小売店の実売品が無料でもらえるサンプリング

「サンプル」(試供品)を
狙ったターゲットに的確に配りたい企業と、
サンプルを使ってみたい消費者を結びつけるネットビジネスが

「サンプル百貨店」

です。


以前、同社のビジネスモデルについてはご紹介しましたね。

*サンプル百貨店:価値創造型サンプリング(1)
*サンプル百貨店:価値創造型サンプリング(2)


サンプルをもらいたい人は、
サンプル百貨店の登録会員(無料)になる必要があります。

現在約30万人の登録会員がいて、
そのほとんどが女性。

男性は少ないようですが、
私もずいぶん前から会員になってます。

マーケターたるもの、
何事も自分で試してみなくては・・・


さて先日、サンプル百貨店にて、
サントリーの新商品、

「糖質0」の発泡酒、『ゼロナマ』

の無料お試しキャンペーンをやっていたので
早速応募しました。

数万本規模のサンプリングキャンペーン。
先着順だったので難なくゲット!


通常、こうやって応募したサンプルは
宅配便などで送られてくるのが普通ですよね。


でも、このキャンペーンでは、
サンプル百貨店が開発した面白い仕組みが
採用されています。

具体的には、

「サンプル無料引換券」

付きのハガキが応募者に送られてきます。

そして、提携コンビニ(今回はサークルKサンクス)の
レジでこの引換券を出せば、

『ゼロナマ』

が1本無料でもらえるというもの。


この仕組み、

・企業→サンプルの送付代が節約できる
 (サンプリングコスト削減)

・消費者→小売店の実売品がタダでもらえるという快感がある
 (無料サンプル入手+得した感)

・小売店→サンプル引き換えにきた消費者の集客・ついで買い
 が狙える(集客・客単価アップ)

と、関係者全員がうれしい。
WIN-WIN-WINというわけです!

実際、私もサンクスで「ゼロナマ」をもらう時、
つまみも欲しくて「枝豆」を買ってしまいました・・・


こうして説明すると、

「ああ、なんだ、そんなことかい!」

と思うかもしれません。
コロンブスの卵的アイディアですよね。


しかし、仮に思いつくのは簡単だったとしても、
仕組みを実現するのは容易じゃありません。

全国に店舗展開している
大手小売チェーンとの提携が前提となるからです。

何事につけ新しい取り組みには及び腰になりがちな
日本の会社との交渉は、当初はあまり楽じゃなかったようです。

投稿者 松尾 順 : 11:57 | コメント (0) | トラックバック

Don't Think. Feel!・・・「直感」の磨き方

先日、

「ひらめき」と「直感」の違い

についてご紹介しました。


「直感」は、脳科学的に言えば、
大脳皮質の前頭葉のすぐ内側にある「ストリアツム」(線条体)
の働きによって、潜在記憶の中から導き出された

「答え」

であり、なぜその答えが正解かを言葉でうまく説明できません。

すなわち、「分析的・論理的」な計算によって得られた答え
(この場合、正解の理由を明快に説明可能)ではなく、
「総合的・全体的」な視点での推論が「直感」だと言えます。


さて、「直観」を研究している伊藤毅志氏
(電気通信大学助教)によれば、
将棋のプロ棋士を対象に、アイカメラを使った実験を
行った結果から、次のようなことを述べています。
(日経産業新聞、2007/12/13)


“プロ棋士は何も考えていないようにみえるが、
 いかに読まないか直観を磨いているのではないか”

*伊藤氏は、「直観」という言葉を使われていますが、
 「直感」と語義は同じと考えていいようです。


伊藤氏がこのように考える理由は、
羽生善治氏クラスの一流棋士になると、
次の一手を一瞬のうちに絞込み、せいぜい

2、3手

しか次の手の選択肢を思い浮かべないからです。

もちろんその後に、
何十手か先までの局面展開を「読み」ますが、
それは直観で思いついた手を確認するための作業に
すぎません。

しかも、読む総量はせいぜい数十局面だそうです。


コンピュータを駆使する将棋ソフトでは、
膨大な局面展開(数百万から数千万!)を
分析的・論理的に読んだ結果に基づいて次の一手を決めます。

しかし、生身の人の場合、特に一流であればあるほど、
論理的な思考ではなく、全体的な直観的思考で判断を
行っているというわけです。

将棋の場合、チェスなどよりもルールが複雑で、
展開が複雑過ぎるため、コンピュータでも完璧に
読みきれないとは言え、今のところ、ある意味大雑把な
判断に見える「直感」に頼る方が強いということには驚きです。


これまで、自分のヒットはすべて「説明できる」と
豪語してきたイチローが、これからは「見えない世界」
(=説明できない世界)をコントロールする必要性を
悟ったことを先日の記事に書きましたが、将棋の世界に
かかわらず、どの分野でも行き着く先は、つまり究極の
勝負は、「直感力」が決め手になるのでしょうね。


ところで、どうやったら
優れた直感を発揮できるのでしょうか。

基本的には、かのブルース・リーが、
「燃えよドラゴン」の冒頭のシーンで言ったように、

「Don't Think. Feel!」(考えるな、感じろ)

という姿勢が直感を働かせるために必要です。


ブルース・リーは上記の言葉に続いて、

「それは、月を指差すようなものだ。
 (月を指している)指に集中するな。
 さもなくば、その先にある月(=全体性)を
 見失ってしまう」

と言っていますが、

感じることは、物事を全体として観ることである

ということを伝えたかったようですね。


実は、ブルース・リーとほぼ同じことを
主張しているのが、作家で僧侶でもある玄侑宗久氏です。


玄侑氏は、物事を構成要素に還元していく、
すなわち、分析的に考えることを「分析知」と呼び、
一方で、全体を捉えて、いわば全体を包み込むような思考を
「瞑想知」と呼んでいます。

玄侑氏自身は言及されていませんが、
「瞑想知」こそ「直感力」ではないかと私は思います。


そして、玄侑氏によれば、
この「瞑想知」を発揮するために大切なことは、
まさに、ブルースリーが言ったように、
目や耳などの感覚器で「感じたこと」を大脳で

「考えないこと」

なのだそうです。


玄侑氏が、こうした思考をなぜ「瞑想知」と呼ぶかといえば、
瞑想をしている時、人はただものごとの流れに身を任せて
感じているだけの状態にあるからです。

逆に言えば、瞑想知、つまり直感を磨くためには、
「瞑想」が有効だと言えそうです。


なお、前述した伊藤氏は、

「優れたルールを数多く身につけることが直観を生む基礎になる」

と考えるようになっています。

ということは、瞑想を行うだけではなく、
直感を発揮したい分野で数多くの経験を積み、
そこから成功パターンを抽出しようとする作業を継続することが
必要だと考えられますね。

投稿者 松尾 順 : 11:08 | コメント (0) | トラックバック

「ひらめき」と「直感」の違い・・・イチローの悟り

「ひらめき」と「直感」はどう違うのか?


この疑問に対して、「海馬」の研究で知られる池谷裕二氏
(東京大学大学院薬学系研究科准教授)がわかりやすい解説を
してくれています。
(Think! WINTER 2008 No.24)


「ひらめき」(Inspiration)によって得た答えは、

「なぜそれが正解か」

を自分で説明することができます。


例えば、次のような数列、

2、4、6、□、10

の「□」の部分にどんな数字が入るかは、
パッとわかります。

「8」ですね。

そしてなぜ「8」が正解なのかについて、

「偶数が小さい順に並んでいるから」

といった説明が可能です。


しかし、「直感」(Intuition)は、

「なぜそれが正しいのか」

を言葉でうまく説明できません。


将棋で言えば、
プロ棋士は論理的思考力を活用して何十手も先まで読み、
次の手を瞬時に「ひらめく」ことができます。しかも、
それが最適手であることを論理的に説明できます。

しかし、局面が複雑になって選択肢がたくさんある場合、
さすがのプロでも先を読むことが難しくなることがある。

そんな時でも、なんだかわからないけれど

「この手を打てばいい」

と瞬時にわかるのだそうです。

これが「直感」です。


池谷氏によれば、「ひらめき」と「直感」は、
使っている脳の部位が違います。

すなわち、「ひらめき」は、

「大脳皮質」や「海馬」

といった場所の働き。

しかし、「直感」は、
大脳皮質の前頭葉のすぐ内側にある

「ストリアツム」(線条体)

の働きなのです。


「ストリアツム」はあまり馴染みがない名称ですが、
自転車の乗り方、箸の持ち方などの

「体の運動を制御する場所」

です。


自転車の乗り方を一度覚えると、
まず忘れてしまうことがありませんよね。

「ストリアツム」は、
このような、無意識にしまいこまれてしまう

「潜在記憶」

を司るところと理解すればいいようです。


「直感」とは、ストリアツムによって、
潜在記憶の中で高速に計算が行われた結果出てくる

「答え」

だから、言葉での説明がうまくできないのです。


一方で、ひらめきを生む「海馬」は、
自分で意識的に思い出すことのできる

「顕在記憶」

を司っています。

ですから、ひらめいた答えの説明が可能なのです。


さて、ここからは私の勝手解釈ですが、
「ひらめき」「直感」は、要するに、

「見える領域」(ひらめき)と「見えない領域」(直感)

をそれぞれ活用できる力と言えそうです。

そして、とりわけ

「見えない領域」

を活用できるようになるためには、
長年にわたる修練を積む必要がある。

つまり、その道の超一流と呼ばれるような域まで達しないと、
優れた直感力は発揮できないと考えられます。


優れた直感力を持つプロと言えば、
将棋の羽生喜治氏や、メジャーリーガーのイチロー
あたりを真っ先に思い出しますね。

彼らは、高い論理的思考力によって、
ロジカルに自分の領域を分析し続けてきており、
高度な「ひらめき力」を持っていると同時に、
体に覚えこませた記憶を駆使して優れた「直感力」も
身につけているのでしょう。


NHKプロフェッショナル 仕事の流儀の

「イチロースペシャル」(08年1月2日放送回)

の中で、イチローは、

「見えないものを制御したい」

ということを強調していましたが、
これこそ、今以上に打撃能力を高めるためには、

「直感力」

を高めるしかないということをイチローが悟っているから
だと言えそうです。

投稿者 松尾 順 : 12:09 | コメント (3) | トラックバック

サル仕事が新たな発想を生むことの示唆

昨日、紙の資料をPCに入力するため、
ひたすらキーボードを打ち続けていると、
新たな発想を得る瞬間がやってくるという話を書きました。

サルでもできる、あるいはサルにでもやらせたい、
そんな退屈な単純作業という意味の

「サル仕事」

が新しい発想をもたらしてくれるというのは、
不思議なことですよね。


さて、なぜこんな現象が起こるのかという理由については、

「知的情報の読み方」(妹尾堅一郎著、水曜社)

を読んでくださいということにしておりましたが、
それはあまりにひどかろうと思いましたので、
同書の中で、妹尾氏が挙げている3つの理由(示唆)を
ご紹介しておきます。


1点目は、「量」は「質」に転換するということです。

ひたすらデータを入力するという単純作業を通じて、
少しずつ蓄積されていくデータが、
ある閾値を超えた瞬間に一挙に抽象概念として焦点を結ぶ。

ひたすら同じ動作を繰り返すことは、
スポーツや武道の基本練習に似ていますね。

一流の域に達したアスリート、武道家は、
やはり、「質」を云々する前に、まずは圧倒的な練習、
稽古を積み重ねることの重要性をわかっています。


2点目は、サル仕事から新たな発想を得るということは、
「ミョウバン型」の発想法を無意識に実践していたのだろうと
いうことです。


妹尾氏によれば、発想法は大別すると

「樹氷型」と「ミョウバン型」

の2つがあると考えているそうです。

樹氷型は、ある軸(樹氷でいえば樹木そのもの)がまずあり、
そこにさまざまな情報(樹氷)を付加していくことによって
新たな発想を導くものです。

一方、ミョウバン型は、ミョウバンを水にどんどん溶かしていき、
一定の濃度を加えたところで強い衝撃を加えると突然結晶化する
現象になぞらえて、情報の蓄積から突然新たな着想を得ること。

ここで、樹氷型とミョウバン型の発想法の違いは、
樹氷型は、元の軸(樹木)が核としてあるために、
その形を超えた発想が生まれることはないのに対して、
ミョウバン型は、その水溶液と結晶がまったく異なる姿を
しているのと同様、元の情報と、新たに得た発想に大きな違い
(飛躍)があるという点です。


私の考えでは、樹氷型は、ロジカルな手順を踏む各種発想法
(オズボーンのチェックリストなど)のテクニックが適用可能。
しかし、ミョウバン型は、漠然としたテーマはあっても、
出発点としての軸はなく、とにかくひとつの箱(頭脳)の中に
大量のデータをぶち込んでいくうちに、突然変異的に閃きを
得るもの。

したがって、ミョウバン型の発想法は、明快なテクニック
として確立できるようなものではないと思います。


ただ、ミョウバン型の方が、樹氷型よりも
はるかに斬新で型破りな着想が得られるわけですから、
もし、ミョウバン型の発想を得たかったら、
出発点としての軸(ある場合には「仮説」と呼べるもの)を
持たず、無駄を承知のサル仕事に取り組んでみることが必要
でしょう。

この対比は、仮説ありきの従来のリサーチと、
ともかくも膨大なデータと格闘する中で新たな金鉱(知見)を
発見しようとする「データマイニング」の関係に似ていますね。


さて、3点目の示唆は、
私たちは、情報を頭だけでなく、身体でも読んでいる
ということです。

何か新しい企画づくりに取り組むとき、
ただ頭の中であれこれ考えを巡らせるのではなく、
紙とペンを用意して、浮かんだアイディアを言葉や絵として
書き留めていたら、いい企画ができたという経験があなたに
もありますよね。


考えてみれば、情報とは、資料に表された数値や文字
といったものだけでなく、私たちの5感を通じて得る、
数値や文字にしがたいものもすべて「情報」です。

そうした、いわば「目に見えない情報」を
身体を通じて取り込むことが、新たな発想を得ることに
役立っているといえるのかもしれませんね。

投稿者 松尾 順 : 15:23 | コメント (4) | トラックバック

木の根っこ問題

「何が問題なのかがわかれば、その問題は解決したも同然だ」

という表現を聞いたことがありますか?

言うまでもなく、問題が特定できなければ、
解決策を考えることができません。

逆に、問題が特定できさえすれば、
解決策は、案外シンプルなものであることが多いですよね。

ですから、何が問題であるかさえわかれば、
解決に大きく近づいたことになるというのは確かです。


ただ、組織上の「問題」を特定するのは
それほど簡単ではありません。

なぜなら、何が問題かということについて、関係者が

「共通の認識」

を持つことが難しいからです。


各関係者が認識している問題が異なると、
それぞれの解決策も異なってくるため、議論が噛み合わない。

その結果、解決策がなかなか決まらないということになります。


こうなるのは、各関係者が目指す目的・目標や、重視点が
それぞれ違うからという点も大きいのですが、そもそも、

何が問題で、何が原因か

といった思考法に慣れていないという理由もあります。


そこで、私は、関係者(プロジェクトメンバー等)の間で、

「木の根っこ問題」

というトレーニングをすることがあります。

これは、

「問題とは何か」

を理解してもらうためのもの。

以前、日経コンピュータに掲載されていた
プロジェクトマネジメントの記事で見つけて、
なかなか面白いと思ったので業務に使わせてもらっています。


では、「木の根っこ問題」が
どんなものか簡単にご紹介しましょう。


次の文章を読んでください。


「道路作業員が、毎日5メートルの道を作っている。
 しかし、ある日は3メートルしか作れなかった。
 調べたら、 前方に障害物があることがわかった。
 それは‘木の根っこ’だった。」


さて、ここで「問題」は何でしょうか?


すんなり問題が特定できることもあります。

しかし、ビジネス的な観点から深読みしすぎたのか、
次のような答えが返ってくることが結構あります。

「障害物にでくわす前提で計画ができていない」

そして、この原因を聞くと、

「障害物にでくわす前提で計画ができていなかった」

と問題と同じ答えになり、解決策はその裏返しの

「障害物にでくわす前提で計画を立てる」

となってしまいます。


一読すると、以上のやりとりには、
なんら「問題」はないように思えます。

しかし、目先にある「根っこ」を
どうするのかということについては
何も答えていませんね。


さて、「木の根っこ問題」の正解は次の通り。

問 題:5メートルの目標に対し、
    3メートルしか道路が作れなかったこと
原 因:木の根っこがあったから
解決策:木の根っこを取り除くこと


正解を聞いてみればなんてことはありませんね。

要するに、問題とは、

「目標と実績のかい離」

のことなのです。

そして、そのかい離を生み出したのが「原因」であり、
その原因を取り除くことが「解決策」なのです。

したがって、問題を議論するときには、
「目標」が何かを念頭に置く必要があるわけです。


先ほどの深読みしすぎたような答え、

「障害物にでくわす前提で計画ができていなかった」

は、3メートルしか道路が作れなかったという「問題」
を生み出す間接的な原因(要因)と言えます。ですから、

問題の「背景」

と考えるべき事項でしょう。


普段なにげなく使っている、

「問題」や「原因」「解決策」

といった言葉は、その意味を十分把握して使うことを
お勧めします。

投稿者 松尾 順 : 11:55 | コメント (1) | トラックバック

ナレッジマネジメントの「コロンブスの卵」

社員一人ひとりが持つ知識や情報を企業全体で共有し、
有効活用ができるような仕組みを

「ナレッジマネジメント」

と呼びます。


この「社内情報の共有」が
とりわけ有効なのは、営業現場ですね。

あるクライアントでうまくいった提案(成功事例)や
競合情報などを営業担当者間で共有し、横展開を図ることで、
全社的な営業活動を成果につなげやすくなるからです。


ですから、近年、
営業現場のナレッジマネジメントを推進するため、
単に営業活動の進捗状況等を管理するだけでなく、
営業活動を通じて得られた情報を入力・共有できる機能も備えた

「営業支援システム」(SFA:Sales Force Automation)

の導入が盛んです。


ただ、こうしたITシステムの導入は比較的簡単ですが、
運用(定着)はとても難しい。

というのも、一日外回りで忙しい営業マンにとって、
自分が持っている情報を自分で入力するのは、
実に面倒なこと。

営業日報の作成だけでもけっこう面倒なのに、
それ以外にこまごまと情報を入力する時間なんか取れないよ
ということで、なかなかうまくいかないのです。


実は、カルビーも、
当初導入した営業支援システムでこの問題に直面しました。


同社の約250人いる営業担当者は、
1人あたり約40店舗を担当、情報収集をしています。

彼らは、

・棚の品揃え
・同社商品がお客様とどう受け入れられているのか、
・小売店が同社に対してどう思っているのか

などの情報をシステムを通じて全社で共有できるように
しています。


当初は、営業担当者が帰宅後、
自宅のパソコンから情報を入力する仕組みとしていました。

ところが、それだと1時間も2時間もかかってしまう。

同社の営業担当者は、主婦が多いそうですが、
この仕組みだと、ご主人や子供の世話をする時間が
なくなってしまうと苦情が殺到したそうです。


そこで、解決策として、
同社は、携帯電話を活用することにしました。

具体的には、
携帯電話を使って商品のバーコードを読み取り、
商品情報を取り込めるようにしたのです。

こうすることで、店舗の品揃え情報の収集を
簡単にしたわけです。


もうひとつは、営業担当者がお店で気づいたこと、
お店の人から聞いたこと、お客さまから聞いたことなどを
自分で入力するのではなく、コールセンターに電話して、
コールセンター側で入力するようにしました。


なるほど、

言われてみればそんなやりかたもあったなあ!

と思いませんか?


私が、同社のこの話を初めて聞いたのは
数年前のことでしたが、その時は、

「コロンブスの卵」

的なアイディアだなあと感心したものです。


よく考えてみれば、
営業担当者自身が情報を入力しなければならない
必然性はありません。

カルビーのように、
コールセンターのオペレータとの連携プレーで情報を
蓄積すれば運用が円滑になりますよね。

実際、この仕組みに変えたおかげで、
どんどん情報が集まるようになり、
営業担当者の家庭も円満になったそうです。


さらに興味深いのが、
この仕組みには、思いもしなかった別のおまけが
ついてきたことです。


コールセンターの入力担当者は、
日々、営業から寄せられた情報をシステムに
入力しています。

この時、入力担当者の頭の中にも、
それらの情報が入るわけです。

すると、コールセンターの担当者自身も、
営業情報の中に新たな発見や気づきを得るようになった。


つまり、

「ナレッジの創造」

が、営業とコールセンターの情報のやりとりを
通じて起きるようになったのです。


参考情報:NBonline IT経営問答
*「馬鈴薯の底力」をイノベーションで引き出す

投稿者 松尾 順 : 10:44 | コメント (2) | トラックバック

「面白がり」になる方法

先日書いた「創造性の必要条件とは?」で、
優れたクリエーターたちはみな、強い「好奇心」の持ち主
であることを指摘しました。

すなわち、好奇心を阻害する「固定観念」や「先入観念」を
簡単に捨てることができ、どんなことに対しても虚心坦懐に

「面白がれる」

ということが「創造性の必要条件」であるということです。


ただ、この記事を書きながら、
ひとつ気になっていることがありました。

それは、

・どうしたら「強い好奇心の持ち主」になれるのか?
・どうしたら、何に対しても「面白がれる」ようになれるのか?

ということでした。


正直なところ、「好奇心の強さ」は生まれつきのものか、
子供の頃の環境によって決まるものだと思っていました。

ですから、大人になってから、

「好奇心」

を強化できるトレーニングなんてないだろうと・・・


でも、確実に好奇心を強化する効果がありそうな方法が
ひとつあることが昨日わかりました。


それは、

「お遍路さん」

になって、四国八十八箇所の札所を回ることです!


実は昨日、過去3年間ほど愛媛での仕事のため
四国に住んでいた友人(女性)が今年東京に戻ってきまして、
四国滞在中に「お遍路さん」をやった話を聞きました。


彼女(以下、Yさん)の話で特に面白かったのは、
八十八箇所を回りきった今、

「なにを見てもやっても楽しい」

と、感じるようになったということでした。


それはなぜなのか、私は突っ込んで聞いてみました。

Yさんによれば、お遍路さんをやっている間に
次のような気持ちの変化があったそうです。


八十八箇所を全部回りきるためには、
毎日30キロ程度歩いても40日以上かかります。

すなわち、総歩行距離は1200-1400キロに達します。


最初は、

「なんでこんなこと始めちゃったんだろう・・・?」

と多少後悔したそうです。


しかし、歩く途中に見える田んぼや山、川などの
自然の風景のすばらしさに感動し、だんだんと楽しく
なってきた。

ところが、さらに歩いていると、
どこまでいっても同じような風景が続くため

「飽き」

が来たのだそうです。

しかし、ここからが大事だとYさんは思い、
我慢して歩き続けた。

そうすると、淡々とした単調に見える風景の中に、
新鮮な何かを感じることができるようになったらしいのです。

今日見えている山は、昨日見た山と同じような山だけれども、
歩き続けているわけですから、もちろん違う山です。

ここで、Yさんは、2つの山の同じ点(共通性)ではなく、

微妙な「違い」(異質性)を見つける、感じること

ができるようになったのです。

一言で言えば、感受性が磨かれたということでしょう。


そして、Yさんは、東京に帰ってからも、
日々の何気ない日常の中から自分にとって楽しいことや
面白いことをごく自然に感じ取ることができるようになった
というわけです。


この話を一緒に聞いていた仲間の一人は、

「Yさんは人生の達人になったんですね」

と言ってましたが、まさにその通りでしょう。


毎日を新鮮な気持ちで迎えることができ、
日々、「発見」の喜びを得られる人こそが

「人生の達人」

です。

そして、こうした発見が、
新たな創造へと昇華されていくのだと思います。


さあ、あなたも「面白がり」になりたかったら、
四国八十八箇所、お遍路の旅にチャレンジです。(笑)

投稿者 松尾 順 : 09:00 | コメント (6) | トラックバック

創造性の必要条件とは?

先日、前職の広告会社のOB(卒業生)のうち、
主にネット系の仕事をやっていた10人ほどが集まり、

「同窓会」

を開きました。場所は、恵比寿のイタメシ屋。


およそ10年ぶりくらいに会う人たちも多くて、
とても懐かしい再会となったのですが、

「あの人、今はどうしてる?」

なんて、懐古趣味的昔話にはまったく花が咲くことなく、
延々とくだらないバカ話に終始したのが最高でした!

みんな過去を振り返ることなく、
前のめりに生きてるやつらばかりということでしょう。


さて、こんな愉快な仲間たちのうち、一人(女性)は

『ほぼ日刊イトイ新聞』

を運営している

「株式会社東京糸井重里事務所」

に数年前に転職しています。

彼女とは、前職以来の再会でしたが、
糸井事務所で楽しく働いているようです。


「ほぼ日」は、
私も大好きなサイトのひとつですし、
関連の本、例えば

『言いまつがいシリーズ』
『経験を盗めシリーズ』

などは全部読んでいます。


ですから、私にとって、糸井さんは憧れの存在。

糸井さんの身近で働けていいなあ・・・と
思いつつ、ミーハー丸出しの質問を彼女にしてみました。


“糸井さんって、どんな人?”

“すごい「面白がり」ですね。なんにでも興味を示して、
 すぐに手を出してみるんです。若い人の話も、
 偉ぶらず、純粋な気持ちで聴けるのがすごいです。”


なるほどねぇ。
糸井さんは来年還暦を迎えられるとのことですが、
いつまでも衰えない創造性の元は、この強い

「好奇心」

にあるようです。


この同窓会の翌日は、
演劇集団キャラメルボックスの代表、
加藤昌史氏の講演会でした。

この講演の中で、加藤氏は、
普段から心がけていることとして

「普通でいること」(=プロの気持ちになりすぎない)
「ミーハーでいること」(=好奇心を持つ)

を挙げていました。

加藤氏は、普段道を歩いても、
あれこれ面白いものを探してキョロキョロしてる
そうです。

また、お店に入っても、
たとえば、注文した料理の出てくるのが遅かったすると、
わざわざ厨房まで見に行って、人の動きを観察し、

「あいつの手際が悪いから、料理が遅くなってるんだな」

などと原因を解明せずにはいられない。


キャラメルボックスは、
斬新なアイディアに基づくユニークな取り組みが有名ですが、
加藤氏のこの「好奇心」が源泉にあるのは間違いないでしょう。


さらに、数日後、「情熱大陸」に出演した放送作家、
の秋元康氏の回を見ていたら・・・

秋元氏は、自分が取材対象なのに、
自ら情熱大陸の台本らしきものを作成していましたが、
そこには「好奇心」というキーワードがいくつも
書かれていました。

秋元氏もまた、自分の創造性を支えているのは、
自身の強い「好奇心」にあることを自覚しているようです。


こうして短期間のうちに、
高い創造性を発揮し続けるクリエイターに共通する特徴は

「好奇心」

であることを改めて再確認できました。


もちろん、好奇心さえあれば、
糸井、加藤、秋元氏のような高い創造性を獲得できる
というわけではないでしょう。

しかし、創造性の必要条件が、

「好奇心」

であることは間違いありません。

投稿者 松尾 順 : 10:31 | コメント (2) | トラックバック

日本で一番差別化を図る会社

日本一休みが多い会社はどこか、ご存知ですか?


年末年始20連休。夏休みとゴールデンウィークは各10連休。
祝日が木曜か火曜なら、中日を休みにして4連休。

その結果、年間休日は140日。

就業時間は、朝8時半~午後4時45分。
残業原則禁止です。

世の中にこんな会社があるのかと驚きますよね。


質問の答えは、メディアでも紹介されることの多い

「未来工業」

です。

ちなみに、「未来工業」という社名は、
同社創業者、山田昭男氏が若いころ結成した

「未来座」

という劇団からきています。


同社では、建物の電気工事に使う各種機器や工具等を
開発・販売しています。

直接の販売先は、主に2次問屋。
そこから、電気工事業者、ユーザーへと製品は流れていきます。

そして、最大の競合は、


“世界のナショナル”松下電工

です。


失礼ながら、未来工業は、
岐阜に本社を置く地方の中堅企業に過ぎません。

しかし、70-80%のシェアを誇る製品を多数有し、
経常利益率15%以上をキープしている

「エクセレントカンパニー」

なのです。


さて、同社が製造する「電気設備資材」は、
材質やつくり方(仕様)が、法律(電気用品取締り法)で
細かく決められています。

仕様を変えすぎると「法律違反」になります。

このため、どの会社も同じような製品しか作れない、
差別化のきわめて困難な事業分野です。


ところが、同社では、

「未来工業は、よそと同じものはつくらん」

と決めたそうです。

そして、法律で縛られた仕様の範囲内での細かい工夫、
すなわち「差別化」をとことん追求していったのです。


たとえば、壁の裏側に取り付ける

「スライドボックス」

という製品があります。

これには、従来「15ミリのビス」が付属していました。
しかし、壁が厚い場所があると15ミリのビスでは
取り付けられない。

このため、職人さんは、わざわざ長いビスを買いに
工具店に走っていました。

そこで、未来工業では、

「20ミリのビス」

を付けることにしたのです。


「長いビスがついているのは未来工業にしかないよ。
 日本で初めてだよ」

「本当だ、それは買いたい」

というわけで、
みんな未来工業の製品を買ってくれるように
なったのです。


これこそ

「コロンブスの卵的アイディア」

ですねぇ。

しかし、こうした差別化の積み重ねが、
松下電工をも凌駕する製品開発につながっています。


私が興味深いと感じたのは、
山田昭男氏の次の言葉です。

“ある日突然、差別化しろといってもできるもんじゃない。
 ものづくりという本番に向けて「常に考える」という
 スローガンのもと、あらゆるものを差別化し、訓練を
 しておく。芝居と一緒で大切なのは稽古だ”


なるほど。「差別化の訓練」ですか。
休日が長いのもその差別化のひとつですね。


同社内には、

「常に考える」

というスローガンが、階段の踊り場、廊下の壁、
防火扉など、10メートルごとに貼ってあります。

そして、どんなくだらないアイディアに対しても、
500円を現金で払う「報奨金制度」を設けることで

「常に考えること」

を動機付けています。


こうして、未来工業は、

「日本で一番差別化を図る会社」

となったわけです。


山田氏は言います。

“一見バカげたことでも、一生懸命、継続していれば、
 すごいパワーを発揮するようになるものだ”


「うちの事業・製品は、差別化が難しいんだよな・・・」

と嘆いている他の企業さんは、

「差別化の訓練」

が足りないんじゃないでしょうか?


