セブンイレブンに感じた現場力

北海道や東北の一部では、
冬場にコンビニで「おにぎり」を買うと、

「おにぎりあたためますか?」

と店員に聞かれることがあるそうです。


コンビニのおにぎりは保冷されていますし、
寒い地域なので

「あたためて食べたい」

というニーズが多かったんでしょう。

自然に広まった慣行みたいですね。


ちなみに北海道テレビでは、

「おにぎりあたためますか」

というバラエティ番組がずいぶん前から制作・放送されてます。


東北以南の地域のコンビニでは、
どの程度この慣行が広まっているかよくわかりませんが、
少なくとも東京近辺では、

「おにぎりあたためますか?」

と聞かれることはありませんよね。


さて、先日の寒い夜、
セブンイレブンで久しぶりにおにぎりを2個買いました。

あたたかいおにぎりが食べたかったのですが、
当然ながら、店員さんは

「おにぎりあたためますか?」

とは聞いてくれません。


そこで、

「おにぎりをちょっとあたためてもらえますか?」

と私からお願いしました。

すると、店員さんは、
おにぎりをわざわざ1個ずつ別の電子レンジに
入れてタイマーをセットしてました。

私は、

「2個一緒に暖めれば手間が省けるのに・・・」

と不思議に思って、
レジのお兄さんに聞いてみたんですね。

するとお兄さんは、

「以前2個一緒にあたためたら店長に怒られたんですよ。
 1個ずつ別々にあたためるように言われてます。
 どうしてなのかわかりませんが・・・」

と返してきました。


‘どうしてなのかわかりませんが’
という一言は余計ですね。言わなくてもよろしい。

しかし、さすがセブンイレブンです。


おそらく、おにぎりを複数個一緒にレンジで
チンすると、

「あたためムラ」

ができるためだと思われますが、果たして、
セブンイレブン以外のコンビニチェーンで
こうした細かいオペレーションを徹底できるだろうか?
と、ふと感じました。


コンビニの日本1号店は、

セブンイレブンの豊洲店

だったというのは有名ですよね。


セブンイレブンは、

「コンビニエンスストア」

という新業態における先駆者であるわけです。

そして74年の1号店開店以来、
多くの追随企業の参入によって競合が激化する中、
現在に至るまで、ダントツの業績を残してきています。


セブンイレブンの高い業績の秘密は、
言うまでもなく「戦略の巧さ」ではありません。

各店舗の日々のきめ細かいオペレーション(戦術)、
すなわち

「現場力」

が強いからなのです。


コンビニ業界に詳しい方によれば、
競合他社と比較して、明らかに店舗の清掃の徹底度合いや
店員の接客水準の高さは群を抜いているそうです。

もちろん、セブンイレブンの店内に流れる、
一言では説明しにくい「心地よさ」は、
一消費者でも容易に感じることができますよね。
(他のチェーンも悪くはないのですけど)


セブンイレブンの強さを考えると、
重要な点は戦略をコピー(真似る)のは比較的簡単だが、
現場のオペレーションをコピーするのは、

人材の質や教育の質

といった人的要素が大きいため、
簡単ではないということがわかりますよね。


セブンイレブンが作り上げた、
緻密と言われる

「運営マニュアル」

を仮に入手したとしても、
それを日々の運営に定着させることは
やはり人の問題です。簡単には追いつけない。


以前も書いたように、

戦略、戦術

のどちらも、事業の成功のために重要ではあります。

しかし、最近は戦略のコピーは、
以前よりはるかにしやすくなっているのが現実でしょう。
(金さえあればたいてい解決しますから・・・)


となると、やはり最後は「戦術」の勝負です。

机上で語れる「戦略」をこねくり回すよりも

「現場力」

に磨きをかけるということが、
これからの最重要課題ではないかと思います。

投稿者 松尾 順 : 16:39 | コメント (1) | トラックバック

イノベーションとしての「カラー」

3月15日にデビュー予定。

小田急ロマンスカーの新型車両、

「MSE」

は、清涼感や透明感、豪華さを
感じさせる車体色のブルーが美しい!


この青色は、

「フェルメール・ブルー」

と名づけられています。

そう、17世紀オランダの画家、

「フェルメール」

が好んで用いた色が採用されているのです。
(日経デザイン、March 2008)


デザインを担当した建築家の岡部憲明氏によれば、
当初から大きな課題として挙げられ、

「車体のスタイリング」

と同一レベルで検討を要求されたのが、

「車体色」

だったそうです。


さて近年、商品デザインにおける

「色」

の重要性がますます高まっていますよね。


この背景には、
商品が持つ「本質的な価値」とも言える

「機能や性能」

の次元では、
他社との十分な差別化が図れないから
という企業側の事情があります。


一方、ユーザー側の立場で言えば、
ほとんどの製品カテゴリーにおいて、

現在保有・利用している製品で十分に用が足りている

ということがあります。

機能面や性能面を現行機種より多少向上させたからといって、
それは

「買い換える理由」

になりにくい時代だということです。


実際、現在家にある様々な製品のことを考えてみると、
自分の解決したかった元々の問題やニーズはすでに
ほぼ解決・充足されていますよね。

新たに買う理由が
ロジカル(論理的・理性的)に考えるとありません。

つまり、「本質的な価値」のレベルでは、
消費者を購入に踏み切らせることができないわけです。


そこで、付加価値的な部分、とりわけ

「カラー」(色使い)

のバリエーションによって、感性を刺激し、

「欲しいから欲しい!」(理屈抜きに・・・)

と消費者に思わせることが
必要になってきたということです。


機能・性能本位だったノートパソコンの世界でも、
スタイリングに加えて、「色」にこだわった製品が
増えてきました。

ソニーやHP(ヒューレットパッカード)は、
花柄やグラデーション入りの製品を相次いで投入してます。


昔からのPCファンは、

「見た目は本筋ではない」

という非難が。

でも、メーカーの機能・性能向上競争にワクワクし、
石(CPU)の処理速度が速くなったからというだけの理由で
買い換えるのは一握りのイノベーターだけですよね。


ソニーの直販サイトでは、
柄入りが選べる機種の販売台数のうち4割が柄入りと、
目標(2割)を軽く超える予想外の売れ行きだそうです。
(日経産業新聞、2008/02/22)


使い勝手の向上にも関連する

「スタイリング(形状のデザイン)」

と比較して、

「色」

は、製品の本質的な価値を高めることには
ほとんど寄与しません。

しかし、「色」は、見た目の心地よさや
好きな色の製品を所有する喜びや満足感を
与えてくれますよね。


そういえば、
イノベーションの切り口として、
従来言われてきた

・技術イノベーション
・経営イノベーション

に加えて、

・アイステシス・イノベーション

という軸が必要だという考え方を
ちょっと前にご紹介しました。


「アイステシス・イノベーション」

とは、

美しさ、心地よさ

といった、
生活の質の向上に寄与するイノベーションです。


商品デザインにおける「色」の重要性が高まったこと。

これは、企業がこれまで力を入れてきた

・技術イノベーション
・経営イノベーション

については、情報化等の進展によって
均質化が進んだため、これからは、

「アイステシス・イノベーション」

により一層力を入れざるを得なくなってきた
ということなんでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 12:45 | コメント (2) | トラックバック

「人間圏」の行く末

今日は、ちょっとスケールの大きな話です。
小人物の私が書くのはちょっと気が引けますが・・・


このところ、

「地球環境問題」

に対する関心がますます高まってますよね。


私は、以前からしばしば、
素朴な疑問が頭をよぎることがあります。


「なぜ、人間は、環境にただ従属するのではなく、
 環境そのものを大きく変えてしまう力を持ったのだろうか?」


人間がこれまでどおりの生き方を続けていたら、
地球資源を蕩尽し、また破壊しつくして、
最後には地球の全生物を巻き込んで自滅してしまうでしょう。

これは決して悲観的な推測ではなく、
現状の延長線上にある確実な未来だと思います。


単純に考えると、
人間は、地球の生物の終末を速めるために、
地球に誕生したやっかいな生物ということになりますよね?

私たちは「ターミネーター」?

いや、さすがに人間がそんな宿命を背負って
生まれたはずはない。何か別の重要な、
果たすべき役割があると考えたいところです。


その答えは見当もつきませんが、
今日は、人間の存在というものを
宇宙や地球の歴史も踏まえて考えてみたいと
思います。


宇宙の年齢は、およそ137億年だそうです。

つまり、ビッグバン(宇宙大爆発)が起こり、
宇宙が膨張を始めたのが137億年前でした。


地球の誕生は約46億年前です。

地球に「生物」が現れたのは、
約20億年前と推定されています。


私たち現生人類につながる旧人類の歴史は、
700万年前に始まりました。

現生人類である

「ホモサピエンス」

は、15万年前に登場。


「ホモサピエンス」も、
当初は環境に従属した暮らしをしていました。

すなわち、狩猟採集で命をつなぐ、
食物連鎖に組み込まれたか弱い生物に
過ぎませんでした。


しかし、農耕牧畜を始めた時から、
人は環境に働きかけ、環境そのものを
人間が暮らしやすいように変質させていくことを
学んでいったのです。

これは約1万年前のことでした。

なぜ、1万年前に農耕牧畜が始まったのか?

それは、そのころから地球の気候が安定したためと
考えられています。

それ以前は気候が大きく変動し続けていたため、
今年食べることのできる木の実や動物たちが
来年もあるかどうかわからない。

今、目の前にあって手に入る食物を
狩猟・採集するしかなかったのです。


ところが、気候が安定することによって、
毎年同じ時期に花が咲き、実がなるようになった。

その周期に気づいた人間が、
農耕牧畜をはじめたというわけです。


こうして、
地球という大きなシステムに従属し、
食物連鎖の中で生きる

「生物圏」

を人間は飛び出て、

「人間圏」

を形成していきました。


「人間圏」という言葉は、
松井孝典氏(東京大学教授)の造語です。

人は、農耕牧畜を開始し、
いわゆる「文明化」を成し遂げることによって、
他の生物が属している「生物圏」とは異なる
独自の生活領域である

「人間圏」

の中で生きています。


この人間圏の中で人間がやってきたこと。

それは端的に言えば、
様々な道具・機械などを駆使して、
人間圏への資源(太陽、水、食物など、
生命維持に必要なもの)の流入量を拡大することです。


そして、とりわけ人間圏への資源の流入量を
驚異的に増大させたのは、

「駆動力」

を手に入れてからでした。

化石燃料(石炭・石油)を使ったエンジンが
その端緒でしたね。


現在、私たちが人間圏への資源の流入量は、
環境にかなりの部分従属していた時期
(江戸時代くらいまでの現状維持的な生活)の
10万倍なのだそうです。

つまり、私たちの現代の暮らし100年は、
昔の1千万年に相当するほどの変化を地球に
もたらしていることになる。

このところ、急速に地球環境問題が
大きくなってきたのは当然のことだったのです。

私たちは、昔の10万倍の速さで地球資源を消費している。

その反動としての様々な問題、松井氏は

「負のフィードバック」

と読んでいますが、
それが今、強烈に私たちにかかってきていると
言えるわけです。


さて、松井氏もまだ、

・なぜ、私たち人間だけが環境自体を大きく変える力を持ったのか?
・人間という種の存在には、どんな意味や役割があるのか?

についての答えは見つかっていないようです。


もちろん、まずは、生き急いでいるかのような文明生活の当然の帰結
としての、環境問題を初めとする様々な問題に対して、
具体的な行動を起こすべきではあります。


ただ、同時に、上記のような

「そもそもの問い」

を考えることで、
根本的な解決の方向性が見えてくるかも知れません。


*以上は、夕学五十講での松井孝典氏の講演内容を
 参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 14:01 | コメント (2) | トラックバック

野菜のリサイクル

スーパーの野菜売り場に並ぶ、

きゅうり、にんじん、じゃがいも、トマト、大根・・・

などなど。

何気なく買い物をしている時には思いもしませんが、
どれも形が大きさがほぼ同じですよね。見事に揃っています。

工業製品でもないのに、
野菜の外見がほぼ均一なのはよく考えると不思議です。


でも、実は大きすぎたり、小さすぎたり、曲がっていたりする

「規格外の野菜」

は店頭に並ばないだけのことなんですね。


ある一定の大きさ・形から外れた野菜は、
販売する側としては、運搬しにくいし売りにくい。

まがったきゅうりは、
袋詰め3個売り用のビニール袋に
入りきらないこともあります・・・


一方、消費者側も、
ほとんどの人は畑で取れたばかりの野菜たちの
「不揃いさ」を知りません。

そのため、スーパーに並ぶ野菜が、

「標準」=無難なもの、良いもの

だという思い込みができあがってしまう。
そして、標準から外れた野菜に手を出そうとしなくなる。

つまり、規格内の野菜しか売れないということになるわけです。


こうして、規格外の不揃いの野菜たちは、
食べられることなく、大半が廃棄処分にされてしまうのだそうです。


そこで、こうした捨てられてしまう

野菜のリサイクル

に乗り出したのが「生活創庫」です。
(カンブリア宮殿、テレビ東京、20008/02/11)


リサイクルショップ(チェーン)を全国に約190店舗展開する
生活創庫の浜松本店では近くの農家の畑に出向き、
従来は捨てられていた規格外の野菜を買取っています。

そして、週1回土曜日、本店で朝市を開いて、
買い取った野菜の即売を行っています。


例えば、育ちすぎて通常の2倍くらい大きい大根。

スーパーでは陳列場所に困るでしょうし、
客も持ち帰るのに重すぎると文句を言う大きさですが、
生活創庫では1本50円。

大きくても、車で来てれば重さは負担になりませんね。
もちろん、味は規格品と変わりません。
安くて新鮮、大家族にはうれしい大根でしょう。


あるいはちょっと表面がブツブツしている株。
これも味には問題はないのに見た目が良くないということで
スーパーでは扱ってくれません。

生活創庫では1株100円で売ってます。


というわけで、
朝市の野菜は結構売れているようです。


生活創庫の

「野菜のリサイクル」

はまだ浜松本店だけの実験的な取り組みのようですが、
全国展開できるといいですね。


規格外野菜を売る試みは、
これまでも全国各地で細々とやってきているとは
思いますが、生ものを扱うだけに一朝一夕ではできない
難しい事業でしょうから。


野菜に限らず、合理的になりすぎた現代社会で、
「外見」だけで振り落とされてしまうモノゴトを
何らかの形で活かしてあげられる仕組みが、
あらゆる分野で求められてるんじゃないかと思います。

投稿者 松尾 順 : 15:53 | コメント (0) | トラックバック

「見た目」がすべてか?

大減量に成功した岡田斗司夫氏。

社会評論の本を出していた岡田氏自身は、自分は

「社会評論家」

と見られていると思っていました。


ところが、現実には

「デブキャラ」

とみなされ、知的なイメージが無かったとのこと。


まあ、サンドウィッチマンの伊達さんのような

「小太り」

程度であればそんなことはなかったと思います。

しかし、相撲取り級の120キロに迫る体格となれば、
岡田氏が、単なる「デブ」としか受け取られなかったのも
むべなるかなです。


ところが、67キロにまで体重を減らした今、
掲載される写真やスペースが大きくなったそうです。

なるほど!
しかし、これは見た目が改善されたからというよりも、
ダイエット成功による

「体型の変化」

で注目を集めているからだと思います。


岡田氏は、

“見た目が悪いと、いい仕事をしても評価されない。
 私たちはいつの間にか、外見で中身や仕事の実績まで
 評価されているのです。”

と言い切っています。
(日経新聞夕刊、2008/01/30)

なるほどね!
しかし、自分が痩せたからといって、
岡田氏もちょっと言い過ぎではないでしょうか。


さて、確かに私たちは、
まずは対象(人に限らず食べ物なども)の見た目で、

・危険はあるか・ないか(近づいても大丈夫か)
・好きか・嫌いか(付き合いたいか)

を判断しますよね。


ただしこの判断はあくまで「直感」による

「仮評価」

に過ぎず100%正しいとは限りません。

ですから、少なくとも危険はなさそうだと判断できたら、
実際に近づいてみて、例えば食べ物であれば、

においをかいだり、
手で感触を確かめたり、
ちょっとかじってみて、

見た目じゃなくて「本質」(中身)は
実際どうかを確かめるわけです。


ところが、近年は本質を確かめる以前の
「仮評価」の段階で思考を停止してしまい、

あの人はだめ、この食べ物はだめ

とさっさと最終評価にしてしまう傾向が
高まっているようです。


この背景にはやはり、

情報過多で複雑になりすぎた社会

があるのではないかと思います。

ひとつひとつ、外見だけじゃなくて、
本質まで確かめようとしたらとても時間が足りないですから。


岡田氏は、「見た目主義」の是非を問うようりも、
どんな行動をすれば効率的かを考えて行動すべきと
考えています。

見た目が良いほうがメリットが大きい社会であるなら、
太っている人は痩せたほうがいい、というシンプルな理屈です。


ただ、これもあくまで本質(中身)が伴っての話でしょう。

ぱっと見がよいと確かに最初はみな飛びつく。
でも、本質がたいしたことなければすぐに離れて
いってしまいますからね。


最近、「きゅうり」の人気が落ちているそうです。

その理由は、どうやら「見た目」は良くなったけれど、
「本質」がだめになったからです。


「きゅうり」は、
本来水分の蒸発を防ぐ白い粉が付着し、
くすんだ色をしていました。

しかし、これが消費者からは

「鮮度が良くない」

ように見えるため不評。


そこで、白い粉をなくす栽培法が普及し、
光沢のあるきゅうりが主流になりました。

ところが、この美しいきゅうりは、
皮が厚くて固く、みずみずしい本来のおいしさが
失われたのだそうです。


要するに、見た目がいいから買ったものの
実際食べてみたらおいしくないから、
きゅうりを買う人が減ってしまったというわけです。


やっぱり見た目がすべてじゃありません。

投稿者 松尾 順 : 09:30 | コメント (2) | トラックバック

ギフトエコノミー・・・合計0ドル、お支払いはペイフォワードで!

カリフォルニア州立バークレー大学近くの

「カーマレストラン」

は、土曜日の夕方5時から10時までオープンしているお店。
毎週、40-50席ほどの店内が満席になる賑わいです。
(オルタナ、FEB. 2008 No.6)


ネパール料理をベースとするインド風メニューは、
ネパール、イラク、ベトナムからの移民シェフが作る本格派。

サラダ、メインディッシュ、デザートまで、
豊富なメニューが並んでいます。

ところが、メニューには値段が書かれていません。
なぜなら、食事後にいくら払うかを「客」が決める仕組み
だからです。


客が料理を食べ終わると、
伝票の代わりに封筒が置かれるそうです。

その中に入っているカードには、

「合計0ドル」

という文字と共に次のようなメッセージが!

寛容の精神に基づいて、この食事はあなたの前に来た
 だれかからの贈り物です。私たちは、あなたがこの循環を
 続けてくれることを願っています。
 もし、これから訪れるお客様へこの輪をつなげたいと思ったら、
 封筒に無名の寄付を残してください。」


この封筒にお金をいくら入れるかは客の自由。

しかも、客から回収された封筒は店内のポストにしまわれ、
閉店後に開封されるため、誰がいくら払ったか、
あるいは払わなかったかは、一切分からないようになっています。


カーマレストランの創設者の一人、

ニプン・メーター氏

によれば、このレストランのコンセプトは、

「ギフト・エコノミー」

です。


ギフトエコノミーとは、
自ら進んで与えることを前提に成立する経済。

需給関係で価格が決まり、貨幣の支払いと引き換えに
モノやサービスが提供される市場経済とは異なり、
ギフトエコノミーでは、お互いの善意と信頼関係が必要です。

ところが、この店では、ギフトに対して直接の見返りを
期待するのではなく、信頼関係のない見知らぬ次の人に
対してギフトを送るという思想、すなわち

「ペイ・イット・フォワード」

が根底にあります。
(映画「ペイフォワード」で描かれた姿)


カーマレストランは07年3月にオープン。
当初、ギフトエコノミーの手法が成功するかどうか
わかりませんでした。

しかし、ふたを開けてみると、
毎週土曜日の開店中に訪れる客は平均70-100人程度。

座席数を考えると、
わずか5時間で約2回転していることになりますね。

売上も常にコストをカバーし、
2倍以上になることもあるそうです。


こうした、客が支払額を決める

「ペイ・アズ・ユー・ウィッシュ」

は同店だけでなく、
ユタ州、コロラド州、ワシントン州などにもあり、
増加の兆しを見せているとか。


お互いに助け合うことで成立する共同生活を営む、
社会的動物である人間の「遺伝子」に組み込まれている

「互恵性」

を活かしたギフトエコノミーに基づくビジネスは、
これから面白い発展を見せてくれそうです。


そういえば、イギリスのロックバンド、

「レディオヘッド」

は、昨年末にリリースした最新アルバム

「In Rainbows」

のダウンロード販売で、
購入者が価格を決める方式を採用して話題を
呼びましたね。

これは、カーマレストランの

「ギフトエコノミー」

コンセプトであるとはちょっと違いますが。


レディオヘッドの試みもまた、

「成功した」

と言えそうです。

有料でダウンロードしたユーザーは30-50万人。
平均購入価格は、およそ6ドル(660円)と
推定されており、総売上2-3億円に達します。

メジャーなレコード会社を介さない
ダイレクト販売ですから粗利も大きいでしょう。


*カーマレストランについての出典

「オルタナ」(Feb.2008 No.6)

*オルタナ公式サイト
 http://www.alterna.co.jp/

投稿者 松尾 順 : 04:53 | コメント (2) | トラックバック

モノホンのお笑い・・・サンドウイッチマン

島田紳助は、

「XとYの法則」

という考え方を持っているのはご存知ですか?


これは紳助の持論である、

「お笑い芸人として売れ続けるための法則」

です。

*YとYの法則については、下記の記事で詳しく説明してます。

「天才マーケター島田紳助」
 
「XとYの法則」(Z会ブログ sideB キャリアデザインのはなし)


簡単にポイントのみ説明します。

「X」とは、その芸人が持つお笑いのスタイル、
つまり個性や強みのこと。

一方、「Y」は、「お笑いのトレンド」のことです。

そして、X(芸人の強み)とY(トレンド)が
交差した瞬間が、その芸人がブレークする時です。


たとえば、昨年末のM-1グランプリ2007で優勝した

「サンドウィッチマン」

の場合、あの瞬間が「XとYが交差した時」だったのでしょう。

島田紳助は、彼らに98点と、
審査員の中で最高点をつけていたのが興味深いです。


サンドウィッチマンの二人は苦節9年なんですよね。

すばらしいY(才能)を持っていたのに、
Y(トレンド)となかなか合わなかったわけです。

でもまあ、世に出た今となっては、
長い下積みの経験があったおかげで、自分を見失うことなく、
トレンド(Y)の変化に合わせて自分たちの芸風(X)を
うまく微調整していけることでしょう。


それにしても、なぜ彼らが突然受けたのでしょうね?

私は、お笑いについてきちんと語れるほど詳しくは
ありませんし、あくまで横目で見ていただけでしたが、
近年のお笑いブームは、見かけや動きの奇抜さが強調され、
中身は薄っぺらでチマチマしたネタばかり・・・

内輪(箸が転がっても笑う、扱いやすい若年層)受けで
盛り上がっていただけという印象を持っています。

まあニセモノ、マガイモノとまで言わないまでも、
キワモノ系が多かった。すぐに飽きちゃう。
(私のような中年男性には、イマドキのお笑いは
 そもそもあまり理解できないということでもありますが)


そこで、正統派で質の高い漫才やコントがやれる

「サンドウィッチマン」

のような本物の芸人の登場が渇望されていた・・・
ということではないかと思います。


産業界では偽装事件が続く中、お笑いの分野でも

「本物」「正統」

への回帰が始まっているのでしょう。

投稿者 松尾 順 : 09:34 | コメント (2) | トラックバック

「KY」を生み出す社会的圧力

こどもは非常に幼いときから、

大人のゼスチャーを見るだけでその意味の推測ができる

ということが、研究でわかっているそうです。


こどもの言語知識形成や非言語コミュニケーション活動
などの研究を行っている小林春美氏(東京電機大学教授)は、

『科学のクオリア』(茂木健一郎、日経ビジネス人文庫)

に掲載されている茂木氏との対談の中で、
次のような実験を紹介しています。

“キャップが付いたペンを一歳代の赤ちゃんに見せ、
 キャップを取ろうとするふりを見せます。
 キャップを取ろうとして取れない、というような動作です。
 そのペンを渡すと、赤ちゃんはキャップを取るのです。”


1歳そこらの赤ちゃんでさえ、
目の前の大人はペンのキャップを取りたいのだという

「意図」

を自然に読み取り、自分が取ってあげるという行動を
できるというのは驚きますよね。


小林氏は、このような行為ができる理由については
触れていませんが、おそらく昨日ご紹介した

「ミラーニューロン」

のおかげでしょう。

ミラーニューロンとは、平たく説明すれば、
他人の行動を見るだけで、その行動を自分自身の脳内で
「疑似体験」しているような感覚を与える神経回路のことです。

人は、誰もが生まれつき持っているミラーニューロン
のおかげで相手の言動をリアルタイムに理解(推測)できる。

そして、この能力が、共同体を作って相互に助け合って生きる
人間社会への適応を容易にしているのでした。


さて近年、ミラーニューロンを持っているはずなのに、
その能力を眠らせている人たちとも言える

「KY」(空気が読めない人)の増加

が問題視されています。

この「KYが増えている原因・理由」については、
次の2つの視点で考えることができます。

1.本人のコミュニケーション力の低下
2.KYを許容できない社会的圧力の強度化


世間一般の論調としては、
1の本人の問題に原因を帰結させていますね。

つまり、小さいころから他者(特に家族以外)との
コミュニケーションが不足したまま育ったため、
複雑な相手の感情を的確に読む力が低いという指摘です。

また、「KY」は、周囲の人の気持ちを読めるかどうかだけでなく、
その気持ち(=場の雰囲気)に即した適切な言動ができないという
ことがより問題ですが、これは、社会規範の欠如というか、
暗黙のルールを身につけていないということが挙げられます。


実際、こうした本人の問題も大きいでしょう。

しかし、同時に2番目に示した

「社会的圧力の強度化」

という視点も忘れてはいけないと思います。


昔の人々は、お互いにもっと感情をストレートにぶつけ、
傷つけあうことも多かった。人に迷惑をかけっぱなしの
ぶっとんだ人もたくさんいました。

それでも、以前なら、人間社会にそうした負の側面が
多少あっても仕方がないと許されていたところがありました。


しかし、現代では、できるだけ社会のルールを守り、
そして、お互いに相手を傷つけあうことを極力回避するように
なっています。

この背景には、社会学的には

「人格崇拝の高度化・厳格化」

があると見ることができます。

「人格崇拝」とは、個々人が、相互に相手の人格にまるで
神の聖性が宿っているかのごとく敬意を表し、その尊厳を
傷つけないよう配慮しあうことです。


また、例えばエスカレーターでは常に左側に立ち、
急ぐ人のために右側を空けておく(関西では逆)といった
ルールを守ることによって、全体として合理的でスムーズな
社会活動が可能になっていますよね。

現代は、こうした合理的な振る舞い、スムーズに予想した通りに
ものごとを進行させようとする人々が増えています。

ITによる自動化も進みましたし、
そうしないと世の中が回らなくなってしまってますよね。


こうした世の中では、以前なら「KY」とは言われなかったで
あろう人たちでさえ、KYのレッテルを貼られてしまうことに
なります。

他人の振る舞いに対する許容度が小さくなったためです。


ですから、KYの増加は、単に個人の問題だけでなく、
現代社会の高度化・厳格化しすぎた人格崇拝や合理化にも
原因があると考えられるのです。


同時に、こうした社会では、
自分自身の感情コントロールを極度に求められるわけですから、
精神的にはつねに緊張状態を強いられます。

その結果、精神的に破綻をきたす人も増加せざるを得ないでしょう。

また、こうした精神的破綻を避けるためでしょうか、
あえて自分の個性を消し、周囲に過度に同調する

「鉄板病」(おちまさとしの命名による現代人の行動傾向)

という症状が現れてきています。


よく、最近の若い人に対して、

打たれ弱い、ストレス耐性が低い

という非難を私たちは向けますよね。

しかし、この点についても、
本人の問題だけでなく、社会が個人に対して要求する

「自己コントロール力」

のハードルが極端に高くなっているからなのだという点も
忘れてはいけないのではないでしょうか?


現代社会は、以前よりはるかに適応が難しくなってるのです。


*人格崇拝や合理化の高度化、厳格化、また合理化の議論は、

『自己コントロールの檻 感情マネジメント社会の現実』
(森真一著、講談社選書メチエ)

を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 11:41 | コメント (3) | トラックバック

おいしそうな入浴剤

入浴剤使ってますか?

