開発者側とユーザー側の意識差

マーケティング巧者、小林製薬のネタは、
これまで何度か取り上げてきました。


*インパクトか上品か

*良さそうに見えなきゃ売れないョー


小林製薬は、
ユーザーの潜在ニーズを見抜くことにかけては、
最も優れた会社のひとつです。

それでも、
ユーザーの心に刺さるメッセージを生み出すのは
簡単ではない、ということがうかがえる最新事例がありました。


同社は今年(07年)3月発売の

「ホットクレンジングジェル」

でメイク落とし市場に新規参入しています。

上記製品は、発売1ヶ月で20万本以上を出荷して
年間売り上げ目標4億5千万円の3分の1をすでに達成。
現在も順調に出荷を伸ばしています。
(日経情報ストラテジー、SEPTEMBER 2007)


この製品の開発に当たっては、
SNSを活用して多数の消費者の意見を集め、
パッケージデザインや売り場作りなどに活かしたそうです。


具体的には、昨年(06年)12月、
SNS最大手の「ミクシィ」内に公認コミュニティサイト、

「あっためてつる肌委員会」

を開設しています。

開設後半年(今年5月末)で、
上記コミュニティメンバーは5千人を突破。

小林製薬では、この反響の大きさを考慮して、
コミュニティ開設期間を8月いっぱいまで延長を決めました。


さて、このコミュニティで出されたアイディアのうち、
実際の商品開発に反映されたのは、
パッケージに記載された次のキャッチコピーでした。

「蒸しタオル効果でお肌つるつる」


実は、小林製薬内では当初、

「温かさ」

をキャッチコピーにすべきという声が強かったそうです。

というのも、

「ホットクレンジングジェル」

のウリは、単なるメイク落としではなく、
肌を温めて毛穴を開かせ、毛穴に入り込んだ化粧品まで
落とすことにあったからです。


すなわち、既存他社製品との最大の差別化ポイントは、

「肌を温める」

ということであったわけです。


ところが、
SNSを通じてユーザー500人にサンプル(試供品)を
配って感想を聞いたところ、

“つるつるになって気持ちいい”

という意見が一番多かったのです。


開発者と、ユーザーのこの意識の差に驚きませんか?


開発者側である小林製薬が重視した「温かさ」は、

「機能価値」(規格・仕様)

ですよね。すなわち、「なにができるか」ということ。


しかし、ユーザー側は正直ですね。
女性にとって、とてもうれしい「つるつるになる」という

「便益価値」(ベネフィット)

を実感していた。


小林製薬でさえ、ついつい
自社の強み(機能)を訴求したいという欲求が先立ち、
ユーザーが一番知りたい、

「その製品を使えば、どんないいことがあるのか」

というベネフィットを伝えることを
忘れそうになってしまうというのは、実に興味深いです。


やはり、ユーザーが真に求めているのは、

「ドリル」

ではなくて、

「穴」

なのです。


このケースは、
ユーザーの意見を愚直に聴くことの意義を
改めて感じさせてくれますね。

投稿者 松尾 順 : 2007年07月24日 10:18

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