(参考文献)

・『楽して、儲ける』
(未来工業・創業者 山田昭男著、中経出版)

・[野中郁次郎の成功の本質](Works Aug.-Sep. 2007)

投稿者 松尾 順 : 11:23 | コメント (1) | トラックバック

「切る」「捨てる」発想(2)

今回は、スーパーマーケター、森行生さんが説く、

「ヒット商品の生み出し方」

の手順のご紹介です。


まずは、新商品のアイディアを200-300くらい出します。

それを、次の段階で150案、さらに50案、
そして最終的に「10案」程度まで絞り込んでいきます。


これこそが「ヒット商品」を生むために、
ばっさりと

「切る」「捨てる」

作業です。


森さんによれば、この作業において
アイディアの良し悪しを判断する「ポイント」は、
次のたった二つだけです。

・「好きか・嫌いか」(優位性)
・「ありきたりか・ありきたりでないか」(差別性)

この2つの軸は、

「5段階評価」
(ex. かなり好き、やや好き、どちらでもない、
    やや嫌い、かなり嫌い)

で評価します。


そして、様々なアイディアを評価した結果を

縦軸:「好き-嫌い」(優位性の軸)
横軸:「ありきたり-ありきたりでない(差別性の軸)

のマトリックスに展開し、
「ポジショニンブマップ」(分布図)を作成するのです。
(いわゆる「ポートフォリオモデル」)


このマトリックスを大きく4つの象限に分けて
それぞれの象限に入ったアイディアの評価を表現すると
次のようになります。(右上から時計回り)

------------------------------------------------

◎第1象限(好き・ありきたりでない):スター企画

優位性も差別性も共に高いアイディアですね。


◎第2象限(嫌い・ありきたりでない):偏屈企画

優位性は低いが、差別性は高い。
くせのある企画という言い方もできそうです。


◎第3象限(嫌い・ありきたり):クズ企画

優位性も差別性も、共に低いアイディア。
売れないアイディア。


◎第4象限(好き・ありきたり):定番企画

優位性は高いが、差別性は低い。
どの企業も参入してきやすいので競争が激しい
ことが予想されるアイディア。

------------------------------------------------

これらのうち、当然ながら

「スター企画」

は最終候補に残します。


一方、言うまでもなく、

「クズ企画」

は早々と捨てる。


残る2つのうち、

「定番企画」

は、競争が激しいだけに大手じゃないと
体力的に戦えない。


そこで、森さんが最も注目するのが

「偏屈企画」

です。

ここにこそ、

「ヒット商品のねらい目」

が眠っていると、森さんは指摘しています。


さて、こうして絞り込んだアイディアは、さらに

「下線分析」

と森さんが呼ぶ調査にかけます。


これは商品コンセプトをA4数枚に、
詳しく書いて、消費者に読んでもらいます。
そして、読んだ人が気になった部分に

「アンダーライン」

を引いてもらうという調査手法だそうです。


この調査結果は、クロス集計してグラフ化。
すると、消費者が気になっていること、
求めていることが浮き彫りになってくる。

そのうえで、アイディアをさらに絞ったり、
似ているものを統合したり、男性と女性向けに
う分割するなど「洗練」させていくのだそうです。


以上のプロセスを森さんは、
次のように簡潔にまとめてくれています。

1 まずはアイディアを徹底的に「広げる」
2 次にそれを無慈悲に「切る」
3 そして残ったものを作り込む、すなわち「洗練させる」


ちなみに、この3つのプロセスのうち、
2の「切る」が最も重要なのだそうです。

あれやこれやと「付加価値」をつめこむのではなく、
ターゲットを明確にして「切る」という

「減産価値」

こそ重視すべきだからです。


なお、2回にわたってご紹介した森行生さんによる、

「ヒット商品の見極め方、生み出し方」
について詳細を知りたいかたは、

『予測する力養成講座』
(講談社MOOKセオリーVol.11)

を読んでみてください。


*(ご参考)森行生さん主要著作

『シンプルマーケティング』
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

『ヒット商品を最初に買う人たち』
(森行生著、ソフトバンク新書)

投稿者 松尾 順 : 12:15 | コメント (2) | トラックバック

「切る」「捨てる」発想(1)

「シンプルマーケティング」

の著者であり、近著の

「ヒット商品を最初に買う人たち」

も好調に売れているスーパーマーケター、
森行生さんが、珍しくムック本に登場されていました。


森さんは、

「予測する力養成講座」(講談社MOOKセオリーVol.11)

の中で、上記の本には書かれていないノウハウを
明かしてくれています。

そこで、ポイントを2回に分けて簡単にご紹介しておきます。


テーマは、

「ヒット商品の見極め方」

です。


森さんによれば、商品がヒットするかどうかは、

“ヒットしない要素をしっかり削ってあるかどうか”

で見極めることができるのだそうです。


なぜなら、ある商品がヒットするかどうかがわかる
(予測できる)確率は、せいぜい5-7割。
しかし、ダメな商品、ヒットしない商品は100%わかる。

ですから、

“商品からヒットしない要因を消してしまえば、
 ヒットする確率は大幅にアップするというわけです。”

とのこと。

そして、ここで大切なのが、

「切る」あるいは「捨てる」という発想

です。


商品のターゲットを設定するとき、
売る側としてはついついたくさん売りたいものだから、
ターゲットを広げすぎてしまいやすいですよね。

しかし、そうすると、ターゲットが広い分、
商品の訴求ポイントも拡散し、
何がなんだかわからなくなってしまいます。

ですから、まずは

「買って欲しくない層」

をきっちり決めることが大切。


「切る」「捨てる」発想によって
ターゲットを絞り込み、せいぜい3つまでにする。
これがマーケティングの基本であり極意。

この作業によって、ユーザーが分かりにくい要素が
すっきりと排除されると、森さんは指摘しています。


そして、この基本ルールを端的に言い表したのが、

「一目、一言、なるほど」

というフレーズ。


具体例としては、花王の「ヘルシア緑茶」。

一目で、「お茶」とわかる。

一言は、「カテキンが脂肪を燃やす特定健康用食品」

そして、メタボリック症候群を気にしている肥満の人に

「なるほど、身体にいいんだ」という共感をもたらす。

このように、ヘルシア緑茶の特徴やベネフィットが、
「シンプルでわかりやすい形」で消費者に伝わったから
ヒットしたのだそうです。


確かにヒットする商品は、
その魅力がシンプルに伝わってきます。

大ヒットしている任天堂のゲーム機、

「Wii」

なんかもそうですね。

投稿者 松尾 順 : 12:42 | コメント (0) | トラックバック

自論力を磨け!

ビジネスの成功者、あるいは、その道の第一人者と言われる
様々な分野のプロフェショナルは、皆、
自分の経験や学んだことから、独自の

「ロジック」

を構築しています。

そして、日々直面するさまざまな課題や問題に対して、
その「ロジック」を元に判断を下しています。


このロジックのことを「持論」または「自論」と呼びます。
(以下は、自分なりの理論という意味で「自論」に統一します)


「自論」は、端的に言えば各自が持つ

「哲学」や「価値観」

のことです。


さて、

「自論が、客観的に正しいかどうか」

はあまり重要ではありません。


重要なのは、

「自論を持っているかどうか」

です。


なぜなら、自論を持っているというのは、
物事の「判断基準」がはっきりしているということです。

つまり、自分のよりどころとする主軸が明確です。
このため、行動に一貫性が生まれます。
ブレがありません。迷いがありません。

こうして、一貫した行動を続けることによって、
周囲の評価が高まり、成功を収めることができるからです。
(もちろん、全員が成功するわけではありません)


逆に、自論を持っていなかったらどうなるでしょうか。

すると、直面する課題や問題に対して、
自分では判断ができない。

したがって、他人の動きを真似するか、
他人の意見に盲従するしかありません。

この場合、自分の主軸に基づかない判断であるため、
その時々で判断がブレます。一貫性がありません。


この結果、運がよければ一時的に成功することも
ありますが、長期的には成功できないで終わるのです。


以前のように、経済・社会の変化が緩やかで、

「こうすれば、ほとんどの人がうまくいく」

といった答えがあった時代であれば、自論を持たず、
他人に追従するだけで一定の成功を収めることもできました。


しかし、今は「答えのない時代」です。

自分なりの哲学、価値観を明確に打ち立てること、
すなわち、

「自論力」

を磨くことが必須ではないかと思います。


しばしば、自論が強すぎて暴論に聞こえることもある(失礼)、
大前研一氏も次のようなことをおっしゃっています。

“21世紀に最も重要なのは、答えがなくても自分は
 こうだと思う、と言えることです。しかも単なる意見
 ではなくて、証拠とか、データとか、分析に基づいて
 論旨を展開した結果、自分はこう思うと打ち出す。
 クラスに20人いたら、20人が違うものを持ち寄ってきて、
 じゃあ、どうしようかということを考えられる。
 これが非常に重要な21世紀を生き抜くスキルになります。”

なお、先ほど、

「自論が、客観的に正しいかどうか」

はあまり重要ではないと書きました。

しかし、あまりに利己的な自論は、
いつかは社会から「NO」を突きつけらます。

したがって、決して

「長期的な成功」

にはつながることはないと認識しておくべきでしょう。


企業の不祥事が毎日のように暴露される昨今、

「金儲けのためなら何をしてもよい」

という自論を持つ経営者は実に多いことがわかりますが、
そうした人たちはほぼ100%没落していますね。


*大前研一氏のコメントは、
 日経コンピュータ創刊25周年記念セミナー
 「ITがもたらすビジネス・イノベーション」の基調講演から

投稿者 松尾 順 : 11:06 | コメント (4) | トラックバック

メタ認知力を磨け!

いい仕事、とりわけ、新商品開発やコピーライティングなど、
「創造的な仕事」、「表現する仕事」で成果を出すために
欠かせない基礎能力、それは、

「メタ認知力」

です。


これは、自分の行動や生み出したものを

「客観視」

できる力のこと。


イメージ的には、もう一人の自分が身体から離脱して、
斜め後ろ上方から、自分を眺めているような感覚ですね!

ですから、人によっては、「メタ認知」のことを

「幽体離脱」

などと言う方もいます。


かくいう私も、

「メタ認知力」

をできるだけ高めたいと長年意識してきたんですが、
最近、改めてこの重要性に気づかされました。

それは、私が参加しているゴスペルグループで
歌の練習をしていた時でした。


私はこれまで、ちゃんとした歌のレッスンを
受けたことはなかったのでよく知らなかったのですが、

「歌う技術」

も、実に奥が深いんですね。


練習では、プロの先生の指導を受けつつ、
たとえば「声を出す方向」をいろいろと変える練習をします。


・まっすぐ前に出す
・斜め上にほうり投げるように出す
・斜め後ろにだす
・真下に落とす
・頭の真上に、もやもやとけむりが立っているように出す

など、確かに、このような声の方向をイメージをしながら
声を出すと、声の方向が変わるのが実感できます。


プロのボーカリストは、こうしたテクニックを駆使し、
声の「音色」や「強さ」にメリハリをつけることで、
聴き手を感動させる歌を歌うことができるというわけです。


ただ、こうしたスキルがどんなに上達したとしても、
優れた歌い手になるためには、

「歌に没入している自分を、
 もう一人の冷静な自分が見ていなければならない」

ということを先生から指摘されたのです。


逆に言えば、単に、自分の感情のおもむくまま、
好き勝手に歌うのではダメだということなのです。
(どうせ誰も聞いていないカラオケならOKでしょうけど。)


優れた歌い手は、メロディや歌詞を自分なりに解釈し、

「私はこのように歌いたい」

というイメージ(ゴール)を明確化し、その上で、

「そのイメージを実現するためには、
 どんな歌い方をするのが最適か」

をもう一人の冷静な自分がモニタリングしながら歌う。

もし、ライブステージで歌っているのなら、
会場の音の反響の様子や、聴衆の反応をリアルタイムで
チェックして、臨機応変に表現のスタイルを変えていく。

これは、もう一人の冷静な自分がいなければできないこと。


いわば、

「熱くなっている自分」

「冷静な自分」

が対話しながら、歌という表現を作っていく。


これこそが「メタ認知力」です。
そして、これができるのが「真のプロ」だと言えます。


新商品開発などでも同様ですよね。

開発担当者は、自分が手がけている新製品に対して
とことん惚れ込む必要がある。


でも、同時に、

「この製品は本当にユーザーに受け入れられるか?」

をちょと突き放したところから考えている必要があるのです。


NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも登場された
工業デザイナー、奥山清行氏もまた、同様のことを
おっしゃっています。(宣伝会議、2007.7.1)


“『仕事と人』、『モノと自分』を分けて考えることは 
 プロの最低条件です。”

“とりわけデザインは、自分の身を切り売りするような行為
 ですし、お客さんも人間性の表れた「顔の見えるもの」を
 好む。だからこそ、クリエーターは自分の生み出したものを
 客観的に見られる技術を身につけないといけない”

“自分のデザインしたものはいずれ自分の手を離れ、
 一人歩き していきます。それを誰よりも冷たく見られれば、
 どんな批判にさらされても、その批判は自分の中に既に準備
 できている”

“僕自身はそうやって、自分のデザインしたものとの距離を
 とってきました。”

投稿者 松尾 順 : 11:31 | コメント (4) | トラックバック

生物の進化=社会・企業の進化

旭山動物園の小菅園長のお話の中で、
もうひとつ、印象に残った内容をご紹介したいと思います。
(なお、説明のわかりやすさのため、私が若干補足しています。)


それは

「生物の進化」

についてです。

生物は、安定した環境にあり、
そこにうまく適応できている状況では、
徹底的に「異物」を排除します。

なぜなら、「異物」は
自らの存在を危うくするものだからです。


ところが、環境の激変などにより適応が困難になっていく
状況では、異物を受け入れる

「スキマ」

ができるというのです。

異物は、そのスキマから入り込み、
生物に変異を起こします。

そうして変異を起こした生物の中から、
新たな環境に適応できる能力を備えた生物が生き残り、
「命」をつないでいきます。


この話の示唆するところ、それは、

自らの生存がおびやかされるような外的変化が起きないと、
生物はなかなか変化を受け入れない

ということです。


これって、社会や企業においてもまったく同じことが
言えますよね。


異端のリーダーが登場し、
社会や企業が大きな変革を受け入れるのは、
安定期ではなく、外部環境が大きく変化する時期だけです。


実は、

「動物園」

という存在において、「旭山動物園」は、
数々の常識を破ってきた「異端」です。

そして、動物園が生き残るための

「次世代のあるべき姿」

を先取りして見せていると考えることができます。


小菅園長によれば、動物園の来園者数は、
数十年前は全世界で

年間10億人

と算出されていたそうです。


ところが、現在はそれが

同8億人

にまで落ち込んでいます。
日本の動物園でも減少傾向は顕著でした。

全世界的に「動物園」の存在意義が
問われていると言えます。


そんな中で、「旭山動物園」の革新は、
年間26万人というどん底の来園者数を記録した96年から、
わずか10年で300万人を突破するほどの驚異的な復活を
導きました。

そして、その成功を見て、他の動物園も、
旭山動物園が先行した「行動展示」「能力展示」などの、
これからの環境に適応できるスタイルを取り入れて
自らを変革しようと取り組み始めています。

その結果、上野動物園の場合、
昨年度は60万人も来園者数が増えたのだそうです。


もし、あなたの企業が、
現在の激変する外部環境への適応に苦しんでいるようなら、
企業内に潜んでいる「異端の人」が活躍できる

「スキマ」

を作ってあげる必要があるんじゃないでしょうか。

これまでと同じように「異端の人」を
つぶしていたら、会社の将来はおそらくありません。

投稿者 松尾 順 : 09:15 | コメント (2) | トラックバック

料理の道理=仕事の道理

先日、京都嵐山の老舗料亭「吉兆」の総料理長、
徳岡邦夫氏の講演を聴く機会がありました。

こぶ平さん(現九代目林家正蔵師匠)にちょい似の、
親しみやすい風貌の徳岡氏は、近年マスコミに
頻繁に登場されてますね。


さて、今日は、徳岡氏の講演で聴いたさまざまなお話の中で、

「仕事全般に通じる普遍的なことだなあ」

と思った話をご紹介したいと思います。


徳岡氏によれば、昔、北大路魯山人は、
全国の一流の料理人を集めた「美食クラブ」のようなものを
作ろうとしたことがあったそうです。

そこで、魯山人は、新聞広告を出して、
「自分こそは最高の料理人だ」と思う人を募集しました。


そして、応募してきた料理人には、魯山人自ら面接を行い、

「君はいったい何が好きかね?」

という質問をしたそうです。


この質問に対して、応募者が、
たとえば「釣り」とか「囲碁」とか、
料理以外のことを答えた場合は不合格としました。

「好きなことは料理です」と答えられない料理人は、
「意識が低い」と魯山人は考えていたんですね。


徳岡氏は、仮にこの求人に自分が応募したとして、
魯山人との面接で上記の質問をされた時になんと答えるか、
考えてみたそうです。

単に、

「魚」や「肉」

と答えるだけでは不十分だろう。

「魚」といっても、さまざまな種類がある。
季節によって味が変わる。

頭、胴、尾っぽ、ぜんぶ魚だ。
部位によって味も違う。

また、焼く、煮る、蒸す・・・
料理法でも味が変わってくる。


徳岡氏はこんなことを考えているうちに、

「料理の道理」

という本質に到達します。


「料理の道理」とは、

「結果的にどんな料理を作りたいか」

というイメージ(理想像)を実現するために、
どんな素材のどの部位を選び、どんな料理技術を
使うべきかということです。

これは、いわば料理における

「因果関係」(原因と結果の関係性・ロジック)

と言えるでしょう。


また、料理の先には、それを食べてもらうお客さんが
いますから、彼らが喜んでもらえる料理を作ることが
究極の目的です。


つまり、究極の目的を達成するために
将来のイメージ(理想像)を構想し、
それを確実に具現化できる能力を備えているのが

「一流の料理人」

ということ。


これは、料理に限らず、
あらゆる分野の仕事に当てはまることですよね。

すなわち、

「仕事の道理」

をわかることが、プロフェッショナルの必要条件です。


なお、上記の話も含まれていますが、
徳岡氏の講演レポートが下記にアップされています。

*夕学五十講 受講生レポート 徳岡邦夫氏

投稿者 松尾 順 : 08:46 | コメント (2) | トラックバック

その商品は、どんな奴だ。

当メルマガ&ブログでも以前ご紹介しましたが、

「ペルソナ(デザイン)法」

という比較的新しいプランニング手法があります。


「ペルソナ」とは、
企業が提供する製品・サービスにとって
最も重要で象徴的な

「顧客モデル」(=顧客像)

のこと。

そして、「ペルソナデザイン」とは、
上記の顧客モデルを作ることです。


「ペルソナ」は、実在する人物ではありません。
しかし、ちゃんとした名前を与えます。

そして、性別、年齢はもちろん、
職業、住居、年収、家族構成、趣味、レジャー、
スポーツ、ファッション、購読雑誌、結婚観、
飼っているペット、食事の好みなどなど、
できるだけ詳細なプロフィールを設定します。


すなわち、「ペルソナデザイン」では、
従来のマーケティングにおいて設定されることの多い、

「20代男性」

といった大括りの漠然としたターゲット像と異なり、
より具体的で明確な顧客像を描きます。

したがって、
エッジの効いたデザインやコンテンツ設計、
コミュニケーション施策のプランニングが可能になります。


最近ようやく、ペルソナデザインを解説した単行本が
初めて発刊されたばかりですし、普及はまだまだこれから
というところですが・・・

『ペルソナ戦略-マーケティング戦略、製品開発、
 デザインを顧客志向にする』
(ジョン・S・ブルーイット著、秋本芳伸訳、ダイヤモンド社)


さて、ペルソナ(デザイン)法は、
理想とする典型的な「顧客像」を詳細に描くことによって、
マーケティングプランニングに役立てるわけですが、
同様に「商品」を人に見立てる、すなわち、

「擬人化」

することがあります。


当記事のタイトルとして使わせていただいている、

“その商品は、どんな奴だ”

は、実は、コピーライター、仲畑貴志氏の寄稿記事

「仲畑貴志氏の勝つ広告」(宣伝会議、2007.7.1)

のタイトルです。


仲畑氏は上記記事において、次のように述べています。

“新製品はもちろん、新たに商品広告に着手するときは、
 その商品を一人の人間に見立てて人格形成をしてから
 表現に入ると、その後の広告活動にブレがなく進行できる”

“まず性別を決め、年齢、職業、経済性、生活エリア、
 家族構成、(中略)・・・と細部に至るほど、
 明確な人物像が見えてくる。”

“このように、ひとりの人間として商品のプロフィールを
 設定すると、新聞広告や雑誌広告であれば、ヘッドラインや
 ボディコピーの文体がおのずと生まれ、さらにその文体が
 タイポフェイスを決定し、レイアウトが作られていく。”


つまり、商品の「個性」をはっきりさせ、
人の心に刺さるコミュニケーションを行うためには、
擬人化が有効だということですね。


いま、「個性」という言葉を使いましたが、
ある商品が、単なる「商品」ではなく、

「ブランド」

として確立するためには、
まさにその商品ならではの「個性」を磨き、
際立たせる必要があります。


「擬人化」を行うことは、商品に命を与えるために、
担当者の「魂」を吹き込むようなものと言えるかもしれません。


ついでながら、マーケティング・コンサルタント、
森行生氏の「プロダクトコーン理論」の3層構造、

・規格
・ベネフィット
・エッセンス

のうち、最上位に位置する「エッセンス」とは、
商品が持つ性格(擬人化)のことです。


<ペルソナ(デザイン)関連記事>

*できるだけリアルな「顧客の仮面」をかぶる方法

*ペルソナデザインの専門サイトオープン!

<プロダクトコーン理論関連記事>

*シンプルマーケティング(8)プロダクトコーン理論

*シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番

投稿者 松尾 順 : 05:55 | コメント (2) | トラックバック

お笑いの教科書

島田紳助が吉本入りしたのは、
B&Bの島田洋七の漫才にショックを受けたからというのは
有名な話ですよね。

島田洋七といえば、

「佐賀のがばいばあちゃん」

大好きです。(^_^)


さて、お笑いの世界で成功するために
紳助がまず取り組んだのは、

「お笑いの教科書」

を作ることでした。


「お笑いの教科書」は、
本屋などで買えるものではなかったので
自分で作るしかなかったわけです。


具体的には、
先輩漫才師のしゃべりを一字一句ノートに
書き写すことを続けました。

そして、

・どうしたら客に受けるのか
・客が引くのはどんな場合か

を徹底的に分析し、

「笑いを取るパターン」

を発見、整理していったのです。


客と一緒になって先輩のネタに大笑いしていたら、
その裏にある、

「笑いを取るパターン」

が見えてきません。

そのため、録音テープを回したり止めたりしながら、

「ノートに書き出す」

というわざわざ手間のかかる作業をやったのだそうです。


紳助は、こうしてつかんだ、いわば

「お笑いの原理原則」

を自分たちのネタに応用することで成功します。

たとえば、
竜介は公立高校、紳助は私立高校出身だったため、
2人は公立と私立の違いをよくネタにしていました。

これは、B&Bがやっていた広島、岡山(対東京)を
いじるパターンを置き換えたものでした。

ところで、
紳助が、先輩漫才師のしゃべくりから抽出した

「お笑いの原理原則(パターン)」

は一般に「理論」と呼びます。


よく「机上の空論」と言う方がいますよね。

しかし、本来「理論」とは、
さまざまな実践の中から、成功の可能性が高い

「一定のパターン」(=原理原則)

をエッセンスとして抽出したものです。

もちろん、エッセンスですから抽象性が高くなります。

したがって、別の新たな実践に落とし込む、
つまり応用するためには知恵と工夫が必要です。


どんな世界にも、
成功率を高める一定のパターン(原理原則)としての
「理論」があります。

それを学ぶことが成功の近道じゃないでしょうか。


- 蛇足 -------------------


“この間な、「理論なんか役に立たん」と言うやつがおったんよ”

“ほう、それで?”

“こいつはアホや、本質がわかっとらんと思うて、
 役に立たんのは「理論」やなくて「あんたや」 と
 言うたったんや!”

“きついなあ・・・”

“そしたら、いきなり殴りかかってきよった”

“まずいことになったな”

“待て、待て、わしを怒らすな、この「右手」を使わすな!
 と止めさせようとしたんやけどな”

“おまえの右手はそんなにすごいんかい”

“この右手には暗い過去があると言うてな・・・”

“なんや、暗い過去って?”