体が冷える冬には、
自宅のお風呂でもちょっとだけ温泉気分が味わえて、
体も温まる入浴剤を使いたくなりますよね。


入浴剤といえば、やはり

「バスクリン」

を真っ先に思い出します。

とりわけ中高年の方にとって、
不思議と懐かしさを感じるのがバスクリンでしょう。


ただ、若い人にとっては、
最近TVコマーシャルでの露出が多い、

「バスロマン」

の認知度の方が高いかも知れませんね。


さて、入浴剤の本質的な価値は、

・温浴効果(体が温まる)
・清浄効果(体の汚れが落ちる)

の2つがメインです。


そして付加価値としては、まずは

「香り」

をつけるという手が王道でした。

レモン、ジャスミンなどの香りで嗅覚を刺激。
癒し効果を狙っています。


あるいは、

「草津の湯」

など、有名温泉と同じ成分を配合して、
そのブランドを借用した製品も多いですね。


子供向け入浴剤になると、

「アンパンマン」

などのキャラクターの力を借りる手が主流でした。

また、固形の入浴剤を湯船に入れると、
しばらくして中から恐竜が飛び出してくるといった
仕掛けを加えることで、「遊び」の要素を付加する
商品があります。


最近は、新たなトレンドとして、

「お菓子もどき入浴剤」

がヒットしています。
(日経産業新聞、2007/01/04)


例えば、バンダイの

「ガリガリ君入浴剤Cool!」

は、赤城乳業のアイスバー

「ガリガリ君」

そっくりに仕上げてありました。
同製品は、今夏限定100万個を売り切っています。

子供だけではなく、20-30代の男性にまで購入層が
広がったようです。


さらに、バンダイでは、昨年(07年)12月に、

「うまい棒入浴剤」

を投入。


お菓子の「うまい棒」もまた、
子供から大人までファンが多いことから、

「うまい棒入浴剤」

は幅広い顧客層の心を捉えそうです。


ガリガリ君入浴剤にしろ、うまい棒入浴剤にしろ、
店頭でこれらのパッケージをみた最初の印象は、

「あ、おいしそう!」

というものでしょう。

入浴剤だとわかっても、

「おいしそう!」

という心地よい感情は残ります。
思わず買いたくなる効果抜群だと思います。


最近、五感刺激型の製品づくりに注目が
集まっていますが、「嗅覚」刺激が主流だった入浴剤に、

「味覚」を通じて「食欲」

を刺激する価値を付加するというのは、
大きな発想の飛躍だといえます。


そういえば、以前
にぎり寿司型のUSBメモリーも大ヒットしました。


人の三大本能のひとつである「食欲」を
刺激するという付加価値を与えるという工夫は、
さまざまな製品分野に適用可能だということがわかりますね。

投稿者 松尾 順 : 12:57 | コメント (3) | トラックバック

天国へのお引越し

ある老人の遺品を整理していた吉田太一氏に、
そのおじいさんのお孫さんが尋ねてきました。

「おじさんたち何してるの?」

まだ小学1-2年生くらいの小さい子供に

「遺品整理」

という言葉は難しいだろうと

「亡くなったおじいさんの荷物を整理してるんだよ」

と応えると、その子はこう言ったそうです。

「じゃあ、おじさんたちは、
 天国へのお引越しをお手伝いしてるんだね!」


吉田太一氏は、全国初の「遺品整理」の専門会社、

「キーパーズ」
http://www.keepers.jp/

2002年に立ち上げた方です。


「遺品整理」は文字通り、
亡くなった方の自宅や部屋の物を整理し、清掃し、
形見の品を遺族に渡して、残ったものを処分する仕事です。

マスメディアでもたまに取り上げられていますので、
ご存知の方もいらっしゃるでしょう。


亡くなった方の多くは「孤独死」です。

孤独死した人の親戚縁者は
おおむね故人とは疎遠だったために、
自分では遺品整理をやりたがりません。

そこで、キーパーズのような会社に
お金を払って依頼するというわけです。


独居老人などが「孤独死」した場合、
身内がどこにもいないこともあります。

このような場合には、
部屋を貸していた大家さんが仕方なく、
遺品整理を依頼することが多いようです。


また、「自殺」や「他殺」によって亡くなった方の
遺品整理の仕事もあります。

この場合もやはり、
遺族が自分で遺品整理するのは難しいため、
遺品整理会社に依頼が来るようです。

現場では、
もちろん遺体は既に運び出されていますが、
血が飛び散っていたりする凄惨な状況の中で
遺品整理や清掃の作業をすることになります。
(だから、心情的にも遺族がやるのは難しいわけです)


遺品整理の仕事は、
想像するだけでも大変な仕事だなと思いますが、

「自分たちがやらなかったら誰がやるんだ」

という強い使命感で、
吉田さんたちは仕事を引き受けています。


現在では、こうした遺品整理の会社は全国に
30社くらいあるそうです。

高齢化が進み、独居老人が増加していいる現代、
遺品整理業の方がますます忙しくなることは確実ですね。

もちろん、自殺や他殺による仕事が増えることは、
遺品整理業の方も望んでいないでしょう。


最近は、独居老人の方で、

「生前予約」

をされる方が増えているそうです。

今は元気だけれど、いつ突然死んでしまうかわからない。

その時、身内や周囲の人に迷惑をかけたくないと、
あらかじめ遺品整理の見積もりを取り、代金を払って
その時に備えておきたいということなのだそうです。

生前に「墓」を購入しておくだけでなく、

「遺品整理」

までも、死ぬ前に、
赤の他人に依頼してきたいと考える人が増えている。


これは、人間関係がますます薄くなっている現代を
反映していると言えそうですよね。


ところで、吉田太一氏の著作、

『遺品整理屋は見た!』(扶桑社)

には、孤独死したある女性の部屋には、

28匹の猫

が残されていたという話が出てきます。

可哀想なことですが、飼い主を突然失い、
引き取り手もいない猫たちは保健所が連れて行きました。


最近、自分が死んだ後のペットの面倒を
見てくれるサービスも開始されたようですね。
(キーパーズではありません)

独居老人には犬や猫を子供のように
かわいがっている方もいらっしゃるわけです。

自分亡き後のペットの行く末が心配の種と
なっていた方に応えるサービスもついに登場したのです。


高齢化社会では、これまで思いもしなかったニーズが
生まれているのだと痛感させられます。


なお、同書に書かれていますが、
独居老人の孤独死は、55-65歳が多いとのこと。

高齢だと周囲も気を遣いますが、
60歳前後ならまだまだ若いので周囲もあまり心配しない。

このため、亡くなったことに気づくのが遅れてしまうようです。

一人暮らしの55歳以上の親戚や知人がいたら、
ぜひこまめに連絡を取ってあげてください。


年の瀬にあまり楽しくない話を書きました。

正月にドクロを杖につけて「ご用心、ご用心」と歩き回った一休さん
ではありませんが、私たちは常に死と隣り合わせで生きていること、
そして、「生きていること」の幸せをかみしめてもらえればと思います。

『遺品整理屋は見た!』
(吉田太一著、扶桑社)

投稿者 松尾 順 : 00:21 | コメント (0) | トラックバック

「プロファイルパスポート」とは?

経済産業省が進めている

「情報大航海プロジェクト」

のことはご存知ですか?


このプロジェクトの目的は、

大量の情報の中からユーザーが求める情報やサービスを
的確に検出する共通技術を開発し、新たな情報サービスを
創出すること

です。


情報大航海プロジェクトには、

V、S、P

の3つの柱があります。具体的には次の通りです。

------------------------

・V(バリュー):

 新しい価値を生む次世代のインターネットサービス

・S(ソーシャル):
 
 新たな社会インフラとしてのITサービス

・P(パーソナル)

プライバシーに配慮した未来型パーソナルサービス

-----------------------


さて、この3つの柱のうち、
「P」に該当する興味深い実証実験が始まっています。

それは、

「プロファイルパスポート」

と呼ばれる事業です。

リクルートと東京工業大学が共同で設立した

(株)ブログウォッチャー
http://www.blogwatcher.co.jp/

が実施主体となっています。


「プロファイルパスポート」とは、
端的にいえば、消費者情報を一元的に集約したデータベース。


これまでも、リサーチ、マーケティング業界では、
消費者の意識(心理)や行動をより深く理解するために役立つ、

「一元的消費者情報データベース」

の構築が何度か試みられてきましたが、
コスト面、技術面でのハードルが高く実現には
至っていませんでした。

つまり、ほとんど「夢物語」に止まっていたんですよね。


しかし、IT技術の普及のおかげでとうとう、

「一元的消費者情報データベース」

が、夢物語とは言えなくなる時代になってきました。


さて、プロファイルパスポート事業によって集約される情報は、
多岐にわたっています。

・利用者の基本属性
・利用者が書いた日記(生の声)
・視聴した動画やテレビ
・行った場所、お店
・購入した商品やサービス
・その他の関連情報(天候など)

つまり、消費者の生の声に加えて、
メディア接触・視聴履歴、行動履歴、購買履歴等が
ユーザー個別に収集、蓄積されるというわけです。


これらの情報の収集には、
インターネットや携帯電話が活用されます。

これによって、コスト面や技術面でのハードルが
一気に下がったというわけです。


利用者の日記(生の声)はネット上のブログなどから採取。

視聴した動画やテレビも、ネットを通じて捕捉が容易です。
(テレビは、ネットとの連携がまだ十分ではないですが)

ユーザーの行動情報については、
GPS付の携帯電話が普及していけば簡単に
把握できるようになりますね。

購買情報は、オンラインショッピングであればもちろん
簡単に収集できますし、リアル店での購買情報を収集して
データベースに結びつけることも技術的には可能です。

お天気の情報などのさまざまな関連情報も、
ITを活用すれば自動収集・蓄積ができますよね。


では、こうして一元化された情報は
どのように利用されるのでしょうか?

例えば、ユーザー1人ひとりのレストランの嗜好を分析した

「レストランパスポート」

を作成します。

そして、ユーザーがレストラン紹介サイトにアクセスした際、
この「レストランパスポート」を示すと、その情報を元に
ユーザーの嗜好に合致するレストランが推奨されます。


あるいは、ユーザーのキャリアの志向性を分析した

「キャリアパスポート」

を作成します。

ユーザーが転職情報サイトでこの「キャリアパスポート」を
示すと、その人にとって最適な転職先が紹介されます。


このように、「プロファイルパスポート」の活用によって、
企業は、ユーザーの求める情報、商品、サービスを高い精度で
予測し提案することができるため、ユーザーにとっても、
企業にとってもありがたいシステムと言えるわけです。


さて、この事業で技術的には最も難しいけれど、
最も面白い部分は、ブログなどから収集される「生の声」、
つまり「テキスト情報」の分析でしょう。


消費者のブログからは、

「どこそこに行った」「何を見た」

といった行動や、

「楽しかった」「むかついた」

といった評価、感想、

「こんな生活が理想です」「こんな場所に行きたい」

といった価値観、ニーズ

等が豊富に含まれています。

つまり、顧客の心理を深く洞察することが
可能になる情報の宝庫と言えるわけです。


ただ、こうした分析を行う前に、
まず、スパムブログやアフィリエイトブログ、
やらせブログの情報を排除しなければなりません・・・

ニフティ研究所でも、
「ブログ」を対象としたテキストマイニング、
すなわち「ブログマイニング」に取り組んでいますが、
所長の友澤大輔氏によれば、世の中のブログ全体の半数以上が、
スパムブログを始めとする、分析には使えないブログである
ということが同所の分析からわかっているとのことでした。


なお、ブログウォッチャーでは、
ブログの文章表現から書き手の性別を推測することも
始めています。

例えば、男性は「かわいい」という言葉をあまり使わないと
いった表現上の傾向を元に、書き手が男性なのか女性なのかを
判別するのです。

同社の羽野仁彦氏によれば、
性別の予測精度は90%以上とのことですから、
なかなかですね!

投稿者 松尾 順 : 15:03 | コメント (2) | トラックバック

ビッグ・イシューを買うと・・・?

『ビッグ・イシュー』はホームレスの方が販売する雑誌。


全国主要都市の駅前や交差点などで、
右手に雑誌を高く掲げている人を見かけることがあります。

あの雑誌が『ビッグ・イシュー』です。
以前購入したことがあるよ、毎号買ってるよという方も
いらっしゃると思います。


『ビッグイシュー』は1991年にロンドンで誕生し、
現在は世界28カ国、80都市で発行されています。

そして、『ビッグイシュー日本版』は2003年に創刊され、
現在は月2回発行です。


同誌は1冊300円。うち160円が
ホームレスの方の収入になります。

ビッグイシュー日本版の発行元によれば、
販売者の平均収入は、

3,200~4,000円/日(20-25冊販売)

となるようです。

この結果、路上生活を脱し、1日1000円程度で泊まれる
簡易宿泊所に移れるホームレスの方が増えてきたとのこと。


つまり、ビッグイシューを買うと、
寒空に凍えずにすむホームレスの方が増える。


今年大きな話題を集めたNHK特集「ワーキングプア」では、
年金をもらえない高齢者の方が、空き缶を集めてぎりぎりの
生活をする様子が伝えられていましたよね。

私の事務所がある本郷3丁目近辺の路上でも、
アルミ缶をリヤカーに積んだ方をよく見かけます。

あの仕事、朝から晩まで集めて回っても、
せいぜい1000円/日程度にしかならないため、
食事代をまかなうのがやっとなのだそうです。

したがって、路上での寝泊りを脱出することは
できません。


しかし、ビッグイシューを売れば、
暖かい屋根の下に眠れるだけの現金収入が得られる。

それ以上に、誰かに施しを受けるだけの情けない存在から、
社会の一員としての役割を果たしているという自覚、
働いて収入を得ているという「誇り」と「自信」が生まれる。


ビッグイシューの根底にあるのは

「セルフヘルプ」(自助努力)

です。

お腹を空かせた人に「魚」をあげるのではなく、
「魚の釣り方」を教える

という言葉の通りを実現した、
優れたソーシャルビジネスだと言えます。


さて、ビッグイシュー日本版の発行部数は、
wikipediaによれば現在約3万5千部のようですが、
もっと購入する人が増えてほしいなと思います。


実は、私は募金が苦手です。

もちろん、募金を否定するつもりはありません。
ちゃんと運営されているところがあるのはわかっています。

でも、本当に助けを必要としている人に、
自分のお金が使われるのかという不安が消えません。


しかし、『ビッグイシュー』を買うのは、
そんな不安がありません。目の前のホームレスの方の
収入になることがわかる。しかも、それは、単なる
「施し」でもありませんからね。


ちなみに、

『ビッグイシュー日本版』最新号(84号、2007.12.1)

の表紙を飾っているのは、

「WAR IS OVER」

のパネルを掲げたジョン・レノン、オノ・ヨーコ。

スペシャルインタビューはもちろんオノ・ヨーコです。

巻頭のインタビューには、
あの男前経営者、ピーチジョン代表の野口美佳さんが
登場されてます。

薄い雑誌ですが、
なかなか読み応えのある編集内容です。
(以前と比較するとずいぶん充実してきました)


『ビッグイシュー日本版』ホームページ
http://www.bigissue.jp/

投稿者 松尾 順 : 10:54 | コメント (2) | トラックバック

サンプル百貨店:価値創造型サンプリング(2)

試供品を配布したい企業と、
試供品をもらいたい消費者を結びつけるWebサイト、

「サンプル百貨店」
http://www.3ple.jp/

を運営する

(株)ルーク19
http://www.luke19.jp/index2.html

では、従来の試供品配布方法にはなかった、
新しい付加価値を創造することに積極的に取り組んでいます。


その一つは、

「リアルサンプリングプロモーション」


これは、ホテルの宴会場を借り、
OL、主婦を中心に1000人ほどを一同に集めて行う
大サンプリングイベントです。

同イベントには、
メーカーなど20-30社が参加して試供品を提供。

集まった女性たちの前で、
開発担当者が、商品に対する思いや開発秘話を
プレゼンテーションすることができます。


このイベントへの参加は、ブロガー優先。

したがって、当日のイベントの模様や、
もらった試供品あれこれ(合計数万円相当)についての感想が
後日ブログにアップされることで、口コミマーケティングが
展開されるという仕組みです。


先日の11月18日には、特別企画として、
横浜港から出航する豪華客船「ふじ丸」を12時間貸切。

東京湾内をクルーズする客船内で、
大手メーカー20社のプレゼンとサンプル配布が行われています。


このイベント、約500名の会員が参加したようですが、
1人8000円の参加料を払っています。

でも、豪華客船でのランチ、ディナー付ですし、
キャスター付バッグ一杯の試供品を持って帰れるわけですから
参加された方は皆大満足でしょう。


こうしたイベントでは、試供品の清涼飲料を
バカラのグラスに注いで飲んでもらうこともするそうですが、
たかが100円のドリンクであっても、
バカラで飲めばるかにおいしく感じられるでしょうね。

また、一流ホテルの宴会場、あるいは海上に浮かぶ豪華客船と
いう環境は、そこで配布される試供品に対する好意的なイメージ
を強化することに役立っていることは間違いありません。

これこそ確かに「価値創造型サンプリング」と言えますね。


さらに、ルーク19が始めた新たな取り組みに興味を惹かれました。

それは、試供品ではなくて、コンビニやドラッグストアの棚に
並んでいる実売品を無料でもらえるというもの。

この仕組みはそもそも、アイスクリームなど温度管理が必要な製品を
試してもらいたいと思っても、サンプル百貨店で従来採用してきた
宅配便等を使って送っていたのでは、送料が高くなりすぎてしまう
という問題を解決するためでした。


そこで、試供品本体ではなく、はがきの引き換え券を希望者に送り、
その引き換え券を持って協力店舗(セブンイレブンを始めとする
大手小売チェーン)に行けば、対象商品がもらえるという仕組みを
考え出したというわけです。

これだと、従来は法規制上困難だった、
医薬品のサンプリングも可能なのだそうです。


同社渡辺社長によれば、
この引き換え券の引き換え率は87%。

ほぼ全員に近い人が、
店頭に足を運んで商品を受け取っています。


実は、この仕組みは単に送付コストを抑えつつ、
試供品を確実にターゲットユーザーに渡す以外の

「副次的効果」

がありました。

それは、まずこの仕組みで流すことになった新製品は、
協力コンビニの全店舗の棚に確実に並ぶということです。

ご存知かと思いますが、売り場面積の限られたコンビニの
販売スペース獲得競争は熾烈なものがあります。

そうそう簡単に置いてもらえないし、
売れなければさっさと撤去されてしまうのが現実。


しかし、引き換え券を持った全国の会員が、
交換に現れるわけですから、当該製品は棚に置いてもらえる。

こうして店頭に並んでいることで、
会員以外の人が見つけて買うこともあるでしょうし、
それだけヒット商品になる可能性も高くなるというわけです。

しかも、引き換えに来た会員も、対象商品をもらうだけでなく、
ついでにあれこれ買っていく。

つまり、店舗の売上にも貢献する。


というわけで、サンプルとしての実売品を無料でもらえる
消費者、そして販売スペースを確保できるメーカー、
売上アップになる小売店と、関係者全員にとってメリットの
ある仕組みになっているのです。


*以上の記事は、ルーク19、サンプル百貨店についての公開資料、
および、渡辺明日香氏の講演(IMプレスビジネスセミナー)を
元に書きました。

投稿者 松尾 順 : 12:05 | コメント (0) | トラックバック

サンプル百貨店:価値創造型サンプリング(1)

「試供品配布」、いわゆる「サンプリング」と言えば、
長い間、路上での無差別配布が主流でしたね。

しかし、この方法だと、
対象商品を実際買いそうもない人にも
お試し品が渡ってしまいます。

このため、販売促進効果がもうひとつ。


というわけで最近増えてきたのが、
登録会員制で詳細なプロフィールをあらかじめ把握しておき、
試供品のターゲットユーザーの属性に合致していて、
かつ自分から欲しいと手を上げた人だけに試供品を渡す
ビジネスモデルです。

例えば、今年07年7月には表参道に、
試供品がもらえるリアルな店舗「サンプル・ラボ」が
オープンしてます。


さて、こうした新しいサンプリングを展開する企業の中でも、
とりわけ面白い事業をあれこれ手がけているのが、

(株)ルーク19
http://www.luke19.jp/index2.html

です。

同社は、試供品を配布したい企業と、
試供品をもらいたい消費者を結びつけるWebサイト、

サンプル百貨店」
http://www.3ple.jp/

を2005年8月から運営。直近の登録会員数は30万人です。

実は、私もこのビジネスモデルには以前から注目しており、
一年ほど前からいちおう会員になってます。

会員のおよそ8割が女性、その多くが主婦のようですので、
私のようなオヤジは、やはりどうも場違いなんですけど・・・


「サンプル百貨店」の基本的な仕組みは、
同サイトで行われるサンプリングに、擬似通貨の

「サンプラー」(=ポイントですね)

を使って応募するというもの。

例えば、ある試供品をもらうためには「100サンプラー」
が必要といった具合です。このため、会員たちは、
「サンプラー」を貯めるのに必死なんだそうです。

サンプラーは、試供品を使用した後のアンケートに
答えるとか、ブログに記事としてアップしたことに対する
報酬としてもらえます。

この仕組みによって、試供品を単に配布するだけでなく、
試用者の調査や口コミプロモーションまでつなげられる
というわけです。

また、登録会員は、サンプル配布だけでなく、
新商品開発にも協力しています。


例えば、大正製薬の女性向けの栄養ドリンク、

「リポビタン・ファイン」

では、開発段階からサンプル百貨店の女性会員が、

「パッケージはピンクのほうが手に取りやすい」

など、約8000件の意見を寄せた内容を元に、
製品仕様が決定されたそうです。


同製品の発売は05年10月でした。

大正製薬では、発売後しばらくはサンプル百貨店以外での
広告宣伝はしない方針で臨んだようですが売り上げは順調に伸び、
今年5月から本格的なマーケティングを展開しています。


ルーク19の代表取締役社長、渡辺明日香氏によれば、
単なる試供品配布にとどまらず、それ以上の新たな価値を付加する、
そんな

「価値創造型のサンプリング」

に取り組んでいるのだそうです。


では、明日は、バーチャルな「サンプル百貨店」に、
リアルな場を組み合わせた同社のユニークなイベントや
ビジネスモデルをご紹介したいと思います。


*以上の記事は、ルーク19、サンプル百貨店についての公開資料、
および、渡辺明日香氏の講演(IMプレスビジネスセミナー)を
元に書きました。

投稿者 松尾 順 : 09:58 | コメント (0) | トラックバック

「ジョブ・エンゲージメント」からの示唆

昨日、マーケティングにおける「エンゲージメント」に
ついての記事を書きました。


その中で、人材マネジメント業界においても、

「エンゲージメント」

が近年最もホットなテーマであることに触れました。


今日は、このメルマガ&ブログの基本軸から多少ずれますが、
この人材マネジメントにおける「エンゲージメント」に
ついて簡単にご紹介した上で、マーケティングへの示唆を
考えてみたいと思います。


さて、人材マネジメントにおける「エンゲージメント」は、

「ジョブ・エンゲージメント」

と一般に呼ばれます。


これは、文字通りに訳せば、

「仕事と婚約している状態」

です。

具体的に言えば、自分の仕事が好きで好きでたまらず、
仕事が楽しくて、思わず時間を忘れてしまうほど
「のめりこんでしまう」ことを意味します。


では、なぜ「ジョブ・エンゲージメント」が、
人材マネジメントにおいて注目を集めているのか。

それは、このところより一層、昇進・昇格、昇給といった
「外的報酬」だけでは社員のやる気を高めることが困難に
なってきたからです。

今の多くの私たちの生活は十分に満たされていますからね。

昔のように「にんじん」をぶらさげられても、
あまり走る気にはなりません。


逆に、降格、減給、左遷といった「罰則」でも、
やる気を高めることはできません。

簡単に転職できる世の中になりましたし。


つまり、ニンジンやムチといった

「外的な動機付け」

ではなく、むしろ、

仕事そのものが面白いか、楽しいかということ
(=「内的動機付け」)

が、社員のやる気を高め、
結果的に仕事上の高い成果に結びつくということが
わかってきたのです。

まあ確かに、夢中になって仕事に打ち込めるなら、
仕事も速いし、仕上がりだってすばらしいものに
なる可能性が高いですよね。


これが、「ジョブ・エンゲージメント」が
重視されるようになってきた理由です。


さて、人材コンサルティング会社、
ワトソンワイアットのコンサルタント、川上真史氏によれば、
これまでの調査研究から、「ジョブ・エンゲージメント」が
実現するためには、次の3つの視点が必要なことがわかって
きています。

1.自己効力感
2.シナジー
3.プライベート


「自己効力感」とは、
自分の能力が仕事を通じて発揮できているという感覚、
また、何かを成し遂げている、成功したという事実に基づく
自尊感情のこと。

要するに

「オレって結構いけてるじゃん、えらい」

と自分を肯定できることです。


次の「シナジー」とは、
職場の良好な人間関係が生み出すもの。

お互いを認め合い、支えあい、褒めあう。
そんな中から、一人ではできないことが実現していく。

要するに、好きな仲間、気の合う仲間となら、
どんな仕事だってある意味楽しくなる、のめりこみやすい
ということです。


最後の「プライベート」。

夫婦関係、恋愛関係や親子関係が良好でないと
いくら好きな仕事でもさすがになかなか集中できませんよね。
健康状態も然りです。

オンの仕事にがんばれるためには、
オフのプライベートが良好であることが望ましいわけです。

(したがって、今後の人材マネジメントでは、
社員のプライベートなことは社員自身の問題である、
と切り離すのではなく、会社として可能な支援を行うべきである
という方向になっています。)


以上、「ジョブ・エンゲージメント」の考え方を
ご説明しました。


さて、企業と社員という人材マネジメント固有の問題である
「プライベート」の問題はさておき、

・自己効力感
・シナジー

については、

「エンゲージメント・マーケティング」

に対して貴重なヒントを与えてくれているように思いませんか?


「自己効力感」を与えやすいマーケティング施策は、
たとえば「ゲーム」ですよね。

たとえ簡単なゲームであっても、
高い得点をあげることができればうれしい。

思わずのめりこんでしまいます。


また、「シナジー」を実現しやすい仕組みが、
ブログ、SNSに代表されるCGMではないでしょうか?

もちろん、ネガティブな問題もいろいろ起きますけど、
基本的には、お互いにコメントやトラックバックなどを
通じて承認しあい、時にほめ、励ましあえるそんな心地よい
コミュニティが、SNSやブログつながりの仲間ですよね。


人材マネジメントにおける「エンゲージメント」を
安易にマーケティング分野に当てはめることには注意が
必要かもしれませんが、それにしても、

・自己効力感
・シナジー

は、エンゲージメント・マーケティングにおける具体施策に
おいても重要なキーワードになりうると私は思っています。

投稿者 松尾 順 : 10:17 | コメント (0) | トラックバック

エンゲージメント、エンゲージメント・マーケティングとは何か?

最近のマーケティングにおける、
最もホットな「バズワード」(流行り言葉)のひとつに

「エンゲージメント」

がありますね。

(実は「エンゲージメント」は、
 人材マネジメント業界においてもホットなバズワードですが!)


ところが、さまざまな情報に当たってみても
未だにその正体ははっきりしません。

先日参加した某勉強会でも

「エンゲージメント・マーケティング」

が、旬のテーマとして取り上げられてました。

しかし、現時点では言葉だけが独り歩きしていて、
中身はまだ空虚なままであるということがはっきりしました。


そこで、今日は私なりの「エンゲージメント」についての考えを
書いてみます。


まず「エンゲージメント」を日本語にどう訳すかですが、
これは、

「のめりこみ」

という言葉がしっくりくると思います。

人材マネジメント業界では、この「のめりこみ」という言葉が、
ワトソンワイアットの人材コンサルタント、川上真史によって
紹介されています。

人材マネジメントの枠組みでは、社員が、
どれだけ自分の仕事に“のめりこめている”かどうかが、
高い生産性や成果をあげるために重要だという視点で
注目されています。

つまり、従来のように企業本位の視点で、
どうやって働かせるかという発想ではありません。

逆に、社員本位の視点で、
どうやったら仕事に自発的に取り組んでもらえるかを考えるのが、
人材マネジメントにおける「エンゲージメント」です。


マーケティングの枠組みにおける「エンゲージメント」、
つまり「のめりこみ」も、同様に視点(立ち位置)の移動が
あります。


従来のマーケティング・コミュニケーションは、

どうやって伝えるか、理解してもらうか、買ってもらうか

という企業本位の発想でした。


しかし、「エンゲージメント」の考え方では、

対象ユーザー(消費者)が、どの程度、
当該商品・サービスにのめり込んでいるか
(エンゲージしているか)

を重視します。


すなわち、「対象ユーザーの視点」で、
マーケティング・コミュニケーションを評価しようするのが、

「エンゲージメント」(のめりこみ)

の基本発想だと言えます。

より具体的に説明すれば、「エンゲージメント」(のめりこみ)
では、この言葉が示すとおり、従来の

「ブランド認知」「ブランド理解」

といった浅いレベルではなく、
より深いレベルでの対象ユーザーとブランドとの関わり方に
焦点を当てます。

すなわち、対象ユーザーと当該商品・サービスとの間に
どの程度強い「心の絆」が形成されているかという、

「心理面での関わり度合い」

と、その目に見える形での現れとしての

「行動面での関わり度合い」

に着目します。


そして、エンゲージメントの基本思想である、

「深いレベルでの対象ユーザーとブランドの関わり方を
 強化すること」

を目指した具体的なマーケティング施策のことを

「エンゲージ・マーケティング」

と呼ぶのだと私は考えています。


さて、すでにお気づきの方もいらっしゃると思いますが、
「エンゲージメント」の基本思想は、

「CRM」(Customer Relationship Management)

のそれとほぼ同じです。

どちらも、対象ユーザーとブランド(企業を含む)との
関係性強化を狙うものだからです。

ただし、「CRM」は、どちらかといえば企業本位の視点が
強かったのに対し、「エンゲージメント」では、
企業のマーケティング活動の成果を対象ユーザーの深いレベルの
心理面や行動面の変化で評価しようとする点が異なると言えます。


問題は、「エンゲージメント」をどう測定するかですね。
この点で、米国でも日本でも論争が続いています。


行動面の評価指標の候補としては、例えばインターネットなら

サイトの滞在時間、ブログでのキーワード頻出数、
コメント数、トラックバック数

といったものが挙げられます。


一方、心理面の評価指標は、目に見えない心理状態を
把握するわけですから、なんらかのアンケート調査を行うか、
人間の脳を直接測定する「神経生理学」(ニューロサイエンス)
の手法を採用することが考えられます。
(このニューロサイエンスを活用したマーケティングである、
「ニューロマーケティング」も最近のバズワードのひとつですね)


ニューロサイエンスはまだ敷居が高いのですが、
アンケート調査による、対象ユーザーの心理状態の把握については、
すでに利用可能と思われる先行指標があります。

それは先日ご紹介した、

「BRQ:Brand Relationship Quality」

です。

「BRQ」は、10年ほど前に開発された評価指標ですが、
ブランドの関係性の「質」を測定するものです。


具体的には、

“消費者が、ブランドに対して持っている感情的なつながり”

を評価します。

これは、「エンゲージメント」で言われる「心の絆」に
他なりません。


「BRQ」では、次の7つの軸で「心の絆」の強さを見ます。

1 親密さ(Intimacy)
2 こだわり(Commitment)
3 パートナー品質(Partner Quality)
4 今の自分とのつながり(Self-connection)
5 愛着(nostalgic feeling)
6 相互依存(Interdependence)
7 愛情(Love/Passion)

そして、この7つの軸の強弱を競合ブランド間で比較分析
することなどによって、具体的なマーケティング施策を
立案することが可能です。


さて長々と説明してきましたが、まとめます。


エンゲージメントとは、
対象ユーザーが当該商品・サービスに対して持っている
「心の絆の強さ」のことです。

ひらたく言えば、対象ユーザーが、

当該ブランドにどれだけのめり込んでいるか

ということです。

「心の絆」を強化することを狙ったマーケティング施策を
「エンゲージマーケティング」と呼びます。

「エンゲージマーケティング」の効果測定は、
心理面と行動面の2面で行う必要がありますが、
まだ一般に認知された指標はありません。

ただし、心理面の指標としては、
「BRQ」が採用可能だと考えています。


(関連記事)
*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(0)イントロダクション

*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(1)感情的なつながり

*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(2)活用の具体手順

*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(3)効果と具体施策

*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(4)BRQ低下をもたらすもの

*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(5)まとめ

*ニューロマーケティング:コークvsペプシ

*欲望解剖

*fMRI:機能的磁気共鳴画像法の利用増えてます。

投稿者 松尾 順 : 09:37 | コメント (2) | トラックバック

シニアライフの未来形・・・カレッジリンク型シニア住宅

私の義母、つまり妻の母親は昨年、自ら自分の資産を処分し、
千葉房総の鴨川に近い山の中に建つ

「介護付マンション」(端的に言えば「有料老人ホーム」)

に居を移しました。

そこは、栗を拾いに野生のサルが顔を出すような、
自然にあふれた素晴らしい場所です。


幸い、私の自宅は千葉・松戸にありまして、
鴨川・勝浦近辺には年に何度も旅行に行く場所でした。

ですので、家族旅行の度に義母のところを訪ねています。


さて、このマンションの入居者は、当然ながら全員ご老人です。
ロビーで見かけるのはご老人の方ばかり。
(受付の方とか、介護士の方々は皆さんお若いですが)

入居者の間で様々なサークル活動が盛んのようですし、
夏祭りなどの行事も盛大にやってます。


しかし、やはりお年寄りしかいない食堂で
お昼をいただいている時などに感じるのですが、
いわゆる「老人専用マンション」は、正直言って、
あまり活気のあるものではないですね。


ある意味「現世」から隔離されているとも言える、
刺激の少ない大自然の中で、老人たちだけで固まって
毎日を過ごすというのはどうなんだろう?

よっぽど自分で自覚してないと、あまり頭も体も使わなくなり、
老化の進行が早まるんじゃないか?

といった疑問がよぎります。


年をとれば誰もが体力・気力が衰えはしますが、
従来理想とされてきた「静かな余生」は、
人にとって本当に望ましいものなのでしょうか?


