!

投稿者 松尾 順 : 10:54 | コメント (0) | トラックバック

メディアミックスショッピング:ジャパネットたかた

先週土曜日(27日)、「ジャパネットたかた」
の新聞折込チラシが全国で配布されたようですが、
お気づきになりましたか?

千葉・松戸の我が家の日経新聞にも入ってました。

「ジャパネットたかた」のチラシが我が家にも入ったのは
たぶん始めてです。相当大規模なチラシ攻勢なんでしょう。

ざっと眺めてみましたが、Windows Vista搭載パソコンと
ハイビジョンテレビを中心とした紙面構成です。

パソコンの仕様や価格設定は、さすがにツボを抑えていました。


さて、同社の中心顧客層は、

電気製品に弱く、通信販売で商品を購入することに抵抗がなく、
一方で、受動的でウィンドウショッピングが苦手という人たち

です。


「ジャパネットたかた」は、全国のこうした顧客層に対し、

絞り込まれた商品をテレビ、ラジオ、チラシ、カタログ、
Webサイトなどあらゆるメディアを駆使して訴求する

「メディアミックスショッピング」

によって、成功を収めてきました。


よく考えてみれば、同じ商品をさまざまなメディアで
ほぼ同時に横展開するわけですから、あまり効率が
よくないように思います。

ただ、それぞれのメディアの特性を活かし、
手を変え品を変えて商品の魅力を伝えることで、
説得力を高め、爆発的な販売力を可能にしています。


実際、高田社長によれば、

「ご老人は、テレビに言っただけのことは信用しない。
 紙に書いてあることでなければ信用しない人も多い」

のだそうです。


また、高田社長は消費者心理をよく理解しています。


消費者にとって一番大切なことは、

「どんな商品が、いくらで買えるか」

ということです。

すべての消費者が
フル装備の多機能商品を求めているわけではありません。

機能が少ない商品でも、
それに見合った価格が設定されていれば買う人がいます。


つまり、

「商品の価値は、使う人の満足度で決まる」

ということ、そして、使う人の「満足度」は、

「本当に必要で、使いやすい便利な機能かどうか」

「値段が適正かどうか」

で決まるということです。


ところで、本日付の日経MJ(2007/01/29)には、
高田社長のインタビュー記事が掲載されていますね。

ジャパネットたかたは、2004年の顧客情報流出事件の際、
1月間半の販売自粛を行った影響で減収減益になりました。

しかし、直近の2006年12月期には年商1千億円を突破。
再び成長軌道に乗ってます。

長崎に本社を置く地方企業が、
全国の消費者の心をこれほど掴むことができたのは
すごいことですよね。


余談ですが、通販企業の大手は地方、
つまり関東以外で誕生していることが多いように思います。

これって何か理由があるのかなと気になっていたんですが、
神戸に本社のあるフェリシモについての記事
(日経ビジネス、2007/01/29)の中にその答えを見つけた
ような気がしました。


それは、同社のカタログを精読している地方在住の
フェリシモの顧客が口にした一言です。

「私たちにとって、市販されている女性誌なんて
 生活に関係のないことばかりです。東京のレストランや
 衣料品のことが出ているけれど、地方に住む私たちには
 何の関係もない。でも、このカタログは違うでしょう」


全国をターゲットにする企業の本社が東京にあると、
地方にすむ消費者の心理やニーズが見えなくなってしまうんじゃ
ないでしょうかね?

投稿者 松尾 順 : 13:38 | コメント (1) | トラックバック

生活職人になれ!

ユニークなカタログで知られる『通販生活』はご存知ですよね?


同社における新商品の開発で
6年連続トップの座を保持しているヒットメーカー、
吉川美樹氏は、次のように発想のキモを述べています。


売れる商品を生み出せるようになるには、
ただ、漫然と生活を送る

「生活人」

ではなく、

「生活職人」

になれ!


「生活職人」は、
どうやったら日々の生活を居心地よく過ごしていけるか、
つねに生活を意識し、さまざまな努力や工夫ができる人。

つまり、生活の達人のことです。


リクルートの創刊男、くらたまなぶ氏や、
作詞家の秋元康氏、TVプロデューサーのおちまさと氏なども
同様のことをおっしゃってますが、要するに

「一所懸命、生活する」

ということでしょう。

関連記事[一所懸命、生活しましょう]

吉川氏もまた、一人娘を抱えるシングルーマザーとして、
自分にとって身近なところ(半径1メートルの生活圏)から、
不満センサーを働かせ、新商品のネタを拾っています。


吉川氏によれば、

「悩み解決」

が売れる商品のキーワード。
悩みのあるところに商品ができる。


だから、開発担当者は、
一消費者としての自分の悩みを認識し、
それを解決できる商品を生み出せばヒットになる可能性が
高いというわけです。


さて、吉川氏が、新商品の発想のためにやっている
具体的な行動は次のようなことです。

・初心にかえって、あちこちの売り場を見て歩き、
 頭に映像をプリントしていく

・いろいろな世代の人を観察する。とくに商品のターゲット
 になる層の行動を、街や電車の中などさまざまな場所で
 観察する

・新聞に折り込まれているチラシを眺め、ジャンル別に
 「欲しいものベスト10」を出していく

・書店を回って、本や雑誌の表紙を眺めたり、特集記事を読む

・朝起きてからの「生活動線チェック」をする
 (起きてからの自分の行動を細かく思い出していく)


上記の行動を見ると、ポイントは

「現場での注意深い観察」

だということが言えますね。


デスクや会議室に座ったまま、

「一消費者になったつもり」

になっているだけじゃダメなんです。


たとえば、私の推測なんですが、

「一消費者になったつもり」

で失敗した事例だと思われるのが、
東急の会員制リゾート施設、

「ビッグウィーク」

の価格設定です。
(日経産業新聞、2007/01/25)


「ビッグウィーク」は、いわゆる「タイムシェア型」。
つまり、1年の好きな期間の施設利用権を購入できる仕組みです。
現在8カ所に施設を展開しています。

ビッグウィークの一番目の施設(99年開設)は「京都」ですが、
桜や紅葉シーズンの週は、20年間利用権が300万円超、
底冷えのする冬場は同80万円台と設定。


ところが、冬場の分は即日完売したにもかかわらず、
春、秋はいまだに売れ残っているそうです。

東急担当者は、おそらく、会議室にこもったまま、
従来の旅行シーズン(繁忙期・閑散期)の常識を引きずり、
思い込みで価格設定したに違いありません。


実際、売り出し当時の顧客の反応は
次のようなものでした。

「東急さんは京都の楽しみ方を知らないね。
 我々は春秋の混雑した京都なんて行きたくないんだよ。」


現在、東急さんはこうした過去の失敗を踏まえ、
3千人の会員調査を行ってユーザーのニーズを把握している
そうです。
(ということは、以前は顧客ニーズ調査を
 やってなかったってことでしょう・・・!)


商品開発に当たっては、担当者自身がまず、

「自分が顧客だったらどんな商品が欲しいか」

という思考を働かせ、
同時に現場に行ってみる、体験してみることが大事ですが、
それが難しいのであれば、素直に顧客に聞く(調査する)
べきですよね。


*吉川氏の話は、下記の本からです。

『半径1メートルの「売れる!」発想術』
(吉川美樹著、サンマーク出版)

投稿者 松尾 順 : 10:31 | コメント (0) | トラックバック

カリスマ車内販売員の言葉のマジック

新幹線の車内販売のカリスマ、斉藤泉さんの話、
聞いたことありますか?

斉藤さんは、最近よくメディアに登場されているので、
ご存知の方も多いんじゃないかと思います。


私も、以前こんな話を書きました。

「背中に刺さる弁当欲しい視線」


斉藤さんは、JR山形新幹線「つばさ」の92年開業時から
乗車しているベテラン。

さすが、車内販売歴14年のカリスマだけあって、
お客さんの「気」を背中で感じることができるんですね。

しかも、買おうかどうしようかと迷っているお客さんを
「目」(視線)で落とすことさえできる。すごい!


