リアル店舗の存在価値・意味

思考を柔軟にし、新たなアイディアやコンセプトを
生み出す力を伸ばす発想力のトレーニングとして、

「意味の拡張」

というものがあります。
(以前もご紹介したことがあります。文末の記事リンク参照)


これは、一言で言えば、

「ものごとの意味を多面的に考える」

トレーニングです。


以前と同様、具体例として、

「刑務所」

の意味づけの拡張で
説明するのがわかりやすいでしょう。


刑務所の第一義の意味は、

・刑に服すること

ですよね。

しかし、上記以外にも様々な意味づけが可能です。

・3食付のホテル(外出はできないが・・・)
・技能を身につけるところ
・技を継承するところ(盗みの技など・・・)
・規則正しい生活態度を習得するところ
・健康を回復するところ

などなど。


こうして見出した新しい意味の中には、
ユーザーに対し、新しい価値として打ち出せるもの
があるかもしれません。

それらは、新商品・新サービスを生み出すことにも
つながる可能性を秘めています。


ちなみに、この発想方法は、

「ソフトシステムズ方法論」

で使われる方法です。

また、松岡正剛氏が校長を務める

「ISIS編集学校」(編集工学研究所)

でも、類似のトレーニング(「言葉の言い替え」)が
ありますよ。


さて、インターネットが日常生活に浸透し、
オンライン店舗花盛りの現代。

もはやPCやケータイから買えないものはないという今、
リアル店舗の存在価値・意味が段々薄くなってきているのは
間違いないですよね。

実際、店舗を単なる

・ショッピングの場

と意味づけているだけでは、
リアル店舗は、オンライン店舗に勝てません。

もっと別の存在意義・価値を見出し、
それを消費者に訴求する必要がありますし、
頭を絞れば、リアル店舗にはショッピングの場以上の
存在価値・意味を生み出せる可能性が残されています。


このことを気づかせてくれたのが、
鹿児島の阿久根市にある巨大スーパー

「A-Zスーパーセンター」

のドキュメンタリーでした。
(NHK 『ドキュメント にっぽんの現場』)


阿久根市は人口2万5千人。

3人に1人が65歳という高齢化、
そして過疎化が進んでいる地域です。


A-Zスーパーセンターは97年にオープン。
売り場面積5千坪、33万品目を取り扱う超大型店です。
日用品から、「車」まであらゆるものがここで買えます。
しかも24時間営業。

当スーパーは商圏人口の小ささとは不釣合いな大規模さと、
24時間営業という斬新な運営を打ち出したため、
開店当初は無謀と考えられたようです。

しかし、大方の予想に反して大成功を収め、
以前から流通業界では有名な存在でした。


このスーパーの基本的な存在価値・意味は、

ここに来ればほぼなんでも揃う

という便利さにあることは間違いありません。

しかし、ショッピング以外の様々な意味を
見出している人もいるのです。


時々やってきては、
日中ずっとテレビ売り場でテレビ番組を
見ているおじさんがいます。

この人は一人暮らしのようです。
スーパーにいると寂しくないのだそうです。

必ずしも知り合いに会うわけではないけれど、
周囲を行き交う他の買い物客を感じることができる
からです。

彼にとって同スーパーは

「寂しさを紛らせる場」

になっています。


また、この店では、10時、11時過ぎに
まだ小さい子供や赤ちゃんを連れた家族客が
やってきます。

地方の賃金水準が低いせいでしょうか、
共働きが多いため、日中に買い物する余裕が
ないことが理由ですが、それだけではなく、
子供と触れ合う貴重な時間になっているのだそうです。

深夜にやってくる家族にとって、
同スーパーは

「家族団らんの場」

になっていました。


中高生も、夕方以降入り浸っています。
コンビニさえほとんどない地域なのです。

彼らにとって同スーパーは、自宅以外で

「仲間たちとダベる場」「暇つぶしの場」

となっていました。


長年住んでいる人も多い地域ですから、
買い物をしていると知り合いにもよく会います。

20年ぶりの旧友にばったり遭遇する
ということもあります。

同スーパーは、

「人々の交流の場」

ともなっていました。


オンライン店舗は確かに便利です。

でも、便利さでは勝てなくても、
リアル店舗の良さ・強みはまだまだいくらでも
見出せるなあと思ったのでした。


『意味の拡張』

*ISIS編集学校

投稿者 松尾 順 : 2008年05月21日 10:26

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コメント

まつおっちさん
まいどです!
JRも国鉄から民営化し、「列車」をひと・ものを運ぶという定義から、楽しい時間、空間と一緒に・・・となりかわってきましたね。
駅もそうですね。「ひと・ものを列車で運ぶための集配所」から、ひとがあつまり、楽しい空間をすごせる場所となってきましたね。

それにしてもいまの東京駅は・・・・ですけど。
考え方はいいんだけど、コンセプトがばらばらのような・・・
でもまあ、まだ工事中だから、楽しみに竣工を待ちましょう。

投稿者 しがっち : 2008年05月24日 07:18

しがっちさん、まいど!

東京駅はずいぶん変貌しつつありますね。
どうなるんでしょうか、この先。

投稿者 松尾順 : 2008年05月24日 13:11

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