「必ずしもそうではない」

と言える興味深い事例があります。


それは、「カレッジリンク型」のシニア向け住宅です。

カレッジ、すなわち「大学」と連携したシニア住宅。

米国では10年ほど前に登場し、じわじわと普及しつつある、
いわばシニアライフの未来形と呼べるものでしょう。


「カレッジリンク型シニア住宅」の具体例としては、
ボストン郊外の高級住宅地、ニュートンにある

「ラッセルビレッジ」

があります。

ここは、「ラッセルカレッジ」という大学と一体となって
運営されているシニア住宅です。

ラッセルビレッジは、
入居者を募集開始したとたん即売。
現在も100人以上の空き待ちの方がいる人気だそうです。


この住宅、他とちょっと違っているのは、
入居の条件として、なんと年間450時間以上、
大学の講義を受講しなければならないという点。

金さえあれば入居できるわけではないのがユニークですね。


もちろん、入居者は大学の施設を自由に利用できます。

カフェテリアでは、若い学生たちと共に食事を楽しむ
入居者の老人たちを見ることができます。

大学の授業は、若い学生と共に受講しますが、
歴史の授業などでは、ご老人たちは文字通り

「生きた歴史の教科書」

となり、学生たちに自分の経験談を語ることができます。


また、詩の朗読のクラスなどでは、
入居者の老人がリーダーとなって学生をまとめることも
あるそうです。

しかも、人生の先輩として、
入居者たちは、学生のキャリア・人生相談役も務めます。

すでに引退しているとはいえ、
現役のころは様々な職業を経験してきている人がいます。

学生にとってはとてもありがたいアドバイスが得られますよね。


さて、以上は学生にとってのメリットですが、
入居している老人にとってのメリット、それは、
授業で頭を使い、学生たちと交流して彼らの若いエキスを
吸収できることで(笑)、いつまでも若々しく元気で
いられることです。

実際、入居者の方々の写真を見ましたが、
90歳近くの方でも、60歳代にしか見えないほどでした。


通常、老人ホーム入所5年後の要介護率は、
約10%だそうですが、ラッセルビレッジでは、
同3%に止まっているそうです。

つまり、老化のスピードが明らかに減速する。
かなり強力なアンチエイジング効果ではないでしょうか。


私は、決して従来型の介護付マンションがダメとは
思いませんが、年を取っても元気いっぱいでいられて、
若い人にとっても人生の先輩の知恵が得られる、

「カレッジリンク型のシニア住宅」

は、日本でも今後人気を集めるのは確実だと思います。


実は、来年(2008年)5月に、
日本初のカレッジリンク型のシニア住宅がオープン
するそうです。関西大学との連携です。

*クラブアンクラージュ御影
http://www.encourage.co.jp/


以上は、シニアビジネスの第一人者、
村田アソシエイツ代表、村田裕之氏のお話を元にしました。

投稿者 松尾 順 : 15:53 | コメント (2) | トラックバック

奇跡の美術館・・・「まるびぃ」

「奇跡の動物園」と言えば、

「旭山動物園」(北海道旭川市)

ですね。


では、「奇跡の美術館」と言えば・・・?

それは、

「金沢21世紀美術館」(石川県金沢市)

です。


同美術館は、円形の建物。
そこで“丸い美術館”の意味を取って、通称

「まるびぃ」

と呼ばれています。


さて、「まるびぃ」は、2004年10月オープン。

初年度の年間入場者数は157万人、
2年目は120万人でした。


たかだか人口46万人の地方都市に過ぎない金沢の美術館が、
これだけの来場者数を集めるのは驚きです。

というのも、全国の美術館の
平均年間来場者数はせいぜい5-6万人。

開館日一日当たりで200人たらず。


ところが、まるびぃには、

土日は7-8千人、平日でも4-5千人

が来場します。


「まるびぃ」の奇跡を主導した特任館長、
蓑豊(みのゆたか)氏は、この美術館を任される前は、
「大阪市立美術館」の館長を務めていました。

大阪は人口300万人、
京都、神戸を含めると周辺人口は500万人になりますが、
大阪私立美術館の年間来場者数は

100万人

を超えたことがないそうです。

ちなみに、金沢の最大の観光名所といえる、
日本三大名園のひとつ、兼六園の年間入場者数は
160万人程度です。

なるほど、「まるびぃ」が、旭山動物園と並んで

「奇跡」

と称されるのは納得ですね。


では、なぜこのような奇跡が起きたのでしょうか?

もちろん、単に運が良かったわけではなく、
蓑館長はじめ、関係者の努力の賜物ですが。


成功要因のひとつは、
「まるびぃ」が金沢市中心部にあること。

他の地方都市に多い、郊外にある美術館よりも、
人々が気軽に立ち寄りやすいという立地上のメリットが
ありました。


さらに、円形の建物はガラス張りで開放的。

従来の美術館の薄暗いイメージを覆す
明るい雰囲気があります。しかも、
出入り口が5カ所もあるので、入りやすい
敷居の低い美術館なのです。


しかし、こうした環境要因以上に、
成功の決め手となったのは、モントリオール美術館、
インディアナポリス美術館、シカゴ美術館など、
北米の名だたる美術館の東洋部長を経験された蓑氏が、

「美術館も人が来てナンボ!」

という「経営・マーケティング発想」で、
「まるびぃ」を積極的にプロモートした点にあります。


おおむね日本の美術館は、館長にしろ、学芸員にしろ、
客が入ろうが入るまいが、自分たちには関係ない、
高尚な芸術を理解できない大衆が悪い、という

開き直りの運営

が一般的。

蓑氏のように、

美術館を経営する、マーケティングする

という発想はまったくないのです。

日本の美術館のほとんどが、
うまくいっていないのは当然ですよね。


では、まるびぃの人気の秘密をご紹介しましょう。

まず、施設について。

まるびぃは、全体の3分の1が無料スペースです。
無料スペースにもいくつか展示物があります。

またレストラン、ミュージアムショップは
無料スペース内にあるので、入場料なしで遊びに行けます。

実際、来場者120万人前後のうち、
有料スペースに入るために入館料を払う人は、
約3分の1、40万人程度だそうです。

東京都内で開催される大型の企画展では、
40-50万人前後の来場者を集めますが、
そのかなりの割合が招待券、
つまりタダ券によるものであることを考えると、
まるびぃの有料入場者が

40万人

もいることは驚くべきことでしょう。


おそらく、無料スペースがなければ、
これだけの来場者も集められないでしょうし、
また、有料来場者も大幅に少ないはずです。

無料スペース=単なる経費、無駄

ではないということです。


この無料スペース、
閉館日の月曜も開放してありますし、
営業時間は朝九時~夜10時まで。

仕事帰りの方でも立ち寄りやすいですね。

この長い営業時間も、
他の美術館では考えられないことです。


次にマーケティング。

蓑館長は、

「子供も楽しめる美術館」

というコンセプトを打ち立てました。

そして、子供たちを積極的に集めることにしたのです。

急がば回れということなのでしょうか、
子供のころから美術館を経験し、その楽しさを知れば、
彼らが大人になった時、自分の子供も美術館に連れてくる
という長期的な視点を蓑氏は持っています。


開業した年、蓑氏は、
金沢市の4万人の小中学生を全員「まるびぃ」に無料招待。

その際、子供たちには、

「もう一回券」(無料入場券)

を渡しました。

すると、子供たちは、「もう一回券」を手に、
親を連れて再来場してくれました。

回収された「もう一回券」は、7000枚に上ったそうです。
つまり、子供たちだけでなく、大人の来場者の促進にも
効果があったということです。


また、「まるびぃ」単体だけでなく、
周辺の街も巻き込んで、面的な集客策にも
取り組んできました。

飲食店街では、まるびぃの半券を見せると
特別サービスを提供する店舗がありますし、
蓑氏の名前を取った

「MINO丼」「MINOスパゲティ」

をメニューに載せ、
半券で100円引きにするところもあるそうです。


蓑氏のすごい点は、こうした初期の成功にあぐらをかかず、
常に斬新な人をひきつける企画を次々と打ち出すことが
必要だと考え、継続してきた点です。

また、金沢市内の全小中学生を招待すると言った時、

「事故でも起きたら誰が責任取るんですか?」

といった官僚的発言をする人にひるむことなく、

「子供たちであふれる美術館」

にしたいという強い思いを貫くため、
リスクを取って実行した蓑氏の度量の大きさ。


蓑氏のこの情熱的なリーダーシップが、
「まるびぃ」の成功をもたらした最大の要因でしょう。


以上は、下記文献、および蓑氏の講演(夕学五十講)に
基づいて書きました。


*『超・美術館革命 -金沢21世紀美術館の挑戦』
(蓑豊著、角川oneテーマ21)

投稿者 松尾 順 : 10:57 | コメント (0) | トラックバック

ドクターの代理人・・・民間医局とは?

「医師のキャリアづくり」を支援するビジネス。

この分野で成功を収めているのが、

(株)メディカルプリンシプル社(以下、MP社)
 http://www.medical-principle.co.jp/

です。


MP社は、端的に言えば、
医師の転職先やアルバイト先を紹介する事業、
すなわち、

「人材紹介業」

を行っています。

医師の紹介先は、もちろん医療機関・施設です。

ただし、この医療機関・施設には、
いわゆる一般の病院だけでなく、介護施設や製薬会社の研究職、
産業医として勤める企業なども含みます。


MP社は、他の人材紹介会社と異なり、

「医師」

だけに専門特化しているのが競争優位性の源泉です。

医師の人材紹介に固有の深い知識・ノウハウを
社内に蓄積、共有してきています。

そして、同社が展開する医師向けのサービスを
包括する名称として

「民間医局」

というブランド名称が与えられています。


さて、MP社と医師との主な接点は、次の3つです。

------------------------------------

1.「民間医局」専任エージェント

人対人のハイタッチな接点。

民間医局の登録会員1人ひとりに専任の担当者が任命され、
まるでメジャーリーガーの代理人(エージェント)のように、
医師の立場に立ち、医師のキャリアづくりのお手伝い
や転職先探し、待遇などの条件交渉を代行しています。


2.「民間医局」Webサイト

Webサイトを通じたヴァーチャルな接点。

民間医局サイトでは、転職やアルバイト先を希望する
医師などが、求人検索や各種サービスを利用できます。

なお、民間医局の登録会員には、
医師、および医学生、研修医だけがなれます。


3.ドクターズマガジン 

ブランディングのための接点です。

医療機関や民間医局の登録会員に無料で配布される
MP社独自発行の専門誌がドクターズマガジン。

同誌では、医師の方にとって有益な各種情報に加えて、
オピニオンリーダー的存在の医師の方々の「人となり」に
フォーカスした記事が掲載されており、MP社に対する
信頼感と高品質なイメージの醸成に寄与しているそうです。

--------------------------------------


ところで、そもそも医師のキャリアはどのようなものなのか、
一般の方はあまりご存じないと思います。


実は、医師のキャリアは、
各医師が在籍している大学病院の

「医局」

によってコントロールされていました。
(現在でも、この仕組みは基本的に変わっていません)

*「医局」について、
 Wikipediaでは次のように説明されています。

「大学医学部・歯学部の附属病院での診療科ごとの、
 教授を頂点とした人事組織」


これは、大企業に入社した社員のキャリアが、
人事部によってコントロールされているのと
ほぼ同じ仕組みだと言えるでしょう。


しかし、このところの医療行政の変化などにより、
大学医局のコントロール力(人事権)が弱まってきました。

このため、医師側としても、
これまでのように医局に命令されるままに異動する

「受身のキャリア」

ではなく、
自らのキャリアを自主的にデザインし、
勤務先・転職先を積極的に選択する

「自律的なキャリア」

の必要性が高まってきています。


こうした、医師の自律的なキャリアづくりのための
サービスを提供しているのが

「民間医局」

であり、「大学医局」で対応しきれなくなった部分を
補完する役割を果たしているのだそうです。


では、MP社の最大の強みはなんだと思いますか?


私の見るところ、それは、

「専任エージェントによるきめ細かいサービス」

です。


同社では、医師の

「転職先紹介」

をメインのサービスとしながらも、
医学生から研修医、そして新米医師からベテラン医師に
至るまでの

「医師の長いキャリア全般」

をカバーする様々なサービスをワンストップで
提供しています。

そして、こうした医師人生の要所要所での点的なサービスを
つなぎ、医師との長い「線的な関係性」を構築・維持するのが
生身の人間である、

「民間医局の専任エージェント」

なのだそうです。


民間医局を利用した医師によれば、
単に求人情報を送りつけてくるだけの競合他社と異なり、
まず直接面談する時間を持ち、自分のキャリアについて
じっくり話すことができる点を高く評価しているとのこと。

ここには、

効率よりも効果、
短期的な収益よりも長期的な収益最大化を狙う

という同社の基本方向がうかがえるように思います。

また、こうした教育に時間のかかる人的なサービスは、
簡単に他社が真似することができません。

つまり、民間医局の最大の競争優位性は

「現場」

にあります。


CRM(Costomer Relationship Management)の本質を
踏まえた、専任エージェントによる

「ハイタッチなサービス」

こそが、MP社を成功に導いたビジネスモデルの核に
あると感じました。


*上記内容は、同社への取材に基づいて独自に
 書き起こしたものであり、文責は当記事執筆者である
 松尾にあります。

*MP社については、INSIGHT NOWの特集、

「Secrets of First Most Only
-なぜ、あの企業は「日本初・日本一・日本唯一なのか-」

で詳細な取材記事(執筆:竹林篤美氏)が来週以降
アップされますのでお楽しみに!


*民間医局Webサイト
http://www.doctor-agent.com/da/member/top/index

投稿者 松尾 順 : 10:48 | コメント (0) | トラックバック

地域密着型SNS・・・JIMOT(ジモット)

近年開始された企業主宰のユーザーコミュニティとして
そこそこ成功していると言えるのは、

・ダイエット食品ユーザーのための
 「リエータカフェ」

・補正下着ユーザーのための
 「ワコール・スタイルサイエンス・スタスタ部」

でしょうか。


(関連記事)

*孤独感を和らげるダイエットブログ

*「愛すべきなまけものたちへ」・・・
ワコール・スタイルサイエンスのWeb-CRM


リエータカフェ、スタイルサイエンスとも女性専用。

どちらも、

「ダイエット」「痩身」

といった女性の切実な願いを支援するコミュニティです。

こうした明確な目的をユーザーが共有しているのが、
両コミュニティ成功の最大の要因でしょうね。


一方、明確な目的を共有しないコミュニティは、
自由度は高いものの、ダイエットのような強いテーマを
設定しにくく、ユーザーを引き付け続けるのが難しい。

このため、運営側は、
コミュニティの活性化に苦労してきています。


そこで、従来型のコミュニティよりも、
人と人の個人的なつながりを形成しやすく、
自分の居場所的な感覚を持てる

「SNS型」

のコミュニティを企業主宰で立ち上げるケースが
ぼちぼち出てきていますね。


たとえば、住友不動産販売では、地域密着型SNS、

「JIMOT(ジモット)」
http://www.jimot.com/

を今年(07年)1月に開設。

当初の9ヶ月で1万人の登録会員を獲得しています。
(日経ネットマーケティング、2007.11)


同SNSを主宰する住友不動産販売としては、

「チラシに代わる自社媒体を持つ」

というのがJIMOT開設の狙いです。


このため、地域限定のマーケティングを標榜。

これまでは、

東京世田谷区と神奈川湘南地区

を中心にユーザーを募集してきています。
(11月から首都圏全域に拡大中)


さて、JIMOTの最大の特徴は、
自分の地元地域を市町村より細かい

「エリア」

単位で登録できることです。
(私の場合、自宅よりも長い時間を過ごす事務所の
 所在地である「東京都文京区本郷」で登録してます)

サイトをごらんいただくとわかりますが、
実にローカルでジモティな話題やイベントが
アップされてます。

コミュニティによっては活発な議論が交わされている
ところもありますが、全体としてはまだまだこれから
ということろでしょうか。


なお、住友不動産販売では、
当初の会員獲得方法として、対象地域に限定した
チラシ配布と、ターゲティングメールを採用しました。

この結果、30-40歳代のユーザーが
全体の7割を占めるSNSとなっています。


実は、SNS最大手、
ミクシィのユーザーの年齢別構成を見ると、

30歳代は24.5%、40歳代は5.6%

しかいません。(07年3月末時点)

つまり、中高年層は、
SNSの未開拓市場と考えられるわけで、
「JIMOT」のようなローカルなSNSが
成功する余地はまだまだ残されていると言えますね。

投稿者 松尾 順 : 08:37 | コメント (0) | トラックバック

「味集中システム」とは?

博多発祥、とんこつラーメンの

「一蘭」

はご存知でしょうか?


首都圏には10店舗ほど展開してますが、
まだ知る人ぞ知るという存在でしょう。

私は、事務所に近い、
東京ドームシティ・ラクーア店にたまに行きます。


先日も午後4時ごろ、
仕事のついでに立ち寄りましたが、
店内は満席でした。

おおむねどの時間帯にいっても混んでます。


さて、わたしが「一蘭」をご紹介するのは、
店舗の構造や仕組みが極めてユニークだからです。

こだわりかたが、半端ではありません。

おそらく、創業者はよほどの変人、
いや天才かなと・・・


このユニークな仕組みは、


「味集中システム」

と命名され、特許出願済みです。
(出願番号:特願2003-289989)


席はすべてカウンターのみ。

1席づつ、両脇がパーティション(仕切り壁)で
仕切られているブーススタイルです。

また、正面は、赤いのれんで半分隠されているため、
店員の顔は見えません。彼らの前掛けのおなか部分が
かろうじて見えるだけです。


入り口の自販機で食券を買い、店内に入ったら、
席の埋まり具合を教えてくれる表示板を見ます。

「空」の表示があれば、そのブースに行き、
紙のオーダーシートにスープの味や麺の硬さを記入。
呼釦を押して店員を呼びます。

そして正面に30センチほど開いたすきまから、
顔の見えない店員に、食券とオーダーシートを渡す。

およそ1-2分でラーメンが出てくると、
前のわずかなすきまにも「すだれ」が下ろされ、
ほぼ完全に自分だけの空間になります。


おかげで、食べている間はひたすら

「味」

に集中できるというわけです。


替え玉の注文は、箸袋が追加注文シートを
兼ねているのでそれに記入して呼釦を押せばOK。

誰が追加注文したかは、ほかの客にはわかりません。

ですから、女性の方でも気兼ねなく、
何玉でもおかわりできますよ!


というわけで、確かに「味集中システム」は、
「味」に集中できるようにと、あらゆる工夫が施された

「完成されたシステム」

です。


しかし、ラーメンを食べている自分が、まるで

「食欲マシーン」

になったような気分になることがあります・・・


店頭には、混雑時でも、

「40秒にお一人の割合で、
 ご案内できるようになっています」

といった表示があります。

つまり、「客」自身もこのシステムの一部となり、
流れ作業的にラーメンが作られ、供され、食されている
というわけです。実に効率的なシステム。


また、前述したように、
ブーススタイルのカウンターしかありませんので、
家族だろうがカップルだろうが、それぞれ別のブースに
分かれて入ることになります。

したがって、
店内ではほとんど会話する気が起きません。


ちょっと味気ないですね。
家族連れやカップルは入りにくいでしょう。

そのせいでしょうか、客の多くは一人の男性客のようです。


一蘭のラーメンは、えぐみが少なく、
とんこつスープながら、とても透明感のある味です。

また、ぴりっと辛い「秘伝のたれ」が
アクセントになっていて味そのものもとてもユニーク。

事務所のそばにあれば、
私は、もっと頻繁に通うだろうなと思います。


それにしても、一蘭のラーメンをたいらげて
店を出た時の胃の満腹感と裏腹に、
心に一抹の寂しさが吹き抜けるのは私だけでしょうか。

まだ一蘭を体験されていない方は、
ぜひお試しになり、感想を聞かせてくださいね。


*一蘭Webページ

投稿者 松尾 順 : 11:12 | コメント (6) | トラックバック

「着地型旅行プラン」の充実に期待!

あなたは、旅行は好きですか?
国内旅行にはよくいきますか?


私は旅行が好きです。
とはいってもそう頻繁に行けるほど時間も金もなく、
年に4回ほど、国内旅行(1-2泊)に行く程度です。


国内旅行の行き先としては「温泉地」が多いのですが、
毎回悩むのは、温泉宿にチェックインする前の時間と、
チェックインした後の時間に何をするかです。


周辺の有名な名所・名跡(なんとかの滝、何とか寺)は、
一回行けば十分・・・

沿道に並ぶお土産屋に置いてあるものは、
どこに行っても変わり映えのしないものばかり。
ネーミングが違うだけ、というものも多い。

裏の表示を見ると、どれも

「Made in China」

だったりします。(笑)

「なんとかランド」といったあちこちにある遊園地も、
わざわざ温泉旅行先で行かなくてもいいなと思える。


結局、行きたいところがないわけです。

かといって、何時間もかけて行ったのに、
温泉だけ入って帰ってくるのはもったいない。

そこで、別に行きたくもない名所に再び行って、
まさにお茶を濁して帰ってくる。


あなたの国内旅行も、
多かれ少なかれこんな感じじゃないですか?


国内旅行の不振は、今に始まったことじゃありませんが、
リピーターがなかなか生まれないことも含めて、
国内旅行不振の最大の問題は、旅行先での滞在を楽しいもの
とするための仕掛けや、情報提供が十分になされていないこと
でしょう。


最近は、Webサイトでずいぶん豊富な情報が入手可能ですよね。
しかし、掲載されている情報は型どおりで表面的なものがほとんど。

具体性に欠け、イメージが広がりません。

どんな楽しみ方があるのかといったことまで踏み込んでいないため、
行ってみたいという気持ちがかきたてられない。


結局、旅行者の気持ちになって情報が
提供されていないんですよね。

これは旅行サービス提供者側の怠慢だと
言いたいのですが、要するに、

「ありきたりの旅行プラン」

しか提案できていないわけです。


だから、旅行する側としては、
国内旅行ってたいして楽しくないと感じてしまう。

でも実際には、現地で探してみると、
旅行者が楽しめることっていろいろとあります。


たとえば、今年になって何度か行った群馬の

「四万温泉」(しまおんせん)

の近くには、

「ふるさと公園たけやま」

という観光施設があります。


公式サイトなどでは、

「手打ちそばの体験ができる施設がある」

といった程度の情報しか見つけることができません。


しかし、実際行ってみると、この観光施設から、
標高789mの「嵩山」(たけやま)に上れる登山道が整備され、
普段着の家族連れでも、無理のない登山が楽しめることが
わかりました。

登山途中には、あらかじめ打ちつけてある「くさり」を
使わないと上れない岩場があったりして、結構スリリングです。
(注意すれば危険はありませんし、小学生以上なら十分上れます)

そして、頂上からの眺めは絶景!

ゆっくり上り、ゆっくり下りてきても、
所要時間は3時間程度と手ごろな遊びです。

森の新鮮な空気もたっぷり吸えますし。


登山の後は、ふもとにあるそば屋で
おいしい手打ちそばを堪能するのもよし。

お昼ごろに上って、
山頂でお弁当を広げるというのも気持ちよさそうです。


いかがでしょうか。

こんな情報があれば、あなたも行ってみたくなりますよね。
また、いろんな楽しみ方ができることもわかります。


こういう情報は、

「CGM」(Consumer Generated Media)

つまり消費者が書くブログやSNSに任せておけばいい
という方がいるかもしれません。


しかし、そんな待ちの姿勢ではなく、
地元の人たちが積極的に

「地元ならではの良さ、楽しみ方」

について情報発信していくことで、
国内旅行はもっと活発化するのではないでしょうか。


さて、最近、旅行会社大手は、地域密着の

「着地型」

と呼ばれる観光旅行の拡充に乗り出しているそうです。
(日経産業新聞、07/10/22)


「着地型旅行」は、
従来の出発地の旅行会社が企画する

「発地型旅行」

の対義語。旅行客を受け入れる観光地側で作った
観光プランのことです。


「着地型旅行」の観光プランに含まれるのは、
全国的に有名なものではなく、地域住民だけに親しまれている
名所や伝統料理、生活習慣などを体験させるものが多いようです。


旅行業界関係者も、国内旅行は、

「どこに行っても、見るのは寺、食べるのは刺身」

の紋切り型が多く、顧客離れを招いていることを自覚しています。

しかし、旅行会社は、有名観光地以外の地域の情報を
十分に持っていない。

一方、地元の自治体や商工会は、
旅行商品の企画・販売ノウハウを持っていない。


そこで、地元と旅行会社が連携して、
地元発の、その地域ならではの旅行商品を生み出すことに
取り組み始めたわけです。


よく、田舎に住む人が、

「ここにはなんも面白いものはないからなあ・・・」

と言いますが、地元の人には日常であっても、
外から訪れる旅行者にとっては新鮮で珍しい体験と
感じられるものが意外にたくさんあります。


国内旅行がますます楽しくなるためにも、

「着地型旅行プラン」

の充実を期待したいと思います。

投稿者 松尾 順 : 08:49 | コメント (0) | トラックバック

AMNブログマーケティングポリシー(β)について

現時点で35個のブログをネットワーク化し、バナー広告や、
ブログ・オン・ブログ広告(最新RSSフィードとロゴを掲載)
等を配信している、

「アジャイルメディア・ネットワーク」
(Agile Media Network、以下、AMN)

が先日、

ブログマーケティングポリシー(β)

を公開しています。


ブログを活用したマーケティングは、
現在最もホットなテーマでもありますので、
当ポリシーについてちょっと考えてみたいと思います。


さて、AMNは、

“ブロガーによるブロガーのためのネットワーク”

であり、

「ブロガーと読者と企業の会話を促進することで、
 三社を共感で結ぶカンバセーショナルマーケティングを推進する」

ことを目指しています。


この枠組みにおいて、企業側がエンドユーザー直接ではなく、
人気ブロガーとの会話を行う意味・価値があるのは、
ブロガーは、多数のエンドユーザー(読者)に対して、

・専門影響力(専門的な知識が源となる影響力)
・情報影響力(コンテンツ自体の質の高さが源となる影響力)

を駆使して、強力な影響を与えることができるからです。


ただし、

『影響力を解剖する(6)影響力の源-2』

で書いたように、
ブロガーが自らの利益誘導だけを目的として、
企業からお金をもらって「やらせ記事」を書いたりすると、
読者の反感を買い、影響力を失ってしまいます。

そうなると、企業としては、
ブロガーと会話する意味・価値がありません。


また、ブロガー自身も、
記事を書き続けるために最も重要な動機付けとなっていた

「読者の支持」(ブロガーに対する共感や理解、信用、愛情など)

が失われます。

読者としては、信頼していたブロガーが、
実は企業の提灯持ちだとわかってがっかりです。

もはやこのブロガーは信用できないと、離れていくでしょう。


この結果、ブロガーの「承認欲求」が
満たされなくなりますから、記事を書く意欲が
低下してしまいます。

もちろん、そもそも目的としていなかったのですが、
「金銭的報酬」も得られなくなります。


これは、企業、ブロガー、そして読者の3者にとって
不幸な結末ですよね。


ですから、ブログマーケティングにおいて
厳守しなければならない基本原則は、

「読者をあざむかない」

ということだと私は思っています。


さて、この基本原則に照らして、

「AMNブログマーケティングポリシー(β)」

を見てみます。


同ポリシーの大項目は次の3つです。

・報酬の有無を開示します。
・広告と編集は分離されています。
・率直で正直な意見を尊重しています。


これらは、「読者をあざむかない」ために
最低限必要なポリシーでしょう。

これらのうち、とりわけ重要なのは

「報酬の有無の開示」

です。

これがなければ、
読者をあざむく「やらせ記事」がどんどん生まれて
しまいますからね。


なお、この項目の詳細説明の中には、

AMNは、記事の内容を問わず、
ブロガーが記事を投稿するだけで報酬を支払う、
いわゆる「Pay Per Post(ペイパーポスト)」
にも関与しない

とも書かれています。


「ペイパーポスト」については、
広告であることが明示されていれば問題ないと
私は考えています。

ただ、ブロガーにとっては、
金銭的報酬による動機付けが強くなりすぎて、
広告ばかりの記事が続くことになる可能性が高いですね。

そうなると、やはり読者の支持が弱まり、
ブロガーの影響力が低下することになるでしょうから、

「ペイパーポスト」

を手がけないというのは賢明な判断でしょう。


そして、続く2項目、

・広告と編集は分離されています。
・率直で正直な意見を尊重しています。

は、要するに、ブロガーの記事内容について
AMNは一切影響力を行使しないということを明確にしたものです。

これによって、ブロガーの公正さ、信頼性が維持できるように
意図しているわけですね。

結果として、少なくとも企業やAMNの操作によって、
読者をあざむくような行為の発生を防止することはできます。


残るのは、ブロガー自身の倫理観ということになります。

これについては、AMNができることは限られていますけど。


ただ、同ポリシーの中に、端的に書けば、

「倫理観に欠けるブロガーは、ネットワークに加入させません」

といった項目を追加してもいいかもしれません。

投稿者 松尾 順 : 09:20 | コメント (4) | トラックバック

ターザン養成所 - ターザニア

07年7月21日にオープンしたばかりの新コンセプトのテーマパーク、

「ターザニア」(TARZANIA)


に先日行ってきました。

というわけで、今回は1ユーザーとしての体験ルポです。


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★どんなところ?
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森の木をそのまま活かした運動施設です。

簡単に説明すると、まず、はしごなどを使って、
樹上3-5メートル以上の高さに登ります。そして、
グラグラする不安定な木の板や、
1本のロープなどの上を渡って向こう側の木に移るというもの。

<こんな感じ>
tarzania_rope.JPG


もちろん、ターザンのように
ロープにぶらさがって移るコースもあります。

「ターザンスイング」

と言います。

また、木から降りるときは、
地上まで斜めに渡されたロープを使って
シュルルルーと滑り降ります。

これは、

「ジップスライド」

と呼ばれています。


こうしたさまざまなコースが2コース、全9種類あります。

・ディスカバリーコース(3種類)
・アドベンチャーコース(6種類)

*コースマップ


ディスカバリーコースは比較的やさしく、
練習のためのコースという感じ。

アドベンチャーコースは、
木に登る高さも一段と高くなり難易度も上がります。
それだけ面白くなるというわけですが。


なお、全種類クリアまでの所要時間は、
ゆっくりやっても3時間弱です。


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★で、結局どうだったの?
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なかなか楽しいですよ!

自然の森の中ですから、
空気もおいしくて気持ちがいい!

フィールドアスレチックと違って、
筋力・体力があまり必要ありませんので、
女性や子供でも無理なく遊べますね。
(はしごさえ登ることができればOKです!)

<女性(知らない人です)も、がんばってますね>
tarzania_rope2.JPG


樹上の高いところから見下ろす風景は新鮮。
祖先(サル)の血が騒ぎました。(笑)

地上は暑くても、
樹上には涼しい風が吹いているんですね。

まあ、さすがにちょっと怖いといえば怖いのですが、
安全器具で「命綱」(セーフティライン)に常に
つないでいる状態ですので転落する心配はありません。


利用料金は大人3,500円、18歳未満は2,000-2,500円。

3時間ゆっくり遊んでの値段としてはまあ納得です。

「リピート割引」とかあるといいんですけどね。


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★誰に勧める?
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小学生高学年以上なら男女問わず。
お年寄りでも大丈夫ですね。

小学生高学年以上というのは、
身長制限があるからです。

身長110cm以下だと

ディスカバリーコース(3種類)

しかできないので、ものたりないでしょう。


ターザニアは、

「家族連れ」

がメインターゲットだと思いますが、私は、

「カップル」(恋愛初期)

に、特にお勧めします。


フィールドアスレチックや各種スポーツは、
お互い、体力・筋力、そしてある程度のスキルが
ないと一緒に楽しめないですよね。

でも、ターザニアだったら、
誰でも簡単にできますし、それほど力もいらない。

全コースクリアしても、それほどヘトヘトに
なるわけでもない。

一方で、高いところでドキドキする時間を共有できる。
2人の仲が急接近するに違いありません!

