『人間失格』と「日本酒」の復活

今年の夏ごろのことです。

長女(中2)が、

「太宰治の『人間失格』の本を買って買って!」

とせがんできました。


田舎にある古い日本文学全集の中に、
『人間失格』も入ってたから送ってもらおうか?

と私が答えたら、娘は、

「集英社文庫のものが欲しい」

と言うのです。

聞くと装丁が新しいらしい。

ただ単に外側のパッケージが変わっただけで、
あの純文学小説を買いたいのかと苦笑したものです。


実際娘に買ってあげた集英社文庫の本を見てみると、
表紙はもろマンガなんですよね。

「デスノート」の小畑健氏作。
中身は純文学だけど、見た目は「ライトノベル」。

そして、新装丁版『人間失格』は、
13万部を超えるベストセラーになりました。

このパッケージリニューアルの成功を見ると、
古いイメージを持つ商品のデザインを大胆に変えることで
イメージを刷新し、新たな購買層の関心を呼び起こすことが可能だ
ということがわかりますね。

もちろん、「中身が優れていること」が大前提ですが。


さて、同様の試みが求められているのが、

「日本酒」

でしょう。

日本酒の低迷はずいぶん以前からですが、
今や日本酒のシェアは酒類全出荷量の9%に過ぎない
厳しい状況です。
(ちなみに、ビール類は35%、焼酎18%)


また、全国の酒蔵の数は、
50年前は4000蔵以上ありましたが、
現在は約2000蔵と半減してしまっています。


実は、世界に目を転じてみると、
爆発的な和食ブームに伴い、「日本酒」に対する評価も
どんどん高まっています。

しかし、足元の国内では、

古臭い、オヤジっぽい、悪酔いしそう

といったネガティブなイメージがありますよね。


こんなイメージが払拭できないのは、
結局のところ、若年層があまり飲まないからです。

そして、若年層があまり飲まないのは、
若年層に対して魅力を感じさせることができていないからです。

特に、コンビニに置いてある「カップ酒」は、
もろ「オヤジのための酒」というイメージを与えますよね。


日本酒党の私も、コンビニでよくカップ酒を買います。

しかし、コップ酒を飲んでいる自分を引いて眺めてみると、
自分が既に「オヤジ」であることを再認識させられるため、
ちょっとしたわびしさを感じざるを得ません・・・


そんな今、日本酒の新商品が、
ファミリーマートのオリジナル商品として発売されています。

*「粋ボトル」シリーズ


上記商品の開発の模様は、
先日の「ガイアの夜明け」でも放映されましたし、
実際ファミマで購入した方もいらっしゃると思います。


現在4ブランド(日本盛、白鶴、月桂冠、松竹梅)が
店頭に並んでいる「粋」シリーズの特徴は、

「広口アルミボトル」

のパッケージを採用したこと。
一部の缶コーヒーにも見られるボトルですね。

デザインも、従来の日本酒のイメージを覆す派手な色合いです。

要するに、まったく「日本酒」らしくないわけです。


この「粋ボトル」、昔から日本酒を飲んできた中高年の方には
受けがあまりよくないかも知れません。

タイアップした清酒メーカー内部の意見としても、

「コーヒーに間違えそう」「毒々しい」「人工的」

といった意見が上がっていました。


しかし、若年層の日本酒に対するイメージを変え、
まず手に取ってもらうためには「粋ボトル」のような
大胆なパッケージが必要だと、開発担当者は考えていました。


私も早速、粋ボトルを飲んでみました。

従来のカップ酒のように、
フタを開けるときにこぼれそうにならないし、
リキャップが可能なので安心。

広口は飲みやすいし、なにより「気分がいい」です。
カップ酒のときのようなわびしさが漂いません・・・


同シリーズは、多少値段設定が高めではありますが、
若年層開拓の先陣として成長する可能性大だと感じました。

投稿者 松尾 順 : 12:29 | コメント (2) | トラックバック

吉兆ブランドの再生なるか?・・・お詫びの力

高級料亭「吉兆」のブランドイメージも
ずいぶん墜ちてしまいましたねぇ・・・


吉兆といえば、九代目林家正蔵氏(前林家こぶ平さん)
に似て親しみやすい雰囲気を持つ徳岡邦夫氏が有名です。

今年7月に徳岡氏の話を聞く機会がありましたが、
とても深い話をされてました。

*徳岡氏の講演レポートがこちらにあります。
→夕学五十講 受講生レポート
→夕学五十講 トップページ


さて、ご存知かと思いますが、
吉兆には次の5の料亭(法人)があります。

・本吉兆
・船場吉兆
・神戸吉兆
・京都吉兆
・東京吉兆


上記の店は、グループ会社とはいえ、
それぞれ独立経営です。

したがって、同じブランド名を共有しつつも、
お互いの経営内容についてそうそう口をはさめません。

ところが、不正が発覚した「船場吉兆」のおかげで
他の吉兆まで多大な悪影響(とばっちり)を
受けるという結果になってますよね。


徳岡氏は、京都吉兆の総料理長。
やはり今回は相当苦慮されているようです。

彼のブログでは、船場吉兆問題発覚後、
繰り返し3回もお詫びの文章を掲載しています。

*京都吉兆 三代目徳岡邦夫のブログ
http://kyotokitcho.seesaa.net/


徳岡氏の真摯な文章を読むと、
同じ吉兆でも、「京都吉兆」は、また他の吉兆は、

「船場吉兆」

とは違うと信じたいところです。


まあ、お互いに資本的な影響力はほとんどない別会社
だったわけですから、他の吉兆の不正がこれ以上暴露
されない限りは、吉兆ブランドの再生は大丈夫じゃないかと
思います。


しかし、万が一、他の吉兆のどこかで不正が
行われていたなら、第三者から暴露される前に、
いさぎよく自ら告白し、心からお詫びすべきでしょう。


というのも、日本では特に、

「心からのお詫び」

つまり誠意を感じさせるお詫びには、
相手の赦しを得る魔術的な力があるからです。


古典的名著、

『「甘え」の構造』(土居健郎著、弘文堂)

によれば、

日本人の場合、自分が属している社会・集団の中での
信頼関係を裏切るのが最も大きな罪悪感を感じること

だと説明されています。


だからこそ、逆説的ですが、

「内輪の中での信頼の裏切りが重大な罪である」

ということを自覚していることが伝わる

「心からのお詫び」

が効果的です。


私たちが最も嫌う、
信頼の裏切りという罪を犯したことを自覚し、
心からすまないと思っているのなら、
もういいだろう、赦してあげようか・・・

と聞き手は寛容になれるわけです。


上記の本の中には、こんなことが書かれています。

日本人に罪の赦しを説くべくやってきたキリスト教の宣教師が、
日本人の間では心から詫びれば容易に和解が成立するということ
を知って感心している。


ですから、逆に、不祥事発生時に言い逃ればかりして

「心からのお詫び」

を示すことのできなかった企業・個人のブランドは
失墜したままであり、信頼回復は極めて難しいものになります。


「心からのお詫び」を感じさせた石屋製菓は、
「白い恋人」の製造再開(11/22から)を果たし、
信頼回復の道を歩み始めましたね。


しかし、現状では「赤福餅」のブランド再生は無理です。
「船場吉兆」も不可能でしょう。

投稿者 松尾 順 : 11:39 | コメント (0) | トラックバック

[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(5)まとめ

今回はまとめです。


「消費者」と「ブランド」との間の

「感情的なつながり」

を測定(評価)するのが

「BRQ」(Brand Relationship Quality)

でした。


「感情的なつながり」とは、要するに、
消費者がブランドに対してどんな感情を持っているか
ということです。

そしてこの「感情」の種類として、

・愛情
・愛着
・親密さ
・相互依存

などがあるのでした。

上記の4種類はそれぞれ似たような感情ではありますが、

愛情は、シンプルに「好き」という気持ち、
愛着は、懐かしさを伴う気持ち(「くされ縁」的なもの)
親密さは、お互いに分かり合えているという気持ち
相互依存は、無くてはならない存在という気持ち

と多少異なっています。


例えば、恋人・夫婦関係でも付き合いが長くなってくると、
もはや「愛情」は感じない。

でも、ずっと人生を共にしてきたからということで「愛着」
はある、だから離れられない、ということがありますよね。

これを一般には、「くされ縁」と呼ぶわけです。(+_+)

消費者とブランドの関係も、
最終的にはリピート購入、つまり長いお付き合いに
つながることが目的です。

したがって、自社ブランドについて、
BRQのどの軸を高めるのが、上記目的に効果があるかを
考えてコミュニケーション施策を立案・展開するというわけです。


ところで、

ブランドの強みや特徴を測定(評価)する視点

にはさまざまなものがありますが、
自社のマーケティング施策を改善するために、すなわち、

「PDCA(Plan-Do-Check-Action)」

を回すために最低限実施したい視点としては
次の3つがあります。

・ブランドの認知度(どのくらい知られているか)
・ブランドの好意度(どの程度好かれているか)
・ブランド連想(どんなイメージを持たれているか)


BRQは、これらのうち

「ブランドの好意度」

をより詳細に測定するものです。

そうすることで、より具体的に

顧客とのコミュニケーションの方法やコンテンツ

を考えることができるようになります。


まあ、BRQを本格的に実施するとなると、
結構複雑ですし、お金もかかります。


しかし、マーケティング施策を考える際に、
BRQ的な視点をちょっとでも加えることによって、

顧客との良好な関係作りのためには
どんなコミュニケーションが適切か

という、まさに

「CRMの基本命題」

を考えることに役立ちますよ。

投稿者 松尾 順 : 09:37 | コメント (0) | トラックバック

[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(4)BRQ低下をもたらすもの

「BRQ」(Brand Relationship Quality)

における「消費者」と「ブランド」との間の

「感情的なつながり」

は次の7つの軸でした。

1 親密さ(Intimacy)
2 こだわり(Commitment)
3 パートナー品質(Partner Quality)
4 今の自分とのつながり(Self-connection)
5 愛着(nostalgic feeling)
6 相互依存(Interdependence)
7 愛情(Love/Passion)


これら7つの軸のそれぞれの評価方法は、
以前ご説明したように、基本的には、
消費者対象のアンケート調査を自社ブランド、
および競合ブランドについて実施することで数値的に把握します。


その結果、たとえば、1の「親密さ」の軸の数値が、

自社:4.3、競合:3.1

だったとします。

これは、消費者(顧客)がそれぞれのブランドに対して抱く
「親密さ」については、自社ブランドのほうが強い
ということを意味しています。

ところが、7の「愛情」の軸の数値は、

自社:2.2、競合:4.5

だったとします。

これは、競合ブランドについては、
そのブランドを愛する熱狂的なファンが多いと考えられること、
逆に自社ブランドに対しては、消費者は愛情をあまり
持っていないことがうかがえる結果です。

ちなみに、「愛情」の数値が低い結果になるのは、
他ブランドと変わり映えしないのでどれを選んでもいいのだけど、
たまたま近くの店に置いてあるから買っているだけとか、
他に選択肢がないから、仕方なしに買っているようなブランドに
多く見られます。


ともあれ、自社としては、この結果を踏まえて、
どうしたら消費者が自社ブランドに対する

「愛情」

を高めてもらえるのかという「改善施策」を考え、
実行に移すのが次のステップになります。


さて、今回は、BRQの7つの軸を低下(悪化)させる原因になる
企業行動にはどんなものがあるかを解説しておきましょう。


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・勝手な製品仕様の変更

「ニューコーク」の失敗が典型事例ですね。

慣れ親しんだ味やパッケージデザインをいきなり大胆に
変えてしまうと、ユーザーの怒りを買い、「愛情」「愛着」が
低下します。

ですから、多くの企業では、製品仕様は、
消費者の嗜好の変化に合わせて、ごくわずかずつ、
気づかれないように変化させています。

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・在庫切れ

「相互依存」が低下します。

消費者とブランドの間に「なければ困る」という
関係性ができている場合、「在庫切れ」が消費者にとって
最大の悪夢となります。

ちなみに、若者にとって「相互依存」が高いのは、

「コンビニ」

ですね。店として考えた場合、
24時間365日、いつでも開いてるという安心感が
あることが、「相互依存」を高めることに寄与しています。

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・見当外れなメール

先日新車を買ったばかりのディーラーから、
別の車のダイレクトメールが届いたら、

「自分の状況をまるで理解していないな」

と感じますよね。自分を理解していないことがわかる
コミュニケーションは、「親密さ」を低下させます。

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・品質の低下・問題

最近、頻繁に明るみになることの多い、
賞味期限切れ食品の販売や食品表示偽装などが典型例ですが、
「パートナー品質」や、「こだわり」「愛情」を低下させるのが、
品質の低下や問題です。

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・信頼の裏切り

上述した食品表示の偽装などは、
単なる品質上の問題だけでなく、

「信頼の裏切り」

でもあります。

しかも、事件発覚後に自己保身からごまかすためについた
「うそ」がばれることによって二重の裏切りを犯してしまう
企業が多いですね。

これもまた、

“このブランドなら安心だ”

という「パートナー品質」や、

“このブランドでなければ・・・”

という「こだわり」を低下させます。

地に墜ちた「雪印」ブランドが代表的なケースと言えます。

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次回は最終回。まとめです。

投稿者 松尾 順 : 11:15 | コメント (3) | トラックバック

[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(3)効果と具体施策

「BRQ」(Brand Relationship Quality)

によってわかる、消費者とブランドとの間の

「感情的なつながり」

は次の7つの軸でした。


1 親密さ(Intimacy)
2 こだわり(Commitment)
3 パートナー品質(Partner Quality)
4 今の自分とのつながり(Self-connection)
5 愛着(nostalgic feeling)
6 相互依存(Interdependence)
7 愛情(Love/Passion)


そして、これら7つの軸について、
競合ブランドよりも劣る軸を改善(向上)させるための施策を
立案・実施することが必要です。


ここで、まずいくつかの軸について、
こうした感情のつながりが、消費者(ユーザー)に
どんな行動を取らせるのかを説明します。


・「パートナー品質」、「愛情」が強いブランドは、
 周囲の人への推奨が起きやすくなります。
 “いい製品だから”あるいは“私が大好きな製品だから”
 という理由からです。

・「愛情」、「こだわり」が強いブランドは、
 そのブランドの製品ならなんでも欲しいという気持ちに
 つながります。上から下まで○○ブランドで固めたい、
 というわけです。そのブランドに夢中だからですね。

・「こだわり」、「愛着」が強いブランドは、
 他のブランドへの切り替えができなくなります。
 “このブランドでなけりゃ”という「こだわり」、
 そして、長年利用するうちに強くなる「愛着」は、
 他のブランドを購入することに対する心理的抵抗を
 高めるのです。小さい頃から使ってきたハミガキの
 ブランドを別のものに変える気がしないのは「愛着」が
 効いているからですね。

