猫缶デザインの革新

最近、

「猫鍋」(ネコ入り鍋)

なるものが、猫マニアの間でブームになってますね。


子猫たちが、空の土鍋に入り丸くなって眠る様子をビデオ撮影、
「YouTube」や「ニコニコ動画」にアップしたら、
一気にブレークした模様。

私も動画を見てみましたが、確かに可愛い・・・
猫好きにはたまらない映像です。

猫に限らず、人・動物の赤ちゃんの寝ている姿って、
本能レベルでの愛情を湧き上がらせる力がありますよね。


さて、「猫鍋」で思い出したのが、
猫缶(ウエットタイプの猫用ペットーフード缶詰)の
パッケージデザインを従来とガラッと変えたら、
売れ行き好調、という話。(日経デザイン、October 2007)


猫を飼ってらっしゃる方ならおわかりになると思いますが、
猫缶のデザインは各社ともほぼ同じようなものですね。

おおむね、缶の上部(円の部分)には、中身の写真
(鳥ササミとか、鮭フレークとか)が表示されています。

そして、側面には猫(バストアップ)の正面写真。


私は20代のころ、
某マーケティングリサーチ会社の調査員として、
あちこちの小売店を回り、ペットフード製品の在庫調査を
やっていたのですが、最近の製品のデザインも当時とほぼ同じ。

変わりばえのしないデザインなのに改めて驚きました。


しかし、マルハ系列のペットフード会社、アイシア(株)
では、今年3月発売した新製品、

「Miaw Miaw(ミャウミャウ)」

で、子猫が目をつぶって幸せそうに眠っている写真を
缶上部に大きくフィーチャー。

一方、中身の写真は、缶側面に小さく表示するという
従来とは異なるデザインを採用しています。

*「Miaw Miaw(ミャウミャウ)」ブランドサイト


銅製品の市場投入時は、
流通から「売れるのか」と心配する声が上がったそうですが、
アイシアの開発担当者によれば、

「ここ数年で発売した新製品の中で最も良く売れている。
 こちらの予想値も超えている」

ということで、9月1日からはドライフードなど、
商品ラインアップを拡充しています。


よく考えてみれば、猫が自分で店に行って、
猫自らパッケージを見ながら、猫缶を選ぶわけでは
ありませんよね。


お店で猫缶を買うのは人間、飼い主です。

中身の「鳥ササミ」などの写真を大きく見せたからといって

「おいしそう!」

と思って選ぶわけではありませんよね。


私がコンビニで、酒のつまみにと

「ホテイのやきとり缶」

を買うのとは違います。(笑)


猫好きの飼い主が店頭でぱっと目を惹かれる、
そして、思わずしげしげと眺めたくなる
ミャウミャウの猫缶のようなデザインが、
猫缶の本来あるべき姿だったのかも知れません。


さて、ミャウミャウの成功を見た
競合他社はどんな手を打ってくるのでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 11:41 | コメント (0) | トラックバック

Webサイトのユーザビリティ・・・ローカルナビの位置


埼玉県八潮市にあるステンレス容器メーカー、

日東金属工業株式会社

のWebサイト、まず見てもらってもいいでしょうか?


このサイトは、中小製造業のネット活用を支援する
NCネットワークの「エミダス・ホームページ対象2006」の
グランプリを受賞しています。

さすが「グランプリ」を受賞しているサイトだけに、
全体的によくできていますよね。


ただ、私が着目したのは、右サイドに置いてある

「ローカルナビゲーション」(ローカルナビ、以下同様)

です。

ここには、生産工程や主要製品等が表示してあります。


一般に、ローカルナビの位置は、
「右サイド」じゃなくて、「左サイド」ですよね。


このサイトのローカルサイトの場合は、
右側に置いてあったので「おやっ?」と思ったわけです。

ただ、このローカルナビゲーションは、
メニュー毎に項目が変わるわけではないので、
正確にはローカルナビゲーションではなく、
広告的な位置づけとして右側に置いてあるのかもしれません。


続いて、私の古巣のWebサイトをご覧ください!

株式会社電通ワンダーマン

こちらは、先日サイトリニューアルをしたばかりですが、
こちらのローカルナビも右サイドに置いてあります。

つまり、このサイトの場合も一般的な位置とは反対側です。


実は以前から、個人的にはローカルナビは
右側に置いてある方が使いやすいと思ってました。

というのも、ページのスクロールのために、
カーソルは大体、画面の右側に待機させてますよね。

だから、ローカルナビゲーションは右サイドに置いてあった方が
カーソルの移動が少なく楽です。

これが、左サイドに置いてあると、ローカルナビに
行くために画面を横切らなければならなくなりますので、
結構面倒です。

あなたは、どう思いますか?


サイトのユーザビリティ(使い勝手)を
高めるための法則のひとつは「前例に従え」です。

過去のサイトで一般的に採用されてきたレイアウトに
準拠すれば、ユーザーが戸惑うことがないからです。

ですから、ほとんどのサイトで、
ローカルナビゲーションが左サイドに置いてあります。

もちろん、ローカルナビゲーションを左サイドに置くのは、
可変サイズ対応とか、フレームを使用する場合など、
ちゃんとした理由があってのことでしたが。

ただ、左サイドに置かなければならない必然性があればともかく、
そうでなければ、前例にとらわれず、よりユーザビリティの優れた
デザインを考えてみるというのも必要だなあと、日東金属工業や
電通ワンダーマンのサイトを見て思った次第です。


まあ、ローカルナビの位置なんてそれほど重要ではないことです。

でも、サイトの使い勝手の良し悪しは、
結局、このような細かい点を改善するかどうかの積み重ねで
決まってきます。

投稿者 松尾 順 : 09:33 | コメント (5) | トラックバック

「キリン・ザ・ゴールド」は定番化するか?

今日もデザイン寄りの話です。

なお、私はデザインの専門家ではありません。

偉そうなことを書き散らしてきてはいますが、
実態はたいしたことない・・・(^_^;

デザインについては、あくまで私も勉学中の身。

ですから、「それは違うでしょう、松尾!」などと、
ぜひいろんな方の反論をお待ちしております。


さて、全国のビール好きの皆さん、
(そうでない方、すいません)

3月20日発売の「キリン・ザ・ゴールド」はお試しになりましたか?

→「キリン・ザ・ゴールド」ブランドサイト

このビールは、

「隠し苦味」

というのが最大のウリです。
ただ、この意味は、Webサイトの説明を読んでもよくわかりません
でしたが・・・


実際飲んでみた感想として申し上げると、

「爽快感のある苦味」

麦芽100%ですし、結構いける!と思いました。


しかしながらこの新ビール、売れるでしょうか?

発売当初はそれなりに売れるとしても、果たして
「定番化」できるでしょうか?


私は、「ちょっと難しいかな」と感じています。


味はまあ確かにおいしいけれども、際立った個性はありません。
つまり、「味」だけでリピートは得られないように思います。

一方、キリンさんの販売力には定評ありますから、
これはOKとして。


引っかかるのはパッケージデザインですね。

写真より、実物を手にとってもらうとわかりますが、
全体的にとてもおとなしい。「ビールらしくない」顔つき。

他のビールは、おおむね派手な色使いで、ごちゃごちゃ
文字が入っていますが、それと逆路線なんですよね。


でも、「上品さ」はあるけれど、か細い印象を与えます。

結果として、店頭で

「これ飲んでみたい」

というワクワク感、シズル感を与えることができていない。


特に、缶上部の「マット(つや消し)な薄い金色」が
こんな弱い印象を生み出しているように思います。


実は、この金色、販売直前まではピカピカの派手な金色
でした。

ところが、女性社員から、

「大阪のおばちゃんが身に着けていそうな金色に見える」

と指摘されて、きゅうきょ、この薄い金色に変更したのです。

この変更は果たして適切だったのか・・・


このパッケージデザイン、
キリンでは、昨年夏にデザイン会社数十社に声をかけ、
500案もの提案を受けたそうです。
(日経デザイン、April 2007)

その結果選ばれた今回のデザインの基本方向は

「ビールらしさをいかに払拭するか」

でした。


そして、日経デザインの記事に書かれているのですが、
このデザインにおいて最もチャレンジングな点は、

「店頭での目立ち具合よりもむしろ、
 手に取り部屋に置かれた時の雰囲気にマッチするかを
 重視したこと」

なのです。

ですから、キリンさんとしては、
私が指摘するような、店頭での「引きの弱さ」は
織り込み済ではあるんですね。

さて、このチャレンジは成功すると思いますか?


補足として、日経デザイン誌が行ったアンケート調査結果
(包装向上委員会)の一部をご紹介しておきます。

調査結果を見ると、ゴールドに対する評価は高いですね。

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*写真(パッケージデザイン)を見て「キリン・ザ・ゴールド」を
 飲んでみたいと思いますか?

  ・とても飲んでみたい(31.3%)
  ・飲んでみたい(59.4%)
  ・飲んでみたくない・ぜんぜん飲みたくない(9.3%)


*4種類のビール(スーパドライ、ゴールド、一番搾り、ラガー)
 の中でパッと見て、どれを一番飲んでみたいですか?

  1位:ゴールド(40.4%)
  2位:一番搾り(26.3%)
  3位:スーパードライ(22.0%)
  4位:ラガー(11.3%)

 (注)この回答は注意が必要です。
    発売前の調査のため、回答者はゴールドを飲んだことが
    ありません。自由回答を見ると「試してみたい」という
    ものがありますので、ゴールドに対する回答は割り引いて
    評価する必要があります。

 (注)本筋と関係ないですが、「ラガー」は人気ないですねぇ!