心理学の実験で

「吊り橋効果」

というのがありますが、アレです。(笑)

<愚息が短い吊り橋の上でわざと足を踏み外しているところ>
tarzania_ashihazushi2.JPG


「吊り橋効果」というのは、
ドキドキするのは高いところにいるからなのに、
それを相手に対する(好きだという)気持ちから
来ると勘違いしてしまうことです。

まあ、倦怠期のカップルにも多少の効果があるかも!


あ、もちろん

「高所恐怖症」

の方は無理ですね。


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★どこにあるの?
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千葉県房総半島のちょうど真ん中あたり。

「生命の森リゾート」

内にあります。

東京からは車で1時間程度です。

我が家は、千葉・松戸の自宅から車で行きましたが、
やはり1時間程度かかりました。

写真付の詳しいアクセスマップがあって助かりました。

電車だと、東京駅からJR外房線の誉田駅まで
やはり1時間程度。そこから無料送迎バスで20分。


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★着いたらまずどうするの?
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生命の森リゾートにある

「日本エアロビクスセンター」

のフロントで受付をします。

受付では代金の支払いを行い、また、

「確認書」

にサインをします。

確認書は、要するに、

ターザニア内での事故などは自己責任だということ

を確認(承認)するものです。

なお、混んでいると待たなければならないので、
開始時間を事前に予約しておいたほうがいいようです。


ところで、「日本エアロビクスセンター」は、
テニス、エアロビクスなど各種スポーツが
楽しめる運動&宿泊施設です。


<フィールドあたりから眺めた風景>
tarzania_resort.JPG


目の前にトラック&フィールドがありました。

プロスポーツ選手や、
オリンピック選手などの合宿先としても
利用されているようですね。

ロビーには、巨人時代の松井、清原や、
水泳の北島康介選手など、様々な分野のアスリートの
サイン色紙が飾られてました。


さて、フロントでの受付を済ませたら、
5分ほど歩いてターザニアの門を抜け、

「ターザニア・シャレー」

に行きます。


<ターザニアの門>
tarzania_entrance.JPG


ターザニア・シャレーはバンガロー風の施設です。

<ターザニアシャレーの入り口あたり>
tarzania_chalet.JPG


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★ターザニアでまずやることは?
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ターザニア・シャレーでは、
担当のインストラクターと会い、
安全器具(「ハーネス」)をつけてもらいます。

<シャレーにあった今日のインストラクターたちの紹介>
tarzania_instructor.JPG


そして、インストラクターから

「安全講習」

を受けます。

ハーネスの腰あたりについている金属のワッカや、
プーリー(滑車)を使って、常に木や木の間に
渡してある命綱(「セーフティライン」)に
自分の体がつながっている状態で移動するやり方を
教わります。


<お腹についているワッカ(上から見下ろしたところ)>
tarzania_anzen.JPG


当日の私たちのインストラクターは

サブさん

でした。この人は、すごいロン毛です。

腰まで届く髪をなびかせて滑り降りる姿は、
まさに本物のターザンのようでした!


<安全器具の使い方を説明するサブさん>
(ロン毛は普段は帽子で隠されている)
tarzania_sabu1.JPG

tarzania_sabu2.JPG


さて、10分ほどの安全講習を受けたら、
インストラクターから離れて、早速

「ディスカバリーコース」

から挑戦開始です。

ずっとインストラクターが付き添ってくれるかと
思ったらそうじゃなかったので、ちょっと不安を
感じました。

でも、実際やってみたら、
自分たちだけで大丈夫でしたね。


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★本当に安全?
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インストラクターの教えを忠実に
守ればよっぽどのことがない限り大丈夫でしょう。

手順を間違えて、命綱につながっていない状態に
してしまうと事故につながりますから、
あまり甘くみないようにしたほうがいいですが。

<木の赤いロープに安全器具をつなげます>
tarzania_anzen2.JPG


<木と木の間を移動する時は、頭上にある命綱(セーフティライン)に
プーリーを取り付けることで安全に移動>
tarzania_anzen3.JPG


また、特に危険と思われる箇所には
安全ネットも下に張ってあります。

<安全ネット>
tarzania_tree.JPG


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★面白いのは?
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やはり、

「ジップスライド」

ですね。

樹上から地面まで、
プーリー(滑車)を使ってかなりのスピードで
滑り降ります。

「一人ロープウェイ」

という感じでしょうか。

ジップスライドは、全コース9種類のすべてに
ついていますが、最長のものは90メートルもあります。


なお、滑り降りている間に後ろ向きになってしまい、
地上にクッションとして置いてある柔らかい木片に
背中から激突することがあります。

<ジップスライドで滑り降りる私。後ろ向きにならないように必死で耐えている>
tarzania_zipslide.JPG

でも大丈夫、痛くはありません。
首は起こしてないとちょっと痛いかな。(笑)


あと、やはり

「ターザンスウィング」


ターザンになりたければ、
ロープ1本で木を渡れなければね・・・

ということでバンジージャンプに似て、
結構勇気が入りますよ。

「怖(こわ)楽しい」

というところでしょう。
(どうしてもできないという人には迂回路あり)

*ターザンスイングがどんなものかは、
 写真で伝えるのは難しい・・・ぜひ実体験してみて!


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★また行きたい?
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まあ、頻繁に行きたいというほどではないですが、
1-2年に1回くらいは行きたくなりそう。

まだオープンしたばかりなので
リピート施策は何も考えていないようですが、
前述したように、リピート割引とかあるといいですね。


また、

木に登って別の木に移る

という動きは比較的単調なので、
もっと別の

「遊び的要素」

が加わるといいなあと思いました。


かといって、どれだけ短時間で全コース回れるか
といったコンテストは、危険が増しそうですけどね。


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★こうしたテーマパークの起源は?
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97年にフランス・アヌシー郊外で誕生した

「La foret de L'avanture」(冒険の森)

が第1号だそうです。
(日経MJ、2007/08/31)

日本では、ターザニア以外にも、

・フォレストアドベンチャー・フジ(山梨県)

があります。


以上、

「ターザン養成所」(私が勝手につけたキャッチ)

の体験ルポでした。

投稿者 松尾 順 : 15:12 | コメント (0) | トラックバック

検索社会で漂流する個人

PCの前に座れば、クリックひとつで、
さまざまな分野の膨大な情報が手に入るインターネット時代。

個人はネットを通じて情報を入手・活用することで、
企業と対等か、時に上回るパワーを持つようになっていますね。


しかし、私たちは、この拡大しつづける情報の海の中で、
本当にうまく泳げているのでしょうか。

ひょっとして、

「ただ流されているだけかも・・・」

という感覚がありませんか。


編集工学研究所所長、松岡正剛氏は、

“世界的な事情として「検索社会」というものが、
 非常に強く個人に食い込んでいるのではないかと思います。
 世界中を、グーグルやアマゾン検索というシステムが
 覆っているわけです。”

と言い、検索社会では、

“一人ひとりが情報と深く関わらなくなっている”

ということを指摘しています。
(人間会議、夏号 2007)


松岡氏は、ネットを通じて情報を入手する手続きを

「親指一発ケータイ主義」

と呼んでいますが、情報の入手は実に簡単になったけれど、
検索社会には「落とし穴」があることを見抜いています。


“親指ひとつで、どんどん情報を出しているようでいて、
 実はそのたびに、前の情報を消し去っているんです。

 だから、自分は実にたくさんの情報に対応していると
 いう錯覚はつくり出せるのだけれど、対応しているのは、
 一回ずつ、他とまったく無縁のものであって、情報の
 「かけら」しか見ていないのです。”


このため、前述したように

「一人ひとりが情報と深く関わらなくなっている」

という結果をもたらしているというわけです。


問題は、個人や基地や港や船などの「エンジン力」をつけないと
膨大な情報のなかは泳いでいけないはずのネット時代において、
そうした力をそぎ落とすことになっている点です。

これは、情報の良し悪しを判断する拠り所や基本的な価値観、
「自分は何者か」といったアイデンティティを
はっきりさせないまま、入手しやすい限られた情報を
盲目的に受け入れてしまっているという意味だと
私は解釈しています。


“情報が膨大だといっても実際は、ページランクの上位100
 とかしかみていないわけですから、アクセス数やランキングに
 よって、個人は泳がされているに過ぎない。”

という松岡氏の指摘には激しく同意します。


そして、アメリカを中心とする一極的な政治経済体制に
呑み込まれている現代日本と、上記の「検索社会」が
組み合わさることによって、

“スタート時点から、個人は孤立したまま、
 「深さ」を持ちえずに漂流せざるを得ない”

という状況が生まれていると松岡氏は考えています。


さて、この「個人が漂流する」ということについては
2つの側面があると松岡氏は言っています。

ひとつは、個人が孤立していて、
コミュニティの中心が欠如しているということ。

もうひとつは、個人単位で見たときに、
自己が自己のセンタリングが効かなくなっているということ。
(=志向の能力低下がどんどん起きているという意味)


検索社会は、上記のような

「漂流する個人」

を多数生み出す結果をもたらしているのは確かでしょう。


これは、別の見方をすれば、
流通させる情報をうまく操作することで、
他の人々を動かすことがますます簡単になっていることも
意味しているんじゃないでしょうか?

「口コミ」の影響力が、ネット社会、検索社会において
飛躍的に高まっていることは、そのひとつの表れだと思います。

投稿者 松尾 順 : 07:17 | コメント (4) | トラックバック

マーケティングとは何か?

“マーケティングとは、ひとことで言えば何ですか?”

先日、ミクシィのマーケティング・コミュニティで、
こんなトピックが立てられていました・・・


ああ!なんと素朴な質問であることでしょう!
(質問をした人をバカにしてるんじゃないですよ)

これまでも、このような「そもそも論的質問」は、
あちこちで、何度となく繰り返されてきたんでしょうね。


確かに、ナイーヴ(素朴)な問いではありますが、
たまにこうした「原点」に戻ることは決して
無意味じゃありません。


ただし、そもそも

「マーケティングとは何か」

なんて一言で言えるはずはありませんよね。
人それぞれ、様々な見方・考え方があります。


ですから、こうした

「原点に立ち返る問い」

をする場合には、ひとつの答えを求めようとするのではなく、
むしろ、多様な答えが帰ってくることを期待する。

そして「マーケティング」に対する、
多面的、立体的な理解を深めることを狙いとすべきでしょう。


さて、先ほどのミクシィのトピでは様々な回答が投稿されてます。
(勝手ながら、一部加筆修正しつつ引用させていただきます)

マーケティングとは、

・売れる仕組みづくりである
・市場に対する働きかけである
・市場とのコミュニケーション活動である
・製品やサービスを消費してもらうための技術である
・お客さまの笑顔をつくる全ての手段
・見込客の創造である(これは私のCRM的定義です)

などなど・・・

いろいろ挙げられてましたが、どれも正解ですよね。

こうしてさまざな視点でマーケティングを
切ってみる(定義する)ことで理解は確実に深まります。


ちなみに、私が最近好んで使うマーケティングの定義は、

------------------------------------

顧客(見込客含む)を獲得するための、

・仕組み
・仕掛け
・仕切り

づくりである

------------------------------------

というものです。


仕組みとは、「構造」、仕掛けとは「機能」、そして
仕切りとは「マネジメント」(管理)のことです。

マーケティング戦略、マーケティング施策を考える際には、
この定義における

・仕組み(構造)
・仕掛け(機能)
・仕切り(管理)

という3つの切り口が参考になるんじゃないでしょうか?


ところが最近、
さらに現場に即した見方(定義)に遭遇しました。

それは次のようなものです。

“マーケティングという行動を突き詰めて言うならば、
 より上手にモノを売っていくために「客の立場に立って
 知恵を使い続けること」と捉えることができる”

*出所:『売れないのは誰のせい?』―最新マーケティング入門
    (山本直人著、新潮新書)

この文中、

「客の立場に立って知恵を使い続けること」

という平易な表現を読んだ瞬間に、感じることがありませんか?


「マーケティング」

と言ってしまうと、なんだか、
しっかりした企業組織やマーケティング部門ためだけの言葉
のように響きます。


しかし、その本質は、
下町の八百屋、魚屋のオヤジさん、オカミさんも含めた全ての
商売人、全ての組織が日々行っている活動そのものであること。

そして、客の立場に立ち、
客の気持ちが理解できなくてはならないこと。
(顧客が欲しいと思うからこそ商品は売れる)

なにより、とことん考えて知恵を搾り出すことを継続すること。
(永久に有効であり続ける「売れる仕組み」は存在しないから)

という、マーケティングにおける

「理想とすべき基本姿勢」

が伝わるなあと私は感じたのです。

“マーケティングという行動を突き詰めて言うならば、
 より上手にモノを売っていくために「客の立場に立って
 知恵を使い続けること」と捉えることができる”


「知恵」使い続けてますか?

投稿者 松尾 順 : 05:44 | コメント (0) | トラックバック

誰が新聞を滅ぼすのか

ネットに読者や広告を奪われ、
最も大きな打撃を受けているのが新聞・雑誌業界でしょう。


かといって、自らネットに力を入れれば、
自社の紙媒体からの収益の落ち込みを加速させる可能性もあり、
なかなか思い切った意思決定ができない。

いわゆる

「イノベーションのジレンマ」

に直面してますよね。


さて、日経ビジネス最新号(2007年7月16日号)の第2特集は、

「誰が新聞を滅ぼすのか」

というタイトルで主に米国新聞業界の動向を伝えていました。


この特集のなかで、面白いと思ったのは、
有料モデルを採用する米経済新聞、

「WSJ(Wall Street Journal)」

と、無料モデルを採用する米経済雑誌、

「フォーブス」

の対比でした。


WSJは当初から電子版は有料を貫いていてきました。

現在の電子版の購読料は、年額79ドル。
紙の購読者は、これが同20ドルになります。

契約者数は、前年比20%の93万人と、
紙の購読者の約半数に達しているそうです。


この結果、WSJの電子版の収入構成は、
広告と購読料が50%ずつとなっており、
ほぼ広告収入だけに頼る他紙と比較すると、
収益基盤は手堅いものがあります。


WSJサイトの月間訪問者数は370万人。
新聞社サイトトップの人気を誇る

「ニューヨークタイムズ」

の同1000万人超の約3分の1しかありません。


WSJは、当初「オンライン戦略に出遅れた」と
言われていたそうです。

しかし、このところ電子版、紙版ともバランスよく
読者数を増やしてきていることから、
そのビジネスモデルが見直されているとのこと。


WSJは、今年1月に紙面改革を行いました。

最新のニュース報道は電子版に任せ、
紙の方では、ニュースの分析や解説が8割を
占めるようになっています。

つまり、電子版と紙版の役割分担を
はっきりさせたわけです。これが両方の読者数を
増加させることに寄与したと考えられています。


一方のフォーブス。

フォーブス電子版の特徴は、
雑誌の支援媒体ではなく、
独立した媒体として位置づけてきた点です。


フォーブスは、記事全文を無料公開していますが、
公開のタイミングは木曜日の午後6時です。

雑誌が届くのは、金曜か土曜なので、
電子版の方が早く読めることになります。

でも、雑誌の部数減には、
今のところつながっていません。


スティーブ・フォーブス社長兼CEOは、

“紙とオンラインは共食いしない。
 広告主はあらゆるプラットフォームの広告を
 要求するようになった。これからは、
 紙に固執するほど、紙が痛手を受ける時代になる”

と述べています。

彼は、

「イノベーションのジレンマ」

を乗り越える決意を固めているようですね。


なお、北米を中心に雑誌の発行部数を
伸ばしている英エコノミストのWebサイトの発行人、
ベン・エドワーズ氏は、
同特集の中で、次のような重要なコメントを残しています。

“本来、雑誌とウェブは使い方が異なる。
 当社のサイトに読者が滞在する時間は、平均6分。
 これは、仕事上、必要な情報を探し出すために
 使っていることを意味する”

“これに対して、雑誌は週末や電車の中で
 ゆっくりと読むもの。もし雑誌の部数が落ちているなら、
 それはウェブのせいではなく、雑誌自身の中身の問題だろう”


私自身、10誌以上の雑誌をいまだに購読し、
並行して、各種ニュース系Webサイト、ポータル、ブログ、
メルマガを読んでいますが、
まさに、オンラインとオフラインでは使い方が異なります。


そして、コンテンツが面白かったり、役に立つものであれば
有料でも読みますし、そうでなければ無料でも読みません。
時間もコストですから。

それだけです。


新聞、雑誌の関係者の方々は、
自社媒体が売れない格好の理由として「ネット」を
槍玉に挙げるべきではないんでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 08:41 | コメント (4) | トラックバック

ホステス派遣

クラブ活動やってますか?

大人のクラブ活動です。
活動拠点は銀座。人によっては六本木ですが。

私は予算の制約のため、ほとんどやってないんですけど。


さて、昨日の夕方、行きつけのラーメン屋で担担麺を
食べていたら、たまたま流れていたテレビ番組で、

「銀座のクラブにホステスさんを派遣するビジネス」

が紹介されてました。


なかなか面白いと思ったので、メモ代わりに書いておきます。

まず、あまりよくこの世界を知らない人のために
簡単に説明しておきますが、銀座や六本木のクラブとは、
おおむね一組のお客さんに2-3人のホステスさんが付き、
スナックとお酒で他愛のない会話をする

「男性のための癒しのスペース」

を提供するところです。

お代は、2-8万円UP程度。
ランクによって料金に大きな差があります。

基本的に、「接待」という名目で、
会社に請求書を回すことが多いようです。


お客さんは、
お気に入りのホステスさんと一緒に店に入ったり(同伴)、
席についてから、指名することもできます。

この場合、ホステスさんには、
通常のお給料に加えて、別途報酬が支払われます。


実は、この業界もやはり万年人手不足。

繁閑の差も激しいでしょうし、
常勤のホステスさんだけでは店が回りません。

必要な時だけホステスを呼べるのは
ありがたいわけです。


一方、働く側としても短時間で高収入が得られますし、
夜間のお仕事ですから、昼間とのダブルワークが可能。

テレビで紹介されていた派遣会社には、
500人ほどが登録しているとのこと。

時給は3千円でした。
夜8時から11時まで3時間働けば、9千円になりますね。


さて、どのくらい前から「ホステス派遣」という形態が
あったのか不明ですが、従来の正規ホステス、あるいは
アルバイトの斡旋(この場合、お店が雇用者になります)
と違って、

「派遣」

には、働く側に次のようなメリットがあります。

・残業がない(終電に間に合うように上がれます)
・ノルマ(同伴件数など)がない
・お客さんと距離を置かなければならない
 (名刺を作成しない、出勤日を教えない)


つまり、しつこい客に追いかけられたり、どろどろした
色恋沙汰になることがありませんので、あと腐れなく
気楽に働ける労働形態ということです。


番組では、何人かの派遣の女性が登場していました。

昼間は大手企業の社長秘書をやっているが、
お小遣い稼ぎのために夜も働いている人。

海外留学の資金を貯めるために働いている人。

心理カウンセラー(臨床心理士でしょう)を目指して
大学院に通っていて、お客さんとの会話を通じて、
カウンセリングの技術を磨いている人

など、様々な目的で働いているんですね。


ともあれ、クラブの世界も

「非正規化」

が進んでいるということに驚きました。


なお、夜の世界に詳しい方、
補足情報や「そこ間違ってるよ」という点がありましたら、
ぜひご連絡お願いします。


しかし、マーケターなら、
こうして2次情報に頼っているだけでなく、
「現場」にも行って1次情報を収集すべきですよね。

投稿者 松尾 順 : 08:20 | コメント (6) | トラックバック

富裕層マーケティングの極意

日経MJ(2007/07/02)のMJ論壇に、

『富裕層マーケティングの極意』

と題して、
アメックス(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル)
日本支社支社長、山中秀樹氏の寄稿が掲載されていました。


なかなか興味深いことが述べられていたので、
要点をご紹介したいと思います。


・現在の富裕層は、カネさえあれば、キンキラでもいいという
 かっての「成金」から、「オシャレで賢く、合理的な」
 スタイルへと洗練されてきている。

・富裕層をさらに細分化するとブランド志向の高い人と
 低い人がいる。

・富裕層を取り込む3原則は次の通り。

 1 emotional Affinity (感情への訴えかけ)
   →ブランド志向の高い層に「持つメリット」(利点)を
    訴求する
 
 2 rational value (理にかなった価値)
   →ポイントを航空各社のマイレージに交換可能など
    現実的な特典

 3 customer experience (感動体験)
   →会員に提供するきめ細かく、親身で質の良いサービス

・アメックスの会員が、カードの盗難や紛失など困った時に
 コールセンターへかけてくる電話に対する我々の第一声は
 「ご安心ください」。即座にカードを再発行でき、会員も実際に
 安心する


なるほど。

金持ちは、誰もがブランド志向といった思い込み(固定観念)
は避けるべきなんですね。

いわゆる、「新富裕層」と呼ばれる人たちの
「心理と行動」については、正確な把握が必要なようです。


さて、山中氏は、

“安心感を抱かせるためには歴史も大切だ”

と強調しています。

“アメックスには、150年以上積み上げてきた世界で
 通用する安全と安心の顧客サービスの歴史がある”

とのこと。

確かに、ブランドは一夜にしてなりません。
長い時間をかけて培っていくものです。


そして、山中氏は、トヨタ自動車のレクサスが、
当初目標よりうまくいっていないということの理由について、
次のような見方を示しています。


“レクサス車は高い価格に見合う高い性能があるが、
 まず歴史がない。顧客は後ろにトヨタ自動車のエンブレムを
 透かしてみてしまう”

“加えてレクサス車を選ぶ顧客は高級ブランドにさほど執着せず、
 むしろ実利を求める層だろう。”


“ところが、レクサスの広告手法をみると、
 「感情への訴えかけ」が前面に出ており高級ブランドの
 イメージで売ろうとしている。”

“レクサスの場合は、「特徴」を訴求すれば、
 その性能・機能の高さで実利を求める顧客を取り込めるはずだ”


マーケティング・コンサルタント、森行生氏の

「プロダクトコーン理論」

によれば、新製品(新ブランド)の
訴求は、まず「規格」から始めるのが基本です。


*プロダクトコーン理論については下記記事を参照ください。

「シンプルマーケティング(8)プロダクトコーン理論」

「シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論 訴求の順番」


規格とは、すなわち性能、機能面の特徴のこと。

プロダクトコーン理論では、
まず「規格」を訴求したら、次に「ベネフィット」を訴求、
最後に「エッセンス」(=ブランドイメージ)へと
訴求ポイントを移すのが定石です。


レクサスの場合、最初から

「エッセンス」

を訴求しているため、「伝わるコミュニケーション」
としては、難易度が高かったのは確かですね。

投稿者 松尾 順 : 07:22 | コメント (0) | トラックバック

ボールパークのセンターピン

「ボールパーク」とは野球場のことです。

今日は、メジャーリークの事例をご紹介するので、
あえて英語で表現してみました。


さてさて、

ボールパークのセンターピン(成功のカギ)

は、なんだと思いますか?


実は以前にも書いたんですが、その答えは、

「混んでいること」

です。

参考>人の集まるところに人は集まる


大観衆で埋まった野球場の熱気、地面が揺らぐような大歓声は、
野球を観戦する楽しさを倍増させてくれます。

逆に、閑散とした客席に座って、
応援もまばらな中でみるゲームほどわびしいものはありませんよね。


福岡生まれの私は、小さいころ、年に1度は今は取り壊された
平和台球場に野球観戦に行ってました。

その頃の地元球団はライオンズです。

しかし、ライオンズの黄金時代ははるか昔のこと。
当時は、毎年最下位争いをするチームに成り下がってました。

さすがに、地元でも人気は低迷。
球場は閑散としていて、どうも盛り上がらない。
しかも、たいてい負けてしまう。

7回が終わった頃には、

今日も負けているし、混む前にそろそろ帰るか・・・

などと、見切りをつけて帰るのは本当にわびしいものでした。

そんな状況の中、ライオンズのエース、
東尾投手が孤軍奮闘していた姿を思い起こすと
泣けてきます・・・


おっと、感傷に浸っている場合じゃないですね。
本題に戻しましょう。


「混んでいること」

がセンターピンとなるのは、サッカーやディスコも同じです。

上記の過去記事で書いたように、
「ジュリアナ東京」がブレークしたのも、
「アルビレックス新潟」がJリーグ最大の観客動員数を
誇るようになったのも、当初、タダ券を大量にばらまいて、
とにかく人を集めて、「混んでいる感」を演出したからです。


つまり、こうした娯楽施設においては、
たくさんの人が来場していることが、大衆にとっては
人気度を判断する尺度であり、また、活気を生み出し、
興奮や感動を高めてくれる要素になるのです。

また、実際に人気が高まってくれば、
今度は、チケットなかなか手に入らなくなりますから、
価値が高まり顧客単価も上昇しますよね。
(いわゆる「プラチナチケット化」)


さて、野球場に例を絞りますが、
「混んでいる」状態に見せるための打ち手は、
次の2つ(の組み合わせ)になりますよね。

・人を大量に集める
・野球場のサイズ(座席数=収容人数)を小さくする


ただ、野球場のサイズを小さくするというのは、
従来のビジネスの発想からはバカげたことに感じます。

なぜなら、野球場からの売上は、

顧客単価x座席数(=来場者数)

で決定されるからです。

すなわち、座席数を減らすということは、
自ら売上機会を減少させていることになります。


しかし、「混んでいること」
というセンターピンに照らし合わせると、
むやみに野球場のサイズを大きくしてしまうと
逆効果になることがわかります。

というのも、そこそこ人が入っていたとしても、
施設が大きすぎるために、相対的にスカスカに見えてしまい、
「混んでいる」ように見えないからです。

つまり、収容人数だけではなく、座席の稼働率、
端的に言えば「埋まり具合」も考慮しなければならないわけです。


このことに気づいたのがメジャーリーグの各球団でした。
(日経ビジネス、2007年6月25日)

たとえば、ニューヨーク・ヤンキースが建設中の新球場の
客席数は現在の1割減の5万1千人。今でもチケット入手が
困難な人気チームにも関わらずです。

同様に、ニューヨーク・メッツの新球場「シティーフィールド」
の客席数は、なんと2割減の4万5千人。

ボールパークは狭くしたほうが、稼動率が高まり、
結果的に総売上が高くなるというロジックですね。


実は、このロジックは、地方球団のサクセスストーリーに
よって証明されたことでした。


クリーブランド・インディアンズの本拠地、
クリーブランド市営球場は観客席7万4400の巨大施設でした。

アメリカンフットボールのクリーブランド・ブラウンズとの
共用施設として建設されたこの施設は、野球場としては
あまりに大きすぎたようです。

観客と選手との距離が遠く臨場感が味わいにくい。
また、ホームランが出にくいために、ゲームの面白さも
足りなかったようです。

しかも、チーム力も低迷していたこともあって、
1試合あたりの平均観客数は、1万人ちょっと。

テレビに映るガラガラの客席は、地元の人に

「いつでも入場できる」

という意識を植え付けて、さらに足を遠ざけることに
なっていました。
(また、あんなガラガラの球場で試合を見てもぜんぜん楽しくない
 という気持ちも当然湧いたでしょうね)


しかし、94年に建設した野球専用の「ジェイコブス・フィールド」
では、客席数を4万3千人に絞りました。

また、ファウルグランドも狭めて、迫力あるプレー観戦も
実現しました。


そして、客席を埋め尽くしたファンの声援に押されて、
同チームの選手も大活躍します。

有名選手を獲得できるだけの資金がない分、
有望な若手を育成する方針もちょうど功を奏し始めてました。

結局、94年には1ゲーム差の2位という成績を収めます。
翌年も満員のゲームが続き、とうとうアメリカンリーグを制覇。


ちなみに、同チームの1試合あたり平均チケット収入(ドル)は、
93年のクリーブランド市営球場時代は約25万ドル。

ところが、94年、ジェイコブスフィールドに移った年は、
約57万ドルに達しています。


座席を約半分に絞って、売上は倍増したのです。

投稿者 松尾 順 : 11:03 | コメント (4) | トラックバック

温浴施設のセンターピン

先日起きた、渋谷の女性専用高級スパ「シエスパ」の爆発事故に
よって、温浴施設には、一歩間違うと人命に関わる危険性がある
ことがわかって驚きました。

どうやら、上記施設には、運営上最も重視すべき

「安全性」

に対する意識が弱かったようですね。


さて、近年、全国的に温浴施設を集客の切り札として
建設するところが増えています。

また、手ごろな値段で様々なタイプのお風呂が楽しめる
「スーパー銭湯」もあちこちに増殖中です。


こうした温浴施設、特にスーパー銭湯の

「センターピン」

は何だと思いますか?


なお、「センターピン」とは、ボーリングのピンのことです。
センターピンにボールが当たると全部のピンが倒れて
「ストライク」が取れることから、

「成功のカギ」

という意味で使います。

このセンターピンという言い回しは、
現在マスコミに叩かれて憔悴気味のグッドウィルグループ代表、
折口雅博氏の言葉です。

折口氏は、拡大欲にとち狂い、事業の「社会性」を
見失ってしまいましたが、ビジネスセンスは
すばらしいものがありました。


本題に戻しましょう。

冒頭に述べたように「安全性」は、あって当たり前。
「センターピン」ではありません。

「センターピン」とは、
繰り返し利用したくなるような独自の強みのことです。


温浴施設のセンターピンは、私の考え(仮説)では、

「休憩スペースの広さ」

が第一だと思います。


休憩スペースが食事処を兼ねているところもありますが、
飲食する・しないに関わらず、湯上りにゆっくりできる
十分なスペースがあることって、重要だと思いませんか?