“深爪してるねん”


すんません。最後のオチ、完全パクリです。


参考資料:

・紳竜の研究(DVD)

・ご飯を大盛りにするオバチャンの店は必ず繁盛する
 (島田紳助著、幻冬舎新書)

投稿者 松尾 順 : 11:57 | コメント (0) | トラックバック

情報料理人(3)道具

今回は、情報料理人の道具について。


料理の道具は、大きくは以下の2つにわけることができますね。


・包丁のような「切る」ための道具
・鍋のような「混ぜる・合わせる」ための道具


この喩えを用いて、
情報を料理するための道具を考えると、

・情報を切るための道具    →各種フレームワーク
・情報を混ぜる・合わせるための道具 →各種発想法

となります。


「各種フレームワーク」は、
情報をいくつかの要素(カテゴリー)に切り分けて、

「食べやすい(わかりやすい)情報」

にします。


具体的には、すでに多くの皆さんがご存知だと思いますが、

・4P(商品、価格、広告・販売促進、流通)
・3C(顧客、競合、自社)

といったものがありますね。

これらの道具は、「MBAなんとか」といった本で
いくらでも手に入れることができます。

ただ、入手は簡単でも、使いこなせるようになるには
経験を積む必要がありますが。


さて、こうしたフレームワークでやっていることは、
ひとことで言えば、情報の「分析」ですね。

その目的は、前述したように、
生のままでは大きすぎたり、複雑すぎる情報を
細かく分ける。

そうして情報を理解しやすくすることです。


しかし、情報を切り刻んだだけでは、
何も生まれません。

食べやすくはなったけれど、おいしくなったわけではない。

おいしい料理を作るためには、
情報を混ぜ合わせたり、味付けをしていく作業が必要。


そのために、もうひとつの道具である

「各種発想法」

を手に入れ、利用することになります。


具体的には、

・ブレーンストーミング
・オズボーンのチェックリスト

などを始めとして、さまざまなものがありますね。


ただ、情報を混ぜ合わせたり、味付けをするというのは、

「情報と情報の間の意外な関係性を見つける」

ところに妙があり、これは発想法ではなく、

「編集法」

と呼んだ方が、より適切だと思っています。


私の場合、情報を切り刻むためのフレームワークは、
主に本・専門誌で学び、手に入れました。

しかし、情報を混ぜ合わせたり、味付けする道具、
すなわち、発想法・編集法は、独習だけでは難しく、
使えるようにはなりませんでした。


そこで、料理学校ならぬ、

「ISIS編集学校」

に通ったというわけです。


ちなみに、マッキンゼーを経て、現在ワトソンワイアットの
代表取締役社長を務めてらっしゃる淡輪(たんなわ)敬三氏は
次のようなことをおっしゃっています。


“マッキンゼー時代に学んだコンサルティングの本質は、

「分解と統合」

である。”


分解とは、要するに情報の分析であり、
統合とは、情報を混ぜ合わせることですね。

投稿者 松尾 順 : 09:51 | コメント (2) | トラックバック

情報料理人(2)情報材の仕入れ

今日は、クライアントが列をなす「おいしい料理」を出せる、

一流の「情報料理人」

になるための「食材=情報材」の仕入れのポイントについて。


まず頭に留めて置きたいのが、
良質で新鮮な食材は、あまり料理をしなくてもおいしいということ。

こんな一切の加工なしで生でも出せるほどの食材をベースに
調理すれば、それこそ最高のメニューになりますよね。


この点にこだわるシェフは、
自ら生産農家まで出向いて、そこで作られている野菜が
本当に無農薬か、あるいは有機農法かを確かめます。

つまり生産者の「質」を見極めるわけです。

また、できるだけ市場を通さず、
農家から直接仕入れることで「新鮮さ」を高めようとします。


同様に、良質で新鮮な情報を手に入れようと思ったら、
情報の発信源の質、言い換えると「信頼性」をしっかり見極める。

また、できるだけ直に情報を仕入れるようにすることが理想。


これは、要するに、情報発信者に直接会い話を聞くことです。
また、現場に行き、自分の五感で情報を仕入れてくることです。

これは、大変手間と時間がかかりますね。


しかし、近くの八百屋で誰でも買えるようなお手軽食材を
買ってくるだけでは、よっぽど料理の腕が高くないと、
おいしい料理にするのは難しい。

情報についていえば、インターネットですぐに手に入るものは
情報材としての相対的に価値が下がります。

他の情報料理人との差別化をしたかったら、
情報そのものにもこだわり、その仕入れに手間と時間を
かけるべきでしょう。


私自身は、インターネット以外に、意識的に紙媒体
(新聞、雑誌、単行本など)からの仕入れを重視しています。

そうすれば、「インターネットがあれば十分」と
紙媒体にほとんど接しない人よりも、
情報材仕入れの点で優位に立つことができます。

また、人に会うことや、現場に行くことは、
現在は事情があって意識的に時間を減らしていますが、
ほんとは、もっと増やしたいなと思っていることです。

ご参考>私の情報材仕入先(主要情報源)


さて、もうひとつ情報材の仕入れについて留意したいのは、

「多様性」

ということです。


メニューを考える時、肉、魚、野菜と多種多様の食材を
仕入れることができればできるほど、
バリエーション豊富なメニューを考案できますよね。

ところが、、私は「魚」しか仕入れていないとなったら、
メニューの幅がずいぶん狭くなってきます。


もちろん、創造性と料理の腕を発揮すれば、
限定された食材でも多様なメニューを生み出せるとは
思います。

しかし、選択肢はたくさんあるに越したことはない。
基本的に、食材は様々取り揃えられるほうがいいわけです。


情報でも同様に、できるだけ広範囲の異質な分野の情報材を
仕入れることが、「おいしい料理」づくりに役立ちます。

産地が違えば食材の味や食感も微妙に異なるように、
同種の情報も情報源によって切り口が違いますから、
情報源も多様化させるとモアベターでしょう。


まあ、口で言うのは簡単、実践するのはめちゃくちゃ大変なことを
申し上げているわけですが、どんな道にせよ、プロを目指すなら、
人生のすべて(=時間)を捧げるくらいの覚悟が必要だと思います。


私は、まだまだたいしたことない情報料理人ですので、
偉そうなことはほんとは言えないんですけれども。

投稿者 松尾 順 : 11:10 | コメント (0) | トラックバック

情報料理人(1)

新しいアイディアを生み出し、具現化するための企画作業は、

「料理」

のプロセスに似ています。


このことは、プランニングをメインの業務にされている方なら、
すぐにピンと来るんじゃないでしょうか。

実際、下記の本

『PLANNING HACKS!』(原尻淳一著、東洋経済新報社)

で著者の原尻さんは、

“企画作りと料理づくりはほとんど同じ。
 料理のフローを考えると、見事にプランニングのフロー
 に対応しています”

と述べています。


私もまた、

‘素材となる「情報」をおいしく料理すること’

が企画作業だと考えています。


ですので、最近になって

「情報料理人」

という表現を用いて、業務内容を見直し、
一流の「情報料理人」を目指すためには、

「なにをどう改善すればいいのか」

についてのヒントを得ようとしていました。

*実は、以前書いた「マーケティング情報士官」という
 メタファーも使えるのですが、なにしろ、情報士官
 (インテリジェント・オフィサー)の仕事はなじみが
 薄くよくわかりません。料理人のメタファーのほうが
 わかりやすいですよね。

参考>マーケティング情報士官


そこで、今日から何回かに分けて

「情報料理人の仕事」

について概要を書いてみたいと思います。
(なお、原尻さんの切り口とは若干異なります)


前述したように、情報料理人の目的は、

「情報をおいしく料理すること」

です。そして、その結果として

「料理済みの情報」

が注文した人のテーブルに置かれることになります。


この「料理済みの情報」がおいしいかどうかは、
たとえば、

売れる新商品や新規事業開発に役立つ
「ヒント」が含まれているかどうか

で判断されるます。


ここで「ヒント」とは、専門用語では、

「カスタマーインサイト(顧客洞察)」

と言い換えることもできます。

また、「マーケティング情報士官」で述べた

「インテリジェンス」

のことでもあります。


ただ、大事なことは、

「使える情報になっているかどうか」

です。


つまり、端的には

「おいしい料理済みの情報」

とは、

「使える情報」

ということですね。


したがって、

「情報料理人」の腕は、
外部から「生の情報」を食材として仕入れ、
それを「使える情報」になるように料理できるかどうか

で判断されることになります。


なお、「生の情報」は、
多くの場合そのままではおいしくありません。

実は、生で食べてもおいしい、新鮮で極上の情報も
出回っているのですが、それらはごく限られた人たちの
間で独占されています。

ですので、市井の情報料理人は、
一般に出回っている普通の食材を中心に仕入れ、
その食材をうまく組み合わせたり、味付けを工夫する
ことによって「おいしい情報」に変えていくのです。


では、次回は食材としての「生の情報」の仕入れなどに
ついて書きたいと思います。


蛇足ながら、

『PLANNING HACKS!』(原尻淳一著、東洋経済新報社)

の原尻さんは、私と同様、

ISIS編集学校

の師範代です。
残念ながら、まだ直接お会いしたことはないんですけどね。


この本は、企画における「準備の大切さ」を強調されている点
にもおおいに共感を覚えました。

一流の情報料理人を目指す方の「基礎テキスト」という感じです。

投稿者 松尾 順 : 11:25 | コメント (4) | トラックバック

良い企画を立てるコツ

私は、企画屋のはしくれでもあります。

もっと良い企画を立てたいと願い、
若いころから、企画立案のノウハウ本を読み、
各種セミナーに受講したりして必死で学んできました。

また、「発想法」についての勉強をしてきたのも、
同様の理由からです。


そして、最近になってようやく、

「良い企画を立てるために一番大切なことが何なのか」

がわかりました。


気付くの遅すぎですね・・・

しかも、わかったからといって、
良い企画が立てられるようになる、というわけじゃないし(^_^;


さて、気を取り直して良い企画を立てるコツですが、それは、

「普段から、企画のネタ、パーツをストックしておく」

ということです。


たとえば、工業・空間デザイナー、吉岡徳仁氏は、
普段から、デザインに使えそうな新しい素材をいろいろと
集めています。

そうした事前の準備があるからこそ、
斬新なアイディアも生まれますし、最適な素材を使った
すばらしいデザインができるわけです。


ただ、意外なことに、企画・発想関連の本で、

「普段から、企画のネタ、パーツをストックしておく」

ことの重要性をちゃんと書いてある本は
ほとんどありません。
(だから、私もなかなか気付かなかったかな)


おおむね、上司やクライアントから、
企画立案の依頼を受けてから企画書に落とし込むまでの

「企画業務の手順」

を説明してあるだけです。


しかし、企画業務手順は、あくまで「企画プロセス」
(企画の製造工程)にすぎません。

肝心のインプット(企画ネタ、パーツ)を入れなければ、
良いアウトプット(企画書)が出てくるはずもありません。


 インプット  →   プロセス   → アウトプット
 (企画ネタ)   (企画製造工程)   (企画書)

企画依頼を受けてから、あわてて原材料、
すなわち、企画ネタ、パーツを集めるのは大変です。

手遅れとは言わないまでも、
良い企画に仕上がる可能性は低くなってしまうでしょう。
納期が短いですからね。


ただ、実際の企画業務が発生していない段階で、
いろんな企画ネタ、パーツをしこしこ集めてストック
しておくのは、「アウトプットを生み出すこと」を
目標としてしまうと、なかなか続かないものです。

「このネタ面白れぇ」「このネタ使えそうだ」

と純粋にネタを集めることを楽しむ、

「企画ネタ・コレクター」

となることが、必要じゃないかと思います。


なお、NECが運営するビジネス情報サイト

「Wisdom」

で最近連載されている記事、『プレゼン勝利体質』講座
(執筆者:藤木俊明氏)の第5回、

『プレゼンに強くなる実践的「冴えた企画」立て方指南』

では、企画立案のプロセスの1番目に

「インプットのストックを溜める」

が置かれています。


これは、具体的な行動としては次のようなものです。

「日常気付いたこと、思いついたこと、面白そうな話は
 すべて記録してストック。」


そして、「心がけること」として、

・人的ネットワーク
・常に取材者の視点、好奇心
・ストックについては選別しない

を藤木氏は挙げています。


関心のある方、詳細は、Wisdomのビジネス・スキルのコーナー
をご覧くださいね。


ところで、よく考えてみると、
こうして毎日メルマガ&ブログを書くことは、
まさに「企画ネタをストックする作業」ですね。

投稿者 松尾 順 : 08:37 | コメント (4) | トラックバック

健全な懐疑精神を持て!

今のように変化が激しい時代では、
自分の持ってる知識があっという間に通用しなくなりますよね。

「昨日は正しかったことが、今日はもう間違い」

ということが頻繁に起きています。


また、世の中はいろんなことが複雑に絡み合っていますから、

「何が原因で、何が結果なのか」

を判断することもまた、ますます難しくなってきています。


ですから、私たちは、自分の知識や、外部から取り入れる「情報」
に対して、もっと慎重になる必要があるんじゃないでしょうか?

具体的には、

---------------------------------

「自分の知識は、既に古くなっていないだろうか?」

「自分の知識は、間違った思い込みではないだろうか?」

「この情報は、どの程度信用できる(正しい)のだろうか?」

「この情報は、短絡的なロジックに基づいていないだろうか?」

---------------------------------

といった質問を常に行い、

「使える(生きている)知識・情報とそうでないもの」

を適切に選り分けるべきでしょう。


これは、ものごとをネガティブに見るためのものではなく、
「使える情報」を拾い上げるための意識的な姿勢ですから、
「健全な懐疑精神」と私は呼んでいます。

そして、こうした姿勢は、
単なる「情報(インフォメーション)」を価値の高い情報、
すなわち、「インテリジェンス」に磨き上げるために
必須だと思います。


今、「意識的」と書きましたが、かなり意識しないと
私たちは、すぐに思い込みの短絡的な思考に
陥ってしまいがちです。


先日、池上彰氏が書かれた

『伝える力』(PHP研究所)

を読んでいて、あらためて驚いたことがあります。

それは、実に多くの人が、
勝手な思い込みや陳腐化した知識でものごとを判断し、
また「批判」しているということです。


池上氏が以前担当していた「NHK週間こどもニュース」
でのエピソードを紹介しましょう。


日銀が金利を引き上げたときのこと、

「日銀は金融機関同士が貸し借りしている
 資金の金利水準を一定にしていて、この金利を引き上げた」

という説明を池上氏がしたら、

「なぜ公定歩合と説明しないのだ」

という抗議電話が何本もかかってきました。

しかし、日銀は公定歩合で金利を決めることを
とっくにやめているのです。
(恥ずかしながら、私も知りませんでした)


私は、この抗議をした人たちに言いたい。
電話をかける前に、まず公定歩合の現状を
なぜ自分で調べないのですか?


あるいは、

「年金は、若い人が払った保険料がお年寄りに渡されます」

という説明をしたら、お年寄りたちから、

「若い者の世話にはなっとらん。我々が昔払った保険料を
 積み立てて、それを受け取っているだけだ」

という抗議電話が多数かかってきたそうです。

これも思い込みです。今は制度が変わっています。
公的年金制度は、

「(子から)親への仕送り」

の制度化と考えるのが正しいのです。


池上氏は、

「自分が受け取っている年金について、
 きちんと理解していないお年寄りが大勢いることが
 わかりました。」

と書いています。


実際、世の中には、実はわかっていないのに、
わかったつもりになっている人が多いですよね。
(自戒を込めて・・・)


逮捕状はどこが出すか知ってますか?

「警察」だと思い込んでませんか?
実は、「裁判官」が出すんです。
(私も、やはり知らなかったんですけど(^_^;)


思い込み、短絡的な思考を捨て、
謙虚に知識と情報に向き合いたいものですね。

とりわけ、批判・抗議する時には。

今回は、ずいぶん説教くさくなっちゃいました・・・(笑)


-----------------------

How much easier it is to be critical than to be correct.

     -Benjamin Disraeli
      (British prime minister and novelist,1804-81)

批判的であることは、
正しくあることよりもなんとたやすいことか

-----------------------

投稿者 松尾 順 : 08:33 | コメント (2) | トラックバック

常識の壁を打ち破る(4)セザール・リッツのDNA

1997年の営業開始から、わずか6年で日本一の評価を獲得した
「ザ・リッツ・カールトン大阪」。

日本進出10年目の今年(2007年)春には、
東京ミッドタウン内に「ザ・リッツ・カールトン東京」を開業。

驚くほど短い月日で優れたサービスとブランドを確立した
リッツ・カールトンは、1室6万円強~の高級ホテルながら、
伝統や格式以上に、「革新」を重んじる企業カルチャーを
持っています。

そして、ホテル業界人からは、「邪道」と非難されるような
斬新なサービスを次々と打ち出してきています。

・20万円のオムレツ
・180万円のカクテル
・1億円の結婚式


いずれも、コンセプトとネーミングの妙ですね。

20万円のオムレツでは、バイオリンの生演奏をバックに、
料理長が作った3種類のオムレツを、ソムリエが選んだ
シャンパンと共に楽しむ。

そして、メートルディー(レストランを統括するヘッド
ウェイター)が、グラスの持ち方などテーブルマナーの
特別レクチャーをしてくれます。


また、180万円のカクテルの底には、
1.06カラットのダイヤモンドが沈んでいます。

この値段には、世界中のブルガリのどの店舗でも、
ダイヤを指輪にしてしてもらえる加工賃が含まれているそうです。


「金はあるから、ワクワクできる楽しい体験をさせて!」

と願う富裕層のニーズに見事に応えていると思います。


実は、リッツ・カールトンには、
こうした業界の常識を覆すサービスを生み出し続ける

「遺伝子」

が埋め込まれています。


その遺伝子の源は、ホテル王と呼ばれた

「セザール・リッツ」。

パリの「ホテル・リッツ」の創業者です。


セザール・リッツ氏こそ、
19世紀末当時の業界の常識に全く縛られることなく、
顧客の視点でホテルのサービスの革新を行った人でした。

たとえば、今から100年ほど前のホテルでは、
シャワールームは部屋と別のところに設置してありました。
つまり、他の宿泊客と共用だったわけです。
(日本の温泉旅館の大浴場とまあ同じ感じですかね)

しかし、リッツ氏は、宿泊客が部屋を出るときに
いちいち着替えるのは面倒だろうと、
全部屋にシャワールームを設置することにしました。


この設計だと、共用のシャワールームと比較して、
莫大な建設費用がかかります。

業界人の常識は、立派な造りの共用のシャワールームが
あれば十分じゃないか、というもの。

でも、リッツ氏はそんな業界人の声を無視して、
全室シャワーを備えたホテル・リッツを開業し、
人気を博すのです。


また、当時のホテル内レストランは、
お仕着せのコースメニューしかありませんでした。

コースメニューは、その日の食材に合わせて組み立てることが
できるので、ホテル側としては無駄が抑えられ効率的です。

しかし、宿泊客の中には、いつもいつも重いフルコースではなく、
時に、軽く済ませたいというニーズがあったはずです。

そこで、リッツ氏は、料理を個別に注文できる
アラカルト方式のメニューを採用しました。

これも、また当時の業界においては

「非常識」

なやり方だったそうです。


さらに、ホテルのパーティルームのシャンデリアの明るさを
時間帯などに応じて、柔軟に変えることを初めてやったのも
リッツ氏でした。

パーティは、女性の美しさを際立たせる機会と考え、
女性が最も美しく見える明るさを目指したのです。


こうして、常識の枠にとらわれず、自由な発想に基づく
新たなホテルの在り方を生み出したセザール・リッツ氏の
DNAが、現代のザ・リッツ・カールトンに脈々と
引き継がれてきているのだそうです。


*以上は、ザ・リッツ・カールトンホテル日本支社
 支社長、高野登氏のご講演からご紹介しました。

投稿者 松尾 順 : 13:11 | コメント (0) | トラックバック

常識の壁を打ち破る(3)ファンケルのケース

経験のない異業界・異業種に新規参入する。


これは、確かにリスクが高い事業ではありますが、
業界の常識に埋没していないだけに「常識破り」のアイディアを
生むことがあります。


その典型例のひとつが、
無添加化粧品としてのブランドを確立した

「(株)ファンケル」

ですね。

1980年創業の若い企業ながら、
年間売上高は、ついに1千億円を突破してます。
(連結売上、07年3月期)


ご存知の方も多いと思いますが、
無添加化粧品開発のきっかけは、創業者で現名誉会長の
池森賢二氏の奥さんの「化粧品アレルギー」でした。

当時、たまたま池森氏の知人に皮膚科のお医者さんと
化粧品メーカーの経営者がいました。

お医者さんによれば、皮膚科に駆け込む女性の7割は、
化粧品が原因の接触性皮膚炎だと言われたそうです。

一方、化粧品メーカーの知人に聞くと、
化粧品の品質を維持するため、防腐剤、殺菌剤、
酸化防止剤等を「必要悪」として入れているとのことでした。


そこで、池森氏は、化粧品大好きの奥さんが
アレルギーに悩まされずにすむ無添加の化粧品の開発に
乗り出したというわけです。


池森氏にとって、化粧品業界はまったくの未経験ゾーン。
徒手空拳で取り組んだ事業ながら、逆に常識に囚われることが
なかったのが奏功しました。


さて、防腐剤などを添加しない化粧品を開発するに当たって、
池森氏が考えたのは、1週間で使いきれる小さな小瓶として、

「アンプル瓶」

を採用することでした。


このアイディアは、化粧品業界の人間に大笑いされました。

“化粧品は、女性に「夢」を売っているのだ。
 素っ気ないアンプルなんかに入れたものが売れるはずがない”


しかし、実際に販売してみると、肌トラブルに悩む女性の
高い支持を受け、倍々ゲームで業績が伸びていったのです。


「売れない」と断言した業界人もまた、間違った思い込みに
縛られていたんですね。

人間の欲求の一側面しか見えていなかったということでしょう。


人の欲求は、大きくは2つに大別できます。

・ポジティブなニーズの充足
・リスクの回避


ポジティブなニーズの充足とは、「こうありたい」が叶うこと、
リスクの回避とは、「こうなってほしくない」を避けられること
(もしくは低減できること)です。

化粧品にとっては、「美しくありたい」という女性の欲求を
充足すると同時に、「肌荒れ等を起こしたくない」という
リスクを回避したいという欲求に応える必要がありますよね。

しかし、ファンケル登場以前には、
リスク回避という欲求の存在に対する認識が、
化粧品業界の人には弱かったということでしょう。


なお、私は野暮な男性でして、
化粧品のことを実体験としてはよくはわかっていません・・・

そこで、当ブログ&メルマガをお読みいただいている
知人女性(30代)から以前いただいた化粧品についての
メールの一部をご紹介します。(ご本人の許諾済み)


なお、以下の内容は、化粧品における

「ブランド(イメージ)」や「パッケージデザイン」

の重要性についての反論といったところです。


--(引用開始)--------------------------------------------

アットコスメが大成功していることもみても、化粧品は案外、
ブランド支持というよりは、その機能性が選択のポイントと
して重視されていると思います。

つまり、使い心地がいい、香りがいい、値段のわりにいいなど。

社会的ステータスを誇示する目的よりも、機能性や話題性
(限定品だとか季節ごとの新製品など)が重視されている気が
するのです、化粧品においては。

化粧水やマスカラならランコム、口紅やアイシャドウなどの
色物ならシャネル、サンローラン、ファンデーションは
ディオールと使い分けている人がほとんどだと思います。

特に化粧にはまればはまるほど、アイテムごとに、
得意不得意がブランドごとにけっこう明確なことが
分かってきますしね。

また、バッグや時計なら、どこのブランドか見て一発で
分かりますが、化粧品だと分かりませんよねー。
カバンから取り出して、パッケージを見せないことには・・・

そうなると、本来、ステータスを示したい相手に、パッケージを
見せる場面があるかというとまずないでしょう。

まあ、年齢的なこともあるのかもしれませんが、
ひと通りの海外ブランドも使ってきてたどり着いたのは、
機能性重視で、コストパフォーマンス重視という選択スタンス
でした。

--(引用終り)--------------------------------------------


ふむふむ、なるほど。
貴重な情報ありがとうございます。

あくまでお一人の意見ではありますが、
世の中の多くの女性の考え方を代弁していると見ても
いいんじゃないでしょうか。


ブランドやパッケージが最重要ではない。
まずは、製品自体が持つ機能性やコストパフォーマンス
ありきなんですよね。

また、大切な肌に直接触れるものですから、
「安全性」については言わずもがなということでしょう。


余談ですが、ファンケルは米国では苦戦しています。

そこで、売れない理由を調査してみたところ、
米国人女性は、肌につけてピリピリするくらいでないと
効果を実感できないんだそうです。

肌に優しいファンケルがなかなか受け入れられないのは
無理もないですね。


ところ変われば・・・といいますが、
人の心理はまことに面白いものですねぇ。

投稿者 松尾 順 : 11:38 | コメント (2) | トラックバック

常識の壁を打ち破る(2)

2-3週間前ですが、「ガイアの夜明け」に、
ヨーロッパの携帯電話メーカーに対して、
日本で流行しているようなカラフルな塗料を採用してもらおうと
がんばっている日本の塗料会社が登場してましたね。


ヨーロッパでは、いまだビジネスツールとしてのイメージ(常識)
が強いせいか、携帯の色はほとんど黒だけというのが現状です。

このため、ヨーロッパ進出のために設立された上記塗料会社の
ヨーロッパ現地法人の担当者(日本人のようでした)は、
日本から持ち込んだパステル調の色見本を見て、

「子供っぽい。こんな色はヨーロッパでは受け入れられない」

と、ばっさり切り捨てていました。


ところが、日本側の担当者が、
道行く消費者に直接聞いてみると反応は悪くありません。

ヨーロッパの携帯電話ユーザーは、

「携帯電話は、黒でなければならない」

と、強く思い込んでいるわけではなさそうでした。


実際、ヨーロッパの携帯電話メーカーに提案したところ、
先方は、これまでにない明るい色に興味を示していました。

提案したカラフルな塗料の採用が本決まりになったかどうかは
番組では報道されませんでしたが、ひょっとしたら、
ヨーロッパの携帯電話も、これからさまざまな色の製品が増えて
くるかもしれませんね。


さて、このケース、現地法人の担当者は、明らかに、
今のヨーロッパ携帯電話業界の「常識」に縛られていますね。


ヨーロッパで黒のケータイしか売れないのは、
そもそも、それ以外の色の選択肢を提示されていないからです。

ユーザーも、黒以外の選択肢が示されていないために、
他のカラーバリエーションに対するニーズが顕在化していない。

だから

「黒以外の色のケータイが欲しい」

というニーズがメーカーに届くこともなく、これまでずっと
黒ばかりが作り続けられてきたのかも知れません。


新規市場開拓に取り組む現地法人の担当者が、
こうした可能性に目を向けることなく、

「今までがこうだったからも、これからも変わらない」

といった硬直的な思考しかできないのはまずいですよね。


常識の壁を打ち破るためには、まず

「過去」(の考え方、やり方、トレンド、パターン)

を意識的に消し去ることが必要です。

投稿者 松尾 順 : 10:37 | コメント (0) | トラックバック

常識の壁を打ち破る(1)

新たな発想や、斬新なアイディアの誕生を阻害するのは、
その業界の「常識」(=固定観念)である!

このことは、これまでも何度か取り上げてきたテーマですし、
アイディアをなにより大切にするマーケターの皆さんにとっては、

「常識」

ですよね。(^o^)


逆に言えば、
新たな発想、斬新なアイディアを生み出したかったら、
自分がどっぷりと浸かっている業界の「常識」を
打ち破る必要がある。

これは言うは易し。実行はそれほど簡単ではありませんよね。


「常識」や「固定観念」といったものは、
今のモノゴトのあり方に疑いを持つことなく、
ありのまま受け入れていることを意味します。

つまり、「思考停止」の状態です。

しかし、私たちにとって「常識」は、
いわば、人生を楽に生きるための必要悪。

毎日毎日、

「なぜ、こんなやり方をしているんだろう?」

あらゆることに疑問を投げかけていたら疲れてしまいますから。


でも、ビジネスとしての行き詰まりを打破するため、
あるいは新たな展開を図るための出発点となる

新たな発想、斬新なアイディア

を強制的に生み出す必要がある時、最も手軽な方法は

「他業界に学ぶこと」

でしょう。


経営コンサルタントの泉田豊彦先生は、

「泉田式(センダシキ)発想法」のひとつとして、

「補集合について考えよ」

ということをおっしゃってます。

補集合とは、自分が含まれる集合以外のこと、
つまり、自分とは関係ない分野のこと。

他の業界にも、やはり業界特有の常識が存在しています。
でも、まだその常識を獲得していない自分から見たら、
すべてが新鮮。

他の業界にとっての常識は自分にとってはネタだらけ。
ということも少なくありません。


この「他の業界に学ぶ」というのは、
欧米では意識的にやってきてますよね。

いわゆる「ベンチマーク」というやつです。
これは、他の会社の優れた取り組みを端的には「真似」すること。


もちろん、丸ごと取り入れるわけにはいきませんから、
自分の会社に適合するようにアレンジして取り込むことに
なります。

これを「創造的借用」と言います。


さて、しばらく「常識の壁を打ち破る」というテーマを
続けたいと思いますが、次回以降は具体例をご紹介していきます。

投稿者 松尾 順 : 09:38 | コメント (0) | トラックバック

「その店のルールが全然わからない」

「その店のルールが全然わからない」

*『やまだ眼』(山田一成、佐藤雅彦著、毎日新聞社)より


実は、私はサンドイッチチェーンの「サブウェイ」の
サンドイッチを食べたことがありません。

自分の好みのサンドイッチが作れるというのが、
セールスポイントのサブウェイですが、冒頭のとおり

「サブウェイのルールが全然わからない」

のでなんとなく気が引けてしまうんですね。


店員さんに

「初めてなのでオーダーの仕方教えてください」

と素直に聞けばいいんですけどね。今さらねぇ・・・


“サブウェイとかスタバとか、最近増えてる横文字の店、
 あれもこれも選べますとくるから面倒でならねぇなあ、
 そばといったら、黙ってそばが出てくるそば屋を
 見習ってほしいもんだ、なあ熊さん。”

“へい、まったくです、ご隠居!”


『やまだ眼』は、お笑いの山田一成氏の言葉に、
元電通のプランナーとして有名な佐藤雅彦氏の解説が入るという
ユニークなスタイルで、毎日新聞夕刊に掲載されていたものを
単行本化したものです。

人間心理のちょっとした機微を簡潔な言葉で
切り取っていてなかなか面白いです。


「人と同じなのは嫌だけど、人と違うのも嫌だ」


この言葉も、矛盾する消費者心理をうまく表してますよね。


しかし、『やまだ眼』。

でかい文字、余白たっぷりのソフトカバー。
30分足らずで読めてしまうのに

「しおりのひも」

が付いている。

『やまだ眼』(山田一成、佐藤雅彦著、毎日新聞社)

投稿者 松尾 順 : 11:25 | コメント (0) | トラックバック

人と同じことが言えて、人と違うことが言える

私が、「プロのマーケター」の端くれとして、
常に重視していることがあります。

それは、

「アイディアの独創性(オリジナリティ)」

です。

逆に言えば、単なる他人の猿マネや焼き直しのアイディアは
絶対に避けたいということです。


ただ、まったく何もないところからオリジナルなアイディアを
生み出すというのは極めて難しい・・・
(一握りの天才を除いては!)