・「愛着」、「相互依存」が強いブランドは、
 「プレミア価格」でも買われるパワーを持つブランドです。
 たとえば、タバコなどの嗜好性の高いブランドは、
 もともと習慣性があり「相互依存」が強いので、
 割高だから買うのをやめようとはならないわけです。


では、次にどんな施策がどの軸の向上に効果があるか
についていくつかご紹介しましょう。


・「相互依存」の強化には「会員制度」(ポイントシステム)の
 導入が効きます。せっかくためてるポイントを途中で放棄
 するのはもったいないですから。

・「愛着」の強化には「キャラクターの採用」です。
 例えば、最強のキャラクターのひとつは「ミッキーマウス」。
 小さい頃から慣れ親しんだキャラクターに対する愛着って、
 強いものがありますよね。

・「親密さ」は、個人のニーズに合わせてカスタマイズされた
 製品が効きます。「親密さ」は、自分のことをよくわかって
 くれている、自分にぴったりの製品だ、という気持ちが
 高まることによって強化されます。

・「今の自分とのつながり」にはイメージ広告です。
 自分の価値観やライフスタイルに照らした時、
 あるブランドがしっくりくるかどうかは、そのブランドが、
 特定の明確なブランドイメージを確立できてこその話だからです。
 
・「愛情」の強化には、「製品の差別化」です。
 他のブランドにない特徴を持つことは熱狂的なファンを
 生みます。アップル・コンピュータの一連の製品を
 思い浮かべてもらえばおわかりいただけるでしょう。

投稿者 松尾 順 : 07:52 | コメント (0) | トラックバック

[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(2)活用の具体手順

「BRQ」(Brand Relationship Quality)

は、ブランド(商品・サービス)を「人」に見立てて、
消費者(顧客)が、そのブランドに対して持っている

「感情的なつながり」

をアンケート調査などを通じて測定するものです。


そしてこの「感情的なつながり」は、
具体的には次の7つの軸で測定します。

1 親密さ(Intimacy)
2 こだわり(Commitment)
3 パートナー品質(Partner Quality)
4 今の自分とのつながり(Self-connection)
5 愛着(nostalgic feeling)
6 相互依存(Interdependence)
7 愛情(Love/Passion)


従来良く行われてきた

「ブランドイメージ調査」

では、消費者がブランドに対して持っているブランドの

「性格」(パーソナリティ)

を主に次のようなキーワードを選択させること
によって測定します。

・先進的
・都会的
・野暮ったい
・暖かい


したがって、「BRQ」は、
従来のブランドイメージ調査とは全く異なる視点で、
ブランドを評価するものということがおわかりかと思います。


では、BRQは実際にはどのように実施・活用するか、
ということを簡単に説明します。

基本的には以下の手順になります。

-----------------------------------------

1.BRQの測定対象とする競合ブランドを決定

2.競合ブランドと自社ブランドについて、
  所定のBRQ調査票を利用してアンケート調査実施

3.調査結果から、上記7つの軸それぞれについて
  各ブランドのスコア(評点)を比較分析し、
  自社ブランドの強い軸、弱い軸を把握

4.特に弱い軸について、スコアを向上させるための
  具体施策を立案、実施

5.定期的にBRQを実施して、各軸の改善度合いをチェック

------------------------------------------

たとえば、調査の結果、
自社ブランドが競合ブランドより劣っている軸は、

・親密さ

であることがわかったとします。


これが、仮に「ショップブランド」の場合だとすると、
「親密さ」が低いというのは、顧客と店・店員との

「心理的な距離感」

が、競合より遠いことが問題となっています。


ですから、いままで印刷で済ませていた

「お誕生日カード」

を手書きのものに変えてみるとか、
従来は、「気取りすぎ」の接客を
多少フレンドリーなスタイルに変更する
といったことが、改善案として考えられます。


私が「BRQ」をとても面白いと思ったのは、
このように、調査結果に基づいて、
具体的な企業の行動施策に落とし込める点でした。


以前、テスト的に小サンプルでBRQの考え方を
踏襲したアンケートをやったことがあります。

調査対象ブランドは、

「ドトール」と「スターバックス」

でした。


どちらも、頻繁に利用するので、
生活の一部になりやすいですよね。このため、

・相互依存性

の軸はほぼ同じでした。


しかし、スターバックスがドトールを上回った軸が
ありました。

・今の自分とのつながり
・愛情

の2つです。


これらは、やはりシアトル系カフェと呼ばれる
スターバックスのブランド力の反映でしょう。


スタバ(特に郊外の店)で、本でも読みながら
ゆったりと過ごすライフスタイルを好む人がいます。

また、スタバには熱烈なファンがいるのも周知の通り。


残念ながら、駅近辺にあって便利、
安いからという理由で選択されることの多いドトールでは、
スタバのような

「感情的なつながり」

は弱いですよね。


では、ドトールとしては、
どう対抗すべきかということです。

もちろん「ドトール」ブランドでは勝負にならないので、

「エクセルシオール・カフェ」

という新ブランドを立ち上げていますが。

まあ、スタバと戦うのはなかなか大変でしょうね。


あなたの会社のブランドも、BRQに基づいて
自社ブランドの強み・弱みを把握した上で、
弱い軸の強化に効果のある

マーケティング施策、サービス施策

を立てたらどうでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 11:45 | コメント (0) | トラックバック

[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(1)感情的なつながり

「BRQ」(Brand Relationship Quality)

を一言で説明するなら、

“消費者が、ブランドに対して持っている「感情的なつながり」”

を評価(測定)するものです。

これは、いわば「ブランド」を「人」に見立てることです。

そして、

“そのブランドが、「人」だとしたら、
 あなたは、その人に対してどんな気持ちを抱いていますか?”

ということをアンケート調査等によって聞く。

これが、「BRQ」によるブランド評価の方法です。


なお、以上も含め、BRQについての私の説明は、
フォルニエ先生の話・資料を元にした私なりの解釈であることを
あらかじめお断りしておきます。(なるべくわかりやすく
お伝えしたいので、正確に伝えることを多少犠牲にしています。)


では、具体的にどんな種類の

「感情的なつながり」

を聞くのかということですが、大きくは次の7つの軸です。


1 親密さ(Intimacy)
2 こだわり(Commitment)
3 パートナー品質(Partner Quality)
4 今の自分とのつながり(Self-connection)
5 愛着(nostalgic feeling)
6 相互依存(Interdependence)
7 愛情(Love/Passion)


それぞれについて、実際のアンケート調査では
どのような設問が並ぶのか、例として各2設問ずつ
ご紹介しましょう。

ちなみに、アンケート調査票全体としては100項目程度に
なるようですが、調査自体の詳細は私も教えてもらって
いません。


*この調査対象は、高級ブランドショップ等の

「店舗ブランド」

だと想定してくただい。

-------------------------------------------------

1 親密さ(Intimacy)

・このお店に関する情報に敏感である。
・改善に役立つなら、私の利用習慣を教えてもいい。


2 こだわり(Commitment)

・このお店を利用することにこだわりを持っている。
・遠くてもこの店を選びたい。


3 パートナー品質(Partner Quality)

・このお店は、私を上客の気分にさせてくれる。
・このお店は、客の意見を良く聞いてくれる。


4 今の自分とのつながり(Self-connection)

・このお店は私がなりたい自分を表現している。
・この店は、今の私のライフステージにふさわしい。


5 愛着(nostalgic feeling)

・このお店には、なんらかの思い出がある。
・このお店だととても心が落ち着く。


6 相互依存(Interdependence)

・このお店の存在は不可欠だと感じている。
・しばらく行かないと何かが欠けているように感じる。


7 愛情(Love/Passion)

・このお店が好きだ。
・とてもいいお店なので他の人にも勧めたい。

-------------------------------------------------

上記のような設問それぞれについて、
調査に協力してくれる消費者が、

「どの程度当てはまるか」

を回答してもらうことによって、
ブランドと消費者(顧客)の「感情的なつながり」を
評価することができるというわけです。

投稿者 松尾 順 : 10:48 | コメント (0) | トラックバック

[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(0)イントロダクション

えー、またまた

「ちょっと難しいテーマだよん!」

シリーズを開始したいと思います。(笑)


「BRQ」とは、

“Brand Relationship Quality”

の略です。文字通り訳せば、

“ブランド関係性の質”

となります。


この「BRQ」の研究を行っているのは、
現ボストン大学のビジネススクール准教授、

スーザン・フォルニエ(Susan Fournier)氏

です。


フォルニエ氏の専門は、ブランド論。

教職に就かれる前は、米国の大手広告会社、
ヤング&ルビカム社に在籍されていたこともあります。

これまで長年にわたって、
さまざまな製品・サービスのブランドについての
コンサルティングを行ってきている方です。


実は、この「BRQ」については、
以前、フォルニエ氏から直接概要を教えてもらう機会が
ありました。


今から約10年ほど前のことです。

私が外資系広告会社に所属していた時、
某企業向けの大規模な企画作成の準備のため、
ニューヨーク本社に出張したんですね。

NY出張の目的は、米国の先進事例や、
新しいマーケティング理論を収集することでしたが、
その一環として、フォルニエ氏の話も聞くことに
なったのです。


当時、フォルニエ氏は、
ハーバード・ビジネススクールの准教授でした。

そこで、NYから飛行機で約1時間のボストンに飛び、
ハーバードビジネススクールの美しいキャンパスを訪ねて、
共に出張した仲間と一緒に、フォルニエ氏の特別講義を
ありがたく頂戴しました。


「BRQ」の研究は、他にあまり類のない斬新なものです。
10年後の今でも類似の研究はみかけません。

ところが、日本ではこれまでほとんど紹介されたことがなく、
知っている方も少ないようです。


そこで、当時、Webから自由にダウンロードできた
フォルニエ氏の学会等での発表資料などを基に、

「BRQ」

の概要をご紹介しておこうと思います。


次回から本格的に内容に入っていきますので
お楽しみに!


蛇足ながら、
ハーバードビジネススクールへの訪問には
後日談があります。

フォルニエ氏から、
たっぷり2時間ほども懇切丁寧な説明を
してもらった私たちは、彼女に別れを告げてから、

「親切な先生でしたね。
 日本からおみやげのひとつでも
 もっていけば良かったですねぇ・・・」

と話していたのです。


ところが、出張から帰ってしばらくして、
フォルニエ氏から私宛に

「2,000ドル」!

の請求書が届いたのでした。


そうなんです、やっぱり無料ではなかったんです。

最初からそういう話だったらしいのですが、
手配してくれた人が、うっかりお金のことを
伝えるのを忘れていたようです。


もちろん、ちゃんとお支払いしましたよ。

しかし、いい値段ですよね・・・

最初に請求書の金額を見たときは、
目玉が飛び出ました。(笑)

投稿者 松尾 順 : 10:09 | コメント (2) | トラックバック

ブランディングの感性工学的アプローチ

今日は、主に製品デザインに活用されている

「感性工学的方法」

「ブランディング」

にも応用してみたという事例です。


この取り組みをやっているのは、セイコーエプソン(株)。
SPSSの「Data Mining Day」(2007年7月12日開催)における、
同社担当者の講演から、ポイントをご紹介します。


さて、そもそも製品開発に活用される「感性工学的方法」
ですが、セイコーエプソンでは、次の3層構造を
基本の枠組みとしています。

・態度(最上層)
・イメージ(中位層)
・認知部位(最下層)


「態度」とは、消費者が製品を見た時の「評価」のこと。

「かっこいい」「買いたい」といったポジティブな気持ち、
あるいは、「ダサイ」「買いたくない」といったネガティブな
気持ちです。


「イメージ」とは、製品から消費者が受ける「印象」のこと。

「斬新」「スタイリッシュ」「上品な」「柔らかい」

などといった形容詞で表現されることが多いでしょうね。


「認知部位」とは、製品の「形」や「色」のこと。

セイコーエプソンの基幹商品であるプリンターで言えば、
プリンター全体の形、色(の組み合わせ)、液晶画面の形、
操作ボタンの形状などのことです。


そして、この3つの関係を説明すると、
「認知部位」、すなわち「製品の形状や色」を見た消費者は、
それに対してなんらかのイメージを抱く。さらに、
そのイメージが、最終的にその製品に対する評価である
「態度」の形成に影響を与えるということになります。

要するに、消費者心理の変化は、
最下層から最上位へと移ります。つまり、

認知部位→イメージ→態度

となるわけです。


感性工学的アプローチでは、

「認知部位」と「イメージ」の因果関係

「イメージ」と「態度」の因果関係

をアンケート調査などに基づいて分析します。


そして、たとえば同社のターゲットユーザーが

「買いたい」

と思わせるプリンターを開発するには、

・彼らがどんな「イメージ」を製品から受けるべきなのか
・そして、そんなイメージを彼らに与えるためには、
 プリンターの「形状や色」はどんなものが望ましいのか

を探り、製品デザインに活かすというものです。


さて、この感性工学的アプローチの研究に
取り組んでいた同社担当者は、

「ブランディング」(コーポレートブランドの確立)

にも応用できるのではないかと考えました。


感性工学的アプローチに基づくブランディングの
基本的枠組みは次の3つの要素からなります。

・態度(最上層)
・ブランドイメージ(中位層)
・アクセスポイント(最下層)

「態度」は、企業に対する「好き」「嫌い」といった評価。

「ブランドイメージ」は、
「先進的」「伝統的」といった企業に対する印象ですね。

そして、「アクセスポイント」とは、
企業が、広報・広告などを通じて行う

「マーケティング・コミュニケーション」

や、店舗等において発生する消費者と店員との

「リアルなコミュニケーション」

などを含む、マーケティング活動全体を意味します。


つまり、この応用例では、

・消費者に好ましいブランド評価をしてもらうためには、
 どんなブランドイメージを与えるべきか

そして、

・そうしたブランドイメージを与えるためには
 どんなマーケティング活動が望ましいか

を科学的に分析していこうというわけです。


セイコーエプソン担当者の方の先日の発表によれば、
まだまだ研究途上ということでしたが、このアプローチ、
なかなか面白いと思います。


*上記講演のレポートが下記サイトで閲覧できます。


@IT Special PR:
SPSS Data Mining Day 2007 イベントレポート後編

ついでながら、上記イベントレポート前編では、
基調講演に立たれた石井淳蔵氏(神戸大学大学院教授)の
お話が特に面白いです。講演タイトルは

「経験価値思考マーケティングとデータマイニング」

でした。

@IT Special PR:
SPSS Data Mining Day 2007 イベントレポート前編

投稿者 松尾 順 : 10:42 | コメント (0) | トラックバック

「キリン・ザ・ゴールド」の不発

17年ぶりの大型定番ビールとして投入された、

「キリン・ザ・ゴールド」

は、07年3月の初出荷こそ160万ケースだったものの、
6月末までの実績は319万ケースにとどまり、
ビール最盛期の5月以降の伸びがぱっとしません。

このままでは目標達成は厳しいかもという状況ですね。
(初年度の出荷目標は800万ケースでした)


以前私が書いた記事では、

同製品のパッケージデザインの「インパクトの弱さ」

を指摘したんですが、残念ながら
ターゲットとして狙った「二十代」の支持を
得られなかったようです。


そもそも、このパッケージデザインは、

「ビールらしさをいかに払拭するか」

というリスキーな試みに挑戦したもの。


すなわち、

「店頭での目立ち具合よりもむしろ、
 手に取り部屋に置かれた時の雰囲気にマッチするかを
 重視したこと」

でした。

500もの案の中から選ばれたデザインでしたが、
味自体はそう簡単に変えるわけにはいきませんから、
まずは、デザインの刷新を検討すべきかなと思います。


*「キリン・ザ・ゴールド」は定番化するか?