私も、新しくオープンした自宅周辺のスーパー銭湯には
よく行ってみるのですが、「休憩スペース」が十分に
広いところは意外に少ないです。

そのため、ゆっくりすることができず、
そそくさと帰途につかなければなりません。


今の私たちは、昔の銭湯の時代のように
内湯がないから行くわけではないですよね。

温浴施設の広い湯船に浸かって開放感を味わい、
体だけでなく、心もさっぱりしたいから、
わざわざ外湯に行く。

なのに、湯船ばかりやたら豪華で、
入浴後のスペースを軽視しているところが、
結構多いと思います。


昨年、房総旅行の帰りに、
養老渓谷の新しい温浴施設に立ち寄ったことがあります。

総ヒノキ造りの豪華な上屋。
お風呂の種類はあまり多くありませんでしたが、
天井が高く、広々としていて気持ちが良い。


しかし、食事処はあっても休憩スペースがありません。
正確には、2階に有料の個室がいくつかありましたが、
かなり高めの値段でした。

ゆっくりしたかったら、食事を頼むしかないわけです。


その時は、夕食を取ることにしたので問題はありませんでした。
でも、そうでなければさっさと帰らざるを得ません。

私は、「なんだかなあ・・・」とつぶやきながら、
ここには2度と来ることはないだろうと感じてました。


実はこの温浴施設は、地元の大手温泉宿が建設したものでした。

旅館の場合、宿泊客には部屋があるので、
館内の浴場に休憩スペースを設けてないことが多いですよね。

この発想をそのまま新しい温浴施設の設計に持ち込んで
しまったんじゃないかと思います。

温浴施設の「センターピン」が何かをわかっていなかった
ということでしょう。(私の仮説に基づけばですが)


余談ながら、この施設、「総ヒノキ造り」にこだわり、
長持ちさせるために、建物の空気の通りが良い設計に
なっていました。

このため、入浴されるお客さまには、
多少寒い思いをさせることになります。
この点ご理解お願いします。

などと書いてある。


ところが、洗い場のオケを見ると、
ヒノキに見せかけたプラスチック製です。

「ヒノキにこだわるなら、細部にこだわれよ」

と突っ込みを入れてました。


さて、この温浴施設、
莫大な資金をつぎこんだことは明らかでしたが、
まだ存在しているのかどうか・・・

投稿者 松尾 順 : 12:20 | コメント (0) | トラックバック

ナポリピッツァが食べたい:パルテノペ

昨日のお昼は、ランチョン・ミーティング。

ランチの場所は、女性に人気のナポリピッツァの店、

パルテノペ(恵比寿店)

にしてみました。


パルテノペは、広尾が1号店です。恵比寿は2号店。

広尾、恵比寿以外には、品川、横浜にもありますが、
実は、同店は、日清製粉(株)が始めたレストランです。


「日清製粉って、カップヌードルの会社?」

じゃないですよ。それは日清食品。
(実際、よく間違えられるそうですが・・・)


日清製粉は、小麦粉メーカーですね。
販売先は、パン屋さんなど消費財メーカーがメイン。

すなわち、同社は、消費財メーカー向けに、
「小麦粉」という原材料を製造・販売する生産財
メーカーであり、典型的なB2Bビジネスを展開
している地味で堅実な会社です。


さて、生産財メーカーの同社が、
なぜナポリピッツァのレストランを始めたのか。

もちろん、それは、小麦粉需要を拡大するため。
小麦粉の実際の用途のひとつである
ナポリピッツァの市場を自ら創造することが狙いでした。


パルテノペ広尾店がオープンしたのは2000年です。

当時の日本のピッツァ市場は1964億円で、
1996年の2100億円をピークに微減傾向となっていました。

つまり、頭打ち状態になっていたんですね。

また、ナポリピッツァの店は
まだほとんど存在していませんでした。


しかし、その後のナポリピッツァブームにより、
2006年の市場規模は2400億円と、再び急拡大しています。

ナポリピッツァの店もずいぶん増えました。


こうして、ナポリピッツァブームを仕掛けることに、
狙い通り見事成功したのが

「パルテノペ」

でした。


日清製粉としては、まず広尾、恵比寿といった、
外国人が多く住む洗練されたイメージのある街への出店を
行うことで、ナポリピッツァの

「ブランド化」

を図ることにしたそうです。


両店では、ピッツァ窯をイタリアから直輸入、
薪で焼く本格的な石窯を導入しました。

また、ピッツァ生地も、粉から練り上げる「スクラッチ」
という製法を採用し、本場の味を実現したおかげで、
たちまち外国人や食通の人気を集め、メディアからの取材も
殺到するようになりました。

ぴあランキンググルメ(2002)では、
パスタ・ピッツァ部門、イタリア部門の両部門でランキング
1位を獲得しています。


こうして、ナポリピッツァへの注目が高まる中、
最近急速に成長している

「ピッツァ・サルバトーレクオモ」

なども続いて、市場が急拡大してきたわけです。


なお、日清製粉では、昨年(2006年)、
イタリア・ナポリで、ナポリピッツァの伝統的製法を守っている
「真のナポリピッツァ協会」の日本支部の立ち上げを主導。

「ナポリピッツァ」のブランドを維持・向上させるための
ネットワーク化を進めています。


ところで、ナポリピゥツァの魅力は、

「表面はカリッと香ばしく、中はふんわりモチモチの食感」

ですね。まさに日本人好みの味だと思います。


試したことのない方はぜひ!
(別にパルテノペの回し者じゃありませんよ)

投稿者 松尾 順 : 07:06 | コメント (4) | トラックバック

ナチュラルローソンの探索型マーケティング

コンビニ業界は、もはや成長産業ではありません。

有望立地には、競合店舗がひしめき、
一部の商品では価格競争さえ始まっています。


要するに、コンビニ店は量的には飽和状態。
今後も、売上を維持・拡大するためには

「質的な転換」

を図る時期が来ていると言えますよね。


とはいえ、

徒歩5分以内商圏、24時間営業、100平方メートル程度の店舗面積、
3000-4000アイテムの多品種少量の品揃えと、
チケット販売、公共料金支払い、ATMなど多様なサービスを提供

といった、これまでの成功モデル(型)を
打ち破るのは簡単ではありません。

最大手のセブン-イレブンでさえ、
まだ、コンビニの新たなスタイルを打ち出せずにいます。


しかし、若きリーダー、新浪剛史氏率いるローソンでは、

「ナチュラルローソン」

という2001年に立ち上げた新業態で、
脱コンビニの新たなスタイルを生み出すための、
さまざまな試行錯誤を重ねる

「探索型マーケティング」

を行い、一定の成果を上げているようです。
(PRESIDENT 2007.7.2)


ナチュラルローソンのメインターゲットは、
20-30代の働く女性です。

従来のコンビニが、20-30代の男性をメインターゲット
としていましたから、対極にある人たちをターゲットに
置いているわけです。


店内には「おでん」は置いてありません。
代わりに、焼きたてのパンの香り。

また、いかにも女性が好みそうな可愛い輸入雑貨や文具が
工夫を凝らした展示で置いてあります。

ヌードが踊るアダルト雑誌は昨年末に撤去。
一人で軽食がとれるイートインスペースあり。


そそくさと必要なものを買うために、
ついでに立ち寄る存在だった従来型コンビニとは異なる、
高品質な空間づくりにある程度成功していると思います。


日販は約60万円。従来のローソン(青ローソン)より
2割ほど高いそうです。

なお、平均的なコンビニの日販は40万円台です。
そして、約60万円というのは、酒・たばこを販売
している店舗がようやく達成できる水準です。

ナチュラルローソンの場合、
かなり客単価が高いんでしょうね。


さて、立ち上げからこれまでの経緯を追うと、
同業態の基本コンセプトである

「美と健康」

を売る店としての輪郭が鮮明になるためには3年を要し、
さらに業態としての完成度が増してきたのは、
この2年ほどとのこと。

つまり、およそ5年に渡る試行錯誤の中から、
新たなコンビニのモデル(型)を彫りこんきたわけです。


もちろん、さまざまな失敗も。

たとえば、軍手やクラフトテープは、
ナチュラルローソンらしくないといったんカットしたものの、
女性客の要望で復活。

一方で、イメージに合うキッチン雑貨は売れないそうです。
(ターゲットの働く女性は、忙しくてキッチンに
あまり入らないんじゃないかと思いますが。あるいは、
両親と同居しているので料理は母親任せかも・・・)

また、伊藤園の「おーい、お茶」を撤去して、
保存料の入らないオリジナルの緑茶を入れたところ、
客からクレームがつき、元に戻さなければならない
ということもありました。


こうしたことは、実際やってみないことには
見えてこないことばかりですよね。


基本コンセプトを核に、
現場でのテストマーケティングを繰り返すなかで、
顧客ニーズを探索し、「ナチュラルローソン」
らしさをすこしずつ打ち出していく。

顧客の振る舞いを予測するのがますます難しい昨今、
ナチュラルローソンの「探索型マーケティング」のアプローチが
成功の近道なのかもしれません!

投稿者 松尾 順 : 20:27 | コメント (0) | トラックバック

これハブ

4月10日に書いたブログ記事、

「記憶にあるデザイン」

でご紹介したエレコムのUSBハブ、

「これハブ」

を私もちょっと前に購入し、利用しています。


「これハブ」は、電器製品等のコンセントを
増やすための「電源タップ」に似た形にしてあります。

既存製品とはまったく異なる構造であるため、
設計には手間がかかったそうです。

若干大きめの形状になりましたし、
競合製品よりも割高です。

ですので、開発担当者は、
果たして売れるかどうか不安を感じたようですが、
結果的には、とてもよく売れています。


私も実際購入してみて、なぜ売れるのかがわかりました。

理屈抜きに

「カワイイ!」

のです。(笑)


USBハブは、他にもいろいろな形状の製品を使ってますが、
いじっていて、「愛情」とか「愛着」といった感情が
湧き起るのは、

「これハブ」

だけなんですよね。


まさに、ダニエル・ピンクさんの言う、

「実用性」と「有意性」

をくしくも兼ね備えているのが、「これハブ」でした。

投稿者 松尾 順 : 00:36 | コメント (0) | トラックバック

靴磨き.com

検索エンジンで、

「靴磨き」

を入力して、キーワード検索してみてください。


Yahooでは表示順1位、Googleでは同2位に来るのが、

「靴磨き.com」

です。


代表者は、現在23歳の若き靴職人、長谷川裕也氏。

長谷川さんは、失業中の20歳の頃、
いよいよ生活費が底をつきかけてきたため、
すぐに始められて元手がいらず、日銭が稼げるからという理由で、
「靴磨き」を始めました。

靴磨きセットやタオルなどは、100円ストアで調達。
04年5月のことでした。

靴磨きを始めてすぐ、アパレルショップの正社員の仕事が
見つかるのですが、彼は靴磨きも並行して続けました。

奥深い「靴」の世界に、はまってしまっていたからです。


結局、06年8月に、長谷川さんは靴職人として独立を
果たします。すごいのは、活動開始わずか3年にして
ブランド構築に成功していることです。

5月2日付の日経MJにもでかでかと紹介されましたし、
ファッション誌『ゲーテ』(May 2007)では、
4ページの記事が掲載されました。

つい先日は、NHKの番組にも登場してます。


実は、この成功の裏には、カリスマ経営コンサルタント、
石原明氏(日本経営教育研究所)がアドバイスを
していたという秘密がありますけどね。


たかが靴磨き職人?

「靴磨き」だけに捉われてしまえばそうかも知れません。

でも、靴磨きを入り口として考え、
顧客との関係構築という視点で見つめなおすと、
その先に広がる世界は大きいんです。

なぜならば、磨くだけの価値のある靴を
持っている人たちの多くは富裕層ですから。

これ以上の説明は不要ですよね。


ところで、ホームページを見ると、
日本経営教育研究所以外に、マクロミルとも
提携されています。

どういう提携なんでしょうね?

投稿者 松尾 順 : 06:36 | コメント (0) | トラックバック

「自分語り」なプロフ

「プロフ」

とは、自己紹介するためのホームページのこと。

この「プロフ」が女子高生の間で大流行しているんだそうです。
(日経産業新聞、2007/03/22)


女子高生に強いマーケティング会社、(株)ブームプランニング
によれば、

全国の女子高生の50%以上、首都圏に限れば70%

が「プロフ」を所有しています。


プロフには、PC用もありますが、
女子高生の利用は圧倒的に携帯電話用です。

携帯からプロフ用のサイトにアクセスすると、
そこには氏名、年齢から始まって、趣味や好きなタレントなど、
40-100項目におよぶ多種多様な質問が用意されています。


彼女たちがそれらに答え、また自分の顔写真を貼り付ければ

「自己紹介ページ」

が完成するというわけ。


さて、私が気になったのは、
ブームプランニングの代表取締役、中村泰子氏が、
「プロフ」を活用する女子高生たちの一般的な傾向として、

「自己表現には腐心する反面、相手には関心を示さない」

という点を指摘されていたことです。


さらに、中村氏は次のような分析を行っています。

「女子高生の会話を聞くと、自己中心的で自意識過剰という
 気がする。こんな傾向が強まる中でプロフが登場し、
 受け入れられたのではないだろうか」


なるほど。
もっと自分のことを知ってほしい、語りたいという
「自分語り」のために

「プロフ」

は、格好のツールなんでしょうね。


ただ、自己中心的で自意識過剰という傾向が
強まっているのは、女子高生だけではないように思います。


たとえば、mixiなどのSNSで話題になっている「読み逃げ」。

これは、マイミクでつながっている友人・知人のページに
アクセスして日記などを読んだのに、コメントを残さない
のはずるい、よくない、「読み逃げ」だという批判です。


あなたは、「読み逃げ」はずるいと思いますか?

私はずるいと思いません。
コメントを書き手が強要するのは変です。

コメントを残す・残さないは読み手の自由でしょう?

そもそも、特に「自分語り」の強い日記などの場合、
コメントを残すのが難しいことが多いですしねぇ・・・


ですから、「読み逃げ」のような考え方が生まれるのは、
一般の人々においても、自己中心性、自意識過剰性が
強まっているということを示しているんじゃないでしょうか。


ちなみに、個人が自分のホームページを持つ理由についての
先行研究(国際比較)によれば、他国と比較して日本人の場合、
自分自身の性格や意見などをホームページに呈示している傾向が
高いことがわかっています。


つまり、以前から、特に

「自己開示」「自己表出」

の手段としてホームページを利用することが多かったのが
日本人です。


「プロフ」もまた、この日本人の基本的な志向にぴったり
はまったということでしょう。

「SNSの使われ方」についての国際比較研究は、
まだあまり行われていないと思いますが、おそらく、
日本人と他国の人ではずいぶん違うんじゃないでしょうか。


*以下参考文献です。

「ウェブログの心理学」
(山下清美、川浦康至、川上善郎、三浦麻子著、NTT出版)

投稿者 松尾 順 : 11:49 | コメント (4) | トラックバック

百姓になった高橋がなりの『農家の台所』

先日、国立にある自然食レストラン、

『農家の台所』


に行きました。

この店は、ソフト・オン・デマンド(SOD)の創業者、
高橋がなり氏が数年前に立ち上げた「国立ファーム」の運営。
店自体は、まだ開店して2ヶ月弱です。


*国立ファーム

「国立ファーム」は、日本の農業を改革するというビジョン
を掲げ、農業の生産から流通までを一貫して行う事業を
行っています。


そして、『農家の食卓』では、国立ファームを通じて仕入れた
新鮮な野菜をふんだんにつかったメニューが提供されています。


店の目玉は、「サラダバー」です。

ファミレスの変わり映えのしないサラダバーと違い、
この店では、地元国立で取れた「東京うど」など、
普段はあまり食べる機会のない珍しい野菜が食べ放題。

目の前でお姉さんが野菜を切っていて、新鮮そのものです。

3種類ほどの天然塩をつけて食べる、
野菜のしゃきしゃきした食感が最高でした。


この店で初めて知ったんですが、

「ソルトリーフ」

という野菜があるんですね。

見ると葉っぱの表面に白く塩が浮いています。
文字通り「塩吹き葉」。

なにもつけなくてもそのまま塩味で食べられます。
サボテンの仲間だそうです。


また、この店では「ボトルキープ」ならぬ、

「農場キープ制」

というのをやってます。

通路の棚に、野菜が育っているプランターがたくさん
置いてありまして、それぞれ名札がついています。

年間1万円払うと、プランター2個分(長さ1メートルちょっと)
の野菜をお店で育ててくれます。

自分だけのプチ農場がキープできるというわけです。


さてメインディッシュとして、私たちは、

「和風御前」、「中華御前」(どちらもサラダバー付)

を注文しました。


素材が吟味されているせいか、
味わい深く、とてもおいしかったです。

量はそれほど多くなくていいから、
健康的でおいしいものを食べたいという現代人のニーズに
マッチしてますね。

野菜中心ですから、カロリーも低めでしょう。
その分、酒をがぶがぶ飲みましたが。(笑)


国立はちょっと遠いので、
ぜひ都内にも出店して欲しいなあと思いました。

農家の台所を紹介してくれた知人に感謝です!

投稿者 松尾 順 : 09:54 | コメント (0) | トラックバック

リアル社会での孤独、でもヴァーチャルでも孤独か

「OECD諸国の女と男」(PDF)

という調査報告書(経済協力開発機構:OECD)によれば、
OECD加盟の21カ国の中で、日本人男性が最も

「孤独」

だという結果が出たそうです。


調査報告書を見ると、「孤独」(Social Isolation)
の度合いを聞く設問は、

「友人・知人や同僚と、業務外のスポーツやサークル活動などで
外出したりすることがほどんど、あるいはまったくない」

です。

この設問にYESと答えた人は、日本人男性が21か国中最高でした。
最高といっても、全体の16.7%ですが。
(なお、日本人女性も、メキシコに次いで2位です。)

要するに先進国の中で、日本人男性が最もリアルな交友活動を
していない、だから「孤独だ」ということになるわけです。


しかし、この結果の解釈にはちょっと引っかかりませんか。


そう、ネット上の交流。そしてまた、携帯電話での交流。

携帯電話(PHS含む)の契約台数は約1億台。
ミクシィの登録者は800万人を突破。


男性、女性とも、日本人のネットやケータイを通じた
コミュニケーションは、先進国の中でおそらく最も活発でしょう。

たいていのことは、直接会わなくてもネット、携帯で
用が済んでしまう。

しかも、オンラインでの交流にのめりこみすぎて、
家から出なくなることも多くなった。

結果的に、リアルな交友活動は減ってしまっている。


でも、だからといって私たちが「孤独」を感じているとは
限らないわけです。

ヴァーチャルでのつながり感があるから、
あえて、リアルで直接会って「つながりあい」を確認する
頻度が低下しただけじゃないのか。

こんな仮説が立てられそうです。


この仮説が正しいかどうかはさておき・・・


そもそも、OECDのこの調査自体が、
「セカンドライフ」のようなもうひとつの社会生活、
多様な人生が、ネット上でヴァーチャルに繰り広げられている
現状をきちんと反映した調査設計になっていないように思います。

投稿者 松尾 順 : 10:41 | コメント (1) | トラックバック

グーグルを凌駕するかもしれない検索サービス

世界最強のネット企業、「グーグル」

もはや、その地位は揺らぐことはないように思えますが、
今年、強力なライバルが登場しますね。


2005年設立、サンフランシスコの「パワーセット」です。

●「パワーセット」

実は、まだサービス開始してませんが・・・

試作版(英語版)のサービス開始は、今年末を予定。
日本版も準備中です。
(日経新聞、2007/03/14)


パワーセットの検索サービスの特徴は「自然文検索」です。

Googleも含め、従来の検索サービスでは、
調べたい内容に関連した単語(キーワード)を入力しなければ
なりません。


しかし、パワーセットは、例えば、

“1996年にIBMが買収した会社はどこだったのか?”

と文章をそのまま打ち込むことができます。

すると、高度な自然文解析機能を使って、
調べたい内容を的確に把握し、適切な検索結果を返してくる。


検索結果の精度はグーグルを上回るようで、
将来、検索サービスの分野ではグーグルをしのぐのではないかと
期待されています。


なるほど、面白いことになってきました。

昔の巨人軍(たとえが古い・・・)ではありませんが、
一人勝ちほど見てて面白くないものはありません。

グーグルが焦るような新興サービスが
どんどん登場してほしいものです。


さて、パワーセットのサービスの行方ですが、
英語版での成功の確率はかなり高いんじゃないかと思います。
グーグルに追いつくのは当然ながらそう簡単ではありませんけど。

しかし、日本版ではかなり苦労するでしょう。

アンケートの自由回答(つまり自然文)や、コールセンターへの
問い合わせなどを分析する「テキストマイニング」の仕組みを
ご存知の方は特によくおわかりになると思いますが、
日本語の自然文の解析は、英語よりもはるかに難しいんですよね。

なぜ日本語の解析が難しいかの説明は、
その説明自体が難しくなりますので止めておきますが、
ともかく、日本語版では、検索精度を上げるのに苦労することに
なると思います。


ところで、検索サービスについては、そもそも、

「検索サービスの精度は、高ければ高いほどいいのか」

という疑問を投げかけておきたいと思います。


確かに、調べたいことにドンピシャの結果が得られた方がいい。

でも、一方で、適度に精度が甘いほうが、
思いもしなかった検索結果が現れ、それをクリックすることで
新たな発見や気づき、学びを得ることができます。


こうした、偶然的な未知との出会いを脳は大好きです。

脳科学者、茂木健一郎氏は、ネット上においては、

「偶有性」

が重要だと言っています。

「偶有性」とは、ある程度は何が起こるか予測できるが、
100%完全には予測できないことです。


現在の検索サービスは、ノイズが多すぎる面もありますが、
たまに「こんな情報があったのか」という発見の喜びがある。

まさに「偶有性」の世界。


茂木氏によれば、「偶有性」は脳を活性化させます。

以前も書きましたが、次に何が起こるか全くわからない状態は
人を不安にさせます。

しかし、ある程度起こる範囲が分かっている中で、
予想もしなかった展開があるかもしれないという偶有性的状況
は、人をワクワク、ドキドキさせてくれるんです。


実際、完全な予定調和の世界は、面白くもなんともありませんよね。

投稿者 松尾 順 : 11:50 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(14)「集合知」のマネジメントへ

市場における顧客サービスは、

コスト・サービス
   ↓
ナレッジ・サービス
   ↓
マインド・サービス

と進化していきますが、この進化と同時に、
企業のマネジメントも、「コインの裏表」のように進化します。


すなわち、企業のマネジメントは、
単に情報やデータを扱っていた段階から、より高度な

「ナレッジ・マネジメント」

へ向かい、さらに深い智慧を扱う「ノウハウ・マネジメント」
「マインド・マネジメント」へと向かうのです。


ただ、田坂氏は、
ひところブームになった「ナレッジマネジメント」でさえ
あまり成功していないことを指摘します。

その理由は、「企業文化」が変わっていないからです。


いくら「情報システム」を導入し「業務プロセス」を
変えたところで、その背景にある「企業の文化」が変わらない限り、
本当に重要な「知識」や「智慧」は共有されないんですね。

ですから、企業のマネジメントがより深い

「ノウハウ・マネジメント」や「マインド・マネジメント」

に向かうとき、この「企業文化」がさらに大きな壁として
立ちはだかってくると田坂氏は考えています。


さて、企業の「ナレッジ」マネジメント」の進化は、
企業内部から始まりますが、第二段階は外へ向かいます。

それは、

「異業種のナレッジ・マネジメント」

です。

顧客の特定のニーズに関連したさまざまな商品やサービスが
「商品生態系」を形成し、市場競争が「商品生態系同士」で
行われる時、生き残るために必要なことは、

同じ商品生態系に生きる異業種企業との提携・連合を通じて
いかにうまく、お互いの知識、智慧をいかに結集して、
より優れた商品生態系を生み出すか

です。


そして、さらに、企業のマネジメントの対象は外に広がり
第三の段階に到達します。


「顧客のナレッジ・マネジメント」

です。


つまり、「企業の智慧」だけでなく、

「顧客の智慧」

を借りることへと進化を遂げるわけです。

実は、その具体的な方法こそ、
既にご紹介した「顧客コミュニティ」や「ブログウオッチング」
を通じて、生の「顧客の声」を集めることなのでした。


では、この「顧客のマネジメント」の行き着く先は
なんでしょうか?


田坂氏によれば、それは

「集合知」のマネジメント

です。


個々の顧客の智慧をマネジメントする世界を超え、
無数の人々の持つ「智慧」が集まった

「場の叡智」

とも呼ぶべきもののマネジメントを行うことを
企業は求められるというわけです。


ふう・・・

というわけで、「これから何が起こるか」のロングレビューは
今回で終了いたします。お付き合いくださいましてありがとう
ございました。


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 06:45 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(13)顧客サービスの深まり

ネット上の安売りで知られたPCサクセス。
先日、あっけなく倒産してしまいました。


同社はカカクコムで比較すると、
ほぼあらゆる商品で常に「最安値」でした。

実は、あれはプログラムで自動化されていたんですね。
他社が安い価格を出してきたら、すぐに追随して
さらに安い価格に書き換えるようになっていたそうです。


最初は手作業だったけれど、取り扱いアイテムが増えて
作業が追いつかなくなったのが自動化した理由。

しかし、この自動化のために、
利幅の薄い商品では、仕入値よりも売値が安くなる、
要するに赤字で売ることも多くなりました。

まあ、倒産するのは当然の結末でしたね。


このように、ネット革命の影響で「価格競争」は
極端なところまでいっちゃってるわけですが、
振り子が一方に振り切ったら、もう一方に戻り始めるように、
これからはリバウンドが起こります。


田坂氏は、価格だけで勝負するサービスを

「コスト・サービス」

の競争と呼んでいます。


そして、この「コスト・サービス」がリバウンドする方向は、

「高付加価値化」

をめぐる競争になります。


具体的には、

「ナレッジ・サービス」

です。


例えば、ネット証券では、当初「手数料の安さ」、すなわち
「コスト・サービス」での競争を繰り広げてきたわけですが、
近年は、証券アナリストによる株価分析や市場予測など、
最先端の知識を顧客に提供することで、

「ナレッジ・サービス」

への転換を図るところが出てきていますよね。


ただ、「ナレッジ・サービス」が終着点ではありません。

その先にあるのは

「マインド・サービス」

です。


これは、田坂氏の挙げる例では、

将来に不安を感じている高齢者向けに、
安心感と信頼感を持てる細やかな心配りのサービスを提供する、

「シニア・コンシェルジュ」

のサービスがあります。


では、このような「顧客サービスの深まり」において
重要なのは何でしょうか?

マインド・サービスは、人が登場して動画で商品を説明する
といったことでもある程度実現できます。


しかし、最終的には、顧客接点(コールセンターなど)のスタッフ
として、ホスピタリティ(気配り力とでも訳しますか)の高い人材
をどれだけ多く採用でき、また、育成できるかということに
なるんじゃないでしょうか?


いくらネット時代とはいえ、なにもかも

「バーチャル化」や「セルフサービス化」
(この発想には、ユーザーに自分でやってもらって、
こちらは楽して儲けようという甘い考えが隠れています)

では済まないのです。


ちなみに、ネット証券の雄、「松井証券」でも、
すでに「マインド・サービス」への取り組みを始めていますね。

昨年書いた下記の記事を参考になさってください。

●人間くさいネット証券

「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 06:50 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(12)ブログウォッチング

「顧客の声」が集まる顧客コミュニティは、今後、
従来の「見えるコミュニティ」から「見えないコミュニティ」、
すなわち、

「ブロゴスフィア」

に進化していく。


だとするなら、この「ブロゴスフィア」において「顧客の声」に
耳を傾ける方法は、

「ブログウォッチング」

です。


田坂氏は、

・自社の商品に関する評価と評判
・自社の商品に関する顧客ニーズ
・自社の商品が含まれる商品生態系
・自社の商品を使う顧客のライフスタイル

などに関連するメッセージに
深く耳を傾けるべきだと主張しています。


ブログは検索に引っかかりやすいこともありますし、
もし、企業が社内に「ブログ・ウォッチャー」のような
専任担当者を置けば、収集された情報は、極めて高い価値を
持つものになると考えられます。

なぜなら、ブログウオッチングには、従来の「アンケート」や
「インタビュー」などにない優れた点があるからです。


ひとつには、バイアスがかからない声が聴けること。

アンケートやインタビューは、
どうしても聴かれる側が構えてしまって素直な意見を聞くこと
が難しいのですが、ブログは自発的に書かれるメッセージです。

ですから、正直で率直な意見が書かれていることが多く、
製品改良などに役立つより価値の高い情報だというわけです。

ただし、お金をもらって企業の新商品を紹介するような、
「やらせブログ」の増加は、このメリットを台無しにしてしまい
ますけどね・・・


もうひとつは、ライフスタイルやワークスタイルなどを
含めた背景情報や文脈情報が得られることです。

ブログには、その書き手の日々の生活の仕方や、
価値観などが自然に現れてきます。

そうした背景情報や文脈情報がわかっていると、
彼らのブログ上の発言の意図や真意が、より明確に見えてきます。

しかし、アンケートやインタビューでは、設問数や時間が
限られているために、調査対象者の背景情報を十分に集めることが
できないのです。

表面的な言葉からはわからない本当の気持ちは、
背景情報、文脈(コンテキスト)情報があってこそ、
的確に把握することができるんですよね。


さて、このようにして、無数の

「目に見えない顧客コミュニティ」

を分析することは、無数の

「商品生態系」

を細やかに分析することだと、田坂氏は指摘しています。


顧客(一般消費者)の同士がやりとりする情報の関係性の中に、
実は、商品同士の関係性も隠れているということでしょうか?


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 01:00 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(11)顧客コミュニティの進化

田坂氏は、すべてのコマースサイトは自然にポータル化していく
(逆に言えば、そうしなければ生き残れない!)、つまりは

「商品生態系」

が自然に増えていくと考えています。


なぜなら、ポータルサイトがなんらかの形で備えている
「顧客コミュニティ」を通じて、「顧客の声」が集まるからです。

そして、ポータルサイトの運営者が「顧客の声」に応えようと
すると、いつのまにか関連商品・サービスへと取り扱いやリンクが
広がり、ひとつの「商品生態系」を形成するようになってしまうと
いうわけです。


さて、この「顧客の声」が、「商品生態系」の進化を促すプロセス
は「Web2.0革命」の時代においてはさらに強まっていきます。

それは、「顧客コミュニティ」そのものが進化するからです。


田坂氏が言う、

「目に見えるコミュニティ」

から

「目に見えないコミュニティ」

への進化です。


「目に見えるサイト」とは、主催者が明確で、
ネット空間の中でも、その場所が明確なコミュニティです。

ポータルサイトや、さまざまなブランドが主催する
ユーザーコミュニティ、また「2ちゃんねる」に代表される
掲示板サイトは、すべて「目に見えるコミュニティ」ですね。


一方、「目に見えないコミュニティ」とは、
ブログを運営するブロガーたちと、彼らのブログに訪れる
ビジターたちが生み出すもの。


ブロガーのある商品についての記事に対して、
ビジターがコメントする。それにブロガーがコメントを返す。

あるいは、他のブロガーが、同じ商品についての記事を書き
トラックバックを張る。さらに、時に、アフィリエイターや
メールマガジン発行者も、同商品についての情報を通じて
つながりあう。


こうしたブログを中心とする「目に見えないコミュニティ」を
田坂氏は、

「ブログスフィア」

と呼んでいます。


ブログスフィアには、明確な境界がありません。
それだけに、お互いに自由につながりやすく、
無限に広がっていく可能性を秘めています。

したがって、境界が明確で広がりに限界を持つ
従来のコミュニティよりも、今後、より大きな影響力を
持つようになると思います。


ところで、私はこの話を読んで、社会学の分野で言われる、

「強い絆」と「弱い絆」

との関連性を感じました。


「強い絆」とは、親兄弟や近い親戚などとのつながり。

「弱い絆」とは、年に1回しか会わない遠い知人や、
知人を介して出会う「友達の友達」のような関係。

「強い絆」は、つながりが強いだけに同質性が高く、
その絆から、新奇で有益な情報がもたらされることは少ない。

一方、「弱い絆」は、普段はまったく別の世界で生きている人
同士だからこそ、異質で価値ある情報が得られる可能性が高い。


従来の「目に見えるコミュニティ」は「強い絆」で結ばれており、
「ブログスフィア」のような「目に見えないコミュニティ」は
「弱い絆」で結ばれた関係であると言えるのではないでしょうか。


さらに、もう一歩踏み込んで、この考え方から
マーケティング的な仮説を提示させていただくなら、


「目に見えるコミュニティ」は、
既存商品の改善のための情報を得ることに有効であり、

「目に見えないコミュニティ」は、
全く新しい商品を生み出すための情報を得るために有効である

と言えるんじゃないでしょうか?

いかがでしょう?


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 10:00 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(10)商品生態系と顧客コミュニティ

ネット革命は、顧客中心市場の中で、
無数の「商品生態系」を生み出していきます。


「商品生態系」とは、

「顧客の特定のニーズを中心に互いに結びついた
様々な商品やサービス」

のことでした。


そして、この「商品生態系」が目に見える形で
姿を表している場が

「ポータルサイト」

だと、田坂氏は指摘しています。


顧客中心市場では、多くの顧客が、
自分のニーズに関連した商品とサービスが一箇所に集まっていて、
ワンストップで購入できる場所を求めるからです。


だから、すべての「コーマスサイト(商取引サイト」は、
自然に「ポータルサイト」になっていくと田坂氏は考えています。

それは、Webの持つ最大の特徴ともいえるリンク機能によって、
特定のニーズに関連したさまざまな商品・サービスを容易に
取り揃える(紹介する)ことができるからでもあります。


直近の具体事例としては、旅行におけるワンストップサービスを
標榜している「フォートラベル」が挙げられるでしょう。

●フォートラベル

●関連記事「旅行の口コミサイト フォートラベル」


さて、すべてのコマースサイトが自然にポータル化していく
ということは、「商品生態系」が自然に増えていくことを
意味します。

つまりポータル化が「商品生態系」の進化、創発を促すこと
になるのですが、これはなぜなのでしょうか?