さて、今回は続編。(笑)
斉藤さんが経験からつかんだ言葉のマジックについて。
(サービスの花道[セオリー]、講談社から)


斉藤さんは、商品を販売する時、
ちょっとしたひとことを付け加えます。

「つばさ限定です」

「全国駅弁コンクールで優勝しました」

など。

こうすることで、食べる前の客の期待感を高める。
赤福で言う「先味」を実践しているわけです。


また、こうしたひとことが周囲のお客さんの関心も引き、

「私もください!」

ということになります。


300円のホットコーヒーを販売する時も、

「淹れたてです」

と微笑みながらお客さんにカップを渡す。

この言葉がコーヒーをよりおいしく感じさせ、
お客さんの満足を高め、やや割高なコーヒーを
高いと思わせなくしています。


斉藤さんは、販売する側としては

「当たり前のこと」「わかりきったこと」

だけど、お客さんには

「言わなければなかなか伝わらないこと」

をちゃんと言葉に出すことで、
購買意欲を高めている。


私は、

「言葉のマジック」

なんて、オオゲサに表現してはいますが、実は、
斉藤さんはとてもシンプルなことをやっているだけ
なんですね。


でも、大事なことは、こうした「ちょっとしたひとこと」が
効くということを把握していること、そして実践することです。


余談ですが、斉藤さんは、乗車する車両の客層や当日の気候、
運行時間帯などを踏まえて何が売れるかを予測し、
ワゴンに乗せる商品内容や個数を決めます。

そして、目的地に到着した時、
売れ残ったり、足りなくなることなく、予測どおり
ぴったり売り切ると

「大きな達成感を感じます。」

と別のところで読んだ覚えがあります。


「勝負師」の気質を感じさせますね。

投稿者 松尾 順 : 09:19 | コメント (0) | トラックバック

ブランド・プレミアム

「ブランド」が確立されていると、
そうでない他の商品よりも優先的に選択され、
また多少高くても、そのブランドを選んでしまう。

このブランドが持つ価値のことを

「ブランド・プレミアム」

と言いますね。


日経デザイン最新号(2007年2月号)では、
これを「ブランド代」(ブランド貢献度)と呼んで
消費者調査を通じて数値化する試みをやっています。


今回の調査対象商品のうち、
このブランド貢献度がもっとも高かったのが、
男前豆腐店の豆腐でした。

豆腐の標準的な相場価格(基準価格)を120円とした時、
いくらまでなら高くても男前豆腐を買いますかという質問の回答
によれば、平均価格は「143円」となっています。

これは、基準価格(120円)の19.2%増し。

この比率が「ブランド貢献度」、すなわち
「ブランドプレミアム」と呼べる数字です。


ちなみに、1位から5位までは次の通り。

1位 男前豆腐店「男前豆腐」
2位 シーキューブ「チョッコラータドーロ」
3位 メルセデスベンツ「Sクラス」
4位 プラスマイナスゼロ「加湿器」
5位 セイコーエプソン「カラリオ」


なお、男前豆腐については、

「内容量と価格が同じだった場合、
一般的なメーカーの豆腐と男前豆腐のどちらを買いますか」

という設問(ブランド支持率)に対して、

回答者の80.3%が

「男前豆腐を買う」

と回答しており、男前豆腐のブランドパワーの強さを
感じさせる数字となっていますね。


さて、私がこの調査で最も興味深いと思ったのは、
シャープの「アクオス」です。


シャープは、2000年に当時の社長が

「5年後に液晶テレビに置き換える」

という目標を掲げ、
以来、一貫したブランディングを継続してきました。


その結果がどうなったかというと・・・


「基本機能、性能、価格が同じだった場合、
 一般的なメーカーの製品と「アクオス」のどちらを
 買いますか」

というブランド支持率を測定する質問に対して調査対象者は、

「88.7%がアクオスを買う」

と答えています。このブランド支持率は今回の最高値。

10人のうち9人が、
条件が同じなら「アクオス」を選好するというのは
すごいですね。


ブランド貢献度については、40万円の基準価格に対して、
平均41万6748円、つまり「基準価格の4.2%増し」です。

つまり、アクオスなら、他の商品より4.2%割高でも
買いたいと思うということですね。

ただし、基準価格が40万円と絶対額が高いですから、
100円そこそこの豆腐などと単純に比率で比較することに
ついては注意が必要ですが。


また、

「ソニーの液晶テレビ「ブラビア」と比較して、
基本機能、性能、価格が同じだったらどちらを買いますか」

という設問に対しては、なんと84.7%の人が、

「アクオスを買う」

と答えています。


世界的なトップブランド「ソニー」も、
液晶テレビ分野では、「アクオス」に完璧に
負けているわけです。


地道で継続的なブランドづくりの有効性が実感できる調査結果
じゃないかと思います。


うろ覚えですが、2000年当時は、液晶テレビの将来性はまだ
不透明で、当時の社長いわく、

「液晶テレビに注力する」という決断には相当勇気が必要だった

というのをどこかで読んだ覚えがあります。


ブランディングは息の長い企業活動だけに、
トップのコミットメントがきわめて重要です。

投稿者 松尾 順 : 10:09 | コメント (0) | トラックバック

「ネガティブ・エクイティ」を受け入れ活かす

ブランディングは、端的に言えば、
ターゲットユーザーの頭の中に、自社の商品に対して理想とする
イメージを形成すること。

つまり、「ポジティブなイメージ」を植えつけて、
ユーザーの期待感を高めることです。

赤福で言う「先味」。

経営コンサルタントの石原明氏は、
実際の商品自体が優れていることは大前提として、まず

「良さそうに思える」

ことが大事だと言っています。

これは、商品のよさをまだ知らない新規ユーザーにとって
特に重要な点です。

「良さそうに思えない」と、
そもそも試してみる気にならないからですね。


だから、ネーミングやパッケージデザインなどが
ブランディングで重要な要素になるわけです。


しかし、どんなに「ポジティブなイメージ」を植えつけたいと
思っていても、そもそも商品が持つネガティブな特性(欠点)を
隠すことは困難です。

最近は、ネットを通じて詳細情報の入手が容易になりましたし、
欠点をわざと隠して美点だけを訴求しても、
消費者には簡単に見透かされてしまいます。


きれいごとを言えば言うほど、

「自分たちに都合のいいことしか言わない会社」

というネガティブなイメージが強化されていく時代です。


そこで、逆転の発想。

商品の持つネガティブな特性(「ネガティブ・エクイティ」)を
理解し、受け入れることから活路を見出す手もあります。
(PRESIDENT、 ハーバード式 仕事の道具箱、2007.2.12)


例えば、米国で販売しているリプトンのインスタントスープ、

「カップ・ア・スープ」

は、これまで優しさに溢れる早親と笑顔の子どもの広告を
通じたブランドイメージを一貫して形成してきました。

しかし、このイメージが通用したのは70年代まで。


今日では、

まともな親なら、多くの科学調味料を使用し、
栄養分の少ない食べ物を家庭での夕食の一品として
出すことはない

というネガティブな事実を担当者が素直に受け入れ、
当該製品のポジションを変更。(リ・ポジショニング)


「カップ・ア・スープ」をオフィスでの軽食として、
午後遅く一息入れるときのスニッカーズやコークに代わるもの
として売り込むことにしました。

こうして、同商品のネガティブな特性が問題とならない
新しい文脈を見つけたことで、20%の価格引き上げを
行ったにもかかわらず累積売り上げで60%増を記録したそうです。


もはや、企業側が一方的な情報操作ができない今、
ネガティブな側面を見ない振りをしたり、隠そうとせず、
それを直視し、どうやったらマイナスをプラスに転じるかに
知恵を絞るべきなんでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 10:23 | コメント (0) | トラックバック

赤福の3つの味

伊勢名物「赤福」、適度な甘みの餡(あん)と柔らかなお餅の
コンビネーションが最高ですよね。

普段は関西でしか販売しておらず、
関東に住む人間としてはめったに食べる機会のない幻のお菓子。
(10月から5月までは、通販でも買えるんですけどね)


余談ですが、お餅の上に乗ってるあのアンコ、
絶妙に波打っています。とっても美しい曲線です。

あれは、右手の指3本で餅の上に餡をかぶせていくために
できる跡。つまり、手作業の証しでもあるわけです。


さて、余談の後に本題です。(^_^;


赤福では、お客様を満足させるために

「3つの味」

を大切にしているそうです。
(サービスの花道[セオリー]、講談社)