*(続編)「キリン・ザ・ゴールド」は定番化するか?

投稿者 松尾 順 : 06:29 | コメント (6) | トラックバック

「とんがり」を作るということ

「とんがり」

とは、難しくいえば

「製品差別化(差異化)」

のことです。


他社製品と同じポジションにいると、
どちらか一方しか勝てないという状況になってしまいますよね。

ですから、自社商品はできるだけ
他社と異なるポジションを目指すのが賢明です。


島田紳助は、お笑い芸人を目指す若者たちから、

「紳助さんみたいになりたいんです☆」

とよく言われるそうですが、紳助は、

「わしはもうおるで!」

と返すそうです。

同じポジションを目指すな、と釘を刺しているわけです。

彼自身も、他の芸人やタレントと自分のキャラが
かぶらないことを常に意識してきたのでしたね。


さて、ブランド構築のためには、

“製品差別化を行う”

と難しく言うより、

“「とんがり」を作り上げる”

と説明する方が私は好きです。


その理由は、単にわかりやすいだけでなく、

「とんがり」

という言葉が、

「実行上のポイント」

を端的に教えてくれるからです。


ものを“とんがらせる”ためには、
余計なものをそぎ落としていかなければなりません。

あれもこれも・・・と、機能を欲張って増やしすぎたり、
広告コピーなどでも、特徴をずらずらと並べすぎると、
何がその製品の強みなのかが不明瞭になります。


むしろ、当社製品の強みは「XXXです」と
ひとつに絞ってバーンと打ち出す。

それ以外のことはそぎ落としてしまう。
そうしないと「とんがらない」。


つまり、とんがらせるためには、強みや訴求点を
思い切って絞り込むことが必要だということです。

先がとんがっていればいるほど、
ターゲットの心に刺さりやすいですしね。


そう、「とんがり」を作りあげる目的は、
ターゲットの心により刺さりやすくするためです。

すなわち、ターゲットの興味・関心を惹き、
欲望を刺激するため。

先の丸いナマクラ製品では刺さりません。


しかしながら、「とんがり」を作るのは
時間と手間のかかる工程です。

口で言うのは簡単だけど、
なかなか難しいと皆さんおっしゃいます。


それは、とんがりを作りあげる「努力」
をしていないことを誤魔化すための言い訳じゃないですよね?


実際のところ、難しいのは、

どこをとんがらせ、どこをそぎ落とすべきか

の見極めでしょう。

ひとつに絞って残りを大胆にそぎ落とすのは、
勇気がいる決断でもあります。

しかし、とんがりを作り上げることができなければ
その他大勢に埋没してしまうだけです。


なお、ベストセラー本を連発している幻冬舎の社長、
見城徹氏によれば、売れるコンテンツは、次の4つ要素を
備えていると考えているそうです。

1. オリジナリティがあること
2. 明解であること
3. 極端であること
4. 癒着があること

この必要条件を満たすものは必ずヒットするのだそうです。


「とんがり」と共通性がありますよね。

(注)
 4の「癒着があること」というのは、すでにファンがいる
 有名人や作家のように、売れるベースがあることを意味して
 います。これは出版業界特有の条件と言えるでしょう。
 (スーパーモデル監修の水着開発等も該当しますけど)


(参考文献)
『編集者という病』
(見城徹著、太田出版)

投稿者 松尾 順 : 10:43 | コメント (0) | トラックバック

天才マーケター島田紳助

猛烈な漫才ブームが起きた時期のこと、覚えてますか。
1980年代前半でしたよね。

あの頃、ブームの中心にいた人気漫才コンビのうち、
もっとも異彩を放っていたのが、

「紳助・竜介」

でした。


このコンビは、1985年に解散。

島田紳助は、
現在もマルチタレントとして活躍してることは説明不要ですね。

一方、松本竜介は、
2006年4月に若くしてこの世を去っています。


さて今回は、「紳助・竜介」が売れた秘密をお教えしましょう。

それは、紳助の優れた

「マーケティング的発想」

によるものです。


もちろん、彼がマーケティング理論を
わざわざ勉強したわけじゃないと思います。

紳助は、ビジネスの本質を見抜く力を持った

「天性のマーケター」

だったのです。


紳助の基本戦略、それは

「負けるけんかはしない」

ことです。


これは、言い換えると

「(同じ土俵で)戦わない」

こと。


当時、紳助は、漫才では、
オール阪神・巨人の才能には勝てないと
気づいていました。

また、芸人として生まれつきの才能を持つ
明石家さんまにも、やはり逆立ちしても勝てない。


だから自分たちは

「ヒール」(悪役)

というポジションで勝負しようと考えたのです。


つまり、他の漫才師と異なる

「ブランドポジショニング」

を明確に設定したのですね。


だから、舞台の上ではスーツを着るのが常識だったにも
関わらず、「紳助・竜介」はあえて「つなぎ」を着て
ヤンキー漫才を繰り広げた。

先輩や劇場支配人から、

「なんやその格好は!」

と怒鳴られても、つなぎを脱がなかったのは、
ダテではなく、上記のような明確な戦略に基づくもの
だったからです。


また、漫才は

「子供からお年寄りまで万人を楽しませるもの」


という考えも、紳助は捨てました。


「自分たちが笑かす相手は、20-35歳の男性」

と、ターゲットセグメントも明確にしていたのです。
同年代の男性を笑わせるのが一番やりやすかったからです。
(結果的には幅広い人気を集めましたが)


彼らも段々売れるようになってくると、
劇場には若い女性のファンが増えてきました。

しかし、自分たちのターゲットではない
「若い女性」に迎合することは決してしませんでした。

そうすると、本来のターゲットが離れていくことが
わかっていたからです。


さて、紳助独自の「マーケティング理論」の圧巻は、

「XとYの法則」

です。


Xとは、自分たちのお笑いのスタイル、個性、強みのこと。
Yとは、お笑いのトレンドです。


紳助は、お笑いの世界で「売れる」ためには、
まず、自分たちのスタイル(強み)を理解すると同時に、

・今受けているお笑いのスタイルはどんなものか、
・また、今後受けるだろう新しいスタイルはどんなものか

を把握する必要があると考えていたのです。


お笑いのトレンドとは、その時々で大衆が求める

「お笑いニーズ」

と言い換えることができると思いますが、
要するに「XとYの法則」は、

「(変化する)ニーズと供給のマッチング」

というビジネスの基本原則のことです。


紳助は、

“XもYもわかっていない芸人が多い”

と言っていますが、これはお笑いの世界だけでなく、
一般企業、個人にも該当する言葉ですね。


一発屋は、偶然にXとYがうまく合致して売れた人です。
そして、すぐに没落してしまうのは、本人がXとYを
理解していないから。

Yが変わってしまうと、ついていけずに
大衆から見捨てられる。それが、一発屋なのです。


しかし、賞味期限の長い芸人は、
変わり続けるY(お笑いニーズ)をしっかり分析し、
X(自分の強み)をうまく調整しているのです。


紳助は、実業の世界でも成功を収めていますが、
彼の天才マーケターとしての才能は、
どの世界でも通用することを見事に証明していますね。


正直、紳助には脱帽です。参りました。降参。


参考資料:紳竜の研究(DVD)

投稿者 松尾 順 : 10:38 | コメント (5) | トラックバック

いなかマーケティング

昨日、「村ぶろ」の記事を書いている時、
ふと、数年前、北海道の某自治体職員の方を対象として

「いなかマーケティング」

の講義をやらせてもらったことを思い出しました。


当講義では、ごく基本的な内容をお話したんですが、
当メルマガ&ブログで、講義内容のポイントを
ご紹介しておきたいと思います。


さて私は、「いなかマーケティング」の副題を

-いなかを元気にするマーケティング-

としていました。


そこで、まずは

「いなかを元気にする」

という意味を説明します。


「元気である」という状態とは、要するに

「活動が活発」

だということですよね。


そして、いなか(地元)を元気にするために重要な活動は、

ヒト、モノ、カネ、情報の「地元」と「地元外」との交流

のことだと私は考えています。


「地元内」だけの交流活動も、もちろん大切です。
しかし、閉じた世界であるために、
活動が不活発な状態に陥っているのが「いなか」の現状です。

したがって、地元と地元外との交流を通じて
地元に新しい風を吹き込む必要があるわけです。


ここで、ヒト、モノ、カネ、情報のうち、
とりわけ注力すべきなのが「情報の交流」です。


なぜなら、

“おもしろい観光スポットがある”

といった情報が流れることによって、「ヒト」が動く。
(端的には、観光旅行)

“このお菓子はおいしい”

といった情報によって、「モノ」が動く。
(端的には購買行動)

「ヒト」や「カネ」が動けば、当然ながら「カネ」の動きも
発生する。

というわけで、「情報」こそが、
ヒト、モノ、カネを起動するきっかけになっているからです。


したがって、

「いなかを元気にする」

ためには、情報のやりとり、すなわち

「コミュニケーション」

を上手に行うことが鍵になってきます。


そして、このコミュニケーションを上手に行うことこそ、

「マーケティングの本分」

ですよね。

だから、自治体の皆さんにもマーケティング・マインドが
必要なんですよ、という論理展開をしたのでした。


次に、いなかのブランディングのポイントについてです。

いなかのブランディングにおいて最も重要なことは、

「とんがりを作ること」

です。


すなわち、「オンリーワン」、かつ「ストーリー性」のある
その地元ならではの「強み」を磨き上げてとんがらせる。

そして

「XXXXと言えば、XXXX村(町)だよね」

とシンプルなブランド連想を強化する。

まずは欲張らずに一点突破型でコミュニケーションを行う。


たとえば、和歌山県北山村の場合は、かんきつ類の

「じゃばら」

をとんがらせてきてますね。


いなかの人はしばしば、

“このあたりはなんも面白いものはないからなあ・・・”

などと自嘲気味におっしゃいますが、それは思考停止してます。


どんな地域にも、その地域ならではの独自の強みがあるはず。

・気候
・風土
・文化
・歴史
・人
・イベント(祭り、儀式)
・偉人、有名人

等々

掘り起こしてみれば、「原石」が眠っているでしょう。
原石を見つけたら、資源を集中して磨き上げるのです。

よしんば、地元には本当に原石が見つからなかったとしても、
外から持ってくることだって可能です。


たとえば、札幌で毎年開催されている

「よさこいソーラン祭り」

は、16年前に始まった新しいイベントです。

1991年に高知のよさこい祭りを目にした一人の学生が、
地元北海道のソーラン節とミックスして始めた祭りでした。


この第1回の参加チームは10チーム、
観客動員数は20万人に過ぎませんでした。

ところが、先日終了したばかりの第16回では、
参加チームは341チーム、観客動員数は216万超までに
拡大しています。


さて、「とんがり」が作れたら、力を入れるべきこと。
それは冒頭に述べたコミュニケーションです。

地元外の人々に向けて、「とんがり」を
上手に伝えることが必要です。

もちろん、このためにインターネットを
活用しない手はありません。

コミュニケーションにおいては、
一方的な情報発信だけでなく、相手からの情報の受信も
オープンに受け止める双方向性が双方の理解を深めるために
有効です。

インターネットなら、いまさら言うまでもなく
双方向コミュニケーションも比較的容易にできますから。


結局のところ、いなかマーケティングにおいて、
成否の鍵を握るのは、

「インターネットの活用」

だと私は思っています。

投稿者 松尾 順 : 10:56 | コメント (0) | トラックバック

フォロワー狙いのペネトレーション戦略:DoCoMo2.0

ここ数年、多数の人気タレントを同時起用した
ブランドコミュニケーションが目立ちますね。


その中でも、
最も成功したのは、資生堂の「TSUBAKI」でしょう。

初年度の予算は50億円だったといわれていますが、
とてもその予算内に収まっているとは思えない露出量でした。


さて、多数タレント同時起用の狙いは、
大きくは2つ挙げられます。ひとつは、

「インパクト効果を高めるため」

です。

1人よりは2人、2人よりは3人、と華のあるタレントが
多く登場すればするほど、消費者の関心(アテンション)を
より多く引くことができますから。


そして、もうひとつの狙いは、

「ターゲットを広げるため(絞込みすぎない)」

ためです。


資生堂の「TSUBAKI」の場合、ブランドを統廃合して、
特定少数のブランドにマーケティング資源を集中する

「メガブランド戦略」

の一環として立ち上げた新ブランドですが、
メガブランドは、マーケットリーダーとなることが必須。

つまり、市場シェアの最大化を目指さなければなりません。

ということは、細分化されたターゲットを狙った従来の
ブランドと異なり、いわゆる「大衆」(マス)を狙って
いかなければなりません。


ただ、現代の大衆は、
価値観やライフスタイルが多様化しています。
(そもそも、もはや「大衆」とは呼べない)

したがって、一人のタレントだけでは、
大衆の一部の心しかつかめないわけです。

そこで、多数のタレントを同時起用して、
できるだけ広範囲の大衆をカバーしようとしている。


このあたりは、以前次の記事でも書かせてもらった
ことでした。

資生堂のメガブランド戦略:
◎ブランドではなく、意味を多様化せよ

そして、今、「DoCoMo2.0」でも、
8人もの人気タレントを起用した大々的な
ブランド・コミュニケーションが展開されていますね。

現在54%のシェアを持つマーケットリーダーのDoCoMoの
至上命題は、シェアの死守・拡大。

チャレンジャーのau、ソフトバンクモバイルほど、
尖がりすぎるわけにはいかないのです。

目立つことはやりたいけれど、
マスにそっぽを向かれるわけにはいかないということが、
多数タレント同時起用につながったんじゃないかと思います。


また、DoCoMo2.0のようなアプローチが行われる背景には、
携帯電話はもはや成熟商品であり、これ以上、
機能・性能的おいて劇的な差別化はなしえず、
またベネフィット(便益)における優位性の確立も難しいこと
があります。