<調査概要>
・調査対象者:20代、30代、40代、50代、60代以上、
 それぞれ60名(男女半々ずつ)、合計300名
・調査方法:インターネット調査
・調査時期:2007年3月上旬

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投稿者 松尾 順 : 10:36 | コメント (0) | トラックバック

記憶にあるデザイン

エレコムのUSBハブ、

「これハブ」

の売れ行きが好調なんだそうです。

年間150万個の市場で、昨年秋以来既に10万個を出荷しています。
(日経産業新聞、2007/04/06)


写真を見ていただくとわかりますが、
電器製品等のコンセントを増やすための「電源タップ」を
連想させる形状です。

もちろん、あえて似せて作ってあります。


エレコム社で同製品のデザインを担当した矢代昇吾氏によれば、


“USBハブはUSBポートにとって、いわば電源コンセントに
 とっての電源タップ。使い方も同じならば形状をそのまま
 似せてはと考えた”


だそうです。

ただし、実際の電源タップは野暮ったいデザインですから、
USBハブはより洗練されたデザインを目指したそうです。


「これハブ」の価格は、通常のものとほぼ同じ。
しかし、従来品と比べるとやや大きめなのがネックです。

PCに接続する際に「邪魔」と感じるユーザーがいるかもしれない
という不安があったようですが、ふたをあけてみたらヒット!


さて、この製品が売れている理由は、
「電源タップ」風の形状以外には考えられませんが、
そもそもユーザーは、なぜ購入したくなるんでしょうか?


この理由を考えている時に思い出したのが、
人工知能研究の第一人者、ロジャー・シャンク教授の言葉です。


“目の前のことを「理解する」ということは、過去の経験と
 なんらか結び付けることができたことを言う”


つまり、人は「新しいこと」に出会った時、
そのままでは「理解」できない。

当然ですね、それまでは未知のことだったわけですから。


そこで、過去の経験と照らし合わせて、

「これは、過去のあれと同じようなものとみなせばいいんだな」

と、既存の枠組みの中に置き換えることでようやく理解できる
というわけです。


「USBハブ」は、10年ほどに登場したばかりの新しい商品で、
いったいどういう機能をもつものなのか、なかなか理解しにくい。


しかし、エレコム社の「これハブ」は、

「以前の電源タップのようなもの」

私たちの過去の記憶にあるデザインを呼び起こし、
その機能が即座に理解できる分かりやすさを実現した。

結果として、購買意欲を刺激することができたのでしょう。


なお、人気ブログ「情報考学」の橋本大也さんは、

「デザインにひそむ<美しさ>の法則」のエントリー

で次のように書いています。

“まったく新しいものなのだけれども、どこかに過去の
イディオムを再利用していることが本物っぽさの正体なのかも
しれない。”

“伝統と断絶したデザインは、斬新だけれども使いづらく
感じることが多い。新しいイディオムは一度、ユーザに
受け入れられると、クラシックになり、次の世代のイディオム
の要素になるのだろう。”

“そう考えると、クリエイターの創造性の魔法のように思える
デザイン技術も、歴史学や社会心理学的な理論で検証できる
体系があるのかもしれないと思えてくる。”


「本物」というのは、要するに
「本家本元」であり、「源流」にあるもの。

つまり、一番最初から存在している物で、時間的には
古いものほど「本物」と感じやすいと言えそうです。


この考え方を敷衍すれば、USBハブにとっては、
同じような機能を持つ「電源タップ」の方が古い。

したがって、電源タップもどきのデザインを持つ

「これハブ」

は、より「本物っぽい」と感じさせることに成功したのかも
しれません。

投稿者 松尾 順 : 09:51 | コメント (0) | トラックバック

迷信:3クリックルール

えーと、あなたは、ひょっとしてまだ

「3クリックルール」

を信じてますか?


「3クリックルール」

とは、

Webサイトを訪問したユーザーが、“3クリック以内”に
目的のページ(コンテンツ)にたどり着けるように
サイト構造を設計すべし

というWebユーザビリティのルールのひとつでした。

「でした・・・」と過去形で書いているのは、
もはや、以前ほど重視する必要のないルールと
考えるべきだからです。


もちろん、ユーザーとしては、できるだけ効率的に素早く
目当てのコンテンツに到達できた方が良いということには
変わりません。


以前は、その解決策のひとつとして

「3クリックルール」

が提唱されたわけです。


そして、具体的なサイトの設計方針としては、
おおむね、

・階層構造を浅くする、また、
・ショートカットをトップページに表示する

ということになりました。
これも間違っているというわけではありません。


しかし、3クリックルールを過度に重視しすぎた結果は、

テキストベースのリンクだらけの
あまり美しくないトップページ(HOME)

の氾濫でした。

いわゆる、Yahooなどのポータル風のページデザイン
に偏りすぎてしまったわけですね。


もちろん、ポータル風ページは、
使い慣れると素早く用が済ませられて便利です。

しかし、ポータル風デザインには

・ぱっと見はごちゃごちゃしていて使いにくそうに感じられる
 (実際、慣れるまでは、どこになにがあるかわからず、
  迷ってしまい、クリック以前に立ち往生してしまう・・・)

・あまりに機能的すぎて、愛着がわきにくい
 (ブランド構築にマイナス)

といった欠点があります。

(ただ、老舗のYahooは、さすがに長年の経験を通じてデザインが
磨き上げられており、上記の欠点をほとんど感じさせませんが。)


そもそも、以前、何度もクリックさせられて面倒だと感じたのは、
クリックの「回数」が問題ではなかったように思います。

むしろ、回線スピードが遅いために、
クリックするたびに新しい画面がじんわり開くのを
待たなければならないということが、
ユーザーのいらいらの原因だったんじゃないでしょうか。


しかし、大多数のユーザーがブロードバンドでアクセスしている
現在のネット環境では、クリックを重ねても、すいすいと
目的のコンテンツにたどりつくことができます。


むしろ、重要なのは、適切な情報構造の設計と、
適切なナビゲーション、わかりやすい見出し(ラベル表示)。

これらがきちんと設計されていれば、
クリック数が多少多くなってもユーザビリティが低下することは
ないと思います。(きちんと検証したわけではないので、
あくまで私の仮説ですが)


また、もうひとつのネット利用環境の変化が、

「3クリックルール」

を無意味なものにしつつあります。


それは、Googleに代表される検索エンジンを経由して、
ダイレクトに目的のページに飛ぶユーザーが増えているという
ことです。

となると、トップページ(HOME)を起点とした考え方である
「3クリックルール」の意義が薄れていくのは
おわかりになりますよね。


もちろん、今でも機能性最優先、ポータル風サイトのデザインが
ベストと考えられるWebサイトもありますが、基本的には、

「3クリックルール」

の呪縛からは解放されましょうね。


ちなみに、「3クリックルール」の有効性については、
2003年ごろから異議を唱える人がいました。

また、Webユーザビリティのグル(先生)、
ヤコブ・ニールセン氏は、

“「3クリックルール」がサイトをだめにする”

と言い切っていますね。
(ニールセン氏のユーザビリティガイドラインには、
 当初から3クリックルールは存在していません・・・)


*参考文献

「新ウェブ・ユーザビリティ -
 Web2.0時代に優先すべき最重要ルール」

(ヤコブ・ニールセン+ホア・ロレンジャー共著、
 エムディエヌコーポレーション

投稿者 松尾 順 : 22:45 | コメント (1) | トラックバック

「売り場」としてのWebサイトデザイン

Webサイトをどうデザインすべきか?

Webサイト構築にかかわってる方なら実感されていると
思いますが、これ難問ですよね・・・


いわゆる「ユーザビリティ(使い勝手)」の高いレイアウトや
構造、見せ方は、ターゲットユーザーや取扱商品の特性などに
よっても微妙に違ってきますので、万能薬的なものがありません。

もちろん、Webサイトデザインのための基本的なガイドラインは
あります。

でも、しばしば、テクニカルな側面に寄り過ぎるというか、
ハウツー的になってしまって、そもそもの狙いや目的が
どこかにいってしまい、瑣末なことにこだわってしまうことが
あります。

そこで、そうならないために応用できるのが、
近年関心が高まってきている

「VI」(ヴィジュアル・マーチャンダイジング)

でしょう。

「VI」は、従来、リアル店舗の売り場づくりのために
開発されてきたノウハウですが、Webサイト、とりわけ
オンラインショップにはとても参考になる視点があります。


たとえば、商品陳列における「サンバ」、つまり3つの場を
意識することは、サイトデザインにとっても有用でしょう。
(日経MJ、2007/01/12、「売れる!陳列の極意(1)」)


「サンバ」の視点では、文字通り
「売り場」を次の3つの場で構成されると考えます。

・「見せ場陳列」
・「探し場陳列」
・「買い場陳列」

これは、顧客の基本的な購買行動にそった商品陳列です。

つまり、顧客は、商品を見て、探して、買う。
この単純だけれども奥の深い顧客行動を意図的にとらえて
陳列に工夫することが重要なのだそうです。


「見せ場陳列」は、提案し演出表現することですが、
テーマ設定を行って明確な提案を行い、顧客をひきつける表現
がポイントとなります。


次の「探し場陳列」では、探しやすいことは基本として、
探す楽しみを与えることが重要です。

実は、純粋なユーザビリティの考え方では、
すばやく探し物が見つかることが重視されます。

「探す楽しみ」という発想はほとんど出てきません。

前述したように、ターゲットユーザーや商品特性によって
異なってくるにしても、高度な機能性だけでなく、
利用する楽しさのような感覚的・感情的な側面をWebサイトでも
もっと大切にする必要性を感じますね。


そして、「買い場陳列」では、実際に購入を決定する場であり、
顧客に余分な情報を入れない環境整備が重要。

全く異なる陳列、目移りする混在した陳列、商品の魅力が
半減される雑多な陳列などは避けなければなりません。


この3つの場、「サンバ」を意識した売り場づくりができれば、
顧客は楽しい気持ちで売り場を回遊してくれ、購入率向上にも
結びつくのだそうです。


実際、リアルな店舗に限らず、思わず何か買いたくなってしまう
オンラインショップには、この「サンバ」がちゃんと実現
されているように感じますね。

投稿者 松尾 順 : 11:27 | コメント (0) | トラックバック

命を賭けたデザイン 完全版

お正月スペシャル(笑)として、1月1日~5日にかけて
産業スパイ小説もどきのストーリーを掲載しましたが、
第1章から通してまとめた完全版をアップしておきます。

*これは、2年ほど前にISIS編集学校の「破」応用コースの課題として
 作成したものです。(一部加筆修正)