3つの味とは、

・先味
・中味
・後味

のこと。


赤福会長の浜田益嗣氏は、

「先味」とは、実際に口に入れる前の期待感
「中味」とは、食べた時の実際の味覚
「後味」とは、食後、心に残った印象

と説明し、この3つを満足させてはじめて
お客様に喜んでいただける、

と語っています。


そして、「先味」を高めるにあたって重要なのが、
「ブランド」です。


ブランドとは、端的にいえば「赤福」という名称や
店舗、パッケージ、ロゴなどを見聞きした時に
連想するイメージや感情のことです。


赤福の場合、1707年創業という歴史が持つ「暖簾」が
強力なブランドとなっており、

「赤福なら間違いない」「あの味をまた食べたい」

といった信頼と期待感を生み出してますよね。


赤福の包みの中には、「伊勢だより」という日替わりの
短冊程度の大きさの版画&メッセージが入っていますが、
これも「先味」、つまり期待感を煽るための仕掛けだそうです。


さて、「中味」は、期待にたがわぬ味を提供するための
品質管理や、時代とともに変化する消費者の嗜好にチューニング
し続けることで維持されるもの。

そして「後味」は、店を出た瞬間にふと客が漏らす正直な感想に
現れるそうです。

歴代の店主たちは、お客さまの生の声を現場で収集して
「後味」を評価することで「赤福」の味を300年に渡って
守ってきたというわけです。


私は、マーケティング・コミュニケーションで大事なのは、

「言行一致」

だとずっと言ってきました。


どういうことかというと、

広告・宣伝などを通じて、
どんなに美しい「企業イメージ」(期待)を作り上げても、
実際の商品やサービスを利用した時の「ユーザー体験」(真実)
が、企業イメージに一致していなかった場合、
その企業や商品、サービスに対するブランドは一気に
崩れてしまうということです。


「赤福」では、このことが創業当時から明確に意識されており、
しかも、「後味」把握のために、現場での生の声の収集という
「顧客満足度調査」を続けてきた。

やはり、老舗は、老舗として残ってきただけのすばらしい
考え方を持っているということがよくわかりますね。

投稿者 松尾 順 : 11:30 | コメント (2) | トラックバック

ネット千人調査(2007/01/11-15実施)


年明け早々に実施されたインターネット調査
(回答者千人、男女半々)から、テレビ視聴などの
メディア行動についての結果が、日経産業新聞(2007/01/19)で
紹介されてました。


なかなか面白い数字ですので、すでにご存知の方もいらっしゃる
と思いますが、いくつかメモ的に拾っておきます。


・テレビ視聴時間の変化

 3年前に比べてテレビを見る時間が減った人は39.0%、
 「変わらない」(38.0%)を上回っています。一方、
 テレビ視聴時間が「増加」した人は23.0%。

 20代-30代台前半の女性だけでみると、「減少」(46.6%)、
 「変わらない」(23.0%)の2倍、10代の女性の「減少」も
 44.0%と、テレビ局のメインターゲットだった女性層の
 テレビ離れが顕著です。


・テレビの代わりに増えた時間の使い方

 トップは「インターネット」(71.0%)、
 二位「仕事・勉強」(28.2%)、三位「メール」(24.6%)。
 10代の女性では「メール」(45.5%)と突出して高い結果と
 なってますが、これは携帯メールでしょうね。


・06年に最も多く見たテレビ局
 
 「フジテレビ系」(41.8%)が3年連続トップ、
 NHK(14.1%)が2位、「テレビ朝日系」(12.1%)3位。
 フジテレビの強さが目立ちますね。一方、 かっての
 視聴率トップ、日本テレビは凋落激しく、わずか9.9%。
 

・CM飛ばし

 CM飛ばすことが「よくある」は44.2%、「ときどきある」は
 21.9%、合計で全体の3分の1。
 「あまりない」「まったくない」との回答は合計で20%ちょっと。
 みんな飛ばしてみるのが当然の行動になってます・・・


さてさて、まだまだTVは大衆のメディアとして君臨してますし、
TVコマーシャルも全体としては好調。

でも、消費者のメディア行動はじわじわと着実に変化しています。


いつかはインターネット系メディアにその座を奪われる日も
やってくる。いつかは言えないけれど、確実に予測できる未来
ではないでしょうか。

このことを自覚して、次世代のテレビのあり方を構想し、
実行に移せるかどうかで、テレビ局の将来が決まって
きますよね。

投稿者 松尾 順 : 19:13 | コメント (2) | トラックバック

創造的になるヒント

ブルータス最新号(2007/02/01)は、まるごと1冊

・茂木健一郎特集
(正式な特集タイトルは、「脳科学者ならこう言うね!)

ですが、先日、HMV渋谷店で同誌の発刊記念講演会が
行われたようです。


講演会の模様は、

茂木健一郎 クオリア日記

からMP3でダウンロード可能です。


講演会のタイトルは、

『創造するならバカになれ!』

要するに、

どうやったら創造的になれるか
(クリエイティビティを発揮できるか)

のヒントを脳科学の知見を踏まえて語っています。


ここで簡単に講演内容をご紹介しますね。

茂木さんはクリエイティブになる条件を4つほど挙げています。


1.バカになる

講演タイトルにもなっているほどですから、
もっとも重要な条件なんでしょうね・・・


これは、硬い言葉で言うと「脱抑制」。

常識や固定観念、先入観といった自分の思考を抑制しているもの
から脱却するということらしいです。


確かに、天才と狂気は紙一重といいますが、
天才的な発見・発明した人は、常人とはかなり違います。
端的に言えば、「変人」のことが多いですね。

しかし、そうした変人だからこそ、凡人からは
「バカげたこと」に熱中できるし、結果的に
既存の枠組みを大きく変える大発見や大発明を成し遂げることが
できたわけです。


茂木さんはブログ上では、

「世の中は‘賢いバカ’が変えてきた」

と書いています。


2.「起源」にこだわる

これは、昨日書いた、「原理」を見抜く力とほぼ同じようです。
ものごとをただ漠然と見るのではなく、

「それって何が起源なんだろう、背景に何があったのだろう?」

と考えてみること。
(これができること自体、相当「バカ」にならないとできない
 ように思いますけど・・・)


たとえば、

「Vサイン」

をしている人を見て、

「Vサインは、誰が始めたんだろう?」

とか考えてみたり、調べてみる。

こんなことが日常できるようになったら、
相当クリエイティビティが高くなるんじゃないかと思います。


ちなみに、Vサインを最初に始めたのは英首相のチャーチル
だそうです。いろいろと由来があったのですが、
詳細は忘れました・・・(^o^)


3.多様性

さまざまな異なる考えや見方を拒否しない。
多様性を受け入れることによって、新たな創造が生まれる。

基本的に、創造は異質なものの組み合わせから生まれますからね。


4.歴史認識を持つ

2の「起源」にこだわるということと、ほぼ同じことでしょう。
ものごとがどのようにできてきたのか、またどんな背景があった
のかを知っておく、そうやってさまざまな出来事の因果関係を
理解することが、新たな創造につながるのでしょう。


ところで、上記の内容とは直接関係ないのですが、
講演の中で茂木さんが言うには、これからは

「一大教養時代」

が来ると予言しているそうです。


実は、知ること(学問)こそ、最大の快楽だからです。

おなかが一杯になったら「食欲」は止まりますが、
「知識欲」には際限がないですからね。


「知のコンテンツ」そして「学び」

が最大のエンタテイメントになる時代が近いというのは
私も確信しています。

投稿者 松尾 順 : 13:00 | コメント (0) | トラックバック

ものごとの原理を見抜く力

先日、亡くなられた日清食品創業者の安藤百福氏は、
戦後復興期にラーメンの屋台に並ぶ人々の列を見て、
「即席麺」に対するニーズを読み取りました。

そして、世界で初めてのインスタントラーメン
「チキンラーメン」を開発。

さらに、安藤さんが米国に行った際、
あちらの人が、チキンラーメンを2つ折りにして紙コップに
入れて食べるのを見て「カップ麺」を思いつき、
やはり世界初のカップ麺、「日清カップヌードル」が生まれたのは
有名な話ですよね。


このような斬新な発想力や創造力は、
事象の背景を深く読み取ることによって可能になることです。

これは、

「ものごとの原理」を見抜くこと

だと言えますよね。


実際、これまでの偉大な発見・発明の多くは、
ものごとの原理を発見したり応用することから生まれている
わけです。


たとえば、

「熱気球」

が開発されたきっかけはご存知でしょうか?