それは「顧客の声」が集まるからです。
ポータルサイトには、必ず何らかの形で、
「顧客コミュニティ」が生まれてくるからですね。
(「フォートラベル」は、コミュニティ先行型ですが)


そうした顧客コミュニティ内では、

「こんな商品・サービスもほしい」

といった顧客の声が飛び交います。

そしてポータルサイトの運営者が、
そうした要望に次々と応えていくことで、
いつのまにか関連商品・サービスへとリンクが広がり、
ひとつの「商品生態系」を形成するようになってしまう
というわけです。


考えてみれば、事業者側の勝手な思い込みだけで
最初からあれこれ品揃えを広げると失敗しがちですよね。


むしろ、まず、コアのユーザーとの密な関係を通じて
活発なコミュニティを作り上げ、維持する。

その後は、コミュニティメンバーの要望を丁寧に拾い上げ、
顧客ニーズをしっかり反映した無理のない「商品生態系」を
サイト上で育てていくというのが、

最善のEコマース戦略

ではないでしょうか?


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 10:51 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(9)商品生態系同士の戦い

ネット革命がもたらす「顧客中心市場」において、

「商品」

はどう変わらざるを得ないのでしょうか?


「商品」と「商品」同士、つまり単体商品が戦う時代は
終わっています。

そして、「商品生態系」同士の戦いが始まっています。


田坂氏によれば、「商品生態系」とは、

「顧客の特定のニーズを中心に互いに結びついた
 様々な商品やサービス」

のことです。


例えば、「Windows OS」や「Mac OS」といったオペレーティング・
システム(基本ソフト)は、パソコン本体、アプリケーション、
ディスプレイ、プリンター、周辺機器、サプライ用品などとともに、

「パソコンを使いたい」

というニーズを中心にひとつの「商品生態系」を形成していますね。


ちなみに、以前は、WindowsとMacは全く異なる生態系を形成して
いたわけですが、相互互換性が高まり、2つの生態系はある程度
重なりあうようになってきています。

ですから、Windowsが圧倒的優勢にもかかわらず、
Macの商品生態系も淘汰されずに済んでいるのでしょう。


今となっては古い事例ですが、完全に淘汰されてしまったのは、
ビデオテープの「ベータ」の商品生態系。

「VHS」の商品生態系との互換性がなかったため、
「VHS」が優勢となった時、ベータの生存が許される場所は
残されていませんでした。(プロ向けのわずかなニッチを除いて)


そして今、商品生態系同士の争いでホットな分野を挙げるなら、

「音楽や動画、学習教材などをいつでもどこでも聴きたい」

というニーズを中心に形成されている

「携帯音楽プレーヤー」の商品生態系でしょうか。


言うまでもなく、現在は「iPod」のそれが優勢ですね。


家電量販店の「iPod」のコーナーに行けばわかりますが、
「iPod」用の様々な周辺機器、アクセサリ用品など、
その商品生態系の繁栄ぶりは、
競合他社の追随を許さないように思います。

その結果、ユーザーとしては、「iPod」との相性のよい周辺機器
(卓上スピーカーや外付けバッテリーなど)を揃えてしまっている
ことが、他社へのブランドスイッチを阻む要因になっています。

私もその一人です。


これからの「売れる商品づくり」においては、

顧客ニーズを中心とする核の商品と、
それを取り巻く周辺機器群やサービスを加えた

「商品生態系」

の発想が不可欠でしょうね。


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 11:23 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(8)最強の戦略・・・利他の精神

顧客中心市場に生まれた新しいルール。


それは、

「顧客が最良の商品を買うのを手伝おう」

とする企業に顧客の支持が集まるということです。


逆に、従来の企業の考え方であった

「顧客に自社の商品を売りつけよう」

とする企業は顧客から疎まれます。


今後、ビジネスモデルが、

「販売代理(販売支援)」から「購買代理・購買支援」

へと進化していかざるを得ないのは、
そうしなければ顧客の支持を得られないから。

顧客の支持がなければ、売上にはつながらず淘汰されるしかない。
シンプルな理屈ですね。


さて、

「顧客が最良の商品を買うのを手伝う」

というのは、具体的にはどんなことでしょうか?

田坂氏の本には次のような例が示されています。


自社の店頭に顧客が来る。
しかし、その顧客のニーズを聞くと、自社の商品がベストではない。

そのとき、真摯に、誠実に、

「お客様、それがお客様のニーズであるならば、
 残念ながら当社の商品よりも、この会社の商品を
 お勧めいたします」

とライバル企業の商品でさえ勧めることができること


こうした態度が取れる

「器の大きな企業」

「真に顧客中心の精神を持った企業」

にこそ消費者の支持が集まると田坂氏は言います。


ただ、これは単に

「無私の精神」「利他の精神」

を求めているのではありません。

こうすることが、結果的には企業の競争優位を築き、
また最終的には収益を生み出すことになる

「最強の戦略」

であるからです。


私はこの箇所を読んでいて、思わず

「情けは人の為ならず」

ということわざを思い出してしまったのですが、
個人的な人間関係ではとりわけ、

「相手のためになることをする」(GIVE!)

の姿勢を貫くことで、回りまわって自分にも
良い形で戻ってくるというのが、
この世界の普遍的な真理だと思っています。

また、「CRMの魂でもあります。


近年、ほとんどの企業では、
収益を上げることが最重要の目的になっていますよね。

しかし、企業において収益を上げることは
本来の目的ではありません。


企業もまた社会の構成員であり、社会になんらかの形で
貢献することで存在を許されています。
(貢献というのは、端的には、
他の人が必要としているものを提供すること)

そして、収益は、その貢献を継続するために
必要な資源を調達するための手段に過ぎません。


ですから、事業活動においても、

「利他の精神」

が単なるきれいごとやお題目ではなく、

「最強の戦略」

とせざるを得なくなったというのは、
社会全体としては、非常に喜ばしいことではないでしょうか?


それにしても、人のアナログな営みとは対極にあるとしか思えない

「ITC」(Information Technology and Communication)

の進展が、最もアナログ的な精神へと立ち戻らせることになる
というのは、なんとも不思議なことです。


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 10:32 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(7)ビジネスモデルの進化

「ネット革命」「Web2.0革命」によって、
市場は、次のように進化していきます。

「企業中心市場」→「顧客中心市場」→「主客融合市場」


そして、この市場の変化に伴い、
中間業者も、次のような進化を遂げます。

「(オールド)ミドルマン」→「ニューミドルマン」
→「コンシェルジュ」→「メタ・プロシューマ」


すると、ビジネスモデルもまた進化をしていく。

その最初の進化が、

「販売代理(販売支援)」→「購買代理(購買支援)」

というビジネスのパラダイムが逆転する大きな変化です。


さて、

「購買代理(購買支援)」

というビジネスモデルは具体的には、次に示した

「3つのワン・サービス」

という形態でまとめることができます。


-<3つのワン・サービス>----------------------------

1.ワンテーブルサービス

「カカクコム」「アットコスメ」のように、
特定の商品ジャンルのいろいろな競合商品を一つのテーブルに
乗せ、さまざま角度から比較し、評価をしてくれるサービス


2.ワンストップサービス

「オートバイテル」「ウィメンズパーク」のように、
特定のニーズに関連するすべての商品とサービスの情報を
ワンストップで提供してくれるサービス


3.ワンツーワンサービス

ネット上での相談にのる「ファイナンンシャル・プランナー」
のように、顧客に対して担当者がワンツーワン(1対1)で
対応し、親切丁寧なアドバイスを提供してくれるサービス

------------------------------------------------------


さて、実は、この3つの順番には大切な意味があります。


仮にあなたが、今はリアル店舗を展開して

「販売代理(販売支援)」

型のビジネスを行っているとします。

でも、今後は、顧客に対して本当に親切なサービスを
提供したいと考えたら、必ず上記の順番でサービスが
深まっていくと、田坂氏は指摘しています。


ただし、現実には、

ワンテーブル→ワンストップ→ワンツーワン

とサービスが深まるほど、コストが増加するため、
従来のリアル店舗では実行が困難でした。


しかし、ネット革命がこの「コストバリア」を打ち破った。


ネット上でこの3つのワン・サービスを提供し、

「購買代理(購買支援)」

のビジネスモデルを構築できるようになったというわけです。


ここで、ひとつ留意しなければならないことがあります。


それは、3つのワン・サービスを通じた

「購買代理(購買支援)」

のビジネスモデルは、提供できるというよりは、

「提供しなければならない」

ものであること。


あなたの会社が提供しなければ、競合他社がやってしまいます。
その結果、競争優位は競合が手にします。


あなたの会社は生き残れない・・・

厳しい時代ですね。


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 10:45 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(6)中間業者の進化:メタ・プロシューマへ

田坂氏によれば、「ネット革命」「Web2.0革命」によって、
市場は、次のように進化していくということでした。

「企業中心市場」→「顧客中心市場」→「主客融合市場」


この市場の変化によって、企業もまた進化せざるを
得なくなるのですが、まず「中間業者」の進化が最初に
起こります。


「ネット革命」創生期のころ、
ネットはメーカーとユーザーをダイレクトに結ぶことができるので、
「中間業者」(卸・小売など)は淘汰されると言われましたよね。

実際、ただ介在するだけの存在、手数料をかすめ取るだけで
なんら付加価値を創造していなかった中間業者は淘汰されました。


しかし、古いタイプの中間業者が淘汰された変わりに、
新しいタイプの中間業者、すなわち

「ニューミドルマン」

が台頭してきました。


ニューミドルマンは、オールドミドルマンと向いている方向が
違います。

オールドミドルマンは、取引先(メーカーなど)を
見て仕事をしていました。つまり「販売側の代理」でした。

ニューミドルマンは、ユーザー(買い手、消費者など)を
見て仕事をしています。つまり、「購買側の代理」です。

購買代理のビジネスモデルをインターネット以前から
実践していたのが、金型商社の「ミスミ」であることは
ご存知の方も多いでしょうね。


そして、ネット革命以降、いわゆるインターネットビジネス
として成長してきた多くの企業が、この「ニューミドルマン」
だったわけです。

たとえば、「アマゾン」は、エンド・ユーザーのために
ありとあらゆるサービスを取り揃えたニューミドルマンと
言えます。

本だけで見ても、あまり売れない本でもたいてい見つかるし、
新本だけでなく、古本も買える。しかも、読み終わった本は
アマゾンで売却できる。


アマゾンに比べると、リアル書店は、
従来の販売代理モデルをいまだ踏襲していることが明確ですね。
(むろん、リアルだからこその制約があるからですが)


さて、田坂氏は、「ニューミドルマン」は、さらに
「コンシェルジュ」に進化すると主張しています。

コンシエルジュは、顧客の「購買」というニーズのさらに奥に
ある「生活」という、より本質的なニーズに応える存在です。

そして、田坂氏がコンシェルジュの具体的な役割を説明する
事例として挙げるのは、

「銀行の窓口に、住宅ローンを借りにきた顧客のニーズ」

です。

ニューミドルマンの購買代理の考え方だと、
顧客の立場に立ち、「最適な住宅ローンを選択してあげること」
ということになります。


しかし、コンシェルジュは、より本質的なニーズに目を向けます。

この顧客の本当のニーズは、

「住み心地のよい家に住んで、幸せな家庭生活をしたい」

ということでしょう。


とすれば、単に住宅ローンを提供するだけにとどまらず、

「不動産データベースの提供」「家の設計事務所の紹介」
「家具販売店の紹介」「引越しサービスの割引」

など、「生活」の全体に関わるさまざまな商品・サービスを
ワンストップで提供してくれた方が顧客にとってはありがたい。

コンシェルジュは、そうしたユーザーの期待に応えるわけです。


コンシェルジュとは、本来、ホテルの宿泊客のあらゆるニーズに
対応する「何でも屋的」サービスです。

コンシェルジュは、基本的に高級ホテルにしかいないのですが、
それは非常にコストのかかるサービスだからです。


しかし、ネット革命は、他の業界・業種においても
コンシェルジュ的サービスを低コストで提供することを
可能としたんですね。


さて、これまでの進化は、ブロードバンド革命が
もたらすものです。

さらに、今起こりつつある「Web2.0革命」は、
「コンシェルジュ」を「メタ・プロシューマ」に進化させます。

「メタ・プロシューマ」は、

「プロシューマ」

を支援する存在です。


「プロシューマ」とは、「生産者」(プロデューサ)と
「消費者」(コンシューマ)が融合した

「生産消費者」

と呼ばれる進化した消費者のことです。

「主客融合市場」においては、無数のプロシューマが
生まれてくることになりますが、そうしたプロシューマを支援し、
プロシューマ型の商品開発を支援することをビジネスとする
「開発支援」の中間業者が必要とされてくる。


彼らが、「メタ・プロシューマ」です。


おそらく、「メタ・プロシューマ」を目指すビジネスモデルが、
これからのネットビジネスの発展を支えていくことになると
私は思います。


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 11:25 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(5)市場の進化

ちょっと間が空きましたが、田坂広志氏の最新刊

「これから何が起こるのか」

に書かれていることから、
マーケターに有益だと思うポイントの紹介を続けます。


さて、前回までにご説明した

「ネット革命」「Web2.0革命」

によって、

「市場」

ではどのような「進化」が起こるのでしょうか。


まず、ネット革命によって市場は、

「企業中心市場」から、「顧客中心市場」

に進化します。


「顧客中心市場」は、企業より顧客のほうが圧倒的に強い市場。
顧客が、自由に市場や商品の情報を得ることができるため、
ガラス張りの市場です。

以前は、商品を比較検討しようと思っても、
そもそも情報が十分に公開されていなかったり、そうした情報を
集める時間、手間、コストがかかりました。

しかし、現在は、十分な情報が公開されていない製品・企業は、
はなから顧客に相手にされません。

このため、経営コンサルタントの石原明氏が指摘されるように、
自社が持つ情報はどんどん「先だし」することが必要になって
います。


また、一方で、カカク・コムのようなサービスを通じて、
顧客はすばやく簡単に商品比較情報が手に入るようになりました。

このため、「顧客中心市場」では、徹底的な

「価格競争」

が起こります。

田坂氏によれば、これは鉄則であり、
どの業界にも必ず「価格競争」は起こる、だから、
まだ起こっていない業界であっても、そのための準備を
今始めるべきだと警鐘を鳴らしています。


また、田坂氏は、「顧客中心」を抽象的な「精神論」として
捉えるのではなく、具体的な「戦略論」として理解すべきだと
説いています。

「企業中心」から「顧客中心」への変化は、ビジネスモデルの
組み替えが起こっているのであって、古いビジネスの常識を
次々と覆していくものだからです。

単なる理念、企業姿勢として「顧客中心」(=顧客主義)を
唱えているだけでは生き残れませんよ、ということでしょう。


そして、この新しい「顧客中心」のビジネスモデルにおいて、
古い常識を書き換えていく変化は次のようなことです。
(括弧内は、古い常識)

●商品のすべての仕様を、好きなように選ぶ
 (いくつかの商品のタイプから好きなものを選ぶ)

   →世界でも一つしかない自分だけの商品、すなわち
    「オンリーワン商品」の時代

●顧客が価格を決める
 (企業が価格を決める)

   →オークションのモデル

●消費者がマーケティングを行う
 (企業がマーケティングを行う)

   →田坂氏は、「ギャザリング」を例として挙げていますが、
    アフィリエイトや、ブログ、SNSを活用した口コミ
    マーケティングもこの変化の具体例ですね。


さらに、

「顧客中心市場」は、「主客融合市場」

へと進化していきます。

企業優位の「企業中心市場」が、いったん顧客優位の
「顧客中心市場」へと振れた後、企業と顧客は、
平等で対等な立場に立ち、両者が協力、協働することを始めます。

こうすることが両者の利益にかなっているからです。
もはや、企業と顧客は、お互いに利害が対立する存在では
ありません。


田坂氏が例として示す「プロシューマ型開発」においては、
「顧客」が自分たちの智恵を出すことによって、
企業に欲しい商品を買ってもらえる、「企業」は、そうした
商品を作ることによって必ず買ってもらえる。

このような、相互利益の関係が生まれるというわけです。


そして、「Web2.0革命」は、
この「顧客中心市場」から「主客融合市場」の進化を
加速するものとして起こっています。


------------------------------------------------

*「Web2.0革命の3つの軸は、次のとおりです。

・「衆知創発の革命」

 誰でも、多くの人々の智恵を集め、新たな智恵の創発を
 促すことができるようになる革命。


・「主客融合の革命」

 情報の発信者、受信者、あるいいは生産者、消費者といった
 これまで別々のもの、すなわち「主」と「客」が一体化し、
 融合し、区別がなくなっていく革命。

・「感性共有革命」

 人々が、「ナレッジ」(知識)だけでなく、
 感情や感動、感覚、感性を共有できるようになる革命。


-------------------------------------------------


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 12:37 | コメント (0) | トラックバック

「Web3.0」・・・ティム・オライリー氏の見解

田坂氏は、「これから何が起こるのか」で、

「ユビキタス革命」が「Web2.0革命」に融合することによって、
「情報革命」は「Web 3.0革命」に進化する

と述べていました。


この「ユビキタス革命」においては、
情報端末を備えた「人間」と「商品」、「空間」の情報共有が
行われるようになります。

そして、これらの「情報端末」は「Webの世界」への出入り口と
しても働くため、すべての「リアル空間」が「ネット空間」と
融合していきます。


つまり、田坂氏は、「リアルとネットの融合」がもたらす変化が、

「Web3.0革命」

と呼ばれるものになると予測しているわけです。


さて、そもそも「Web 2.0」の概念を提唱した
ティム・オライリー氏は、「Web 2.0後」をどのように
見ているのでしょうか。

1ヶ月ほど前の日経産業新聞(2007年1月19日)に掲載された、
オライリー氏のインタビュー記事からポイントをご紹介します。


「十年後にはネットはあらゆるものの中心になっているだろう。
 だが、我々は『Web3.0』とは呼ばない。なぜなら、次に来る
 変化は今ある(ビジネス)のエコシステムを超えるものに
 なるはずだからだ」

なるほど。

オライリー氏としては、次の変化は現在のパラダイムを変えて
しまう不連続なものになると見ているようです。

だから、現在の延長に過ぎない

「Web3.0」

とは呼ばないつもりなんですね。


そして、オライリー氏が注目している動きは次の3点です。


・ものが発信するデータを基にしたサービスの台頭
 
 GPSやICタグ、携帯電話などがユーザーが意識しているか
 いないかにかかわらず、自動的に発信する情報が価値を
 持ってくる。
 (これは田坂氏の言う「ユビキタス革命」ですね)


・リアルとバーチャルの融合
 
 仮想都市を舞台にしたオンラインゲーム「セカンドライフ」や、
 「グーグルアース」のようなサービスにその兆しがあると
 指摘しています。


人工知能(AI)により近づいたサービス
 
 検索エンジンや翻訳サービス、人物認証などの分野で、
 人工知能(AI)により近づいたサービスが登場する


大きな方向性としては、オライリー氏の見ている未来は
田坂氏と同じと言えそうです。


ただ、オライリー氏の次のコメントは、
また異なる視点を与えてくれます。


「コンピュータ産業の歴史を振り返ると、大きな変化は
 二十年から二十五年周期で訪れている。
 ネットワーク効果と広告収入に支えられたWeb2.0の
 ビジネスモデルは、少なくともあと十年間は続く。」

「だがそれと並行して全く予期しない方向から新しい変化が
 起きてくるだろう。個人的には、次の波はモノ作りに関係する
 分野から生まれてくるのではないかと思っている」


物事の変化は、しばしば振り子のように動きますよね。
一端まで振り切ると、逆の方向に振り戻される。

20世紀は、「モノ」から「サービス」へと向かって
大きく振り子が動いたのですが、まもなく、再び
「モノ」の方向へと振り子が戻り始めるのかもしれません。

投稿者 松尾 順 : 10:28 | コメント (3) | トラックバック

これから何が起こるのか(4)「Web3.0革命」へ

田坂氏は、「Web2.0革命」の3つの革命、すなわち、

・「衆知創発の革命」
・「主客融合の革命」
・「感性共有の革命」


に導かれ、

「企業」も「市場」も「社会」も、そして
「商品」も「サービス」も「ビジネス」も、

すべてが急激な進化を遂げていくと述べます。


さらに、田坂氏によれば、
これから始まる「ユビキタス革命」が「Web2.0革命」に
融合することによって、「情報革命」は

「Web3.0革命」

に向かっていくのだそうです。


では、「Web3.0革命」をもたらす

「ユビキタス革命」

とはどんなものでしょうか?


それは、次の3つの革命として捉えることができます。

---------------------------------------------

・「個人」のユビキタス化

すべての個人が、情報端末を身に着けるようになって
いくことです。「携帯電話」は個人のユビキタス化を
進展させる最も典型的な情報端末です。

ただ、携帯電話だけでなく、自動車や、冷蔵庫、テレビ
などの家電品もまた、情報端末として進化するため、
ますます「個人」のユビキタス化を進展させますよね。


・「商品」のユビキタス化

今後、多くの商品がICタグを内蔵し履歴情報を保持するように
なり、また、商品の表面にはQRコードなどの
「二次元バーコード」が表示され、そのコード経由で
当該商品のサイトに接続できるようになります。

こうして、すべての「商品」が、自分自身について語り、
顧客と対話するようになります。


・「空間」のユビキタス化

たとえば、ホテルのロビーに到着した客のポケットの
ICカードをフロントの情報端末が読み取り、
その客の名前と利用履歴が表示される。

そして、予約した部屋に入ると、客の好みの室温と
好みの香りやBGMが流されている。

このように、すべての空間が、顧客の気持ちを読み、
顧客が望むことを迅速に行う、顧客の「コンシエルジュ」
になっていきます。

---------------------------------------------


さて、この「ユビキタス革命」は、

「情報共有」

の意味を根本から変えてしまいます。


これまでの「情報共有」は、
あくまで人間同士の情報共有を意味していました。


しかし、「ユビキタス革命」では、「情報共有」という言葉は
「人間同士」ではなく、「人間」と「商品」、「空間」の
情報共有を意味するようになっていきます。

上記の3つのユビキタス革命で示したように、
「人間」、「商品」、「空間」のすべてが情報端末を備え、
互いに対話を行うようになるからです。


しかも、この「情報端末」は

「Webの世界」

への出入り口(ゲートウェイ)としても働くようになります。


その結果、すべての「リアル空間」が「ネット空間」と
融合していきます。

リアルとヴァーチャルを分ける考え方はもはや古い。


田坂氏によれば、

「リアル空間」が「ネット空間」と
融合した快適なライフスタイル


それが、

「Web3.0革命」

がもたらしてくれるものです。
具体的なイメージはまだまだはっきりしてませんが・・・


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 10:46 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(3)「Web2.0革命」の深まり

田坂氏の示す「Web2.0革命」とは、
次の3つの革命が基軸となっています。

---------------------------------------------

・「衆知創発の革命」

 誰でも、多くの人々の智恵を集め、新たな智恵の創発を
 促すことができるようになる革命。


・「主客融合の革命」

 情報の発信者、受信者、あるいいは生産者、消費者といった
 これまで別々のもの、すなわち「主」と「客」が一体化し、
 融合し、区別がなくなっていく革命。


・「感性共有革命」

 人々が、「ナレッジ」(知識)だけでなく、
 感情や感動、感覚、感性を共有できるようになる革命。

---------------------------------------------

では、上記3つの革命が、今後どのような深まりを
見せていくのでしょうか?


まず、「衆知創発」は「共感創発」の革命に向かいます。

「衆知」を集めて「創発」を促す方法は、
オープンソースとも呼びます。これは、リナックスのような
ソフトウェアのプログラム開発で採用されている手法ですね。


今後は、このオープンソースの手法がプログラムだけでなく
あらゆる分野に適用されていきます。

限られた専門家の知、すなわち「専門知」よりも、
たくさんの人の知恵を集めた「集合知」の方が正しい答えに
到達できる可能性が高いこともあるからです。

そして、電車男の例で見られたような、
一人の恋愛の行方を2ちゃんねるのコミュニティが応援し、
それぞれの思いが掲示板を通じて伝わっていくことで、
知恵だけでなく「共感」が生まれていく。
みんなの思いが深まっていく。

こんな

「共感創発」

の場があちこち生まれていくことになります。


次に「主客融合の革命」は、
アルビン・トフラーが「第三の波」で予言した

「プロシューマー(生産する消費者)」

を現実のものとしつつあります。

これまでも、消費者のアイディアが開発に
偶然のきっかけで、生かされることもありました。


しかし、今は、ネットベンチャー「エレファントデザイン」が
運営する「空想生活」のように、
消費者の要望を集めてメーカーに開発してもらう

「プロシューマ型開発」

がネット革命によって「仕組み化」されつつあるのです。


製品開発だけではありません。
マーケティングもまた、「顧客」が「企業」に替わって
マーケティングを行うようになってきています。

すでに確立された仕組みのひとつが「アフィリエイト」
ですよね。(ただし、自分が本当に良いと思える商品を
紹介しているかどうかが重要ですが)

顧客が、企業に替わって商品開発、マーケティングを
行う時代、それは

「主客融合革命」

によってもたらされているというわけです。


そして、「感性共有の革命」は、既存のマスメディアの
在り方を根底から変えていこうとしています。

なぜなら、「感性共有革命」は、
これまでマスメディアを担ってきた限られたクリエーター
だけでなく、「無数の無名の草の根の人々」が行う

「草の根メディア」

が社会に対する影響力を高めているからです。


ただ、ここで留意しておきたいのが、

既存の「マスメディア」と「草の根メディア」は
対立関係にあるわけではないということです。

むしろ、お互いをうまく結びつけようとする試みを通じて、

「相互浸透」「相互進化」

のプロセスを加速させています。


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 14:43 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(2) 「web1.0革命」から「Web2.0革命」へ


情報革命による「情報主権」の移行プロセスを
田坂氏は、次のように振り返ります。


移行プロセスの始点は、95年の「インターネット革命」です。

これは「Web1.0革命」とも呼ぶべき革命でしたが、
この革命によって、世の中に次の3つの革命が始まりました。

---------------------------------------------

・情報バリアフリー革命

 これまで世の中に存在した様々な「情報のバリア」が壊され、
 誰でも手軽に、欲しい情報を入手できるようになっていく

・草の根メディア革命

 世の中に「草の根メディア」とでも呼ぶべきものが数多く生まれ、
 誰でも手軽に、自分のメッセージを発信できるようになっていく

・ナレッジ共有革命

 単なる「データ」のレベルの情報だけでなく、高度な「ナレッジ」
 (知識)のレベルの情報が、多くの人々の間で共有できるように
 なっていく

---------------------------------------------

ただ、上記3つの革命は、
当初「革命」と呼ぶには中途半端でした。
なぜなら、それぞれの革命に大きな壁が存在していたからです。

しかし、日本では2000年ごろに始まった

「ブロードバンド革命」

がこれら三つの壁を打ち破り、

「Web2.0革命」

への道を切り拓きました。

田坂氏は、この意味で「ブロードバンド革命」は、

「Web1.5革命」

と呼ぶべきものだと述べています。


さて、「ブロードバンド革命」が打ち破った3つの壁とは、

・通信料金の壁
・機器操作の壁
・文字情報の壁

です。

ブロードバンド革命は、常時接続・定額料金を浸透させ、
情報の「コストバリア」を打ち壊しました。

また、ブロードバンドと同時期に普及した携帯電話やPDAは、
その使い易さのおかげで、パソコンの操作方法や
インターネットの技術を知らなくとも、
誰もがインターネットの世界に入れるようにしました。

さらに、ブロードバンドのおかげで、
ナローバンド時代と異なり、文字情報だけでなく、
データの重い音声、動画も自由に共有できるように
なってきました。


こうして、3つの壁が「ブロードバンド革命」に
よって打ち破られたことで、先ほどの3つの革命は
次のような進化を遂げます。

これが、トム・オライリーが命名した「Web2.0革命」です。

---------------------------------------------

・「情報バリアフリー」革命は、「衆知創発」に進化

 誰でも、多くの人々の智恵を集め、新たな智恵の創発を
 促すことができるようになる革命。
 「情報バリアフリー革命」との違いは、「すでに存在する
 情報」だけでなく、「まだ存在しない情報」(衆知による
 新たな智恵の創造)が入手できるようになる点です。


・「草の根メディア革命」は、「主客融合の革命」に進化

 情報の発信者、受信者、あるいいは生産者、消費者といった
 これまで別々のもの、すなわち「主」と「客」が一体化し、
 融合し、区別がなくなっていく革命。
 「草の根メディア」の使われ方は、
 「情報発信」(コミュニケーション) から
 「協働作業」(コラボレーション)へと深まっていきます。


・「ナレッジ共有革命」は、「感性共有革命」に進化

 人々が、「ナレッジ」(知識)だけでなく、
 感情や感動、感覚、感性を共有できるようになる革命。

 文字情報の壁がなくなり、写真、映像、映画など、
 感覚や感性に直接的に働きかける情報をネットに乗せる
 ことができるようになったことから、
「言葉では表せない智恵」、「言葉を超えた感情や感動、
 感覚や感性」が誰とでも簡単に共有できるようになって
 きました。

---------------------------------------------

これらの「Web2.0革命」が、
どんなサービスとして具現化しているのか、
あなたは容易に思い浮かべることができますよね。
(はてな、You tube・・・などなど)


具体例や、革命の詳細説明については、
ぜひ本書を読んでください。

「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 12:20 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(1)「情報革命」の本質

私たちが生きている今の時代の変化は速すぎますね。
あまりにも目まぐるしくて、わけがわからなくなります。

だから、変化を追いかけることに疲れ、
その意味を読む気力を失ってしまうのかもしれません。


ただ、こうなってしまうのは、物事の表面的な変化にしか
着目せず、その深層にある大きな「潮流」を見ようとしないから
だと思います。


比較的ゆったりと流れている潮流が見えていれば、
その潮流から派生している細かな激しい流れの方向性を
読むのは楽です。

ですから、目に見える現象そのものではなく、
その現象をもたらしている本質的な変化を把握することが、
激しい環境変化に余裕をもって適応する上で有効じゃないで
しょうか。


この本質的な変化を把握する上で役立つ情報のひとつが、
田坂広志さんのお話しや本だと思います。

田坂さんの近刊

「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

では、まさに、これからの社会がどう動いていくのかの
「根本原理」がわかりやすく語られています。


個人的には、すべての社会人に読むことをお勧めしたいと
思いますが、とりわけ、消費者ニーズを的確に読む必要のある
マーケターにとって有益な知見がたくさん発見できますよ!


というわけで、しばらくこの本の紹介をしたいと思います。

自分で言うのもなんですが、
私のブックレビューはかなりしつこいです。(笑)

昨年後半に取り上げた「シンプルマーケティング」は、
全20回にもなってしまいました。

さすがに今回の本はそこまで長くならないと思いますが、
どうかお付き合いのほどを!


