裁判員になる方へ・・・目撃証言の信頼性

まもなく(09年5月21日から)、

「裁判員制度」

がスタートしますね。

ひとことで言えば、
米国の「陪審員制度」のような仕組みです。
(もちろん同一ではありません)


最高裁判所のWebサイトでは、
「裁判員制度」について次のように説明されています。

--------------------------------

裁判員制度とは、国民の皆さんに裁判員として
刑事裁判に参加してもらい、被告人が有罪かどうか、
有罪の場合、どのような刑にするのかを裁判官と一緒に
決めてもらう制度です。

---------------------------------

従来、刑事裁判は、
裁判官3人だけで評議し評決していました。

しかし、裁判員制度の実施後は、
裁判官3人に加えて、国民から選ばれた裁判員6人
の合計9人で、評議・評決をすることになります。


裁判員候補者としては、
社会人のほとんどの人が対象となりますね。

もし裁判員候補者に選ばれたら、
所定の理由がない限り辞退することはできません。

ですから、いつかは自分も裁判員になる日が来るかも
しれないという、心の準備はしておいたほうがいいでしょう。


とはいえ、実際裁判員に選ばれて、裁判に参加する際、
結構つらそうなのは、裁判員制度の対象となる刑事裁判は、
殺人、強盗致死傷、傷害致死、危険運転致死などの凶悪犯罪
が中心となることです。

ですから、裁判によっては、
「死刑」を宣告するということもありえるわけです。

たとえ、「死刑」が、被告人が犯した罪に対する
当然の報いであったとしても、人の命を奪うという
決定を下すのは気が進まないことでしょう。


さて、裁判員となれば、事件にまつわる、
さまざまな証拠物件や証言の信頼性を
慎重に判断しなけれなりませんよね。


現場に残されていた物的証拠や指紋、
DNA鑑定など結果は、目に見える明白な事実ですから、
それほど判断に苦しむことはないと思います。
(DNA鑑定の結果が間違うこともありますから、
 100%信頼できると言えないにしても・・・)


しかし、目撃証言は、
目撃者の「記憶」に依存するため、
相当の注意が必要でしょう。

法廷に立った目撃者が、

「私は犯人の顔をはっきり見ました。あいつが犯人です。」

などと自信たっぷりに証言したとします。

おそらく私たちの多くは、
目撃者がそこまで確信を持って言うのなら
間違いないだろうと考えてしまいそうです。


しかし、人の記憶がいかに頼りにならないか、
また、過去の記憶というものは、無意識に
創作されてしまう場合もあることが、
心理学等の研究で検証されているのです。


実際、過去の裁判のうち、
目撃証言が決め手となって有罪判決が下されたものの、
後に真犯人が現れ、無罪となったケースが相当数あります。

つまり、目撃証言は明らかに間違っていたのです。

ということは、真犯人が現れなかったために、
そのまま無実の罪に問われたままの冤罪事件も
あると言えますよね・・・


最後に、心理学者によって行われた
シミュレーション実験を簡単に
ご紹介しておきます。

これは実際の事件に近い状況を
再現してみたものです。


実際の事件とは、
ある政党の本部が時限式火炎放射装置で
攻撃され、炎上したというものでした。

当事件では、残された装置の部品から、
その部品を販売した問屋が割り出されました。

そして、事件から3ヵ月後に
ある問屋が事情聴取を受けた時、
この店で事件が起きた1ヶ月前の某日に
同タイプの部品を購入した客が怪しい
という話をしたのです。

その日応対した店員は、
当日のことを徐々に思い出し、
ついに300人の写真帳から1人の人物を
選びだし、その人物が被疑者となりました。


さて、ミュレーション実験は、
事件発生から数ヶ月も経過した後の店員の記憶が
どの程度信頼できるかを検証するために行われました。

実験協力者(3人)は問屋に電話をかけ、
小売をしてもらえるかを確認した上で
店に出向きます。

そして、名刺を渡し、
品物を現金で購入するのです。

その際、
応対した店員の名前を聞いておきました。

実験協力者はスーツにネクタイのビジネスマン風。
ただし、存在を印象づけるためあえて、左手に
包帯を巻いてもらっていました。

こうして訪問した問屋は、
おもちゃ、スポーツ用品など様々な商品を
扱う125店でした。

さて、それから3ヵ月後、
実験を計画した心理学者らが各問屋を訪ね、
店員に実験の趣旨を説明した後、
3ヶ月前に来た客のことを思い出して
もらったのです。

回答を得られたのは86人の店員でした。

客の性別、年齢、髪型などの特徴について
の平均正答率は43%。

また、事前の電話の有無や販売の様子に
ついての正答率は35%。

3ヶ月前のことにしては
比較的覚えていると言える率ですかね。


しかし、写真帳を見せて、
当日来た客を選び出してもらうように
依頼したところ、86人中、29人は、
もはや顔を覚えていないとして
選ぶことができませんでした。

一方、残りの57人は何らかの写真を
選び出したのですが、なんと正しい写真を
選んだのはわずか8人。

残り49人は、まったく見たこともない人物を
選び出したのだそうです。


つまり、顔写真の正答率は、
回答者全体(86人)をベースに考えると約9%

なんらかの写真を選んだ人(57人)ベースでも、
14%に過ぎませんでした。


記憶は時間とともに急速に減衰しますから、
もっと短い間隔であれば正答率は高くなるでしょう。

しかし、時間が経てば経つほど、
人の記憶は不明瞭になり、間違った答えを出して
しまうことさえあることは忘れてはいけません。


*上記実験の出所:
『「温かい認知」の心理学』
(海保博之編、金子書房)


*裁判員制度(最高裁判所)
http://www.saibanin.courts.go.jp/

*裁判員制度の紹介
http://www.saibanin.courts.go.jp/introduction/index.html

投稿者 松尾 順 : 2009年05月18日 09:20

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