最初に熱気球を製作したのは、南フランスのアノネイで製紙業を
営むモンゴルフィエ兄弟だったそうです。


兄のジョセフ・ミッシェル・モンゴルフィエは、
暖炉の熱気にあおられて洗濯物がはためくのを見た時、
熱気球のアイディアを着想します。

そこで、彼は、紙袋に暖炉から出る煙を入れてみたところ、
紙袋は天井まで上っていきました。

熱気球による有人飛行に成功したのは1783年11月21日ですが、
この実験は、その約1年前のことでした。

この最初の実験以来、兄ジョセフは、弟のジャック・エチエンヌと
協力して、さまざまな素材を試しながら、少しずつ大きな熱気球を
作っていきました。

ちょっと面白いのは、モンゴルフィエ兄弟は、熱気球が浮かぶ
本当の原理がわかっていたわけではなく、
ものを燃やしたときに出る煙に、ものを浮かばせる特殊な成分が
含まれていると考えていたことです。

彼らは、この特殊成分を「モンゴルフィエのガス」と
呼んでいました。

しかし、熱気球としての仕組みは間違っていなかったため、
最終的には、有人飛行に成功します。


こうして後からの話として読むと、
ジョセフの着想はたいしたことのないように思えますよね。

しかし、りんごが木から落ちるのを見て万有引力の原理を
気づいたニュートンと同様、実は最も難しく高度な頭脳の
働きが必要なのかもしれません!


私もこうしたものごとの原理を見抜く力を
身に着られないものかと常々願っておりますが、
はてどうしたものやら・・・


*熱気球の話は、
 創造開発研究所、主任研究員菊池しのぶ氏の書かれた
 「社長のための創造のヒント」
(中央会 Monthly Reports 2006.12)を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 11:43 | コメント (0) | トラックバック

なぜ、mixiとGREEの利用者数に差が生まれたのか?

「GREE」の誕生は、2004年2月29日。

一方、「mixi」は、2004年3月3日。


つまり、両者のサービス開始日はわずか3日しか違いません。

しかし、現在の利用者数は、GREEが40万人ほどなのに対して、
mixiは600万人とも言われ、その差は実に15倍です。


ほぼ同時にスタートを切った2つのSNSにこれほどまでの差が
開いた理由について、伊地知晋一氏は、「CGMマーケティング」
の中で次のように書いています。

“サービス開始当初にあったいくつかのほんの少しの違いが
後に大きな会員数の差になって表れるため、その違いが
見えにくいのだ”


そして、その違いとして次の3点を挙げています。

(1)オピニオンリーダー
(2)双方向参加型のアーキテクチャ
(3)軽さ(0.1秒単位の表示速度の違い)


mixiには、早くから音楽に関するオピニオンリーダーが
多かったそうです。

米国最大の「My space」も音楽関係の
オピニオンリーダーとファンが集まっていたことが急成長の
理由のひとつだと言われていますね。


「双方向参加型のアーキテクチャ」というのは、
オピニオンリーダーとフォロワーの関係が固定的にならず
テーマによって役割が入れ替わることが、
場の活性化に貢献するということのようです。

これは、利用者数の増加につれて、さまざまなコミュニティが
立ち上がることによって実現されていくことであり、
端的にいえば、多種多様なコミュニティが多ければ多いほど
さらに場が盛り上がるという良循環が起きると考えられます。


さて、もうひとつの「軽さ」ですが、
これは、GREEとmixiの雌雄を決する最大の要因だったかも
知れません。

GREEの立ち上げ初期から利用しているZ会の寺西さんは
当時起きたことを生き証人的に語ってくれました。
(寺西さんは、Z会会員の子供、親などを対象とするSNS
「パルティオゼット」を構想、立ち上げた方です)

以下、寺西さんの言葉を許可を得て引用します。

----------------------------------------------------------

2004年3月下旬にGREEに入った私
(その頃の利用者数は約3万人)ですが、
SNS、GREEなんて言葉を知っている人の方が
(Webをちとかじっている人間の中でも)圧倒的に少なく、
また、その頃巷では「ブログ」の方がメディアとして
注目を浴びていたので、Web関係者の興味は

「ブログが商売になる」あるいは

「(ブログを使った)アフィリエイトが効果が高い」

に向かっていたと思います。


必然、「仲間がいなければつまらない」GREE、Mixiがそこまで
活性化するわけもなく、Greeの私の利用は開店休業、Mixiは

「名前は知ってるけどどうせGREEと同じでしょ」

程度でした。
当時はキヌガサも同列でしたね。
どれが秀でていたわけでもなく。


Mixiに入ったのは同年8月上旬で、この時のユーザーが約8万人。

ここまではMixi、Gree利用者数の伸び方が同程度だったと
記憶しています。


3月に3万、8月に8万ですから、私のような「開店休業」
だけど「話題を聞いたからちょっと招待してよ」という人
だけを招待するユーザーがボチ、ボチといる状態
だったんじゃないですかね。


こうしてぼちぼちと競っていた時期に、GREEには問題が
起こりました。

まず1つが、プロフィールなどが検索エンジンに
引っかかってGree利用者じゃなくても見れてしまうことが
顕在化。


そして、これ以上に問題だったのが、

「Gree、重~~~い!」

です。


早い話、ユーザー数の増加により、Greeがなっかなか
開かないサイトと化しちゃったんです。

あほらしいのでMixiを主戦場に徐々に切り替え始めたのが
この年の末です。


で、「知り合いが知り合いを呼ぶ」構造上、
GREEがもたついている間に世の中の情勢が

「ブログに変わる次のもの」

を求めていた。

その情勢に「軽い」Mixiが乗ったんですよね。


また、「ミクシィ」というネーミングとデザイン、
ほとんどが女性の開発チームで(意図的に)開発したと
笠原さんから直に伺っていますが、これもインフエンサー
となりやすい女性の心をガッチリつかんだわけです。

自分の話を申しますと、2005年1月には「どちらか紹介して」
と言われるとMixiにしていました。
(それまではGREEが多かったんですけど)


余談ですが、Z会の「パルティオゼット」
の構想を社内に答申したのがこの時期で、
その答申事例で取り上げたのもMixiの方でした。

まだこの時期、GREEは重かったのと、
素人には淡白な(硬派な)デザインだったのが抵抗感を
強めたようです。


そして、「知り合いが知り合いを呼ぶ」構造のSNSに
圧倒的な差ができました。チャンチャン、です。

ブレイクポイント(=ここで加速した方が勝ち)の
ユーザー数は10~15万人じゃないでしょうかね。


論点をまとめると、Mixiが差をつけた理由は

・重くなかったこと
・「知り合いが知り合いを呼ぶ」構造上、GREEの隙が
 利用者数の増加の加速度をつけるときに致命傷になったこと。
(もっとも、Greeの田中さんは、利用者数の増加にはこだわって
 いなかったようですが)
・「いちげんさん」が入り込みやすいネーミングとデザインに
 したこと

----------------------------------------------------------
(引用終わり)


というわけで、ブレークポイントとなるタイミングで
技術的な問題でGREEがつまづいちゃったわけですね。

これが現在の利用者数に差が開いた最大の原因でしょう。

もちろん、寺西さんが指摘しているように、
ターゲットとデザインの差も目に見えないところで
効いていたんだと思います。

投稿者 松尾 順 : 10:07 | コメント (2) | トラックバック

「売り場」としてのWebサイトデザイン

Webサイトをどうデザインすべきか?