ですから、天才でもなんでもない私としては、
手持ちの情報を組み合わせたり、形を変えたり、発展させること
によって、なんとか多少なりともオリジナリティを持たせようと
するので精一杯です。


こんな私が、心に強く刻んでいる言葉があります。


「人と同じことが言えて、人と違うことが言える」


これは、私が尊敬する東京大学教授、
妹尾堅一郎先生から教えていただいたもの。

「研究者が目指すべき態度」とでも言えるものです。


どんな意味なのか、ご説明しましょう。

まず、

「人と同じことが言える」

とは、自分の専門分野において過去に公表された
様々な理論や実践例、意見などに通暁していて、
求められればそれらについて説明することができること。

すなわち、他人が「既に語ったこと」を知っているから、
自分も言えるということです。


一方、

「人と違うことが言える」

とは、既に人が語ったことではない、
自分なりの新しい理論や考えを生み出すこと。


すなわち、過去に語られなかった自分発の

「新しいこと」

を言うことです。


そして、もし、単に「新しい」というだけでなく、
これまでの定説を覆すような発見や証拠、有用性があると
認められれば、それは

「独創性」や「創造性」の高い価値ある言説・アイディア

として、周囲から高い評価を受けることもあるわけです。


前述したように、これは、大学などで研究を行う
研究者に向けられた言葉です。

関心領域の研究を行うに当たって、
まず先行研究を徹底的にレビューするのは、
「人と同じことが言える」ようになるため。

また、これは、自分が行おうとしている研究の核となる
アイディアが、二番煎じではないかを確かめるためでもある。

新発明の製品を特許出願しようとする際に、
過去に別の人によって同一・類似の発明が出願されていないか
を特許データベースで調べるのと同じような行為ですね。


もし、この過去研究のレビューをおろそかにし、
ひとりよがりなアイディアだけで研究をやってしまうと、

「あなたの言ってることは、既に20年前に立証されてた
 ことじゃないか。だからもはや研究をやる価値はないよ」

などと言われてしまう可能性があります。


さて、私が先ほどの言葉を心に刻んでいる理由は、
研究者だけでなく、斬新なアイディア、二番煎じでない提案が
求められる「マーケター」にとっても意義ある言葉だと
考えているからです。

顧客、消費者は常に、新しい、独創的なアイディアを
求めていますよね。そして、そうした要望に応えることが
できるかどうかが成果に直結するわけです。


ですから、

「人と同じことが言えて、人と違うことが言える」

を目指すことが必要だと思いませんか?


もちろん、これを実践しようとしたら、
まず、自分の専門領域の過去文献・資料を全て読み込むと同時に、
これからも次々と公表されるであろう他人の新たなアイディアも
しっかり捕捉し続けるという、途方もない努力が求められますが。


恥ずかしながら、私はまだ全然できてません・・・!
共にがんばりましょう!

投稿者 松尾 順 : 09:41 | コメント (2) | トラックバック

ヒットの要因のキーワード20

チェッカーズ、おニャん子クラブ、だんご3兄弟などの
プロデュースを手がけた、デジタルハリウッド大学大学院教授、
吉田就彦(よしだ・なりひこ)氏は、自分自身の経験や
他のヒット作品の分析に基づいてヒットの要因を
「20のキーワード」にまとめています。
(日経産業新聞、2007/05/08)


こういうキーワードは発想の助けになりますよね。
というわけで、20のキーワードとそれぞれの簡単な解説をご紹介。

----------------------------------------------

1 必然性
  その時代の人々の心の動きや気分を反映

2 欲求充足
  「競いたい」、「怖いものをみたい」などの欲求を満たす

3 タイミング
  時代のニーズに遅すぎず、早すぎず

4 サービス度
  便利でお得、「買ってもいい」という安心感

5 差別化ユニーク
  唯一無二の企画。過去に似たものがあったら見せ方を工夫

6 発想転換力
  ちょっとした発想の転換がアイディアを生む

7 サイド&ディープ
  登場人物のサイドストーリーで深みを持たせる

8 イベント連鎖
  野球中継中の勝敗予測のような企画連鎖

9 コミュニティ発
  同好の士が集まるコミュニティの声が企画に寄与

10 文化ミックス
  日韓合作映画のような異文化の融合、交流が新鮮な驚き

11 だまさない
  はったりは効かない。本当に優れたものを

12 自ら顧客探し
  ネットを使うなどして、だれでも手に入れやすくする

13 デジタル口コミ
  ネット上の情報交換が大きな情報波及力を持つ

14 コアコミュニティ
  「デジタル口コミ」は、連帯感を持つコアなファンが主導

15 低コスト・高クオリティ
  デジタル技術で、高品質の映像・音楽が低コストで提供可能

16 製作アライアンス
  ドラマの中に企業の宣伝が入り込むといった新たな動き

17 顧客とつながる
  デジタル配信ですばやく流通、顧客の反応も素早く把握

18 チャネル多様化
  映像、音楽のデジタル配信

19 マス&パーソナル
  放送などでの大量配信と双方向のネットでの個別対応の両立

20 デバイス機能
  携帯電話、携帯音楽プレーヤーなど配信端末がヒットを左右

----------------------------------------------


ところで、吉田さんがチェッカーズを売り出した時、
マーケティング戦略上、「差別化」を重視したそうです。


当時の人気男性グループは、かたや典型的なアイドルのシブがき隊、
かたやツッパリ系の横浜銀蝿でした。
(私はリアルタイムで体験してるので、実に懐かしいです・・・)


吉田さんは、「柳の下に二匹目のドジョウはいない」と考え、
上記2つのグループとは異なる立ち位置、すなわち、

「同級生のように身近に感じるグループ」

をチェッカーズに与えたのだそうです。


これは、カッコつけて言えば

「ユニークなポジショニングを与えること」

であり、ベタな言い方をすれば、

「キャラがかぶらないようにする」

ということですね。


なお、吉田さんが学生に説く「ヒットの極意」は、

「考え、感じ、ワープせよ」

です。


「頭から血が出るくらい」に真剣に考え、時代の空気を
感じて、消費者の動きを捉える。

そして、さらにワープして、消費者に新鮮な驚きを
提供しなければ、本物のヒットは生まれないのだそうです。

投稿者 松尾 順 : 10:25 | コメント (0) | トラックバック

言葉の呪縛から思考を解き放て!

ミクシィに「マーケティングコミュ」というのがあって、
いろいろとトピが立つわけなんですが。

最近、

・「ブランド・コミュニティ」の定義がよくわからないので、
 教えてください

・「シチュエーショナル・マーケティング」がどういうものか
 いろいろ調べてもわからないので、他に情報源があったら
 教えてください

といったトピが気になってしょうがありません。

どちらもマーケティングを学んでいる学生さんからのもので、
質問自体がダメというわけではありません。

ただ、どちらの方も、

「言葉」

自体に囚われすぎているように感じるんですよね。


彼らが知りたかった

「ブランド・コミュニティ」

「シチュエーショナル・マーケティング」

のどちらも、まだ比較的新しい概念ですし、
万人が受け入れる確立された「定義」はまだ存在しません。


したがって、大切なのは、上記のような言葉で指し示された
現実の行動や現象(マーケティング施策など)に目を向けて、
それらの行動に共通する

「本質」

を理解することでしょう。


たとえば、

「シチュエーショナル・マーケティング」

について言えば、その本質は、

『ユーザーの置かれた時や場所などの状況によって変化する
ニーズに対応できる(対応する)マーケティング』

と言えるでしょう。(これは、あくまで松尾の見解ですが)


だとすると、こうした取り組みをしている事例は、
「シチュエーショナル・マーケティング」と銘打ってなくても
あちこちで見つけることができます。


また、人によっては

「シチュエーションマーケティング」
「状況マーケティング」
「コンテキストマーケティング」

と異なる言葉で指し示されているものも、
「シチュエーショナル・マーケティング」と同義、あるいは
類義語であることがわかるはずです。


しかし、ここで「言葉ありき」で考えてしまうと、
狭い枠組みでしか物事を見ることができなくなってしまう。

上記の学生さんたちの質問には、
そんな印象を受けているというわけです。
(私の考えすぎかもしれませんが)


そもそも、現実の世界に対して、言葉は常に後付けです。

つまり、

「行動・現象ありき」

です。


そろそろメディア的な賞味期限が切れつつある

「Web2.0」

だって、ユーザー参加型とか、ロングテイルといった
先行事例を観察していたティム・オライリー氏が、
後から強引に括ったものにすぎません。


ですから、例えば、

「Web2.0とは何か」

とか、

「そのサービスは、Web2.0的である・ない」

といった言葉を中心に据えた議論にこだわりすぎるのは
正直なところ、「不毛」だと考えています。
(もちろん、新たな言葉を起点に、別の新たなアイディアが
生まれる可能性はありますが。)


言葉は、その本質において
他のものとの「境界線」を作り出す働きがあります。

つまり、言葉によって物事は区別されるということです。

たとえば、四足の動物を見て「犬」と呼んだ瞬間から、
言葉としては、その動物は犬以外の動物ではなくります。

しかし、そもそも犬という動物がはじめから存在していたわけ
ではありません。私たちが一定の特徴を持つ動物に対して、
勝手に「犬」という名称を与えているだけです。

これは、他のすべての物事においても同じです。


私たちは、言葉を発明することによって、
高度なコミュニケーションを可能にしました。

しかし、上述したように、言葉の呪縛によって思考の広がりが
失われ、タコツボ的議論が繰り返される可能性がある。


アイディア発想をとりわけ大切にすべき私たちマーケターは、
言葉の呪縛から思考を解き放つべきだと改めて思います。

投稿者 松尾 順 : 13:18 | コメント (5) | トラックバック

田園調布の物流拠点

昨日、4月26日、
コーヒーチェーン大手、ドトールとの経営統合を発表した

「日本レストランシステム株式会社」。

この企業名にはあまりなじみがないと思いますが、

・洋麺屋五右衛門(お箸で食べるスパゲティ)
・にんにく屋五右衛門(文字通り、にんにくたっぷり料理)
・卵と私(オムレツなど卵料理)

といったさまざまな業態のレストランを運営しています。
関東にお住まいの方ならおそらくご存知ですよね。


さて、この企業のすごいところは、直近年度の経常利益率が

21%

と、業界他社を大きく引き離している点です。

あの吉野家の経常利益率2%足らず。
大手ファミレスでも10%を超えているところはありません。

個人経営の店ならともかく、
連結売上高278億円の大手レストランチェーンで、
これだけの高利益率を達成するのは半端じゃないですよね。


この利益率の秘密は、ひとつは「機動力」のようです。
別の言い方をすれば「変り身の早さ」。

新しくオープンした店舗の客足が伸びないとみるや、
わずか半年でも、さっさと別の業態に鞍替えしてしまいます。

また、たとえ人気のある店舗でも、
長年やってるとお客さんの飽きがくるもの。

そこで、同じ場所をそのまま使いながら、次々と別の業態に
変えていきます。


つまり、うまくいかなかった、あるいは
うまくいかなくなってきたことが数字に表れていたら、
すぐに別の方法を試してみる。

要するに、「トライアル&エラー」で
新業態・新店舗展開を行っているのです。


レストラン業界も、近年は流行りすたりが激しく、
また競争も厳しいですから、何が当たるかわからない。

失敗を恐れずに新しいことにチャレンジするのが
ベストの戦略なんですね。

ただし、「失敗」から学んで、同じ過ちを2度と犯さないこと
が必要ですが。


同社では、こうした迅速な業態転換を可能にするため、
店舗設計・施工、メニュー開発など、
他社では通常、アウトソースしている業務を内製化。
すなわち、同社の社員が店舗づくりの関連業務をほぼすべて
行う体制になっています。


この仕組みは、おそらく
短期的に見たら人件費増につながります。

しかし、長年同社に勤め、こうした同社独特の方法を
熟知した社員がやることで、極めて短期間(数ヶ月)で
新業態を立ち上げることが可能になっているんですね。

結果として、

「効率(生産性)」(単位時間あたりのアウトプット)

は高くなるのです。


同社は、基本的に非常に合理的な考え方を重視した経営を
行っていますが、だからといって、やたらとコストを
切り詰めるといったことはしていません。

むしろ、上記内製化の例にあるように、
表面的・短期的なコストにとらわれていない点が強みです。


このため、同社のやり方は業界では

「非常識」

と思われてしまうことばかりになっています。

というのも、競合他社は、
表面的・短期的なコストにとらわれているところが
多いからです。


その最も顕著な例は、
都心の一等地、田園調布に同社の物流センターを
置いていることでしょう。


物流センターの立地は、業界の常識では郊外です。
土地代が安いですからね。

でも、日本レストランシステムの物流拠点、
つまり、「倉庫」は、田園調布をはじめとして、
すべて都心に設置してあります。


「固定費が高い場所に倉庫を置くなんて」

と軽率な人は考えてしまう。

しかし、実は合理的な正しい選択です。


なぜなら、郊外に物流センターを置いてしまうと、
関東の各店舗に配送する際、首都高の渋滞に
ひっかかってしまうからです。(上り方面の渋滞)

ところが、田園調布にセンターがあれば、
中心から外へ向かうことになりますから、
渋滞に巻き込まれることなくスイスイと動ける。


このため、配送効率がまるで違う。

つまり、「効率」(生産性)でみたら、
田園調布立地の方が、郊外立地よりもベターなんですね。


消費者ニーズの変化への対応のための「変わり身の早さ」
といい、表面的なコストにとらわれない「物流拠点」といい、

「日本レストランシステム」

は、ウオッチする価値のある企業でしょう。

投稿者 松尾 順 : 12:13 | コメント (0) | トラックバック

旭山動物園の必然(5)14枚のスケッチ

旭山動物園復活の契機となったのは、
1997年(平成9年)の「こども牧場」の誕生です。

実に16年ぶりに旭川市が計上してくれた予算で、
ようやく作れた待望の新施設でした。


「こども牧場」は、
こどもたちが、小動物(うさぎ、やぎなど)と触れ合える施設。

従来の動物園のように、檻で隔たれた動物たちを遠くから
眺めるのでなく、人と動物たちの距離をできるだけ近くして、
てざわりやにおいなども含めた5感で「命」を実感させることが
狙いでした。


旭山動物園の復活の軌跡をドキュメンタリー風に描いたドラマ
(06年にフジテレビで放映、現在はDVD化されてます)

「奇跡の動物園~旭山動物園物語~」
(出演者:山口智充、戸田恵梨香、津川雅彦、伊藤四朗など)

は、ご存知ですか?

このドラマでは、全編を貫く「基本メッセージ」として
次のような言葉が出演者たちによって語られます。

「命ってね、あったかいんだよ!」


「こども牧場」は、まさに、「命のあったかさ」を
感じることができるものだったわけです。


そしてその後、次々と新設された施設もまた、
動物の生き生きとした「命」をできるだけリアルに感じさせる
工夫がこらされたのですが、その実現の元になったのは、

「14枚のスケッチ」

でした。


旭山動物園の人たちは、低迷期にあってもめげることなく、

「理想の動物園とは?」

についてとことん議論を戦わせました。

その結果を絵の得意な飼育係(現在はプロの絵本作家)が、
手書きのスケッチにまとめていたのでした。


この14枚のスケッチには、前述の「こども牧場」だけでなく、

・ととりの村(こども牧場と同年にオープン)
・もうじゅう館(1998年オープン)
・ぺんぎん館(2000年オープン)
・ほっきょくぐま館(2002年オープン)
・あざらし館(2004年オープン)

などの人気施設の原型が描かれています。

つまり、描かれた当時は、おそらく叶わぬ夢物語にしか
思えなかったであろう「理想の動物園」が、着実に現実化
していったのです。

そもそも、16年ぶりの予算がついたのも、
当時の市長に対して、この14枚のスケッチを見せながら、
熱く「理想」「夢」を語ったことがきっかけなんだそうです。


なんというか、

「どんなときだって夢や理想を失なってはいけないんだ」

とじーんとくるものがありますよね。


ちなみに、旭山動物園の小菅園長が7月26日(木)、
東京で講演(夕学五十講)されます。

道外での講演は基本的にお断りされているらしく、
この機会を逃したら、関東の方は、当分生の話は
聞けないでしょうね。


ご興味のある方は、下記サイトをご覧になってみてください。
もちろん私は申し込み済みです!

→夕学五十講

投稿者 松尾 順 : 15:19 | コメント (0) | トラックバック

旭山動物園の必然(4)リサーチャーになった飼育係

1967年(昭和42年)に開園した旭山動物園の来園者数は、
1983年(昭和58年)の59万7千人をピークに減少し始めます。


ジェットコースターなどの大型遊具施設を導入して、
一部を遊園地化したのは、1991年(昭和63年)のことでした。

同年、入園者は前年の46万人から2万5千人増の48万5千人に。
ところが、翌年には45万2千人へと逆戻り。

昭和から平成になってからも、減少に歯止めがかかりません。

それでも、当時の旭川市は動物園の改善には興味を示さず、
予算がまったくつかない年が続きました。

しかし、旭山動物園の人たちは、

「カネがないから何もできない」

と考えるのではなく、

「カネがなくてもできることがある」

と頭を切り替えたのです。

そこで、まず次の3つの戦略を立てました。

・市民を味方につける
・マスコミを味方につける
・飼育係が打って出る


この中で、後の奇跡的な復活の布石として最も意義があったのは

「飼育係が打って出る」

ことだったようです。


具体的には、本来裏方の飼育係自らが、来園者に対して動物たち
についての説明をする「ワンポイントレッスン」をやることに
したのです。

ただ、そもそも人と話すのが苦手だから動物相手の仕事を選んだ
という飼育係もいたそうですから、当初は皆やりたがらず、
「やってみよう」と決断させるための説得も半年がかりでした。


でも実際始めてみるとさまざまな気づきや効果があったのです。

たとえば、

「オランウータンの握力は300キロ以上もありまして・・・」

などと教科書的な話をしてもお客さんは喜ばない。


「モモ(オランウータンの名前)はとても甘えん坊で、
 昨日飼育していたら、こんなことがあったんですよ」

とか、

「あそこのトラはね、昨日仲間と喧嘩しましてね、
 ほら、あそこに傷跡があるのわかるでしょう?」

などと、目の前にいる「個体」の話をしてあげると喜ぶと
いうこと。

また、それぞれの動物たちにはまだまだ知られていない
習性や特徴があり、それは子供だけでなく大人が聞いても
興味深いものであること。

こうして、飼育係は表舞台に出て来園者と対話することを通じ、
彼らが動物園に何を望んでいるのか、あるいは、どんな話が
受けるのか、受けないのかといったことを肌で知ることが
できるようになりました。


要するに、飼育係が「リサーチャー」になったわけですね。

そして、ワンポイントレッスンで収集できた来園者のニーズは、
新施設づくりに十分に反映されてきたということなのです。


なお、ワンポイントレッスンは、市場調査的な効果だけでなく、
旭山動物園のファンを作ることにも貢献してきています。

1994年(平成7年)にエキノコックス症によって、
同園のゴリラやキツネザルが死亡をしたことをきっかけに
休園を余儀なくされた時、運営体制に批判が集まる最中でも
陰ながら応援してくれる市民がいたそうです。

これは、ワンポイントレッスンを通じて、
飼育係と来園者との間に、いわゆる「One to One」な関係を
地道に作っていたからでしょう。


ついでながら、飼育係の人たちは、
ワンポイントレッスン以外にも、予算がないという理由で、
手書きのPOP(説明が書かれたパネル)をしこしこと
作成しました。

これも、やむを得ず取った方法だったにも関わらず、
実は、印刷された立派なパネルよりもはるかにメリットが
ありました。


ひとつには、動物の赤ちゃんが生まれたというニュースや、
新しい動物がやってきたといった最新の情報をすぐに
パネル化できたことです。

手書きだからこそ、常に新鮮な情報を届けることが可能でした。


また、お客さんは、印刷された文字よりも、
むしろ手書きのパネルの方をよく読んでくれるのだそうです。

手書きには人の温かみが感じられますし、また、
飼育係の動物に対する愛情がにじみ出ているからなのかも
知れません。

投稿者 松尾 順 : 07:40 | コメント (4) | トラックバック

旭山動物園の必然(3)「生」への共感

旭山動物園の人たちは、長い低迷が続いていた時、

「そもそも動物園はどのようなものであるべきか」

すなわち、「動物園の存在意義」について徹底的に議論し、
次の4つの役割を再定義しました。

・レクリエーションの場
・教育の場
・自然保護の場
・調査研究の場

それからの再生の道のりも長いものでしたが、
役割を再定義することによって、様々なアイディアが生まれる
きっかけになり、また実現の原動力にもなったのでしょう。


さて、この4つの役割の中で最も重要なのは
やはり1番目のレクリエーションの場です。

小菅園長の言葉を引用すれば、

「動物たちと一緒の楽しい時間をすごし、
 その中で動物たちの素晴らしさを感じてもらう」

ということです。


この役割、言い換えると「基本コンセプト」に基づいて
発想されたのが、既によく知られた

「行動展示」や「立体展示」

といった見せ方です。


例えば、陸上ではよちより歩きのペンギンたちが、水中では
まさに鳥類の仲間らしくスイスイと飛んでいるように泳げること。

あるいは、樹上生活者のオランウータンが地上17mの高さに
張ったロープを危なげなく軽快に渡ること。

旭山動物園では、そんな生き生きとした動物の姿を見ることが
できるような工夫が随所にこらしてあります。


こうして、動物たちが生まれ持った能力や習性を活かした自然な
動きをさまざまな角度から立体的に見せることによって、
それぞれの動物が持つ固有の能力や個性、魅力を伝えることに
成功したというわけです。


「この動物園では、アザラシはアザラシを生きている、
 ペンギンはペンギンを生きている。」

とは、小菅園長との対談中の立松和平氏の言葉。
(「旭山動物園のつくり方」より)


動物園で飼育されている彼らは、確かに野生ではないけれども、
自らが持てる能力を発揮できる環境を与えられています。
むしろ、自然の脅威(天敵)がいない分、より幸せかもしれない。

そんな中で生き生きと活動する彼らを見ていると、
まぎれもない「生」を謳歌していることが人間にもわかる。

おそらく、「生きること」への共感を得ている。
そして、なかなか自分らしく生きることのできない自分への
励ましや勇気をもらっているんじゃないでしょうか。


一方、従来の動物園を振り返ってみると、
そこには、まさに「不自然」な環境におしこまれ、
やることもなく退屈そうに寝転がる動物ばかり。

終身刑を宣告されて、「死」をまつばかりの囚人のような姿。

そんな動物たちを見る人間もまた、
彼らに、自分自身の社会の中での窮屈な立場を投影し、

「お前たちも哀れだけど、俺も一緒だよ・・・」

みたいな、みじめな気分を味わうことになっていたんじゃないで
しょうか。(ちょいと大げさですね・・・)

つまり、「娯楽の場」というよりは、むしろ「落ち込む場」(笑)
になっていたのが、これまでの動物園だったと思います。


しかし、旭山動物園は、動物たちが「生」の充実を全うできる
環境を作り上げたことによって、基本のコンセプトどおり、
「生きること」の素晴らしさ・感動が伝わる場所になったのです。

投稿者 松尾 順 : 10:16 | コメント (0) | トラックバック

旭山動物園の必然(2)コンセプトのリメイク

動物園って何のために必要なんでしょうね?

硬い言い方をすれば、

「動物園の存在意義」

は何かということです。


動物園の起源は調べていませんが、
おそらく、自国には生息していない珍しい野生動物を眺めて、

「へぇー、世の中にはこんな変わった動物がいるんだねぇ・・・」

と驚いて楽しむことから始まったんだと思います。


つまり、一言で言えば、

「珍獣の見世物小屋」

これが、そもそもの動物園の「コンセプト(基本思想)」
だったと言えるんじゃないでしょうか。

ただ、従来の動物園は、このコンセプトの枠を出ることは
ほとんどなかったように思います。


しかし、このコンセプトには問題があります。

それは、「珍しさ」が最大のウリであるために、
珍しさが薄れてしまうとすぐに人気が低下してしまうという点。

このため、次々と新たな珍獣を導入し続ける必要があります。

上野動物園に日本で初めて「パンダ」がやってきた時の
フィーバーぶりを覚えている方も多いんじゃないでしょうか。

とはいえ、珍獣を紹介し続けるのは限界がありますよね。
また、そもそも資金力のない地方の動物園にはできない相談。

旭山動物園もまた、例外ではありませんでした。
同動物園には昔から、「パンダ」はもちろん、「ラッコ」
さえいない。

飼育されているのはどこの動物園でも見ることのできる、
もはや珍しくない野生動物たち。
珍獣を揃えることで、人をひきつけることはできなかった
のです。


旭山動物園では、低迷する人気を回復させるため、
大型の遊具を導入し、敷地の一部を遊園地化したことも
ありました。

しかし、遊園地も結局、新しい遊具を次々と導入しないと
すぐに飽きられてしまうもの。同動物園内の遊園施設も
短期間しか効果のないカンフル剤で終わりました。


こんな、動物園の存在意義が揺らぎ、またいつ廃園になるかも
知れない不安な日々が続く中、旭山動物園の人たちは、
内部での勉強会を熱心に続けていましたが、この勉強会で
まずやったことは、

「そもそも動物園はどのようなものであるべきか」(存在意義)

について徹底的に議論することでした。

つまり、動物園の基本コンセプトのリメイクを行ったわけです。


そして、

・レクリエーションの場
・教育の場
・自然保護の場
・調査研究の場

という、4つの役割を再認識しました。


上記の役割について、小菅園長は具体的には
次のように説明しています。(<旭山動物園>革命より)

--------------

動物たちと一緒の楽しい時間をすごし、
その中で動物たちの素晴らしさを感じてもらい、

それがきっかけとなって、
『動物たちを保護したい』、

あるいは、

『動物の生きる地球環境を守るためには、
 何をすべきなのか』

などを考える意識を育てる。

また、動物園は、『希少動物の保護・繁殖』に関わり、
さらには野生動物医学など、『学術研究の場』でもある。

--------------


小菅園長によれば、この4つの役割は、

「動物園に携わる者としての基本スタンス」

であり、いまでも朝礼や勉強会など、
さまざまな機会で徹底し、確認しているそうです。


言うまでもなく、旭山動物園の現在の姿は、
この4つの役割を基本において作られてきたものです。

マーケティングにおいては、優れた製品を生み出すために、

「明確なコンセプト」

を定めること重要性が強調されます。

旭山動物園は、その成功事例のひとつと言えますよね。


では、実際にどんな動物園づくりが行われていったのかは
次回以降で!

投稿者 松尾 順 : 11:44 | コメント (0) | トラックバック

旭山動物園の必然(1)

日本最北の動物園、北海道旭川市の「旭山動物園」は、
ご存知ですか。行かれたことあります?

私はまだなんですが、ぜひ近々行きたいなと思ってます。
とにかく動物たちの動きが迫力満点。楽しいらしいですよね。


さて、同園の直近平成18年度の年間入園者数は、
ついに300万人を突破。上野動物園の同350万人も、じきに
追い越しかねない勢いです。

北海道の片田舎といっては失礼ですが、
地方の一動物園が、これだけの入園者を集めるのは驚異的なこと。


というわけで、最近、「旭山動物園」を取り上げるマスコミが
増えていますね。皆さんも、あちこちで見聞きしてらっしゃると
思います。

このため、一見「ブーム」のような印象をお持ちかも知れません。
でも、決して一過性のブームではないんですね。


長年にわたる地道な工夫・努力の積み重ねの結果として
ここまで到達したのであって、マスコミが取り上げたせいで
ブームになってるわけじゃないのです。
(もちろん、ここ数年のマスコミ報道が来園者数をさらに
押し上げることに寄与しているとは思いますが)


ですから、よく「旭山動物園の奇跡」という言われ方をしますが、
私には、

「旭山動物園の必然」

に思えます。

同園についてのさまざまな本を読んでみると、
実に多くの経営・マーケティングに役立つヒントがあることに
気づきますよ。

というわけで、しばらく旭山動物園特集です。(笑)


まずは、Works81号(2007.04.05)の同園についての記事内に
掲載されていた「成功の軌跡」(時系列のできごと)を要約して
ご紹介します。


1967年 道内3番目、日本最北の動物園として開園
1983年 この年度59万7000人をピークとして来園者が減少
1994年 エキノコックス病のため一時期閉園を余儀なくされる
1995年 現園長、小菅正夫氏が就任
1996年 入園者が過去最低の26万人に落ち込む
1997年 子供たちが動物と触れ合える「こども牧場」誕生
2000年 入園者54万人。「ぺんぎん館」誕生
2006年 入園者270万人を超える(*最終的に300万人超)


94年の一時閉園、そしてその2年後の96年に最低の入園者数を
記録した時期はまさに崖っぷち。

上記年表では、翌年97年の「こども牧場」誕生をきっかけに
奇跡の復活を果たしたように思えますが、実は同園の人たちは
それ以前からさまざまな工夫を重ねてきていました。

つまり、ここまで来るまでには、過去20年くらいの積み重ねが
あるんです。

ですから、繰り返しますが決して一過性のブームではありません。


次に同園についての関連本をご紹介!


