ビジョナリーハンドブック(1):ビジョナリーのパラドックス

ビジョナリーハンドブック(The Visionary's Handbook)は、

「そもそも世の中は矛盾だらけである」

ということを大前提に置いています。

言い換えると、

「この世の中に、絶対的な真理や正解はない」

ということです。


もちろん、「特定の瞬間」や「特定の場所」といった
限定条件付きであれば、

一時的な真理や正解

がありえるかもしれません。

しかし、常に状況・環境が変化し続けているため、
いつでもどこでも、常に通用する真理や正解といったものは
存在しえないのが現実の世界でしょう。


だからこそ、
自分(自社)はこうした前提を踏まえた上で、

状況・環境の変化に応じて最善の選択をし続けること

が必要になってくるわけですね。


さて、ビジョナリーハンドブックが示す

9つのパラドックス(矛盾)

のうち、最初に説明されているのが

「ビジョナリーのパラドックス」

です。


ちなみに、「ビジョナリー」は、日本語では

「先見の人」あるいは「予見の人」

と訳せるでしょうか。


ビジョナリーのパラドックスの第1番目、
それは次のようなものです。

“あなたが描くビジョン(未来像)が、
 より確かな真実(Truth)になればなるほど、
 それは、単に現実の延長で未来を語っているに
 すぎない。”


同書の著者らは、
未来について書かれた本の多くは、

「想像力の失敗作」(failure of imagination)

とこきおろしています。


なぜなら、現在すでに起こりつつある変化を踏まえただけの
ビジョンを語っているに過ぎないことが多いからです。

例えば、世界がネットワークでつながり、
リアルタイムの情報交換ができるようになるというビジョンは、
今日のインターネットの原型である

「ARPANET」

が30年以上も前に構築された瞬間から始まった変化を
敷衍すれば、簡単に予見できたことでした。

こんなビジョンは、未来における変化を見越すという
本来の意味での

「予見」

としてはそれほど価値のあるものではありません。
(私としては、こうしたビジョンも十分に役に立つと
 思いますが・・)


現在の延長線をはみだす多様な未来像を描けてこそ、
真のビジョナリー(先見の人)と呼ぶことができるでしょう。

しかし、これは言うは易し、実際には極めて難しい・・・


もしあなたの予見が確実なものになりつつあったとしたら、
それはもはや予見ではなく、現実に起こりつつある変化を
語っているにすぎないという認識が必要でしょう。


では、2つめのビジョナリーのパラドックスを紹介しましょう。

これは、「イノベーション」への取り組みの難しさを
説明しているものだと言えます。


“あなたが未来をより正しく予測できるようになればなるほど、
 さまざまな面で、現在(の経営)を不安定にさせていく”


例えば近年、コダックや富士フィルムなどのフィルムメーカーは、
デジタルカメラの普及によって、従来の「銀塩フィルム」は、
ごく一部の利用者にのみ必要とされるだけの

「過去の製品」

になってしまうという予測が確実になればなるほど、
未来の技術であるデジタルイメージング関連の技術の
開発と製品化に力を入れざるを得なくなりました。

これは、当然ながらこれまで会社を支えてきた
銀塩フィルム関連製品、関連部門の縮小や人員の配置転換
といった経営・組織の不安定化に対処せざるを得ませんでした。


このように、様々な企業(個人)において、

・将来の収益製品・部門

と、

・現在の収益製品・部門

との間でさまざまな点において利害の対立が
しばしば発生します。

もし、現在の収益製品・部門の力が強すぎると、
次世代製品への移行が遅れてしまい、未来においては
淘汰されてしまうわけです。

こうして消滅してしまった企業はたくさんありますね。

ですから、ビジョナリーとしては、
こうした将来と現在の間で発生するパラドックスを
見逃してはいけないわけです。


ビジョナリーハンドブックでは、
前述した2つ以外にも、いくつかの

「ビジョナリーのパラドックス」

が示されていますが、
最後にあと1つだけ紹介しておきたいのが
次のパラドックスです。

“自分(自社)の将来像がどのようなものであれ、
 その通りになることはないと予想しなければならない”

要するに、

「自分が描いたとおりの未来になることはないと
 最初から覚悟しておけ!」

ということですね。

これは、前回も書いたように、
周囲の環境変化に応じて

「予見」

そのものをしばしば見直すことの重要性を示唆するものであり、
また、予見に依存しすぎることを戒めるパラドックスだと
言えそうです。


そもそも、未来を予見することは、
未来がどうなるかを的中させることが
最大の目的ではありません。

極端な話、予見が外れてもいいのです。


『未来学』の著者、根本昌彦氏が主張しているように、
未来を予見することは、

“現在の条件を元に、未来のあらゆる可能性を考えること”

であり、

“将来の危機を回避するためや、未来を創造するためのもの”

だと言えるでしょう。


『The Visionary's Handbook:Nine Paradoxes That Will Shape
The Future of Your Business』
(Watts Wacker,Jim Taylor,Howard B. Means著,Harperbusiness)

・ハードカバー

・ペーパーバック1
・ペーパーバック2


*現在は、出品者からしか手に入らないようです。


『未来学』(根本昌彦著、WAVE出版)

投稿者 松尾 順 : 2009年01月06日 16:12

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コメント

まつおっちさん
まいどっ!


「そもそも世の中は矛盾だらけである」

だから、その矛盾を「なんとかうまくやる」

のが優れたマネジャーの資質であると加護野先生が申しておりますです。

投稿者 SHIGACCHI : 2009年01月07日 22:55

しがっちさん、まいど!
今年もよろしくお願いします。

おっしゃるとおりです!

ただ、現実には矛盾を認めたくない人々も
相当数いらっしゃいますけどね。

投稿者 松尾順 : 2009年01月08日 08:52

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