*本文中に登場する「デザイン原器」とは、特定企業、ブランドのデザインに
 一貫性・統一感を与えるための「デザインのひな型(プロトタイプ)」です。

*デザイン原器は、メーカーの研究所などに門外秘出扱いで厳重に保管されています。

*これについて書いた記事「感覚優位性」があります。


<登場人物>


●国枝丈治

H電機社長室秘書。

ジョージと呼ばれるナイスガイ。
しかし、その正体は産業スパイである。

31歳。独身。身長180cm。米国生まれ・米国育ち。母親が日本人、父親が米国人
のハーフ。実は父親はCIAのスパイであり、若い頃からCIA的な訓練を受けていた。

20代前半は、米国企業で調査業務をやっていたが、しばらく母親の母国日本で
働きたいと思い、4年前に来日した。一人暮らしのマンションは目黒にある。

そして、H電機社長より、S電機の「デザイン原器」を盗み出すという特命を受ける。

●大友健二

S電機 神奈川技術研究所 主査。

デザイン原器を守る立場にある。30歳、独身、柔道5段。
豪快で愉快な男だが、女性と話すのは苦手。

●作田ひとみ

S電機 神奈川技術研究所 副研究員

S電機の新製品開発者のアシスタント。26歳、独身。
モデルにスカウトされそうになったほどの容姿の持ち主。

●田中智史

S電機 神奈川技術研究所 総務課員 28歳、独身。

S電機の研究所の総務部門勤務。めがねをかけたインテリ風の外見。
実は韓国系電機メーカー、K電機のスパイ。
1年前にS電機にうまくもぐりこむことに成功し、やはりS電機の
「デザイン原器」を盗むことを狙っている。


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命を賭けたデザイン
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第1章:仕組まれた出会い


「おっと、失礼!」

ジョージは、踊っているひとみにわざとらしくぶつかった。

ここは六本木のクラブ。

平日でそれほど混んでいない。ひとみはナンパには慣れているから、
適当にやり過ごそうとしたがジョージの魅力的な笑顔には
逆らえなかった。

出会いはありきたりだったが、ジョージとの機知に富む会話は
楽しかった。


「今までの男たちとは何かが違うわ・・・」

ジョージは、日本人と米国人のハーフという顔立ちもさることながら、
ずっと米国で過ごしてきた。日本語は母親の教育で不自然さはない。

しかし、生粋の日本人とは明らかに違う立ち振る舞いが
ひとみを魅了したのだ。


「ドライブで気分を変えようか?」

ジョージが駐車場から出してきた車はフェラーリ。
フェラーリに乗るのは初めてではなかったが、
乗り手が違うとこんなにも変わるものだということをひとみは知った。


「もう一杯、テキーラ飲む?いつもテキーラしか飲まないのね」

ひとみはジョージに声をかける。ベッドの上のジョージは軽くうなずく。

ひとみのマンションにジョージは頻繁にくるようになった。
そういえば、ジョージがITベンチャー社長であること以外、何も知らない。

ジョージのマンションに連れて行ってもらったこともない。
ひとみはふとそう思ったが、ただジョージと一緒にいられるのがうれしくて
それ以上考えなかった。


「え、デザイン原器を持ち出すって、本気?」

ジョージの真の目的がS電機のデザイン原器だったと知って、
ひとみはやるせないものを感じた。

しかし、いまやジョージを心から愛しているひとみは、
ジョージの計画を手伝うことに躊躇しなかった。


第2章:デザイン原器持ち出し計画


「ずいぶん複雑な構造だね・・・」

ひとみから渡されたS電機神奈川研究所の見取り図を見ながら、
ジョージはつぶやく。


「警備体制マニュアルはこれよ」

ひとみが渡してくれたマニュアルには、
デザイン原器の保管場所までに突破しなければいけない厳重なゲートや、
デザイン原器を取り巻く赤外線センサーの仕掛けが詳細に記されている。


「うーん、仕掛けがわかったからといって、それだけで仕掛けを
突破できるというわけじゃないねぇ・・・」

ジョージはため息をつく。
 
CIA本部でも通用するほどの知識とスキルを持つジョージでさえ、
S電機のデザイン原器を持ち出すのは簡単な仕事ではない。

しかし、彼は知恵を絞り、着々と準備を進めた。


「なんだって、デザイン原器を狙っているやつがいるらしいって?」

大友は部下の報告を聞いて大声を出した。

相手は、自称ITベンチャー社長の国枝丈治という男らしい。
大友は、早速、尾行者をつけて行動を見張るよう指示する。


「ひとみとあいつが付き合っているとは信じられない・・・」

尾行者からの報告をうけて大友は落ち込む。

よりによって、デザイン原器を盗もうとしている奴と、
ひそかに心を寄せている部下の女性が付き合っているとは・・・

もちろん、大友は、ひとみの職場での動きの不自然さには
以前から気がついていたのだったが。


第3章:水面下の戦い


「やっぱり本当だったか・・・」

大友は、ジョージとひとみが楽しそうにカフェで話している様子を
陰から見て、がっくりと肩を落とす。

激しい嫉妬の気持ちが起きる。
二人の関係は、デザイン原器を盗まれるかもしれないという危機感以上に
大友の心を揺さぶった。


「じゃあ、国枝がデザイン原器を盗むとしたらどんな侵入方法を
取るのか、可能性を全部洗い出そうじゃないか!」

大友は、ひそかに招集した社内ミーティングで、
デザイン原器持ち出し阻止の計画を討議する。


「しめしめ、俺の代わりにデザイン原器を持ち出そうとする奴が
現れたか。そいつが持ち出した後に横取りさせてもらう。」

その中には、K電機のスパイ田中智史もいた。


ジョージは、怪しい影がつきまとっているのに気付いていた。
CIAの訓練を受けた彼には簡単なことだった。

「計画がS電機にばれている可能性が高いな・・・」

たとえそうだとしても、計画を中止するわけにはいかない。
もはや後戻りはできない。

ジョージは覚悟を決め、より一層入念に侵入計画を練るのだった。


ひとみもまた、職場での大友のひとみに対する態度が微妙に変化
していることに気付いていた。

「ジョージに言った方がいいかしら・・・」

しかし、ひとみは思い直した。
ジョージなら、たとえ相手が計画を知っていたとしてもきっと決行する。

ジョージはリスクを犯すことに、大きな喜びを感じるタイプの人間だということが
既にひとみにはわかっていた・・・


第4章:研究所侵入


「ご苦労様です!」

S電機本社社員になりすましたジョージは、
他の警備員に挨拶して研究所内に堂々と入っていく。
誰も疑うものはいない。

しかし、監視モニターに写ったジョージの姿を大友は
見逃さなかった。


「いいか、現場を押さえるんだ!」

大友は部下たちに配置につくよう命じた。


「こっちよ」

ひとみに誘導され、ジョージはデザイン原器の保管場所まで走る。
すべて手はずどおりにことが運び、厳重なゲートもくぐりぬけた。

今や、デザイン原器はジョージの手の中にあった。


「そこまでだ!」

大友が姿を現した。
警備員たちが銃を構えてジョージを取り巻いている。

ジョージはスキを見て逃げ出す。
焦った警備員たちは一斉に拳銃を発射し始めた。
ジョージもやむを得ず応戦。研究所内は白煙に包まれた。


「どこだ、あいつはどこにいった!」

ジョージの姿が消えた。
プロのスパイの方が1枚も2枚も上手だったのだ。

ジョージはこんな事態になる場合も事前に想定して、
しかるべき逃走方法を準備していたのだった。

それはひとみも聞かされていなかったことだった。


第5章:本当の勝利者


「ふう、なんとか抜け出せた・・・」

ジョージは、研究所の脇のマンホールから姿を現した。

プロに対抗しようとするのは10年早い、そうジョージは思いながら、
体についた埃を払った。


「そいつを渡しな」

ジョージに銃口を向けた田中智史が叫ぶ。

プロのスパイ同士の対決だ。
ジョージも、田中が同類であることはすぐにわかった。


「そう簡単には渡さない」

ジョージはそう叫んで、草むらに逃げ込んだ。
田中も後を追う。


「ジョージ、こちらにそれ投げて!」

ひとみが叫んだ。
ジョージはデザイン原器をひとみにほうり投げる。

今度は、ひとみを追おうとする田中にジョージが飛びつく。
殴り合い。力はほぼ互角のようだ。なかなか勝負がつかない。


その間にひとみは、デザイン原器を持って車に乗り込んだ。
向かう先は、中国の電機メーカーP社日本本部だ。


「これが、S社のデザイン原器です」

ひとみは、P社幹部にデザイン原器を手渡した。


「ひとみ、君はラッキーだったな」

ひとみは微笑み返した。

「男たちを操るという点については、女の方が上手ですから」


(完)

投稿者 松尾 順 : 08:24 | コメント (0) | トラックバック

命を賭けたデザイン 第5章:本当の勝利者

今回が、産業スパイ小説もどき「命を賭けたデザイン」の最終章です。

前回までを読んでない方はこちらを先にどうぞ。↓

第1章:仕組まれた出会い
第2章:デザイン原器持ち出し計画
第3章:水面下の戦い
第4章:研究所侵入
 
 
 
 
 
第5章:本当の勝利者

「ふう、なんとか抜け出せた・・・」

ジョージは、研究所の脇のマンホールから姿を現した。

プロに対抗しようとするのは10年早い、そうジョージは思いながら、
体についた埃を払った。


「そいつを渡しな」

ジョージに銃口を向けた田中智史が叫ぶ。

プロのスパイ同士の対決だ。
ジョージも、田中が同類であることはすぐにわかった。


「そう簡単には渡さない」

ジョージはそう叫んで、草むらに逃げ込んだ。
田中も後を追う。


「ジョージ、こちらにそれ投げて!」

ひとみが叫んだ。
ジョージはデザイン原器をひとみにほうり投げる。

今度は、ひとみを追おうとする田中にジョージが飛びつく。
殴り合い。力はほぼ互角のようだ。なかなか勝負がつかない。


その間にひとみは、デザイン原器を持って車に乗り込んだ。
向かう先は、中国の電機メーカーP社日本本部だ。


「これが、S社のデザイン原器です」

ひとみは、P社幹部にデザイン原器を手渡した。

「ひとみ、君はラッキーだったな」


ひとみは微笑み返した。

「男たちを操るという点については、女の方が上手ですから」

(完)