Webサイト構築にかかわってる方なら実感されていると
思いますが、これ難問ですよね・・・


いわゆる「ユーザビリティ(使い勝手)」の高いレイアウトや
構造、見せ方は、ターゲットユーザーや取扱商品の特性などに
よっても微妙に違ってきますので、万能薬的なものがありません。

もちろん、Webサイトデザインのための基本的なガイドラインは
あります。

でも、しばしば、テクニカルな側面に寄り過ぎるというか、
ハウツー的になってしまって、そもそもの狙いや目的が
どこかにいってしまい、瑣末なことにこだわってしまうことが
あります。

そこで、そうならないために応用できるのが、
近年関心が高まってきている

「VI」(ヴィジュアル・マーチャンダイジング)

でしょう。

「VI」は、従来、リアル店舗の売り場づくりのために
開発されてきたノウハウですが、Webサイト、とりわけ
オンラインショップにはとても参考になる視点があります。


たとえば、商品陳列における「サンバ」、つまり3つの場を
意識することは、サイトデザインにとっても有用でしょう。
(日経MJ、2007/01/12、「売れる!陳列の極意(1)」)


「サンバ」の視点では、文字通り
「売り場」を次の3つの場で構成されると考えます。

・「見せ場陳列」
・「探し場陳列」
・「買い場陳列」

これは、顧客の基本的な購買行動にそった商品陳列です。

つまり、顧客は、商品を見て、探して、買う。
この単純だけれども奥の深い顧客行動を意図的にとらえて
陳列に工夫することが重要なのだそうです。


「見せ場陳列」は、提案し演出表現することですが、
テーマ設定を行って明確な提案を行い、顧客をひきつける表現
がポイントとなります。


次の「探し場陳列」では、探しやすいことは基本として、
探す楽しみを与えることが重要です。

実は、純粋なユーザビリティの考え方では、
すばやく探し物が見つかることが重視されます。

「探す楽しみ」という発想はほとんど出てきません。

前述したように、ターゲットユーザーや商品特性によって
異なってくるにしても、高度な機能性だけでなく、
利用する楽しさのような感覚的・感情的な側面をWebサイトでも
もっと大切にする必要性を感じますね。


そして、「買い場陳列」では、実際に購入を決定する場であり、
顧客に余分な情報を入れない環境整備が重要。

全く異なる陳列、目移りする混在した陳列、商品の魅力が
半減される雑多な陳列などは避けなければなりません。


この3つの場、「サンバ」を意識した売り場づくりができれば、
顧客は楽しい気持ちで売り場を回遊してくれ、購入率向上にも
結びつくのだそうです。


実際、リアルな店舗に限らず、思わず何か買いたくなってしまう
オンラインショップには、この「サンバ」がちゃんと実現
されているように感じますね。

投稿者 松尾 順 : 11:27 | コメント (0) | トラックバック

めんどくさいこと

毎日遅くまで働いていたりすると、

「楽に、手っ取り早く儲けられたらいいなあ・・・」

って思うことありますよね。


でも、自分がお客さんの立場だった時に、

「楽して手っ取り早く儲けたい」

と考えている人から、何か買いたいと思いますか?


単に「いいカモ」にされているだけに感じられて、
決して買いたいとは思わないはずです。


とはいえ、ネット上には、

「楽に手っ取り早く儲かるノウハウ」

を言葉巧みに売りまくって、

「楽に手っ取り早く儲けてる人」があふれていますけどね。

(「情報起業」自体を否定する気はありません)


実のところ、短い間だけなら、
楽に手っ取り早く儲けることは可能だと思います。

しかし、一度カモにされたと感じたお客さんを
リピーターにすることは難しい。

つまり、継続性のある事業にすることはできないのが現実。


ですから、安定的に収益の上がる息の長いビジネスを
展開したかったら、

やるべきことは、

「お客さんが喜ぶことで、他の人、会社がやりたがらない、
 手間のかかるめんどくさいことを続けること」

だと思います。


昨日の「CRMリテラシー」で紹介した酒屋さんがやっていること
は、毎月ニューズレターを書くというめんどくさいことでした。

結果として、固定客がつきビールが正価で売れる。


また、カリスマ販売員として有名な、安達太陽堂の長谷川桂子氏
は、腱鞘炎を我慢しながら、毎年累計2万通の手紙をお客さんに
書いています。

通信販売企業の中には、購入客に対して手書きの礼状を書く
専任スタッフを数人雇っているところもありますよね。


沖縄の「小福」という小料理屋のおかみは、
毎日、ちょっとした言葉を色紙に書いてお手洗いに貼っていました。

毎日、新しい言葉を考えて色紙を書くのはとっても面倒なことだと
思いますが、それを知ってるお客さんは、その色紙見たさに
繰り返し行きたくなるのです。(料理もおいしいですけどね)


どの業界であれ、今、トップセールスマンの地位にいる人は、
はたから見れば実に非効率的で面倒な顧客サービスを
徹底してやっています。

だからこそ、お客さんから全幅の信頼を得て、
ほぼ口コミだけで安定的な業績を残してきています。


私は確信しているんですが、

一見お金の無駄に思える面倒なことをやり続けることこそが、
長期的に儲かり続ける唯一の方策であること、

そして

このことを真に理解し、実行できる人や企業だけが
今の厳しい環境で生き残っていけるのではないでしょうか?


ここまで書いてきてふと気づいたのですが、
ひょっとして、「CRM」の考え方が理解できない人、
つまりCRMリテラシーが低い人は、
面倒くさいことをやりたくないから、(無意識に)
理解できないふりをしてるのかも知れませんね。

投稿者 松尾 順 : 07:50 | コメント (3) | トラックバック

CRMリテラシー

CRM(Customer Relationship Management)

の考え方を実務に落とし込む際の基本指針は、

「顧客の立場で考えること」

に尽きます。


ただ、これだと、まだピンとこないですよね。


そこで、もう少し具体的な指針に言い換えるとすると、

「顧客が‘購入’という自律的な行動を起こしてもらうために、
 こちらは何をすべきなのかを考える」

となります。


ここで強調したいのは、このCRMの基本指針(パラダイム)は、

「商品を‘販売’するために、こちらを何をすべきかなのかを
 考える」

という古い基本指針(パラダイム)とは対極にある考え方で
ある点です。


ですから、どんなに「顧客第一主義」とか「顧客満足度最大化」
などと、経営理念で高らかにうたっていても、
顧客接点、つまり現場の人たちの考え方が古いパラダイムのまま
だったとしたら、その企業はCRMを実践しているとは言えません。


実際、CRMがお題目のままで終わっている企業がいまだ
多数派のように感じます。


どうやらその原因は、そもそも冒頭に示した

「顧客が‘購入’という自律的な行動を起こしてもらうために、
 こちらは何をすべきなのかを考える」

ことが結果として販売につながることが理解できないための
ようなんですね。


私は、これを

「CRMリテラシーの欠如」

と呼んでいます。


このCRMリテラシーの欠如が如実に現れているエピソードが、

「感性」のマーケティング
(小阪裕司著、PHPビジネス選書)


にありました。


ある地方の小さな酒屋では、アサヒスーパードライや
キリン一番搾りなどのナショナルブランドのビールが
「正価」で売れているそうです。

近くにあるディスカウントショップとの価格差は
ケース単位だと1500円になるにも関わらず、
この酒屋の顧客は喜んで買っている!


小阪氏が、この酒屋の話を日経MJのコラムで書いたところ
ぜひ視察したいという問い合わせが殺到。

価格競争に悩まされている某業界団体の視察を受け入れて
もらったそうです。


ところが、遠方からわざわざやってきた人々が
店主にする質問が、

「おたくでは、私どものような価格競争の激しい
 ナショナルブランドを正価で売るテクニックをお持ちだと
 聞いたんですが、教えてくれませんでしょうか?」

という「本質」を見誤ったもの。


なぜなら、その酒屋は、小手先のテクニックで
売っているわけではなかったのです。

店主がやっていたのは、「顧客との関係づくり」。

CRMの基本思想であり、CRMリテラシーが高い方にとっては
なんら理解に苦しむことはありません。


でも、この業界団体の方々はわからない。

店主が関係づくりのための方法として毎月発行している
ニュースレターを見せたところ、

「なぜ、この手紙を出したら、ビールが定価で
 売れるんでしょうか?」

と首をひねっている。


こうしたCRMリテラシーの欠如が、

販売するためには、やっぱり安くするしかない

という考え方しか導き出せず、
結果として、自分たちの首を絞めていることに
気づくことができていないわけです。


あなたの業界、あなたの会社のCRMリテラシーは
どの程度でしょうか?

投稿者 松尾 順 : 18:00 | コメント (0) | トラックバック

河ふぐ

年末に「ラ・フランス」をいただきました。
西洋梨が大好きな私は狂喜乱舞!(笑)

食べごろになるまで1週間以上かかったので、
つい数日前に初めて食べたばかりですが、やはり最高でした!


さて、以前、このメルマガ&ブログでも書きましたが、
「ラ・フランス」は、以前は「みだぐなす」と呼ばれてました。

・みだぐなすの話

「みだぐだなす」は、

「みっともない梨」

という意味の方言だそうですが、その意味にふさわしく、
なんともさえない名称です。

しかし、「ラ・フランス」に名称を変えたことが、
贈答品としても使える高級フルーツとして扱われるように
なった要因だと言われています。

これは、「フランス」という言葉が持つ、

高級感やおしゃれなイメージを

うまく借用している典型例でしょう。


最近、同様のネーミングの妙の例を知りました。

それが、

「河ふぐ」

です。


「河ふぐ」って何のことだかご存知ですか?