小菅園長の経営観、というか動物園観をしっかり知りたいなら

・<旭山動物園>革命

がお勧めです。

さらっと全体を把握したいなら、動物たちの写真も楽しい

・旭山動物園の奇跡

を、もう少し詳しく園内の仕組みを知りたいなら、

・旭山動物園のつくり方

がいいです。(こちらも動物の写真が豊富)

また、経営論的考察が加えられているのは、先ほどご紹介しましたが、

・Works 81号(リクルート)  「野中郁次郎の成功の本質」(P37-41)

です。

投稿者 松尾 順 : 10:26 | コメント (0) | トラックバック

宮崎駿作品・創作の秘密

唐突な質問で恐縮です。(^_^;

伝統的な日本建築と西洋建築の違いをご存知ですか?


以前ある講演会で、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが、
次のようなことをおっしゃってました。


西洋建築の場合、全体設計図をまずかっちり作成する。
そして、実際の施工を始める。

一方、伝統的、つまり古来の日本建築では、全体設計図なしで
いきなり、お座敷のような部屋を一つどんと作ってしまう。

そして、その部屋を出発点にして横に部屋を増やしたり、
廊下をつけたりして、大きくしていく。

つまり、西洋では「全体」ありきなのに、
昔の日本では、「部分」からスタートしていくやり方だった
というわけです。


なぜ、鈴木敏夫氏がこんな話をされたのかというと、
スタジオジブリの一連の作品の映画製作方法は、
こうした、伝統的日本建築のやり方に近いからです。

スタジオジブリ、というより宮崎駿監督のやり方が
そうだということなんでしょうけど。


先日のNHKプロフェッショナルでは、
数ヶ月に渡り宮崎監督に密着取材しており、現在製作中の新作、

「崖の上のポニョ」

がどうやって作られていくのかを知ることができました。


同番組をご覧になったかたはお分かりだと思いますが、
まさに、伝統的日本建築的でしたね。

まず最初に「1枚のイメージボード」が
出来上がらないと、映画製作が始まらないのです。


新作の主人公「ぽにょ」というのは、人面魚です。
宮崎作品としては初めて海が舞台になる。

宮崎監督は、ぽにょのいわば「本質」を表わしている

「1枚のイメージボード」

が描けるまで、さんざん悩み試行錯誤をします。

そして、ようやくその1枚ができると、
そこからイメージを膨らませ、ストーリーボードを
追加していく。

その後、スタッフとともに怒涛の映画製作に入るのです。


なぜ、宮崎監督は、このような方法を取るのか。

それは、ありきたりのストーリー展開で
先が読めてしまうのを避けるためのようですね。

「わかんないけど、面白いというのが一番いい」

のだそうです。


そんな、「謎解き」のような映画を作るためには、
理屈・論理でつくってはだめ。

だから、あえて全体を見据えることをせず、
「部分」からスタートする。


実際、宮崎作品のストーリーは呆然とするような展開を見せ、
頭(理性)で理解しようとするとよくわからないことが多い。

でもなぜだか不思議な魅力がある。


人は、本能的に好奇心が強く、

「よくわからないもの」

が好きなんですよね・・・

投稿者 松尾 順 : 09:41 | コメント (2) | トラックバック

生マジメに遊ぶ

‘ちょいワルおやじ’


で一世を風靡した「LEON」。
最新のコンセプトは‘プラチナおやじ’ですね・・・

同誌を成功させた元編集長、岸田一郎氏は、
超富裕層(年収2千万円以上)にターゲットを絞った新雑誌、

「ZINO」

を3月23日に創刊していますのはご存知かと思います。

Webと連動させた新たな雑誌ビジネスが果たして成功するかどうか、
興味津々ですね。


さて、岸田氏によれば、「LEON」でやってきたことは、

「見立て」

だそうです。
(日経ビジネスアソシエ、207.04.17)


単に商品を並べたカタログを作るのではなく、

「モテる」「口説く」

ために有効なものを実体験も踏まえて、厳選して提示する。

読者にとって読むに値するオリジナルな切り口を示せたから、
成功しました。


ただし、個人の感性や感覚だけで突き進んでいいわけでは
ありません。

岸田氏によれば、

"あまたの経験と計算、周到な分析が不可欠"

だそうです。


ですから、岸田氏は寸暇を惜しんで多彩な経験を積んでいます。

食事、サーフィン、ファッション、シガー・・・

すべて仕事のためだそうです。


"私は生マジメなビジネスパーソンなのですよ。"

なるほど、生マジメに遊んでらっしゃるというわけですね。

遊びを正当化する説明として最高です。
これからは、私も使わせていただきます。(笑)


もはや、「ロジカルシンキング」(論理的思考能力)は
ビジネスパーソンにとって常識、できて当たり前です。

これからは、クリエイティブシンキング(創造的発想能力)が
加えて重要でしょう。

となれば、「遊び」はビジネスパーソンにとって
不可欠の活動です。(と言い切ります)


また、岸田氏は、アソシエ読者に対するアドバイスとして、

”「客観性」を持つべきだ”

ということを挙げています。


個人の感性や感覚、つまり自分の好き嫌いに関係なく、
世の中を客観的に眺め、冷静に分析するクセをつけること。

それが「ビジネス」だと、岸田氏は考えています。


客観性を身に着けるためにも、自分の感性の枠にとらわれず、
様々なモノコトを体験してみる、やっぱり

「遊び」

が必要じゃないかと、私は思いますね。

投稿者 松尾 順 : 09:56 | コメント (2) | トラックバック

人はなぜ「情報」を集めるのか?

今日は(いつもかな・・・)、ちょっと抽象的な内容です。
すいません。


私たちが日々直面する問題の中には、
仕事であれプライベートであれ、しばしば経験したことのない

「未知の問題」

がありますよね。

ここでの「問題」というのは、なんらか取り組むべき事柄という
意味で、ネガティブな意味合いはありません。


プライベートで言えば、

初めての就職、結婚、出産、住居探し

などは、基本的に未知の問題です。

仕事でも、見込客への企画提案などは未知の問題ですね。


「未知の問題」の場合、問題解決の手がかりがほとんどない状況
からスタートすることになります。

そこで、私たちは、まず「情報」を集めるのです。

その問題の本質や背景を理解する上で、
今の私たちに欠けている「知識」を補うために情報を集める。

こうして新たに獲得した情報は、これまで持っていた知識に
統合され、新たな知識が生み出されます。

そうして、その新たな知識を元に問題解決に向かう。


要するに、私たちは、情報を収集することによって、
自分の知識を変化させているということになるわけです。

これは「学習活動」とも言えます。

学習の意義は、それによって日々の中でより適切な判断や行動が
できるようになる(つまりは、生き延びる)ために役立つ知識や
スキルを獲得することです。

ですから、情報収集とは、人間(人間だけでなく生物全て)
にとって、生きることそのものと言えるのかもしれません。

逆に言えば、情報収集を怠れば、オオゲサですが
生存の危機に陥る可能性だってあるわけです。


さて、情報収集活動には次の3種類があります。

・環境モニタリング
・情報との遭遇
・情報問題解決


「環境モニタリング」とは、
危機や好機到来の兆候を現す異変を読み取るために、
常に周囲の状況に関心を払い、継続的に情報を集める行為。

人だけでなく、生物全てに備わっている本能とも言える
情報収集活動です。(草食動物の群れでは、外敵の存在を
見張る役割がいますが、あれも環境モニタリング)

これは、自分が好きとか嫌いとかということではなくて、
自分に対して、ポジティブであれネガティブであれ、
影響を与えそうな事項に対して、注意を向けることです。

実は、人間の環境モニタリング本能を満たすために発達
してきたのが、新聞やテレビなどのマスコミなんですね。

現在はインターネットの役割が大きくなりつつあるますが、
周囲の環境変化を継続的にモニタリングしておくことは、
自分の生存のためにとても重要なことなんです。


次の「情報との遭遇」とは、
特に何か情報を探すという意識はなかったのに、
なんらかのきっかけで偶然、有益な情報に出会って
しまうことです。

目的なき情報探しですから、
明確な成果を最初から期待することはできません。

しかし、思いもしない情報との出会いが、行き詰まっていた
仕事の突破口になったり、人生を変えてしまうきっかけになる
こともありますから、意識的に仕掛けていくといいですよね。

例えば、放送作家の小山薫堂氏の言う

「偶然力」

のアプローチがオススメ。

神様も予期しない行動をとることで偶然の出会いの機会を
増やすやり方です。要するに、行き当たりばったり、
気まぐれなことをやってみる・・・

無駄打ちが多くなることは、覚悟しなければなりませんけど!


最後の「情報問題解決」は、
明確な解決すべき問題、つまりはっきりした目的のための
情報収集活動です。

冒頭に述べたように、日々の生活では、
「未知の問題」として、この情報問題解決が数多くやってきます。

情報問題解決のためには、効率的に答えや関連した情報を見つける
「情報検索スキル」が求められるのですが、ネットのサーチエンジン
やQ&Aサイトの登場は、この「情報問題解決」をずいぶん楽に
してくれました。


情報収集活動は、誰もが日常的にやっていることなので、
あまり意識したことがないかも知れません。

でも、目先の「情報問題解決」だけにとらわれていると、
環境モニタリングがおそろになり、時代に取り残される可能性が
ありますし、斬新な発想を生むためには、「情報との遭遇」が
有効です。


ですから、多少意識して、

・環境モニタリング
・情報との遭遇
・情報問題解決

の3つの情報収集活動スタイルを使い分けたらどうでしょうか?


*参考文献

「情報検索のスキル-未知の問題をどう解くか」
(三輪眞木子著、中公新書)

投稿者 松尾 順 : 11:13 | コメント (0) | トラックバック

アイディアの源泉かけ流し

行列のできるスイーツ屋さん、自由が丘の「モンサンクレール」
のオーナーシェフ、辻口博啓氏は次々と斬新なスイーツを
生み出し続けていることで知られていますね。

モンサンクレールのお菓子、一度でいいから食べてみたい。
残念ながら、まだその機会がありません・・・

なので、とりあえず普段はプッチンプリンで我慢しています。(^_^;


さて、世界のトップパティシェ、辻口さんが豊かなアイディアを
生み出すことのできる秘密、つまり「アイディアの鍵」のひとつは、

「他の業界の道具を使う」

ことです。
(「アイディアの鍵貸します」、フジテレビ)


たとえば、チョコレートを薄く広げるために、
通常は金属のコテのようなものを使いますが、辻口さんは、
ペンキ塗り用のやわらかいローラーを使うことがあります。

そうすると、ヘラで拡げた時の滑らかな表面と違って、
ちょっとザラっとした感じの柔らかな風合いのチョコレート生地
になるんですね。


また梱包用に使われる「プチプチ」の上に溶かしたチョコレートを
伸ばすと、丸いくぼみがたくさんある不思議な形の生地ができる。

辻口さんはこうして普通は考えもしない道具を使って、
独特の形や風合いを持つスイーツを生み出しています。


よく、アイディアは他の業界の中にあると言いますが、
辻口さんの場合は、実際に他の業界の道具を使うことで
新たなアイディアを得ているわけです。


でも、私がもっとも印象に残った辻口さんの「アイディアの鍵」は、

「過去の自分のレシピをどんどん公開してしまう」

ということでした。


自分が考えたオリジナルなレシピ、私だったらもったいなくて
公開しないんですけど、辻口さんは違います。

あえて公開することで、過去のヒット商品に頼れない状況に
自分を追い込む。そのプレッシャーによって次々と新しい
アイディアを出しているんですね。

これは、まさに

「アイディアの源泉かけ流し」

と言えますよね!


「アイディアの源泉たれ流し」というのは、
番組の案内役、平明太(ひらめいた)氏が言ってたことですが。


見習いたい。

投稿者 松尾 順 : 11:09 | コメント (5) | トラックバック

常識を疑い、あきらめない

唐突ですが、あれこれ思い悩まないでハッピーに生きるためには、

「ありのまま」

を受け入れるようにした方がいいですよね。


「まあ、こんなものだ、世の中は・・・」

と思えば、気が楽になる。
いい意味でのあきらめ、「諦観」ってやつです。


ただ、面白いアイディアを発想したい時には、
この「諦観」的態度が障害になるのが悩ましいところ。

「思考停止」しちゃってるわけですから。


ですから、発想力を高めたかったら、

「なんで、こうなんだ?」
「どうにかならないのか?」

と常に問題意識を持つことです。
常識を疑い、現状にあきらめないという態度を
とらなければなりません。


もちろん、いつも問題意識だけで世の中を見てると
結構疲れちゃいますから、

「あきらめ」と「あきらめない」

の両方の態度をうまく使い分けられたらいいですよね。


ところで、あきらめなかった人が生み出した驚きの商品って
ホントたくさんあるものです。


たとえば、炊飯器から出る蒸気。

ご飯を沸騰させて炊いてるんだから蒸気が出るのは当然だ。
この蒸気でやけどする人が結構いるらしいが、
それは、本人が注意すればよいことだ。

と思ってしまったら、何も生まれないわけです。


しかし、大阪のおばちゃん、福田尚志さんは、
どうにかして、「やけど防止」の機器が作れないかと考えた。
(日経MJ、2007年2月28日)


そこで早速、炊飯器の蒸気口の上に取り付けて熱気を
分散させる装置を試作してみた。そして、冷却用に、
たまたまそばにあったの卵を置いてみたら、
ご飯が炊き上がる頃には「ゆで卵」もできていた。


というわけで、ゆで卵スチーマー

「タマゴッコー」

が完成。97年に発売して累計販売数は50万セットです。


このアイディア商品、「王様のアイディア」なんかで
売ってそうですが、思わずひとつ欲しくなりますよね。


そういえば、米国の大手スーパー「アルバートソン」では、

「ゆで卵」

を売ってるってご存知ですか?

「生卵」と違ってゆでる手間なく、
買ってすぐにサンドイッチの具材などに使えます。


つまり、「時間が節約できる」という付加価値を
つけて売っている。「コロンブスの卵」的発想ですよね。

たぶん、日本で「ゆで卵」を販売しているスーパーって
ないですよね?(コンビニで1個売りはしてましたっけ・・・)


また、同様に米国のウォルマートで普通に置いてあるそうですが、

「スプレー式のバター」
「マヨネーズ状のバター」

といった商品もあります。


料理に使う時は問題ありませんが、
パンなどに塗りたい時には固いバターは使いにくいですよね。

そこをなんとか解決しようとして生まれたのが、
バターを吹き付けることのできるスプレー式や、
やわらかいマヨネーズのようにくねくね押し出せるバター。

「バターは固い」という常識を疑い、「昔からそういうものだ」
あきらめず、「なんとかしようと考えた人がいたということです。

たまには常識を疑ってみましょうかね。

投稿者 松尾 順 : 09:11 | コメント (0) | トラックバック

ジーニアスコード

ジーニアスコードとは、一言で言えば、

「イメージを使った思考法」

です。


私はまだ詳しいことは知らないのですが、あの神田昌典さんが、
この思考法の普及に力を入れられているんですね。


神田さんによれば、「ジーニアスコード」とは、

“論理や言語を重視する左脳による思考法に対して、
 感性やイメージを重視する右脳による思考”

だそうです。
(『超ロジカル思考トレーニング』
 シンク!、WINTER 2007 No.20)


論理的思考法では難しい、斬新なアイディアを生み出すために
有効な手法のように感じますので、私もちょっと研究・実践
してみようかなと考えています。
(相変わらず、手の広げすぎです・・・(^_^;)


ともあれ、上記「シンク!」での神田さんの寄稿に
ジーニアスコードのやり方が概説されていますので、
ポイントを押さえておきましょう。


ジーニアスコードには8つの発想法があるそうですが、
そのひとつ「ハイ・シンクタンク」と呼ばれる方法は、
次の6つのステップを踏みます。

------------------------------------------------------

【ステップ1】

質問を6つ用意し、6枚の紙に1つずつ書いて、
紙を折りたたむ

【ステップ2】

折りたたんだ紙を封筒に入れ、よく混ぜてから
1つを取り出す

【ステップ3】

リラックスした状態の中で目を閉じて、
3つのイメージを思い浮かべる

【ステップ4】

3つのイメージの共通点を見つける

【ステップ5】

質問を書いた紙を開いてみる

【ステップ6】

答えとして提示されたイメージを
言語に翻訳する

------------------------------------------------------

これだけだとちょっとわかりにくいですよね。

詳細はシンクを読んでもらうとして、
私なりの解釈でこのステップの流れを説明してみます。


まずステップ1の質問ですが、たとえば、

「どうしたら自社の業績は向上するか」

といった自分が解決したい問題や課題を書きます。

しかし、その質問を見ながらいきなり答えを
考え始めないことがポイントのようですね。

なぜなら、そうすると、
慣れ親しんだ論理的・分析的思考のやり方で
頭が回転を始めますから。


そこで、どんな質問なのかを知らないまま、
自由に3つのイメージを思い浮かべる。

そして、イメージが浮かんだ後で質問を見て、
イメージと質問を結び付けながら、
質問を解くカギをイメージの中に探してみる。

これは、かなり強引な意味づけ・解釈になるのかも
知れませんが、あえてそうすることで、
質問を直視していただけでは思いもつかない、
新たな解決法やアイディアが生まれるというわけです。

ですから、思い浮かべるイメージは、あくまで

「象徴」

なのです。

次の文は、神田さんが示してくれている具体例です。


“・・・たとえば、

「今後、会社の業績を大幅にアップする商品コンセプトは何か?」

という質問に、自動車のイメージが出てきたとすれば、

答えは

「自動車を製造せよ」

ということではない。


自動車はあくまで象徴なのだから、
自動車の「便利さ」と「スピード」が商品開発の
1つのヒントではないかと推論していくのである・・・”


このジーニアスコードの方法論は、
松岡正剛氏の編集術で言えば、まったく関係のないように
見える2つのことに「対角線」を結ぶ(関係を発見していく)
というアプローチと同じです。


編集術も、斬新な発想を生み出す体系的な方法論として
私も体感ずみ。ですので、「ジーニアスコード」も
かなり有効な発想法であることは間違いないと思います。


ただ、神田氏自身も

“この非合理的・非論理的な方法論は、
 合理的・論理的であることが求められる大企業での
 戦略立案には、果たして活用できるのだろうか?

 本音を言えば、正直難しいと思う・・・”

と書いているように、そう簡単には浸透しないでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 12:01 | コメント (0) | トラックバック

生活職人になれ!

ユニークなカタログで知られる『通販生活』はご存知ですよね?


同社における新商品の開発で
6年連続トップの座を保持しているヒットメーカー、
吉川美樹氏は、次のように発想のキモを述べています。


売れる商品を生み出せるようになるには、
ただ、漫然と生活を送る

「生活人」

ではなく、

「生活職人」

になれ!


「生活職人」は、
どうやったら日々の生活を居心地よく過ごしていけるか、
つねに生活を意識し、さまざまな努力や工夫ができる人。

つまり、生活の達人のことです。


リクルートの創刊男、くらたまなぶ氏や、
作詞家の秋元康氏、TVプロデューサーのおちまさと氏なども
同様のことをおっしゃってますが、要するに

「一所懸命、生活する」

ということでしょう。

関連記事[一所懸命、生活しましょう]

吉川氏もまた、一人娘を抱えるシングルーマザーとして、
自分にとって身近なところ(半径1メートルの生活圏)から、
不満センサーを働かせ、新商品のネタを拾っています。


吉川氏によれば、

「悩み解決」

が売れる商品のキーワード。
悩みのあるところに商品ができる。


だから、開発担当者は、
一消費者としての自分の悩みを認識し、
それを解決できる商品を生み出せばヒットになる可能性が
高いというわけです。


さて、吉川氏が、新商品の発想のためにやっている
具体的な行動は次のようなことです。

・初心にかえって、あちこちの売り場を見て歩き、
 頭に映像をプリントしていく

・いろいろな世代の人を観察する。とくに商品のターゲット
 になる層の行動を、街や電車の中などさまざまな場所で
 観察する

・新聞に折り込まれているチラシを眺め、ジャンル別に
 「欲しいものベスト10」を出していく

・書店を回って、本や雑誌の表紙を眺めたり、特集記事を読む

・朝起きてからの「生活動線チェック」をする
 (起きてからの自分の行動を細かく思い出していく)


上記の行動を見ると、ポイントは

「現場での注意深い観察」

だということが言えますね。


デスクや会議室に座ったまま、

「一消費者になったつもり」

になっているだけじゃダメなんです。


たとえば、私の推測なんですが、

「一消費者になったつもり」

で失敗した事例だと思われるのが、
東急の会員制リゾート施設、

「ビッグウィーク」

の価格設定です。
(日経産業新聞、2007/01/25)


「ビッグウィーク」は、いわゆる「タイムシェア型」。
つまり、1年の好きな期間の施設利用権を購入できる仕組みです。
現在8カ所に施設を展開しています。

ビッグウィークの一番目の施設(99年開設)は「京都」ですが、
桜や紅葉シーズンの週は、20年間利用権が300万円超、
底冷えのする冬場は同80万円台と設定。


ところが、冬場の分は即日完売したにもかかわらず、
春、秋はいまだに売れ残っているそうです。

東急担当者は、おそらく、会議室にこもったまま、
従来の旅行シーズン(繁忙期・閑散期)の常識を引きずり、
思い込みで価格設定したに違いありません。


実際、売り出し当時の顧客の反応は
次のようなものでした。

「東急さんは京都の楽しみ方を知らないね。
 我々は春秋の混雑した京都なんて行きたくないんだよ。」


現在、東急さんはこうした過去の失敗を踏まえ、
3千人の会員調査を行ってユーザーのニーズを把握している
そうです。
(ということは、以前は顧客ニーズ調査を
 やってなかったってことでしょう・・・!)


商品開発に当たっては、担当者自身がまず、

「自分が顧客だったらどんな商品が欲しいか」

という思考を働かせ、
同時に現場に行ってみる、体験してみることが大事ですが、
それが難しいのであれば、素直に顧客に聞く(調査する)
べきですよね。


*吉川氏の話は、下記の本からです。

『半径1メートルの「売れる!」発想術』
(吉川美樹著、サンマーク出版)

投稿者 松尾 順 : 10:31 | コメント (0) | トラックバック

創造的になるヒント

ブルータス最新号(2007/02/01)は、まるごと1冊

・茂木健一郎特集
(正式な特集タイトルは、「脳科学者ならこう言うね!)

ですが、先日、HMV渋谷店で同誌の発刊記念講演会が
行われたようです。


講演会の模様は、

茂木健一郎 クオリア日記

からMP3でダウンロード可能です。


講演会のタイトルは、

『創造するならバカになれ!』

要するに、

どうやったら創造的になれるか
(クリエイティビティを発揮できるか)

のヒントを脳科学の知見を踏まえて語っています。


ここで簡単に講演内容をご紹介しますね。

茂木さんはクリエイティブになる条件を4つほど挙げています。


1.バカになる

講演タイトルにもなっているほどですから、
もっとも重要な条件なんでしょうね・・・


これは、硬い言葉で言うと「脱抑制」。

常識や固定観念、先入観といった自分の思考を抑制しているもの
から脱却するということらしいです。


確かに、天才と狂気は紙一重といいますが、
天才的な発見・発明した人は、常人とはかなり違います。
端的に言えば、「変人」のことが多いですね。

しかし、そうした変人だからこそ、凡人からは
「バカげたこと」に熱中できるし、結果的に
既存の枠組みを大きく変える大発見や大発明を成し遂げることが
できたわけです。


茂木さんはブログ上では、

「世の中は‘賢いバカ’が変えてきた」

と書いています。


2.「起源」にこだわる

これは、昨日書いた、「原理」を見抜く力とほぼ同じようです。
ものごとをただ漠然と見るのではなく、

「それって何が起源なんだろう、背景に何があったのだろう?」

と考えてみること。
(これができること自体、相当「バカ」にならないとできない
 ように思いますけど・・・)


たとえば、

「Vサイン」

をしている人を見て、

「Vサインは、誰が始めたんだろう?」

とか考えてみたり、調べてみる。

こんなことが日常できるようになったら、
相当クリエイティビティが高くなるんじゃないかと思います。


ちなみに、Vサインを最初に始めたのは英首相のチャーチル
だそうです。いろいろと由来があったのですが、
詳細は忘れました・・・(^o^)


3.多様性

さまざまな異なる考えや見方を拒否しない。
多様性を受け入れることによって、新たな創造が生まれる。

基本的に、創造は異質なものの組み合わせから生まれますからね。


4.歴史認識を持つ

2の「起源」にこだわるということと、ほぼ同じことでしょう。
ものごとがどのようにできてきたのか、またどんな背景があった
のかを知っておく、そうやってさまざまな出来事の因果関係を
理解することが、新たな創造につながるのでしょう。


ところで、上記の内容とは直接関係ないのですが、
講演の中で茂木さんが言うには、これからは

「一大教養時代」

が来ると予言しているそうです。


実は、知ること(学問)こそ、最大の快楽だからです。

おなかが一杯になったら「食欲」は止まりますが、
「知識欲」には際限がないですからね。


「知のコンテンツ」そして「学び」

が最大のエンタテイメントになる時代が近いというのは
私も確信しています。

投稿者 松尾 順 : 13:00 | コメント (0) | トラックバック

ものごとの原理を見抜く力

先日、亡くなられた日清食品創業者の安藤百福氏は、
戦後復興期にラーメンの屋台に並ぶ人々の列を見て、
「即席麺」に対するニーズを読み取りました。

そして、世界で初めてのインスタントラーメン
「チキンラーメン」を開発。

さらに、安藤さんが米国に行った際、
あちらの人が、チキンラーメンを2つ折りにして紙コップに
入れて食べるのを見て「カップ麺」を思いつき、
やはり世界初のカップ麺、「日清カップヌードル」が生まれたのは
有名な話ですよね。


このような斬新な発想力や創造力は、
事象の背景を深く読み取ることによって可能になることです。

これは、

「ものごとの原理」を見抜くこと

だと言えますよね。


実際、これまでの偉大な発見・発明の多くは、
ものごとの原理を発見したり応用することから生まれている
わけです。


たとえば、

「熱気球」

が開発されたきっかけはご存知でしょうか?


最初に熱気球を製作したのは、南フランスのアノネイで製紙業を
営むモンゴルフィエ兄弟だったそうです。


兄のジョセフ・ミッシェル・モンゴルフィエは、
暖炉の熱気にあおられて洗濯物がはためくのを見た時、
熱気球のアイディアを着想します。

そこで、彼は、紙袋に暖炉から出る煙を入れてみたところ、
紙袋は天井まで上っていきました。

熱気球による有人飛行に成功したのは1783年11月21日ですが、
この実験は、その約1年前のことでした。

この最初の実験以来、兄ジョセフは、弟のジャック・エチエンヌと
協力して、さまざまな素材を試しながら、少しずつ大きな熱気球を
作っていきました。

ちょっと面白いのは、モンゴルフィエ兄弟は、熱気球が浮かぶ
本当の原理がわかっていたわけではなく、
ものを燃やしたときに出る煙に、ものを浮かばせる特殊な成分が
含まれていると考えていたことです。

彼らは、この特殊成分を「モンゴルフィエのガス」と
呼んでいました。

しかし、熱気球としての仕組みは間違っていなかったため、
最終的には、有人飛行に成功します。


こうして後からの話として読むと、
ジョセフの着想はたいしたことのないように思えますよね。

しかし、りんごが木から落ちるのを見て万有引力の原理を
気づいたニュートンと同様、実は最も難しく高度な頭脳の
働きが必要なのかもしれません!


私もこうしたものごとの原理を見抜く力を
身に着られないものかと常々願っておりますが、
はてどうしたものやら・・・


*熱気球の話は、
 創造開発研究所、主任研究員菊池しのぶ氏の書かれた
 「社長のための創造のヒント」
(中央会 Monthly Reports 2006.12)を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 11:43 | コメント (0) | トラックバック

「へぇ!」体験が生み出すシータ波


以前、このメルマガ&ブログで、

「動かないことが最高のサービス」

という話を書きました。

英国の寝台列車「ロイヤルスコッツマン」は、エディンバラ13時発。
19時ごろにスピーン橋駅に停車すると、翌朝8時まで動きません。

夕食から就寝時間帯に動かないのは、‘サービス’なんですね。

単にA点からB点に移動するだけじゃなくて、列車の旅を楽しむ
からこそのサービスでしょうけど、「へぇ」ですよね。

このネタは「世界途中下車」(日経新聞夕刊)というコラム
から拾ったものですが、昨日の同コラムでも新たな「へぇ」が!


やはり欧州の鉄道の話。

レールが1本は単線、2本なら複線。
複線なら、一方が上りで、一方は下り。

そういうもんですよね。
これが私たち(日本人)の常識、というか固定観念です。


ところが、欧州では、2本のレールを上りにも下りにも使う。

列車が上手と下手からすれ違うんじゃなくて、
2本のレール上を一方向に並走するようなこともある。

これは「単線並列」と呼び、欧州ではポピュラーな方法。


日本では、複々線化(レール4本とか)して、
鈍行(各駅停車)と快速用とレールを分けるのが一般的です。

でも、欧州では、混雑する方向に合わせ、
2本のレールを上り、下りに柔軟に使い分けています。

これだと複々線化するコストが削減でき、効率がいいですよね。


「単線並列」は、鉄道に詳しい方はご存知だったかも
知れませんが、普通の人にとっては「へぇ!」ですよね。


こんな「へぇ!」体験、それだけで楽しいことですけど、
別のいいことがあります。

それは、「シータ波」という脳波を発生させること。


「シータ波」は、脳を活性化させ記憶力を高めます。
また、新たな発想が生まれ、偉大な発明・発見につながるかも!