シンプルマーケティングの森行生さんの

「プロダクトコーン理論」

によれば、商品の次の3つの切り口

・規格(機能・性能)
・ベネフィット(規格がもたらす便益、価値)
・エッセンス(端的にはブランドイメージ)

において、基本的な訴求の順番は、

規格→ベネフィット→エッセンス

と進んでいくべきとされています。


携帯電話においても、これまでまず規格、次にベネフィットが
アピールされてきたわけです。

しかし、ソフトバンクモバイルのカラーバリエーションが
売れたように、もはや、規格やベネフィットではなく、
デザインやブランドイメージのような、

「エッセンス」

を強くアピールすべき段階に、
携帯電話市場は来ているということです。


このひとつの回答が、「DoCoMo2.0」だと言えるのでしょう。


識者の間では、
「DoCoMo2.0」といいながら規格面での違いは生み出せていないから、
消費者の期待をそぐことになるのでは・・・

といった批判をする人もいます。

しかし、上記の考え方に照らせば、
この批判は的外れのように思います。


DoCoMo2.0は、その圧倒的な資金力で物量作戦を行うことで、

「業界標準は、DoComoだよね」
「DoCoMoなら間違いない」

と、理屈抜きで思い込ませようとしているということです。

もちろん、製品自体も高い品質を維持することは必須ですが、
他社との違いをことさら打ち出すことは、もはやあまり重要
ではありません。


そして、こうした理屈抜き、
「エッセンス」訴求主体のコミュニケーションに
ノックアウトされてしまうのは、フォロワーな人たち。

すなわち、最も人口比の多い、
いわゆる一般大衆であることは言うまでもありません。


DoCoMo2.0は、フォロワー狙いのペネトレーション戦略。
お金持ちの業界トップだけが実施できる戦略です。


なお、大前研一氏は、

“Docomo2.0は、大きな過失
 絶対にやってはならないマーケティング戦略だ”

と厳しく断定しています。
(大前研一『ニュースの視点』2007/05/18)


その理由は、

“『そろそろ反撃してもいいですか?』というキャッチコピー
 を見て分かるように、この戦略は、完全に同業他社に反発し、
 それを打ち負かすことだけを考えたものだから”

だそうです。

“こういった考え方を、経営学では「コンピティティブ・
 リタリエーション(競合反発)」と呼び、経営者が選んでは
 いけない戦略の一つになっている”

とのこと。

“なぜなら、この考え方は、業界収益をなくし、
 自分も相手も血だらけになるだけという結果をもたらすから”

というのも、

“「反撃しても、いいですか?」などという挑戦的な
キャッチコピーを見れば、消費者は「値下げするのかな?」
 と思います。

結果、消費者の買い控えを引き起こす可能性があります。

つまり、大々的な広告は打ったが、買う人はいなかったという
最悪の結果につながる危険性が高いと私は思います。”


ということなのだそうです。


はて、そうでしょうか?

一消費者の実感としては、「DoCoMo2.0」から受け取る
メッセージは「値下げ期待」ではありませんし、
買い控えをしてしまうことにはならないように感じるのですが。


あなたはどう思いますか、DoCoMo2.0は成功するでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 14:16 | コメント (6) | トラックバック

良さそうに見えなきゃ売れないョー

以前も何度か書きましたが、
売れる商品の「基本原則」はつぎの2つです。


・見た目が良さそうに見えること(端的には「デザイン」)
・中味も実際良いこと(端的には「機能・性能・品質」)

つまり、外見と中味が一致していることが大事。


見た目はいいのに、中味がひどい商品、
これはほとんどサギ。顧客は2度と買ってくれないでしょう。


逆に、中味はすばらしいのに、外見がしょぼい。

これだと、潜在顧客はそもそも手にも取らない・・・
素通りされてしまう商品になります。


昨日書いた小林製薬の場合、
同社商品が持つ優れた機能・性能・品質という「中味」を
インパクト重視のネーミングとパッケージデザインで
的確に「見せる」ことで成功を収めています。

つまり、外見と中味のバランスの重要性を十分に理解している
会社と言えるわけですね。


しかし、上記の2つの基本原則を認識していない会社の方が
よほど多いように思います。


たとえば、青森の大手豆腐メーカー、太子食品工業。

同社は最近、新しい豆腐の開発に成功しました。
(「ガイアの夜明け」から)


この豆腐は、中国原産の緑大豆を使用。

爽やかな印象を与える淡い緑色をしていて、
白い豆腐に見慣れた私たちにはとても新鮮に写ります。

また、緑黄色野菜に含まれるベータカロテンが
含まれているため、野菜のような豆腐だと言えます。


革新の少ない豆腐商品において、この「緑豆腐」は
とても魅力的です。

ヒットする可能性大の有望商品だと思います。


しかし、肝心の「見た目」に失敗してるんですね。


まず、パッケージを半透明にしたため、
この豆腐の最大の魅力である「緑色」が見えなくなっています。

この問題は、製品を見たスーパーのバイヤーから指摘されて
いましたが、同社の関係者は、なぜもっと早く気づかなかった
のでしょうか?


また、パッケージのデザインには、
江戸時代の火消しを描いた浮世絵を採用。

ネーミングは、「伊達くらべ」としています。


うーん、よくわかりません。

なぜ、浮世絵?、なぜ「伊達くらべ」?


中味と外見がまったく整合していないですね。

結果的に、付加価値をつけて価格競争を回避しようとした
新商品であったにもかかわらず、

「味はいいけど、パッケージがこれじゃあね。
 特売しないと売れないよ」

と、スーパーのバイヤーからは一刀両断。


大変残念なことです。


さて、こうやって後からいろいろケチをつけるのは
ずいぶん身勝手だとは思いつつも、あえて太子食品さんに
アドバイスさせていただきます。


開発途中で、バイヤーやエンドユーザーの意見を聞き、
反応を確認しながら進めたらどうでしょうか。
(たぶん、今回はやってませんよね)

いわゆる、「マーケティング・リサーチ」を
やりましょうということですが、必ずしも、
大金を投じる必要はありません。


営業の方が試作品をバイヤーのところに持参したり、
開発担当の方が、自宅に持ち帰って、
自分の奥さん、だんなさんに食べてもらう。

それだけでも、商品改良に役立つ貴重な意見が得られたはずです。


なお、ネーミングやパッケージの改善についても、
私なりにちょっと考えてみました。


「森の精霊豆腐」

なんていかがでしょう。


パッケージデザインには、スタジオジブリと交渉して、
もののけ姫に登場した森の精霊「コダマ」を採用します。

森=緑という連想に加えて、緑豆腐が持つ上品さ、清らかさを
「コダマ」なら伝えてくれるように思います。

投稿者 松尾 順 : 10:59 | コメント (0) | トラックバック

インパクトか上品か

最近、私がトライアルしている小林製薬の「ナイシトール」。

内臓脂肪、とくにおなか周りに効く薬ということですが、
まだ1週間目なので実感ないですね。

まあ、当然ですが・・・


さて、「ナイシトール」は、爆発的な売れ行きを示していますが、
その正体は別に新薬でもなんでもありません。

昔からある漢方薬、

「防風痛聖散」

です。


しかし、「小林式ネーミング」と呼ばれる、
その機能や効能が一瞬にしてわかる商品名にしたおかげで
この大ヒット。


「ナイシトール」の例を出すまでもないかと思いますが、
小林製薬のマーケティングの真髄は

「わかりやすさ」

なんですよね。


そしてこの「わかりやすさ」を具現化するのが、
大阪発らしいベタな、こてこてのネーミング。

最近の新製品の名称もこの点は一貫してますね。

・あら熱とーる(弁当のあら熱を取る冷却ジェル)
・コリホグス(肩こりなどに、飲んだその場ですばやく効く)
・ムズメン(股間・内股のかゆみ、かぶれなどに)


先日の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)には、
小林製薬代表取締役社長、小林豊氏が登場されてましたが、
こうしたストレートなネーミングは、

「インパクト」

を重視しているとおっしゃってました。


ネーミング、またパッケージデザインも同じことが
言えますが、「インパクト」の反対の極には、
「上品さ」、あるいは「洗練さ」があります。


小林製薬の場合、一般の小売店で売られる消費財ですから、
まずは、消費者に商品名を覚えてもらえること、
店頭で手に取ってもらえることが重要。


気取った名前を付けたり、きれいなパッケージにするより、
インパクト優先、ストレートなネーミングとパッケージで
勝負!ということなんですね。


なお、小林社長が注意を促していましたが、

インパクトか上品か

どちらを重視するにせよ、
どっちつかずの中途半端はよくありません。

コミュニケーションの基本方針(たとえば「わかりやすさ」)
をきちっと決めて、とことんやりぬくことが大切でしょう。


ついでながら、最近、「カロリーゼロ」のコーラが、
コカコーラ、ペプシコーラの両社から出揃いました。

・コカ・コーラ ゼロ(ZERO)
・ペプシ  ネックス(NEX)


「わかりやすさ」ではコカコーラに軍配が上がりますね。
さて、どちらが勝つでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 10:56 | コメント (8) | トラックバック

じぶんユビキタス化

私は、ブランディング、すなわち

「ブランドを構築すること」

はどういうことかを説明する場合、次の3点をお話します。


・そのブランドを知っている人を増やす
 →ブランド認知向上

・そのブランドに固有のイメージを結びつける
 →固有のブランド連想形成

・そのブランドに対する信頼・好意を高める
 →ブランド信頼、ブランド好意向上


要するに、あるブランドが、多くの人に知られていて、
そのブランドの名称やロゴなどが特定のイメージを喚起し、
さらに、ブランドに対して人が信頼や好意持っている場合、
そのブランドはブランド構築に成功している状態だと言えます。


ただ、商品によってはすべての人に知られる必要はなく、
その商品を買ってくれそうなターゲットユーザーに知られて
いるかどうかがポイントですね。


まいどベタな例ですが、

「吉野家」

はブランド構築に成功していますよね。

ターゲットユーザーの男性なら誰でも知っている名称であり、
吉野家といえば、「牛丼」という固有のイメージを喚起し、
品質に対する信頼や好意度は非常に高い。

米国産牛肉が手に入らない時期、あえて固有のイメージで
あった「牛丼」の販売を中止したのは、ブランドに対する
信頼、好意を失わないためだったことはご存知でしょう。


さて、このブランディング、基本的に

「広告・広報」

といったマーケティング・コミュニケーションによって実施
されてきたわけですが、近年はインターネットの活用が
ますます重要になってきていることは、いまさら言うまでも
ないことですよね。


特に新興企業が、新たにブランドを構築しようと思ったら、
ネットの活用が不可欠です。

以前、

「検索されないものは存在しない」*

というテーマで拙文を書いたことがありますが、
ユーザーのほとんどが「検索」によって情報を見つけ出す時代、
ネットでの存在(プレゼンス)が低いのは致命的です。

*検索結果集合

ですから、ネット上に自社に関連したさまざまな情報をアップ
しておくことによって、できるだけユーザーの目に見える機会を
増加させる努力が必要になってきます。

まあ、一番効果的なのは

「毎日ブログ書きましょう」

ということなんですが・・・


こうすることで、自社の認知度を向上させていくことができます。

特に、ネットの場合、一度アップされた情報は半永久的に
露出され続けること。これは、一瞬目の前を通過するだけで、
ほぼ2度と見られることのない従来のマスメディア広告と決定的に
違うメリットです。


また、自社に対して固有のイメージを結びつけることも、
ネットでは比較的容易です。

有効なのは、いろいろ検索してみてまだ手垢のついていない
独自の言葉を探し出して、それを自社のイメージの核
(コンセプト)に据える方法。

要するに、他社があまり使っていない言葉を自社でガンガン
使っていけば、最小の努力で、固有のブランド連想が強化
できるというわけです。


私が、メルマガ&ブログのコンセプトとして

「マインドリーディング」

という言葉を選んだのも上記の理由からです。
(まだまだブランド構築途上ですけど・・・)

ちなみに、ベストセラー「ウェブ進化論」という名称を採用したのは、
著者の梅田望夫さんによれば、当時検索で何も引っかかって
こない言葉だったからなんですよね。


そして、ネット上に自社や商品に関わる情報がたくさんあれば
あるほど、「量」が「質」に転化して信頼が形成される。

そうなんです。情報そのものの信頼性以上に、
情報量が多ければ多いほど、信頼は自然に高まるんですよ。

さらに、頻繁に情報が更新されれば、親近効果によって
「好意」も深まります。


ですから、繰り返しますが、今、ブランディングに
取り組むなら、あらゆるところでネットで検索されるように
さまざまな機会をとらえて情報をばらまくことが必須だと
思います。


私の場合、法人化してはいるものの、実質個人事業ですので
この方法を

「じぶんユビキタス化」

と呼んでおります。(笑)


先の梅田さんは、同じことを

「分身の術」

とたとえてらっしゃいますが。


そうそう、梅田さんが指摘されていることで、さすが鋭いと
思うのが次の点。

自分(自社・商品)の情報をネットにあふれさせることによって、
検索結果の上位は、ほとんど自分が書いた情報で占められること
になる。

すると、他社が書いた自分(自社・商品)に対する非難や中傷
など、ブランドにとってネガティブなイメージとなる情報を
排除できるのです!

なぜなら、検索結果の2ページ目以降はあまり見ないですからね。


まあ、それなりに価値のある情報を大量に生み出し、
ネットにアップし続けることは、決して楽なことじゃありません。

でも、最小の費用でブランド構築に成功したかったら、

「じぶんユビキタス化」

に取り組むことをオススメします。

投稿者 松尾 順 : 11:20 | コメント (2) | トラックバック

不二家の「思い出の小箱」をどうする?