投稿者 松尾 順 : 09:26 | コメント (2) | トラックバック

命を賭けたデザイン 第4章:研究所侵入

「ご苦労様です!」

S電機本社社員になりすましたジョージは、
他の警備員に挨拶して研究所内に堂々と入っていく。
誰も疑うものはいない。

しかし、監視モニターに写ったジョージの姿を大友は
見逃さなかった。


「いいか、現場を押さえるんだ!」

大友は部下たちに配置につくよう命じた。


「こっちよ」

ひとみに誘導され、ジョージはデザイン原器の保管場所まで走る。
すべて手はずどおりにことが運び、厳重なゲートもくぐりぬけた。

今や、デザイン原器はジョージの手の中にあった。


「そこまでだ!」

大友が姿を現した。
警備員たちが銃を構えてジョージを取り巻いている。

ジョージはスキを見て逃げ出す。
焦った警備員たちは一斉に拳銃を発射し始めた。
ジョージもやむを得ず応戦。研究所内は白煙に包まれた。


「どこだ、あいつはどこにいった!」

ジョージの姿が消えた。
プロのスパイの方が1枚も2枚も上手だったのだ。

ジョージはこんな事態になる場合も事前に想定して、
しかるべき逃走方法を準備していたのだった。

それはひとみも聞かされていなかったことだった。

(続く)

投稿者 松尾 順 : 09:22 | コメント (0) | トラックバック

命を賭けたデザイン 第3章:水面下の戦い

「やっぱり本当だったか・・・」

大友は、ジョージとひとみが楽しそうにカフェで話している様子を
見て、がっくりと肩を落とす。

激しい嫉妬の気持ちが起きる。
二人の関係は、デザイン原器を盗まれるかもしれないという危機感以上に
大友の心を揺さぶった。


「じゃあ、国枝がデザイン原器を盗むとしたらどんな侵入方法を
取るのか、可能性を全部洗い出そうじゃないか!」

大友は、ひそかに招集した社内ミーティングで、
デザイン原器持ち出し阻止の計画を討議する。


「しめしめ、俺の代わりにデザイン原器を持ち出そうとする奴が
現れたか。そいつが持ち出した後に横取りさせてもらう。」

その中には、K電機のスパイ田中智史もいた。


ジョージは、怪しい影がつきまとっているのに気付いていた。
CIAの訓練を受けた彼には簡単なことだった。

「計画がS電機にばれている可能性が高いな」

たとえそうだとしても、計画を中止するわけにはいかない。
もはや後戻りはできない。

ジョージは覚悟を決め、より一層入念に侵入計画を練るのだった。


ひとみもまた、職場での大友のひとみに対する態度が微妙に変化
していることに気付いていた。

「ジョージに言った方がいいかしら・・・」

しかし、ひとみは思い直した。
ジョージなら、たとえ相手が計画を知っていたとしてもきっと決行する。

ジョージはリスクを犯すことに、大きな喜びを感じるタイプの人間だということが
既にひとみにはわかっていた・・・

(続く)

投稿者 松尾 順 : 10:38 | コメント (0) | トラックバック

命を賭けたデザイン 第2章:デザイン原器持ち出し計画

「ずいぶん複雑な構造だね・・・」

ひとみから渡されたS電機神奈川研究所の見取り図を見ながら、
ジョージはつぶやく。


「警備体制マニュアルはこれよ」

ひとみが渡してくれたマニュアルには、
デザイン原器の保管場所までに突破しなければいけない厳重なゲートや、
デザイン原器を取り巻く赤外線センサーの仕掛けが詳細に記されている。


「うーん、仕掛けがわかったからといって、それだけで仕掛けを
突破できるというわけじゃないねぇ・・・」

ジョージはため息をつく。
 
CIA本部でも通用するほどの知識とスキルを持つジョージでさえ、
S電機のデザイン原器を持ち出すのは簡単な仕事ではない。

しかし、彼は知恵を絞り、着々と準備を進めた。


「なんだって、デザイン原器を狙っているやつがいるらしいって?」

大友は部下の報告を聞いて大声を出した。

相手は、自称ITベンチャー社長の国枝丈治という男らしい。
大友は、早速、尾行者をつけて行動を見張るよう指示する。


「ひとみとあいつが付き合っているとは信じられない・・・」

尾行者からの報告をうけて大友は落ち込む。

よりによって、デザイン原器を盗もうとしている奴と、
ひそかに心を寄せている部下の女性が付き合っているとは・・・

もちろん、大友は、ひとみの職場での動きの不自然さには
以前から気がついていたのだったが。

(続く)

投稿者 松尾 順 : 23:16 | コメント (0) | トラックバック

命を賭けたデザイン 第1章:仕組まれた出会い

新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


1月1日から4日までは、産業スパイ小説もどきの内容をアップします。
これは、2年ほど前にISIS編集学校の「破」応用コースの課題として
作成したものです。
(一部加筆修正)


こんな小説(フィクション)らしきものが、まったくの未経験者でも
それなりに書けてしまうのはISIS編集学校校長、松岡正剛氏が編み出した
編集メソッドのおかげです。


ただし、正直なところ、私の課題作は平均以下のレベル・・・
限られた文字数の中で、心を打つファンタジーを描ける方もいます。

これは「才能」の差ですね。いかんともしがたい!


ともあれ、興味のある方は、ぜひ編集学校の門を叩いてみてください。

今のところ予定ありませんが、
私が師範代としてお相手することがあるかもしれません!


では、

「命を賭けたデザイン」

のはじまりはじまり


*本文中に登場する「デザイン原器」とは、特定企業、ブランドのデザインに
一貫性・統一感を与えるための「デザインのひな型(プロトタイプ)」です。
メーカーの研究所などに、門外秘出として保管されているものです。

これについて書いた記事「感覚優位性」があります。


<登場人物>

●国枝丈治

H電機社長室秘書。

ジョージと呼ばれるナイスガイ。
しかし、その正体は産業スパイである。

31歳。独身。身長180cm。米国生まれ・米国育ち。母親が日本人、父親が米国人
のハーフ。実は父親はCIAのスパイであり、若い頃からCIA的な訓練を受けていた。

20代前半は、米国企業で調査業務をやっていたが、しばらく母親の母国日本で
働きたいと思い、4年前に来日した。一人暮らしのマンションは目黒にある。

そして、H電機社長より、S電機の「デザイン原器」を盗み出すという特命を受ける。

●大友健二

S電機 神奈川技術研究所 主査。

デザイン原器を守る立場にある。30歳、独身、柔道5段。
豪快で愉快な男だが、女性と話すのは苦手。

●作田ひとみ

S電機 神奈川技術研究所 副研究員

S電機の新製品開発者のアシスタント。26歳、独身。
モデルにスカウトされそうになったほどの容姿の持ち主。

●田中智史

S電機 神奈川技術研究所 総務課員 28歳、独身。

S電機の研究所の総務部門勤務。めがねをかけたインテリ風の外見。
実は韓国系電機メーカー、K電機のスパイ。
1年前にS電機にうまくもぐりこむことに成功し、やはりS電機の
「デザイン原器」を盗むことを狙っている。


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命を賭けたデザイン 第1章:仕組まれた出会い


「おっと、失礼!」

ジョージは、踊っているひとみにわざとらしくぶつかった。

ここは六本木のクラブ。

平日でそれほど混んでいない。ひとみはナンパには慣れているから、
適当にやり過ごそうとしたがジョージの魅力的な笑顔には
逆らえなかった。

出会いはありきたりだったが、ジョージとの機知に富む会話は
楽しかった。


「今までの男たちとは何かが違うわ・・・」

ジョージは、日本人と米国人のハーフという顔立ちもさることながら、
ずっと米国で過ごしてきた。日本語は母親の教育で不自然さはない。

しかし、生粋の日本人とは明らかに違う立ち振る舞いが
ひとみを魅了したのだ。


「ドライブで気分を変えようか?」

ジョージが駐車場から出してきた車はフェラーリ。
フェラーリに乗るのは初めてではなかったが、
乗り手が違うとこんなにも変わるものだということをひとみは知った。


「もう一杯、テキーラ飲む?いつもテキーラしか飲まないのね」

ひとみはジョージに声をかける。ベッドの上のジョージは軽くうなずく。

ひとみのマンションにジョージは頻繁にくるようになった。
そういえば、ジョージがITベンチャー社長であること以外、何も知らない。

ジョージのマンションに連れて行ってもらったこともない。
ひとみはふとそう思ったが、ただジョージと一緒にいられるのがうれしくて
それ以上考えなかった。


「え、デザイン原器を持ち出すって、本気?」

ジョージの真の目的がS電機のデザイン原器だったと知って、
ひとみはやるせないものを感じた。

しかし、いまやジョージを心から愛しているひとみは、
ジョージの計画を手伝うことに躊躇しなかった。

(続く)

投稿者 松尾 順 : 11:53 | コメント (0)

目を引くデザイン vs シンプルなデザイン

私は本郷の事務所を借りて、普段は一人で仕事をしています。
なので、事務所内の掃除とか、観葉植物の水やりとか、
全部自分でやってます。

また、お菓子以外の食べ物は置いてないのに、
なぜか出没する○キ○リの退治用品やトイレットペーパーなど
日用品を近くのドラッグストアでもろもろ買ってきます。

買い物は面倒ですし、日用雑貨品でふくらんだビニール袋を
さげて事務所に戻るのはちょっと恥ずかしかったりしますが、
一般消費者の目線で商品が見れる点がいいですね。


今日は、ドラッグストアの店頭で箱ティッシュのセールを
やってました。かなり安かったので1パック買おうかなと
思ったものの、やっぱりやめました。

というのも、実に派手というか、女性向けというか、
赤いバラの花が箱全面に広がってるデザインだったん
ですよ。事務所にはとても合わないですよね。

一般家庭向けとしても、
ちょっと個性が強すぎるんじゃないでしょうか。
(箱ティッシュを用のケースに入れれば見えなくなるとしても)