海馬の研究で有名な池谷裕二氏によれば、
シータ波を発生させることができれば、高齢者でも若い人並みの
記憶力を維持することができるらしいです。


「シータ波」を発生させるには、知らない土地に行ったり、
知らなかった世界の情報に触れて、外界・ものごとに
新鮮な興味・関心を持つことが有効です。

逆に言えば、脳を「マンネリ化」させないことです。

ですから、私たちの常識、固定観念、先入観を壊してくれる
「へぇ!」体験もまた、シータ波発生に効果的というわけです。


なお、わざわざ知らない土地にいかなくても、
普段の生活でもシータ波を発生させることは可能です。


見慣れた風景、聞きなれたコトを改めてじっくり観察して、

「なぜこうなんだろう?」

と素朴な疑問を持ってみる。

さらに、「自分だったらこうするな・・・」

とアイディア出しまで発展させる。


実際、

小山薫堂氏は、「勝手にテコ入れ」をやり、

折口雅弘氏は、「当事者意識を持つ」ことをやり、

高城剛氏は、「歩きながら‘なぜこうなってる?’」と考える

とアイディアマンとして知られる人たちは
経験的にシータ波を発生させるコツを体得されてるようです。

投稿者 松尾 順 : 09:07 | コメント (0) | トラックバック

穴は大きくすべきか、小さくすべきか

今日も引き続き「シンプルマーケティング」の内容を
ご紹介するつもりでしたが、移り気な性格でもあり、
ちょっと休憩して横道にそれます。(笑)


ちょっと前のマーケティング入門書や発想法の本などに、
次のようなエピソードがしばしば掲載されていました。

覚えている方います?

--------------------------------------------

「味の素」の売り上げアップを
製品自体の改良なしで実現したアイディアがあった。

それは、容器の「振り出し穴」の大きさを
ちょっとだけ大きくすることだった。

これによって、一回当たりの使用量が増え、
結果的に購買頻度が上昇し、売り上げ増につながったのである!

--------------------------------------------

このアイディア、
コストをかけずに売上げを伸ばしたケースとして
「すばらしい!」という賞賛を込めての紹介でした。

しかし、この話が実際に行われたものかどうかわかりませんが、
よく考えてみると、消費者をあざむく「姑息な手段」ですよね。

数十年前の、「生産者志向」のマーケティングが主流だった時代
だから通用した話でしょう。


一方、近年の類似事例に、

「フィネスコンディショナー」

があります。
ヘレンカーチスのヘアケア商品です。


さて、フィネスのマーケティングチームも、味の素と同様、
製品改良なしに、売上増を図るアイディアを実行に移しました。

それは、ディスペンサーキャップの穴を「小さく」すること。

味の素と真逆をやったわけです。

穴を小さくすると、一回あたりの使用量が減ります。
結果として、短期的には購買頻度が低下することになりますよね。


しかし、フィネス担当者は、
顧客ロイヤルティの獲得による長期的なリターンが
短期的なロスを上回ると判断したのです。

実際、大幅な業績増を実現したそうです。


この話、顧客志向のマーケティングが求められる今の時代に
ふさわしい好例ですよね。

*このフィネスの事例は、

「世界最強CMOのマーケティング実学」
(ブラッドフォード・C・カーク著、ダイヤモンド社)

から。

なお、上記の本は文字通り、
企業内のマーケティング担当者の実務に役立つ単刀直入な
アドバイスが書かれています。
(広告会社などの方には、あまり面白くないでしょう・・・)

投稿者 松尾 順 : 12:11 | コメント (0) | トラックバック

認知の浪費家になってみる

「なぜ、階段の‘手すり’はまっすぐなのか?」


こんな変な疑問を持ったことのあるかたは少ないですよね・・・


小さいころから、さまざまなところで私たちは階段を使い、
‘手すり’を目にしてきてます。

鉄製・木製など原材料が違ったり、
断面の形(大体円ですね)はいろいろですが、どれも、
階段の傾斜に沿ってまっすぐに伸びた直線の棒である点は
同じでした。


ところが、棒形ではなく、波形の手すりで

「クネット」

という製品があるんですね!
(日経産業新聞、2006/10/06)

製造販売は、長崎・佐世保の「クネット・ジャパン」。
製品名、会社名とも、てすりの形まんまの社名です。(笑)

波の形状は、幅25センチ。
高さ15センチの標準的な階段1段の大きさに合わせて
作られ、約15センチの間隔で山と谷が交互します。

つまり、蛇のように「くねくね」しています。


従来のまっすぐなてすりは、握る手首の角度が不自然で
力が入りにくく、実は、不安定で滑りやすい形でした。

でも、「クネット」なら、
階段を上がる時には、クネットの垂直に立ち上がっている
部分を握れば、体を持ち上げやすいそうです。

逆に、階段を下る時には、水平になっている部分を握って
体をしっかり支えることができます。

クネットは、階段の上り下りが大変な高齢者にとって
特にありがたい製品ですよね。


しかし、これまで「まっすぐ」であることが当たり前だった
手すりを「くねくね」させるという発想はどこから
涌いてきたんでしょうねぇ。

この手すりの元々の考案者は、佐世保の工務店経営者と
いうことですから、日ごろ住宅を建てている中で、
なにかのきっかけで思いついたんでしょうけど、
きっかけはさておき、

「なぜ、てすりはまっすぐなのか?」
「てすりがまっすぐでなければならない理由はないよな?」
「てすりが、くねっていてもいいんじゃないか?」

といった考えをふくらませていったんだと思います。

つまり、考案者は、ごく当たり前のことに目を向け、
観察し、考えをめぐらせんでしょう。


世の中の斬新なアイディアや発明は、しばしば、こうした
何気ないこと、当然と思われていることをゼロベースで
見つめなおしたことで生まれることが多いですよね。

でも、これを実践するのは結構難しいことです。

なぜなら、私たちは、生まれながらの

「認知の倹約家」

だからです。

認知の倹約家というのは、端的にいえば

既知のことに対しては、なるべく深く考えないようにする

という傾向を持っているという意味です。

たとえば、通勤の途中などで、

「なぜ道路は平らなのか?」
「なぜ車は左側通行なのか?」
「なぜ、自分は右足と左足を交互に出して歩けるのか?」
「なぜ、人には体毛が少ないのか(類人猿にはあるのに)」

などとあらゆることに疑問を持って考え込んでいたら、
まともな生活ができませんよね。

第一、そんなことしてたら大層疲れてしまいますし・・・

だから、人は、物事に対して一定の認知(理解)を与えたら、
それを深く考えることをやめてしまうのです。

思考を節約するために。

実はこうした傾向が、常識、先入観、固定観念、偏見などを
生む背景にあるわけですが。


ですから、逆にいえば、
斬新なアイディアを生み出したかったら、たまに

「認知の浪費家」

になるのがよさそうです。


具体的には、

・日常のさまざまな物事をしっかり見る(観察)

「見るとは2度見ることである」といいますが、
目に見えているものの中から、何かに着目し、
しっかり見て、観察する

・そして、なぜこうなっているのかを考える

・さらに、自分ならどうするか、を考える

ということをやればいいですね。


問題は、頭がへとへとに疲れることですが、
発想力を鍛える頭脳のスポーツとしていいんじゃないでしょうか。

そういえば、エジソンやアインシュタインなんて偉大なる
「認知の浪費家」だったように思います。

投稿者 松尾 順 : 12:58 | コメント (2) | トラックバック

外部の環境変化を直視し、内部変化を起こさないとどうなるか

先日、米国タワーレコードの2度目の倒産が報じられましたね。

リアルなレコード・CD専門店店の破綻を聞くと、
やっぱりインターネットのオンライン販売や不正コピーのせいかな
と反射的に思ってしまいましたが、そうではないようです。


米国の場合、レコード・CDの販売価格は日本と違って小売店が
自由に設定できます。このため、ウォルマートや、ターゲット、
ベストバイといった大手量販店がディスカウント価格で販売
しています。

例えば、女性歌手、パリス・ヒルトンのCDは、タワーレコード
では13ドル99セント、ウォルマートでは9ドル72セント。
ピンクパンサーのDVDは、タワーレコード28ドル99セント、
ウォルマート13ドル72セント。
(日経ビジネス、2006年9月4日号)

勝負になりませんね・・・


日経ビジネスの記事では、1989年以降の「レコード・CD専門店」、
ウォルマートのような「その他の店舗」、および
「インターネット」の市場シェアのグラフが掲載されています。

これをみると、90年台に入って、レコード・CD専門店のシェアは
まさに坂道を転げ落ちるように急落してます。

1989年時点では、「レコード・CD専門店」の市場シェアは
実に71.7%。ところが、2004年には32.5%と半分以下になり、
一方、「その他の店舗」のシェアは2004年には53.8%と半分を
占めるまでに伸長しています。

ちなみに、「インターネット販売」のシェアは、
2004年時点でも、まだ10%に達していません。

要するに、タワーレコードは、インターネット以前に、
ウォルマートのような新たな販売チャネルに対して
価格競争力の面で負けてしまったということです。


しかし、私がよくわからないのは、90年代半ばには既に、
タワーレコードが劣勢な立場にあることがわかっていたはずなのに
なんら自らの経営を革新しようとしなかったことです。

その代わり、憧れの米国文化の象徴ともいえるタワーレコード
ブランドをひっさげて海外へ積極的に展開する道を選びました。

結局、海外進出は失敗に終わりますが、
足下の米国の弱さをそのまま放置していたため、
今回再び破産するしかなかったというわけです。


タワーレコードのケースは、

外部に大きな変化が生じているにも関わらず、それを直視せず、
その外部変化に適応するための内部変化を起こさなかったら
どうなるか

ということを如実に教えてくれますね。


でも、タワーレコードと同じ轍を踏んでいる企業って多いなあ。
経営が迷走しているダイエーもそうでしょう。

そして、おそらく個人レベルでも。
外部の変化に無頓着な人って結構多いんですよね・・・

こんな人・企業にとっては、破綻は「突然」の出来事に思える
でしょうけど、実はずいぶん前から見える人には見えていた未来
なんですよね。

やっぱり、アンテナは外向きに高く立てましょうよ。

投稿者 松尾 順 : 08:25 | コメント (0) | トラックバック

学習意欲を高める作戦

知恵市場にアップしたものをこちらにも転載します。
テーマがちょっと外れますが、週末番外編ということで・・・!


変化の激しい昨今、私たちビジネスパーソンは、
あっというまに陳腐化する知識やスキルに拘泥することなく、貪欲に
新たな知識、スキルを獲得しつづけることが必要!

とはいえ、諸般の事情で日常に流されてしまいがちな中、
学習意欲を喚起し、また維持するのは大変なものです。

というわけで、「学習意欲を高める作戦」。

現在履修中の「熊本大学大学院(修士課程)社会文化科学研究科 教授システム学専攻」
の前期で学んだ「eラーニング概論」のテキストから、学習者のためのヒント集を
ご紹介します。

なお、このヒント集は、学習の動機づけモデルのひとつ、

「ARCSモデル」

に沿っています。
「ARCSモデル」とは次の4つの側面で学習意欲を捉えるものです。

Attention(注意):面白そうだなあ!
Relevance(関連性):やりがいがありそうだな!
Confidence(自信):やればできそうだな!
Satisfaction(満足):やってよかったな!

それぞれの英語の頭文字をとって「ARCSモデル」と命名されているわけです。

以下、ほとんど丸ごと転載となりますが、著者の鈴木克明先生(上記大学院の
専攻長)によれば、版権表示付きで配布自由とのことですので遠慮なく
掲載させていただきます。お読みいただいた方も、プリントアウトしたりして
利用する際は、この点にご留意くださいね。

ここに書かれていることは、言葉にしてしまえばごく当たり前のことに感じるかも
知れませんね。ただ、大事なのは実行しているかどうかです。

--------------------------------------------------------------------
[学習意欲を高める作戦(学習者編) ~ARCSモデルに基づくヒント集]
--------------------------------------------------------------------

■注意(Attention):面白そうだなあ!

●目をパッチリ開ける:A-1:知覚的喚起(Perceptual Arousal)
・勉強の環境をそれらしく整え、勉強に対する「構え」ができるように工夫する
・眠気防止の策をあみだす(ガム、メンソレータム、音楽、冷房、コーヒー、体操)
・眠い時は眠い。十分に睡眠をとって学習にのぞむ

●好奇心を大切にする:A-2:探究心の喚起(Inquiry Arousal)
・なぜだろう、どうしてそうなるのという素朴な疑問や驚きを大切にし、追及する
・今までに自分が習ったこと、思っていたことと矛盾がないかどうかを考えてみる
・自分のアイディアを積極的に試して確かめてみる
・自分で応用問題をつくって、それを解いてみる
・不思議に思ったことをとことん、芋づる式に、調べてみる
・自分とはちがったとらえかたをしてる仲間の意見を聞いてみる

●マンネリを避ける:A-3:変化性(Variability)
・ときおり勉強のやり方や環境を変えて気分転換をはかる
・飽きる前に別のことをやって、少し時間をおいてからまた取り組むようにする
・自分で勉強のやり方を工夫すること自体を楽しむ
・ダラダラやらずに時間を区切って始める

------------------------------------------------------------

■関連性(Relevance):やりがいがありそうだなあ!

●自分の味付けにする:R-1:親しみやすさ(Familiarity)
・自分に関心がある得意な分野にあてはめて、わかりやすい例を考えてみる
・説明を自分なりの言葉で(つまりどういうことか)言いかえてみる
・今までに勉強したことや知っていることとどうつながるかをチェックする
・新しく習うことに対して、それは○○のようなものという比喩やたとえ話を考えてみる

●目標を目指す:R-2:目的指向性(Goal Orientation)
・与えられた課題を受け身にこなすのでなく、自分のものとして積極的に取り組む
・自分が努力することでどんなメリットがあるかを考え、自分自身を説得する
・自分にとってやりがいのあるゴールを設定し、それを目指す
・課題自体のやりがいが見つからない場合、それをやりとげることの効用を考える
 (例えば、評判があがる、報酬がもらえる、肩の荷がおりる、感謝される、
  苦痛から解放されるなど)

●プロセスを楽しむ:R-3:動機との一致(Motive Matching)
・自分の得意な、やりやすい方法でやるようにする
・自分のペースで勉強を楽しみながら進める
・勉強すること自体を楽しめる方便を考える
 (例えば、友達<彼氏、彼女>と一緒に勉強する、好きな先生に質問する、
  秘密にしておいてあとで親などを驚かせる、友達と競争する、ゲーム感覚で取り組む、
  後輩に教えるなど)

------------------------------------------------------------

■自信(Confidence):やればできそうだなあ!

●ゴールインテープをはる:C-1:学習要求(Learning Requirement)
・努力する前にあらかじめゴールを決め、どこに向かって努力するのかを意識する
・何ができたらゴールインとするかをはっきり具体的に決める
・現在の自分ができることできないことを区別し、ゴールとのギャップを確かめる
・当面の目標を「高すぎないけど低すぎない」「頑張ればできそうな」ものに決める
・自分の現在の力にあった目標がうまく立てられるようになるのを目指す

●一歩ずつ確かめて進む:C-2:成功の機会(Success Opportunities)
・他人との比較ではなく、過去の自分との比較で進歩を認めるようにする
・失敗は成功の母:失敗しても大丈夫な、恥をかかない練習の機会をつくる
・千里の道も一歩から:可能性を見極めながら、着実に、小さい成功を重ねていく
・最初はやさしいゴールを決めて、徐々に自信をつけていくようにする
・中間目標をたくさんつくり、どこまでできたかを頻繁にチェックして見通しを持つ
・ある程度自信がついたら、少し背伸びをした、易しすぎない目標にチャレンジする

●自分で制御する:C-3:コントロールの個人化(Personal Control)
・やり方を自分で決めて、「幸運のためでなく自分が努力したから成功した」と考える
・失敗しても、自分自身を責めたり「能力がない」「どうせだめだ」などと考えない
・失敗したら、自分のやり方のどこが悪かったかを考え、転んでもただでは起きない
・うまくいった仲間のやり方を参考にして、自分のやり方を点検する
・自分の得意なことや苦手だったが克服したことを思い起こして、やり方を工夫する
・何をやってもだめという無力感を避けるため、苦手なことより得意なことを考える
・自分の人生の主人公は自分:自分の道を自分で切り開くたくましさと勇気を持つ

------------------------------------------------------------

■満足感(Satisfaction):やってよかったなあ!

●無駄に終わらせない:S-1:自然な結果(Natural Consequences)
・努力の結果を自分の立てた目標に基づいてすぐにチェックするようにする
・一度身に付けたことは、それを使う/生かすチャンスを自分でつくる
・応用問題などに挑戦し、努力の成果を確かめ、それを味わう
・本当に身に付いたかどうかを確かめるため、だれかに教えてみる

●ほめて認めてもらう:S-2:肯定的な結果(Positive Consequences)
・困難を克服してできるようになった自分に何かプレゼントを考える
・喜びをわかちあえる人に励ましてもらったり、ほめてもらう機会をつくる
・共に戦う仲間を持ち、苦しさを半分に、喜びを2倍にする

●自分を大切にする:S-3:公平さ(Equity)
・自分自身に嘘をつかないように、終始一貫性を保つ
・一度決めたゴールはやってみる前にあれこれいじらない
・できて当たり前と思わず、できた自分に誇りをもち、素直に喜ぶことにする
・ゴールインを喜べない場合、自分の立てた目標が低すぎなかったかチェックする

------------------------------------------------------------
出展:鈴木克明(1995a)『放送利用からの授業デザイナー入門』日本放送協会、
   102-105頁。版権表示付きで配布自由・1995鈴木克明

投稿者 松尾 順 : 19:08 | コメント (0) | トラックバック

合脳的プレゼンテーション

先週の「プロフェショナル 仕事の流儀」(NHK)では、
これまで登場された方の「仕事術」を特集してたんですが、
ご覧になったかたもいらっしゃいますよね。

いろいろと紹介された仕事術の中で特に面白いと思ったのは、
「生茶」などをヒットさせたキリンビバレッジの商品企画部長、
佐藤章さんの「プレゼン術」です。


まず、佐藤流プレゼン資料の作り方。

佐藤さんは、パワーポイントのスライド1枚の説明時間を

「約1分」

として枚数を決めるそうです。

例えば、プレゼン時間が20分だとすると資料は20枚になります。

こうする理由は、だいたい1分間に一つのテーマを話すのが
相手にとって理解しやすいから。

私としては、これが普遍的に良い方法とは思えませんが、
毎年、相当数の新商品を開発しなければいけない清涼飲料メーカー
だけに、簡潔でスピーディな説明が求められるんでしょうね。


次に、佐藤流プレゼンテーションのコツ。

それは、「接続詞」に気をつけることだそうです。

「だからこそ、この商品の・・・」

「ですから、消費者の・・・」

などと、話のつなぎや場面転換に、

だから、ですから、したがって、つまり

など、接続詞をきちんと意識して流れを作っていく。


プレゼンに慣れない人に多いのは、

「えーと、この商品は・・」
「えーと、ネーミングについては・・・」

と間投詞「えーと」を連発することですが、
これだと話がつながっていかない。

聞いてるほうは、いらいらします。(笑)


でも、接続詞を意識して話をしていくと、まるで
「物語」(ストーリー)を語っているかのようなものに
なりますね。

これは脳科学者の茂木健一郎氏によると、
物語として語ると、脳のシステムにすっーと入ってくる。
理解・記憶しやすいものとして受け取ることができる。

こういう脳にとって受け取りやすいコミュニケーションのことを

「合脳的」(脳に合っている)

と言うそうです。


昨今、コミュニケーションにおいて「物語」が注目されて
いますが、
佐藤さんは、実践の中でプレゼンの物語化の必要性を実感し、
「接続詞に気をつける」という具体的なテクニックを
編み出されたんでしょう。さすが!


ところで、ご参考までに番組の中で説明のあった
20分のプレゼンテーション資料の枠組みをご紹介しておきます。
(新しい清涼飲料開発の場合のようです)

Page [タイトル]
1  市場動向
2  社会動向
3  ターゲット
4  開発案件
5  テーマ
6  商品コンセプト
7  ユーザーベネフィット
8  マーケティング上の意義
9  プロダクト・プロファイル
10  ネーミング
11  パッケージ
12  味
13  広告
14  調査結果
15  市場導入戦略
16  商品戦略
17  営業戦略
18  セールスプロモーション
19  広告戦略
20  採算計画

紹介されたのはタイトルだけなので、
内容は推測するしかないんですけど、飲料メーカーらしい
構成ですよね。

投稿者 松尾 順 : 12:23 | コメント (5) | トラックバック

社会という実験場

経営コンサルタントの石原明さんが、
繰り返し言われてきたことのひとつに、

「社会は、自分のためにお金を出して実験してくれている」

という言葉があります。


これは、社会を見渡してみると、

・たくさんの人たちが、新しいアイディアを実現するために、
 様々なことにチャレンジしているということ

・それらは成功することも失敗することもあるけれど、
 第三者として分析することによって、自分は学べること
 (どうやったら成功しそうか、あるいは失敗を避けられるか)

・この学びを得るために自分の腹はまったく痛まないこと。
 まるで自分のために、他の人が自腹で実験してくれている
 ようなものであること

を意味しています。


例えば、居酒屋大手のワタミの場合。

同社では、昨年7月にオープンしたばかりの「てづくり厨房」
を今年5月に閉店。

1年足らずでの撤退を決めています。
(日経アソシエ、206.07.04)


「手づくり厨房」は大手居酒屋チェーンの中では、
初めての「全席禁煙」を打ち出した新業態店でした。

当初は子供連れの家族が来店してくれてにぎわいましたが・・・


「禁煙居酒屋」からの撤退の原因は、
大きな収益源である「宴会」需要を取り込めなかったこと。
また深夜の集客が弱かったことでした。

このため、「和民」と比較すると30%の売上げ減。
これでは駄目だと早々と見切ってしまったわけです。


なぜ、「宴会」が取れなかったのでしょうか?

幹事としては、参加者の中に一人でも喫煙者がいたら、
「手づくり厨房」に予約を入れにくいから。

なぜ、深夜の集客が弱かったのでしょうか?

夜に活動している人たち(いわゆるブルーカラー)は、
喫煙者が多かったから。


今、失敗の原因を振り返ってみると、

「なんだ、そんなこと事前にわかりそうなものだけど」

と思うようなシンプルな原因ですよね。


おそらく、ワタミさんとしても、
成功する、また失敗する可能性について、
いろんな「仮説」を立てていたと思います。

しかし、実際にやってみる=実験してみることで、
「仮説」を検証してみる必要があったのです。


そして、今回は残念ながら失敗したわけですが、
ワタミさんは、次の新業態開発に向けての学びを得たわけですし、
こうした失敗の理由を知ることができた私たちもまた、
タダで学ばせていただいたということになりますよね。


社会を「問題意識(WHY?)」の視点で見つめましょう!
今日も、あちこちで壮大な実験が繰り広げられています。

投稿者 松尾 順 : 10:53 | コメント (0) | トラックバック

マーケターは「星の王子さま」を読め!

「読め!」とは、ちょっと高圧的ですね。すいません。


さて、このメルマガ(ブログ)は、
マーケティングや消費者心理に関心のある方を対象に書いてますが、
マーケティングだからといって、いつも「ビジネス」にだけ
視野を狭める必要はないと思うのです。

しばしば、ぜんぜん関係なさそうなものに、
意外なヒントがあったりします。

そのひとつが、サン=テグジュペリの「星の王子さま」です。

これは童話風の物語ですが、純粋な童話として書かれたもの
ではなく、当時の唯物論的考え方や科学重視・実証主義に
偏向した社会を揶揄した内容になっていますよね。

そしてまた、見方を変えれば、
「ブランドの本質」について書かれた本とも言えるのです。


大胆に言い切ってしまうと、「星の王子さま」が
伝えようとしたことは、

「物事の価値は人の心の中にある」

ということでしょう。


たとえば、物事についての目に見える尺度、
つまり、形状や機能や性能などが必ずしもその価値を
自動的に決めるわけではない。

物事の価値の有り無しを決めるのは、物事自体ではなくて、
むしろ、人の心であるということです。


「かんじんなことは目には見えない」

これは、星の王子さまにきつねが教える「秘密」のひとつですが、
しばしば、人は、目には見えない(可視化・数値化しにくい)こと
に価値を見出すという点を示唆してると見ることができます。

例えば、品質的には全く同じ生地で作られた、
同じようなデザインの服でありながら、高級ブランドと無名製品で
価格が天と地ほども違うのは、そのブランドの背景にある歴史とか
伝統とか「目に見えない大切なもの」に対して高い価値を与えられ
ているからです。


もうひとつ、きつねが王子さまに教える秘密も、
実に意味深長です。


「あんたがね、あんたのバラの花をとてもたいせつに
 思ってるのはね、そのバラの花のために、“ひまつぶし”
 したからだよ」


バラの花は、どれも見かけは同じにみえます。
違いはほとんどわかりません。

なのに、一本のバラが、王子さまにとってかけがえのない存在と
感じられたのは、バラに水をあげたり、ついたてを立てて
風から守ったり、いろいろと時間をかけて面倒を見たから。

つまり、物事の価値は、自分がその物事に対して投じた
(無駄にした)時間によって上がるものなのです。


これで思い出すのが、
最近注目されている「ユーザー参画型」の商品開発です。

企画段階からユーザーの意見を積極的に取り入れたり、
あるいは、あえてソフトのベータ版のように未熟な子供の段階で
市場に出して、バグのない立派な完成品(大人)ユーザーに
育て上げてもらう。

企業側が勝手に企画して作られた商品をポンと
あてがわれるのではなく、
商品開発プロセスにユーザー自身が首を突っ込み、
手間と時間をかけた商品が登場したなら、
それは、ユーザーにとって「特別な」価値のある商品ですよね。


まあ、星の王子さまの強引な解釈とおっしゃる方もいる
でしょうけど、私が、マーケターとして「星の王子さま」
に見出した価値は、「ブランド本」としてのものであると
お考えいただけますでしょうか?


余談ですが、これまでの話は、
ブロードウェイミュージカル「Rent」のテーマ曲、
『Seasons of Love』の歌詞にも通じるところがあると
思います。

------------------------------

How do you measure a year in the life?

「あなたの人生の一年一年をどんな尺度で図る?」

How about ‘LOVE’?