飛騨高山河合町で養殖している

「飛騨清流なまず」

のことです。
(アメリカ原産で、正式名称は
 「アメリカンチャネル・キャット・フィッシュ」)

なまずにはひげがあるので、
キャットフィッシュと英語では言うんでしたよね。


なまずは、西洋梨と同様、見た目はあまり良くありませんが、
味や食感は、ふぐそっくりだそうです。

以前は、そのままストレートに

「なまず料理」

と呼ばれていたそうですが、平成4年に当時の岐阜県知事が、

「高級河ふぐ料理」

と命名されて以来、「河ふぐ」という名称が使われるように
なりました。

平成7年には、下関のトラフグと味の勝負を行ったそうです。


「なまず料理」と言われると、
ちょっと食欲減退しちゃいますが、
「河ふぐ料理」と言われると、いかにも高級そうですし、
食欲そそりますよね。

これも、「ふぐ」の言葉がもつ好意的なイメージを
うまく借用したケースです。


そういえば、サントリーの「銀座カクテル」も、
「銀座」という言葉の持つ高級イメージをうまく
ネーミングに活かしてます。

ただし、単なる名称だけでなく、
銀座千疋屋とのコラボレーションですので、
ちゃんと意味があります。

銀座千疋屋が選んだフルーツの果汁をぜいたくに
使ったカクテル。「プレミアム・カクテル」と
呼ぶにふさわしいネーミングですね。

ターゲットは女性(F1層:20-35歳)かな。

私は試しに一度飲んでみましたが、甘ったるすぎて
ちょっと苦手でした・・・


ネーミングは、いざ自分が考える立場になると、
とても難しいものです。

安易ではありますが、すでに好意的なイメージが
ぶらさがっている言葉を借用するのは、
ある程度効果が見えるだけに採用しやすい手ですね。

投稿者 松尾 順 : 10:23 | コメント (0) | トラックバック

情緒価値重視の製品開発:花王のケーススタディ

優れた製品開発力に基づく高い機能性と品質が強みの「花王」は、
日用品メーカーの中ではダントツの競争力を有し、
24期にわたって増益を続けてきました。
(増益記録は、2006年3月期で途切れましたが)


ただ、消費者から高い信頼を得てはいるものの、
「花王」というブランドには野暮ったいイメージが
つきまとってますよね。面白みがないというか。

このため、イメージが重要な化粧品事業(ソフィーナ)では、
十分な成功を収めることができていません。
(だからこそ、「カネボウ」の化粧品事業を手に入れたかった)


しかし、近年の消費者心理の変化を
花王さんも見逃していたわけではありません。

今の消費者は、毎日の暮らしに密着した「実用品」にさえ、
美しさや心地よさ、楽しさといった感性を刺激する要素を
求めるようになってます。

花王さんでも、数年前から、
社長自ら「情緒性」が重要だと強調してきてました。


この花王の新たな方向性が、
現場レベルで実を結んできたようです。
(日経ビジネス、2007年1月8日号)


たとえば、2006年11月に発売されたハンディタイプのモップ、
クイックルワイパーハンディ」。

従来の商品は、清潔感を出すためにパッケージは緑色。
白いシートをモップの柄にかぶせて使うやり方でした。

しかし、新商品のパッケージは鮮やかなピンク。
モップ部分はオレンジ、猫じゃらしのような
ふわふわした形。見た目がかわいらしく、
思わずなでてみたくなります。


モップ部分をふわふわにしたのは、
その方が、ごみをからめとりやすくなるという「機能性」
の高さもありました。

しかし、それ以上に重視したのは楽しいイメージを
かもし出すこと。

使ってると楽しい、掃除が楽しくなる、
そんな情緒的価値を付加することを狙いました。


このため、おそらく性能の向上とはあまり関係のない

「理想のふわふわ感」

を出すために100回以上も試作しています。


ハンディタイプのモップ市場は、
これまでユニ・チャームのほぼ独壇場だったそうですが、
この新商品投入後、花王のシェアは、最初の1週間で
ユニ・チャームを抜いたようです。
(もちろん、製品自体の魅力だけでなく、
花王の流通力の強さも忘れちゃいけませんが)


日用品メーカーの雄、花王も、
これまでの花王の勝ちパターンとなっていた
「常識の返上」「発想の逆転」に本腰を入れていることが
わかりますね。


ちなみに、製品の価値は、
次の4つの階層で構成されるという考え方があります。
(ピラミッドをイメージすると、
 最下層が「基本価値」、最上層が「観念価値」です。)

・基本価値
 当該製品が有する基本的な品質や機能

・便益価値
 当該製品の使用や消費によって得られる便益

・感覚価値
 当該製品を使用・消費するに当たっての感覚的な楽しさ、
 形態的な魅力

・観念価値
 製品コンセプトそのものが生み出す価値


花王さんの場合、従来の企業文化に根付いた製品開発戦略は、
基本価値と便益価値に最大の力を注ぐものだったんでしょうね。

しかし、近年は、「感覚価値」(=情緒価値)の創造に
より大きな力を入れているというわけです。

投稿者 松尾 順 : 10:56 | コメント (0) | トラックバック

命を賭けたデザイン 完全版

お正月スペシャル(笑)として、1月1日~5日にかけて
産業スパイ小説もどきのストーリーを掲載しましたが、
第1章から通してまとめた完全版をアップしておきます。

*これは、2年ほど前にISIS編集学校の「破」応用コースの課題として
 作成したものです。(一部加筆修正)


*本文中に登場する「デザイン原器」とは、特定企業、ブランドのデザインに
 一貫性・統一感を与えるための「デザインのひな型(プロトタイプ)」です。

*デザイン原器は、メーカーの研究所などに門外秘出扱いで厳重に保管されています。

*これについて書いた記事「感覚優位性」があります。


<登場人物>


●国枝丈治

H電機社長室秘書。

ジョージと呼ばれるナイスガイ。
しかし、その正体は産業スパイである。

31歳。独身。身長180cm。米国生まれ・米国育ち。母親が日本人、父親が米国人
のハーフ。実は父親はCIAのスパイであり、若い頃からCIA的な訓練を受けていた。

20代前半は、米国企業で調査業務をやっていたが、しばらく母親の母国日本で
働きたいと思い、4年前に来日した。一人暮らしのマンションは目黒にある。

そして、H電機社長より、S電機の「デザイン原器」を盗み出すという特命を受ける。

●大友健二

S電機 神奈川技術研究所 主査。

デザイン原器を守る立場にある。30歳、独身、柔道5段。
豪快で愉快な男だが、女性と話すのは苦手。

●作田ひとみ

S電機 神奈川技術研究所 副研究員

S電機の新製品開発者のアシスタント。26歳、独身。
モデルにスカウトされそうになったほどの容姿の持ち主。

●田中智史

S電機 神奈川技術研究所 総務課員 28歳、独身。

S電機の研究所の総務部門勤務。めがねをかけたインテリ風の外見。
実は韓国系電機メーカー、K電機のスパイ。
1年前にS電機にうまくもぐりこむことに成功し、やはりS電機の
「デザイン原器」を盗むことを狙っている。


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命を賭けたデザイン
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第1章:仕組まれた出会い