さて、「これから何が起こるのか」の基本的な問いは、

“「情報革命」で世の中はどう変わっていくのか”

ということです。


この問いからわかるように、

「情報革命」

とは、これからの社会のあり方に対して極めて大きな影響力を
持つ「大きな潮流」であるということです。


ただ、田坂さんは、

「情報革命」とは、「効率化」「合理化」「コスト削減」の革命

だと考えるのは誤解だと喝破しています。


革命とは、ただ「新しいことが起こる」ことではありません。
革命の定義、それは昔から一つしかないのだそうです。

それは、

「権力の移行」

です。


そして、情報革命で起こっているのは、

「情報主権の移行」

です。

すなわち、これまで「情報の主導権」を持たなかった
「情報弱者」が、その主導権を手にするということです。

具体的に言えば、

「企業」においては「経営幹部」から「一般社員」へ、
「市場」においては「企業」から「消費者」へ、
「社会」においては「官庁」から「生活者」へと

移ろうとしている。

これが、情報革命がもたらす根源的・本質的変化です。


では、この「情報主権の移行」から派生する細かい変化とは
どんなことなのか。

同書では、75の変化にまとめてあります。


次回以降は、これらの変化の中から、
特にマーケターの方に役立つと思ったところを
かいつまんでご紹介しますね。

乞うご期待!

投稿者 松尾 順 : 10:54 | コメント (0) | トラックバック

家族を楽しむ

このところ、幼児~小中学生の子どもを持つ30-40歳代の親を
ターゲットにした「育児・教育誌」の創刊が続いていますね。
(PRIR、2007 January「シリーズメディア研究」)


具体的には次の5誌が挙げられます。

「日経Kids+」
「プレジデントFamily」
「edu」
「AERA with Kids」
「FQ JAPAN」


上記のような最近刊行された「育児・教育誌」の特徴的な点は、
従来の子育て、教育を扱った雑誌のメインターゲットが女性
だったのに対し、男性がメインターゲットになっているものが
出てきたことです。

これはもちろん、子育てや教育に積極的に関わっていいたいと
考える男性が増加しつつあることの反映だと言えるでしょうね。


PRIRの記事では、時事通信社調べのアンケート

「父親の育児参加に関する意識調査」

の結果が紹介されてますが、

‘母親と育児を分担して積極的に参加すべき’

との回答が、20歳代では約50%、30歳代で40%超に達します。
(50歳代では、同約20%、40歳代で同約30%)


すごいですね。

20歳代の男性の2人に1人は、
育児に積極参加したいと考えているわけです。


口先だけじゃなくて、ほんとに育児参加できるのかい
などと、40歳代の私なんかは思ってしまうのですが、
ともあれ

「育児のことは妻に任せる」

という古い考えの持ち主は、
近い将来、少数派になる可能性が高いですね。


さて、同記事の中で、絵本作家/キャラ研の代表取締役社長、
あいはらのりゆき氏は、家族のあり方が変容しつつあるのでは
ないかと指摘しています。

企業と社員との関係のあり方が変化し、
父親が、以前のように会社に依存したり、
会社の中に自分の存在価値を見出すことが難しくなったこと。

一方で、子どもに関する事件やいじめなど、
母親だけで解決できない問題が増加してきたこと。

こうした状況に直面し、父親はただ収入を得ればよい、
威厳を保っていればよいという存在にとどまらず、
家庭をいかに営むかを考えるようになってきたわけです。


また、あいはら氏は、

「親自身も子育てや教育を楽しもうという意識が
 生まれているのではないか」

「父親・母親はかくあるべし、
 という固定概念に囚われることなく、
 自分たち家族の楽しみ方や幸せを目指す、
 という家庭は今後も増えていくと思います」

とも述べています。


収入格差・生活水準格差の広がりという懸念材料は
あるものの、おおむね物質的には充足された日本では、

人生も仕事も家族も、

「いかに楽しむか」

がこれからのメインテーマであることは間違いないと思います。

投稿者 松尾 順 : 10:34 | コメント (2) | トラックバック

企業サイトに群がるネットユーザー

10月26-27日に開催された

「NTT Communications Forum 2006」
の講演の模様が、ストリーミング配信でアップされ、
誰でも無料で閲覧できるようになってます。


スケジュールの都合で出席できなかったリアルなセミナーも
こうしてネットで公開されていれば、いつでも
自分の好きな時に「オンデマンド」で見れますから便利ですよね!


余談ながら、オンライン上で実施、公開されるセミナーを

「Webiner」(ウエビナー)

と米国では呼んでますが、日本では、
まだ一部で使われているだけであまり浸透してませんね。

少なくとも日本語としての「ウエビナー」は、
ちょっと語感がよくないですよね。


さて、余談はこのくらいにして、上記フォーラムの話。


いくつかの講演のうち、

「Web2.0で始まるビジネススタイルの変貌」

と題して講演された
ネットレイティングス株式会社社長の萩原雅之さんの
データを駆使した話が相当面白かったです。


萩原さんの話を聞いて改めて驚いたのが、

ネットユーザーのサイトアクセス行動の変化

です。

中でも、

エンドユーザー(一般消費者)における
企業サイト訪問者数の伸び

が驚嘆です。


萩原さんのプレゼン資料は、
上記サイトからダウンロードできますが、
その4ページには、

サントリー、キリン、日産、本田技研

の4サイトの

2000年4月から2006年9月までの月別訪問者数推移

のグラフが掲載されています。


これを見ると、各社とも2000年4月頃は、
月あたりせいぜい10-20万人程度の訪問者でした。

ところが、2006年直近になると、
サントリー、キリン、日産の月間訪問者数は約200万人と、
この6年間で10倍以上に増えています。
(本田技研も、180万人/月くらいまで来てます)


要するに、大企業のサイトになると
200万人もの膨大な数の消費者が直接、
商品情報、企業情報を取りにきているということです。

今や、企業と消費者は、
サイトを通じたダイレクトなコミュニケーションを
これだけの規模で頻繁に行っているんですね。


ネット以前の商品情報、企業情報の入手ルートが、
店頭、企業が作成した商品パンフや会社案内、
そしてマスメディアにほぼ限定されていたことを考えると、
現在は、企業と消費者のコミュニケーションのあり方が
まったく異なる次元に入ったことを示していますよね。


そして、こうした変化で直観的にわかることは、

「Webサイトを軽視している企業に未来はない」

ということでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 17:12 | コメント (4) | トラックバック

銭湯ランナー

豪華な設備と手ごろな値段のスーパー銭湯が増え、
ますます存在価値が薄くなっている昔ながらの「銭湯」ですが、
思わぬことで、再び人気を盛り返しているところもあるんですね。
(日経新聞夕刊、2006/10/14)


地下鉄半蔵門駅そばのマンションの1階、

「バン・ドゥーシュ」

というしゃれた名前の銭湯には、夕方になると仕事帰りの
ビジネスマン、OLが次々とやってきます。

彼らは、まずロッカー荷物を預けます。
そしてトレーニングウェアに着替えると、
歩道に出て準備体操をし、マラソンの練習。

戻ってきたらお風呂で汗を流してさっぱり。


同銭湯の経営者は、

「一時は廃業も考えたけれど、今は洗い場の拡張を検討中」

だとか。


マラソン客が増え始めたのは、2007年2月に初開催される

「東京マラソン」

の一般申し込みの受付が始まった夏ごろから。


最近は健康意識がますます高まってますが、
ジョギング用のおしゃれなウェアも登場して、
とりわけ、若い女性のランナーが急増しているようです。

皇居周辺なら警官が多く、
夜間に走っても安心なんですね。

ただ、仕事帰りに走ろうとする場合の問題は、
着替えたり、荷物を置いておける適当なところが
なかなか見つからない点でした。

しかし、「銭湯」がランナーのための格好の場所を
提供してくれてありがとうというわけです。

皇居周辺を走る「銭湯ランナー」、
ますます増えそうですよね。


このケース、非常に特殊な状況なので
あまり参考にならないと感じるかもしれません・・・

でも、人々のライフスタイルの変化が、
新たなニーズを生み出すということはしばしば起きている
ということ、それをうまくすくい取れば、
たとえ斜陽産業でも復活できるという可能性を示していると
思いませんか?

投稿者 松尾 順 : 11:46 | コメント (0) | トラックバック

ライフスタイルマーケティング

このところ、「シンプルマーケティング」から、
‘ライフスタイル’をテーマに書いてますが、
ついでに関連本の


「実践講座 消費行動の「なぜ?」がわかる
          ライフスタイルマーケティング」
(ODSマーケティングコンサルティングチーム著、宣伝会議)


も簡単にご紹介しときます。


この本の参考文献は、

「改訂 シンプルマーケティング」
「最新 ランチェスター戦略がわかる・できる」

の2冊です。


実際、同書の内容は、ほとんどシンプルマーケティングで
語られていることが下敷きになっていることがわかります。

ですから、シンプルマーケティングを読んだ人間には
ちょっとものたりない内容です。


ただ、ODS社が30年前から実施してきた消費者調査のデータベース、

「ODS LifeStyle Indicator」

に基づく最新の

「ライフスタイル分類」

が詳細に説明されている点が参考になります。


このライフスタイル分類ですが、
日本人を次の8つの特徴的なグループに分けたものです。
2003年に開発されたもの。

-------------------------------------

1.アチーブ:自立達成型(11.4%)

 知識教養、トレンド情報やアートまで幅広い関心を持ち、
 達成感を糧に自己向上していくタイプ

2.プレジャー:浪費快楽型(10.1%)

 流行モノや通俗的な楽しみとブランドモノが好きで、
 目立ちたい意識のある、楽天的・享楽的なタイプ

3.ナイーブ:感性・感覚型(8.3%)

 目立ちたい意識が強く、流行関心が高く感覚的判断をする、
 未成熟な子供っぽさがあるタイプ

4.リョウシキ:良識社会型(14.9%)

 ビジネス、政治や環境など社会全体に関心が高く、
 社会的な責任感や道徳的意識を持ち、新たな知識教養を
 取り入れるタイプ

5.ヘイオン:中庸雷同型(22.3%)

 家族みんなで穏やかな生活を過ごすために、
 一生懸命頑張っている。無難で人と同じであることを
 望むタイプ

6・キハン:保守規律型(13.3%)

 性的道徳や地域社会へのかかわり、お中元・お歳暮といった
 慣習など、昔ながらのモラルを、誠実真面目に遵守するタイプ。

7.ヤリクリ:やりくり倹約型(9.9%)

 経済的余裕も精神的余裕もなく、どうにかやりくりして
 毎日を過ごしている。頑張る気持ちもあるが、すぐ現実逃避
 したがるタイプ。

8.クール:静的無関心型(9.8%)

 物事に対する関心が低く、自ら何かを発信することに
 思い入れがなく、世の中をナナメに見ているところが
 あるタイプ。

-------------------------------------


このライフスタイル分類の主な活用目的は、

ライフスタイル分類と、
商品・ブランド・コミュニケーションとの因果関係を明らかに
することによって、商品が売れたり、売れなかったりする理由を
構造的に解明すること

です。


たとえば、シャープの液晶テレビ‘AQUOS’がヒットしたのは、

・よくテレビを観ており、かつ高額商品を購入できる経済力
 を持つ「リョウシキ」を着目した。

・「最新鋭の国内工場で生産」「環境に優しい」といった
 コンセプトが、国産を好み、環境意識の高いリョウシキから
 共感を得た。

・自宅のリビングなどにおいても違和感のないデザインが
 「良質で高級感」を求める「リョウシキ」の価値観に合致
 していた。

・リョウシキに人気の高い吉永小百合を広告キャラクターに
 採用した。

といった理由が挙げられています。

さらに、「リョウシキ」からの影響が大きい
「ヘイオン」や「ハキュウ」へと波及させることができたのが
大ヒットにつながった理由です。


同書には、他にもいろいろと具体例が掲載されてますので
一読の価値はあるでしょう。

投稿者 松尾 順 : 09:36 | コメント (3) | トラックバック

パズル制作者が失業する日

1997年、米IBMのコンピューター「ディープブルー」が、
世界チェスチャンピオンのガスパロフ氏をチェス対決で破った時、
私たちは、大きな衝撃を受けましたよね。

チェスのような高度なゲームをする能力は、
人間の知能だからこそ持ちえるものだと考えていたのに、
コンピューターがそれを上回ってしまったことに、
一種の恐怖を感じたのかも知れません。


さて、チェスほどの話題にはなってませんが、
イタリアのシエナ大学が開発した「ウェブクロウ(Web Crow)」
は、クロスワードパズルを解く能力で人間を上回る能力を
証明したそうです。

「ウェブクロウ」は、いわゆる「人工知能」
(AI:Artifitial Intelligence)の技術を使って開発された
ソフトウェアです。

日経産業新聞(2006/08/07)のコラムによれば、
辞書や百科事典をデータベースに組み込むことで、
自然言語の体系やさまざまな知識を学習し、

「右の反対は?」
「九月を陰暦でなんと呼ぶ?」

といった程度の問題は答えられるようになってきたそうです。


そして、「ウェブクロウ」がIBMの「ディープブルー」と
大きく違うのは、インターネットの検索エンジンと接続している
点です。

ウェブクロウは、クロスワードの設問の中からキーワードを
抜き出しネットで検索、関連語を抽出して試行錯誤で正解を
発見していきます。

ウエブクロウが接続しているのは、おそらくグーグルでしょうね。

グーグルの高度な検索技術とインターネットという巨大な情報源の
おかげで、ついにパズルの分野でもコンピュータが人間を上回る
性能を持ち始めたわけです。


日々新しい情報が更新されるインターネットだと、
過去の知識だけでなく、最新の時事問題にだって簡単に対応
できますし、日本語に対応させることだって問題なし。

しかも、ウェブクロウの技術を逆に使うと、
気の利いたパズルが簡単に制作できるようになります。

そうすると、近い将来、パズル制作者が失業する日が
間違いなく来るということです・・・


考えてみれば、クロスワードパズルを解くことは、
主として言語情報の記憶に頼っています。

多少連想を働かせる力が必要ではありますが、
頭の中に蓄積した過去の情報、知識の再生力に依存するところが
大きいですよね。

しかし、この能力は、そもそもコンピュータが得意な領域であり、
人間を凌駕するマシンが出てくるのは時間の問題だったわけです。

ただ、それはインターネットという巨大な外部脳の成長が
不可欠だったのでしょうけど。


あまり愉快な話ではありませんが、今後も
人間にしかできないと考えられていたことが次々とコンピュータで
代替されていくことは、こうした事象を見ていればはっきりと
「予見」できますよね。

こんな時代、
あなたがいい仕事をするために伸ばすべきスキルは何なのか、
現実を直視して考える必要があると思いませんか。


英文ですが、以下は「ウェブクロウ」の記事です。

●COMPUTER BEATS HUMANS AT CROSSWORD PUZZLES

投稿者 松尾 順 : 10:30 | コメント (0) | トラックバック

9月の夏休み

最近、8月のピークシーズンを避けて、
9月に夏休みを取る人が増えているんですね。

お盆の時期に一斉休みを取るのは、
製造業が多い(工場の稼動上その方が都合がいい)のですが、
近年は、サービス業で働く人の割合が高くなり、
むしろ交代で休んだ方が都合がよくなりましたからね。

また、休みが集中すると行楽地が混んじゃいますから、
夏休みは分散して取りましょうという風潮も少しずつ
強くなってきてました。


ただ、上記の理由以外にも、
9月の旅行が増加している要因には「ネット予約サイト」
の影響があるようです。(日経MJ、2006/08/11)

ネット予約サイトのメインユーザーは20-30代。
彼ら若年層は、独身であったり、まだ子供がいないことが多く、
子供の夏休みに合わせる必要がありません。

また、ネット予約サイトでは、
他の時期に比べて8月の客室在庫数が少なく、
予約が取りにくい状況があります。

このため、子供に制約されないユーザーが、
予約の取りやすい9月へと旅行時期をシフトしつつあるわけです。

実際、高級ホテルのオークション予約サイト「一休」では、
9月の予約件数が前年度の60%増。8月は同27%増ですから、
9月への旅行シフトが顕著です。

他のネット予約サイト「ヤフートラベル」や「楽天トラベル」
でも9月の予約数の伸びは、8月よりも上回っています。


さて、日経MJには触れられていなかったのですが、
上記の夏休み時期シフトの背景には、
このところ取りざたされている、「晩婚化」「少子化」と
いう大きな社会的変化がありそうです。

近年の晩婚化、言い換えると独身者、そして、
結婚しても子供を作らない夫婦が増えているのは数字で
明確に現れていますよね。

身軽に動ける独身者、あるいは子供なしカップルの比率は
今後も増えていくことでしょうし、彼らの消費行動が
ネット予約サイトを通じて顕在化し、
旅行時期にも影響を与え始めたと考えるべきかも知れません。
(現時点ではあくまで「仮説」ですが)


消費者心理・消費行動を読む場合には、
消費者一人ひとりの心理の機微を理解するだけでなく、
こうした大きな社会的なトレンドを併せて把握しておく
必要がありますね。

投稿者 松尾 順 : 14:19 | コメント (0) | トラックバック

個人によるグローバリゼーション(続き)

国境を越え、かつ企業の組織の枠を越えて、
個人同士がつながりあう。

目的に応じてヴァーチャルなドリームチームを作れば
大きな仕事だってこなせてしまう。

個人によるグローバリゼーションの時代はすでに
社会や企業の仕組みを根本から変えつつありますよね。
(日本はまだまだ守られているので実感薄いですけど・・・)

こうした大変革は、ある人にとっては「機会」(チャンス)
であり、逆に、ある人にとっては「脅威」です。


そして、今最大の「脅威」を感じているのは、
実は以外にもその道の「専門家」です。

専門家は専門領域の「スキル」をばら売りしているわけです。


「スキル」とは、端的に言えば、普通の人よりも、
専門業務をこなすことに慣れている、早い、間違いがないという
「業務の卓越性」のことです。

しかし、たいていの場合、
その「スキル」は、他の誰かと代替可能です。
(極めて才能があって、
 成果物が「芸術」の域に達している人を除いて)


例えば、会計処理のスキルは、スキルだけを取り出すなら、
どの会計士に頼んでもほとんど同じ。
成果としての「決算書」は同じです。

システム開発のプログラミングだって、
もちろん精査すれば優劣があるのでしょうけど、
一定以上の品質に達していれば、
プログラマーが誰かは、あまり問題ではない。


だったら、利用する側としては、
できるだけ安い方がいいですよね。

費用対効果を考えたら、結論はこうなります。


要するに、

「業務の卓越性」(オペレーショナル・エクセレンス)

だけで勝負していると、同じ技量を持つ別の安くやれる人、
そして、今は他国の安い人に仕事を取られてしまう可能性が
高くなっているのです。
(他国の安い人、というのは経済格差上そうなっている
という意味で、差別的意味合いはありません。)


すると、スキルを売っている専門家の人たち
(実際は、一般のビジネスパーソンもその道の専門家と
 呼べますので、ほとんどの社会人が該当すると思います)
に残された戦略は、次の2つになります。


★顧客親密性(カスタマーインティマシー)

 いわゆる「CRM」(Customer Relationship Management)。
 個々の顧客との関係を深め、感情的絆を結ぶ。


★製品(サービス)リーダーシップ

 斬新なアイディア、明確なポジショニングに基づく製品開発。


では、上記戦略を実現するための具体的な方策は?

企業レベルでは複雑な仕組み・仕掛けにならざるを得ないので
個人レベルで言うなら、


★顧客親密性のためには、顧客の心を読む力を高めること

 我田引水、「マインドリーディング」を学びましょう。(^-^)
 より詳しく言うなら、「人」に関心を持ち、世の中の様々な
 事象の背景にある人の「心」と「行動」のつながりを理解
 することに努めましょう。


★製品リーダーシップのためには、発想力を高めること

 異質な情報を貪欲に仕入れ、自由自在に組み合わせる方法を
 学びましょう。ひとつの選択としては、「編集学校」があります。


最後はいきなりベタな結論に持っていってしまいましたが、(⌒o⌒;
個人によるグローバリゼーションの時代には、
もはや、企業が社員を守ってくれることはありません。

企業もまた、優秀でかつ労働コストの安い人を求めています。
そうしないとグローバルな競争に生き残れないからです。


ですから、一人ひとりが自律的にキャリア戦略を立案し、
実行しないと、自分の知らない遠くの国の誰かに仕事を
奪われてしまうかもしれませんよ・・・
(自戒をこめて)

投稿者 松尾 順 : 10:42 | コメント (0) | トラックバック

個人によるグローバリゼーション

最近話題のビジネス書、

「フラット化する世界」(上・下)
(トーマスフリードマン著、日本経済新聞社)
>上巻
>下巻

はお読みになりましたか。

この本は昨年、欧米のエグゼクティブたちに最も読まれた本の
ひとつだそうです。

私も早速買いましたが、まだ積読状態です・・・(⌒o⌒;


しかし、この本のキモは、私が先日参加した夕学五十講の講演の中で、
一橋大学教授の一條和生先生が解説してくれましたので
ご紹介したいと思います。


この本では、「グローバリゼーション」を
次の3つの段階でとらえているそうです。

・国によるグローバリゼーション
・企業によるグローバリゼーション
・個人によるグローバリゼーション


国によるグローバリゼーションは、
コロンブスの新大陸(米国)発見の年、
つまり1492年から1800年くらいまでの時代。

スペイン、オランダ、ポルトガルといった国々が
世界に乗り出し、植民地化を進めた。まさに、
国による世界進出ですね。


企業によるグローバリゼーションは、
1800年~2000年までの時代。

イギリスの産業革命による工業化以来、
資本主義下の企業が台頭。

新市場、あるいは生産拠点を求めて世界に乗り出した
企業による世界進出です。


そして、個人によるグローバリゼーションは、
2000年に始まっています。

2000年は、「Google」が表舞台に登場し、
インターネットが社会やビジネスのあり方を
根本的に変えてしまう可能性を予感させた年です。


Googleのリスティング広告、また各種アフィリエイト広告
の仕組みは、貧困に苦しむ発展途上国の一個人が
世界を相手に稼ぐことのできる機会を提供しています。
(アフィリエイトで彼らが手にする、わずか数セント、数ドル
のお金が、彼らの国ではどれだけの価値を持つか、容易に想像
できますよね)


また、米国人の所得税の申請書作成業務は、
相対的にコストの安いインドに流れています。

ITシステム開発に関わるエンジニアたちの仕事も同様に、
インド在住のエンジニアが奪いつつある。

モノの生産拠点としては、低コストの膨大な労働力を抱える
中国がダントツ。


インターネットの浸透によって、時空を超えて業務プロセス
(研究開発→生産→販売・マーケティング→物流と流れる
 バリューチェーン)が成立するようになったわけです。


ただ、日本では、この大きなパラダイムチェンジの脅威を
十分に実感していないようです。

言語や文化の壁が、「有効」に機能しているのでしょう。

私が独立前、プロジェクトマネージャーとして働いていた
システム開発のベンチャー企業では、ロシアに開発拠点を
置いていました。

確かに、英語ベースのソフトウェアについては、
ロシア人の優秀なエンジニアによって低コストで開発が
できました。

しかし、そのソフトの販売先は日本です。

日本語化(ローカリゼーション)のためのコストが別途
必要となり、結果的にロシアの開発拠点の高生産性が
あまり活かせていませんでした。


しかし、遅かれ早かれ、日本もまた、
「個人によるグローバリゼーション」の波に
丸ごと飲み込まれてしまうのは間違いありません。


このような状況で、欧米や日本の企業、あるいは個人は
どこに競争力の源泉を求めるべきなのでしょうか?

これについては明日に回します。(^-^)

投稿者 松尾 順 : 09:52 | コメント (0) | トラックバック

巨大な外部脳が促進する企業の進化と淘汰

昨日書いた、

ダイハツ カフェ プロジェクトの「なんだかなあ」体験、
結構な反響がありました。

やはり、ナマの事実情報は人の心を刺激する力が強いですね。

販売店訪問時のことを補足すると、
確かにスイーツ目当てで行ったしたものの、せっかくだから
ということで、展示してある車はしっかりと見ましたし、
発売されたばかりの新型車「SONICA」は、
スポーティな外観、ターボ付エンジンなのに燃費も23km/リッター
と、かなり心惹かれるものがあったんですよ。


さて、実は、営業マンの対応に納得できなかった妻は
ダイハツのコールセンターに電話をかけたそうです。

電話に出たオペレーターの方は、素直に非を認め謝罪をしつつも、

「販売店でのことは、そのディーラーの本社に言って欲しい」

という絵に描いたような脱力系典型的模範回答。

さすが、見事なフィニッシュです!
最初から最後まで一貫した「なんだかなあ」体験を味わわせて
くれました。(笑)


まあ、これ以上はもういいや、
今回の不愉快な体験は、さっさと忘れてしまおう

ということなんですが、ともあれ、

こうしたブランド体験は、
いいことであれ、悪いことであれ、
個人がどんどんブログに書くべきだと思います。

できるだけ事実を中心に。
もちろん、そのときの感情や意見、文句も書いていいと
思いますが、単なるグチや批判にならないように。


今、ブログなどでブランド体験を書き、公表するということは、
インターネットという「巨大な外部脳」に個人的記憶を移すと
いうことです。

すると、「個人的記憶」が、
多くの人が共有できる「集合的記憶」になります。

しかも、その場で忘れ去られてしまう短期記憶ではなく、
ドメインが生きている限りは「長期記憶」として止まり、
いい情報も悪い情報もどんどん蓄積されていきます。

私個人としては忘却の彼方に行ってしまう出来事が、
インターネット上では、
いつでも参照できる長期記憶として共有される。


これは、どういう事態をもたらすか明白ですよね。
すでにその徴候は見えているわけですが。


ネガティブな情報が外部脳に蓄積されていく
「ダメダメ・カンパニー」は、あっという間に顧客離れを招き、
さっさと淘汰されてしまう。

逆に、ポジティブ情報が蓄積されていく「グッド・カンパニー」
には顧客がどんどん集まる。スタッフの志気も上がり、
ますますクオリティが向上し進化していくことになるでしょう。


つまり、一般個人がネット上でどんどんブランド体験を公開
することは企業の進化と淘汰を促進し、結果的に
気持ちよいブランド体験をする機会が増えるというわけです。


さて、
ダイハツさんは本来的には堅実なまじめな会社だと思います。
今後、淘汰されてしまわないように奮起を期待します。

投稿者 松尾 順 : 10:05 | コメント (1) | トラックバック

同じ土俵で勝負しないこと

まだ1年も経っていないのですが、
本郷三丁目の駅前に昔からあった古い喫茶店が大改装を行い、
今風のモダンなカフェになりました。

といってもプレミアムカフェの「スタバ」風ではなく、
低価格カフェの「ドトール」風の設計でした。


改装費用は1千万円は超えていないと思いますが、
5百万円以上はかかっているでしょう。

オーナーについてはよく知りませんが、おそらく個人経営。
かなり思い切った投資だったんだと思います。


問題は、真正面に「ドトール」があったことです。

ドトール自体も随分前からありましたが、やはり1年ほど前に、
10mも離れていないところに新店舗を出して地域シェアを
高めています。


さて、改装したカフェについてよくわからないのが、
ドトールが最大のライバルだとわかっていたはずなのに、

「なぜ、ほぼ同じスタイルのカフェで真っ向勝負を
 挑んだのか?」

ということです。

名もない喫茶店が、同じ土俵で勝負してドトールに勝てる
はずはありません。ワールドカップで日本チームがブラジルに
勝利する以上に難しいことですよね。


このカフェは、どうやらパスタ類を提供するのを
「ウリ」にしてたようです。

確かに、ドトールではパスタは出してませんが、
レンジでチンの即席パスタでは、
ドトールとの差別化のための切り札にはなりえない。

パスタを出すなら、玄人をうならせるレベルの味にするとか、
あるいは、高さ1メートルのビッグパフェとか、
奇想天外なものでもいいので、なにかひとつ目玉商品がないと
客はドトールに流れるのになあ・・・

といつも店の前を通りながら思ってました。


そして、予想していたとおり、
とうとう先日、閉店の張り紙が・・・。


しょせん、私は傍観者であり、好き勝手に偉そうなことを
書いているとは思いますが、

「競合とは違う明確な何か」

がなければ客は来てくれないことは明白なはず。

つまり、競合と同じポジションではなく、
違うポジションを狙った新たなコンセプトのカフェに
しなかったのが、不思議でなりません。

投稿者 松尾 順 : 08:42 | コメント (1) | トラックバック

拒否集合の増大

「新しいパソコンを買いたい!」と思い立ったとします。
その時、あなたはどうやって購入機種を絞り込んでいきますか。

まさか、世の中に存在するすべての機種を調べることは
しないですよね。

普通は、デスクトップかノートパソコンかといった
大きな仕様の違いや、だいたいの予算枠を決めた上で、
自分が知っている(思い出せる)メーカーの中から、
買いたい機種候補をいくつか挙げていきますよね。


ここで、自分が知っているメーカー名(および機種名)
のことを

「知名集合」

と言います。

知名集合に入るのは、やはり次のような大手どころになると
思います。

ソニー、富士通、NEC、パナソニック・・・など。


そしてさらに、「よし、この機種の中からどれかに決めよう」
と、購入をじっくり検討する製品群のことを

「考慮集合」

と言います。(ベタな言い方をすると「買いたいやつリスト」)

もちろん、「Mac命!」の人は最初っから
「Apple Computer」しか思い浮かばないし、
考慮集合にはMac製品しか入らないでしょうけど。(^-^)


ただ、大手量販店に行くと、そういえばSharpのパソコンも
あったな、とか、SOTECのようにお手頃価格で買えるメーカーが
あるのを知ることができます。そうすると、そうした新たに
知ったメーカーの中からも、購入機種候補が出てきますね。

つまり、「買いたいやつリスト数」が増加するわけです。

さらに、あなたがインターネットを活用すると、
エプソンとか、マウスコンピューターとか、
さらにたくさんの新たな候補を発見して、
ますます考慮集合が膨れることかもしれませんよね。


つまり、ネットを活用するかしないかで、
私たちの情報量に大きな差が生じ、
「考慮集合」となる「買いたいやつリスト」の数に
大きな差が生じてくるということです。

ま、これはもっともな現象ですね。


清水聰先生(明治学院大学教授)は、
ユーザーのインターネット活用度合いと考慮集合の関係について、
自動車の購入を対象に調査されていて、
上記のような、

インターネットユーザーにおいて
考慮集合が増加する傾向を検証されてるんですが、
その傾向よりもっと興味深いのは、

「このメーカー(機種)だけは買いたくない」
(買いたくないやつリスト)

という

「拒否集合」

もまた、インターネットを活用する人の方が多くなるという点です。


インターネットだと過剰なまでの情報が簡単に集まりますが、
その情報を元に「買いたいやつリスト」に入れるものを選別
していくのと同時に、

「あー、こいつは明らかに使えない」


というものもわかるので、「拒否集合」に入る数も増えて
しまうというわけですね。

以前は、情報量が限られてましたから、買いたいものは
ある程度見えてきても、買いたくないかどうかという
ネガティブな判断はできませんでした。

しかし、情報入手が容易なネットの時代では、
駄目な商品はばっさり斬られてしまうわけです。


清水先生は、

「企業にとってインターネットは両刃の剣となることが
 明らかにされた」

と上記研究を収録した著書、

「戦略的消費者行動論」(清水聰著、千倉書房)

で書かれていますが、ほんと、他社と横並びの平凡な製品しか
市場に出せないメーカーは、すぐに「拒否集合」に入れられて
しまって日の目を見ることがない、
そんな厳しい時代になっちゃったんでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 10:56 | コメント (0) | トラックバック

インターネットマガジン休刊

インターネットマガジンがとうとう休刊ですねぇ・・・

同誌が創刊されたのは1994年9月でした。
94年は、日経新聞などで「インターネット」の進展が
頻繁に取り上げられ始めた年で、私は、
「インターネットのメディア登場元年」と呼んでいます。


当時、私はシンクタンクの研究員でしたが、
インターネットのただならぬ動きに注目し、大いに興味を持ち、
自分の目で、「ホームページ」がどんなものか、
見たくて見たくててたまらなかったですね。
(まじめなやつも、エロいやつも・・・)

