キャリアとは・・・?

週末なのでテーマ、ちょこっとずらします。

以前、あるキャリア論の講座の最終課題として「私の考えるキャリアの定義」というものを
書きました。今まで公表したことがないので、ここで公表させていただきます。
(知恵市場にも掲載)

「である調」で書いた、ちょっと固めの文章でですがご勘弁ください。

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● 関係性視点でのキャリア

 トム・ハンクス主演の映画「キャスト・アウェイ」は、FEDEXの社員である主人公が、
輸送機の事故によって無人島にたどり着き、それから約4年もの間、
たった一人だけの生活を送る姿を描いた、現代版ロビンソン・クルーソーである。

彼は、遭難するまでは、FEDEXという優良企業の中で順調なキャリアを歩んでいた。
残念ながら、運命のいたずらで、それまでのFEDEXでのキャリアは断ち切られたのだが、
では、無人島での生活の4年間というものを振り返るとき、そこには「キャリア」という
意味合いを与えることはできるだろうか?

 私は、また大半の人が同意すると思うが、無人島の生活に「キャリア」という言葉を
あてはめることはできないと思う。なぜなら、無人島で彼は、ただ生きるためにだけの
毎日を送った。雨水をためたり、魚を釣ったりしたが、それは自分が生きる目的だけ
のための行為であり、「仕事」ではない。したがって、彼は、無人島の生活では、
「生きる」という以上の意味を見出すことができなかった。

彼はそのことに絶望し、自殺を図ろうとしたこともある。(結局、自殺できなかったが)
また、彼はまったくの孤独が耐えられず、遭難時に流れ着いたバスケットボールに
自分の血で顔を書き、'ウイルソン'と名づけて、まるで友人同様に扱った。

 「キャスト・アウェイ」はフィクションだが、私には「キャリア」、あるいは「人間」と
いうものについて深い洞察を与えてくれた。それは、人間は、人との関係、
もっと抽象的な概念でいえば「社会」との関係で自分の存在を確かめる、という点
である。

「キャリア」についても同様である。社会、会社、家族、地域、といった、
なんらかのコミュニティ(共同体)における自分の立場・役割という関係性視点に
おいて、初めてキャリアとう概念が意味を持つ。

 ところで、「キャリア」を形成する中核要素である、「仕事」の本質を考えると、
それは、他者(社会)に対して何らかの価値を提供することによって、
その対価を得る行動である。「対価」は通常金銭だが、よく考えると金銭は
交換手段に過ぎず、生活を送るための衣食住娯楽などが、何らかの形で相応に
満たされればよく、必ずしも金銭である必要はない。

つまり、「仕事」とは、「社会」という人の人との関係性の中で、存在を許される
(生かされる)ための価値の創出行動である。もし、周囲の誰に対しても一切の
価値を与えていないにも関わらず、人並みの生活を送っている人間がいたら、
その人はいわゆる'ごくつぶし'と形容される存在である。そう考えると、
「仕事」というものは、会社勤め、自営業だけでなく、専業主婦の家事や
ボランティアワークなど、明確な金銭的対価を得られないものも「仕事」の範疇に
含めることができるだろう。彼らは、社会の中で受け入れられるにふさわしい
価値を創出しているとみなされるからである。

もちろん、いわゆる生活水準の差は、どんな仕事をやるかによって左右されるのだが、
「仕事」(上記のような広い意味での仕事)を通じて、人は社会の中での自分の
存在意義・存在価値を確かめることができる。

●センスメイキングとしてのキャリア

 「キャリア」というものを考える時、「過去に経験してきた仕事、職歴」といった捉え方を
することを否定するわけではないが、現実にキャリアに悩んで、今どうすればいいのか、
という人にとって、より役にたつであろうキャリアの定義というものを私は提唱したいと思う。

それは、「センスメイキング」、つまり、「意味生成活動」としてキャリアを捉えるという捉え方である。
この場合、意味を生み出す主体は、それぞれのキャリアを歩む本人自身であり、今現在、
そして未来に向けて、仕事に対して「意味」を見出していこうとするプロセスがキャリアである、
と定義したい。ここで、「意味」とは自分の存在意義、もっとわかりやすく言えば、結局のところ
「やりがい」ということになる。

ただ、前述したように「意味」は、基本的に人、社会との関係性の中で生まれるものであり、
またそうでなければ、社会の中での存在意義・存在価値を認めることが困難であるため、
外的基準における仕事の意味をまず考える必要があるだろう。これは、

「この仕事を通じて、自分は社会にどんな役割を果たしているのか」

という質問で明らかになる。この場合、「社会的意義」と言い換えることが可能であろう。
そして、大事なことは、この意味(社会的意義)が自分の価値観、つまり内的な基準に
照らした時、価値を認めることができるか、という評価をすることである。これは、

「この仕事は自分らしさを発揮できているか」

という質問に答えてみることでわかる。

そして、外的基準に照らした自分の仕事の意味(意義)が感じられ、それが
内的基準においても、価値あるものだと認めることができる時、あるいはできるように
なった時、今の一瞬一瞬の時間が輝きのある、充実したものとなる。また、未来は
無限の可能性を秘めたものと感じられるようになる。

 このように、私は、キャリアを今と未来に向けた意味生成活動と定義するが、
内的基準に基づくキャリアの意味は、あくまで自らが能動的に見出すべきもの
である点を強調すべきだろう。外的基準たる社会的意義にはある程度の客観性が
あるが、内的基準は主観的なものである。しかし、生きるということは、自分らしさの
発現であり、己の主観を尊重しなければ、自分でいることはできない。

なお、幼少時の経験や過去の仕事・職歴を振り返ることは、自らの過去の行動から、
帰納的に自分の内的基準、つまり価値観を自己認識するというために役立つ。

投稿者 松尾 順 : 2006年05月27日 18:57

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