「‘愛’ではどう?」

------------------------------


「今年どれだけ儲かったか」

なんていう尺度で一年を測るのもわかりやすいですけど、
「愛」という尺度で測るのも悪くないですよね。

投稿者 松尾 順 : 11:00 | コメント (6) | トラックバック

時代の風を読む

最近のベストセラー本のひとつ、劇団ひとりの

「陰日向に咲く」(幻冬舎)

を通勤中にサクッと読んでみました。

今何が大衆に受け入れられているのか、流行っているのか、
いわゆる「大衆文化」を知るのはマーケターとして
大切なことですよね。

ですから、本来は若年層がメインターゲットで
40歳過ぎのおじさんが読むのはちょっと恥ずかしい、
上記のような本をあえて読んでみるのも
立派なマーケティングリサーチだと思います。(笑)


さて、劇団ひとりさんは小説を書くのは初めてなのに、
筋書きが巧みですね。文体はさらっとしてます。
大笑いさせるようなオオゲサなオチはありませんが、
柔らかい笑いを呼び起こします。

じんわりとした余韻が残るいい小説でした。
まあ、確かにかなりの「文才」があることを感じさせますが、
ものすごい!というほどではありません。

ではなぜベストセラーになっているのか。

それは時代の風を見事に読んでいることにあると思いました。

登場人物たちは、ホームレス、フリーター、ギャンブル好きの
多重債務者などです。
昨今の拝金主義、成果主義が生み出した格差社会の
「オチこぼれ」をメインキャラクターとして設定しています。

彼らは、村上ファンドの村上氏のように、
資産家の生まれでもないし、ずる賢くもありません。
むしろ、不器用で衝動的な感情に流されてしまいがちな弱い人間。

でも、私も含め、いわゆる大多数の市井の人たちは、
多かれ少なかれ弱い存在ですよね。運命に翻弄され、
しばしば、自分自身の蒔いた種で苦労することも多い。

現代は、そうした弱さが、結果において大きな差として
現れてしまう厳しい社会です。だから「格差社会」と
呼ばれている。

そんな世の中で多くの人が共通して感じている
漠然とした不安や恐怖、あるいはあきらめ感といったものを
劇団ひとりさんはしっかり受け止め、
巧みな筋書きと心理描写で小説化した、
ここにベストセラーになった鍵があります。

ひとりさんは、小説の素人だからこそでしょう、
実にわかりやすい「時代の風の読み方」と言えます。


最近は、ワン・ツー・ワンマーケティングが主流で、
どうしても、ターゲット顧客一人ひとりの個別のニーズに
焦点を絞りがちですが、一方で、今の時代全体をおおう時代の
雰囲気、風を同時に感じようとすることが必要ですね。

なぜなら、個々人のニーズは、そうした時代の雰囲気、風
にも大きく影響されているからです。


現代のビジネスは、いくら市場を細分化したところで、
一定数以上の顧客を確保しなければ利益が出ない以上、
個々のニーズに加えて時代の風も的確に読み、それを
商品開発なりマーケティングコミュニケーションに反映
させることはいまだ重要なポイントだと思います。

投稿者 松尾 順 : 09:38 | コメント (2) | トラックバック

創造力と問題発見能力

先日ご紹介した「ハイコンセプト」の主旨は、
これからは「新しいこと」を考え出す人の時代であり、
コンピュータや、より賃金の安い国の労働力で代替可能な
仕事は「やばい」ですよということでした。


「新しいこと」を考え出すというのは、創造力、あるいは
問題発見能力を持っているということですよね。

じゃあ、どうしたら創造力や問題発見能力を高めることが
できるのか。

このテーマについては、
これまでもいろいろと書いてきてますけど、
ほぼ答えは見えています。様々な方が語っていることの
本質はほぼ同じなんですよね。

でも、特に、最も的確に上記テーマに対する答えを返して
くれているのは、精神科医の和田秀樹氏でしょう。

つい先日公開されたばかりの、
和田氏執筆の「ビジネスリーダーの心理学」
NECの会員制サイト、Wisdomに掲載)

の第12回のタイトルは、

「創造力と問題発見能力をつける」

でした。

概要をご紹介しましょう。

ポイントは次の5つです。

1 「豊富な知識」に基づいて「たくさんの答え」を出せること

 インプットなくしてアウトプットはないということですね。
 一発ですばらしいアイディアがでることはまれです。
 たくさんのアイディアを出すなかから、原石を探し出す必要
 があります。

2 観察眼を鍛えること

 物事を「問題意識」を持って考えることです。
 流行っている店に行ったら、なぜ流行っているのか、と
 その要因を考えてみる。つまり仮説を立ててみるということ
 でしょうか。

3 自分の感情を大切にすること

 銀行の窓口が混んでいて長いこと待たされてイライラした。
 コールセンターのオペレーターの対応にむかついた。
 自分の感情が動いた時、特にネガティブな感情、つまり不満、
 不安、怒りといったものを認識することが、新たな発想に
 つながる「問題」を発見し、創造性を刺激することになる。

4 うまく行っているものから学ぶこと

 要するに「守・破・離」ということでしょう。
 まずは、成功者の型を素直にまねする。そして、そこに
 自分のオリジナリティを加えていき、独自の型を創造する。
 まったくのゼロからは何も生み出すことができないのです。

5 とにかく試してみること

 学ぶことは失敗することです。失敗の種をつぶしていけば、
 最後には成功が残る。


上記のポイントを見ると、テクニックというよりは、
生き方や仕事の仕方に対する基本的な取り組み姿勢の
問題であることがわかりますね。

単に、○○発想法みたいな発想技術が書かれた本だけ
買ってきても、らちがあかないはずです。

投稿者 松尾 順 : 09:34 | コメント (0) | トラックバック

検索せず、探索せよ

土日も休まず発行されてる日刊メルマガが、
いくつかありますよね。

私も何誌か登録してますが、そのうちのひとつ、

「ビジネスマトリクス」理論と実践の狭間で

は、軽いタッチの文体でなかなか深いことが書かれています。

実際、発行者の長沼良和さんは、昨日のメルマガでも
次のようなことを書いてました。(本文中一部引用)

「新聞を読みましょう」というテーマでした。

--------------------------------------------------------

(新聞を読むと)
ネット新聞では気付かない情報が入手できるということが
 分かりました。

というのも、ホームページだったら、興味のある記事しか
読まないじゃないですか。どうでも良いところは読み飛ばす
以前に見ることもありません。

しかし、紙の新聞の場合、見開きで全体を眺めますから、
興味のある記事もない記事もすべて見ることになります。

すると、
 
「へぇ~、こんなこともあるんだぁ。。。」
 
という新しい発見があるのです。

--------------------------------------------------------
(業務連絡:長沼さん、勝手に引用させてもらいましたが、
 ご了承お願いします)


私も新聞を結構きちんと読んでいますが、その目的は
この新しい発見を期待してのことです。

長沼さんが書かれているように、ホームページだと
ある程度決まったサイトしか見ないし、それらのホームページ
から得られる情報は話題がある程度絞られていますよね。

たまに幅広いテーマを扱うニュースサイト的なところにも
行きますが、あまりの情報量の大きさにたじろいで、
結局、検索して関心のある情報だけ取り出すことに
なりがちなんですよね。

だからどうしても「新しい発見」がなくなる。


すでにある程度明確な物事を効率的に進めるためには、
一切のムダを省き、一直線に目的の情報に向かえばいいと
思います。

しかし、プランナーやクリエイターといった、
新たな発想や気付きを生み出す仕事をしている立場の方なら、
あえて効率を捨て、視野を広げて普段あまり関心を
持たない情報を「探索」してみるのは結構意義があると思います。


目的を持って情報を探し出すのは「検索」。

インターネットは情報システム、巨大なデータベースですから、
検索に便利ですね。


一方、漠然とした問題意識だけで、様々な情報を渉猟し、
新たなテーマを発見しようとするのが「探索」。

これは、ネットでもいわゆる懐かしい「ネットサーフィン」
でもできますが、やはり一覧性の高い新聞、雑誌といった紙
メディアがいいですよね。

たまには、意識的に無駄な時間を作って、いろいろ
探索してみたらどうでしょう。それは、すぐに結果に
つながる行為には必ずしもなりませんが、決して無駄には
ならないと思いますよ。


なお、

「検索せず、探索せよ」

は、尊敬する妹尾堅一郎先生(東京大学教授)が
いつも言われていることです。

投稿者 松尾 順 : 04:44 | コメント (0) | トラックバック

4つの関係性で見る

昨日「仮説」の話を書きましたが、実は、
「仮説」という言葉が嫌いな先生がいらっしゃるんですよね。

今、秋葉原の再興のプロデューサーとして活躍されている、
妹尾堅一郎先生(東京大学特命教授)です。

妹尾先生は、昨年まで学生と社会人合同の勉強会を週末に
開催されていて、私もメンバーの一人でした。
(最近は、上記秋葉原プロジェクトでお忙しくて勉強会を開く
時間が取れないようですが)

この勉強会では、ディスカッション中に、うっかり「仮説検証」
などと口にしようものなら、妹尾先生の顔色がさっと変わり、
にらみつけられたものです。(笑)

なぜ、「仮説検証」は禁句だったのか、
ぼんくらなことに、私は正確には思い出せません。

確か、「仮説検証」は、現状の問題解決が前提となってしまう。
したがって、妹尾先生の提唱されている、

「新たな課題(構想)を生み出す」(構想学)

ためにはあまり適していない考え方だから、という理由だったと
思います。(もちろん、文脈が違うから適切でないというだけで、
「仮説検証」の考え方を全面否定されているわけではありません)


さて、新たな課題(構想)を生み出すというのは
要するに「発想すること」です。

そして、妹尾先生からは、「発想する方法」についていろいろと
教えていただきましたが、わかりやすくて有効な方法として

「物事の関係を4つの視点で見る」

というものがあります。


4つの視点とは、

・補完
・相乗
・代替
・相殺

です。

*ここで言う「補完」とは、補うというより「付加価値」を
 与える何かのこと


例えば、「コーヒー」

コーヒーの補完関係にあるのは何でしょう?

ひとつは「ミルク」ですね。あるいは「シナモン」もそう。

では、コーヒーの代替関係にあるのは?

紅茶、日本茶などですね。

では、コーヒーの相乗関係にあるものは?

ケーキ、チョコレート、人によってはタバコ、となります。

コーヒーの相殺関係に当たるのは、
たとえば、「いかの塩辛」とかでしょうか。
塩辛を食べながらコーヒーを飲む人はまずいないでしょうけど、
一緒に飲食したら、どちらの味もだい無しですね。
(そんな組み合わせが好きな人もいるでしょう、どうぞお好きに)


どんなことにも、この4つの関係性は発見できますよね。

「ラーメン」なら、

補完:チャーシュー
相乗:ギョーザ、ライス
代替:そば、うどん
相殺:シュークリーム(普通はありえないですが)

などなど。

では、「日本酒」における4つの関係性に当たるものは?
(良かったら、考えてみてください)


この考え方は、事業・商品・サービス開発、マーケティングなどの
アイディアを出したいときに、簡単で有効な方法です。

投稿者 松尾 順 : 06:28 | コメント (4) | トラックバック

仮説をぶつける

「仮説」とは何でしょう?

マーケティング・リサーチャーとしては、
「調査仮説」という言葉が身近なものとしてあります。

でも、「仮説」とは何かをわかりやすく説明してある本は
今までほとんどみたことがありません。不思議なことなんですが。


私が講師を務めさせていただいている
「マーケティングリサーチ」のセミナーでは、
「調査仮説」を次のように説明しています。

「裏づけのない自分の勝手な思い込みの因果関係」


具体的に説明しますね。

「自社の製品の売れ行きが落ちてきたので、
 売り上げを回復する手を打ちたい」

というマーケティング課題があったとします。

このマーケティング課題に対して、
調査をやることになった場合、
通常、調査課題(目的)は、

「製品の売り上げ低下の理由を把握する」

ということになるでしょう。


この次に、「調査仮説」を立てるわけです。

自社製品の売り上げが低下してきた原因は、

-製品が陳腐化してきたから
-より魅力的な競合製品が登場したから
-消費者の低価格志向化が進んで、価格が割高に
 感じられるようになってきたから
-小売店の棚における自社製品のスペースが縮小
 されているから
-広告で起用したタレントの人気が良くなかったから

など、いろいろ挙げることができます。

ただ、これらの原因は、まだどれが正しいのか、
確証はありません。裏付けとなる事実、データが
手元にないからです。

要するに、「調査仮説」とは

「おそらく“自社製品が売れない”(結果)の
 原因は、こんなことだよね」

と各自が「勝手に考えている思いつき」に過ぎない、
因果関係です。

そこで、こうした仮説のどれが正しいのか、
事実、データの裏づけを取るのが「調査」の役割です。

ですから、逆に言えば、調査をするに当たっては、
基本的に、まず「仮説」を立てない限り、
「何を具体的に調べたらよいのか」が
わからないことになります。


さて、「仮説」については、
日経ビジネス最新号(2006年5月15日号)のインタビューに
登場した伊勢丹社長、武藤信一氏が、
もっとわかりやすい説明をしてくれていますね。


「売り場のスタッフが、お客さまの本音を引き出すのは
 難しいのでは。」

という記者の質問に対し、

武藤さんは、同席していた日経ビジネスのスタッフに
突然質問します。

「あなたにはお嬢様が2人いらしゃいましたよね?」

「いえ、娘と息子です。」

虚を突かれたスタッフは、真実を教えてしまいました。


武藤氏いわく、

「ねっ。お客様は、仮説をぶつけると、
 こうやって必ず正直に答えてくれるんです。」


なるほど!

「仮説」を立て、ぶつけることで初めて真実が引き出せる
ということなんですね。


なお、「仮説」というのは、日常の仕事においては
「問題意識」と言い換えることができます。

「なぜ~は~なんだろう」
「多分~だからだ」

と考えるのが問題意識。

これは、自分なりの勝手な因果関係を考えてみること
ですから、まさに「仮説」です。

で、じゃあ、この「仮説」を検証してみよう、
ということで具体的なアクションになる。

すると、真実が見えてくるというわけです。

投稿者 松尾 順 : 06:03 | コメント (0) | トラックバック

消えてしまったものを探せ!

以前もご紹介しましたが、田坂広志さんが最近説かれている
「ヘーゲルの弁証法」によって未来を読む方法は、やはり
有効ですね。


田坂さんによれば、
「ヘーゲルの弁証法」において最も役立つ法則が、

「螺旋的発展」の法則

というものなんですが、これは

「物事は、発展するとき、直線的ではなく螺旋的に発展する」

という意味です。


具体例を挙げると、昔市場で対面で行われていた「競り」が、
現代の大量生産・大量流通システムの中で消えかかっていた
ところに、IT、インターネットの力を借りて、パワフルな
仕組みを備えた「オンラインオークション」として復活して
きたことがそうです。

つまり、昔盛んだったけれど、いったん表舞台から消えていた
懐かしい何かが、新たな付加価値を伴って再登場することです。

これを田坂さんは、「螺旋的発展」では、

「進歩・発展」と「復活・復古」

が同時に起こるのだと指摘されているわけなんですが、
この螺旋的発展をリアルタイムで目の当たりにしているのが
米国証券業界でしょう。


数日前の日経産業新聞のコラム記事によると、

圧倒的な低価格を武器に登場したネット証券は、
数年前には市場取引シェアの半数以上を占めるほどの
隆盛を誇ったそうです。

ところが、ここ数年間の既存証券会社の逆襲で、
ネット証券会社のシェアは15%程度に低下してしまった。

このシェア低下の理由は「競争条件の変化」。

既存の証券会社が手数料をネット証券並みに引き下げた結果、
ネット証券の優位性は失われた。一方で、既存の証券会社は
「情報」を軸にしたサービスを提供するようになった。

しかし、この「情報」を付加価値として顧客に提供する
サービス競争にネット証券はついていけない。

なぜなら、ネット証券は、極限までコストを引き下げるため
にあらゆる余分なものをそぎ落としてしまっており、もはや
付加価値「情報」を提供する能力を持っていないからなんですね。

手数料が同じなら、顧客は当然ながら
サービスのよい既存証券会社が良いに決まってます。

揺り戻しというか、既存の証券会社が螺旋的発展によって
新しい形態の証券会社として生まれ変わってきたというところ
でしょうか。


さて、この事例からもおわかりかと思いますが、
弁証法を未来を読むために活用するに当たってのポイントは、
昔はあったけれど、今は

「消えてしまったものは何か」

を探すことです。

証券業界の場合は、コストダウンの過程で消えていた
「付加価値情報提供機能」がそれに当たります。

この機能を復活・復古させるところに螺旋的発展があった。


田坂さんは、

未来を「予測」することができないが、
「予見」することはできる。

と言われてますが、確かに、いったん消えたものがわかれば、
未来の展開がかなり高い確率で予見できるでしょうね。


ところで、日本の証券業界について、
私はかなり無知なんですが、米国のようなことが起こりつつある
んでしょうか。

ご存知の方、ぜひ教えてください!

投稿者 松尾 順 : 13:17 | コメント (2) | トラックバック

哲学的発想法

「歴史は繰り返す」

と言いますね。

確かに、時、ところ、状況、登場人物は違っても、
その出来事の本質を深く洞察してみると、
以前に起きた出来事とほぼ同じパターンが見出せることが多い。

ということは、

・未来に何が起きるのか、
・どのような変化がもたらされるのか

のヒントは「過去にある」と言えることになります。


そして、その過去のヒントから未来を予見するため、
あるいは新しい発想を生み出すことに有効なのが
「弁証法」です。ヘーゲルの哲学ですね。

田坂広志さんによれば、「弁証法」のただひとつの法則を
学ぶだけで十分なのだそうです。

それは、

「螺旋的発展」の法則。

物事が発展するとき、直線的に発展するのではなく、
螺旋(らせん)的に発展する

ということです。


あたかも螺旋階段をぐるぐると回りながら昇っていくように
物事は進歩・発展する。

別の場所に向かって移動しているのではなく、ぐるっと回って
元の場所に戻ってきてはいるが、一段高い場所に進化している
ということです。


近年のネット革命によって、
私たちはこの法則を目の当たりにしていますよね。

例えば、ネットオークション。

昔、物品の販売は「競り」や「指値」で行われていました。
定価というものが存在しなかったのです。

しかし、近代産業社会では、この方式は手間と時間がかかる
非合理的なものとして、鮮魚や花きなどの一部の物品を除いて
いったん消えてしまいました。

ところが、ネットオークションは、多対多の競り、指値の
取引を合理的な仕組みで行うことを可能にしました。

やっていることは、懐かしい、昔ながらの買い手と売り手の
丁々発止のやり取り。でも、それは、最新のITシステム
上で行われており、確かに螺旋的に一段上昇しているのです。


田坂氏は、こうしたことを

「進歩・発展」と「復活・復古」が同時に起こる

と表現しています。


私が、この春から、熊本大学大学院で研究する「eラーニング」
も螺旋的発展の一例です。

「eラーニング」は、単なる遠隔教育ではありません。
産業社会の発展によって導入された「集団教育」「一律教育」
のため、いったん消滅した寺小屋的な「自律学習」「個別学習」を
可能とする一段高い仕組みなのです。

つまり、懐かしい寺小屋がeラーニングによって甦ったのです。


さて、この「螺旋的発展」の法則に基づいて、
どうやって未来を予見できるのでしょうか、
また、新しい発想を生み出せるのでしょうか。

田坂氏は次のように説明しています。

まず

何が「復活」してくるかを、読む

ことです。このためには、

何が消えていったのか」を、見る

必要があります。

そして、

「なぜ消えていったのか」を考えます。

最後に、

どうすれば「復活」できるか、を考える

つまり、

かって合理化、効率化の流れの中で「消えていったもの」が
最近生まれてきた技術や方法を用いて「復活できないか」を
考えるのです。

新しい発想とは、異質なモノ・コトの組み合わせだというのは
すでに常識になりつつありますが、
この「螺旋的発展」の法則も、
使える発想法として活用していきたいものですね。


*上記にご紹介した内容については、
 「使える弁証法」(田坂広志著、東洋経済新報社)
に詳しいです。

*また、田坂氏の公式Webサイト「未来からの風」
 では、「風の対話」のコーナーで、
 田坂氏の肉声でのわかりやすい説明を聞くことができますよ。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

メタファーのチカラ

今まで自分が理解していなかったこと、知らなかったことを

「なるほどね」

「そういうことか」

と‘わかる’ために役立つのが、

「メタファー」、つまり「比喩(たとえ)」です。


なぜなら、人は、知らないことを理解しようとするために、
すでに知っている知識やイメージを用いて、置き換えたり、
近似するものだからです。

例えば、「なまこ」を見たことのない人に、

「棘皮動物ナマコ網に属する海の生物で、
 体長20-30cm位の大きさ・・・」

といった説明は正確かも知れませんが、
実際のところ、わかった気しませんよね。

「え、なまこ?ゾウリみたいな形の変な生き物だよ」

と言い切ってくれた方が、生物学的には不正確でも、
なんとなくわかった気になるし、好奇心が刺激されて、
さらに調べてみようという気持ちにもなります。


ですから、説明がわかりやすい、あるいは説得力が
ある話ができる人は、ほぼ例外なく、
「メタファーのチカラ」をうまく活用できている人です。

最近、このメタファー使いの名手として注目しているのが、
これまでもご紹介したことのある、
ジャストレードの須子はるかさん。


今週3月13日にリリースされたばかりの新サービスにも
メタファーのチカラが存分に注入されています。

名づけて、

「理想の自分誕生クリニック」


ネーミングのキャッチーさもさることながら、
全7回のコースを文字通り、受精から出産までの
「妊娠プロセス」に喩えています。

各コースのキーワードになっているメタファーを並べて
みましょう。

・第1回・・・受精
・第2回・・・妊娠発覚
・第3回・・・超音波検査
・第5回・・・つわり
・第6回・・・胎教
・第7回・・・立会い出産

ここまでやるんだ、まったくもう、さすがですよね。(^-^)


ただ、内容は「コーチング理論」などをベースとした
まじめでしっかりしたものです。

それだけに、型どおりの説明では理解が難しい、
魅力が伝わりにくい無形のセミナーを「妊娠プロセス」に
喩えて説明することで、実にわかりやすい、
腑に落ちるコピーになっているわけです。

このメタファー使いのうまさは、本にもなった

「コミュニケーション集中治療室」

でもおおいに発揮されたところでした。

コミュニケーションの問題を「病気」(コミュニケーション疾患)
と呼び、それを美人女医(須子さん)と美人看護師(松村さん)
の2人が治療に当たるいうメタファーはセンセーショナルでした。

特にコスプレが最高でしたね。(^-^)


セミナー好きの私ですから、「理想の自分誕生クリニック」も
受講してみようかなあと考えてます。

投稿者 松尾 順 : 10:56 | コメント (0) | トラックバック

オキシモロンが好き!

「オキシモロン」って、やらしい性フェロモンとかじゃないです。
でも、私はとても好きなんです。

オキシモロンは、日本語では「撞着(どうちゃく)話法」と
訳されます。「矛盾語法」と呼ばれることもあります。

文字通り、矛盾した言葉を組み合わせた表現のことです。
ぱっと見た瞬間、「ありえねー」と感じるわけのわからない表現。

例えば、

「巨大な小エビ」

「冷たい太陽」

「凶暴な優等生」

「エッジの効いたなまこ」

など・・・

オキシモロンは、小説や映画のタイトル、広告表現などで
様々な形で使用されていますが、読み手を「ハッ」とさせ、
あるいは「ニヤリ」とさせ、興味を喚起する効果がありますね。


また、オキシモロンは、新たな発想、商品開発の原点と
なりうるテクニックでもあるんですよ。

なぜなら、新たな発想は、基本的に異質な(=矛盾した)情報の
組み合わせから生まれるわけですから。


パーミションマーケティングのセス・ゴーディンの最新刊、

‘マーケティングは「嘘」を語れ!’
(セス・ゴーディン著、沢崎冬日訳、ダイヤモンド社)


の中でも、「撞着話法」について触れられています。


“撞着話法が最も大きな効果を発揮するのは、これによって、
矛盾する二つの概念双方を実際に「求めて」いる、
少数ではあるが今まで相手にされていなかったグループに
働きかけることが可能になる場合である”

そして、具体例として挙げるのは、

急成長している客船ビジネス「アドベンチャークルーズ」
スターバックスの「カフェイン抜き豆乳ラテ」

です。

「アドベンチャークルーズ」は、冒険と快適さという相反する
欲求を同時に充足させる新市場を、また、
「カフェイン抜き豆乳ラテ」は、
健康を志向しつつコーヒーを楽しみたいという市場を発見した
わけです。

また、日本で最も成功したオキシモロン発想は、

「コクとキレ」

のアサヒスーパードライでしょう。

これは言い換えると、新たな「市場ポジショニング」ですね。


ちなみに、私が師範代を務めている編集学校では、
発想法の稽古(練習)としてこのオキシモロンが採用されてます。

実際、自分でオキシモロンを作ってみてください。
なかなか楽しいですよ。


ソクラテスの名言、

「無知の知」

もオキシモロンです。

投稿者 松尾 順 : 11:14 | コメント (2) | トラックバック

象を追い払う男

今日は、かなりメンタル寄りの話です。

「悪循環の現象学」(長谷正人著、ハーベスト社)という本の中に
こんな話が紹介されています。

-------------------------------------------------

十秒毎に手をたたくのを繰り返す奇妙な男がいた。
なぜ、そんな変わった事をするのかと尋ねると、
彼は

「象を追い払うためさ」

と応えた。

「象をですか?でも、どこにもいないじゃないですか」

と聞き返すと、すぐさま彼は

「そのとおり。見たとおり僕が追い払っているから、
ここにはいないのさ。でも、象たちがここへ二度と戻らないように
するためには、こうやり続けなくちゃならないわけだ」

と答えた。

-------------------------------------------------

この男のやっていることが変なことはすぐわかりますよね。

ただ、よく考えてみると、

「手をたたくことで象が現れない」

と考えているこの男にとって、

「手をたたく」

という行為にはなんらおかしいところはないのです。


上記の本では、この話を皮切りに

「行為の意図せざる結果」

ということについて議論が展開されています。


象を追い払う男の場合は、
「象がここに現れては困る」という恐怖に取りつかれた。

そこで、この恐怖を消すという「意図」の下に「手をたたく」という「行為」を
行ったのだが、いっこうに恐怖が消えてくれないという「結果」に終わったうえに、
彼はこの行為をやめるわけにはいかなくなった。

やめたとたん、象が出てくると信じているからです。

つまり、「行為の意図せざる結果」が招いた哀れな話なのです。


しかし、私たちは、この男のことを一笑に付すことはできないと
思いませんか。

なぜなら、この男がやっているようなことを普段の生活の中で
知らず知らずにやってしまっているからです。

たとえば、

「私はネクラだ。だから友達から嫌われるのだ」

と思いこんでいる人は、
心の中では友達がほしいという欲求を持っています。

しかし、自分はネクラだという思い込みが
この人を実際にネクラな人間にしてしまっており、
自分の思い込みどおりに、友達を遠ざけてしまういう結果をもたします。
(ちなみに、私の若いころにこんな思い込みを持っていました)

こうした思い込みというのは、端的にいえば「とらわれの心」です。
ものごとをありのままに、あるいは様々な側面から眺めることが
できなくなっている状態です。

人はしばしばさまざまな「とらわれの心」を持ちますよね。
そして、本当は望んでいない不幸な結果を招いていることが
多いのです。

自分が困った状態にある時、

「自分は何かにとらわれすぎてやしないか?」

と自問自答することが必要でしょうね。

投稿者 松尾 順 : 09:32 | コメント (0) | トラックバック

戦略的マーケターに必要な5つの能力

先日の日経産業新聞のコラム「部長講座」で、

「これから求められる戦略的マーケターの条件」

について書かれていました。

シナプス・マーケティング・カレッジの講師の一人として、
若手マーケターの育成に取り組んでいる私には
とても興味深い内容でした。


このコラムによると、通常のマーケターが備えているべき
条件は次の4つです。

---------------------------------------------------

1 マーケティングのスキル、センス
2 クリエイティブ能力
3 マネジメント能力(時間とコストを考えた実現力)
4 価値創出への情熱

----------------------------------------------------

そして、「戦略的マーケター」であるためには、
上記4つに加えて次の5つの能力が求められるそうです。

----------------------------------------------------

1 市場洞察力
  市場の実態や変化の兆しを探り出す能力

2 ユーザー理解力
  ユーザーの行動変化を深く理解する力

3 仮説創造力
  市場と顧客の実態から仮説を生み出す力

4 部門統合力
  事業遂行に必要な経営資源を統合する力

5 事業連結力
  経営陣とともに他事業との相乗効果を生む力

-----------------------------------------------------

どれも、一朝一夕で身につく能力ではないですね。

日々、高い「問題意識」や「当事者意識」を持って行動する
ことを通じて少しずつ培われていくものでしょう。

しかし、4の部門統合力や5の事業連結力は、
マーケターというより、もはや

起業家(アントレプレナー)

の条件です。


社会的に新たな価値を生み出すという点では
マーケターも起業家も同じだからでしょう。

逆に、起業家は優れた戦略的マーケターでなければならない
ということも言えるんじゃないでしょうか。


ちなみに、「マインドリーディング」は、

2 ユーザー理解力

3 仮説創造力

に焦点を当てています。

といいつつ、膨大な知見をなかなか体系化できずにいますが。
あきらめずにがんばります。

投稿者 松尾 順 : 12:12 | コメント (0) | トラックバック

答えは、奥深いところに隠れている

先週土曜日は、‘シナプス・マーケティング・カレッジ’で
開講している「マーケティング・リサーチ・エッセンス」の
講師を務めさせていただきました。

この講義は全3回(週1回x3)です。先週は2回目の講義、
「調査企画の立て方とアンケート調査票の作成」がテーマでした。

受講されているのは、一般企業のマーケティング部門などに
在籍されている方々です。

アンケート調査票作成では、質問の言い回しのコツなど、
一昔前なら、調査専門会社の社員相手じゃないと
話さなかったような深いところまで説明しています。

こんな専門的な講義に一般企業の方が集まるようになったのも、
インターネット調査が普及して、安価に手軽にリサーチが
できるようになったからでしょうね。


調査も本格的に実施しようとすると相当な予算が必要です。

しかし、これまで経験やカンだけでやってきたため、
調査に基づいてマーケティングの意思決定をすることに
慣れていない、したがって、
なかなか調査の意義が認められなくて、
予算がつかないという会社が結構多いものです。

