「au」のブランド拡張が気づかせてくれること

今日のお話は、

「コミュニケーションターゲット」

の役回りを勘違いすると困ったことになるという事例です。
(日経ビジネス、2006.7.3、特別編集版)


「au」をサービスブランドに据えたKDDIのブランド戦略は、
大成功したと言えますね。

おかげで、王者ドコモに続く2番手の地位を磐石のものと
しましたから。

この成功の最大の牽引力となったのは、
著名デザイナーを採用した「au design project」が
ヒット機種を次々と生み出したことにあるでしょう。


ところが、ちょっと首をかしげてしまうんですが、
KDDIの法人向けの携帯電話サービスには、「au」のブランド名を
昨年(2005年)9月まで冠していなかったそうです。


「KDDIモバイルソリューション」

これが、以前の法人向けサービスの名称。
大変失礼ながら、実に平板で面白みのないネーミングですね。


なぜ、法人向けサービスに「au」を採用しなかったのでしょうか。

それは、個人向け携帯サービスのブランドとして打ち出した「au」
の中心顧客が「若年層」であるのに対し、
法人向けの採用の意思決定者(決裁者)は「中高年層」。

つまり、ターゲットが異なるからという理由でした。


ただ、上記サービスに対する法人客の反応はぱっとしませんでした。

ある顧客からは、

「KDDIさんは、
 法人向けの携帯電話には力を入れていないようですね」

とまで言われてしまいます。


頭を抱えたKDDIは、「au」を使わないという方針を転換、

「Business au!」

というサービスブランドを考案し、展開を図りました。


結果は劇的です。

専用ホームページへのアクセス件数は6倍以上に伸び、
2006年3月期の企業向け携帯電話の新規契約件数は、
前期の1.6倍になっています。

高い認知度と、「先進的」「カッコいい」といった
好意的なイメージを持つ「au」ブランドですが、
他のサービスにこの名称を拡張しただけで、
これほどの効果があるというのは驚きですよね。


さて、昨年まで「au」ブランドの採用を拒んでいた
KDDIさんの勘違いは、

「サービス決裁者=サービス選定者」

と考えていたことにあると思います。


確かに、法人向けサービス導入のハンコを押すのは
中高年の管理職でしょう。

でも、どの企業のサービスを使いたいかという選定は、
現場のヒラ社員(若年層)に任せるんじゃないでしょうか。

たぶん、

「どこのサービスがいいか、検討して稟議書回してくれ」

でしょう。


これ、自家用車を購入する時の契約者(決裁者)は
通常ダンナですが、車種選定権は、
奥さんや子供(影響者)が握っていることが多い
というのと似た構図です。


BtoBの場合、BtoC以上に、
このターゲットユーザーの役回り(決裁者と影響者)や
相互の力関係がわかりにくく、

・コミュニケーションターゲットを誰にするか
・どんな訴求内容とすべきか

といったマーケティング・プランニングで頭を悩ますところです。


「au」の事例も、
BtoBマーケティングの難しさを再認識させられますね。

投稿者 松尾 順 : 2006年07月03日 15:40

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コメント

DMU(Desition Making Unit)の重要性についてですね。
購買意思決定者は誰なのかを洗い出し、各々に対する「納得できる理由」を提示することはマーケティングでもセールスでも基本です。

ただ、BtoCの場合なら、家庭向け商材であればご主人、奥様、場合によってはお子さん達と関係者が少ないのですが、BtoBの場合、意思決定プロセスが複雑だと言われています。

ゲートキーパー(情報窓口)、キーマン(真の使用者)、インフルエンサー(影響者)、ディシジョンメーカー(承認者)・・・最低でもこれぐらいはいますよね。

このauの話はいい事例ですね。

以上、補足なんだか感想なんだか判らないコメントで失礼しました。

投稿者 金森努 : 2006年07月03日 16:57

金森さん、まいど!

とても有益な付加価値情報、ありがとうございました。

>ゲートキーパー(情報窓口)、キーマン(真の使用者)、インフルエンサー(影響者)、ディシジョンメーカー(承認者)・・・最低でもこれぐらいはいますよね。

ほんと、実に複雑ですよね。

投稿者 松尾 順 : 2006年07月03日 17:13

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