「おっと、失礼!」

ジョージは、踊っているひとみにわざとらしくぶつかった。

ここは六本木のクラブ。

平日でそれほど混んでいない。ひとみはナンパには慣れているから、
適当にやり過ごそうとしたがジョージの魅力的な笑顔には
逆らえなかった。

出会いはありきたりだったが、ジョージとの機知に富む会話は
楽しかった。


「今までの男たちとは何かが違うわ・・・」

ジョージは、日本人と米国人のハーフという顔立ちもさることながら、
ずっと米国で過ごしてきた。日本語は母親の教育で不自然さはない。

しかし、生粋の日本人とは明らかに違う立ち振る舞いが
ひとみを魅了したのだ。


「ドライブで気分を変えようか?」

ジョージが駐車場から出してきた車はフェラーリ。
フェラーリに乗るのは初めてではなかったが、
乗り手が違うとこんなにも変わるものだということをひとみは知った。


「もう一杯、テキーラ飲む?いつもテキーラしか飲まないのね」

ひとみはジョージに声をかける。ベッドの上のジョージは軽くうなずく。

ひとみのマンションにジョージは頻繁にくるようになった。
そういえば、ジョージがITベンチャー社長であること以外、何も知らない。

ジョージのマンションに連れて行ってもらったこともない。
ひとみはふとそう思ったが、ただジョージと一緒にいられるのがうれしくて
それ以上考えなかった。


「え、デザイン原器を持ち出すって、本気?」

ジョージの真の目的がS電機のデザイン原器だったと知って、
ひとみはやるせないものを感じた。

しかし、いまやジョージを心から愛しているひとみは、
ジョージの計画を手伝うことに躊躇しなかった。


第2章:デザイン原器持ち出し計画


「ずいぶん複雑な構造だね・・・」

ひとみから渡されたS電機神奈川研究所の見取り図を見ながら、
ジョージはつぶやく。


「警備体制マニュアルはこれよ」

ひとみが渡してくれたマニュアルには、
デザイン原器の保管場所までに突破しなければいけない厳重なゲートや、
デザイン原器を取り巻く赤外線センサーの仕掛けが詳細に記されている。


「うーん、仕掛けがわかったからといって、それだけで仕掛けを
突破できるというわけじゃないねぇ・・・」

ジョージはため息をつく。
 
CIA本部でも通用するほどの知識とスキルを持つジョージでさえ、
S電機のデザイン原器を持ち出すのは簡単な仕事ではない。

しかし、彼は知恵を絞り、着々と準備を進めた。


「なんだって、デザイン原器を狙っているやつがいるらしいって?」

大友は部下の報告を聞いて大声を出した。

相手は、自称ITベンチャー社長の国枝丈治という男らしい。
大友は、早速、尾行者をつけて行動を見張るよう指示する。


「ひとみとあいつが付き合っているとは信じられない・・・」

尾行者からの報告をうけて大友は落ち込む。

よりによって、デザイン原器を盗もうとしている奴と、
ひそかに心を寄せている部下の女性が付き合っているとは・・・

もちろん、大友は、ひとみの職場での動きの不自然さには
以前から気がついていたのだったが。


第3章:水面下の戦い


「やっぱり本当だったか・・・」

大友は、ジョージとひとみが楽しそうにカフェで話している様子を
陰から見て、がっくりと肩を落とす。

激しい嫉妬の気持ちが起きる。
二人の関係は、デザイン原器を盗まれるかもしれないという危機感以上に
大友の心を揺さぶった。


「じゃあ、国枝がデザイン原器を盗むとしたらどんな侵入方法を
取るのか、可能性を全部洗い出そうじゃないか!」

大友は、ひそかに招集した社内ミーティングで、
デザイン原器持ち出し阻止の計画を討議する。


「しめしめ、俺の代わりにデザイン原器を持ち出そうとする奴が
現れたか。そいつが持ち出した後に横取りさせてもらう。」

その中には、K電機のスパイ田中智史もいた。


ジョージは、怪しい影がつきまとっているのに気付いていた。
CIAの訓練を受けた彼には簡単なことだった。

「計画がS電機にばれている可能性が高いな・・・」

たとえそうだとしても、計画を中止するわけにはいかない。
もはや後戻りはできない。

ジョージは覚悟を決め、より一層入念に侵入計画を練るのだった。


ひとみもまた、職場での大友のひとみに対する態度が微妙に変化
していることに気付いていた。

「ジョージに言った方がいいかしら・・・」

しかし、ひとみは思い直した。
ジョージなら、たとえ相手が計画を知っていたとしてもきっと決行する。

ジョージはリスクを犯すことに、大きな喜びを感じるタイプの人間だということが
既にひとみにはわかっていた・・・


第4章:研究所侵入


「ご苦労様です!」

S電機本社社員になりすましたジョージは、
他の警備員に挨拶して研究所内に堂々と入っていく。
誰も疑うものはいない。

しかし、監視モニターに写ったジョージの姿を大友は
見逃さなかった。


「いいか、現場を押さえるんだ!」

大友は部下たちに配置につくよう命じた。


「こっちよ」

ひとみに誘導され、ジョージはデザイン原器の保管場所まで走る。
すべて手はずどおりにことが運び、厳重なゲートもくぐりぬけた。

今や、デザイン原器はジョージの手の中にあった。


「そこまでだ!」

大友が姿を現した。
警備員たちが銃を構えてジョージを取り巻いている。

ジョージはスキを見て逃げ出す。
焦った警備員たちは一斉に拳銃を発射し始めた。
ジョージもやむを得ず応戦。研究所内は白煙に包まれた。


「どこだ、あいつはどこにいった!」

ジョージの姿が消えた。
プロのスパイの方が1枚も2枚も上手だったのだ。

ジョージはこんな事態になる場合も事前に想定して、
しかるべき逃走方法を準備していたのだった。

それはひとみも聞かされていなかったことだった。


第5章:本当の勝利者


「ふう、なんとか抜け出せた・・・」

ジョージは、研究所の脇のマンホールから姿を現した。

プロに対抗しようとするのは10年早い、そうジョージは思いながら、
体についた埃を払った。


「そいつを渡しな」

ジョージに銃口を向けた田中智史が叫ぶ。

プロのスパイ同士の対決だ。
ジョージも、田中が同類であることはすぐにわかった。


「そう簡単には渡さない」

ジョージはそう叫んで、草むらに逃げ込んだ。
田中も後を追う。


「ジョージ、こちらにそれ投げて!」

ひとみが叫んだ。
ジョージはデザイン原器をひとみにほうり投げる。

今度は、ひとみを追おうとする田中にジョージが飛びつく。
殴り合い。力はほぼ互角のようだ。なかなか勝負がつかない。


その間にひとみは、デザイン原器を持って車に乗り込んだ。
向かう先は、中国の電機メーカーP社日本本部だ。


「これが、S社のデザイン原器です」

ひとみは、P社幹部にデザイン原器を手渡した。


「ひとみ、君はラッキーだったな」

ひとみは微笑み返した。

「男たちを操るという点については、女の方が上手ですから」


(完)

投稿者 松尾 順 : 08:24 | コメント (0) | トラックバック

命を賭けたデザイン 第5章:本当の勝利者

今回が、産業スパイ小説もどき「命を賭けたデザイン」の最終章です。

前回までを読んでない方はこちらを先にどうぞ。↓

第1章:仕組まれた出会い
第2章:デザイン原器持ち出し計画
第3章:水面下の戦い
第4章:研究所侵入
 
 
 
 
 
第5章:本当の勝利者

「ふう、なんとか抜け出せた・・・」

ジョージは、研究所の脇のマンホールから姿を現した。

プロに対抗しようとするのは10年早い、そうジョージは思いながら、
体についた埃を払った。


「そいつを渡しな」

ジョージに銃口を向けた田中智史が叫ぶ。

プロのスパイ同士の対決だ。
ジョージも、田中が同類であることはすぐにわかった。


「そう簡単には渡さない」

ジョージはそう叫んで、草むらに逃げ込んだ。
田中も後を追う。


「ジョージ、こちらにそれ投げて!」

ひとみが叫んだ。
ジョージはデザイン原器をひとみにほうり投げる。

今度は、ひとみを追おうとする田中にジョージが飛びつく。
殴り合い。力はほぼ互角のようだ。なかなか勝負がつかない。


その間にひとみは、デザイン原器を持って車に乗り込んだ。
向かう先は、中国の電機メーカーP社日本本部だ。


「これが、S社のデザイン原器です」

ひとみは、P社幹部にデザイン原器を手渡した。

「ひとみ、君はラッキーだったな」


ひとみは微笑み返した。

「男たちを操るという点については、女の方が上手ですから」

(完)