お店で売ってる商品は、買物客の目を引くことが必要ですよね。
だから、どうしても派手になりがちです。

逆に、その商品が実際に使用される環境にマッチするかという
発想はあまりありません。


芳香剤なんかも派手ですよね。形もへんちくりんですし。
事務所では、お客さんに見えるところにはとても置けません。

以前書きましたが、○キ○リホイホイも、
○キ○リのリアルなイラストが表面に書いてあって勘弁して
欲しい。(だから目立たないものを買ってます)


メーカー側としても、実際のところ

店頭での購買意欲を刺激するためのデザイン

と、

利用環境に合うデザイン

の二律背反に悩んでいるんじゃないかと思います。


しかし、この二律背反を解消できるのが、
カタログ販売なんですね。

例えば、アスクルが最近、エステー化学と組んで出した
事務所に置いても違和感のないシンプルデザインにした
芳香剤だからですは、従来品より売れているそうです。


アスクル社長の岩田彰一郎氏はこんなことを言っています。
(日経デザイン、October 2006)

「シンプルなパッケージの商品は、店頭では目立たないから
 売れません。僕もライオンにいたから分かるんですが、
 シンプルなよいデザインの商品を作っても
 店頭で目立たなければ、そのよさに気づいてもらえないんです」

「アスクルはカタログ販売ですから、こうしたシンプルな商品を
 販売できるんです。こうした顕在化しなかったお客さまの要望
 をアスクルなら顕在化させられるんです」


アスクルが最近だした乾電池も従来になかった
ユニークなデザインです。

カタログがあったらぜひチェックして欲しいんですが、
1,2,3,4といった数字がデカデカと表示されています。
乾電池のサイズが、誰でもぱっと分かるというわけです。

市販品は、ブランド訴求が強すぎてサイズは見えないくらい
小さくしかプリントされてませんよね。


考えてみれば、このところますます利用者が増えている
ECサイト、オンラインショップは、デジタルなカタログ販売です。

リアル店舗での販売ではできない商品提案ができるという点を
もっと活用すべきでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 23:26 | コメント (0) | トラックバック

特許より意匠

ソフトバンクモバイル(旧ボーダフォン)向けに今年5月から
出荷を開始したシャープの携帯端末「AQUOSケータイ」。

*SoftBank 905SH


シャープが液晶テレビ「AQUOS」で培った技術を活かして開発した、
モバイル機器向け地上デジタル放送「ワンセグ」対応機種です。


この機種について、競争戦略的な観点から着目すべきなのは、
AQUOSケータイのデザイン、特にスピーカーの形状について
シャープが「意匠権」を取りまくっていることです。

上記完成品の写真からはスピーカーの形状は確認できませんが、
開発中の機種を含む同社製携帯端末の画面の下や、
操作部のあちこちに配置した長方形のスピーカーに関して
10件以上、意匠権を登録しています。
(日経デザイン、October 2006)


この結果、競合他社の携帯機種は丸みをつけたスピーカーを
開発して、シャープの意匠権の侵害を避けています。

競合他社にとっては、もはや長方形のスピーカーを
自社の携帯のデザインとしては採用できない状況に
追い込まれたといえるでしょうね。

それだけデザインの自由度が制約されてしまうわけです。


携帯電話の意匠権は、
最近は年間300件以上新規登録されています。

部分意匠登録制度によって前述のように
スピーカーだけ、あるいはボタンだけという権利も取れます。

製品の機能や性能、品質面での差別化が難しい今、
製品自体が持つ唯一の差別化要素ともいえる「デザインの一定
の形状」をお互いに取り合っているわけです。


考えてみれば、デザインは視覚的に

「似ている・似ていない」

が判断しやすく、競合他社が優れたデザインを持つ製品を
出してきたからといって、おいそれと真似するわけには行きません。

東南アジアの無名企業が、意匠権侵害と知りつつ、
物まね製品を開発・販売することは頻発していますよね。

しかし、日本の大手企業が同じことはできません。
もし、意匠権侵害で訴えられたら、社会的な評判の低下に
つながりかねないですからね。


ところで、人のアイディアを守るための制度として
意匠権よりも私たちになじみのある「特許制度」は、

「自然法則を利用した技術的なアイディア」

が保護の対象です。

ただ、これはあくまで「技術」が対象であって、
この技術を基にした製品を保護するものではありません。


たとえば、世紀の発明といわれた

「青色発光ダイオード」

には、「青色発光」を実現するための異なる技術が
複数開発されています。

このため、お互いに他社の「特許」を侵害することなく、
堂々と「青色発光ダイオード」を開発・販売している企業が
複数あるんですね。

つまり、「特許制度」の場合には、同等の機能や性能、
品質を実現できる別の技術を開発するという形で、
特許権侵害を回避することができるわけです。


しかし、「意匠」の場合、視覚的に比較しやすい

「デザイン」

が対象ですから、権利侵害を回避することが極めて難しい。


このことを踏まえると、
これからは、技術を守る

「特許」

以上に、

デザインを守る

「意匠」

が、企業戦略、また、マーケティングにおいて、
ますます重要になってくると言えますよね。

投稿者 松尾 順 : 17:17 | コメント (0) | トラックバック

ペルソナデザインの専門サイトオープン!

「ペルソナデザイン」の専門サイトが今月オープンしてます!
(日経デザインの広告で知りました)

*personadesign.net


運営企業は、m.c.t(Marketing Communication Technology)。


私は、同社とはなんらつながりはありませんが、
「ペルソナ」に絞ったサイトは日本では初めてですし、
コンテンツもなかなかわかりやすくまとまっているので
簡単にご紹介したいと思います。


「ペルソナ」については、私も以前このメルマガ&ブログで
書きました。

*できるだけリアルな顧客の仮面をかぶる方法

また、シナプス・マーケティング・カレッジで
講師を務める「Webマーケティング」では、
サイト設計のツールとして「ペルソナ」の考え方を受講者に
ご紹介しています。

実際、「ペルソナ」はとても有効なプランニングツールだと
考えています。実務でも利用してますし!


さて、personadesign.netでは、
ペルソナを次のように定義しています。

「企業が提供する製品・サービスにとって最も重要で
 象徴的な顧客モデル」

そして、「ペルソナデザイン」とは、

「上記の顧客モデルを作ること」

です。


ペルソナデザインの狙い(目的)は、

・企業として本当に大切にしなければならないユーザを
 明確にする
・ユーザーを、具体的に、深く、ひとつの物語として、
 理解する
・ユーザ自身でさえ気づいていないニーズを発見する

と説明されています。

これだけだとちょっとわかりにくいかな・・・


私は、シナプスの講座では次のように説明しています。

従来のターゲットの想定は、

「仕事を持つ20代の女性」

といった大きなくくりに止まっていることが多いですね。

でも、これでは、おおざっぱすぎて、
ユーザーのライフスタイルやニーズが明確に見えてきません。

ペルソナでは、象徴的な顧客像(モデル)を詳細に設定
することによって、より具体的で明確な顧客イメージを
ベースにしたプランニングができます。

結果として、よりターゲットのライフスタイルやニーズに
合致した、エッジの効いたデザインやコンテンツ設計が
可能になります。


どのくらい詳細に顧客像を設定するかというと、

名前、年齢、身長、体重、体型などから始まり、職業、
住居形態、家族構成、学歴、年収、趣味、保有車、
食事の好み、飼っているペット、などなど。

ケースバイケースですが、ターゲット顧客の毎日の生活が
ありありと浮かぶくらいの詳細な記述を行います。


Personadesign.netには、
ペルソナの歴史(ヒストリー)も掲載されていますね。

どうやら、99年以前にアップルが、
インターフェイスデザインにペルソナを採用したのが
始まりのようです。

また、2005年の10月の時点では、
Fortune500の企業がWebサイト構築を依頼している
“ベスト12社”のすべてがペルソナデザインを活用

とあります。
(“ベスト12社”というのは、Web制作会社のことでしょう)


上記サイトには、米国の調査会社フォレスターリサーチ社の
ペルソナ関連のレポートも一部紹介されていますので、
Web制作に関わっている方は一度のぞいてみたらどうでしょう。


11月1日に“日本初”の

「ペルソナデザインのセミナー」

も開催されるようです。


事例のコーナーが、準備中なのが残念ですけど・・・

投稿者 松尾 順 : 06:09 | コメント (0) | トラックバック

ロバストデザイン

「製品の差異化は難しくなった、すぐに追いつかれてしまう」

いまさら言うまでもないことですね。

しかし、正確には、機能、性能、大きさ、重さといった数値で
把握しやすい部分での差異化は難しくなったということであって、

・デザイン(色、形状、素材の質感など)
・ちょっとした工夫がもたらす使いやすさ(ユーザビリティ)

などの、数値で把握しにくい、
些少と思われがちな部分での差異化はいくらでも可能です。

そして、実はこの些少な部分での差異が、
売れ行きに大きな違いを生み出しているのが現実です。

なぜなら、わかりにくさ、些少さが、競合他社にとっては
ステルス(発見されにくい)的であるために、
簡単に真似をすることができないからです。


ただ、数値で把握しにくい些少な部分であるだけに、
市場投入前の製品開発段階では、どんな差異化が有効なのか、
自分たちでもよくわからない!

