観察調査の最前線

20代前半、私はフィールド(現場)調査員として、
関東エリアの小売店を毎日ぐるぐる回っていました。

ダイエー、西友などのGMS、マルエツなどの生鮮スーパーや
コンビニ、ドラッグストア、化粧品店、タバコ屋、酒屋などを
訪問し、店頭を歩き倉庫にもぐりこみ、仕入れ伝票をチェック
して、日用品・雑貨、食料品、飲料、タバコなどの販売数を
調査してくるのです。


業種・業態の違いによる店舗レイアウトの違いや、
商品構成の違い、様々な店頭プロモーションの変化が面白く、
毎日楽しかったものです。


ただ、調査員としてもの足りなかったのは、
どの商品がどのくらい売れているかという「結果データ」は
集めていたのですが、
なぜその商品が売れているかという「理由データ」を
集めていなかったことです。

しばらくして、チラシに商品が掲載されていたかどうか、
また、店頭で「特売」(特別の陳列スペースを設置するなど)
されていたかどうか、といった情報を追加収集するように
なりましたが、それだけでは「理由データ」としては
十分ではありません。

店舗内での消費者の購買行動を把握できればよかったのですが、
そこまではやれなかったんですよね。


さて、この店舗内での消費行動を調べる方法としては、
主に「観察調査」が採用されます。

数年前にベストセラーになった

「なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学」

の著者、パコ・アンダーヒルさんの会社は、
調査員が買い物客の後ろをこっそり尾行したり、
ビデオで撮影して消費者の店舗での行動を記録・分析する
「観察調査」を専門としています。

確か日本でも、同社のノウハウを導入した調査会社が
あったと思います。ただ、年に数回程度やるならまだしも、
継続的にやるには、結構な費用がかかるでしょう。


しかし、ICタグの活用によって、観察調査の一部を
自動で代替できる時代がやってきました。

ICタグは、電子チップを組み込んだ小さな荷札です。

これを商品ひとつひとつに貼り付けておき、ICタグが
発する信号を受信できるアンテナを店頭に設置します。

こうすれば、商品を前にした消費者の行動が把握できる
ようになります。


日経ビジネス2006年2月27日号では、
ICタグ活用の観察調査について、

レコード販売大手の「新星堂」と、
ウォルト・ディズニーのDVD販売部門、
「ブエナビスタホームエンタテイメント」、
コンサルティング大手の「アクセンチュア」

の3社による実験結果が公表されています。

・実験店舗:新星堂赤羽ヨーカドー店。
・実験期間:2005年9月~2006年3月。
・対象商品:ディズニーの旧作DVD。

商品につけられたICタグの動きを棚のアンテナが
捉え、商品が手に取られた回数や時間が分かる仕組みです。


昨年12月までの3ヶ月のデータの分析結果によると、
次のようなことがわかっています。

(1)手に取られやすいのは全6段の棚の上の方から4段目
(2)陳列を頻繁に変更したほうが手に取られる回数が増加
(3)平均7.9回、手に取られれば商品は売れる
(4)複数のタイトルを手に取る客が商品を買う確率は
   1タイトルしか触らない客の1.9倍

ただ、手に取られる回数と売れる回数は必ずしも比例せず、
あまり手に取られなくても売れる商品、逆に手に取られても
あまり売れない商品があるといったこともわかってきました。

この観察調査手法は、店舗のレイアウト、品揃え、商品配置
などに加えて、消費者の興味関心度合いを実際の行動から
推測できるので、「なぜ買うのか・買わないのか」という
理由データとして高い価値がありそうです。


ICタグの単価がまだまだ高いこと、また
商品に貼り付ける手間があるため、
この仕組みの実用化はまだ先になりそうです。

しかし、なんといっても情報収集が自動化できますし、
データも正確、継続的に調査可能ですので、
今後、普及しそうな有望な調査方法ですね。

投稿者 松尾 順 : 2006年03月01日 13:52

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