「ブランド」とは、消費者の頭の中にある

「思い出の小箱」

である。


私が一番好きなブランドの定義です。

端的には、この小箱の蓋には、そのブランド名称が
貼り付けられていると考えてください。

つまり、商品名称やロゴマーク、パッケージデザインなど、
他の商品と違うものとして識別できる、その商品の「特徴」と
結びついたさまざまな「思い出」が詰まった小箱がブランドです。

大事なのは、小箱の中の「思い出」なんです。

この「思い出」、言い換えると「記憶」は、
その商品を実際に使った時の手触りや、生じた気持ちといった
実体験に基づくものもありますし、新聞・雑誌広告、
TVコマーシャル、あるいは人から聞いた話など、さまざまな
出会いを通じて作られたものです。


人気ブランドの場合、その思い出の小箱には、
たくさんのすばらしい記憶が詰まっています。


一方、人気のないブランドの小箱は、
ほとんど中身が空っぽか、あるいは、
最悪の記憶でいっぱいである場合のどちらかです。


中身が空っぽなのは、まだほとんど知られていないか、
記憶に残らない程度の価値しか持っていないと消費者に
思われて無視されてしまっているからです。

でも、空っぽの場合は、これからどうやって
「すばらしい記憶」を埋めていくべきかを考える余地が
ありますから、まだ救いがありますね。


しかし、最悪の記憶がいっぱい詰まっているブランドは、
いったんそれらの記憶を小箱から出して、すばらしい
記憶と入れ替えなければならないので大変です。

「雪印」乳業も、小箱の記憶の入れ替えに
いまだ苦しんでいますよね。


今回の不二家の事件でも、
すばらしい記憶で一杯だった「不二家」の思い出の小箱は、
わずか1ヶ月ほどの間に、「最悪の記憶」であふれかえって
しまいました。


「ペコちゃん」に罪はありませんから、
ペコちゃんを見ると思い出す子供のころの楽しい記憶や、
パラソルチョコレートのおいしい記憶など、
すばらしい思い出はまだ小箱の片隅にしぶとく残っています。

でも、ますます増殖する「最悪の記憶」に覆い隠されて
ほとんど見えなくなりつつあります・・・


不二家の「思い出の小箱」、どうしましょ?

投稿者 松尾 順 : 02:54 | コメント (0) | トラックバック

ブランド・プレミアム

「ブランド」が確立されていると、
そうでない他の商品よりも優先的に選択され、
また多少高くても、そのブランドを選んでしまう。

このブランドが持つ価値のことを

「ブランド・プレミアム」

と言いますね。


日経デザイン最新号(2007年2月号)では、
これを「ブランド代」(ブランド貢献度)と呼んで
消費者調査を通じて数値化する試みをやっています。


今回の調査対象商品のうち、
このブランド貢献度がもっとも高かったのが、
男前豆腐店の豆腐でした。

豆腐の標準的な相場価格(基準価格)を120円とした時、
いくらまでなら高くても男前豆腐を買いますかという質問の回答
によれば、平均価格は「143円」となっています。

これは、基準価格(120円)の19.2%増し。

この比率が「ブランド貢献度」、すなわち
「ブランドプレミアム」と呼べる数字です。


ちなみに、1位から5位までは次の通り。

1位 男前豆腐店「男前豆腐」
2位 シーキューブ「チョッコラータドーロ」
3位 メルセデスベンツ「Sクラス」
4位 プラスマイナスゼロ「加湿器」
5位 セイコーエプソン「カラリオ」


なお、男前豆腐については、

「内容量と価格が同じだった場合、
一般的なメーカーの豆腐と男前豆腐のどちらを買いますか」

という設問(ブランド支持率)に対して、

回答者の80.3%が

「男前豆腐を買う」

と回答しており、男前豆腐のブランドパワーの強さを
感じさせる数字となっていますね。


さて、私がこの調査で最も興味深いと思ったのは、
シャープの「アクオス」です。


シャープは、2000年に当時の社長が

「5年後に液晶テレビに置き換える」

という目標を掲げ、
以来、一貫したブランディングを継続してきました。


その結果がどうなったかというと・・・


「基本機能、性能、価格が同じだった場合、
 一般的なメーカーの製品と「アクオス」のどちらを
 買いますか」

というブランド支持率を測定する質問に対して調査対象者は、

「88.7%がアクオスを買う」

と答えています。このブランド支持率は今回の最高値。

10人のうち9人が、
条件が同じなら「アクオス」を選好するというのは
すごいですね。


ブランド貢献度については、40万円の基準価格に対して、
平均41万6748円、つまり「基準価格の4.2%増し」です。

つまり、アクオスなら、他の商品より4.2%割高でも
買いたいと思うということですね。

ただし、基準価格が40万円と絶対額が高いですから、
100円そこそこの豆腐などと単純に比率で比較することに
ついては注意が必要ですが。


また、

「ソニーの液晶テレビ「ブラビア」と比較して、
基本機能、性能、価格が同じだったらどちらを買いますか」

という設問に対しては、なんと84.7%の人が、

「アクオスを買う」

と答えています。


世界的なトップブランド「ソニー」も、
液晶テレビ分野では、「アクオス」に完璧に
負けているわけです。


地道で継続的なブランドづくりの有効性が実感できる調査結果
じゃないかと思います。


うろ覚えですが、2000年当時は、液晶テレビの将来性はまだ
不透明で、当時の社長いわく、

「液晶テレビに注力する」という決断には相当勇気が必要だった

というのをどこかで読んだ覚えがあります。


ブランディングは息の長い企業活動だけに、
トップのコミットメントがきわめて重要です。

投稿者 松尾 順 : 10:09 | コメント (0) | トラックバック

「ネガティブ・エクイティ」を受け入れ活かす

ブランディングは、端的に言えば、
ターゲットユーザーの頭の中に、自社の商品に対して理想とする
イメージを形成すること。

つまり、「ポジティブなイメージ」を植えつけて、
ユーザーの期待感を高めることです。

赤福で言う「先味」。

経営コンサルタントの石原明氏は、
実際の商品自体が優れていることは大前提として、まず

「良さそうに思える」

ことが大事だと言っています。

これは、商品のよさをまだ知らない新規ユーザーにとって
特に重要な点です。

「良さそうに思えない」と、
そもそも試してみる気にならないからですね。


だから、ネーミングやパッケージデザインなどが
ブランディングで重要な要素になるわけです。


しかし、どんなに「ポジティブなイメージ」を植えつけたいと
思っていても、そもそも商品が持つネガティブな特性(欠点)を
隠すことは困難です。

最近は、ネットを通じて詳細情報の入手が容易になりましたし、
欠点をわざと隠して美点だけを訴求しても、
消費者には簡単に見透かされてしまいます。


きれいごとを言えば言うほど、

「自分たちに都合のいいことしか言わない会社」

というネガティブなイメージが強化されていく時代です。


そこで、逆転の発想。

商品の持つネガティブな特性(「ネガティブ・エクイティ」)を
理解し、受け入れることから活路を見出す手もあります。
(PRESIDENT、 ハーバード式 仕事の道具箱、2007.2.12)


例えば、米国で販売しているリプトンのインスタントスープ、

「カップ・ア・スープ」

は、これまで優しさに溢れる早親と笑顔の子どもの広告を
通じたブランドイメージを一貫して形成してきました。

しかし、このイメージが通用したのは70年代まで。


今日では、

まともな親なら、多くの科学調味料を使用し、
栄養分の少ない食べ物を家庭での夕食の一品として
出すことはない

というネガティブな事実を担当者が素直に受け入れ、
当該製品のポジションを変更。(リ・ポジショニング)


「カップ・ア・スープ」をオフィスでの軽食として、
午後遅く一息入れるときのスニッカーズやコークに代わるもの
として売り込むことにしました。

こうして、同商品のネガティブな特性が問題とならない
新しい文脈を見つけたことで、20%の価格引き上げを
行ったにもかかわらず累積売り上げで60%増を記録したそうです。


もはや、企業側が一方的な情報操作ができない今、
ネガティブな側面を見ない振りをしたり、隠そうとせず、
それを直視し、どうやったらマイナスをプラスに転じるかに
知恵を絞るべきなんでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 10:23 | コメント (1) | トラックバック

河ふぐ

年末に「ラ・フランス」をいただきました。
西洋梨が大好きな私は狂喜乱舞!(笑)

食べごろになるまで1週間以上かかったので、
つい数日前に初めて食べたばかりですが、やはり最高でした!


さて、以前、このメルマガ&ブログでも書きましたが、
「ラ・フランス」は、以前は「みだぐなす」と呼ばれてました。

・みだぐなすの話

「みだぐだなす」は、

「みっともない梨」

という意味の方言だそうですが、その意味にふさわしく、
なんともさえない名称です。

しかし、「ラ・フランス」に名称を変えたことが、
贈答品としても使える高級フルーツとして扱われるように
なった要因だと言われています。

これは、「フランス」という言葉が持つ、

高級感やおしゃれなイメージを

うまく借用している典型例でしょう。


最近、同様のネーミングの妙の例を知りました。

それが、

「河ふぐ」

です。


「河ふぐ」って何のことだかご存知ですか?

飛騨高山河合町で養殖している

「飛騨清流なまず」

のことです。
(アメリカ原産で、正式名称は
 「アメリカンチャネル・キャット・フィッシュ」)

なまずにはひげがあるので、
キャットフィッシュと英語では言うんでしたよね。


なまずは、西洋梨と同様、見た目はあまり良くありませんが、
味や食感は、ふぐそっくりだそうです。

以前は、そのままストレートに

「なまず料理」

と呼ばれていたそうですが、平成4年に当時の岐阜県知事が、

「高級河ふぐ料理」

と命名されて以来、「河ふぐ」という名称が使われるように
なりました。

平成7年には、下関のトラフグと味の勝負を行ったそうです。


「なまず料理」と言われると、
ちょっと食欲減退しちゃいますが、
「河ふぐ料理」と言われると、いかにも高級そうですし、
食欲そそりますよね。

これも、「ふぐ」の言葉がもつ好意的なイメージを
うまく借用したケースです。


そういえば、サントリーの「銀座カクテル」も、
「銀座」という言葉の持つ高級イメージをうまく
ネーミングに活かしてます。

ただし、単なる名称だけでなく、
銀座千疋屋とのコラボレーションですので、
ちゃんと意味があります。

銀座千疋屋が選んだフルーツの果汁をぜいたくに
使ったカクテル。「プレミアム・カクテル」と
呼ぶにふさわしいネーミングですね。

ターゲットは女性(F1層:20-35歳)かな。

私は試しに一度飲んでみましたが、甘ったるすぎて
ちょっと苦手でした・・・


ネーミングは、いざ自分が考える立場になると、
とても難しいものです。

安易ではありますが、すでに好意的なイメージが
ぶらさがっている言葉を借用するのは、
ある程度効果が見えるだけに採用しやすい手ですね。

投稿者 松尾 順 : 10:23 | コメント (0) | トラックバック

香りのブランディング

以前、

「匂いのマーケティング」

で書きましたが、

鼻、つまり嗅覚器は、目や耳など他の感覚器と違って、
脳と直接つながっています。

このため、「香り」「匂い」は、
感情を引き起こす脳(大脳辺縁系)を刺激し、
理性的に考えることのない行動を喚起しやすいのです。


この効果は、以前から商売人はわかってました。
うなぎ屋さんや焼鳥屋さんは、店先でたれの焼けるいい匂いを
流して、通行人の食欲を刺激してましたよね。


最近は本格的に「香り」をビジネスに取り入れようという動きが
目立ちます。(日経MJ、2006/11/03)

たとえば、アウトドアブランドの「ザ・ノース・フェイス」では、
ヒノキの香りを流して、都会のオアシスの雰囲気を
醸し出しています。

2年前に改装した際に、エッセンシャルオイルを流す芳香器を
導入したそうですが、改装初年度で売り上げが前年比50%アップ。
現在も2桁増で推移。

香りのおかげで売り上げが伸びたかどうかを測定することは
難しいでしょうけど、店内の快適さの要因になっていることは
間違いないでしょうね。


また、銀座にある高級腕時計ブランド「フランク・ミューラー」
では、かなりきつめの、ツンとするオリジナルの香りを
流しています。

フランク・ミューラーは、創立14年の新興ブランド。

老舗の購入腕時計とのブランド差別化のため、
あえて、好き嫌いのはっきりする「香り」を店内に漂わせる。


「たる型のフォルムなど、前衛的なブランドイメージを
 来店客に伝える」

ワールド通商フランク・ミューラーブティック営業部、
奥野倫也氏は、このように説明しています。

「香り」がブランド構築の重要な一要素として
扱われているわけです。


さて、香りのマーケティング効果は、以前から経験的には
わかっていたものの、あまりビジネスには採用されてこなかった
ですよね。

日経MJによると、

「香りを構成する物質がどのように人間に作用するかの
 生理的・化学的メカニズムはほとんど未解明」
 (近畿大宮沢三雄教授)

という点が問題でした。因果関係がよくわからなくて、
効果測定もしにくいからということでしょう。


ただ、この問題も

「ニューロマーケティング」

の浸透によって、

どんな香りを流すと、脳のどの部位が反応するのか

といったことを詳細に把握できるようになれば、
大きな発展が望めそうな分野ですよね。

投稿者 松尾 順 : 10:26 | コメント (0) | トラックバック

安すぎるから買わないよ!