「じゃあ、市場に聞いてしまえ!」

というわけで最近増えてきたのが「探索型マーケティング」。

これは、新製品のコンセプトがあったら、きめ細かな詳細設計を
せず、スピード第一、とにもかくにも形(プロトタイプ)に
してしまって、ユーザーに使ってもらうやり方です。

もちろん、流通(卸・小売)のバイヤーにも聞く。
聞ける人には誰にでも感想・意見を求める。

こうして、新製品(のプロトタイプ)は、実際のユーザーや
関係者に揉まれながら、細かい改良を積み重ねられ、
今のユーザーのニーズに最も適合した製品へと成長を遂げる。

これは、ソフトウェアの開発において一般的なものですが、
物理的な商品、あるいは形のないサービスにおいても、
こうした「探索型マーケティング」の発想をもっと強化すべき
ではないかと思います。

ユーザーのニーズは、どんなに徹底したマーケティングリサーチ
をやっても、確実には見えてこない時代です。

だから、初めて上市する製品を「完成品」と思わないほうが
いいわけです。

売れなかったからといって、
発売開始早々にさっさと見切りをつけてしまうのも
ちょっとおかしいんじゃないでしょうか。


さて、「探索型マーケティング」によって、すなわち、
市場に揉まれ、さまざまな改良が施されて競争優位性を持つように
なった製品のことを神戸大学大学院教授、石井淳蔵氏は

「ロバストデザイン」

と呼んでいます。
(PRESIDENT、2006.10.02)

ロバストとは、「頑健な」という意味です。
競合の脅威に対して頑健な製品設計プロセスということでしょう。

このロバストデザインにおいて、
石井先生が指摘する重要なポイントをご紹介します。

従来のロジカルなマーケティングアプローチの視点からは
正反対ともいえる考え方です。


・ターゲットやベネフィット、つまり
 「誰に、どういう価値を提供するか」というコンセプトを
 事前にはそれほど厳密に定義しない。
 (要するに、「あいまい」にしておく)

・マーケティングの目標や計画も、厳格に守るべきものというより、
 関係者が話し合うためのガイドラインかプラットフォームに過ぎない

・どちらかというと、特定のターゲット・ベネフィットに絞るより、
 「競争者に負けない商品」「自社にふさわしい商品」「自分たちが
 納得する物づくり」が目指される

・目的に合わせて仕事を編成するというより、手元の資源をかき集めて
 仕事をやっていくうちに目指すものが見えてくるというアプローチ

・コンセプトや目標をあいまいにしておくことで、市場の思わぬ変化に
 対応できる。むしろ、どこで商品に対する人気の渦が生まれてきても
 対応できるように手を打っておく

・自在に動き、偶然に遭遇する機会を最大化し、それらを柔軟に自らの
 動きの中に取り込む


上記にご紹介したポイントは、
厳密な経営計画の立案と実行、短期的な収支を重視する企業には、
なかなか受け入れがたいことでしょう。

端的に言えば、

「あいまいさ」

と共存し、

「偶然性」

に依存するやり方ですから。


しかし、不確実性の時代には、
企業もまた、不確実性を内在させることで対応するしか
ないんじゃないでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 22:51 | コメント (4) | トラックバック

下すぼまり形状

資生堂のヘアケア製品のメガブランド「TSUBAKI」の
パッケージ(容器)・デザイン
、思い出せますか?


とても印象的な色と形ですから、
たいていの方がイメージできるんじゃないでしょうか。

「椿」の花を連想させる赤い色、そして
肩が張り出した柔らかなボディライン。

コンセプトは「グラマラス」だそうで、
あの形状は、明らかに女体を模していますよね。


容器のデザインは、従来は「安定性」を重視したものが
多かったことを考えると、「TUBAKI」のデザインはその逆。

容器の上部から下部に向けて大きさが細くなる
「下すぼまり形状」。


この「下すぼまり形状」ですが、

・視覚的に持ちやすいという印象を与えること
・そして人のボディラインを感じさせる、
 つまり「擬人的」な感覚を呼び起こすこと

といった理由で、人が無意識に選択してしまうデザインだと
言えます。


日経デザイン(July 2006)の「台所用洗剤への好感度」調査
の結果によると、

「下すぼまり形状」

が、やはり最も好まれるデザインであり、
また「買いたい」と思わせる力があることが検証されていますね。


同調査では、以下の5種類の台所洗剤が調査対象でした。
ただし、調査時には、ラベルをはがしてメーカー名や商品名が
わからないようにしてあります。


A:花王「ファミリーキュキュット」
(調査対象は中央)

B:ライオン「チャーミーマイルド」
(調査対象は左側)

C:P&G「しつこい油汚れにオレンジピール成分入りジョイ」
(調査対象は上側)

D:花王「ファミリーピュア アロエ in」
(調査対象は左側)

E:ライオン「チャーミーリブ」
(調査対象は左側)


そして、調査協力者には、
上記5製品の「見た目」だけに基づいて、

・どの形が好きか
・どれを店頭で手にとって見たいか
・どれを購入したいか

といった質問に答えてもらっています。(有効回答数200人)


調査結果によると、最も形が好まれていたのは、Cのジョイ。
(全体の39%が、Cを「好き」と回答)

URLでリンク先を見ていただくとわかりますが、
肩がちょっと張り出した、最も「人体」的形状ですね。

2番目に「好き」の回答が多かったのは、Aのキュキュット。
(同22.0%)

円筒形ですが、やはり下すぼまり。


逆に、最も人気がなかったのがBのチャーミーマイルド。
好きと答えた人は10人に一人もいない。(同9.5%)

チャーミーマイルドは、ジョイやキュキュットとは
対照的に「下ひろがり」の形をしています。

見た目の安定感とはうらはらに、デザインとしては
「下ひろがり形状」はあまり好まれないんですね。

また、Eのチャーミリブの中腹が膨らんでいる
「でっぷりした形状」が好きな人も少ない。(同12.5%)


さて、形状に対する好みは

・どれを店頭で手にとって見たいか、
・どれを購入したいか

の回答との相関も高く、
上記どちらの回答も、Cのジョイの圧勝となっています。
2番目も、やはりAのファミリーキュキュット。


製品の売れ行きはデザインだけで決まるわけではありませんが、
デザインの違いが、商品の魅力にこれほどの差を生むのは
驚きですよね。


最近の脳科学の研究によると、
人は考える前に、すでに行動を始めていることが多いそうです。
(この意味、ちょっとわかりにくいですよね)

このケースに即して具体的に言うと、
店頭で、ある商品に手を伸ばす行動は、それを手に取ろうと
考える前に、無意識に行ってしまっているものです。

端的に言えば、人の普段の行動の多くが、
無意識の自動化された行動だとも言えるのだそうです。

そして、この無意識の自動化された行動を引き起こす
最大の要因のひとつが「デザイン」です。


ですから、マーケターはもっともっと「デザイン」に対して
着目する必要があるでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 12:00 | コメント (2) | トラックバック

4本のマフラーの教訓

ホンダ・ドリームCB750FOUR(1969年発売)

60年代、2輪レースで華々しい成績を収めたホンダが、
レースで培った技術を元に開発した750ccの4気筒エンジン搭載
のバイクです。

「ナナハン」の原点と言える上記車種は、
当時はその大半が輸出され、米国では大ベストセラーとなりました。


さて、米国市場での競争が激化してきたことを見たホンダは、
「CB750FOUR」の商品力向上のためモデルチェンジを計画します。

改良のポイントは、さらなる「走りの魅力」を引き出すための
エンジン出力の向上と車体の軽量化でした。

その実現のために提案されたアイディアは、
初代車種では各気筒ごとに独立して取り付けられていた
「クロムメッキされた4つの排気管」と
それに続くマフラーを1本化してしまうことでした。

これは、出力の向上も軽量化も可能という一石二鳥の案。

しかも、当時のバイクレース場では、「一本マフラー」が
流行っていると言う調査結果が報告されていました。

生産現場からは、手間やコスト削減になるからでしょうか、
クロムメッキされた部品を減らして欲しいという要望が
上がってきており、
一本マフラー化は、一石二鳥どころか、一石三鳥の
改良だったわけです。


こうしてホンダが自信を持って改良した「CB750FOUR-2」は
1975年に発売されます。

ところが、期待に反して
売上げが大きく低下してしまったのです。

ホンダとしては、なぜ売れないのかまったく理解できません。
そこで米国の販売店に調査員を派遣しました。

調査員が店を訪れると、いきなり店主に胸ぐらをつかまれて
怒鳴られたそうです。

「こんなバイクを作ったのはお前たちか」

「お客は何がよくてこのバイクを買ってくれるのか
 わかっているのか」

「お客はなあ、あのピカピカ光ってシンメトリー(対称形)
 に並んでいる4本のマフラーのムードにしびれてんだ」

「それをこともあろうに全部取り外して、その上、
 お客の大嫌いなあの油だらけのチェーンをむき出しにする
 とは一体どういうつまりだッ」


そして、この事実を知ったホンダでは、
恥を忍びつつ、とりあえず元の4本マフラーに戻した
モデルを発売することになります。


このエピソードは、ホンダの3代目社長久米是志氏の本、

『「ひらめきの設計図』(小学館)

から引用したものですが、久米氏はこの事件を

「買う人の思いと作る人の思いが分離してしまった実例」

として紹介しています。


作り手は、なぜ買う人の気持ちがわからないのか。
また、買う人の立場にはなかなか立てないないのか。


「マインドリーディング」のブログやメルマガは、
こんな問題意識から出発し、
その解決策を模索するために提供しているのですが、
CB750のようなケースは、今でも至るところで発生していますよね。

あらためて、顧客の心を的確に読むことの重要性、
また、そうしたニーズは高そうだというのを再認識しました。


なお、CB750の最新機種はこちらで見ることができます。


ふむふむ、4本のマフラーという伝統をしっかり受け継いだ
デザインです。確かに美しい。

投稿者 松尾 順 : 11:26 | コメント (0) | トラックバック

本当は目だって欲しくなかった製品

出るんですよ。うちの事務所にも・・・

ゴ**リが!!
(名前だけで身の毛がよだつ方に配慮して一部伏字)

もちろん「うようよ」はいませんが、
たまに影から突然飛び出すのでびっくりさせられます。


事務所は、マンションの一室で流し台がついてます。
でも、一切料理などはしません。

食べ物らしきものは、コーヒーの出し殻と、
外食続きの体の健康のためにたまに買ってくる果物くらい。

この部屋は、彼らにとってあまり住み心地が良いとは
思えないんですけどね。


それで、仕方なく「ゴ**リ*イ*イ」みたいな捕獲器を
置いていた時期があったんですが、あれ目立つので
いやなんですよね。

だいたいパッケージは真っ赤に塗られているし、しかも、
表面には、デフォルメされている(もろ実写のもありますね)とは
言え、「ゴ**リ」がうようよ描いてあります。


事務所にいらした客人がこの捕獲器を見て、

「あれ、この事務所はゴ**リがいるんだ」

なんて思われるのがいやで、今は購入していません。

たぶん、同じようなことを感じていた消費者は
多かったんだと思います。

実際、2005年8月に実施された日経デザインの調査によると、
「ゴ**リ」を嫌いと答えた人のうち43%が、
捕獲器のパッケージに彼らの絵や写真を載せないで欲しいと
思っていることがわかっています。

ただ、「あの絵や写真をどうにかして!」とメーカーにわざわざ
文句言う人は、いままでいなかったんじゃないでしょうか。
おそらく、隠れた要望として消費者の潜在意識の中に留まっていた
んだと思います。


しかし、とうとう、上記のような消費者の隠れた要望を
反映させた新商品が登場しました!