投稿者 松尾 順 : 09:26 | コメント (2) | トラックバック

命を賭けたデザイン 第4章:研究所侵入

「ご苦労様です!」

S電機本社社員になりすましたジョージは、
他の警備員に挨拶して研究所内に堂々と入っていく。
誰も疑うものはいない。

しかし、監視モニターに写ったジョージの姿を大友は
見逃さなかった。


「いいか、現場を押さえるんだ!」

大友は部下たちに配置につくよう命じた。


「こっちよ」

ひとみに誘導され、ジョージはデザイン原器の保管場所まで走る。
すべて手はずどおりにことが運び、厳重なゲートもくぐりぬけた。

今や、デザイン原器はジョージの手の中にあった。


「そこまでだ!」

大友が姿を現した。
警備員たちが銃を構えてジョージを取り巻いている。

ジョージはスキを見て逃げ出す。
焦った警備員たちは一斉に拳銃を発射し始めた。
ジョージもやむを得ず応戦。研究所内は白煙に包まれた。


「どこだ、あいつはどこにいった!」

ジョージの姿が消えた。
プロのスパイの方が1枚も2枚も上手だったのだ。

ジョージはこんな事態になる場合も事前に想定して、
しかるべき逃走方法を準備していたのだった。

それはひとみも聞かされていなかったことだった。

(続く)

投稿者 松尾 順 : 09:22 | コメント (0) | トラックバック

命を賭けたデザイン 第3章:水面下の戦い

「やっぱり本当だったか・・・」

大友は、ジョージとひとみが楽しそうにカフェで話している様子を
見て、がっくりと肩を落とす。

激しい嫉妬の気持ちが起きる。
二人の関係は、デザイン原器を盗まれるかもしれないという危機感以上に
大友の心を揺さぶった。


「じゃあ、国枝がデザイン原器を盗むとしたらどんな侵入方法を
取るのか、可能性を全部洗い出そうじゃないか!」

大友は、ひそかに招集した社内ミーティングで、
デザイン原器持ち出し阻止の計画を討議する。


「しめしめ、俺の代わりにデザイン原器を持ち出そうとする奴が
現れたか。そいつが持ち出した後に横取りさせてもらう。」

その中には、K電機のスパイ田中智史もいた。


ジョージは、怪しい影がつきまとっているのに気付いていた。
CIAの訓練を受けた彼には簡単なことだった。

「計画がS電機にばれている可能性が高いな」

たとえそうだとしても、計画を中止するわけにはいかない。
もはや後戻りはできない。

ジョージは覚悟を決め、より一層入念に侵入計画を練るのだった。


ひとみもまた、職場での大友のひとみに対する態度が微妙に変化
していることに気付いていた。

「ジョージに言った方がいいかしら・・・」

しかし、ひとみは思い直した。
ジョージなら、たとえ相手が計画を知っていたとしてもきっと決行する。

ジョージはリスクを犯すことに、大きな喜びを感じるタイプの人間だということが
既にひとみにはわかっていた・・・

(続く)

投稿者 松尾 順 : 10:38 | コメント (0) | トラックバック

命を賭けたデザイン 第2章:デザイン原器持ち出し計画

「ずいぶん複雑な構造だね・・・」

ひとみから渡されたS電機神奈川研究所の見取り図を見ながら、
ジョージはつぶやく。


「警備体制マニュアルはこれよ」

ひとみが渡してくれたマニュアルには、
デザイン原器の保管場所までに突破しなければいけない厳重なゲートや、
デザイン原器を取り巻く赤外線センサーの仕掛けが詳細に記されている。


「うーん、仕掛けがわかったからといって、それだけで仕掛けを
突破できるというわけじゃないねぇ・・・」

ジョージはため息をつく。
 
CIA本部でも通用するほどの知識とスキルを持つジョージでさえ、
S電機のデザイン原器を持ち出すのは簡単な仕事ではない。

しかし、彼は知恵を絞り、着々と準備を進めた。


「なんだって、デザイン原器を狙っているやつがいるらしいって?」

大友は部下の報告を聞いて大声を出した。

相手は、自称ITベンチャー社長の国枝丈治という男らしい。
大友は、早速、尾行者をつけて行動を見張るよう指示する。


「ひとみとあいつが付き合っているとは信じられない・・・」

尾行者からの報告をうけて大友は落ち込む。

よりによって、デザイン原器を盗もうとしている奴と、
ひそかに心を寄せている部下の女性が付き合っているとは・・・

もちろん、大友は、ひとみの職場での動きの不自然さには
以前から気がついていたのだったが。

(続く)

投稿者 松尾 順 : 23:16 | コメント (0) | トラックバック

命を賭けたデザイン 第1章:仕組まれた出会い

新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


1月1日から4日までは、産業スパイ小説もどきの内容をアップします。
これは、2年ほど前にISIS編集学校の「破」応用コースの課題として
作成したものです。
(一部加筆修正)


こんな小説(フィクション)らしきものが、まったくの未経験者でも
それなりに書けてしまうのはISIS編集学校校長、松岡正剛氏が編み出した
編集メソッドのおかげです。


ただし、正直なところ、私の課題作は平均以下のレベル・・・
限られた文字数の中で、心を打つファンタジーを描ける方もいます。

これは「才能」の差ですね。いかんともしがたい!


ともあれ、興味のある方は、ぜひ編集学校の門を叩いてみてください。

今のところ予定ありませんが、
私が師範代としてお相手することがあるかもしれません!


では、

「命を賭けたデザイン」

のはじまりはじまり


*本文中に登場する「デザイン原器」とは、特定企業、ブランドのデザインに
一貫性・統一感を与えるための「デザインのひな型(プロトタイプ)」です。
メーカーの研究所などに、門外秘出として保管されているものです。

これについて書いた記事「感覚優位性」があります。


<登場人物>

●国枝丈治

H電機社長室秘書。

ジョージと呼ばれるナイスガイ。
しかし、その正体は産業スパイである。

31歳。独身。身長180cm。米国生まれ・米国育ち。母親が日本人、父親が米国人
のハーフ。実は父親はCIAのスパイであり、若い頃からCIA的な訓練を受けていた。

20代前半は、米国企業で調査業務をやっていたが、しばらく母親の母国日本で
働きたいと思い、4年前に来日した。一人暮らしのマンションは目黒にある。

そして、H電機社長より、S電機の「デザイン原器」を盗み出すという特命を受ける。

●大友健二

S電機 神奈川技術研究所 主査。

デザイン原器を守る立場にある。30歳、独身、柔道5段。
豪快で愉快な男だが、女性と話すのは苦手。

●作田ひとみ

S電機 神奈川技術研究所 副研究員

S電機の新製品開発者のアシスタント。26歳、独身。
モデルにスカウトされそうになったほどの容姿の持ち主。

●田中智史

S電機 神奈川技術研究所 総務課員 28歳、独身。

S電機の研究所の総務部門勤務。めがねをかけたインテリ風の外見。
実は韓国系電機メーカー、K電機のスパイ。
1年前にS電機にうまくもぐりこむことに成功し、やはりS電機の
「デザイン原器」を盗むことを狙っている。


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命を賭けたデザイン 第1章:仕組まれた出会い


「おっと、失礼!」

ジョージは、踊っているひとみにわざとらしくぶつかった。

ここは六本木のクラブ。

平日でそれほど混んでいない。ひとみはナンパには慣れているから、
適当にやり過ごそうとしたがジョージの魅力的な笑顔には
逆らえなかった。

出会いはありきたりだったが、ジョージとの機知に富む会話は
楽しかった。


「今までの男たちとは何かが違うわ・・・」

ジョージは、日本人と米国人のハーフという顔立ちもさることながら、
ずっと米国で過ごしてきた。日本語は母親の教育で不自然さはない。

しかし、生粋の日本人とは明らかに違う立ち振る舞いが
ひとみを魅了したのだ。


「ドライブで気分を変えようか?」

ジョージが駐車場から出してきた車はフェラーリ。
フェラーリに乗るのは初めてではなかったが、
乗り手が違うとこんなにも変わるものだということをひとみは知った。


「もう一杯、テキーラ飲む?いつもテキーラしか飲まないのね」

ひとみはジョージに声をかける。ベッドの上のジョージは軽くうなずく。

ひとみのマンションにジョージは頻繁にくるようになった。
そういえば、ジョージがITベンチャー社長であること以外、何も知らない。

ジョージのマンションに連れて行ってもらったこともない。
ひとみはふとそう思ったが、ただジョージと一緒にいられるのがうれしくて
それ以上考えなかった。


「え、デザイン原器を持ち出すって、本気?」

ジョージの真の目的がS電機のデザイン原器だったと知って、
ひとみはやるせないものを感じた。

しかし、いまやジョージを心から愛しているひとみは、
ジョージの計画を手伝うことに躊躇しなかった。

(続く)

投稿者 松尾 順 : 11:53 | コメント (0)