米国では、2006年度の自動車部門サービス顧客満足度調査で
第1位を獲得、英国では同調査で6年連続1位と、
海外で大成功している、トヨタの高級車ブランド「レクサス」。


「レクサス」が日本に逆輸入され、本格展開を始めてほぼ1年が
経過しました。メインのターゲットは、もちろん「富裕層」です。

2005年の販売台数は、目標の半分の1万台にとどまったそうです。
(日経産業新聞、2006/08/30)


初年度は基盤づくりの時期であり、目標台数も元々大きめだった
と言われていましたが、営業の現場では、従来の「待ちの営業」
の方針を修正。

リッツカールトンホテルなどの優れたサービスに学んだ、
丁重なおもてなしを基盤とする店舗での顧客対応に加えて、
外回りの営業にもチカラを入れています。


さて過去1年、あとひとつレクサスがふるわなかった最大の理由は、
輸入高級車からの乗り換えがあまり進まなかったからです。

ベンツやBMWなど強敵輸入車の強みは、なんといっても
「ブランドイメージ」ですよね。

海外ではすでに互角に近いところで戦えているとは言え、
日本ではまだこれからのレクサスとしては、
「ブランドイメージ」の向上を最優先課題とすべきです。

ですが現実にはそうしなかった(できなかった?)のが
販売の足を引っ張ったようです。


レクサスの「ブランドイメージ」向上には、
まず、高いブランドイメージを形成するパワーを持つ強力な
基幹商品を投入すべきですよね。

ところが、お値段700-1000万円の基幹車種「LS」の投入は、
ついこの間、今年の7月でした。
(「LS」の出足は好調のようです。)


しかし、最初に投入した「IS」(旧アルテッツア)は、
最もレクサスらしいデザインではあったものの、
値段が安すぎました。

安すぎたといっても300万円台、私には手がでませんが(笑)、
それでも、この価格帯は「(富裕層向けの)高級車」
とみなすことはできないですよね。


マーケターの方ならほぼ常識のことだと思いますが、
高級ブランドは値段が高ければ高いほど、ある意味
ありがたがられますよね。

数千万の高級車を買う、乗り回すということは、
それだけの経済力がある、社会的成功を収めたということを
回りに暗示する「シグナル効果」を持つからです。

つまり、高級車では、性能が良い、燃費が良い、安いといった
「実用価値」ではなく、「象徴的価値」が重視されるわけです。


ところが、「IS」の場合、若年層も視野に入れるため、
価格をあえて300万円台に抑えた。つい色気を出してしまい、
ブランドづくりだけに注力せず、ターゲット層を拡大して
販売台数増加を狙ったことが問題でした。

結果を見る限りでは、この色気が逆効果になってしまった
ようです。本来のターゲットであった富裕層が、
「IS」に対して「象徴的価値」を認めなかったからです。

おそらく、

「300万円じゃ、安すぎるから買わないよ!」
 (成功者の自分にふさわしくないからね)

と判断されてしまったんでしょうね。


しかし、ようやく「象徴的価値」を認めることのできる「LS」を
手にしたレクサスブランドの2年目の展開が楽しみです。

投稿者 松尾 順 : 13:47 | コメント (1) | トラックバック

独りよがりなブランド拡張・・・カシオ「エクシリム」

先日、某法人向けサービス新市場の認知度調査を実施したところ、
やはり、革新的なサービスを先駆者として立ち上げた新興企業が
圧倒的に認知度が高く、ブランドイメージも際立って良いという
結果になりました。

この新市場は、老舗のブランド力のある企業が次々と参入して
激しい競争状態になっていますが、

新サービス=上記新興企業

というブランドイメージは強固で、
なかなか崩せないものだということがわかりました。


さて、こうした強いブランドを確立した企業は、
そのブランド力を有効活用したいと考え、さまざまな
商品カテゴリーにブランドを拡張していくものです。

もちろん、成功することも失敗することもありますが、
まず間違いなく失敗するのは、企業側が自分たちの都合だけ
しか考えない場合ですね。


つまり、失敗するのは、

「独りよがりなブランド拡張」

をやってしまった時です。


過去にブランド拡張の失敗事例は山ほどあるのですが、
直近では、カシオのデジカメ「エクシリム」が挙げられます。
(日経ビジネス、2006年8月7日・14日号)


「エクシリム」は、2002年に
名刺サイズの薄型・軽量のデジカメとして
華々しく登場しましたよね。

特に、胸ポケットに入る「究極の薄さ」(11.3mm)は、
他社と明確に異なる強烈なブランドイメージを
構築することに成功しました。

実は、私もエクシリムの後継機を愛用しています。
常に持ち歩いて負担にならない大きさ、薄さ、軽さは最高です。
(最近は、さすがに他社製品も遜色ないですけど・・・)


カシオは、このエクシリムブランドの拡張戦略の第一弾
として、2003年から新シリーズ「エクシリムズーム」を発売。

ズーム機能を加えて画素数を引き上げた同シリーズは、
この高性能化のために本体の厚さは従来2倍(23mm)に
なってしまいました。


このブランド拡張戦略の場合、どうやら
製品の高性能化が先にあったようです。

「エクシリム」のブランドを冠したいけれども、
同シリーズはこれまでの「薄さ」が強調できない。

そこで、エクシリムのブランドイメージの柱であった
「究極の薄さ」を弱め、

「薄型でコンパクト、スタイリッシュ」

と再定義してつじつまを合わせてしまいました。

既に、企業の「独りよがりさ」が顔を出しつつありますね・・・

幸い、同シリーズはヒットしました。
他社同等製品よりはまだ薄かったからです。


カシオでは、
さらにエクシリムブランドを中・上級者向け製品に
拡張することを狙いました。

2004年に投入した

「エクシリムプロ」

です。


「エクシリムプロ」は確かに優れた性能を持っていましたが、
従来のカメラを思わせる、一回り大きくて無骨なデザインを
しています。

エクシリムのブランドイメージを構成していた「薄さ」
だけでなく、「小ささ」「軽さ」「スタイリッシュ」さなど、
すべてを捨ててしまいました。

そこで、カシオでは、エクシリムの定義を

「エクシリムとはカシオによる製品差異化そのものを指す」

と、今度は完全なる「独りよがり」コンセプトに変えます。

ブランドをどのように(再)構築するかは企業の戦略マター
(自由裁量)かもしれませんが、上記のような意味不明の
コンセプトでは、ユーザーに伝えることはできないですよね。


「エクシリムプロ」は売り上げ苦戦のまま生産を終了。
現在は、再び従来のブランドイメージ「薄さ」のコンセプトに
立ち戻ったシリーズを展開しています。


おそらく、カシオ社内では、

「エクシリム」のブランドさえあればなんだって売れる

といった強引な意見に引っ張られたんでしょうね。
特定のブランドが大成功した時に必ずみられる「おごり」
現象です。


ブランド拡張を行う場合には、
ユーザーが製品に対して持っている「ブランドイメージ」
との乖離を無視してはいけない。


ユーザー不在の独りよがりなブランド拡張は厳禁です。

投稿者 松尾 順 : 18:43 | コメント (2) | トラックバック

「au」のブランド拡張が気づかせてくれること

今日のお話は、

「コミュニケーションターゲット」

の役回りを勘違いすると困ったことになるという事例です。
(日経ビジネス、2006.7.3、特別編集版)


「au」をサービスブランドに据えたKDDIのブランド戦略は、
大成功したと言えますね。

おかげで、王者ドコモに続く2番手の地位を磐石のものと
しましたから。

この成功の最大の牽引力となったのは、
著名デザイナーを採用した「au design project」が
ヒット機種を次々と生み出したことにあるでしょう。


ところが、ちょっと首をかしげてしまうんですが、
KDDIの法人向けの携帯電話サービスには、「au」のブランド名を
昨年(2005年)9月まで冠していなかったそうです。


「KDDIモバイルソリューション」

これが、以前の法人向けサービスの名称。
大変失礼ながら、実に平板で面白みのないネーミングですね。


なぜ、法人向けサービスに「au」を採用しなかったのでしょうか。

それは、個人向け携帯サービスのブランドとして打ち出した「au」
の中心顧客が「若年層」であるのに対し、
法人向けの採用の意思決定者(決裁者)は「中高年層」。

つまり、ターゲットが異なるからという理由でした。


ただ、上記サービスに対する法人客の反応はぱっとしませんでした。

ある顧客からは、

「KDDIさんは、
 法人向けの携帯電話には力を入れていないようですね」

とまで言われてしまいます。


頭を抱えたKDDIは、「au」を使わないという方針を転換、

「Business au!」

というサービスブランドを考案し、展開を図りました。


結果は劇的です。

専用ホームページへのアクセス件数は6倍以上に伸び、
2006年3月期の企業向け携帯電話の新規契約件数は、
前期の1.6倍になっています。

高い認知度と、「先進的」「カッコいい」といった
好意的なイメージを持つ「au」ブランドですが、
他のサービスにこの名称を拡張しただけで、
これほどの効果があるというのは驚きですよね。


さて、昨年まで「au」ブランドの採用を拒んでいた
KDDIさんの勘違いは、

「サービス決裁者=サービス選定者」

と考えていたことにあると思います。


確かに、法人向けサービス導入のハンコを押すのは
中高年の管理職でしょう。

でも、どの企業のサービスを使いたいかという選定は、
現場のヒラ社員(若年層)に任せるんじゃないでしょうか。

たぶん、

「どこのサービスがいいか、検討して稟議書回してくれ」

でしょう。


これ、自家用車を購入する時の契約者(決裁者)は
通常ダンナですが、車種選定権は、
奥さんや子供(影響者)が握っていることが多い
というのと似た構図です。


BtoBの場合、BtoC以上に、
このターゲットユーザーの役回り(決裁者と影響者)や
相互の力関係がわかりにくく、

・コミュニケーションターゲットを誰にするか
・どんな訴求内容とすべきか

といったマーケティング・プランニングで頭を悩ますところです。


「au」の事例も、
BtoBマーケティングの難しさを再認識させられますね。

投稿者 松尾 順 : 15:40 | コメント (2) | トラックバック

風で織るタオル・風で動くはてな

「風で織るタオル」

なぜか優しく暖かい響きですよね。

「風で織るってどういうこと?」

という好奇心も喚起される秀逸なネーミングだと思います。


「風で織るタオル」は、
タオルの名産地、愛媛県今治市の地場企業、
池内タオル(株)のコンセプトです。

池内タオルは、日本で最初の小電力契約企業で、
使用電力を100%、「風力発電」でまかなっています。

だから、同社のタオルは「風」で織られているというわけです。

原糸にはオーガニックコットンを使用した高品質の製品も
揃え、それらは、バスタオル1本で3-4千円します。

しかし、「風で織るタオル」のコンセプトのおかげで
際立ったブランドを確立しており、売れ行き好調。

生産コストでは、中国を初めとするアジア製には勝てず、
危機に瀕している今治のタオル産業にあって、
池内タオルは、独自の「コンセプト」を打ち出して成功した稀有
な企業といえます。


さて、風で織るタオルにヒントを得たのかどうか知りませんが、
変な会社の(株)はてなが、

「風で動くはてな」

というコンセプトを打ち出しましたね。

池内タオルと同様、同社のサーバの消費電力を風力発電で
まかなうことにしたんです。

すなわち、「はてなサーバーのグリーン電力化」です。


「はてな」さんは、ここでひとひねりを加えました。

「風車」をモチーフにしたオリジナルTシャツを販売して、
代金2500円/着のうち、1000円分をグリーン電力化に充当
するそうです。


同社では、

「ユーザーと皆さんと共に動かす風車」

を目指しているということですが、私の勘違いでなければ、
これは同社が支払う電力費用をユーザーに
肩代わりしてもらうということですよね・・・?


さすがです。

ユーザーが育てている会社というイメージのある
「風」変わりな「はてな」ならではの取り組みでしょう!

投稿者 松尾 順 : 09:58 | コメント (0) | トラックバック

文字のないキーボード

事務所のパソコンにつないでるキーボードの文字が、
あちこち消えかかってます・・・

買い換えて1年足らずですが、やはり安物だからですかね。

いちおうタッチタイピングができるので
多少文字が消えても使用には差し支えないのですが、
もし全部の文字が消えちゃったら、さすがに使いこなせないです。


しかし、プロのプログラマーは違いますよね。
キーボードが商売道具そのものですから。

「キーボード一本、さらしに巻いて・・・」(ふ、古い・・・?)

当然ながらすべてのキーを空で覚えています。


こうしたプロ開発者に人気なのが、

キーボードに文字の表示(刻印)が一切ない、

「ハッピー・ハッキング・キーボード 無刻印モデル」
(写真はホワイト、ブラックもあります)

です。

結構以前から知られたモデルですが、ご存知でしたか?


文字がないので、実にすっきりした顔つきしてますね。
でも、素人を寄せ付けない威圧感があります。(笑)

プロじゃなきゃとても手が出せない。

値段も1本、約2万5千円。
プロ仕様にふさわしい値段です。

しかし、過去7年間で10万台も売れています。


さて、「文字のないキーボード」なんて発想、
どこから生まれたんでしょう?

開発した(株)PFUの松本部長によると、

ピアノの練習をしている娘さんが、
ピアノのキーボードに「ド」、「レ」、「ミ」などと音階を
書いて貼り付けていたのを見たのがきっかけでした。

そして、松本さんは、

「コンピュータ用キーボードの文字をなくしてしまったら
 どうだろう?」

という逆転の発想をしたわけです。


ピアニストは、音階の書いてあるピアノは使いませんよね。
プロのIT開発者なら、文字がなくたって支障はないはずと
考えたんでしょう。

ただ、売れている最大の理由は、文字がないキーボードは、
そのユーザーがプロであることを示す「シグナル」の
機能を持っていることです。

つまり、文字のないキーボードは、

「私のユーザーはプロなんですよ」

という信号を発信している。

その信号を受け取った人は、

「さすがですね!」

と感心してくれ、
プロフェッショナルの自尊心が大いにくすぐられると
いうわけです。


ハッピー・ハッキング・キーボードの事例は、
やみくもに製品を便利にしようとする思想は、
ユーザーセグメントによっては逆転してもいいこと、
また、製品が発信する無言のメッセージ(=シグナル)を
意識する必要性を認識させてくれるものでしょう。

投稿者 松尾 順 : 14:43 | コメント (4) | トラックバック

ガキが着るものはイヤ

子供服ブランドで急成長してきたナルミヤ・インターナショナル。
ご存知でしょうか。

同社社長、成宮雄三氏の本、

「チャンスは6時の方向にある-小が大に勝つ逆張りビジネス論」

を読むと、成宮さんは、前例にとらわれない大胆なアイディアで
逆境をチャンスに変えてきた人であることがわかります。


さて、事業に100%の成功はなく、時に失敗することも
覚悟しなければなりませんが、
ナルミヤインターナショナルさんも最近、

「ブランド拡張戦略」

に失敗しちゃいました。
(日経MJ、2006.05.26の記事より)


同社の主力ブランドは、小学校高学年~中学生のジュニア向けの
「エンジェルブルー」です。
ジュニア服としては異例の1万円を超える値段のものでも
飛ぶように売れているというので、注目されていたわけなんですが。

ナルミヤさんはここで欲を出しすぎたか、エンジェルブルーの
支持層を広げるべく派生ブランド、

「エンジェルブルーキッズ」

を04年8月、発売します。小学校低学年層向けです。

子供服という同じカテゴリーながら、新たなターゲット市場を
狙った「ブランド拡張戦略」を採用したんですね。


ところが、しばらくして既存ユーザーだった小学校高学年~
中学生女児が同ブランドを購入しなくなり、
ナルミヤの百貨店などでの売上げは、04年11月から前年割れを
始めるようになります。

結果として、直近年度の2006年1月期の決算は、1995年以来、
初めての減収減益に陥りました。


エンジェルブルーのような、既に確立されたブランドをテコと
して新市場に展開するのは、新たなブランド構築のための投資が
最小限で済むので大変効率的ですが、
同時にブランド拡張の「リスク」にも注意を払う必要が
ありますよね。

ブランド拡張のリスクの一つは、あまりにも広範囲にブランドが
拡散してしまうことによる「希少価値の減少」です。

もう一つは、新たに加わったネガティブなブランドイメージが
もたらす「ブランド価値の破壊」です。


「エンジェルブルーキッズ」の場合、後者のケースです。

キッズという言葉が付いてはいるものの、

エンジェルブルーは低学年のガキが着る服というイメージ

が広がりました。
このため、従来の小学校高学年~中学生のユーザーにとっては、
「ガキが着るものはイヤ」だということで、
ネガティブなブランドイメージが付加されることになったんですね。