フマキラーの「ゴ**リ激取れ」

は、箱ティッシュを思わせる落ち着いたデザイン。

日経デザインの調査結果を参考したかどうかわかりませんが、
「ゴ**リ」のいる家という印象を与えない、という
製品のネガティブ要因(購入阻害要因)を取り除いた製品です。


従来の捕獲器の派手なデザインは、捕獲器の効き目をアピールし、
購入意欲を喚起することを狙いにしていたもの。

フマキラーの新製品は、製品の「購入時」ではなく「使用時」に
に焦点を当てたという点で注目に値します。

さて、どのくらい売れるのか、しばらく様子を見てみましょう。

蛇足ながら、事務所用として、
さらに目立たない「黒一色」のデザインも出してくれないかなと
思いますね。

投稿者 松尾 順 : 10:31 | コメント (2) | トラックバック

きみの、そのボディ、わしづかみにしたい

この思わせぶりなタイトルについては、
いったん脇においてください。(笑)


サントリーの「伊右衛門」、
あいかわらず売れ行き好調のようです。

伊右衛門は、販売を開始した2004年から、いきなり3420万ケース
の大ヒットで、清涼飲料の発売初年度の販売記録を樹立、
昨年の2005年も5250万ケースへと販売数をさらに拡大しています。


本木雅弘と宮沢りえが、伊右衛門とその妻役で登場する
TVコマーシャルも、渋みと甘みがミックスした心地よい内容
ですよね。

ちなみに、ブランディングの核となるイメージコンセプトは、
「大人の哺乳瓶」だそうです。


さて、伊右衛門の開発秘話はあちこちで紹介されてきてますが、
マーケティング調査のやり方にも一工夫したことは
あまりご存知ないでしょう?


伊右衛門の開発責任者は、消費者調査を実施するにあたって、

「グループインタビューも、1対1のディープインタビューも、
 相手の顔が見えると本音が出にくい日本人には、
 本当は向かないのではないか」

「むしろ、顔を合わさないインターネット上でのウェブ調査の方が
 逆に本当の声が聞け、日本人向けではないか」

と考えたのです。


商品開発のアイディア発想に当たって、グルインや1対1の
インタビューはいわば定石。

ただ、対面式の調査は、調査協力者が、

「こんなこと言って変に思われないだろうか、
 笑われないだろうか」

という感情を持ちやすいため、結局、本音をオブラートで包んだ
もっともらしいことしか言わないという「回答バイアス」が
発生します。

特に、プライバシーに関わること、つまり
あからさまに本当のことを言うのが恥ずかしい質問に対して、
上記の回答バイアスがかかりやすいわけですが。

しかも、奥ゆかしい日本人の場合、
相手と同調することで、いい関係を保ちたいという心理も強い。

このため、聞き手が期待している答えをわざわざ深読みして
本音とは違う答えを返す人もいます。

したがって、プライバシーに関わること以外の事項であっても、
実はあまり消費者の本音を引き出せていない可能性が
確かにあるでしょうね。


そこで伊右衛門の担当者はWeb調査を実施し、かつ
潜在意識をあぶりだすような質問に知恵を絞りました。

「急須で入れたお茶はどんな存在か、
 人・モノ・動物に喩えると?」

「外国人にお茶の味を誉めるとしたら?」

「1年間、お茶を禁止する法案が可決しそうになったら
 どう反論するか」


一般のアンケートではまず見られない、
とても答えにくい質問です。

しかし、答えにくい質問だけに、
調査回答者は、日ごろ漠然と飲んでいる「お茶」に
真剣に向き合い、一生懸命考えた結果、
飾りのない「本音」を書いてくれた可能性があります。


そして、この調査から得られた知見
(コンシューマー・インサイト)は次のようなものでした。

「情報化、国際化が進んでも、お茶を飲む、見る、かぐ、想う時、
 ふと日本古来の生活文化に触れ、心が和み、安心する。
 DNAに刻まれた記憶から生まれる安心感です。」

「ペットボトルのお茶にもそんな安心感を提供したい。
 緑茶飲料に日本の生活文化の味わいを持たせたい。」


伊右衛門はこの知見をベースに、老舗製茶メーカーの福寿園と
提携、100億円の新規投資が必要な新製法を導入して
「百年品質、上質緑茶」の味を実現したんですね。


ところで、伊右衛門は製法にこだわった味の良さもさること
ながら、2つの点で消費者の心を捉える要素を持っていたと
思います。


一つは「伊右衛門」というネーミング。

いままでの緑茶が、「○○茶」といった「お茶カテゴリー」
から出ないものであったのと違い、福寿園の創業者の名前を
持ってきた点が革新的でした。

つまり「擬人化」を図ったことで、より親しみを覚えさせること
ができると同時に、「伊右衛門」という昔の名前が喚起する
深い物語性が、私たち消費者の心を捉えたのでしょう。


そしてもう一つ、あの竹を模した「くびれたボディ」です。

そう、あのボディは、思わずわしづかみにしたくなりませんか。

コンビニの冷蔵ショーケースに並ぶ緑茶飲料の中から、
無意識に選んでしまうのは、あの形のせいでしょう。


心理学の一分野で「アフォーダンス理論」というものがあります。
簡単に説明すると、環境にある様々なモノの形状は、
ある特定の行為を喚起する(アフォード)という考え方です。

たとえば、丸いドアノブは「回す」という行為を
教わらなくてもやってしまう。あるいは、高さ50センチほどの
平らな形状のものは、「座る」という行為をアフォードします。

同じように、「伊右衛門」のあのくびれたボディは、おもわず
手でつかみたくなる欲求を無意識に喚起しているわけです。

心の奥底の欲求をあえて言葉にするなら、

「きみの、そのボディ、わしづかみにしたい」

となるでしょう。ちょっとオオゲサですが(笑)


そうそう、あの竹筒タイプは一部の自販機では扱えないので、
一般的な寸胴タイプの伊右衛門も並行して売られていますよね。

しかし、両方を比べてみると一目瞭然です。
どちらをわしづかみにしたいかなんて考える必要もありません。


*伊右衛門のマーケティング調査については、
 Works(Apr-May 2006)の「野中郁次郎の成功の本質」の記事を
 元にしました。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

タオルなケーキ

さっき、なにげに日経デザイン(April 2006)を
めくってていたんですね。

そしたら、「ケーキの詰め合わせ」のアップ写真がでてきて
思わずヨダレが・・・
ロールケーキ、チョコレートケーキ、ストロベリーケーキ、
どれもおいしそうだったのですよ。


でも、目を近づけてよく見るとケーキの生地はタオルそっくり。
というか「タオル」そのものでした。(驚!)

これまでも、タオルを丸く結んだりしてセンス良く見せるのは
ありましたが、ここまでホンモノのケーキにそっくりなタオルを
作ってしまうなんて。

この製品は「ル・パティシェ」です。


発売開始は2005年1月。価格帯は実物のケーキと同じ。

・ムース 315円
・ショートケーキ 525円
・マフィン 262円
・ロールケーキ 630円

といった感じです。


ケーキそっくりだけど、その正体は単なるタオル。
よく考えるとずいぶん割高ですよね。

しかし、バカ売れしてます。

有名デパートの催事販売では、一日に80万円の売上げを
記録したこともあったとか。

当然、自家消費ではなくてギフト需要で売れているのですが、
「ル・パティシェ」の場合、一般のギフト商品のように
3千円とか5千円とかの予算で機械的に選ぶのではなく、
贈る相手の驚いた顔や喜んでいる様子を想像して買ってる
お客さんが多いそうです。

贈られた相手も喜ぶだろうけど、
贈る側の自分も、楽しい気持ちになれる。
脳汁ドバー状態でしょう。

こんなギフト、他にあまりないですよね。

「ル・パティシェ」は、
無機質なタオルをケーキに仕立てたことで、
視覚だけでなく、味覚にも訴える魅力を持ち、
かつ、わくわくする感情を生み出すことに成功しているわけです。

だから、割高だとは思わず喜んで買ってしまう。

「ル・パティシェ」は、デザインの力が大きな付加価値を
生み出すことを実感させてくれる商品ですね。


また、マーケティングに興味深いのは、
当製品の具体的なブランドイメージを明確にするため、
企画の段階で架空のパティシェを設定し、
その人物像を思い描いた点です。


「父親から技を受け継いだ2代目の若手パティシェ。
 大学時代をどう過ごしたか。趣味は何か。
 彼ならどんな屋号をつけるか。
 店の独自性を出すためにどんなケーキを作るか・・・。
 そういったイメージをル・パティシェのモノ作りに落とし込んだ」
(企画者のプレーリードッグ執行役員企画室長、威脇忠義氏)