ところが、インターネット調査なら、
社内である程度、調査企画や設計ができれば、
実質的な外注費用は数万円~数十万円で済むこともあります。

「その程度の予算で済むのならやってみようか」

というわけで、今は自社内で調査に取り組む会社の裾野が
相当広がっているんじゃないでしょうか。


ただ、私がひとつ危惧していることがあります。

それは、簡単に聞けるようになったからというだけで、
調査対象者に直接「答え」を求めてしまう安易な姿勢も
広まってしまうんじゃないかということです。


「あなたはどんな商品がほしいですか?」

さすがにこんな質問をすることはないでしょうけど、

顧客ニーズは直接聞けばいい、聞けば「答え」を教えてくれる

とは考えるべきではないということです。

そもそもそんなに簡単に聞ける答えなら、
わざわざ聞かなくても、自分でちょっと考えれば
思いつく程度のものでしょう。

顧客は、こんな商品・サービスがあったらいいな、
なんて、普段は考えていません。

ですから、調査で聞くべきことは、ありのままの行動や、
その製品を使っている時の状況や気持ちとかを中心に聞いていく。

そして、マーケターがやるべきことは、
回答者の言葉の表面ではなく、
奥のほうにある深い意味を読み取ることです。


元リクルートの創刊男、くらたまなぶさんは、
新しい情報誌のアイディアを得るためのニーズ調査として、
一対一の対面インタビューを得意としていました。

くらたさんによると、最初はなかなか相手の口から
有効な答えが返ってこないものだそうです。

たとえば、

「旅行について不便に感じていることって
 ありますか?」

とか聞いても、

「そうですね・・・特にはないですね。。。」

というのが当初の典型的な反応です。

ですから、時間をかけて相手と向き合い、
すぐに聞き出そうとしない。
焦ってしまうと、相手のど元まで出掛かっていたものが
引っ込んでしまうのだそうです。

しかし、焦らずにじっくり待っていると、
だんだんと奥深いところに隠れていた相手の本音や答え
らしきものが、表面に浮かびあがってくる。

くらたさんはそれを的確に読み取って、
今もリクルートの収益を支えている、
数々のドル箱情報誌を創刊することができたのです。


調査が手頃にやれるようになったことは
とてもすばらしいことなのですが、
どんな調査手法を採用するにしろ、

「顧客のニーズ、本当の答えは、奥深いところに隠れていて
 なかなか言葉としては浮かんでこないものだ」

ということを肝に銘じて、調査はやるべきです。

投稿者 松尾 順 : 13:49 | コメント (0) | トラックバック

偶然を必然に変えるのはあなたしかいない

今日は趣向を変えて昔話を・・・

あれは、たぶん私が小学5年生のころでした。


私は小学校時代ずっと、大好きな女の子がいました。
もちろん、片思いです。

小学校ではほとんど同じクラスでしたが、
その子のことは、あまりに強烈に意識してしまって
一言も話せなかったのです。

でも大好きでした。

「この思いを伝えたい」と考えない日はありませんでした。
告白したい相手がいるなら、誰もが考えると思いますが、
偶然二人きりになる機会が来ないかと願っていました。


ある休日、私は自転車で学校の近くを走っていました。
すると、向こうから、やはり自転車にのった彼女が
走ってくるのが見えました。

私の胸は高鳴りました。どうしようと思いました。
お互い自転車に乗っていますから、あっというまに
彼女が近づいてきます。

彼女はにっこりと微笑んでいました。
確かに私に向けて微笑んでくれていた。

しかし、その瞬間、私は顔をそむけてしまったのです。

バカですね。本当にバカですね。
なぜ、あの時、「遊ぼうよ!」と言えなかったのか。

なんてったって、まだお互い小学生ですからね。
いいじゃないですか。そんな野暮な誘い文句でも。

まあ、実際には「イヤ」とか言われたかも
しれませんけどね。

彼女と二人だけで同じ時間、空間を共有できたのは
あれが最初で最後でした。

彼女とは中学も一緒でしたが、同じクラスになることはなく、
ついに告白できませんでした。

私は二人だけになる偶然を願っていました。
そして、神様は1度だけチャンスをくれた。

しかし、私はその偶然を必然に変えることができなかったのです。

現在、私は大人になってから出会ったすばらしい女性と
結婚し、とても幸せです。

伴侶との出会いも偶然ですが、
その偶然を必然に変えることができました。

自分が勇気を出して、その偶然をつかみにいったことで、
運命の出会いにすることができたのです。


生涯の伴侶との出会いに限らず、
人生を大きく変えてしまうような出来事のほとんどは
偶然にやってきます。

それをただ見逃していたら、偶然のままで終わってしまいます。
偶然を必然に変えたかったら、あなたが動くしかないのです。

あなたが動いてつかみにいけば、すべてが必然になります。
運命は自分でも変えることができると思うのです。

ところで、小学生のころの話、今まで誰にも話したことが
ありませんでした。小さいころの甘酸っぱい思い出として
私の胸の中にそっとしまったままにしておくつもりだったんですけどね。

別にネタに困ったわけではありませんが、思わず書いてしまいました。
おかげで浄化作用がありました。いま、とってもすっきりしています。(笑)

最後まで読んでくれてありがとう。

投稿者 松尾 順 : 09:54 | コメント (0) | トラックバック

いつでもどこでもできる経営シミュレーション

ナルミヤインターナショナルの社長、成宮雄三氏には、
こんな習慣があるそうです。

“私はよく街を歩くのですが、その時に、

「そこの魚屋さんの売り上げを上げることはできるか」

「あの八百屋さんを儲かる店にするために、自分ならどうするか」

といったことを考えて歩くのです。
言ってみればこれは、経営シミュレーションであり、経営感覚を
磨くためのトレーニングです”

(「チャンスは6時の方向にある」、カンキ出版より)

おお、これはグッドウィルグループ会長、折口雅弘氏が言われる
「当事者意識を持つ」ということだ。

やはり、名経営者は、常日頃から

「当事者意識を持つ」

ことによって経営シミュレーションをやってきている。
だから、自分の会社の経営判断も的確にできるんですね。

確かに、「当事者意識を持つ」ことによって、

物事の本質を見抜き
問題点をあぶりだし
解決策を発想する

というとても高度な思考を働かせる必要があるわけですから。

しかし、経営シミュレーションって、いつでもどこでもできるものなんですね。
いまさらながら気づきました。

投稿者 松尾 順 : 11:18 | コメント (0) | トラックバック

情報を知識に変えるためのフィルターを持つ

「マインドリーディング」では、
お客様(消費者)の心理をどうしたら的確に読めるのかを
追求しています。つまり、

「顧客心理の解読力」

を磨くことが目的のひとつです。

ただ、これだけでは、お客様のことをより深く理解できるように
なるに過ぎません。


マーケターとしては、新規のお客さまを獲得したり、
既存のお客様とより親しく、強固な信頼関係を築くために、
お客様の琴線に触れる商品やサービス開発や、
コミュニケーション戦略を展開したいですよね。

「マインドリーディング」では、この適用部分というか、
具体戦略への展開方法も視野に入れているのですが、
ここで必要とされるのは、言うまでもなく

「発想力」

でしょう。


では、「発想力」とは何でしょうか?

発想力は、最近特に注目されているビジネススキルですので、
ご存知の方も多いと思いますが、

「異質な知識の新たな組み合わせ」

のことですね。

つまり、発想力とは

「異質な知識量」x「組み合わせ力」

で表されると考えて良いでしょう。


上記の式のうち、「異質な知識量」は、
新たな発想を生み出すためのの原材料と言えます。
どんなに組み合わせ力が高くても、「異質な知識量」が
乏しければいい発想は生まれてきません。

そこで今回は、「異質な知識量」に焦点を絞ってお話します。

ポイントは、「異質な‘情報’量」ではなく、「異質な‘知識’量」
と表現している点です。

発想は、人の頭の中から生まれてくるものです。

したがって、単に日々流れていく情報をウオッチしているだけ
ではなく、脳内に「知識」として蓄積しておく必要があります。

そして、脳内に蓄積された様々な知識が組み合わさり融合する中で、
いわゆる「ひらめき」が出てくるわけです。

逆に言えば、どんなにたくさんの情報に触れているつもりでも、
「知識」として蓄積されなければ、新たな発想の原材料には
ならないのです。


さて、先日読んだ雑誌である著名人が、

「最近は、人の話を聞いていてもろくにメモを取らない人が多い。
インターネットで調べればわかると考えているのだろう」

というコメントをしていました。

こうした、後で調べればわかるといった受身の姿勢だと、
人の話、つまり情報は単にあなたの耳を素通りしていくだけです。
まず記憶に残らない。つまり、「知識」として蓄積されない。


そこで、情報を素通りさせず、自分の脳内に留めておく工夫が
必要となります。

もちろん、五感で取り入れたすべての情報を記憶することは
できません。脳みそがパンクしてしまいます。

ですから、情報を濾し取るための特定のフィルターを
意識的にアタマの中に置くのです。

私の場合は、心理学や社会学、人類学といった「フィルター」で
様々な情報をろ過しています。引っかかったものは「知識」として
脳内にしまいこまれます。
(無理に覚えようとしなくても、勝手に覚えます)

一方、引っかからなかった、自分にとっては価値の低い情報は
思い切って捨ててしまう。
(そうしないと、情報に追われてしまう(⌒o⌒;)


このような、情報を知識として蓄積するための類似の工夫として、
経営コンサルタントの泉田豊彦氏は、シンプルに

「知りたいことリスト」

作成しましょうと勧めています。

また、作詞家の秋元康氏は、無理に情報を蓄積しようとしなくても、
気になっていることがあれば、自然とたまっていくものだと
述べています。

大切なのは、「何に関心があるのか」を
自分で明確に認識していることでしょう。

これがフィルターを置くということであり、言い換えると
「情報を見る視点」を持つことを意味します。


「見るとは、二度見ることである」

という言葉があります。

人の目という感覚器官は、たくさんの情報を見ています。
しかし、それは「見えている」だけです。

しっかりと意識して「見る」ことによって、
初めて脳細胞が活性化し、記憶にとどめることができるんですね。

投稿者 松尾 順 : 11:59 | コメント (0) | トラックバック

努力だけでは超えられない壁を知ることはいいこと

今朝は、所用で母校早大へ。
商学部事務所のある11号館に入ったのは、実に約20年ぶりでした。

大学キャンパス内に入ると、自然に学生当時のことが思い出されますよね。
ただ、、私は正直なところ、とても悲しい気持ちになります。

というのも、当時は精神的にどん底でしたし、堕落した生活を送っていたから。
いい思い出がない。

社会人になってから、あまり自分の出身校のことを語りたくなかったり、
あまりキャンパスに行きたいと思わないのは、学生時代のことを思い出して
落ち込んでしまうからなんだろうなと、今日初めて気づきました。

ところで、早稲田ラグビー、先日の試合で関東学院大を圧倒し、
見事学生日本一の座を取りましたね。

現在のチームは「最強」の呼び声高いですが、日本選手権で
見事社会人ラグビーを粉砕できるでしょうか。

前回、ラグビー日本一の栄光を手にしたのは1987年。
私は、早大を卒業したばかりの社会人一年生でした。

私は、日本一になった東芝府中との試合をテレビで見てたんですが、
まだ1年生だった堀越さんや今泉さんの活躍が目に浮かびます。

でも、この優勝の裏には、ちょっと悲しいドラマがあったんですね。
当時、ラグビー部に4年生として在籍されていた方から聞いた話です。
この方は、レギュラーではなかったそうですが。

4年生でレギュラーだった某選手は、すごい努力家でした。
全員練習が終わった後も、一人で黙々とパスの練習をやっていました。

そこに、天才スクラムハーフと言われた堀越さんが入部してきます。
4年生の選手としては、レギュラーの座を奪われるかも知れないという
強い危機感を感じたでしょうね。

実は、堀越さんには、まだひとつだけうまくできないパスがあったそうです。

4年生の先輩としては、後輩に技術を教え育てることは義務です。
そこで、彼は堀越さんにそのパスのやり方を徹底して教え込みました。

そして、堀越さんがそのパスをできるようになった時、
夏合宿3日目だったそうですが、彼のレギュラーの座は、
自らが技術を伝えた堀越さんに奪われてしまいました。

努力だけでは超えられない壁があるんです。
これはとても悲しいことです。

でも、このことを知るのはいいことだとも言えます。

単に好きだから、やりたいからというがむしゃらな気持ちも
大切ですが、自分が勝てる領域、才能が活かせる領域を
冷静に見極めることも同時に大事なのです。

投稿者 松尾 順 : 11:00 | コメント (0) | トラックバック

消費者ロールプレイ

消費者の心を的確に読む一番の方法は、
自分が消費者になりきること。

つまり、当事者の立場に自分を置くことです。

これは、何度でも繰り返し強調する価値のあることだと
思っています。

昨年12月にこのメルマガで取り上げた「ローソン100」の
担当者は、ターゲットの主婦になりきるため、実際に自分で
スーパーで買い物をし、料理をしてみることで、
主婦の心を読めるようになりました。

>該当記事のブログ「一生懸命生活しましょう」


この当事者になりきることを新商品開発のための「仕組み」と
して取り入れたのが、日本コカ・コーラです。
(日経情報ストラテジー、2006年2月号より)

この仕組みとは、「ロールプレイング」と呼ばれるもの。
生活者のある役割を演じてみることで
気づきや実感を得ることが目的です。

日本コカ・コーラでは、2005年1月のアイディア合宿で
この手法を初めて試してみました。

このときのテーマは「睡眠」。

参加者の中には、マットレスを持ち込んで寝る場面を再現したり、
横になりながら自分の考えを整理したりする人もいました。

この新たな手法に基づいて生まれた新商品のひとつが、
2005年9月発売の「翌朝ぷるるん」です。

同社の杉山繁和氏(経営戦略本部経営情報部統括部長)は、

「断片的な机上のアイデアを生活者の動きや目線に合わせて
結びつけるのに適した手法」

と評価しています。


すでに食傷気味のコメントで恐縮ですが、
現代の顧客は、新製品としてどんなものが欲しいか聞かれても、
もはや答えることはできません。
顕在ニーズはもはや充足されすぎているからです。

もちろん、潜在ニーズはまだまだたくさんあるでしょう。
しかし、文字通り、潜在ニーズは消費者の無意識の奥深い
ところに沈殿しています。簡単には取り出せない。

したがって、沈殿した潜在ニーズを引っ張り出してもらおうと
消費者にアンケート調査を求めるのは、マーケターとしては
あまりに怠惰ですし、たいした成果は期待できません。

まずは、自分自身が一消費者の立場をロールプレイし、
無意識の奥底まで潜り、潜在ニーズらしきもの、つまり仮説
を取り出してくる必要があります。

アンケート調査は、あくまでその仮説の検証に用いるための
ものです。

まずは、消費者のロールプレイから。
コカ・コーラさんみたいに、フォーマルなやり方をわざわざ
取り入れなくても、今日今からできますね。
自分の生活、消費行動をターゲットにできるだけ近づけ、
同時に一歩引いて自分の心理を観察すればいいのです。

そういえば、極端な例として挙げられるものとして、
ユニチャームの高原会長(男性)は、生理用品の開発に当たって、
みずから着用して生活してみたという話が有名ですね。
幼児用紙おむつも試してみたかどうかは知りませんが。(笑)

投稿者 松尾 順 : 10:42 | コメント (0) | トラックバック

意味の拡張

神戸大の石井淳蔵教授は、

「経験価値マーケティング」

という新しい手法の特徴として、
「情緒的価値」の重要性を指摘しています。
(週刊プレジデント、2006.1.30号)


「情緒的価値」とは、ブランドに対する

‘自分のモノ感’や‘愛着’

のことで、個々のユーザーによって異なる意味・意義をもつ
固有の価値です。


なぜ、「情緒的価値」が重要なのでしょうか。

それは、従来重視されてきたブランドの価値、例えば

「安心」「親しみ」「信頼」

といった万人に通じる価値だけでは、
競合ブランドと十分な差異性を打ち出すことが難しいからです。

したがって、固有性の高い「情緒的価値」を持たせることが、
これからのマーケティングの課題であるというわけです。

ただ、注意すべき点は、情緒的価値は、
商品・ブランドの機能・効能で構成されるものではないこと。
むしろ、消費者の生活や経験に深く入り込んだものです。


では、情緒的価値を生み出すために、
マーケターがやるべきことは何でしょうか。

それは、商品・ブランドの「意味の領域」を問い、
従来の「製品カテゴリー」概念を捨て去ることだと、
石井教授は主張しています。

一般常識であるが故に、固定的になってしまっている従来の
「業界」「業種」「商品」といった標準分類・カテゴリーを
打ち破るべきだということですね。

なるほど、それはわかった、

「じゃあ、具体的に、どうやって製品カテゴリーを打ち破り、
意味の領域を問うの?」

という声が聞こえてきました。(笑)


では、簡単にお教えしましょう。

ISIS編集学校の課題には「言葉の言い替え」というのが
あります。例えば、「コップ」を様々に言い替えていく。

・ガラス製品
・容器
・食器
・花瓶
・手に持つもの
・さいころばくち用
・ブラジャー
・・・

などなど。ブレスト的に、どんどん出していきます。
ばかげたもの、笑われてしまうようなものでもなんでもOK。

こうした言い替えを通じて、たかが「コップ」でも、
その意味は実に多様であることがわかります。


同様に、ソフトシステムズ方法論という分野では、
「意味づけの拡張」という作業をやります。

面白い事例では、「刑務所の意味づけ」を拡張があります。

・刑に服するところ
・3食付のホテル
・技能を身につけるところ
・規則正しい生活態度を習得するところ
・健康的になるところ
・・・

など、本来の目的以外の様々な意味合いを洗い出していく中で、
刑務所の持つ以外な価値が見えてきます。

このように、自社の製品やブランドを「意味」の視点で
拡張してみることが、差異性につながる情緒的価値を発見する
ためにとても有効な方法なんですよ。

ぜひ、実践なさってみてください。

投稿者 松尾 順 : 11:53 | コメント (2) | トラックバック

自分の視野の枠を取り払うこと

日経産業新聞に掲載されていた
防災に関する囲み記事に目が留まりました。

ある防災専門家は、
風水害を含め被災地の首長や防災責任者に会うたびに
がくぜんとするそうです。

「私はこの土地の生まれだが、災害に遭ったことはなく、
避難勧告を出すことは考えも及ばなかった」

と多くの人が口を揃えるからです。

しかし、上記のようなコメントは当事者の思い込みに過ぎず、
郷土史をひもとけば災害常襲地であることが
すぐにわかるというのです。

ご存知のように、大地震や火山噴火などの発生周期は
数十年から数百年間隔です。したがって、
人によっては生存中に大災害に出会わないことがあります。
ですから、ついこの土地は災害とは無縁だと思い込んでしまう。

つまり、災害に遭ったことはないという自分の体験は
たかだか人生60年かそこらの時間枠での話であることを
自分でわかっていない。

時間軸での視野が、
自分の人生という狭い枠までしか届いていないわけです。

時間軸に限らず、自分の身近な、目の届く範囲が全世界で
あるかのように思い込んでしまいがちなのが人間です。

また、地理軸で世界に視野を広げてみると、自分たちの世界とは
まるで違う部分が多々あることに驚かされますよね。

例えば、インドでは、自動車のドアミラーは、運転席のある
右側だけしかついておらず、左側のドアミラーがない車が
たくさん走っていることをご存知でしょうか。

左側のドアミラーがないと、左折の時の安全確認が不十分に
なるのでなんとも危険だと思いますが、
インドの法律では左側ミラーは義務付けられていないのです。
あくまで別売りオプションの扱いです。

ですので、インドの消費者としては、
たとえドアミラー一個でもオプションから外して
安く購入したいということのようです。

つまり、日本の常識が外国では通用しない。
諸外国には、他にも驚愕する事実がたくさんありますよね。

時間軸、地理軸、あるいは常識軸で視野が限定されてしまうのは、
その方があまり頭を使わずに、楽に毎日が送れるからですね。

しかし、斬新なアイディア、発想、創造性を求められる
事業家やマーケターなら、
意識的に自分の視野の枠がどの程度の大きさなのかを見極め、
あえて、その枠を取り払って思考の目線を3次元に大きく
広げてみることが必要だと思います。

投稿者 松尾 順 : 06:53 | コメント (4) | トラックバック

言語感覚を磨く

現在、私は、ビジネスパーソン向けのEラーニングである

「ISIS編集学校」(編集工学研究所主催、松岡正剛校長)

で師範代をやっています。

「編集学校」は、一言で言えば

「アイディア発想力」

を高める実践的なスキル、すなわち「編集術」を学ぶところです。

私は2年前に入学して、現在は、まだまだ未熟ながら生徒さんを
指導する立場(師範代)にあります。

最近、編集術を学び、また生徒さんたちを指導しながら思うのが、
アイディア発想力を高めるためには、特に言葉に敏感になること
が大事だなということです。

つまり、「言語感覚」を磨くということです。


言語感覚を磨くことの大切さを痛感させられる事例が、
日経ビジネス最新号(2005年12月26日)から拾うことができます。

例えば、P&Gが今年9月に投入した新製品の室内芳香剤、
「置き型ファブリーズ」。

これが最近ばか売れしているそうです。
売れている背景には、インテリアに溶け込む優れたデザインや
ファブリーズという既に認知されたブランドを活用したこと
など、様々なマーケティング要素の相乗効果がもちろんあります。

しかし、一番効いているのは、広告宣伝で使ったこの
ストレートなキャッチコピーでしょう。

「香りに頼らない、ホンモノの消臭効果」


芳香消臭剤に対して消費者が抱く一般的な気持ちは、

「臭いを消しているんじゃなくて、
 単に別の匂いでごまかしているだけじゃないか?」

です。

これは口にはあまり出さないけれど、誰もが抱く気持ちでは
ないでしょうか。

P&Gのキャッチコピーは、この消費者の懸念を払拭する
クリアな回答を示したわけです。

消費者としては、

「‘ホンモノの消臭効果’そう、その言葉を聞きたかったよ」

と感じたに違いありません。

また、P&Gの洗濯用液体洗剤「アリエール」の容量表示は、
重さ「1.1Kg」と表示されています。

液体洗剤ですから、「1000ミリリットル」と表示するのが
普通ですし、実際、他のメーカーはそのように表示されています。

しかし、「アリエール」がキログラム表示するのは、
日本の消費者が、液体洗剤だと

「粉末洗剤に比べてすぐに消費してしまう」

というイメージを持っていたからです。

そこで、意図的に粉末洗剤と同じ表示とすることで、
「粉末洗剤と同じ回数使える」という印象を与えることを
狙いました。

このように、キャッチコピーを工夫し、また
表示方法を変えるだけで、これだけの効果があるのです。

言語感覚を磨くことが、本当に重要だと思いませんか?

投稿者 松尾 順 : 07:22 | コメント (0) | トラックバック

記録を残すのはPC内で十分。わざわざプリントしなくても。

クリスマスイブは、家族でお台場へ。

VENUS FORTなんぞは、渋谷の交差点並みの混雑。
ほとんど前に進めない状態でした。

イブに繁華街というか、あえて混雑している場所にいったのは
数年ぶりでしたが、やっぱ、次回からは出かけるとしても
落ち着いた場所にします。(^o^)

ところで、デジカメを事務所に置いたままだったので、
外出にはフィルムカメラを持って行きました。

ずいぶん前から数枚だけ残ったまま放置してあったのですが、
これでようやく現像・プリントできます。

ふと思ったのが、おそらく今回が、このカメラを使う最後の
機会で、フィルムを購入するのも、現像・プリントするのも最後
だろうなということ。

デジカメですでに画質は十分、フィルムや現像、プリント代
にお金をあまりかけたくないですからね。

素人のカメラは、記念を記録に残しておくためのものですが、
とりあえずパソコンとかCDなどに残っていればそれでOK。
だれかに見せるのもオンラインアルバムを使えば解決。

わざわざ、プリントしておく必要はないわけです。
以前は、カメラを取り記録を残すということは、
プリントすることを意味したんですけどね。

ただ、実際にプリントしても、大半の人は整理できないまま
放置してあるので、むしろ、パソコンに入ってた方が
以前の写真を探しやすいんじゃないでしょうか。

ま、こんなことをつらつら考えて、街中のプリントショップは
ホント、どうやって生き残っていくんだろうと思った次第です。

投稿者 松尾 順 : 13:58 | コメント (0) | トラックバック

2つの共感力

以前も書きましたが、相手の気持ちが的確に読める、
つまり、マインドリーディングができるための基礎力は

「共感する力」

です。

今日は、「共感力」とは何か、少し学術的に説明してみましょう。

実は、共感には2種類あります。

・情動的共感
・認知的共感

「情動的共感」とは、他人と同じ気持ち、感情が自動的に
作り上げられるものです。

楽しいことがあって喜んでいる人を見て、
自分も楽しい気分になる。

逆に、悲しんでいる姿を見て、自分も悲しくなる。

「同情」に近いものと言えるでしょう。
思わず(自動的に)、感情移入してしまうので
自然に同じ気持ちになる。

一方、「認知的共感」とは、他人の視点からものごとを
認知できるというものです。

つまり、相手の立場に自分が立った時、周囲をどう受け入れ、
理解し、どのような感情が生まれるか、を推測できる力です。

さて、よりよいコミュニケーションに役に立つ「共感力」を
発揮するためには、このどちらも必要なんですが、
「認知的共感力」は、しばしば失われてしまうことが多い
ようです。

例えば、傲慢な人。
生まれつき傲慢な人はいないと思いますが、
恵まれた環境で周囲を慮る必要がない人が、相手の立場に
立って見ることはとても難しい。
(そうすることの必要性をそもそも感じない)

あるいは、相手の立場がそもそもわからない人。
若いうちに偉くなって、送り迎えの車がつくようなレベルの
生活になると、庶民の立場がそもそもわかりません。
推測のしようがないわけです。

数日前に書いた「一所懸命、生活しましょう」というのは、
一般消費者を相手にする商売だったら、
絶対的に必要なことなのです。

マーケターは、共感力の中でも、特に「認知的共感力」を
高めるべきなんですよ。

投稿者 松尾 順 : 18:31 | コメント (0) | トラックバック

一所懸命、生活しましょう

今年5月に一号店が開店した「ストア100」は、
ローソンが手がける100円コンビニです。
現在は、都内に14店舗を構えています。

ストア100は、「中高年向け、均一価格、家族志向」が
基本コンセプトであり、コンビニの「若者向け、定価販売、
個食志向」のコンセプトとは大きく違います。

このため、ストア100の展開をまかされたローソンの担当者は
当初、主婦の感覚がわからなくて相当苦労したようです。

例えば、コンビニではよく売れる一人用の漬物とかが、
まるで売れなかったのです。

ストア100は、最初はコンビニの延長と考えてたようですが、
売れるものがコンビニとはぜんぜん違う。主婦に聞くと、
「量感」や「安全性」を重視していました。

主婦の金銭感覚を考えると、割高になる小分けを買うより、
たくあん一本とかで買えた方がいい。

そうじゃないと量も足りない。
まな板の上で切って食卓に出すことは、普段料理する主婦に
とってたいした手間ではない。

最近は、小分けにした方が売れるという定説が浸透していますが
すべてのターゲットに通用するものではなかったわけですね。

また、納豆についても、量感に欠ける2パックではなく、
家族みんなで食べられる4パックのセットにした方が、
いいのではと考え、4パックを置いてみた。

そうしたら、納豆の売り上げは2倍になったそうです。

面白いのは、こうした気づきを得られるようになったのは、
担当者が、自らスーパーに足を運び、食材を選び、
料理をしてみたからだということです。

主婦の気持ちがわかること、つまり共感できるためには、
ただ販売データなどの感情の抜け落ちた数字を見ているだけ
ではダメなんですね。

商品開発のプロであるためには、なによりも、
いち生活者、いち消費者であることが必要なのです。

このことは極めて普遍的な原則だと、私は確信しています。

なぜなら、ヒット作を連発してきた稀代のプランナーたち、
たとえば、今年お話を聞いた、

元リクルートの創刊男、くらたまなぶさん、
作詞家の秋元康さん、
TVプロデューサーのおちまさとさん

は、皆、上記の点では一致していたからです。


「一所懸命、生活しましょう」

(生活の一面にしか過ぎない、仕事にばかりのめりこんで
 いると、消費者への共感力は確実に低下しますよ)

投稿者 松尾 順 : 06:19 | コメント (2) | トラックバック

女王陛下と大統領

アップルのiPod、超軽量薄型のnanoや動画対応など、
立て続けに新製品を出してきてますね。

これは、完全にリーダーの戦略を取っています。
つまり、フルラインアップで製品を揃え、さまざまなユーザーの異なるニーズに、
できるだけ自社の製品で対応してしまう。そうすることで、競合他社を完全に
封じ込めるのが狙いです。

つけいるすきを与えない。プラグで全部の穴をふさいでしまう、という言い方を
します。

最大の競合であるソニーさんも、ネットワークウォークマンで魅力的な新製品を
いろいろ出してきています。しかし、ソニーのストリンガー社長が自ら認めている
ように、数千曲も持ち歩けるiPodと直接競合する気はないようです。

確かに、現時点では、別の切り口でないとiPod攻略は難しいでしょう。

さて、iPodは、英国のエリザベス女王陛下も愛用しているそうです。
「女王陛下御用達」というわけで、売れ行きをさらに押し上げる効果
がありました。

アメリカのブッシュ大統領もまた、iPodがお気に入りです。
で、宣伝文句というか、アップルの広告ではないでしょうけど、
こんなキャッチコピーが生まれています。

「ブッシュでさえ使えるiPod」

投稿者 松尾 順 : 17:12 | コメント (0) | トラックバック