一般論として、ユーザーのライフスタイルを表現するような
高級ブランドの場合、それが格下の層(下層階級や低年齢層)に
広がった時点で、従来のユーザーはそのブランドから離れて
いきます。自らのライフスタイルとのイメージのズレが発生
するからです。

このような従来のユーザーが購入をやめてしまうような
新たなユーザーのことを、オピニオンリーダーの逆の意味で、
「ディスオピニオンリーダー」と呼びます。

エンジェルブルーの場合、低学年が
「ディスオピニオンリーダー」の役割を果たし、
従来のユーザー離れが起きたということになりますね。


まあ、おじさんの私から見れば、小学生~中学生はみんな
ひとくくりで「ガキ」にしか見えないんですけど。

とこんなことを言ったら、
中一の娘に怒られてしまいそうです。(笑)

投稿者 松尾 順 : 11:02 | コメント (5) | トラックバック

張り手のアサヒ、揉み手のキリン

2006年1-3月期、ビール系飲料トータルでの市場シェア1位の座を
キリンがついにアサヒから奪い返しました。

実に6年ぶり。

この久しぶりの逆転劇の立役者は、キリンの「のどごし生」。
癖のない味、シズル感のあるエモーショナルな
パッケージデザイン、そして現場営業のがんばり、など
総合力の勝利ということらしいです。

のどごし生は、第三のビールと呼ばれるジャンルの
トップブランドに育ちました。
発泡酒ジャンルのキリン「円熟」も売れていますね。


一方、アサヒは、第三のビールの「新生3」が不振。
数ヶ月前に売り上げ挽回のためネーミングやパッケージデザイン
をリニューアルしたばかりですが、あいかわらずパッとしません。

私も一度だけ「新生3」を試してみましたが、
なんてことのない味ですし、デザインも硬質的で魅力を感じない
ので、結局、二度と飲んでいないです。


私個人の感覚的な評価になってしまうのですが、
アサヒさんは、スーパードライのヒット以来、
技術志向に走りすぎのようです。技術過信です。

「うちの技術はすごいだろう!飲んでみなよ!」

みたいな雰囲気が感じられるんですよね。

これは、まるで消費者を「張り手」で圧倒しようとしてる
ようなものです。

「どうだ、どうだ、どうだ・・・」

受けて立つ消費者としては、すごいのはわかったけど、
疲れちゃった、と土俵をおりてしまった。

それで今、アサヒさんは一人相撲を続けてるわけです。


一方のキリンさん、スーパードライにはまだまったく
歯が立たないので、発泡酒や第三のビール市場に
活路を求めるしかない。

大げさですが、見栄もプライドも捨て、

「ぜひうちの商品を飲んでください。お願いします!」

と頭を下げ、「揉み手」をしながら消費者にすり寄っています。
消費者としては、悪い気はしないですね。

「なかなか殊勝じゃねぇか、そこまで頭を下げられちゃあ、
 飲まないわけにはいかないなあ」

と意気に応えている。(笑)

ぐっさんが、キリンの営業マンに扮し、
店頭での試飲風景をそのまま再現したコマーシャルは
こうしたキリンさんの低姿勢を象徴するものでした。

「張り手のアサヒ」、対する「揉み手のキリン」

しばらくは、ハードアプローチよりソフトアプローチの
キリンさんの勢いが続くでしょう。


ただ、アサヒの新商品「ぐび生」は、ネーミングからして
これまでのアプローチを変えてきた気配がありますけどね。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

顧客の平均年齢71歳

私の持つ、たくさんの暗い過去のひとつに、

「旅行会社の社員で悩み多き日々を過ごした」

という経験があります。(^-^)

新卒で入った中堅の旅行会社でしたが、
いろいろと挫折や悲哀を味わいました。
(会社自体はいいところでしたよ)

今もあいかわらず不器用ですが、
当時はもっと生き方が不器用だったせいです。


私のことはともかく、(⌒o⌒;

旅行会社は、以前は「旅行代理店」とも呼ばれていたように、
鉄道、バス、航空券などの交通機関や、ホテル、旅館などの
宿泊施設、そして、名所・旧跡などの観光地・施設の手配の
「代行」によって手数料を得ます。

手数料率は、ざっくり丸めていうと、高くても20%前後、
低いものは3%程度です。
これが=「粗利益率」ですから、
人手のかかる商売にしては利益率が著しく低い。

手配代行だけやっていては儲からない商売です。

この構造は、広告業界と非常に似ています。
ただ、広告業界は単価も高く、一社当たりの取扱額が
数億~数十億になることもありますから、
手元に残る「粗利益額」は莫大です。
このあたりは商社に近いものがありますね。


さて、旅行会社に話を戻すと、
単なる代理業に止まっていては儲からないし面白くないわけです。

やはり、企画料やサービス料といった形での付加価値を提供して、
より大きな収益を上げる知恵と工夫が必要になります。


その意味で、マーケティング専門誌「アイ・エム・プレス」
最新号(2006.4)の巻頭インタビューに登場した

「ニッコウトラベル」

さんの取り組みは注目に値するものでしょう。

ニッコウトラベルさんのツアー参加者の平均年齢は71歳!
私の勝手な想像ですが、ほぼ全員総入れ歯でしょうし、
歩くのだってもうそんなにすばやく動けない。

しかも、長い人生を過ごしてきて、旅行歴は20-30回は
当たり前。ありきたりの企画では満足してもらえません。


そんなわけで、若い人向けのツアーと違って、
企画内容や食事、時間配分に特別の配慮が必要になります。

ただ、逆に言えば、
うまくノウハウを確立できれば儲けは大きい。


ニッコウトラベルの場合、
ツアー申込書の職業欄には、参加者全員が「無職」と
書くそうですが、元上場企業の役員だった人とか、
いわゆる「資産持ち」の富裕層です。

いったん気に入ってもらえば、リピートしてくれるし、
顧客単価も高い。記事によれば、パッケージツアー1本
当たり55万円だそうです。

記事では、ニッコウトラベル社長の久野木和宏氏が取材に
応じているのですが、他の旅行会社との差別化の
ポイントについて、次のようなコメントをしています。


“旅行会社には「旅行を販売するだけの会社」と
「旅行を作るだけの会社」、そして添乗などを含めた
「旅行を運営する会社」の3つがあると思っています。”

“当社は、このうち「旅行を運営する会社」に当たり
ますが、これは中でも一番大変なことだと考えています”


「旅行」というサービス商品の場合、その運営プロセス
において特に、「人」に依存した深い知識、ノウハウ、
経験が必要です。

久野木社長は、この部分にこそ、他社が簡単に真似できない
差別化ポイントがあると考えているんですね。


ついでながら、ニッコウトラベルさんと同様、
旅行の運営に強みを持ち、差別化に成功している旅行会社には、

「オーロラを見ながら星野道夫を語る会」といった冒険的企画が
面白い「地球探検隊」さんや、
車椅子の方などの障害者の旅行に特化した「ベルテンポ」さん

などもありますね。


一見儲かりそうにない、面倒で手間のかかるところに、
実は、「儲けの種」があるように思います。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (3) | トラックバック

立体キャラ

マーケティングの出発点は、まず企業や商品・サービスの
名前を浸透させることですよね。

つまり、

「認知率を高める」

ことなのは、このメルマガ(ブログ)の読者の方には
改めて言うまでもない点だと思います。


ただ、認知率を高めるといっても、それは
とりあえず1回知らせればOKというものではなくて、
顧客の脳に深く刻み込まれ、最優先で思い出してくれる状態を
目指すべきでしょう。

すなわち、お客様の「覚えめでたい存在」になりたいわけです。
これこそ、「ブランド構築」に成功したと言える状態なんですが。


では、「覚えめでたい存在」になるためにどうしたら
いいんでしょうか?

小難しいブランド構築の考え方はいろいろありますが、
基本的な視点として覚えておいてもらいたいのは、

「キャラを立たせる」

ということです。


“なるほど、それは当然だね!”と思いかもしれませんが、
キャラを立たせるためには、ただ

「目立てばいい」

というものではありません。

キャラを‘立たせる’わけですから、文字通り
平面的で薄っぺらい伝え方だとバタンと倒れてしまう。

ですから、キャラに‘ふくらみ’を持たせ座りをよくし、
倒れないようにする必要があります。


このために考慮すべき第一のポイントは五感に訴えること。

企業や商品・サービスの名称について、
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、肌感覚(嗅覚)のそれぞれの感覚
をできるだけ活用して様々な連想が立ち上がるようにすること。


もう一つのポイントは、企業や商品・サービスに関わるイメージを
深く、多様なものにすること。

できれば、オキシモロン的な矛盾したイメージを
同時に持たせることです。

キャラの立っている人の特徴を思い浮かべてもらうとわかりますが、

「明るさと暗さ」

あるいは

「厳しさと優しさ」

「生真面目さと破天荒さ」

など、時と場所、状況によって相反するような
多様な個性を見せる人は、人間性の深さを感じさせるため
大いに魅力を感じるものなのです。


人でも企業、商品・サービスでもなんでも、

「立体キャラ」

を目指しましょう!

投稿者 松尾 順 : 05:27 | コメント (0) | トラックバック

差別化の決め手は・・・

作家、冷泉彰彦氏は、JMM(Japan Mail Media)の記事の中で、
GM、フォードの業績不振に触れ、

“ついにクルマ作り」は
 アメリカ社会の不得意科目になってしまいました。”

と述べています。

米自動車メーカーは、米国アメリカで負けてしまったのです。
今後は、トヨタが米国自動車産業の最大の雇用主になると
言われています。


冷泉氏は、米自動車メーカー、いわゆるビッグスリーの
衰退の理由について次のように説明します。

“恐らく、アメリカ文化の中に「目に見えるもの」、
 「感覚に訴えるもの」を軽視する特質があり、
 それがこの自動車の開発というビジネスを停滞させている
 のではないでしょうか。”

製品の持つ機能価値だけでなく、情緒価値が重視される今、
逆に見れば、繊細な感受性を尊ぶ文化を持つ日本が
モノづくりにおける強みを発揮しているのです。


車だけではありません・・・

世界中で日本食のブームが起きています。
日本食に感じられる、きめ細やかな心配りや微妙な味が
喜ばれているのです。


文化は、数千年の歴史の中で、各地域、民族で引き継がれてきた
もの。表面的には真似することはできますが、本質的な部分で
まったく同じことはできません。

とすれば、これからのモノづくりにおいて差別化の決め手は
「文化」です。


グローバリゼーションの浸透で機能面での標準化は進みました。
しかし、T型モデルのような画一的な製品を人は求めていません。
感性に響くプラスアルファが欲しい。

そのプラスアルファを生み出すものは人の感性であり、
人の感性を育むのはその人が育った文化です。


これまで、マーケティングの文脈で「文化」が語られることは
ほとんどありませんでしたが、これからは要注目ですよ。

投稿者 松尾 順 : 10:58 | コメント (0) | トラックバック

逆ブランド力

実は私はちょっとだけ旅行会社にいたんですが・・・
添乗員でハワイ、西海岸、中国などに行きました。

(以下日経MJ、2006.02.10より)

それはさておき、旅行業界最大手のJTBさんは、
学生向け海外パック旅行商品の販売は弱かったんです。

それは、他社と比較して価格が高かったから。
やっぱ、学生の場合、安さ最優先ですから、
格安ツアーに目が行きます。

だからといって、

学生があまり必要としないサービスをなくしたり、
ホテルのグレードを下げたりしてコストを切りつめ、
価格を安くすれば解決、

ではないんですよね。


ナンバーワンのブランド力をもつ「JTB」という記号は、
学生にとっては「高い」というネガティブイメージを
連想させるものになっているという点が問題だったわけです。

これはJTBの担当者に言わせると、

「学生にはJTBが『逆ブランド力』になっていた」
(JTBワールドバケーションズ、常盤省吾企画推進部長)

ということだったわけです。


そこで、新たに打ち出した商品ブランドが「ガクタビ」では、

「価格の安さをどう分かりやすく伝えるか」

というコミュニケーションを工夫しました。

パンフレットには、すべて「学生応援価格」と記載。
紙面もあえて、カラーではなくモノクロにして安っぽく。

紙面づくりも学生の感覚をまだ失っていない入社まもない
社員を選抜してあたらせました。

結果、集客人員は目標の1万四千人を
1割以上上回る見込みです。


この記事を見て再認識したのは、ブランド力というのは
プラスにもマイナスにも働くという事実です。

あるブランドから連想されるイメージ(活動的、先進的・・・)
というのはある人によっては好ましいものですが、
別の人にとっては好ましくないものになる。

とすると、ブランド構築もターゲット顧客明確化しておくことが
必要だということです。

投稿者 松尾 順 : 11:17 | コメント (0) | トラックバック

ドコモダケ

「ドコモだけ、ドコモダケ、みたいな・・・」

なかなかいい企画が出てこない中で、

ドコモの担当者がつぶやいたこの一言が、

ドコモさんのオリジナルキャラクター

「ドコモダケ」

が生まれたきっかけだそうです。

新たな発想が生まれる瞬間って、
結構こんなくだらないことなんですよね。(笑)


私はこれまで、
様々な業界のマーケティングをお手伝いする機会がありましたが、

「その企業だけ、その製品・サービスならではの売り」

を打ち出すのが難しいのが、いわゆる形がない、かつ
人があまり介在しないサービスです。

たとえば、電話のような通信・インフラ系サービスや、
銀行・クレジットカードなどの金融系サービスです。

目に見えず、人があまり介在しないサービスは、
モノ以上に、競合製品の機能や品質レベルの差異が
感じにくいですよね。

したがって、ぶっちゃけ、

どの電話会社でも、どの銀行でもあまりこだわらない。
たまたま、近くにお店があったとか、そんなきっかけで
利用しているだけに過ぎない。

こんな方が多いんじゃないでしょうか。


ただ、携帯電話の場合、ドコモ、au、ボーダフォンの各社
独自の「携帯端末」というモノが付随しますので、
auさんの場合、近年は「デザイン性」を追求することで、
競合他社と明確な差異を打ち出すのに成功しましたね。

一方、ドコモさんの場合は、文字通りドコモだけ(唯一)の
擬人化されたキャラクター「ドコモダケ」によって、
情緒価値を高める戦略を採用したわけです。


サービスという無形のないものに、キャラクターという
有形のイメージをダブらせる。
サービス自体に愛着を感じることは難しいけれど、
愛らしいキャラクターなら、人は愛着や愛情を感じる対象に
しやすいものです。

「ドコモダケ」の人気は、まだそれほど盛り上がってませんが、
今後上手に育てれば、既存客のブランドスイッチを防止し、
新規客を獲得するために大活躍してくれることになるでしょうね。


そういえば、クレジットカード業界でも、
DCカードさんが、10年以上前から一貫して「カッパ・たぬき」
のキャラクターを使ってきていて、根強いファンがいます。

また、サービスではなく、モノですが、ダイキンのエアコンの
売上げを爆発的に伸ばした原動力が、「ぴちょんくん」

であることを考えると、

今後、

「オリジナル・キャラクター投入」

はますます検討する価値のある戦略のように思います。


*ドコモダケのWebサイト
http://docomodake.net/top.html

*カッパ・たぬきホームページ
http://kappatanuki.com/

*ぴちょんくん情報
http://www.daikin.co.jp/pichon/

投稿者 松尾 順 : 10:39 | コメント (3) | トラックバック

きっと勝つ 受験生がんばれ!