そうです。

つまり、 「ペルソナ法」を応用していたようです。
ペルソナ法はブランディングにも有効な思考ツールなんですね。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

レモンイエローの消防車

先日お会いした広告会社の方とも意見が一致したことが
あります。

それは、クライアントが以前ほど、マーケティング理論的な話を
ありがたがらなくなってきているということです。

特に大手企業に顕著ですが、

「マーケティングの考え方とかは、こっちもよくわかってるよ」

というわけで、広告会社やコンサルタントが、
偉そうに理論をまくしたててもあまり喜ばれないんですよ。


それよりもクライアントが欲しいのは、

「ビッグアイディア」

「刺さるデザイン」

なんですね。


というわけで、いけてるマーケーターの方々は、
きっと「ビッグアイディア」を生み出す発想力を伸ばしたいと
もろもろ努力されているんじゃないでしょうか。

そんな方にぜひ見ていただきたいと思う本をひとつご紹介。
(すでにご存知の方はすいません)

「スウェーデン式アイディアブック」
(フレドリック・へーレン著、中妻美奈子監訳、鍋野和美訳、
 ダイヤモンド社)


90ページの薄い本ですが、
意外なアイディアの切り口がけっこう発見できますよ。


さてさて、斬新なアイディアを妨げているのは、
多くの場合、「固定観念」や「先入観」といった、
すでにできあがっている思考の枠組みです。

このことを気づかせてくれるエピソードがこの本に書かれています。
次のような話です。

ヨーロッパの救急車や消防車、パトカーなど、緊急出動車は
たいてい青いライトを使っています。それはなぜでしょうか?

第二次世界大戦中、ゲシュタポは連合軍の爆撃機を避けるため、
灯火管制されたドイツの街で目立たないよう、青いライトを
使い始めました。青い光は、暗闇で一番見えにくいからです。

それを、他国の警察機関が真似て採用し、
終戦後もそのまま残っているのだそうです。

つまり、本来目立たせるべき緊急出動車に、
最も目立たない青いライトを使っているのは、
単なる慣習によるものだったんですね。


消防車の色も同じです。なぜ車体は「赤」なのか。
昼間はともかく、夜間は「赤」はあまり目立ちません。

スウェーデンの消防車も赤色をしてました。
でも現在は、スウェーデンのいくつかの街では、
目の覚めるような「レモンイエロー」の消防車が走っている
そうです。

「レモンイエロー」なら、暗闇でもはっきり認識できますから、
赤よりも適した色であることは明らかですね。
でも、赤からレモンイエローに切り替えるまでに
何十年もかかったそうです。

おそらく、日本では切り替える気もないでしょうね。


何事も、

「それってほんとに意味があるのかな?」

といい意味で疑ってかかることが、
思考の枠を外す第一歩になりますよ。

投稿者 松尾 順 : 12:36 | コメント (0) | トラックバック

デザインが主導する時代

今バカ売れしているビール(正確には雑種扱いの第三のビール)
は、キリンの「のどごし<生>」です。

2005年の1-9月の累計販売数量は、1911万ケース。

一番搾り(ビール)、淡麗<生>(発泡酒)が、それぞれ同時期に
3000万ケースを売り上げており、キリンは第三のビール分野でも
パワーブランドを構築できたことになります。

この売れ行きのおかげで、キリンのシェアが、トップのアサヒに
肉薄するところまで来たそうです。

さて、のどごし<生>が売れている理由、それはもちろん、
製品、プロモーション、営業など、マーケティングの各要素が
うまく組み合わされた結果ということでしょう。

ただ、キリンさんがどんなにプロモーションや営業に力を入れても、
最終的に購買決定をするのは消費者です。
またそもそも、日本のビールは味覚には大した差がありません。

ですから私は、のどごし<生>が売れている最大の要因は、

「ビールが飲みたいよ~~欲」

をそそるデザインにあると思います。

のどごし<生>のデザインの特徴は、
ビールそのままの見え方であること。
泡のシズル感もたっぷりの、
まさにエモーショナル(情緒的)デザイン。

ストレートに飲酒欲中枢を刺激しますよね。

一方、売れ行き不振でデザインを変更する羽目になったのが、
アサヒの「新生」です。

スーパードライに似せたシルバーなデザインですが、
スーパードライのブランドにおんぶしてもらおうとしたのが
敗因でしょう。

新生は、デザインだけでなく、名称も「アサヒ新生3」
と変更されて、現在プロモーション中です。
電車内広告でもよく見かけますね。

しかし、あいかわらず、センスはいいものの、
飲酒欲中枢を刺激するデザインではありません。
(実際の味は、悪くないと思います)

直感的には売れそうもないと感じてしまうのですが、
皆さんはどう思いますか

しかし、つくづくデザインがきわめて重要なマーケティング
要素になってきたのだと実感します。

日用品メーカーの花王の社長でさえ、
これからは「機能価値」ではなく、「情緒価値」を重視すると
発言していますし・・・

まさに、現代は、「デザインが主導する時代」になのでしょう。

*日経デザイン12月号では、「デザイン・マーケティング」
の特集の中で、上記に挙げたようなビールデザインの比較が
行われています。面白いですよ。

投稿者 松尾 順 : 12:51 | コメント (0) | トラックバック

黒い飛行機に乗りますか?

来年2006年3月16日に羽田-北九州線のフライトを始める航空会社
「株式会社スターフライヤー」のことはご存知でしょうか。
http://www.starflyer.jp/index.html

まだ、あまりマスコミに取り上げられることがないので、
知名度は低いでしょうね。

さて、スターフライヤーの特徴は、黒い機体。

「広大な宇宙」、「21世紀のモダンエアライン」というイメージ
に基づき、コーポレートカラーを「黒」に決めてあるのです。

この記事に機体のモデルが移っています。
http://plusd.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0505/17/news044.html

Webサイトも、黒基調のモノトーンなデザインですよ。

うーん、確かにクール。かっこいい。
でも、ちょっと抵抗感じませんか?

「黒」は、世界共通でネガティブなイメージを連想させる色です。

飛行機は、事故の発生率では自動車なんかより
はるかに低いのですが、ひとたび事故になると大惨事になりがち。

飛行機に乗るときはいざという時に逃げ場がないので、
大げさですが必死の覚悟で乗るという人がいます。
離陸の時に脂汗をかくという人もいるんですよね。

こんな乗り物に、不吉な印象のある「黒」を採用するのは、
かなり大胆です。そこが狙いでもあるようですが・・・

ここで、

「色で売る-カラーマーケティング入門」
(高坂美紀著、ビジネス社)

で「黒」のイメージで見てみます。

<ポジティブなイメージ>
強い、究極の、立派な、伝統的な、品格のある、威厳のある、
美しい、重厚な、低音の、男性的な、高級な、高品質の、夜の

実績も信用もゼロ、これから作っていく新規航空会社としては、
「黒」を採用することで、昔からやっている伝統のある会社的
なイメージを早期に形成することに寄与しそうです。

ターゲットとする利用者もビジネスパーソンですから、
その点でもずれはないですね。

しかし、ダークサイドを見ると・・・

<ネガティブなイメージ>
暗い、つまらない、重々しい、重い、むずかしい、悲しい、
おそろしい、不幸な

「黒」はとても強い色だけに、ネガティブ面も強烈ですね。

果たして「吉」と出るか、「凶」と出るか。
来年になればわかりますね。

ただ、ひとつはっきりしていることがあります。

それは、

「絶対に事故を起こしてはならない」

ということです。

一度でも事故を起こしたら、その事故と黒が連結され、
その連結を消すことはたぶん無理になるからです。

投稿者 松尾 順 : 11:54 | コメント (2)

収益に直結する外見

人は見かけで判断しますね。また、判断されますね。
(正確には、そのような傾向がありますね)

つまり、人は、‘視覚’で捉える表面的な情報で
物事の良し悪し、好き嫌いを評価しがちなものです。

このことは、しばしばゆがんだ固定観念や先入観に基づく
人種差別を生み出してきたわけですが・・・

ビジネスにおいても、最近は特に見かけ(外見)の重要性が
強調されてきたように思います。

スタイリストによる、個人向けのファッションコンサルティングが
ビジネスとして成立するようになってきましたし。

さて、昨日の日経MJでは、外見がもろ収益に直結する新サービスが
紹介されていました。

新しいバイク便サービスのことです。

バイク便と言えば、つなぎ、というか派手な感じの作業服を
着たお兄さんというイメージがあります。

あれは、バイクに乗りやく、雨風に耐えられる機能性の高い服装
ですし、ピュッと運んでくれそうな軽快な印象を与えています。

しかし、ちゃんとした服装が求められる場所、例えば病院には
不似合いです。怪しい人間と受け取られ、セキュリティ的に
問題のある学校もそうです。

そこで、大阪の「リンケージ」が始めたのが、

「スーツを着たバイク便サービス-BS(ビジネススーツ)便」

です。

バイク便の機動性、スピードのメリットに、
スーツが醸し出す清潔感、安心感という新たな価値を付加しました。

BS便は、通常のバイク便よりも千円も高い価格設定。
でも、需要旺盛だそうです。

また、スーツを着ていることで、荷物の搬送だけでなく、
検査器回収などのサービスも受託できるチャンスが拡大し、
顧客単価がさらに上がります。

これほど明快にスーツを着ることが収益アップに貢献している
ケースは珍しいですよね。

ただ、スーツなら何色でも良いというわけではありませんよ。
基本は濃い色、紺やグレーが理想。
特に、紺は信頼感を最も与えてくれる色です。

BS便も、写真を見るとやはり紺のスーツを着ています。

逆に、明るい色、軽い色のスーツは、まさに「軽い感じ」を
お客様に与えてしまうので、なじみのお客さんはともかく、
新規営業にはマイナスになります。

そういえば、リクルートルックは男性も女性も皆、
紺のスーツですね。しかし、面接官に良い印象を与えるために
最善の色を選択した結果です。

とすれば、彼らを画一的などと責めるのはかわいそうです。

投稿者 松尾 順 : 13:10 | コメント (0) | トラックバック