もちろん、まだインターネットは、一般社員が使える環境には
なっていませんでしたし、個人で契約するにしても、当時は
従量課金で月数万円以上、とても手が出せない。

そんな頃、ほぼ唯一のインターネット専門誌としてワクワク
しながら読んだのが「インターネットマガジン」でした。


95年前半には、ベッコアメインターネットが個人向けに
定額制のネット接続サービスを開始し、私もちゅうちょなく
飛びつきました。

以来、私はどっぷりとインターネットの世界に浸かり、
いわゆる「インターネットマーケティング」の領域での
活動がかなりの割合を占めてきました。


インターネットマガジンは、私もいつしか購読しなくなって
いましたが、それは、インターネットをどう使いこなすか、
という段階から、インターネットをどのようにビジネスや
マーケティングに応用するか、という段階に入った頃の
ように思います。


インターネットマガジンの休刊の理由は、

社会全体に大きな影響を与えるまでに進化したインターネットを
一つの(総合)月刊誌でカバーすることがむずかしくなった

からだそうです。


考えてみれば、もはや「インターネット」という言葉は
あまりに当たり前すぎてほとんど使いませんよね。

インターネットは暗黙の前提としてわざわざ言うまでもない。

いきなり、「Web2.0」とか「マッシュアップ」とか
個別の話題に入るようになりました。


これまでは、インターネットの「量的な側面」、つまり
普及率といったことが話題の中心でしたが、これからは、
ネットのより深い活用、つまり「質的な側面」が注目
されるわけです。

これは、弁証法でいう「量から質への転化」が始まっている
と言えるんでしょうね。量的な変化がある時点で質の変化
へとつながるということです。

そうやって物事は進化していく。


田坂広志さんは、「量から質への転化」のタイミングは、
そのキーワードがメディアで取り上げられなくなった時
だとおっしゃってました。

メディアは常に新しいものを追いかける。

新しい言葉、そして、その言葉が指し示す意味なり概念が
すっかり定着したた時、メディアは、その言葉は
取り上げるだけの価値があるとはみなさなくなる。

つまり、メディアは言葉を消費してしまうわけです。
しかし、それは、その言葉の終わりを意味しないのです。

むしろ、そこから質的な転化、新たな進化が始まるという
ことだそうです。

インターネットマガジンの休刊は、インターネットの量から
質的転化を示すひとつの徴候でしょうね。


ともあれ、インターネットマガジンにはお世話になりました。
ありがとう。

投稿者 松尾 順 : 18:16 | コメント (0) | トラックバック

前向きな中国の消費者

オンラインモニター(回答協力者)を抱えるネットリサーチ会社
は、日本市場が飽和状態なのかどうかわかりませんが、
外国進出を本格化させるところが増えていますね。

特に今、調査ニーズがあるのは、
やはり日本企業が積極的に進出している「中国」のようです。
(近い将来は「インド」でしょうね。)


昨日の日経産業新聞(2006.05.11)によると、
インフォプラントさんは、今月中に自前で集めた現地モニターを
使ったネット調査を開始するそうです。

これまでは、現地提携先のモニターを利用してきたのですが、
選択式の調査をやると、全体的に回答が前向きな方にブレやすい
という傾向が分かってきたとのこと。

そこで、自前のモニターに対しては、選択式回答に加えて
「自由回答」を中心にした調査を実施できるようにして、
中国消費者の本音を引き出すようにするそうです。


「回答が前向き」という意味が、この記事だけではもうひとつ
はっきりしません。

そこで勝手に推測してみますが、
高度成長期が続き、消費意欲も高い中国ですから、
「いけいけどんどん」「ポジティブシンキング」のかたまり、
何事にも鷹揚で肯定的な消費者が多いのかも知れません。


海外調査の場合、個別の回答者に起因する違いだけでなく、
上記のような国民性の違いや、時代の気分のようなもので、
回答に偏りが出てくることを注意する必要があるんですね。


そういえば、同じ日の日経産業新聞の別の記事では、
某日本企業の中国現地会社の社長を最近、
日本人から中国人に切り替えているということが
書いてありました。

なぜなら、日本人は「改善」はできるが「改革」はできないから。

猛スピードで変化しつつある中国では、やはり
中国人じゃないと迅速、大胆な意思決定はできない、
と判断したようです。


成熟国家の日本で暮らしていた気分のままで、
成長国家の中国に赴任しても通用しないんでしょう。

調査モニターの意識が日本と中国で違ってくるのも
こんな話を聞くと当然だと思えますね。

投稿者 松尾 順 : 07:40 | コメント (0) | トラックバック

成功するために失敗する

人気メルマガ「プレジデントビジョン」の今週のゲストは、
人材採用や営業のコンサルティング会社「ワイキューブ社長、
安田佳生氏です。

安田さんは、物言いが実にストレートなので私は大好きです。
(面識はないのですが)

ワイキューブは、営業電話をかけまくる「プッシュ型営業」
から、問い合わせを増やして売りにつなげる「プル型営業」
に転換して成功した会社です。

「プル型営業」のことを同社では「反響営業」と言ってますが、
これは要するに「見込客創造」のためのマーケティングに重点を
移したということですね。


安田さんは、広報についての考え方も実にユニークです。

メディアに記事として取り上げてもらうために一番大事なのは
文字通り「ニュース性」があるかどうか。

目新しいこと、変わったことじゃなきゃ掲載する価値が
ないわけです。

安田さんはこのあたりの理解を踏まえて、

「必要のないことをやれば、記事として扱ってもらえる」

と言い切ってます。

それで、安田さんが実際にやったのは、例えば
社員用に1本1万円のオリジナルの傘を作ったこと。

社員200人に配ると200万円の費用です。

これは常識的な経営判断では「無駄遣い」。
必要のないことにムダ金を使っているということになります。

しかし、こんな不必要なことをやるからこそ、
ニュース価値が出てきてメディアが寄ってくる。記事になる。

200万円の広告費用をかけるよりよっぽど安上がりで、
かつ社員満足度も上がるのです。

ワイキューブのオフィスも、地下にバーを設置し、
ワインセラーもあったりと、仕事をやる場所という視点で
評価すると不必要なものだらけ。

でも、あちこちの媒体で紹介された結果、
ブランド価値は確実に向上してますからね、
外野がケチをつけるわけにはいきません。


安田さんの成功するための考え方も本質を突いていると
思います。

成功パターンを学ぶのではなく、逆説的ですが、
失敗パターンを学ぶべきだというんですね。
売れない理由、反応がない理由を解明してつぶしていく。

安田さんによれば、失敗パターンは20パターンくらいだそうで、
それらをつぶしてしまえば、ある程度明確な成功曲線を描ける
のだそうです。

大事なのは、実際にやってみて失敗しないと駄目だという点。
失敗を避けていては失敗から学べないということ。


全くその通りだと私も思います。

過去の成功者である大手企業が成功し続けることが難しいのは
ここにあるんだなと思いました。

現在の事業で儲かっていると失敗による損失を恐れてしまい、
新たなチャレンジができなくなる。失敗もしないかわりに、
新たな成功曲線も見えないので新興企業にしてやられてしまう
わけです。

投稿者 松尾 順 : 10:23 | コメント (0) | トラックバック

存在の耐えられない軽さ

ファスナー(ジッパー)と言えば・・・?

そうですね、「YKK」です。

YKKさんは、

「言わずと知れた」ファスナー市場のトップブランド

のはずでした。

確かに世界70カ国・地域、世界シェアは、現在も約46%と磐石。


ところが、2004年春、知名度調査の結果にYKKの役員陣は
愕然とします。

野村総研が実施した調査によると
30-50代で、「YKK」を知らない人は5%以下であったのに対し、
20代は、10人に1人が、10代では、10人に3人が「YKK」を
知らないと答えたのです。

YKKの役員陣が驚いたのは、自分たちは知名度が高いと
思い込んでいたからです。しかし、若年層に限って言えば、
思い違いだったことが事実として突きつけらたわけですね。


私は現在42歳ですが、
小さい頃から繰り返し見たテレビCMのおかげで、
「YKK」のブランドが頭にこびりついています。

CMの最後に「Y・K・K」と、社名を言う男性の声を
今でも明瞭に思い出します。
調査結果が示すとおり、30代以上のほとんどの方が、
あの男性の声を覚えてるんじゃないでしょうか。

YKKの主力商品、「ファスナー」はいわゆる「産業材」です。
バッグや衣料品の部材として利用されるため、最終消費財メーカー
と比べると、元々消費者にとっての「存在感」は軽い。

でも、YKKさんは60年代からテレビCMに力を入れ、
一般消費者でさえもよく知っているブランド力を築くことに
成功していたわけです。

よく産業材のブランディングの成功事例として、
パソコンの部材であるCPUの「インテル」
(インテル、入ってる!)が紹介されますよね。

でも、「YKK」は、インテルの取り組みのはるか昔から、
産業材ブランディングに取り組んでいたんです。


さて、近年、20代以下での知名度が低くなったのは、
80年代後半から、テレビCMを控えたためだそうです。

産業材だけに、広告量の減少がブランド知名度の低下に
如実につながっていることがわかります。


YKKさんとしては、これ以上の存在の軽さには耐えられない
ということでしょう。

これ以上の知名度低下は、優秀な人材の確保にも支障をきたす
可能性もあります。

そこで、YKKさんは、

「一般消費者への露出を高めること」

を重要な経営課題として位置づけ、
2005年度は、2001年度の3倍の広告予算を投下しています。

そういえば、昨年後半、JR山手線の車体広告で、
YKKのファスナーを描いたものをよく見かけました。


知る人ぞ知るで良いマイナーな産業材なら別ですが、
消費財に組み込まれてとしてマス市場を狙っていくメーカーなら、
一般消費者向けブランディングも重要なマーケティング施策
なんだということを再認識させられますね。

以上、日経産業新聞(2006.03.22)の記事を元に書きました。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

団塊の性感帯

団塊の世代はここまで死ぬほど頑張ってきた人たち。

ところが、年金をもらっておいしい思いをしているのは前の世代。

団塊の世代は、我々も

「頑張れば先輩たちのようになれる」

と思ってたら、

世間が「ルールが変わった」「実力主義」だと言い始めて、
やや理不尽な思いがある。


そこで、

「頑張りましたよね、先輩!」

とくすぐってやれば、

「そやろ?」

と返してきます、間違いなく。(笑)

「団塊」の“性感帯”はそこじゃないですか。


と言うのは、元吉本興業常務の木村政雄氏です。
(プレジデント、2006/0403)

さすが、元やすきよのマネージャーだけあって、
絶妙な言葉を使ってきますね。


人は誰でも、「認められたい」という承認欲求があるものですが、
団塊の世代は、日本経済の高度成長に貢献したのが我々だという
自負があるだけに、人一倍「認められたい」という欲求が強い。


ですから、その思いをうまく「攻める」のが、
団塊の世代を「イかせる」コツというわけです。


また、木村さんは、団塊の世代の特徴として、
社会との関わりがものすごく強かったので、

「社会の役に立ちたい」

という思いが非常に強いそうです。


このため、退職、引退によって社会との関わりが断ち切られるのが
つらい。そして、木村さんの言う「賞味期限切れの自分」を
認めたくはない。

だから、彼らの「賞味期限」を伸ばしてあげることが
求められているのです。

これは、言い換えると自分の「存在意義」の再生でしょう。


というわけで、木村さんが考えているビジネスアイディアは、

・定年後、行く場所と名刺を失って困っている人たちを対象

・いい場所にビルを借りて「○○株式会社」を立ち上げ、
 フロアをブースで仕切る

・そこでは、仕事をしても、新聞を読んでいても良い

・名刺の肩書きは、「顧問」だとお情けみたいだから、
 功成り名を遂げた感のある「相談役」

・月会費は5万円程度

といったもの。

これで、同窓会でも、ご近所でも「面目」が立ちますよ、
ということだそうです。


このアイディア、いわゆるレンタルオフィスの延長で
すぐにでもできそうですね。

傍目から見ると、形式を整えてあげるだけのサービスに
しか過ぎず、ちょっと空しさが漂ってきますけど。


でも、「面目を立てる」ことはまさに体面的、
つまり表面的な問題ですから、団塊の世代の方々の
存在意義を再生させるベストソリューションかも知れません。

投稿者 松尾 順 : 12:36 | コメント (0) | トラックバック

スポーツ縁

トリノ五輪がいよいよ始まりますね。

リアルタイムで見ようと思ったら寝不足必至ですから、
ほどほどにしとかないといけません。

特に、私のように、

[私のボスはわたしです]

の労働環境だと、仕事そっちのけになってしまう
可能性ありますし。(⌒o⌒;


さて、オリンピックに限らず、「スポーツ」は、
これから最も有望なエンタテイメントですよね。

「最も有望なエンタテイメント」というのは、
消費者視点で言い換えると、

「消費者が一番求める商品(サービス)」

だということです。

なぜなら、人と人のつながりを回復させてくれる力が
あるから。


以前は、同じ地域、場所に住んでいるという「地縁」や、
親兄弟親戚といった、「血縁」というもので、
お互いの「つながり」を感じることができました。

また、地縁の場合は、お祭りのような行事、
血縁の場合は、お盆やお正月に親戚みんなが集まる
といった機会を通じて、
「つながり」を再確認しあうことができましたよね。

今でも地方では、地縁、血縁が強いところ
がたくさん残っていると思います。

しかし、都市を中心に人はどんどん孤立化しつつあります。

いちおう住んでいる地域で町内会は作られているけれど、
実際にはほとんど顔を合わせることもない。
祭りも開かれることが減っています。

家族内でも、それぞれが個室を持ち、ばらばらに行動するのが
当たり前。食事時間もみんな違う。無理に時間を合わせない。

携帯電話という個人メディアの普及によって、
隣の部屋の親兄弟より、遠方の友人との間の方が、
よほどたくさん言葉を交わしている。

こんな風に、単に同じ地域、家にいるだけで、
実際には、「心はつながっていない」状態です。

でも、みんなそれでいいとは全然思っていない。

なんたって、人間の三大本能は、食欲、性欲に加えて、
「集団欲」です。

やはり、みんな群れていたいんです。
できればバーチャルじゃなくてリアルに。
お互いに触れ合える関係の人たちと・・・


というわけで、期待の星が「スポーツ」となります。
特に地域に根ざしたスポーツ、典型的には「Jリーグ」です。

先日、アルビレックス新潟の代表、池田弘氏の話を聞く機会が
ありましたが、アルビレックスのおかげで多くの新潟の家族が
救われています。

家族共通の話題があるので家族団らんが生まれる。

家族みんなで新潟スタジアムに行き、アルビレックスの活躍で
父親と高校生の娘が抱き合って喜ぶ。

こんな信じられない、私のように長女に無視されて悲しい思いを
している者には、なんともうらやましい現象をあちこちで
見ることができるそうです。

新潟スタジアムには、毎試合4万人以上が来場し、
超満員の観衆と選手たちがみなファミリーだという一体感に
包まれる。

地域人々のつながりも確実に強まっています。


「地縁」「血縁」に変わって、これから人と人とつながり
を回復させてくれるのは「スポーツ縁」なんですね。

投稿者 松尾 順 : 12:11 | コメント (0) | トラックバック

「価値ハンター」に照準を定めよ

高い品質を求めるのであれば、相応の金額を払う必要がある。
逆に安さを求めるのであれば、品質には妥協しなければならない。

これは、ごく一般的な考え方でしょう。
つまり、基本的に、品質と価格はトレードオフの関係
(両方同時には成立しない)にありますよね。


ところが、高い品質を求めつつ、同時にお手ごろ価格を求める
欲ばりな消費者層が存在します。

彼らは、

「価値ハンター」(価値追求型消費者)

です。


価値ハンターは、自分たちにとっての価値、すなわち
「顧客価値」(製品便益-ライフサイクル費用)を
最大化しようと行動する人たちです。

そして現在の日本においては、価値ハンターが
消費者の過半数を占めている一大勢力となってきたのです。

つまり、マス市場として登場しているのが価格ハンター層です。


したがって、企業が大きな売上げを狙うのなら、
「価値ハンター」の心理や行動特性を的確に把握し、
正しく照準を定める必要があります。


価値ハンターの特性としていくつかご紹介すると、
まず、商品知識が豊富であることがあります。

安くいい物を手に入れようとするわけですから、
そうした「お買得品」を見極めるだけの知識が
必要だからです。

そして、事前に十分に購入商品を検討しますから、
お店ではほとんど指名買いです。
ですから、商品について詳しい店員はありがた迷惑で、
むしろ、心のこもったサービスを歓迎します。


また、価値ハンターは、気に入ったブランドに対しては
忠誠心が高く、長期的な取引を通じて
顧客価値を高めようとします。

単に、「いいものを(無理やり)安くしろ」と
ゴネる消費者ではないわけです。

例えば、ポイントカードをきっちり利用して、
将来における顧客価値を高めることを考えます。
(その場限りで安いというのは、実際には、
 品質が伴わないことがわかっているのでしょう)


90年代後半から、顧客との関係性構築に焦点を当てた
マーケティング・経営手法である「CRM」
(Customer Relatioship Management)が注目を集め、
徐々に浸透しつつありますが、

現代の消費者の主流となった

「価値ハンター」

に照準を定めるということは、
「CRM」の本格導入・定着が不可欠であることを
意味しているといえるのではないでしょうか。


*「価値ハンター」についての詳細は下記書籍を
 ご参照ください。

『バリュー消費-「欲ばりな消費集団」の行動原理』
 田村正紀著、日本経済新聞社

投稿者 松尾 順 : 10:47 | コメント (0) | トラックバック

男のアンチエイジング消費

ジャズの演奏に合わせて、手足がチョコチョコと動くミニチュアの
人形たち、バンダイの「リトルジャマー」

がおじさんたちに大人気です。

1セット約2万円もする高額な「おもちゃ」ですが、
累計販売台数5万台を超えたそうです。

おじさんで音楽好きの私も、とても欲しいです。(笑)

しかし、やはり2万円は高い、というわけで、
姉妹製品の「プラグビート」(こちらはロックバンド人形)を
買いました。ギター、ベース、ドラム3体で約1万円。

こちらも十分高額おもちゃですから、
「オトナ買い」じゃないと売れない製品でしょう。

最近、おじさんバンドや音楽教室が盛んになってきたことも
ご存知ですよね。

楽器店では、数十万~数百万のビンテージギターを40-50代の
おじさんが即決で買っていきます。

音楽だけじゃありません。

家庭で本格的なプラネタリウムが楽しめるセガトイズの「ホームスター」

もバカ売れしています。

上記製品の価格も約2万円です。おそらく主力購買層は
昔、天文少年だったおじさんであるのは間違いありません。
(私もやはり欲しい・・・)


さて、おじさんが上記のような製品を購入する現象は、
いわゆる「ノスタルジック消費」と呼ばれますね。

少年のころ果たせなかった夢に対する郷愁が、
購買意欲を刺激しているのだと。

ですが、もっと深いところには、老いていくことへの抵抗が
あるように思います。

つまり、端的に言えば「若返りたい!」

そうした気持ちが、少年的な遊びへと向かわせている。
男性にとっての「アンチエイジング消費」と言えるんじゃない
でしょうか。


女性の場合、アンチエイジングとは、しわを減らすとか、
お肌の張りを取り戻すといった、外面的な対策の製品が
メインです。

女性にとっては、「外面の若返り」が最大関心事なんですね。

ところが、男性の場合は、外面的にはあまり老いを否定せず、
むしろ成熟した大人としての魅力を打ち出す一方、
「内面の若返り」に関心が高いということが言えます。

おじさん向け市場は、シニア向け市場と重複するところが
ありますが、男性にとってのアンチエイジングとは何か、
ということを理解しておく必要があるんじゃないでしょうか。


ところで、おじさんの心理をなんだかとても代弁してくれて
いると感じる歌があります。一部を引用します。

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遊ぶこと忘れてたら老いて枯れんだ
ここんとこは、仕事オンリー、笑えなくなっている

ガラクタの中に輝いてたものがいっぱいあったろう?
“大切なもの”すべて埋もれてしまう前に

~~~

積み上げたものぶっ壊して 身に着けたもの取っ払って
幾重にも重なり合う描いた夢への放物線
紛れもなく僕らずっと全力で少年なんだ

      from 「全力少年」by スキマスイッチ

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投稿者 松尾 順 : 10:41 | コメント (4) | トラックバック

スキマスイッチの「全力少年」

「スキマスイッチ」という名称の男性デュオ、ご存知ですかねぇ・・・

最近、バンド仲間から教えてもらって、聴いております。
どのくらい人気があって、売れているのか知りませんがなかなか良いです。

しかしなんでまた、こんな変な名前なのか。
一回聞いただけで絶対忘れない、秀逸なネーミングではあります。

なんか由来があるんでしょうね。知りたいとはあまり思いませんが。(⌒o⌒;


で、スキマスイッチの最近のヒット曲(らしい)は

「全力少年」

というタイトル。
これも、相当怪しい。

スキマスイッチの「全力少年」

と書いちゃうと、ほんと理解不能な言語ですよね、
特におじさんたちにとっては。

このタイトルを見ただけなら、普通は絶対聴かないと思います。
しかし、実はとてもすばらしい曲でした。メロディーも歌詞も
大好きです。


そういえば、男性デュオで、「コブクロ」という方々もいるらしい。
名称だけは聞いたことがあったけれど、わけわからんので、
気に留めていませんでした。

とりあえず聴いてみます。

投稿者 松尾 順 : 15:28 | コメント (0) | トラックバック

居酒屋で隣の人に作ってもらった生搾りのチューハイがおいしくないのはなぜか

日経夕刊の囲み記事にこんな興味深いことが。

5月に発売された新チューハイ「-196℃」を手がけた、サントリーの和田龍夫さんは、
タイトルに挙げた微妙な差異に気付いていました。

逆に言うと、

「なぜ、自分で作ったチューハイは、他人が作った生搾りのチューハイよりおいしいのか」

ということです。

そして、和田さんは発見したんですね。

自分で果実を搾って作る際に、皮などからにじみだした香り成分が手に付着する。
その手で飲むから、気分がさっぱりしておいしく感じていたことを。

つまり、飲むときに手が口元に近づく、そのときにまず果実の香りを先に楽しんで
いたわけです。

そこで、「-196℃」では、果実を丸ごとセ氏マイナス196度の液体酸素で
瞬間凍結させ、微粉末にしてアルコールに漬けて、香りを酒に封じ込める。

この新製法により、果汁にアルコールと炭酸ガスを混ぜる従来の製法では
無理だった豊かな香り付けを可能にしたそうです。

日常の微妙な差異をまず発見すること、そしてその理由を探り出すこと。
今の商品開発に求められるのはこれなんでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 15:36 | コメント (0) | トラックバック

変えないところ、変え続けるところ

以前、沖縄にセミナーの講師として出張した時、
とても好きになった小料理屋がありました。
セミナーのアシスタントをやってくれた方の紹介でした。

「子福」という名前のお店です。
なんかあったかい店名ですよね。
カウンターが8席くらい、お座敷3卓くらいの大きさです。

年の割(失礼)には、かわいらしい感じのママさんの
素朴な客あしらいには心が癒されましたし、
ママさんのお姉さんがつくる料理はなかなかおいしかった。
時々、ママさんの娘さんがカウンターの手伝いをしていました。
そこそこ食べて飲んで、客単価5千円程度。

「子福」には、際立った特徴はありませんが、
また来てもいいかなと思わせる安心感がありました。
たぶんいつ来ても、上記に書いたような点は変わらないだろうから。

そして結局、その出張の時、
私たちは2日間連続で通ってしまったのです。

なぜそんな気持ちになったかおわかりでしょうか。

お手洗いに入ると、洗面台の壁に色紙が貼ってありました。
ママさんがちょっとした言葉を書いているのです。日替わりです。
聞けば、開店前に時間を見つけて書いているとのこと。

あいだみつおの言葉のような、印象的な内容ではないけれども
ママさんの人柄がにじみでる色紙の言葉をまた明日も読んでみたい。
そう思って2日目も、ふらふらと子福に行ってしまいました。

人の欲求は、矛盾を抱えています。
相反する欲求を同時に持っているのです。

例えば、変わらないことから来る安心感と、
変化することからの刺激の両方を同時に求めています。
おそらく、たいていの人は、8割くらいは安心を求め、
2割程度の刺激を求めるんじゃないかと思います。

「子福」さんの場合、食事やサービスといった変わって
欲しくないところと、色紙のちょっとした変化のバランスが
絶妙だったのでしょう。
実際、色紙見たさに常連になるお客さんがいたようです。

私も、沖縄に今度行ったら、「子福」さんに立ち寄って
また、あの色紙が見たいと思い続けています。

色紙を毎日書き続けるのはちょっと面倒ではあるけれど、
良く考えると、その程度の工夫で「ちょっとした変化」を
生み出せて、常連客を増やせるとしたらなんでもないことですね。

投稿者 松尾 順 : 05:02 | コメント (0) | トラックバック

東京中華思想?

熊本出張の帰り、実家福岡に立ち寄りました。

普段は2,3年に1回程度しか帰郷できませんが、
今年はこれで2回目。

懐かしいふるさとをちょっとだけ堪能しました。

さて、このブログを書くようになったおかげで、
なにごとにも問題意識を持つようになったというか、
深く考えるようになったのですが、やはり田舎の生活は
明らかに都会と違うという点を実感しました。

感覚的な書き方であることをあらかじめお断りしておきますが、
たとえばこちらでは日経新聞を読んでいる人はすごく少ないということ。

実家でも「西日本新聞」という地方紙しか購読していません。
私が、中学生や高校生のころ、新聞配達のアルバイトを
していましたが、当時でも日経新聞を購読している人は少なかった。
多分、それは今でもそれほど変わっていない。

何を言いたいかというと、地方では東京にいると感じられる
ビジネスビジネスという感覚がほとんどないということです。

もっとみんな生活生活してるんです。

特に実家あたりは久留米市の隣町ではありますが、
都市部ではありません。主力産業は農業です。

いわゆる「政治経済」に対する関心は
普段は決して高くないと思いますl。

東京での仕事で、マーケティングの企画を立てる時、
まずは、ターゲットとなる消費者像を思い浮かべるのですが、
ついつい、都会暮らしの人々の生活にしか思いが至らないことに、
田舎に帰ると気づかされます。

まあ、「東京中華思想」みたいなものに毒されていると
言えるんじゃないでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 03:57 | コメント (0) | トラックバック

最も希少な資源

■希少な資源ほど価値が高い。

言うまでもないことですね。

例えば、ダイヤモンドや金などは、非常に限られた量しか産出
しないから、高額で取引されるわけです。
(ただし、ダイヤモンドについては世界的なカルテル機構が
 市場流通量を少なめになるようコントロールしているんですが)

しかし、一般の人にとって、ダイヤモンドは実用品ではなく
装飾品であり、装飾品に関心のない人はあまり価値を感じません。

ところが、誰にとっても、最も希少な資源といえるものが
あります。

それは「時間」です。

生まれてから死ぬまで、一人ひとりの人生はおよそ数万時間で
尽きてしまうことが、運命的には決まっているからです。
生まれたら、ただただ砂時計が落ちるように減っていくばかり
なのが、人生における「時間」なんですね。

いつ死ぬか、普通はわからないし、また考えたくもないので
時間は無限のように勘違いしてしまっているかも知れません。
若い頃は特にそうで、無為にだらだらと時間を過ごした時期も
ありましたよね。(笑)

しかし、人はだれでも本能的に、人生時間は有限であり、
時間が最も希少でかつ大切な資源であることをわかっている
と思います。

その典型的な人が「いらち」と言われるような短気な人です。
何事もすぐにやらないと気がすまない。あるいは、他人の
仕事が遅かったり、待たされると爆発するような人。

彼らは、

「私の時間を無駄に消費させるな」

という怒りを素直に表に出してしまう人なんですね。

また、売れ筋の商品やサービスの特徴として
常に上位に来るのは「利便性」ですが、
これはまさにお客さんの時間を節約してくれるからです。

特に現代は、いろいろとやりたいこと、やるべきことが
あふれているので、なおさら、自分の時間を無駄にしないですむ、
あるいは節約できる商品・サービスが求められているといえます。

逆に、時間が最も希少な資源であるなら、それをお客様のために
使うことが高い付加価値を生み出すことにもなります。

例えば、お客様への誠意を示す一番の方法は、人がお客さん
のところに出かけていくことです。お客さんはわざわざ、
時間を使って来てくれたことを喜ぶんですね。

最近、ある輸入車の販売ディーラーでは、営業マンが
既存客のところへ積極的に訪問するようにしたそうですが、

「オーナー様のために私の希少な時間を喜んで使います」

という姿勢を見せることがリピートや口コミにつながると
踏んでいるわけです。
(あからさまな売り込みのための訪問は違いますよ・・・)

もし実際に訪問できなければ、次善の策として手紙、
それも手書きのものがお客様を喜ばせます。

これもやはり、人が手で書くための時間をわざわざ
私のために使ってくれたということが感じられるからです。

私は常々感じているのですが、インターネットの会員制
サービスで、誕生日やお正月にグリーティングカードや
Eメールを送付するのは無意味だからやめた方がいいです。
(誕生月限定の割引とか、プレゼントがあるなら別ですが)

システムで機械的に処理され、送付されるグリーティングカード
には、自分のために誰かが時間を使ってくれた感がまったく
感じられないので、ありがたみゼロなんですよね。


そう思いませんか?

投稿者 松尾 順 : 12:41 | コメント (0) | トラックバック

第三の場所

私たちはみんな、仮面をかぶって毎日を送っています・・・

「仮面」というのはちょっと怪しい表現でしたが、職場や
家庭など、それぞれの立場で求められる役割を果たすために
自分の性格を使い分けているという意味です。

この「仮面」は、心理学などでは、パーソナリティの語源に
あたる「ペルソナ」と言うことがあります。役割に応じて、
ある意味、「本当の自分でない自分」を演じているような
ものなので「公的な性格」とも言われます。

たとえば、実際には気弱な性格であっても、会社でリーダー
の立場にあったら、断固とした性格であるかのように振舞う
必要がありますよね。そうでなければ、部下たちが不安を
抱きますし、ついてきてくれません。

もちろん、家庭においても、夫・妻、あるいは親として
ふさわしい自分を演出しなければなりません・・・
外で仮面をかぶっているのがつらいからといって、
家に帰ったとたん、仮面を外してまったくの素の自分を
さらけだしてしまったら、家庭が崩壊してしまいます。

だから、実は家庭は本当の意味ではくつろげる場所では
ないのかも・・・

たとえ一人暮らしでも、近隣には顔見知りがいますから、
なかなか素の自分になれる場所がないものです。

でも、ずっと仮面をかぶったままでは、精神的に参って
しまいます。そこで、心理カウンセラーの諸富祥彦氏は、

「第三の場所を持ちましょう」

と提案しています。

「第三の場所」とは、理想的には秘密の隠れ家です。
小学生の時に見つけようとした「秘密基地」です。
職場でも、家庭でもない、知り合いが誰もいない、たった
一人になれるところ。

最近は、職場でも家庭でも時間に追いまくられることが
多くなってきているせいか、みんなすごいストレスを
ためてますよね。だから、意識的に、あるいは無意識に
「第三の場所」を求めているんじゃないでしょうか。

そうした消費者の欲求をつかんでいるのが、例えば
「漫画喫茶」でしょう。あるいはちょっと休憩・昼寝が
できる個室を時間貸しで提供しているスペースです。

独身でなくても、第三の場所を求めてあえて一人で
お酒を飲んだり、食事をしたり、旅行するという
パターンもますます増えてくるかもしれません。

「本当の癒し」とは、自分の仮面、ペルソナを外せる
環境で得られるものです。

「第三の場所」を提供できる商売が、これからもいろいろと
出てきそうですね。

投稿者 松尾 順 : 10:10 | コメント (0) | トラックバック