そろそろ受験シーズン。

事務所の最寄駅「本郷三丁目」では、
かなり大規模なプロモーションが進められています。

最近、受験生の間で、ネスレの「キットカット」が人気なのは
ご存知ですよね。

キットカットの語感が「きっと勝つ」に近いので、
要するに「ゲン担ぎ」で買っているわけです。

もともとは、博多弁の「きっと勝つと!」に掛けたのが始まり
とのこと。


でまあ、受験といえば「東大」。
TVドラマにもなった漫画「ドラゴン桜」で東大受験が注目を
集めました。

そこで、東大赤門のある本郷三丁目駅周辺がキットカットの
プロモーションの展開エリアとして選ばれたようです。


本郷三丁目駅は、東京ドームが近いためか天井はドーム風の
スタイルなんですが、そのドームが桜のデザインに。


tenjo.jpeg


そして、キットカットのロゴマークとこんなキャッチコピー。


up.jpg

きっと、サクラサクよ。
がんばれ、受験生。 本郷三丁目駅員一同


自動発券機の上や案内地図の上なども桜で埋め尽くされていて、
なかなかに鮮やかです。自動改札機にもやはりご丁寧に桜。


kaisatsu.jpg


さらに、駅から本郷通りに通じる細い路地のアスファルトには
桜の道が敷かれました。


sakuraroad.jpg


これから試験が行われる時期には、キャンペーンガールが
登場する、キットカットのワゴン即売セールとかも予定されている
かも知れませんね。


さて、キットカットのような、お守り的効用を持つお菓子を
「縁起菓子」と呼びますが、他の縁起菓子の代表例としては
明治の「カール」がありますね。

カールを食べると、‘受’(う)カールというわけです。


受験生だってわかってることでしょうけど、
100%絶対に合格なんてありえない。

どんなに努力しても、勝負は時の運。
試験の結果は、ふたを開けてみないとわかりません。

人事を尽くして天命を待つ。
やるだけやったら、神に祈るしかない。
つまり縁起を担ぐことしかできることはないのです。

くだらないダジャレだとどこかアタマの隅で感じていたとしても、
受験前の不安を解消したい、そして「心の平安」を得たい。

しかし、受験生全員がキットカットを食べるとしたら、
いったい、誰が勝つんでしょうね?


そういえば、節分に、その年の恵方に向かって
無言で太巻きを食べると無病息災で過ごせると言われる
「恵方巻き」も年を経るごとに盛り上がってきましたね。

これだけ情報化が進んだ文明社会の日本で、
こうした‘非合理的’‘非科学的’な縁起物が盛り上がる理由に
ついて深く洞察する必要がありそうです。

投稿者 松尾 順 : 10:13 | コメント (2) | トラックバック

本のタイトルあれこれ

今年は、ここ数年で一番たくさん本を購入してしまいました。

「マインドリーディング」を体系化していくための研究用
としての心理学や社会学関連の本もろもろ、

そして、

ISIS編集学校の上級コースと言える「離」を受講したら、
自分の知識不足が次々と露呈したので、それを補うために
とにかく次々と青天井に近い予算を本代に投入しました。

私にとって、本は、斬新な発想、企画を生み出すための
「原材料」です。
したがって、純粋な娯楽本を除いては必要経費なのですが。

せいぜい数千円以内で買える本には、
有益な情報や知識、知恵が詰まっていますよね。
そのことを思えば、本は安い買い物ものです。
しかし、さすがに大量に買うと請求金額も膨大になります。

実は、今年下期には会社の資金繰りに影響が出てしまい、
あわてて財布の紐を締めました。(^^;;

ここまでくると、自分でも狂ってると思います・・・


さて、仕事柄、ビジネス系のベストセラーの本は
一通り読むようにしていますが、ここ数年は明らかに、

・キャッチーなタイトル(書名)
・巧妙なマーケティング

のおかげで、
それほど内容的には新味のない本でも、
バカスカ売れてしまうという現象が目立ちますね。

マーケターとしてこのことを否定する気はありません。
出版業界も本格的にブランディング、マーケティングに
取り組んできたということです。

ですから、読み手側もタイトルやマーケティングに
ただ乗せられるのではなく、内容の良し悪しをきちんと
見分けられる眼を磨くべきでしょうね。


ところで、本のタイトルについていえば、
最近、惜しいなあと感じている本があります。

「人は見た目が9割」(竹内一郎著、新潮新書)

です。

内容は非言語コミュニケーションについての入門書。
マンガの手法などを取り上げながら、
わかりやすく説明してある良い本だと思います。

しかし、このタイトルは、なんとなく不快感を与えますよね。

確かに目を引くし、思わず購入させてしまう力がある。
実際、かなり売れているようです。

でも、このタイトルは、「そこまで言い切らなくてもねぇ・・・」
というものだし、内容はどちらかと言えばまじめな書き方なので
タイトルと内容がマッチしてないんですよ。

アマゾンの書評を見るとかなり低くなってますが、
こうした不快感が反映されているように感じます。

いくら売るためとはいえ、奇をてらいすぎだなあ・・・


また、「これは考えすぎですね・・・」というタイトルの本も
ありました。

この2冊の本です。

「ハッピー社員」(金井壽宏著、PRESIDENT BOOKS)
「部長のハート」(河合薫著、PRESIDENT BOOKS)

どちらもキャリアや社内のコミュニケーションについて
書かれた素晴らしい内容の本なんです。

でも、このタイトル、はっきり言ってよくわからんですよね。

編集者の方は相当なこだわりを持って、このタイトルを決定
されたそうですが、伝える力が弱いように感じます。


まあ、こうやって偉そうに評論家ぶってますが、
実際、商品のネーミングは難しい。

当事者になると、様々なタイトル案を見比べながら
頭を抱えてしまうものなんですよね。夜も眠れなくなるほど。

やはり、もっともっと「言語感覚」を磨きたいです。

投稿者 松尾 順 : 11:26 | コメント (0) | トラックバック

ちゃんと名前を付けるころから始めましょう

いきなり質問です。

「バツイチ」

の意味は?

もう誰でもわかると思いますが、

離婚(1回目)を経験した方

のことですね。

では、

「ボツイチ」

の意味は?

この言葉は最近よく耳にするようになった新語のようですが、
初めて聞いた方でも推測つくんじゃないでしょうか。

そう、「配偶者に先立たれた方」です。
アンケートの回答だと「死別」というところにチェックを入れる
方になりますね。

さて、これまでは明確な呼び名がなく、説明的な言葉
(離婚経験者とか)しかなかったものごとに対して、
「バツイチ」や「ボツイチ」とかのちゃんとした名前をつけると、
俄然使いやすくなるのを感じませんか。

通常、呼び名は抽象的で短い表現になることが多いのですが、
逆に抽象的で短い言葉であるからこそ、
新しい意味を加える可能性が広がります。

実際、バツイチ、ボツイチという呼び名は、やや揶揄的な言葉
ながら、離婚や死別の暗さが払拭されますね。
そのおかげで、そうした方々のための結婚相談所など、
新たなビジネスも展開しやすくなりました。

さて、こんな名前(呼び名)も最近生まれてます。
(企業によって意図的に作られたというのが正しいですが)

「ママリッジ」

ママ+マリッジ、つまり、「できちゃった婚」という、
恥ずかしい響きのある呼び名を
ちゃんとした言葉に言い替えたものです。(^o^)

日経MJ記事の「ネーミングナウ」によると、
今の花嫁の3人に1人はおなかの中に赤ちゃんがいるそうです。
20歳の花嫁さんだけ見るとなんと80%が妊娠中。

例外的な意味合いのあった「できちゃった婚」は、
もはや時代にそぐわなくなっていたわけです。(笑)

そこで「ママリッジ」。

妊娠した新婦のためのウエディングドレスやハネムーンなどが
このネーミングなら楽に展開できる。

まずは「ちゃんとした名前」をつけてあげるところから、
何事もスタートすることが肝要なんですね。

投稿者 松尾 順 : 12:06 | コメント (0) | トラックバック

初恋ダイエットスリッパ

このネーミングははっきりいってすごい。

ご存知の方も多いと思いますが、

「かかとのないスリッパ」

のことです。

このスリッパは、はいているだけで腰痛が治ったり、
体重が減るそうです。

ネーミングの何がすごいか、解剖してみましょう。

まず、この名称が、

「初恋」+「ダイエット」+「スリッパ」

の3つの単語の組み合わせであること。

この3つは普通一緒に使う言葉じゃないですよね。
だから、この名称を聞いたり、見たりすると、

「変な名前だなあ」

と注意が向き、

「いったい、何なんだ?」

と関心を高めさせるパワーを持っています。

しかし、なぜ「初恋」なんですかね・・・?

ネーミングの由来を調べてもよくわからなかったのですが、
なんにせよ、「初恋」と聞くとほとんどの人が、
コドモ時代の思い出が浮かんできて、甘酸っぱい感傷的な
気分になるはずです。

物事を記憶しやすいのは、感情が伴う時であるということが
心理学の実験でわかってますが、

「初恋ダイエットスリッパ」

は1回聞いただけで覚えてしまうはそのせい。

つまり、この名称が脳に深く刻まれた記憶になってしまうのは、
奇妙な名前であることに加えて、心が動かされるからでしょう。

さらに、ダイエットという明確なベネフィットが
名称からわかる。

つまり、この製品の多面的な価値を的確に伝えているんですね。
具体的には、次のように説明できるでしょう。

スリッパ=機能価値・・・屋内で足を保護する機能の明示
ダイエット=便益価値・・・やせるというベネフィットの明示
初恋=情緒価値・・・若き日の思い出(=細かった頃)の喚起

さて、このネーミング、模倣品がたくさん出てきたので、
6年前に改称したものらしいです。

当製品の発明者は、中澤信子さんという主婦の方ですが、
ネーミングも中澤さんご自身でやられたんでしょうか。

もし、インスピレーションでこの名前を思いついたとしたら、
ほんと、人間心理の機微を理解されている天才だと思いますね。

投稿者 松尾 順 : 06:03 | コメント (0) | トラックバック

ブランド危機管理が難しくなってきた

ワコールオンラインショップの顧客データ約5千人分が盗まれました。
クレジットカードの情報が含まれていた顧客データも
2千人近くあったので不正利用されたお客さんもいます。

使った覚えのないカード請求がきたのでデータ盗難が発覚したようです。
単に盗まれただけでなく、顧客側に実害が発生したのでワコールさんと
してはブランドイメージの低下に確実につながる痛い事件ですね。

しかし、問題の原因はECサイトの制作を委託していた会社に、
セキュリティ対策の漏れがあったんですよね。

もちろん、ワコールさんに管理・監督責任があり、
制作会社の失態ということで言い逃れはできません。

ですが、自社ではできない、すべきでない専門的な分野だから
外部に委託していたわけで、完全なチェックは不可能。
相手を信頼して任せるしかないわけです。

ワコールさんに限らず、サイトの制作は普通外部の制作会社に
任せている会社がほとんどでしょう。あるいは、製品のお届けは、
運送会社に委託しているでしょう。

事業運営は、基本、自社の強み(コアコンピタンス)の領域に集中して
他の部分は外部に任せるというのが理想とされてるわけですけど、
そうしてどんなに分業化を進めても、お客さんから見えるブランドは
ひとつだけ。

今回で言えば、ワコールのブランドの下で、
たくさんの外部の会社が関わっているというのが実情なわけで、
大きい会社ほど、ブランド危機管理がますます難しくなってきたということを
改めて認識させられましたね。

投稿者 松尾 順 : 10:33 | コメント (0) | トラックバック

みだぐなす

「みだぐなす」

と呼ばれていたフルーツがあります。何だかおわかりですか。

フルーツのブランド化の例として結構有名なケースなんですが、
「西洋梨」のことです。ブランド(品種)名は「ラ・フランス」。
フランス生まれの山形育ち。

今が旬のようですね。
我が家でも、生協を通じて今週届いた「ラ・フランス」を
食後のデザートにいただいていますが、
柔らかい果肉の食感としつこくない自然な甘さが最高ですよね。

さて、「みだぐなす」というのは、「見栄えのよくない梨」
という意味の方言です。

真実かどうか調べ切れなかったのですが、
味はおいしいけれど、見栄えがよくないこのフルーツの名前を

「ラ・フランス」

という名前にしたことでブランド化し、人気のフルーツに
なったと言われています。

最近、農産物や海産物のブランド化が盛んになってきましたが、

「みだぐなす→ラ・フランス」

の例はそのはしりといえるでしょう。

この「ブランド化」は、シンプルに言うと「ブランド認知」
「ブランド連想」「ブランド好意」の3つの視点で見ること
ができます。

「ブランド認知」は、その名前を聞いたことがある・知っている
ということ。

「ブランド連想」は、その名前を聞いた時に思い浮かぶ
様々なイメージ。

「ブランド好意」は、その名前を聞いた時に、
良い、好き、食べたい、とかの好意的な感情の度合い。

したがって、ブランド化に成功するために、
ネーミングがとても重要なことはおわかりでしょう。

そして、ブランド化の視点でのネーミングのチェックポイントは
次の通りです。

・覚えやすいネーミングか?
・名前が良いイメージを喚起するか?
・名前が好意的な感情を喚起するか?

このチェックポイントで、「みだぐなす」と「ラ・フランス」
を比較するとどちらが優れているか、すぐわかりますね。

重要なのは、「みだぐなす」は、この方言の意味がわからない人
にとっても、日本語の語感的に、なんとなくさえないイメージや
不快な感情を喚起してしまう名前だといういうことです。

ブランド化を狙って商品名をつける際には、
言葉の持つ「意味」以前に、音として聞いた時に、
人にどんなイメージや感情をわきあがらせるのか、
という点に注意が必要なんです。

話が飛びますが、ゴジラ、ガメラとか、怪獣の名前には
不思議なことにガ行、つまりガ・ギ・グ・ゲ・ゴが多いですね。

ガ行がつくといかにも怪獣らしい語感になるからです。
このことをテーマにした本も出ていますね。

投稿者 松尾 順 : 05:58 | コメント (0) | トラックバック